この物語はシリーズ物ですので、「フランちゃんご乱心」「フランちゃんご乱心にっ」を先にお読みください。
時は来た
月満ち心狂う紅き夜
平行線を漂う悪魔の影
折り曲げ掴み、寄り合わせ
交差線になる数刻前
悪魔の姉妹よ、踊り踊れ
狂気の夜に狂喜の時を
コツ、コツ
いつも思うが長すぎる。これは最早廊下ではなく滑走路だ。
私は助走なぞ付けなくとも飛べるけどね。
さすが七曜の魔女というか、パチェは色々な魔法を使う。
先に文句を言っておいてなんだが、この魔法は私が頼んで使ってもらっている。
狭い廊下で一悶着起こすのは、窮屈だし館への被害が大きすぎる。
「咲夜!」
従者を呼ぶ。
私の従者は優秀だ。呼べば必ず3秒以内にやってくる。
「はい、ここに」
ほぉらご覧、1秒フラット。
「咲夜。わかっているわね」
「はい。先ほどの音から察するに、もう始まり、終わっているかと。ですから私は美鈴を回収し、パチュリー様のところまで連れていく。それでよろしいですか?」
「うむ。それでいい」
私のしてほしいことに瞬時に気付き、実行する。誇らしいよ、まったく。
「だが、無理はするな。最大限援護するが、気をつけなさい」
あなたは、人間なのだから。
人間は脆くて弱い。
どうしてそんな弱きものに固執するんだ?と聞いたら、花は枯れるからこそ優雅に咲けるのですわ。と返された。
いやはや人の美学を理解できる時は、おそらく来ないでしょうね。
……理解なんて、したくないし。
「はい。お心遣い感謝いたしますわ」
「……鈴!美鈴!」
何だ?咲夜と顔を見合わせる。
妹のむせび泣く声と、門番の名を叫ぶ妹の声。
何が、いったい何が。
ああ私は遅すぎたのか……?
「咲夜、急ぐわよ……!」
「はい!」
着いた時には、妹はどうしよ、どうしよとしきりに呟いていた。
傍らには血まみれの門番。
どうやら腹部を貫かれているようだ。
(腹部か……頑丈なあの娘なら大丈夫そうだけど、一応急いだほうがよさそうね)
「……フラン。落ち着いて。こちらに来なさい」
「お姉……様?」
私に気がついた妹は涙目で睨む。そこをどけ、邪魔だ。殺すぞ。とでも言うように。
「……私はパ」
敵意。完全な敵意。それを読み取った私は、瞬間行動に移っていた。何か言いかけた、なんて気づくわけがない。そんなスピードで。
フランを蹴り飛ばす。
いつもなら、当たるどころかカウンターとして足の一本でももぎ取られるであろう蹴りは、妹の腹へとめり込んだ。
何メートル、なんてわからないほど飛ぶ。
(な!?当たった上に、蝙蝠にもならないなんて……)
本来なら、足でもなんでも差し出して、隙を作るだけのつもりだった。
しかしうろたえていても仕方ない。今が絶好のチャンスだ。
「咲夜!今よ!」
「はい!いざ……私の世界へ……!」
次の瞬間、私が意識を許された瞬間、咲夜と美鈴は姿を消していた。
(なんとか成功したようね……)
安堵も束の間。聞こえる。悪魔の声が。悪魔の妹の声が。おぞましい声が。
吹き飛ばしたはずの妹は、いつの間にか私の数センチ後ろに立っていた。
「なんで……なんで……なんで邪魔をするの?どうして邪魔をするの?ねえなんで?返してよ。美鈴を返してよ。美鈴をどこに連れてったのよ。なんでどうして意味分かんない全然わかんないふざけないでよいいかげんにしてよどうして邪魔をするの返してよ返せかえせカエセカエセェ!!!」
悪寒。背筋が凍りつく。
どうして妹はこんなにも取り乱しているんだ?
美鈴を返して?
……どういうこと?
妹は普段ならこんなこと言わない。わけわかんないのはこっちよ。どういうこと?え?
外にでたいから暴れてるのよね?ならどうしてあの娘にそんなにこだわってるの?
……私はなにか間違ったのか?なにか見落としているのか?
……思い当たる節はいくつかあった。
普段なら当たるはずもない攻撃に当たり、なにより攻撃の瞬間妹が何か言おうとしたこと。
「ま……待ってフラン。落ち着いて。美鈴はね、咲夜がパチェのところにケガを治しに連れていったの。ね?美鈴は大丈夫だから。だから落ち着い」
割り込むように、怒声が響く。
「はぁ!?意味分かんない!私が美鈴をパチュリーのところに連れて行こうとしたのを邪魔してまで、どうしてあんたが美鈴を連れていく必要があるの!?私じゃだめなわけ!?私には美鈴に謝る権利さえないって言うの!?あんたはいつもそう!私の邪魔ばかり、私にいじわるばっかり!なんで?どうしてなの?私のことが嫌いならはっきりとそう言えばいいじゃない!」
……え……え?
待って。ちょっと待って。ほんと待って。
美鈴を連れて行こうとして、私が邪魔をして、それで……
私は追いつかない思考を、それでも追い付かせて言葉にする。
「ま、待ってフラン。ごめんなさい!そうとは知らなくて……私はあなたの邪魔をしたかったわけでも、いじわるをしたかったわけでもぉあぁあぁあああああああああああああ!!!」
何が、何が……
両腕がもがれた。
両腕に走る激痛、熱い。痛いというよりは熱い。灼熱の業火に焼かれているようだ。
「言い訳なんて聞きたくないよ!!!もう知らないもうしらないしらないあんたなんて壊れちゃえ壊れちゃえ壊れちゃえ壊れちゃえ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろぉ!!!」
腕、腹、足。爆散しては再生し、再生しては爆散し。
(このままじゃヤバい……!)
命の危機を感じた私は、なんとか蝙蝠になり距離を取る。
「死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ……」
妹の紅く染まった目が、その中に漆黒の闇を宿した目が、妖しく光る。それは今宵の月に相違なかった。
私の心臓の鼓動が異常なまでに早くなる。
本能が、命の危機を知らせる。ここは危険だ、と。
怖い。怖いよそれは。痛いものは痛いし怖いものは怖い。
でも今日は、今日こそは、逃げられない。逃げたくない。
今回こそは、フランと仲直りするんだ。
そう決めたんだ。
(きっと私はフランを殴る権利なんてない。一方的に、悪いのは私)
でも、でも。
そんな一般的、とか誰かの言葉、なんてどうでもいい。
(傲慢?我儘?勝手に言ってなさい)
私は私の運命を行く。
私の正しいと思えることをする。
私は私のやり方で、フランと仲直りしてみせる。
「フラン。少し、遊びましょう?こんなに月も紅いから、楽しい夜になりそうよ?」
「……ふん、いいわよお姉様。遊びましょう。遊びで終わらせる気なんてないけどね」
喧嘩の終わらせ方、殴り合って勝ったものの勝ち。それで終わり。後腐れなくて、シンプルでしょう?
姉妹喧嘩にスペルカードルール、なんて高尚なものはない。
ただの殴り合いだ。
人間で例えてやるなら、そうね引っつかみ合いかしら?
フランが動く。
その速度は異常、吸血鬼にとっても異常。
(残像が見えるわ……早すぎ……いや!?)
これは残像じゃない……分身だ!
四人も相手取らなければいけないのか……
格好つけた矢先悪いが、どうしよう。
避けるので精いっぱい、いや避けるのも厳しい。
これは……長引くとまずいわね……どうみても威力が殺しに来てるそれだし……
ふぅ……一撃で、決める!
私はフランの攻撃を縦に横に、殴りを、蹴りを、頭突きを、手刀を、避けて避けて、だけど確実に、少しずつ間合いを詰めていく。
必殺の一撃の、間合いを。
「あははははははは!無理無理無理!遅すぎるし弱すぎる!当たんないよ絶対にぃ!」
「あら、それはどうかしら?当たって泣いても知らないわよ?」
口では言うものの、どうしようか……
隙もなければ暇もない。
(四人相手じゃきつすぎる……一人消すか)
「フォーオブアカインド、攻略方はとっとと数を減らしましょってね!」
右手に生み出すは神の槍グングニル。
必ず貫くその槍は、私の自慢の武器なのさ。串刺し公と呼んでくれ。
「いいねぇかっこい~私もそういうの持ってるよ」
「あらいいじゃないそれ。それなんていうの?」
「レーヴァテイン。すべてを焼き尽くす剣さ」
互いの刃がせめぎ合う。
その間も決して三人の妹は待ってくれない。
一度刃を離し、三人の対処をしてから再び向き合う。
「お前じゃ私に勝てないよ。偽物は本物に劣るんだ」
「偽物がお姉様に劣るとは限らないけどね」
動く、動く。
一瞬の勝負。一瞬の刺しあい。
勝利はもちろん私。
フランの分身に突き刺さったグングニルとともに、フランの分身は消えた。
「さあ一人減った。もう私の勝ち同然さ」
「一人減った程度で何いってんのさ」
「フラン、覚えておきなさい。一人、ってとても大きいの。何度でも生み出せるとしても、一人は一人。その一人は、とても大きなものなのよ」
今度こそ決める。
覚悟は決めた。
私は決める。
絶対に
「バンパイアキス」
私はフランにキスをした。
顔から火が出る、とはよく言ったものだ。
地獄の業火よりも熱いぞこれは。
「え……んむっ……んっ……なに……?どうして私が本物って……ていうかこれ、キス……」
分身がフランに重なる。
「どうして?わかるわよ。私はあなたのお姉ちゃんだもの。本物のフランがどれか当てるなんて、簡単」
何度も、何度もキスをする。
そのやわらかな唇に。
「ぷはっ……いい?フラン。よく聞きなさい。私はあなたのことが大好きよ。愛して愛して、これ以上ないほどにね。……今まで私はあなたから逃げてきた。怖かったから。壊れてしまうのが、怖かったから。でもね、もうやめようと思うの。もう逃げないし、目も背けない。今まであなたに辛い思いをさせてきたことを忘れることなんてできないし、許してもらおうとも思わないけど、これからは、仲良く、一緒に生きていきましょう?お願い……フラン……こんなお姉ちゃんでよかったら、もう一度お姉様って、言ってほしい……」
「……えっと……私、色々許せないけど、でも今日のところは、なんていうか……その……」
静かに待つ。
まるで告白だわ。
「お姉様……私も大好き、だよ……えへへ……」
思わずもう一度キスをした。
「もぅフラン泣かないの。私の妹なんだから」
「あはは、私はもう十分お姉様の妹だよ」
言われるまで気づかなかった。
私は嬉しさのあまり涙を零していた。
狂気の夜に悪魔が二人
混ざる涙は接着剤
二人の距離は交差する
翌日の食卓には
プリンが二人分
また、シリアスシーンはもっとためた方がいいです。特に、キス前後でのフランの心境の変化が早すぎて、違和感を感じました。
まだ気になる所は色々とありますが、おぜう様の心境描写はかなり上手くなってます。文章の形も整ってきました。その調子で頑張って下さい。