Coolier - 新生・東方創想話

みすちー 俺だ 結婚してくれ! 男声夜雀たちの求愛行動 中編

2011/08/12 16:26:55
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候補者たちを元の広場に集め、傷の再生と休息のため、しばらくの時間が設けられた。

「みんな良く頑張りました、私の方から求婚したいくらい。
最終審査は姫様の御前で執り行います、それまで休憩でーす」

ティスミアが本音を言った。
彼女も美しく、妖力もそれなりにある方で、男声夜雀に人気があった。

「もう、ちすみーったら、あんたの花婿選考会じゃないのよ」

「分かってるって」

観衆の男性夜雀の誰かが叫んだ。

「俺はすみちーの方が好きだー」

「ありがとー」

ちなみに、スミティアにも相当のファンがいる。







最初の審査会場でしばらくの休憩をとった後、ティスミアとスミティアが、ついに姫の到来を告げた。

「只今姫様がこちらに向かっておられますので、もう少しお待ちください」

ざわめく周囲の夜雀たち、花婿候補者たちは緊張の面持ちでその時を待つ。

やがて透き通った歌声が聞こえてくる。

「♪~~~~~♪~~~~~」

ざわめきが消え、皆歌声が聞こえる方を凝視する。

暗がりの中から、夜雀たちのお姫様、ミスティア=ローレライが姿を見せた。
屋台を引っ張りながら。
観衆と花婿候補たちに手を振りながら、屋台を広場の中心に停めた。
同時に、空からミスティアがそのまま成長したような、大人びた女性夜雀が舞い降りる。
ミスティアの母親のミスチーママだった。

「やあやあみんな、集まってくれてありがとー。候補者さん達の事は遠くから見守っていたわ。
最後に、あなた達の一番得意な事と、あなた達自身の言葉で私に愛を伝えて頂戴
ママも今回の候補者は一味違うって認めてるから頑張ってね~」

「皆さん、娘の結婚相手探しによくぞお越し下さいました。ベストを尽くして下さい」

ミスチーママの挨拶の後、いよいよ最終審査となる。
候補者の男たちの傷もほぼ再生し、互いの顔を見てうなずき合った。

「みんな、互いにライバルだけど、ベストを尽くそう」

「「「おう!」」」



まずはみす雄が、自分の特技である歌を披露する。
広場の中心へ出て、胸に片手をあて、自分のミスティアへの思いを歌に乗せる。
その歌声は、男声夜雀でもっとも美しいと言えた。

「なんて透き通った響き……」

ミスティアは涙を流し、みす雄のとなりに立つ。

「姫さま、何をなさるんです?」

そして、みす雄と共に歌い始めた。
歌によるみす雄の愛の言葉に、彼女も即興の歌で返し、しばらくデュエットを堪能した。
観衆は無論のこと、他の候補者たちもミスチーママも、審査を忘れて聞き入っている。

「すげえ」

「これが、男声コーラスマスターみす雄さんか」

「…………」

みす太郎は正直、彼を見くびっていると思い知らされた。
心の底で、歌などただの娯楽に過ぎず、餌取りの現実的な能力には及ばないと思っていた。
しかし、歌が他人の心を動かし、人生を潤す能力がある事を再確認したのだ。

(私の喉はまだ使えるだろうか? 最後に発声練習したのは、もう何十年も前か?)

歌が終わった時、万雷の拍手が沸き起こった。

みす彦もみす朗もみす太郎も、惜しみない拍手をみす雄に送った。

「すごいぜみす雄さん」みす朗が称賛する。

「まあ、ざっとこんなものですよ」照れ隠しに肩をすくめ、笑うみす雄。

「次は俺だぜ」







次はみす彦によるファッションショーとなった。
体を外套で隠しながら、広場の中央に立ち、河童印のマイクを握る。

「聞いてくれ、姫様、そしてみんな。俺には前のヤツのような素晴らしい歌の能力は無い。
だが、俺には別の意味で美しさを追求するガッツがある。これを見てくれ」

外套を翻し、その下の派手な服を披露する。
そして、隠されていた翼にも注目が集まった。

「この羽根飾りを見てくれ、あの紅魔館当主の妹から奪って来たものだ
(本当は闇市場で出回っていた物を買ったんだけどな、高かった)」

周囲がざわついた。

(本物なのか、だとしたらすごいんだが)

(ハッタリじゃないの)

(嘘くせえ)

あまり受けは良くない様である。

「……こ、この上着は天人に勝負を挑んで勝ち、貰った羽衣を加工して作った。
そしてこの靴は、マヨイガに忍び込んで取ってきた物だ。
俺のおしゃれに関する情熱を認めてくれ」

羽衣は、みす彦に勝負を挑まれた天人が、あまりに弱いみす彦を憐れんでくれてやった安物だが、それでも地上ではそれなりの価値があった。
靴はマヨイガで、滅多に来ない侵入者に敬意を表して、家主が与えた物である。

「ちょっと拝見」

ミスティアがみす彦の上着のすそを手にとり、それを使い魔の照明にかざす。

「すごい、真夏の湖みたいに透き通った青、それに、本当に軽くて、神秘的な力を感じるわ、
この靴も本革の逸品ね、羽飾りも吸血鬼の魔力を感じる、本当にあの館から奪って来たのね」

ミスティアが認めたので、周囲が再び驚き、やがて拍手が沸く。
正直に言ってみす彦の服のセンスは、同じ夜雀から見てあまり良くない。
派手な装飾ほど素晴らしいと思っている傾向が彼にはあった。
しかし、必ずしも勝負を挑んで奪ったとは限らないにせよ、幻想郷における強豪勢力から
貴重な物品を取ってしまえる、オスとしてのエネルギーが高く評価されたのだ。

「姫様、最後にこれをお受け取りください」

みす彦は透明な糸に垂らした5円玉のネックレスを姫君に捧げた。

「これは博麗神社からガメてきた5円玉と、地底の妖怪蜘蛛の糸で作った首飾りです」

「まあ! 5円なんて、確か博麗霊夢の数カ月分の食費じゃないの」

さらに周囲が驚いた。
ちなみに、食費うんぬんはただの噂。

「この日のために、博麗神社のさい銭箱を漁り、怒り狂う巫女から逃げ伸び(これは本当)、
さらに地底で土蜘蛛に勝負を挑んで糸を奪い、
(実際は、ボコボコにされた後土下座して譲ってもらった物)こさえた物です」

「素晴らしいわ、まあいろいろ小細工もあったんでしょうけど、称賛に値するガッツね。」

最初はまずいと思ったが、みす彦もまずまずの評価を得る事が出来た。

「みす彦さん、あなたもすごいスキルをお持ちではないですか」みす雄が感嘆した。

「あんたの声もな」

「あれ、みす雄さんが喉を潰されかけたのは、ひょっとしてこれが原因じゃ?」みす朗が指摘する。

「いや、もう済んだ事ですよ、それにわざとじゃない」

「実力者達からあれほどのアイテムを取って来るのは、相当な苦労だったろう」

「いや実は、正面から勝負を挑んで勝って手に入れたんじゃなくて、
いろいろとその……搦め手でね、失敗してフルボッコにされた事もあったんだ」

「でも、それを含めても大したものだよ、こんな夜雀がまだ幻想郷にいたなんてな」








発 幽霊監視所
宛 幽霊対策本部

ばけばけタイプさらに増加、『Y.K』出現を確認。
通常観測される食料買い出し時間外の行動とみられる。
要警戒。
選考会中止も検討されたし。



ユユコン3








次はみす朗の番。
彼は大工として、夜雀や妖怪、妖精の家を作ったりしている。
蛾の能力とは関係ない技能なので、もっと種族ならではの能力を持った方が妖怪らしいとも思ったが、
これはこれで気にいっている。
作った家を喜ぶ依頼主の顔を見るのが何より好きだ。
もし、万が一花婿に選ばれたなら、全身全霊を込めて愛の巣を作ろうと思う。

ちょうどその時、周囲がどよめいた。
花婿候補達がどよめきの起こった方を見やると、
丸太ほどもある、不気味な目玉模様をした芋虫の妖怪がこちらに這って来る。
体を脈打たせ、くねらせながら移動するその姿は見る者に精神的ダメージを与えるかもしれない。

「き、キモい……」

「虫ってのは何考えてるんだか分からんから不気味だ」

だがその芋虫妖怪は奇妙な事に、背中に風呂敷包みを載せており、人語を発する事が出来た。

「そんな事無いですよ」

「しゃ、喋った!」

「あの~ちょっとすいません、すみません、そこ通して頂けませんか、
あと俺はあんまり美味しくないんで、そんな目で見ないで下さい」

遠慮しがちに夜雀の集団をかき分け、マイペースで地を這う。
ユーモラスな姿とも言えなくもない。
そのみす朗と同じ蛾の妖怪は、みす朗の前まで来て、首をもたげて彼に話しかける。

「ようみす朗、大物妖怪の婿に立候補するんだって」

「アケビ君、まだ寝てなくて良いのか?」

「大丈夫だよ、もう動けるし。ただギャラリーの視線が痛いけどね」

「そりゃあ、美味しそうな芋虫が来れば鳥は反応するに決まってる」

「成虫になったお前も同じだろ」

「言うね、ハハハ」

話しぶりはそこいらの青年と変わりない。

「こいつ、いや、この芋虫芋虫したお方はアンタの友達なのか?」

芋虫と談笑するみす朗に、みす彦がおずおずと尋ねる。

「うん、友人のアケビ君、まだ幼虫だけど、良い奴だよ、毒も無いし」

「しっかしビビったぜ、朝起きたら背中に寄生蜂の繭がびっしりついていたんだよ
ここんとこ妙に違和感があっておかしいなあーと思ったら寄生蜂とはマジパネぇ」
あっ、繭まだ1個付いてる。取ってよみす朗」

背中にくっついていた寄生蜂の繭を掴み、放り投げた。
周辺にいた夜雀の観衆が、地面に落ちた繭からさっと距離を取る。
繭から一匹の寄生蜂が羽化し、観衆の1羽がそれを弾幕で撃ち落とそうとするが、
アケビ君と呼ばれる芋虫妖怪はそれを止めた。

「撃たないで」
「おい、こいつはお前さんの体を食い破ったヤツだろう?」
「こいつらもこうしなきゃ生きていられないんだよ」

寄生蜂はそのまま飛び去って行く。その様子を見ていたみす雄が呟いた。

「彼らにも信念があったんですね。見事なものです。キモいけど」

「僕の作品、持ってきてくれたんだね」

「おうよ、ダチの晴れ舞台だからな」

みす朗が芋虫妖怪の荷物を背中からおろそうとしていると、
1羽の夜雀が血相を変えてミスティアの元に駆け寄り、何かを耳打ちした。

表情の硬くなったミスティアがみんなに告げた。

「皆さん、西行寺幽々子が顕界をうろついているそうですが、今のところ、
この辺には向かってないとの事です、みんな、どうする?」

ミスティアの問いに、ざわめいていた周囲が静まりかえった。

「私としては、選考会を中断して、みんな避難した方が良いと思うんだけど」

だが、続行すべき、負けるな、という声がちらほらと聞こえてくる。

「そうだ、幽霊なんかに負けてちゃいけない、続けよう」

みす朗が訴え、他の花婿候補も同意する。

「その通りだ、続けるべきだ」みす彦が言った。

選考会は、半分ほど観衆が減ったものの、変わらず続ける事になった。

「次は僕の番だ、みす朗、いきます。」







みす朗は、アケビ君が持ってきた風呂敷包みを開け、
木で作った小さな宝石箱、写真立て、椅子など、彼が作った木製のグッズを取り出し、
皆に見せる。
ミスチーママはそれを手にとり、出来の良さを評価した。

「手先が器用なのね、ねえミスティ、この椅子なんか可愛くない?」

「ちなみに、三月精宅にあるタンスやテーブルも僕が手掛けたんですよ」

みす朗は胸を張って能力をアピールした。

「手に職があるのは良いけど、正直、大人しすぎかなあ」

「うう、やっぱり」

「でも、あなたの作品は気に入ったわ、これからも頑張って」

本音を言われて落ち込むみす朗をママがフォローした。
作品自体の質は高く、いくつかの拍手が起こる。

「微妙な反応だった……」

そんながっかり気味のみす朗をティスミアが慰めた。

「まあ、匠の腕であるのは分かります」

スミティアも一定の評価を与える。

「これ貰っていい? ああ、賄賂になるからダメなんだった、残念」

「そんなに気を落とすなよ、たぶん蛾の妖怪じゃお前がナンバーワンだと思うぜ」

アケビ君が慰めるが、みす朗はため息をついた。

「ダメもとだったけど、やっぱ世の中厳しいなあ」







「さて、私の番だな」

みす朗と入れ替わるようにして、みす太郎が広場に出る。
両手で貴重な食材入りの籠を持っている。

「皆さん、我々妖怪は基本的に物を食べなくても生きていけます、人間の幻想さえあれば。
しかし、豊かな食文化も生を彩る大切な要素、私の餌取り能力をご覧ください。

まずは籠から干物を取り出し、ミスティアに見せる。

「まあ! これは『黄金の八つ目鰻』。一体どこで?」

「妖怪の山付近の川で見つけました。哨戒天狗に見つかったのですが、交渉して分けてもらいました」

「あの頑固者の多い妖怪の山と交渉して? それも大したものね」

次にみす太郎は黄金色に輝くキノコを出す。

「さらに、これは魔法の森の月のキノコ『エーリンギ』です」

おお、というどよめきが観衆から起きた。
魔法の森には巨大なキノコお化けがいて、遊び半分で森に入った夜雀が齧られそうになった事があった。
それをかいくぐって集めてきたのだ。

「そして、天界の桃をどうぞ」

ミスティアとママが味見した所、確かに地上の桃よりみずみずしく、甘みがあり、
妖力が上がって来るのを感じる。これも本物だろう。

大きな拍手のあと、みす太郎は深々とミスティア達と観衆にお辞儀をし、広場の中央から退出した。



「みんな素敵なひとばかり、誰か一人を選ぶなんてとてもできそうにないわ。
最終審査はパパとママの目の前で、私に愛の告白をしてもらいます」







発 幽霊監視所
宛 幽霊対策本部

『Y.S』出現、『Y.K』と合流。
通所の食料買い出し及び宴会参加時のルートを大幅に逸脱。
選考会場の森へ向かう可能性あり。
避難の必要性を認める。
ミスティア姫護衛部隊に出動を要請する。

ユユコン3








「妖夢~。夜雀たちの集まる森はこっちだったかしら?」

「幽々子様、多分あっていると思います」

「それにしても、あの子もお姫様だったなんてね」

「何が『も』ですか、幽々子様は単なる亡霊お嬢様でしょうが」

「あら厳しい事を言うのね、私も風流な和風のお姫様でしょ」

「あれ、あそこに夜雀たちがいますよ」

「そう、ならお姫様の居場所を聞いてみようかしら」







発 幽霊監

『YS 急速  近 

                逃げ




喰わ





         ちょ   



 おまっ






(通信途絶)
前後編でまとめるつもりでしたが、少し長くなりそうなので3つに分けて書きました。
東方とは関係ありませんが、寄生蜂ネタは創想話で過去3回やっています。
気持ち悪いと思いながらも、妙に引き込まれる自然の神秘だと思います。
ちなみに、アケビ君は後で少し活躍する予定です。

暇つぶしにでも読んでいただければ幸いです。
とらねこ
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3.100名前が無い程度の能力削除
期待して待ってるぜ!
5.100ミラクルn削除
新作期待
9.無評価名前が無い程度の能力削除
気持ち悪い
10.90名前が無い程度の能力削除
中編来てたwwww
11.80名前が無い程度の能力削除
ミスチー争奪戦と思いきや、別の意味で激戦に…。
12.無評価とらねこ削除
わずかでも評価していただいて感謝してます。
気持ち悪いと言われる部分は作品そのものでしょうか、それとも芋虫オリキャラでしょうか。
前者ならすみません、後者なら擬人化させてストーリーに絡ませようと思っています。
後編はご想像通り別の意味で激戦になる予定です。しばらくお待ちください。
14.100名前が無い程度の能力削除
わろたw