トントン
時計を見ると、おゆはんの時間だった。
この時間にノックの音となれば、誰が来たのかはすぐにわかる。
トントン
作業を一旦やめ、玄関まで迎えに行く。
扉をあけるとそこには、黒魔法使いの少女が立っていた。
「おかえりなさい。魔理沙。」
「……………………。」
いつもどおり魔理沙を家に迎え入れようとする。
が、様子がおかしい。
「魔理沙?」
「…………………………。」
へんじがない。
「魔理沙、どうしたの?」
「……………………。」
へんじがない。ただのしかばねの
「死んでねえし!」
心を読まれた。さとり妖怪とまではいかなくとも
霊夢くらいの勘の鋭さは持ち合わせているのかもしれない。
それはさておき。やはり魔理沙の様子が変なことに変わりはない。
いつもなら私が迎え入れた時は元気よく
「ただいま」
と返事をし、抱きついてくる。
しばらく抱擁のあと熱いキスを交わし
くてっとしな垂れかかってくる魔理沙をリビングまでお姫様だっこで連れて行く
というのが一連の流れだったはずだ。
だが今の魔理沙は私がいくら声をかけても
ムスッとした顔でうつむいている。
何か嫌なことでもあったのだろう。
「もう、黙ってちゃ分からないでしょ。」
「あぅ……子ども扱いするなよ」
頭一つ分ほど身長の低い魔理沙に目線を合わせ髪をなでた。
くすぐったそうに目を細める。
口では悪態をつくが本気で嫌がっている様子はない。
しばらくこのように猫可愛がりをしていると魔理沙はぽつりとつぶやいた。
「今日さ……霊夢のとこに行ったんだ。」
「うん、それで?」
「で、決闘したんだけどさ…………。」
魔理沙はバツが悪そうに私から視線を外した。
よく見てみると魔理沙の服はところどころ破れていて、そこから痛々しい傷跡が見えている。
ああ、なるほど。とは思ったが直接口には出さなかった。
髪の毛を優しく撫でる。
今にも泣きだしそうな表情の魔理沙をなだめる効果はあるとは思うのだけど
多分時間の問題だろう。
「……………負けちゃった……」
「そうなの。」
予想は当たっていた。
でもこの落ち込み方は相当ショックを受ける負け方だったみたいだ。
普段なら強がりの一つでも見せるくせにそれすらない。
「でもそんなことで落ち込んでるなんて魔理沙らしくないわよ。」
「…………まったく歯が立たなかった。」
「え……?」
「こんなに圧倒されたことなんて今までなかったのに……」
詳しく聞いたところによると最近の魔理沙の霊夢に対する戦績は調子が良かったらしい。
今までの戦績は4対6くらいというのは聞いたことはあったが
最近は魔理沙の連勝が続いていたようだ。
だからと言って私が見る限り、魔理沙が調子にのって魔法の研究をさぼっているような風はなかったし
それどころか今までの研究の成果が出ていたせいか以前よりも魔法に対して熱心に勉強をしていたようにも見える。
それなのに今日の弾幕戦での久しぶりの敗北。
しかも今まで優勢だったのがウソのようにコテンパンにされてしまったみたいだ。
「…………ぐすっ……ふぇぇぇ」
一通り話終わると感極まったのか魔理沙は泣き出してしまった。
彼女なりに努力して、それでも通用しなかった悔しさ。
魔法使い同士だからこそ、その努力が報われなかったときの悲しさは理解できる。
だから今、下手に慰めたり「もっと頑張れ」という言葉をかけるのは魔理沙にとって酷な話だろう。
でも、彼女は私を頼ってきた。
だから私は
ぎゅ
「ぐすっ……ありす…………」
無言で魔理沙を抱き寄せた。
「うっ……ううっ……ありすぅ……」
よしよしと背中をさすってあげる。
「ぐすっ……ふく……よごれちゃうぜ……」
鼻をすする音が聞こえるがそんなことは気にしない。
涙や鼻水で服が濡れてしまっても別にかまわない。
ただただ魔理沙の嗚咽が収まるまで
その小さな体を優しく抱きしめた。
「よしよし」
「ふ……ふええええん」
魔理沙の背中なでなで頭ぽんぽんすること15分
ようやく魔理沙が泣き止んだ。
「どう?落ち着いた?」
「うん…………ぐすっ」
まだべそをかいているが、もう大丈夫だろう。
魔理沙は強い子だから。
「アリス……」
「なぁに?」
「……はずかしいとこみせちゃったな……ごめん」
「………………」
つんっ
「いたっ!な……なにをするんだ!」
この期に及んでアホなことをいうから。
デコピンしてやった。
「私とあなたの仲じゃない。いちいちそんなこと気にしないの。」
「だってさ…………」
まだ何か引っかかるところがあるのか
魔理沙は恥ずかしそうに
「もう終わったことじゃない。そんなことより、お腹すいたでしょ。」
「うん。」
「ほら、おいで。」
「え………あ……」
家の中に入ろうとした魔理沙が何かを思い出したように急に足を止めた。
「どうしたの?」
「言い忘れてた……。」
「ただいま。」
いつも通りの魔理沙の笑顔。だから私もいつも通りの笑顔で返事をかえした
「おかえりなさい。」
-----------------------------おまけ--------------------------------------
博麗神社にて
紫と霊夢は縁側でお茶を飲んでいた。
「今日はやけにムキなってたじゃない。」
「ムキになんてなってないわよ。」
「いつもならあの子に怪我させない程度に手を抜いてるくせに。」
「…………」
皮肉の一つでも返ってくると思ったのだが
意外にも霊夢は無言だった。
ずずっとお茶をすすって一息つく。
「手を抜いてる余裕がなかっただけよ。」
「あら珍しい。」
「最近負け続きだったから、そろそろ示しをつけようと思ってさ。それが意外と……ね。」
霊夢は湯呑を床に置いて紫の方を向いた。
「明日から少し修行するわ。付き合いなさいよ。」
「ふふふ喜んで」
時計を見ると、おゆはんの時間だった。
この時間にノックの音となれば、誰が来たのかはすぐにわかる。
トントン
作業を一旦やめ、玄関まで迎えに行く。
扉をあけるとそこには、黒魔法使いの少女が立っていた。
「おかえりなさい。魔理沙。」
「……………………。」
いつもどおり魔理沙を家に迎え入れようとする。
が、様子がおかしい。
「魔理沙?」
「…………………………。」
へんじがない。
「魔理沙、どうしたの?」
「……………………。」
へんじがない。ただのしかばねの
「死んでねえし!」
心を読まれた。さとり妖怪とまではいかなくとも
霊夢くらいの勘の鋭さは持ち合わせているのかもしれない。
それはさておき。やはり魔理沙の様子が変なことに変わりはない。
いつもなら私が迎え入れた時は元気よく
「ただいま」
と返事をし、抱きついてくる。
しばらく抱擁のあと熱いキスを交わし
くてっとしな垂れかかってくる魔理沙をリビングまでお姫様だっこで連れて行く
というのが一連の流れだったはずだ。
だが今の魔理沙は私がいくら声をかけても
ムスッとした顔でうつむいている。
何か嫌なことでもあったのだろう。
「もう、黙ってちゃ分からないでしょ。」
「あぅ……子ども扱いするなよ」
頭一つ分ほど身長の低い魔理沙に目線を合わせ髪をなでた。
くすぐったそうに目を細める。
口では悪態をつくが本気で嫌がっている様子はない。
しばらくこのように猫可愛がりをしていると魔理沙はぽつりとつぶやいた。
「今日さ……霊夢のとこに行ったんだ。」
「うん、それで?」
「で、決闘したんだけどさ…………。」
魔理沙はバツが悪そうに私から視線を外した。
よく見てみると魔理沙の服はところどころ破れていて、そこから痛々しい傷跡が見えている。
ああ、なるほど。とは思ったが直接口には出さなかった。
髪の毛を優しく撫でる。
今にも泣きだしそうな表情の魔理沙をなだめる効果はあるとは思うのだけど
多分時間の問題だろう。
「……………負けちゃった……」
「そうなの。」
予想は当たっていた。
でもこの落ち込み方は相当ショックを受ける負け方だったみたいだ。
普段なら強がりの一つでも見せるくせにそれすらない。
「でもそんなことで落ち込んでるなんて魔理沙らしくないわよ。」
「…………まったく歯が立たなかった。」
「え……?」
「こんなに圧倒されたことなんて今までなかったのに……」
詳しく聞いたところによると最近の魔理沙の霊夢に対する戦績は調子が良かったらしい。
今までの戦績は4対6くらいというのは聞いたことはあったが
最近は魔理沙の連勝が続いていたようだ。
だからと言って私が見る限り、魔理沙が調子にのって魔法の研究をさぼっているような風はなかったし
それどころか今までの研究の成果が出ていたせいか以前よりも魔法に対して熱心に勉強をしていたようにも見える。
それなのに今日の弾幕戦での久しぶりの敗北。
しかも今まで優勢だったのがウソのようにコテンパンにされてしまったみたいだ。
「…………ぐすっ……ふぇぇぇ」
一通り話終わると感極まったのか魔理沙は泣き出してしまった。
彼女なりに努力して、それでも通用しなかった悔しさ。
魔法使い同士だからこそ、その努力が報われなかったときの悲しさは理解できる。
だから今、下手に慰めたり「もっと頑張れ」という言葉をかけるのは魔理沙にとって酷な話だろう。
でも、彼女は私を頼ってきた。
だから私は
ぎゅ
「ぐすっ……ありす…………」
無言で魔理沙を抱き寄せた。
「うっ……ううっ……ありすぅ……」
よしよしと背中をさすってあげる。
「ぐすっ……ふく……よごれちゃうぜ……」
鼻をすする音が聞こえるがそんなことは気にしない。
涙や鼻水で服が濡れてしまっても別にかまわない。
ただただ魔理沙の嗚咽が収まるまで
その小さな体を優しく抱きしめた。
「よしよし」
「ふ……ふええええん」
魔理沙の背中なでなで頭ぽんぽんすること15分
ようやく魔理沙が泣き止んだ。
「どう?落ち着いた?」
「うん…………ぐすっ」
まだべそをかいているが、もう大丈夫だろう。
魔理沙は強い子だから。
「アリス……」
「なぁに?」
「……はずかしいとこみせちゃったな……ごめん」
「………………」
つんっ
「いたっ!な……なにをするんだ!」
この期に及んでアホなことをいうから。
デコピンしてやった。
「私とあなたの仲じゃない。いちいちそんなこと気にしないの。」
「だってさ…………」
まだ何か引っかかるところがあるのか
魔理沙は恥ずかしそうに
「もう終わったことじゃない。そんなことより、お腹すいたでしょ。」
「うん。」
「ほら、おいで。」
「え………あ……」
家の中に入ろうとした魔理沙が何かを思い出したように急に足を止めた。
「どうしたの?」
「言い忘れてた……。」
「ただいま。」
いつも通りの魔理沙の笑顔。だから私もいつも通りの笑顔で返事をかえした
「おかえりなさい。」
-----------------------------おまけ--------------------------------------
博麗神社にて
紫と霊夢は縁側でお茶を飲んでいた。
「今日はやけにムキなってたじゃない。」
「ムキになんてなってないわよ。」
「いつもならあの子に怪我させない程度に手を抜いてるくせに。」
「…………」
皮肉の一つでも返ってくると思ったのだが
意外にも霊夢は無言だった。
ずずっとお茶をすすって一息つく。
「手を抜いてる余裕がなかっただけよ。」
「あら珍しい。」
「最近負け続きだったから、そろそろ示しをつけようと思ってさ。それが意外と……ね。」
霊夢は湯呑を床に置いて紫の方を向いた。
「明日から少し修行するわ。付き合いなさいよ。」
「ふふふ喜んで」
ちょっと物足りない、腹八分目な感じ。
それ以外は良いマリアリでした。