Coolier - 新生・東方創想話

東方御伽草子 藤原妹紅

2011/08/12 01:58:09
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不老不死。
その誰もが望む毒薬を飲んだ少女。

彼女は、闇夜に彷徨い歩く……自分が何者なのかの答えを求めて







東方御伽草子  

藤原妹紅







私は、眩しい日差しを避けるように、竹林にと身を潜めていた。
竹林の風邪でゆれる音を聞きながら、草原に腰を落とし、空を眺めていた。
竹林の木々の隙間から洩れる光……私は、空にとゆっくりと手を伸ばす。

天高くある光を掴むことは私にはできない。


かつて、私は名家の娘だった。
だが、私の家族は、たった一人の女により崩壊した。
都いちの美女と謂わしめた女……名前は蓬莱山輝夜。

父は、彼女を欲した。
金を積み、彼女の求めたありえないものを捜しに出掛け……彼は、私の目の前で壊れていった。私は、父の腕を引いた

「もういい……あんな女、必要ない!」
「誰があんな女だ!あの娘は、絶対に、手に入れる。そのためなら私はなんだってする!」

 私の頬をぶったのは、これが初めてで最後だった。
 父は……壊れ、私は復讐を誓った。
 だが、あの女は死ななかった。永遠の美を手に入れた彼女。対する私の家は没落していく。復讐に身を焼いた私に待っていたのは、この白い髪と、あの女と同じ、不老不死という名の毒薬だった。






 私は、空を眺めていた。
 この空は、昨日と同じ空、先週と、去年と、数十年先とも同じ空なのだろう。
 そんな私の視界に映り込んだ一人の少女。私は顔をあげて、その小さな娘を見る。小さな娘は、笑みを浮かべながら私を見ている。私は立ち上がり、その場から立ち去ろうとする。だが、その少女は私の後ろをつけてくる。振り返った私。

「なにかよう?」
「お姉ちゃんも道に迷ったの?」

 私はしゃがみ込んで、ニコニコと笑みを浮かべている娘と同じ目線になり、娘を見る。

「お前、私が怖くないのか?こんな白い髪の毛させて」
「ううん……怖くないよ」

 娘は、相変わらずの笑顔でそう答えた。
 私の姿を見たものは大抵、みんな白夜叉だとか言いながら、逃げ惑っていた。だから、私は都から離れたこの竹林で、身を隠していたのだが……。私は髪の毛を掻きながら

「調子狂うな……。それよりも、お前迷子か?」
「うん!」
「なんで、そんなに元気そうなんだよ……わかったわ。連れて行ってやる」
「本当に?お姉ちゃん、道わかるの?」
「ああ」

 私は頷いて、彼女と一緒に、竹林の中を歩いていく。
 彼女は、どうやら一人で遊びに来て帰れなくなってしまったらしい。私は、面倒ながらも放っておくわけにはいかずに、そのまま、竹林の外にまで連れて行った。竹林の隙間から、多くの大人たちが、捜しまっている姿を見つける。

「ほら、もう大丈夫だろう?行ってこい」
「お姉ちゃんも行こう?」
「私はいいんだよ、放っておいて」

 だが、彼女は私の手を掴み、そのまま竹林の外にと連れ出した。

「おお!見つけたぞ!」
「やった!やった!」

 周りから声が聞こえ、私の元にと駆けだしてくる村人たち。娘は、私が助けてくれたんだと、みんなの前で告げる。

「このお姉ちゃんが助けてくれたんだ!」
「おお!それは助かった、貴女は娘の命の恩人です。どうかお礼がしたい!」
「そうだ、村一番の御馳走を……」

 私は周りで騒ぎ立てる者たちをみながら、久しく触れ合うことのなかった人たちと出会えたことが、嬉しかった。私は、その夜、娘の親の家にとまねかれて、食事を与えられた。普段、食事をせずとも生きていける私にとって、どうでもいい行為であったはずの食事だが、その釜で炊かれた白飯や、熱い汁は、とても美味しいものだった。

「美味い……な」

 ここずっと誰からも求められることがなかった私にとって、その白飯は……いつにもまして美味しいものであった。

「姐さん、見かけない顔だな?竹林にすんでいるんかね?」
「ああ、普段は」
「そりゃ、色々と大変だろうよ。村からほしいものがあれば言ってくれ」

 彼らは優しい笑みを浮かべて私にそう告げる。私はその笑みに、同じように微笑む。人と接することのなかった私には、彼らの笑顔が、一番嬉しいものだった。

 それから私はたまに村に顔を出して娘やその子供たちと遊んだり、農作物の植えなどを手伝ったりした。夏は川で子供たちと一緒に遊び、冬は、雪だるまや、カマクラなんかを作って遊んでいた。

「妹紅姉さんは……綺麗だよね」

 あれから……2年がたとうとしていた。最初に出会った娘も、背も伸び成長してきていた。若いからだろう、その成長はよくわかる。秋の山道を私たちは、山菜とりにと出かけていた。

「そんなことはないよ……お前だってあの頃から成長している」
「そっかな……私も妹紅姉さんみたいに、綺麗になれればいいな」
「私なんかすぐに追い抜くさ…」

 私は笑いながらそう答える。
 娘も笑みを浮かべながら、私たちは、山にと登って行った。

 私は忘れていた。
 他愛のない会話を続けていて、その村の居心地の良さに身をゆだねて……。

 
 私は、バケモノであるということに。


 十年……。
 私にとって、それは……一瞬だった。


「妹紅姉さん……私、いよいよ結婚するんだ」
「おお!それはおめでたいな?」

 月夜に私の家に、彼女は報告をしにきていた。
 私は彼女に酒を振舞いながら、あの娘が、もうこんなにも大きくなって、誰かと結婚するようになったんだなと、しみじみと感じる。娘は照れながらも、最初に報告をしたかったと告げた。

「もう最初に出会ってから、数年も経ちますから……。私があのとき竹林で姉さんに出会わなかったら、此処に今いないかもしれないですし」
「そんなことをいったら、私だって今こうして、皆と一緒にいられないかもしれない。私もお前に出会えてよかった」

 私の言葉に、娘は、最初に出会ったときと同じような笑みを浮かべる。


『見つけたぞ!このバケモノめ!』


 私たちの話は、その突然の大声で断ち切られた、私は、何のことかと思い立ち上がる。私の家は、取り囲まれているようだった。周りから足音が聞こえる。

「もう何年もたつというのに、姿形が変わらないお前は、バケモノだ!」
「俺達を食べてしまおうとしているんだろう!」
「ここで焼いてくれる!」

 私は彼らの言葉に驚く。

「お、おい!待ってくれ!私は!」
「黙れ!娘をどこにやった!人質にしているのか!?それとももう食べてしまったのか!」
「ゆるせねぇ!!」

 私は、彼らの言葉に、説得する気力が失せた。
 うつむき、拳を握りしめる私の背中を見つめる娘。

「妹紅姉さん!私が説得します!私は、貴女に命を助けられた……だから、今度も」

 そういって、彼女は家から出ていく。私は、彼女を止めようとしたが、言葉が出てこなかった。私は、黙ってその場に立ち尽くしかなかった。彼女が説得できることを願いながら……。


暫くして……家に火が放たれた。


 熱い炎が、家を焼いていく。私は煙にむせながら、娘が説得できなかったことを知った。私は、やはり……人間たちと一緒に生きていくことはできない。周りが年をとっても私は年をとらない、見た目も変わらない。そんなものを、人はバケモノを言うのだ。私も人間だ。人間だった……だが、その見た目の違いは、人をバケモノにと変えてしまう。

 私は、家から飛び出した。

 村の者たちは、私を殺そうと、火を持ち、鎌を握り、鍬を振りおろしながら、私を追いかけた。私は竹林にと走った。振り返りもせず、ただひたすらに走った。周りからは、殺せ!殺せ!という声だけが響き渡る。


「……」


 私は、遠く離れた場所で、よくやく足を止め振り返り、遠くで燃える炎を眺める。











 私は、竹林の森の中で、空を眺めていた。
 それは昨日と同じ空、明日と同じ空、数十年後と同じ空なのかもしれない。

 泣き声が聞こえる。

 起き上がった私の前、そこには迷子になったのだろうか…泣いている娘がいる。
 私は、彼女を横目で見ていた。何も言わず、動きもせずに……。
 やがて彼女は、自分から帰り道を捜そうと、竹林を彷徨おうとする。


「道に迷ったの?」


 私はゆっくと口を開けた。



 私は……バケモノなのかもしれない。

 だけど、私の胸の内にあるものは、人間と決して変わらない。
数千年を孤独で耐える精神力。
慧音と出会うまで、そして別れた後も彼女は一人の人間として、生き続ける。
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コメント



0.540簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
展開が急だなぁとか、ちょっと説明足らずだなぁとか思ってたしそれについて米する予定だったんだけど、最後の一文でどうでも良くなった。
正直、鳥肌が立った。なんかやばい、こういう終わらせ方が大好きだわ。

誤字報告。
竹林の風邪で揺れる音を聴きながら→風
2.80奇声を発する程度の能力削除
うーん、やっぱ妹紅のこういう過去話は切ないなぁ…
3.90名前が無い程度の能力削除
サクッと読める良エピソード、ありがとうございました
もこたんは強い子ですなぁ……
6.80名前が無い程度の能力削除
いい話だったんですが、もう少しボリュームが欲しい所かと。

内容自体は非常に好きなんですけどね……
10.100ミラクル削除
誤字  >> ゆっくと口を開けた。
    >>ゆっくりと口を開けた?
とても読みやすく、良いお話でした。
だからこの点数で。