1.
メイドというあまりに希少な仕事は一旦就けば、後はもう忠誠心次第でなんとかなる。後は、問題事や私情を持ち込まなければ最高の衣食住を手に入れられる。本来の私の様にね。
だが、失敗が積み重なればモチロンの事、忠誠心どころか、一気にポイと捨てられるのがこの仕事の一番つらい所。私は完璧だったかもしれないけど。
しかし、それよりももっと恐ろしいところは、ポイと捨てられた『後』である。メイドは一見完璧な人間のように見えて、仕事をクビにされた後でも容易く新しい仕事が見つかると思うかもしれないだろうがそれは大きな間違いである。
メイドという仕事は『上』、つまり主人が居なければ成り立たない。主人の居ないメイドなんてただの仮装した人間に何ら変わりはない。しかも長い間主人にこき使われたメイドや執事だったらなおさらもっと酷いことになる。何していいかわからず、ただ、放浪するだけ。
分別がつく人間だったら直ぐにでも次に進もうと努力するが、この世界にそんな人間は、
「いないわよ…」
ポツッとつぶやく。
「何がだい?あー、というかそもそも安静にしてたほうがいいと思うけどなぁ、さっきまで栄養失調でぶっ倒れてたんだし、やっと意識が戻ったのにまた消すなんて勘弁してくれよぉー」
泣き言上げるが、怪我の手当の上に、食べ物まで面倒みてくれたのはどこの誰でしょうかね。
「いいえ、それにはとても感謝しているけど、今は悠長にそんなことを考えている暇はないのよ、にとり」
この子の名前はニトリ、私の命の恩人。
気づけば全身重症だった私を、回復するまで看病した心優しき妖怪ね。
意識が朦朧とした中でも自分に何かが起きていると判断できていなければならないのが一流のメイド。
でなければ、主人を護衛することなんてできやしないし、務まりもしない。
私が全身重症だった原因は不思議とわからなかった。
突然レミリアお嬢様の別れの声が聞こえた途端に、視界が真っ暗になり、気づけばこの通り。
気絶しそうな程の痛みの中で、にとりが現れ間一髪でなんとか助かった。
「そういえばあの時は、痛みの所為で聞けなかったのだけれど。なぜあそこで私を自分自身で何とかしようと思ったのかしら?永遠亭にでも連れていけば直ぐなのに、わざわざそんな手間まで…?」
そう聞くと、にとりはビクゥと声を上げ、機械をいじっていた手が急に止まった。
「そ、それは…」
「もしかして、紅魔館のメイドである私に恩を売って………」
そこまで言うと、私ではなく、にとりが気絶していた。
よほど当てられたことにショックだったのね。
一流のメイドは言葉遣いも話術も一流でなければならない。でなければお客や、ましてや主人に安心をさせることはできないから。
喋るタイミング、表す態度で、場の選択肢も増えたり、減ったり。とにかく忙しい。
笑顔で、忠実、そして上品におもてなし。これがメイドの象徴。
この象徴を崩さないために、細心の注意を払い、心掛け、実行に移すのがまた、メイド。
それよりもなぜ自分が解雇されたのか、どうしても突き止めたかった。唐突すぎるのだ。
納得ができないという感情のほうが大きかった。
にとりにはまだ話してはいないが、私は紅魔館をクビになった。だから恩なんて売っても買うことなんてできないからだ。
なにか理由があっての事情なのだろうか。それならばメイドである自分だったら知っているはずなのに。
「心当たりなんて何も無い…」
あまりの無能さに憤りを感じ、声が口から出てしまった。
他人に聞こえる程の声だったが、生憎レンチを持ったにとりは真っ白になっていて、唸り声を上げ、白目を向いていた。
ここ最近で、お嬢様の機嫌を損ねるようなことをしたのか今までの記憶を巡る。そして作った料理から歩いた歩数までも全て鮮明に思い出す。
「してないじゃない……なんで?」
ちなみに、作った料理の調味料は数えた限りでは1464本で、歩いた歩数は557882歩だった。その内の調味料2本は質が悪かったので、博麗の巫女に供え物として渡した。さすがに勘が鋭い巫女だけはあり、開口一番に腐ってるんじゃないでしょうね?と疑ってきた。間違っては居ないが。
そこで私は笑顔で、調味料は腐らないと釘を打っておいた。生まれて初めて凄まじくどうでもいい嘘を突い瞬間だったと思う。
ということはつまり、私は悪くない。きっとそうだ、いやそうであるに違いない。という結論に至った。
だが、私に解雇を告げるお嬢様の声はどこか、悲しげな震え方をしていたと想い出す。致し方なかったとも感じた。なんていうかお嬢様らしくなかった。
こうなれば直接紅魔館に戻るしかない。
しかし、戻ったら戻ったでどうなるかわからなかった。もしかしたらまた全身重症になって気絶するかもしれない。
では一体どうすればと考えたが………
「ううーん…うがっ!ここは?ハッ!なんだ、私のテリトリーじゃないか。脅かすなよ」
気絶から回復したのか、なにやら一人でコントを繰り広げる妖怪が目の前にいた。しかも、かなりの技術(二つの意味の)を持った。
長年こき使われて来たメイドは他人と仲良く関わるのを苦手とする。だがそれは、現在進行形で働いている者が多く、そうでない者は一気に呪縛から解放されているので心をさらけ出すのが殆ど。
自分から私情を持ちかけようとしない。仕事での話ならいくらでも話すが、プライベートになると一切無言なのが大体。
でもよく考えてみれば私はもうメイドじゃない。だが、メイドに戻りたがっている。
そんな時は、どうするか。
もちろん、私情を挟んで仕事の話を振る。
「ねぇ、にとり。あなた、確か透明になれる衣服をお持ちと聞いたのだけれど?」
「あ?そうだけど」
一人壮絶コントを中断して、素っ気ない返事をする。
「あたしは機械いじりが大好きで色々作ってるんだよ!見て見なよこれ、何だと思う?」
「さぁ?針が2本突いた鉄砲…?でしょうか」
「チッチー…これはそんなものじゃないさ。これはね…テイザー銃と言って、この引き金を引くと流電した針が飛んでいくんだよ。そして当たった奴は多分だけど…鬼以外なら気絶する!」
「あらすごい」
にとりの調子に合わせて相槌を打つ、
このままではあまり本題に持っていけそうにもないのでさっさと急かす。
「じゃぁ、後でそのテイザー銃でしたっけ?使いますから、話を聞いてください」
「え、マジ!?いいよッ!」
「透明になれる服があると聞いたのですが?」
台詞の最後まで言った途端に。
「あるよ、ホイ。一着余ってたから貸してあげるよ。ちゃんと返してね。あとーサイズとかは完全に私用だから少し小さいかもしれないけど、まぁ大丈夫でしょ」
コートの様な、又はジャケットのような衣服を投げつけると直ぐに手元の機械をカチャカチャといじり始めた。どれだけいじるの好きなんだろう。
どうやらこのスイッチを押すと起動する仕組みになっているらしい。それにしても完璧に透明化している。
もし、私が悪人であればこれを悪事かなにかに利用するだろう。それだけ、完璧だった。
そんなことよりも一刻も早く紅魔館へ向かわなければならなくなった。
急がば回れというが、急がなくても結局は紅魔館に向かうのだから意味が無い。
なにか嫌な気がする。
そう焦る気持ちを胸に、紅魔館へ駆け出した。
メイドの心得という物は実は無い。
主人を持った忠実なメイドは自分なりの考えで臨機応変、即時対応でその主人の性格、性癖、行動、癖、口調、運動能力、判断を理解し、合わせる。
いつどんな命令にも合わせられ、不都合がないようにもてなすのが真の心得というものだ。
でもなぜ私はここに居るんだろう。
つづき、http://coolier.sytes.net:8080/sosowa/ssw_l/?mode=read&key=1313566083&log=152
アイデアは他人に教えてもらうのではなく自分で考えることだと思います
時系列も、状況も、登場人物も・・・
もっと丁寧に書かないと読者には理解出来ないのてはないでしょうか
贅沢を言うならば、何か明確な主題を持って書いて欲しかったです。
ストーリーが咲夜さんの内面を中心にして展開していきますが、周りの情景などのアクセントがあるともっと世界に入り込めるかなと思います。
にとりと咲夜の関わり合いが新鮮に感じますね。これからどのような展開になっていくのか期待してます。
最初の段落が意味不明でしたか、すいません。
元ネタに沿ったはじめ方をしたので、「これで良い」と思ってしまったんでしょうね、これは失礼しました。
そして、アイデアはやはり自分で考える物。確かにそうですね。
少し、甘く見ていたのかもしれません。
思うに、二次創作元を知らない人が多いからではないだろうか。
知ってる身からすれば、バーンノーティスのキャラを置き換えただけではない事がわかる。突然解雇通知をだされるということ以外ほとんどオリジナルでしょう。
言うなれば、もうちょっと容量あってもよかったと思います。
面白かったです。
突然解雇通知を言い渡されるというシーンは、原作だとケータイからでしたが、この幻想郷。
ケータイなんてものはあるはずも無く、テレパシーかなんかで、代用しました。
一発書きなので、容量は少ないどころか、内容も………