それはいつもの、ありふれた日の夕食後のこと。
怪しいわよ、あのふたり。そう切り出したのは我らが頭脳、サニーミルクだった。
「怪しいって・・・誰が、なんで?」
私も思った率直な疑問を口にしたのは食後のお茶をすすっていたルナだ。
「ほら、あの二人よ。霊夢と紫さん。」
「霊夢と・・・紫さん?」
思わず私も声をあげてしまった。なんだか突拍子もない話だが、気になるといえば気になるという話題。
切り出されたからには聴いてあげるのが礼儀というものかしらね。
「ちなみに、その”怪しい”はどういう種類の”怪しい”なのかしら。」
と返してみたらサニーは見ているこちらが恥ずかしくなるような身振り手振りを加えながらこう言った。
「そりゃあもう。白百合が咲き乱れるような禁断!の関係よ!」
「「・・・白百合?」」
―――――ルナにも私にも、よくわからない領域のようだ。
まぁ要するに、サニーが言いたいことは霊夢と紫さんが恋仲なのでは、ということだった。
正直なところ『恋仲』とはどういうモノなのか私たちには知る由もない。
友人?それとも私たちのようなグループ関係のようなものだろうか。よくわからないが。
ただ、あの二人が神社で話したり、お茶を飲んでいたり、修行めいたことをしていた場面を何度か見たことはある。
でもその様子を見てきた限り、あの二人がいわゆる「恋仲」に見えるような様子は見たことがない。
まあ、紫さんが霊夢に優しくしているように見えなくもないけど、それだけではとても判断は出来ない。
それにどちらかというと霊夢はいつも紫さんにはツンケンした態度を取っていることが多いと思うのだけど。
私がこう言うとサニーは「そこが逆なのよ!いわゆる”愛情の裏返し”ってやつ?」と返してきた。
私たちの頭脳役は一体いつからこんな妄想癖を持つようになってしまったのだろうか。私はため息をひとつ吐いた。
++++++++++
カッと照りつけるような午後の日差しを避けて、私たちは神社の境内の木陰に移動していた。
思いついたことは即実行の精神を持つ私たち…
もといサニーの昨晩の思いつきにより今日の午後は神社で霊夢の観察を行うことにした。
この観察のミソは『本当に霊夢と紫さんの間に”そういう”関係があるかどうか』というところ。
もし本当にそうだったらあの鴉天狗の新聞記者にでもリークすれば霊夢の慌てる顔を拝めるかもしれない、
というのが理由だった。要するにいつものかわいい悪戯に過ぎないってこと。
でも今日みたいないつもの、ありきたりな日にあの紫さんは
本当にやってくるのだろうかという心配もあったが、それは杞憂だったようだ。
まるで私たちの期待に添うように、なんとも都合よく紫さんは神社に現れた。
特徴的な傘を携え、いつものように隙間からぬるりと。
「ほ、ホントに来たよ…」
「まるで私たちの話でも聞いてたみたい…いやまさかね」
「しっ!ふたりが何か話してる…」
私たちは霊夢と紫さんがかけている縁側から少し離れた茂みの中から二人の様子を伺った。
ちょっと残念なのは、二人の様子は見えるけど話している内容まではうまく聞き取れないことだった。
霊夢は紫さんが来てとりあえずお茶を出しているけど、これは魔理沙とか他の人にもやっていることだし、
特別変わったことでもない気がする。今のところは突然の来客に対応しているだけ…に見える。
霊夢はいつも通りツンケンした態度を取っているし、紫さんはにこにこ笑いながらお茶を啜っている。
二人は時折お茶を啜りながら何かを話している様子だったが、
どちらかというと漫才でも見ているかのようなやり取りが繰り広げられていた。
(漫才なんて見たことないけどね)
「ね、サニー」
「なに?スター」
「どう見ても…普通…よね?」
うんうんとルナも首を縦に振った。だがサニーは言い出しっぺとして何かしらネタを掴みたい気持ちが強いらしい。
だがいくら日陰といえど真夏の午後にこうやって無意味に張り込んでいても蒸し暑さで溶けてしまいそうだ。
サニーは私たち三人の中でも日光には強いからか、まだまだ余裕みたいだけれど。(暑いのは一緒みたいだが)
私とルナが痺れを切らしそうになっていたその時、縁側に座って話をしていたふたりに動きがあった。
どうやら神社正面に移動するらしい。サニーは口元をにやりとさせ、小声ながらも威勢よく言った。
「これからが見どころよ。さぁ、追うわよ!」
私たちのリーダーの暴走はもう少しだけ続きそうだ。
++++++++++
神社の正面に移動したふたりだったが、霊夢の石畳の掃き掃除の傍らに紫さんが立ったまま
二人の会話は続いているようだった。私たちもこちらに移動し重なってしゃがみながら観察していたが、
二人の立ち位置から考えてあまり近寄ることが出来ず、相変わらず何を話しているのかはわからないままだった。
先程と大きな変化もなく、スターがぼやく。
「さっきとそんなに変わらないじゃない…っていうか、さっきより二人とも深刻そうな顔してるけど」
「ぐぬぬ…きっとここから何か花も恥じらうような展開が…!」
「…神社の真正面でそんなことしてたら私たちがあの新聞記者にリークする必要もないわね」
私がこう言うとサニーは苦虫を噛み潰した様な顔でこちらを見上げてきた。そろそろ潮時だろうか。
あまりの暑さからぼんやりとそう思っていたその時だった。
「みっ見て!紫さんが!」
声を荒らげたのはルナだった。(ただし小声で)
私とサニーがそれに反応して紫さんの方を見ると、何故か傘を差していた。
ただしそれだけでは私たちはなんとも思わなかっただろう。その傘の下が重要だったのだ。
傘の下には、紫さんと霊夢が居た。私たちの間を、ひゅる、と風が通り抜けた。
「あっ…相合傘キターーーーーーーーーーっ!!!」
サニー、大興奮。あまりの興奮に小声縛りのことなど忘れてしまったようだ。超エキサイティン。
「ちょっ…サニー落ち着いて!声抑えて!」
「だ、大丈夫。さっきから話してる時には音消してたから」
ルナのフォローにそれを早く言いなさいよと突っ込みたくはなったが、今は目の前の状況のほうが重要だった。
…といっても、相合傘だというのにいわゆるそれらしいムードは感じられない。
紫さんが差した傘の下の霊夢は少しだけ困惑しているように見えた。
それもそのはず、今はからりと晴れ…えっ…?晴れて…ない…?
気がつくと空には急速に雲が集まり、既に陽の光は届いていなかった。
先ほどまでの暑さとはまたひと味違う強烈な湿気を伴った空気が私たちの身を包んでいる。
「なにこれ、さっきまであんなに晴れてたのに…」
「ちょ、ちょっとこれ降ってきそうだよ…しかも半端なく…!」
雨雲は急速に発達し、徐々にぽつぽつと地面を濡らし始めた。
霊夢と紫さんはあの大きな傘の下、服の端くらいは濡れそうだが十分に雨を回避出来そうだ。
しかし私たちには雨を回避するためのものが手元にない。
私達が慌てている間に雨は容赦なくノックから殴打へとレベルを変え始めている。
この様子では木の下で雨宿りをしようとしても水量が多く防ぎ切れないだろう。
私たちは紫さんの傘の意図もわかったので大人しく神社裏の家まで急いで戻ることにした。
サニーもルナも突然の大雨に相当慌てたらしく、もう自分たちのことで精一杯の様子だ。
だが私は。私だけは見てしまった。直接的でないにしても、決定的な場面を。
二人の顔は、私達の居た位置からは傘に隠れ見えなかったが、相合傘にしてはあまりにも近くに立っていた。
二人はお互いに向きあうように立っていて、傘を持っていた紫さんが緩く屈んだところだった。
(あ…くっついた)
傘で顔は見えなくとも、何をしたのかは予想の出来る動きだった。
その後すぐに顔は離れ、二人の顔が見えるようになった。
霊夢は顔を赤らめてうつむいていたが、紫さんは柔らかな笑みを湛えている。
私はその一瞬の出来事から目が離せずにいたのだが、
ほんの一瞬、紫さんはこちらを見て口を三日月型に釣り上げ笑顔を見せた気がした。
その笑みはまるでカエルが蛇に睨まれたときのような…いや、それすらもかわいく思える程の鋭さ。
それはひどく恐ろしくもあり、それでいて美しくもあった。
大雨に慌てるサニーから小声で急かされ、私はようやく我に返った。
「(ちょっとスター何してんの!早く帰るわよ!)」
「(…今行くわ)」
私もずぶ濡れになってまでこれ以上覗き見を続けるつもりはなかったので、
傘下のふたりを後目に早々にその場を立ち去った。
本当に一瞬の出来事ではあったけれど、あの光景は今も目に焼き付いて離れない。
だって紫さんのあの眼は、捕食者の眼そのものだったから。
++++++++++
あの神社での出来事からの翌日、つまり今日。あれほど二人の関係にお熱だったサニーは
前日までと打って変わって興味が削がれてしまったようだった。…というよりも、
家に帰るまでに昨日の大雨を防ぎきれなかった事が原因で風邪をひいてしまった。
別の意味でお熱になってしまったようだ。かわいそうに。
これが原因で昨日の出来事については頭から離れているらしく、
流石のサニーも他人の色恋沙汰よりも自分の身の方が心配のようだ。
もちろん、私もルナも今はサニーのことのほうが心配だけどね。
「大丈夫?サニー」
「あ゛ー、ありがと…寝たらちょっとはマシになると思う…」
私はサニーの頭にかけてある濡れタオルを替えたりする役をしている。
ルナはというと先程から何か栄養の有るものを作ると言って台所に立っている。
ルナにとっての栄養のあるものと言えばだいたい想像はつくけど…
良薬は口に苦しと言うし、苦いものは良薬になるわよね。多分。
「ね、スター」
「何?もっと氷が欲しいならチルノに頼んでこようか」
「いや、氷は十分…ってそうじゃなくて…」
「…?」
「昨日のあれ…本当にただの相合傘だったのかな…げほっけほっ」
「なんだそんなことか。あなたは今は自分の心配をしてればいいの。」
「そんなことって…!けほっ!ごほっ!」
「ほらほら、安静に安静に。もうすぐルナが栄養のあるもの持ってきてくれるはずだから、ゆっくり寝てて。」
「うー…うん…。」
「あ、でもね。」
私はわざとらしく付け加えた。
「あれはきっとただの相合傘よ。雨を防ぐためのね。」
それを聞き届ける前にサニーはもう夢の中へと入り込んでいる様子だった。
私はそっと眠りこけているサニーの頭を一撫でした。
…触らぬ神に祟りはないわね。
++++++++++
「あのさ、なんであんな真似したのよ」
「あら、濡れそうになったから傘に入れてあげたのがそんなにお気に召さなかった?」
「その先。見られてるってわかっててなんであんな・・・」
「ふふふ、見られてないはずよ。直接はね。」
「…傘…か」
「ちょっとロマンチックでしょう?」
「誰かに見られながらあんなことするのが?馬鹿も休み休み言いなさいよ」
「それを嫌がらなかったのはどこの巫女さんかしら?うふふ」
「ちょっ…この馬鹿スキマ!!!」
「馬鹿はお互い様ね」
(でもちょっと大人気なかったかしらね)
妖精と人間と妖怪の力の差は、これからも埋まりそうにない。
怪しいわよ、あのふたり。そう切り出したのは我らが頭脳、サニーミルクだった。
「怪しいって・・・誰が、なんで?」
私も思った率直な疑問を口にしたのは食後のお茶をすすっていたルナだ。
「ほら、あの二人よ。霊夢と紫さん。」
「霊夢と・・・紫さん?」
思わず私も声をあげてしまった。なんだか突拍子もない話だが、気になるといえば気になるという話題。
切り出されたからには聴いてあげるのが礼儀というものかしらね。
「ちなみに、その”怪しい”はどういう種類の”怪しい”なのかしら。」
と返してみたらサニーは見ているこちらが恥ずかしくなるような身振り手振りを加えながらこう言った。
「そりゃあもう。白百合が咲き乱れるような禁断!の関係よ!」
「「・・・白百合?」」
―――――ルナにも私にも、よくわからない領域のようだ。
まぁ要するに、サニーが言いたいことは霊夢と紫さんが恋仲なのでは、ということだった。
正直なところ『恋仲』とはどういうモノなのか私たちには知る由もない。
友人?それとも私たちのようなグループ関係のようなものだろうか。よくわからないが。
ただ、あの二人が神社で話したり、お茶を飲んでいたり、修行めいたことをしていた場面を何度か見たことはある。
でもその様子を見てきた限り、あの二人がいわゆる「恋仲」に見えるような様子は見たことがない。
まあ、紫さんが霊夢に優しくしているように見えなくもないけど、それだけではとても判断は出来ない。
それにどちらかというと霊夢はいつも紫さんにはツンケンした態度を取っていることが多いと思うのだけど。
私がこう言うとサニーは「そこが逆なのよ!いわゆる”愛情の裏返し”ってやつ?」と返してきた。
私たちの頭脳役は一体いつからこんな妄想癖を持つようになってしまったのだろうか。私はため息をひとつ吐いた。
++++++++++
カッと照りつけるような午後の日差しを避けて、私たちは神社の境内の木陰に移動していた。
思いついたことは即実行の精神を持つ私たち…
もといサニーの昨晩の思いつきにより今日の午後は神社で霊夢の観察を行うことにした。
この観察のミソは『本当に霊夢と紫さんの間に”そういう”関係があるかどうか』というところ。
もし本当にそうだったらあの鴉天狗の新聞記者にでもリークすれば霊夢の慌てる顔を拝めるかもしれない、
というのが理由だった。要するにいつものかわいい悪戯に過ぎないってこと。
でも今日みたいないつもの、ありきたりな日にあの紫さんは
本当にやってくるのだろうかという心配もあったが、それは杞憂だったようだ。
まるで私たちの期待に添うように、なんとも都合よく紫さんは神社に現れた。
特徴的な傘を携え、いつものように隙間からぬるりと。
「ほ、ホントに来たよ…」
「まるで私たちの話でも聞いてたみたい…いやまさかね」
「しっ!ふたりが何か話してる…」
私たちは霊夢と紫さんがかけている縁側から少し離れた茂みの中から二人の様子を伺った。
ちょっと残念なのは、二人の様子は見えるけど話している内容まではうまく聞き取れないことだった。
霊夢は紫さんが来てとりあえずお茶を出しているけど、これは魔理沙とか他の人にもやっていることだし、
特別変わったことでもない気がする。今のところは突然の来客に対応しているだけ…に見える。
霊夢はいつも通りツンケンした態度を取っているし、紫さんはにこにこ笑いながらお茶を啜っている。
二人は時折お茶を啜りながら何かを話している様子だったが、
どちらかというと漫才でも見ているかのようなやり取りが繰り広げられていた。
(漫才なんて見たことないけどね)
「ね、サニー」
「なに?スター」
「どう見ても…普通…よね?」
うんうんとルナも首を縦に振った。だがサニーは言い出しっぺとして何かしらネタを掴みたい気持ちが強いらしい。
だがいくら日陰といえど真夏の午後にこうやって無意味に張り込んでいても蒸し暑さで溶けてしまいそうだ。
サニーは私たち三人の中でも日光には強いからか、まだまだ余裕みたいだけれど。(暑いのは一緒みたいだが)
私とルナが痺れを切らしそうになっていたその時、縁側に座って話をしていたふたりに動きがあった。
どうやら神社正面に移動するらしい。サニーは口元をにやりとさせ、小声ながらも威勢よく言った。
「これからが見どころよ。さぁ、追うわよ!」
私たちのリーダーの暴走はもう少しだけ続きそうだ。
++++++++++
神社の正面に移動したふたりだったが、霊夢の石畳の掃き掃除の傍らに紫さんが立ったまま
二人の会話は続いているようだった。私たちもこちらに移動し重なってしゃがみながら観察していたが、
二人の立ち位置から考えてあまり近寄ることが出来ず、相変わらず何を話しているのかはわからないままだった。
先程と大きな変化もなく、スターがぼやく。
「さっきとそんなに変わらないじゃない…っていうか、さっきより二人とも深刻そうな顔してるけど」
「ぐぬぬ…きっとここから何か花も恥じらうような展開が…!」
「…神社の真正面でそんなことしてたら私たちがあの新聞記者にリークする必要もないわね」
私がこう言うとサニーは苦虫を噛み潰した様な顔でこちらを見上げてきた。そろそろ潮時だろうか。
あまりの暑さからぼんやりとそう思っていたその時だった。
「みっ見て!紫さんが!」
声を荒らげたのはルナだった。(ただし小声で)
私とサニーがそれに反応して紫さんの方を見ると、何故か傘を差していた。
ただしそれだけでは私たちはなんとも思わなかっただろう。その傘の下が重要だったのだ。
傘の下には、紫さんと霊夢が居た。私たちの間を、ひゅる、と風が通り抜けた。
「あっ…相合傘キターーーーーーーーーーっ!!!」
サニー、大興奮。あまりの興奮に小声縛りのことなど忘れてしまったようだ。超エキサイティン。
「ちょっ…サニー落ち着いて!声抑えて!」
「だ、大丈夫。さっきから話してる時には音消してたから」
ルナのフォローにそれを早く言いなさいよと突っ込みたくはなったが、今は目の前の状況のほうが重要だった。
…といっても、相合傘だというのにいわゆるそれらしいムードは感じられない。
紫さんが差した傘の下の霊夢は少しだけ困惑しているように見えた。
それもそのはず、今はからりと晴れ…えっ…?晴れて…ない…?
気がつくと空には急速に雲が集まり、既に陽の光は届いていなかった。
先ほどまでの暑さとはまたひと味違う強烈な湿気を伴った空気が私たちの身を包んでいる。
「なにこれ、さっきまであんなに晴れてたのに…」
「ちょ、ちょっとこれ降ってきそうだよ…しかも半端なく…!」
雨雲は急速に発達し、徐々にぽつぽつと地面を濡らし始めた。
霊夢と紫さんはあの大きな傘の下、服の端くらいは濡れそうだが十分に雨を回避出来そうだ。
しかし私たちには雨を回避するためのものが手元にない。
私達が慌てている間に雨は容赦なくノックから殴打へとレベルを変え始めている。
この様子では木の下で雨宿りをしようとしても水量が多く防ぎ切れないだろう。
私たちは紫さんの傘の意図もわかったので大人しく神社裏の家まで急いで戻ることにした。
サニーもルナも突然の大雨に相当慌てたらしく、もう自分たちのことで精一杯の様子だ。
だが私は。私だけは見てしまった。直接的でないにしても、決定的な場面を。
二人の顔は、私達の居た位置からは傘に隠れ見えなかったが、相合傘にしてはあまりにも近くに立っていた。
二人はお互いに向きあうように立っていて、傘を持っていた紫さんが緩く屈んだところだった。
(あ…くっついた)
傘で顔は見えなくとも、何をしたのかは予想の出来る動きだった。
その後すぐに顔は離れ、二人の顔が見えるようになった。
霊夢は顔を赤らめてうつむいていたが、紫さんは柔らかな笑みを湛えている。
私はその一瞬の出来事から目が離せずにいたのだが、
ほんの一瞬、紫さんはこちらを見て口を三日月型に釣り上げ笑顔を見せた気がした。
その笑みはまるでカエルが蛇に睨まれたときのような…いや、それすらもかわいく思える程の鋭さ。
それはひどく恐ろしくもあり、それでいて美しくもあった。
大雨に慌てるサニーから小声で急かされ、私はようやく我に返った。
「(ちょっとスター何してんの!早く帰るわよ!)」
「(…今行くわ)」
私もずぶ濡れになってまでこれ以上覗き見を続けるつもりはなかったので、
傘下のふたりを後目に早々にその場を立ち去った。
本当に一瞬の出来事ではあったけれど、あの光景は今も目に焼き付いて離れない。
だって紫さんのあの眼は、捕食者の眼そのものだったから。
++++++++++
あの神社での出来事からの翌日、つまり今日。あれほど二人の関係にお熱だったサニーは
前日までと打って変わって興味が削がれてしまったようだった。…というよりも、
家に帰るまでに昨日の大雨を防ぎきれなかった事が原因で風邪をひいてしまった。
別の意味でお熱になってしまったようだ。かわいそうに。
これが原因で昨日の出来事については頭から離れているらしく、
流石のサニーも他人の色恋沙汰よりも自分の身の方が心配のようだ。
もちろん、私もルナも今はサニーのことのほうが心配だけどね。
「大丈夫?サニー」
「あ゛ー、ありがと…寝たらちょっとはマシになると思う…」
私はサニーの頭にかけてある濡れタオルを替えたりする役をしている。
ルナはというと先程から何か栄養の有るものを作ると言って台所に立っている。
ルナにとっての栄養のあるものと言えばだいたい想像はつくけど…
良薬は口に苦しと言うし、苦いものは良薬になるわよね。多分。
「ね、スター」
「何?もっと氷が欲しいならチルノに頼んでこようか」
「いや、氷は十分…ってそうじゃなくて…」
「…?」
「昨日のあれ…本当にただの相合傘だったのかな…げほっけほっ」
「なんだそんなことか。あなたは今は自分の心配をしてればいいの。」
「そんなことって…!けほっ!ごほっ!」
「ほらほら、安静に安静に。もうすぐルナが栄養のあるもの持ってきてくれるはずだから、ゆっくり寝てて。」
「うー…うん…。」
「あ、でもね。」
私はわざとらしく付け加えた。
「あれはきっとただの相合傘よ。雨を防ぐためのね。」
それを聞き届ける前にサニーはもう夢の中へと入り込んでいる様子だった。
私はそっと眠りこけているサニーの頭を一撫でした。
…触らぬ神に祟りはないわね。
++++++++++
「あのさ、なんであんな真似したのよ」
「あら、濡れそうになったから傘に入れてあげたのがそんなにお気に召さなかった?」
「その先。見られてるってわかっててなんであんな・・・」
「ふふふ、見られてないはずよ。直接はね。」
「…傘…か」
「ちょっとロマンチックでしょう?」
「誰かに見られながらあんなことするのが?馬鹿も休み休み言いなさいよ」
「それを嫌がらなかったのはどこの巫女さんかしら?うふふ」
「ちょっ…この馬鹿スキマ!!!」
「馬鹿はお互い様ね」
(でもちょっと大人気なかったかしらね)
妖精と人間と妖怪の力の差は、これからも埋まりそうにない。
相合傘って良いですよね
この部分「その」=「まるで~のような」だから「まるでカエルが蛇に睨まれたときのような」ではなく「まるで蛇がカエルを睨むときのような」のほうがいいのでは?
それにしてもまさかあなたの名前を創想話で見ることになるとは思わなかった。
可愛い三妖精とゆかれいむちゅっちゅ、ごちそうさまでした。
ゆかれいむが俺のロードっぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
もっとゆかれいむを書いてくれ頼む!
可愛い妖精&ゆかれいむでした。
なにより、三月精の表現が好きです。
凄い勢いで情景が再現されました!
そして、直接は見せない紫の奥ゆかしいこと…
ゆかれいむが俺のロード。
作品も素晴らしかったです!
ゆかれいむは俺の…俺たちのロード!
あなたの文章という形での作品が、とても新鮮でよかったです。
まさかこちらでお目にかかるとは。
三月精視点というのが良いですね。
まさかあなたの文章が見れるとは。
紫様が霊夢をリードする関係が相変わらず良かったです。
三月精視点ってのが新鮮でした。
三妖精の描写もグッドでした。