月に一度訪れる満月。
妖怪を例外なく狂わせ、昂ぶらせる夜。
紅色で統一された、雨の降ることのない館に、唯一雨が降り注ぐ夜。
悪魔は避けることのできない夜を前に、一人グラスを傾けていた。
「ふぅ・・・」
ワインを飲んではため息、そんなことを繰り返して時間を潰していた。
月が昇り、はしゃぐ妹をなだめるまでの時間を。
「ふふ、だめね。これじゃせっかくのワインがため息の味になっちゃう」
どうしても落ちてしまう気を、取り直し飲もうと思えばグラスはすでに空。
(そんなに飲んだかしら・・・)
「咲夜!おかわり!」
「はい、ここに」
あいも変わらず早い。
呼べば遅くとも3秒以内に来る我が従者は、やはり私にふさわしい。
「ご苦労。それで、準備のほうはできてる?」
「はい。パチュリー様には雨を降らせていただき、美鈴には地下の警備を、妖精メイド達には避難をさせました。」
あなたは?とは問わない。我が従者は言わずとも、どんなときでも完璧なのだ。
「上出来よ。ことが起こる前に、パチェを呼んで頂戴」
「かしこまりました」
「・・・お嬢様」
「何?」
「不安、でしょうか。今宵は特に紅い月をしていますから」
このメイド・・・
読心までこなすというのか・・・
心を読む妖怪がいると聞くが、まさかな・・・
「不安?ハッ、笑わせる。ヴラド・ツェペシュが末裔、高貴たる吸血鬼であるレミリア様にできぬことなどない!いらぬ心配だ。咲夜」
「そうですね。お嬢様ならば、必ず。それではパチュリー様をお呼びいたします」
(降るのが雨だけならいいんだけどね・・・)
そして従者は消えた。
ドアを開けて出て行くところも見せないのは、不気味でさえあるからやめてほしいものである。
不安、か。不安というよりは恐怖か・・・?
妹にこんな感情をもってしまう姉は、はたして姉といえるのだろうか。
ほかならぬ愛を、塗りつぶしてしまうほどの心。
そんな本音を認められない姉は、どれだけ醜いだろうか。
「あの子のため・・・なんてよく言えたものね・・・」
認めなければ、だめ、よね・・・
コンコン
ノック音
「パチュリー様をお連れしました」
「入るわよ」
聞こえた親友の声は、低く、疲労を隠しきれていなかった。
「どうぞ」
「まだ時間はもう少しあるけれど、どうかしたかしら?」
雨を降らせる魔法を使い終えたパチェは、ひどく疲れた顔をしていた。
魔法とはただ呪文を唱えれば使えるものではなく、魔力と呼ばれる身体エネルギーを代償にするものであると聞いたことがある。
話半分に聞いたことだからだいぶん忘れているけれど、相当なものなのだろう。
「少し、話がしたくてね。咲夜は席をはずして頂戴」
「かしこまりました。それでは後ほど」
あー、言い忘れた。ドアぐらい普通に開けて、と。
「それで?話ってなに?」
「そうね、まずは、いつもありがとう」
「へ?あ・・・あぁ。どうしたの?レミィらしくもない」
なんだその意外そうな顔。心外だ。
「な・・・なによ!私だって礼ぐらいするわよっ!」
「あはは、今日のレミィはえらく素直なのね。いつもなら、パチェが協力するのは当然でしょ!とでも言いそうなのに」
私いつもそんなかな・・・
あと絶対似てないよその物まね・・・
「まぁ・・・いいわ・・・本題よ、本題」
さっきまで笑っていたパチェの顔が変わる。
これだから私の親友は憎めない。
「今夜の月から見て、相当な姉妹喧嘩になるわ」
「そうね」
「たぶん、あの娘は相当な力で暴れる」
「それでも私は、あの娘をしずめることができるわ。姉、だからね」
「それは、正しいかしら?間違ってないかしら?」
「・・・どういうこと?」
「知ってのとおり、あの娘が狂うようになったのは、月のせいだけじゃない」
「私が閉じ込めたから」
「閉じ込めたのは・・・あの娘のため、ではないわ」
「あの娘が、あの娘の能力が、怖かったから。全部、壊れてしまいそうだったから」
「勝手に閉じ込めて、出たいと願えば傷つけられて」
「フランからしたらたまったものじゃないわね」
「これでも、私は正しさを誇れるかしら?」
「ねぇ・・・私どうしたらいいかな・・・」
「もうわからないよ・・・」
「何度も、何度も。傷つけて、傷ついて」
「どうしたら・・・」
半ば押し付けるように、感情を吐き出した。
これも自分勝手で、我侭だよね・・・
自分がつくづく嫌になる。
溢れる力があっても、こうも心が脆くては、と思えば思うほど、力が出なくなっていく。
ふと気づけば、いつも主たる威厳を表している羽が、片手ほどの大きさになっていた。
「正しい、ね」
パチェが言う。その声は優しく、やわらかく、だがはっきりと、脳に響く
「正しいって、何?」
パチェが私に抱きついた。
私はパチェに体を預け、言葉を聞く
「私の言葉?咲夜の言葉?妹様の言葉?世間の言葉?誰かの言葉?」
「みんなが正しいっていうから正しいの?間違っていると、自分より強いものに言われたから間違っているの?」
「レミィ。甘えちゃだめ。誰かの言葉は誰かの真実。あなたの真実は、どこ?」
ああ
「誰かの言葉で自分の考えが変わっちゃうことは、ある」
「けどね、自分の答えはいつも自分で出すもの、でしょ?」
ああ
「誰かの言葉に頼っちゃだめ。正しいのは自分の声」
「運命は掴みとるもの、なんでしょ?」
ああ。
響く
友の言葉は、こんなにも響く
折れかけた心を、こんなにも支えてくれる。
「あなたの妹なの。あなたの正しいと思えることをしなさい」
私が、私として、姉として、正しいと思えること
明日になったら、フランとお外に行こう
場所は、そうね、神社がいいかしら
・・・もう言い訳はやめて、妹と向き合うの
フランと仲直りをして、一緒にプリンを食べるの
もっといろいろしたいことがある
そのために、今日を乗り切るの
行こう。私。
「・・・ぅ、ありがとう。もう大丈夫。レミリア様にまかせなさい」
「ん、そろそろ月が昇ったころだわ。行ってきなさい。早く行かないと門番が死んじゃうわ」
「うん!」
悪魔は向かう
悪魔の妹、悪魔にとっては、ただただかわいい妹と、なにより自分のために
悪魔は進む
彼女が主であることを示す、大きく伸びた羽を背に
妖怪を例外なく狂わせ、昂ぶらせる夜。
紅色で統一された、雨の降ることのない館に、唯一雨が降り注ぐ夜。
悪魔は避けることのできない夜を前に、一人グラスを傾けていた。
「ふぅ・・・」
ワインを飲んではため息、そんなことを繰り返して時間を潰していた。
月が昇り、はしゃぐ妹をなだめるまでの時間を。
「ふふ、だめね。これじゃせっかくのワインがため息の味になっちゃう」
どうしても落ちてしまう気を、取り直し飲もうと思えばグラスはすでに空。
(そんなに飲んだかしら・・・)
「咲夜!おかわり!」
「はい、ここに」
あいも変わらず早い。
呼べば遅くとも3秒以内に来る我が従者は、やはり私にふさわしい。
「ご苦労。それで、準備のほうはできてる?」
「はい。パチュリー様には雨を降らせていただき、美鈴には地下の警備を、妖精メイド達には避難をさせました。」
あなたは?とは問わない。我が従者は言わずとも、どんなときでも完璧なのだ。
「上出来よ。ことが起こる前に、パチェを呼んで頂戴」
「かしこまりました」
「・・・お嬢様」
「何?」
「不安、でしょうか。今宵は特に紅い月をしていますから」
このメイド・・・
読心までこなすというのか・・・
心を読む妖怪がいると聞くが、まさかな・・・
「不安?ハッ、笑わせる。ヴラド・ツェペシュが末裔、高貴たる吸血鬼であるレミリア様にできぬことなどない!いらぬ心配だ。咲夜」
「そうですね。お嬢様ならば、必ず。それではパチュリー様をお呼びいたします」
(降るのが雨だけならいいんだけどね・・・)
そして従者は消えた。
ドアを開けて出て行くところも見せないのは、不気味でさえあるからやめてほしいものである。
不安、か。不安というよりは恐怖か・・・?
妹にこんな感情をもってしまう姉は、はたして姉といえるのだろうか。
ほかならぬ愛を、塗りつぶしてしまうほどの心。
そんな本音を認められない姉は、どれだけ醜いだろうか。
「あの子のため・・・なんてよく言えたものね・・・」
認めなければ、だめ、よね・・・
コンコン
ノック音
「パチュリー様をお連れしました」
「入るわよ」
聞こえた親友の声は、低く、疲労を隠しきれていなかった。
「どうぞ」
「まだ時間はもう少しあるけれど、どうかしたかしら?」
雨を降らせる魔法を使い終えたパチェは、ひどく疲れた顔をしていた。
魔法とはただ呪文を唱えれば使えるものではなく、魔力と呼ばれる身体エネルギーを代償にするものであると聞いたことがある。
話半分に聞いたことだからだいぶん忘れているけれど、相当なものなのだろう。
「少し、話がしたくてね。咲夜は席をはずして頂戴」
「かしこまりました。それでは後ほど」
あー、言い忘れた。ドアぐらい普通に開けて、と。
「それで?話ってなに?」
「そうね、まずは、いつもありがとう」
「へ?あ・・・あぁ。どうしたの?レミィらしくもない」
なんだその意外そうな顔。心外だ。
「な・・・なによ!私だって礼ぐらいするわよっ!」
「あはは、今日のレミィはえらく素直なのね。いつもなら、パチェが協力するのは当然でしょ!とでも言いそうなのに」
私いつもそんなかな・・・
あと絶対似てないよその物まね・・・
「まぁ・・・いいわ・・・本題よ、本題」
さっきまで笑っていたパチェの顔が変わる。
これだから私の親友は憎めない。
「今夜の月から見て、相当な姉妹喧嘩になるわ」
「そうね」
「たぶん、あの娘は相当な力で暴れる」
「それでも私は、あの娘をしずめることができるわ。姉、だからね」
「それは、正しいかしら?間違ってないかしら?」
「・・・どういうこと?」
「知ってのとおり、あの娘が狂うようになったのは、月のせいだけじゃない」
「私が閉じ込めたから」
「閉じ込めたのは・・・あの娘のため、ではないわ」
「あの娘が、あの娘の能力が、怖かったから。全部、壊れてしまいそうだったから」
「勝手に閉じ込めて、出たいと願えば傷つけられて」
「フランからしたらたまったものじゃないわね」
「これでも、私は正しさを誇れるかしら?」
「ねぇ・・・私どうしたらいいかな・・・」
「もうわからないよ・・・」
「何度も、何度も。傷つけて、傷ついて」
「どうしたら・・・」
半ば押し付けるように、感情を吐き出した。
これも自分勝手で、我侭だよね・・・
自分がつくづく嫌になる。
溢れる力があっても、こうも心が脆くては、と思えば思うほど、力が出なくなっていく。
ふと気づけば、いつも主たる威厳を表している羽が、片手ほどの大きさになっていた。
「正しい、ね」
パチェが言う。その声は優しく、やわらかく、だがはっきりと、脳に響く
「正しいって、何?」
パチェが私に抱きついた。
私はパチェに体を預け、言葉を聞く
「私の言葉?咲夜の言葉?妹様の言葉?世間の言葉?誰かの言葉?」
「みんなが正しいっていうから正しいの?間違っていると、自分より強いものに言われたから間違っているの?」
「レミィ。甘えちゃだめ。誰かの言葉は誰かの真実。あなたの真実は、どこ?」
ああ
「誰かの言葉で自分の考えが変わっちゃうことは、ある」
「けどね、自分の答えはいつも自分で出すもの、でしょ?」
ああ
「誰かの言葉に頼っちゃだめ。正しいのは自分の声」
「運命は掴みとるもの、なんでしょ?」
ああ。
響く
友の言葉は、こんなにも響く
折れかけた心を、こんなにも支えてくれる。
「あなたの妹なの。あなたの正しいと思えることをしなさい」
私が、私として、姉として、正しいと思えること
明日になったら、フランとお外に行こう
場所は、そうね、神社がいいかしら
・・・もう言い訳はやめて、妹と向き合うの
フランと仲直りをして、一緒にプリンを食べるの
もっといろいろしたいことがある
そのために、今日を乗り切るの
行こう。私。
「・・・ぅ、ありがとう。もう大丈夫。レミリア様にまかせなさい」
「ん、そろそろ月が昇ったころだわ。行ってきなさい。早く行かないと門番が死んじゃうわ」
「うん!」
悪魔は向かう
悪魔の妹、悪魔にとっては、ただただかわいい妹と、なにより自分のために
悪魔は進む
彼女が主であることを示す、大きく伸びた羽を背に
この特殊な手法はここぞという時以外に使うとただ読みにくくなるだけです。
ギャルゲーのシナリオなら構わないんですが、こういった小説ではあまり使わない方がいいです。
話自体やその他の文体が悪いというわけじゃないんですが、ただただ、その点が気になりました。
頑張って精進して下さい。これからに期待しています。
文章作法はもう少しなんとかならないかなとも思う。
参考までに、そそわでは・・・よりも……が好まれたりもする。
初投稿とのこと。これからも期待
ご指摘は力へと。
起承転結でいえば、今回は起。
もう何作か書きたいと思っているので、引き続きよろしくお願いいたします。