博麗神社の朝、心地良い鳥の鳴き声に包まれて、博麗霊夢は目を覚ました。
――カー、カー。
そんなに心地良くも無かった。
「……どうしてこんな朝っぱらからカラスの声が」
やかましいまでのカラスの鳴き声に囲まれて、霊夢は眠たげな頭を無理矢理起こす。
眼をこすって周りを見回してみれば、部屋の至る所を小さなカラスが飛び回っていた。
「……」
ふと、霊夢は違和感を覚えて、視線を布団へと落とす。
そこには、霊夢の体以外に一つ、こんもりと大きな山が浮き出ていた。
問答無用で両手で掛け布団を吹飛ばす、何羽かのカラスが布団を被せられて、バサバサカーカー喚き出した。
「やっぱり」
山の中には、カラス達の親玉であろう射命丸文が、膝を曲げてすぅすぅと静かな寝息を立てていた。
その身体には何羽ものカラスが羽を休めていて、まるで羽毛布団に包まれて眠っているかの様だった。
無意識に揺れる羽に合わせて、羽に泊まっていたカラス達が上下に揺れている。
傍から見るだけならば、とても微笑ましい光景だった。
「起きろ」
その背中に向かって、蹴りを一撃。衝撃で何羽かのカラスが、カーカー鳴いて飛び立つ。
流石の妖怪も、身体を起こして膝を伸ばし、大きく背伸びをして目を覚ました。
「……ああ霊夢さん、お早うございます」
眼を擦りながら、文は暢気に挨拶をする。
その後ろでは、文に身体を寄せていたカラスが目を覚ました事も会って、先程よりも多くのカラスが我が物顔で暴れまわっていた。
「おはようございます、じゃないわよ! このカラスは何!? というか何で私の布団の中で寝てるのよ!」
朝から元気に大声で捲くし立てる霊夢。
「この子達は、私の新しい配下のカラス達です。可愛いでしょう?」
「知らないわよ」
たくさんのカラスに囲まれて、優しい笑顔を振り撒く文。
その様子は、さながら母親が子どもを可愛がるかのような、母性を孕んだ優しさにも思えた。
「……それはそうと、どうして文が私の布団で寝ているのよ」
「寝ていたら駄目なんですか?」
「駄目に決まってるじゃない」
二人揃ってのそのそといつもの服に着替えつつも、霊夢の腹の虫は収まりそうに無い。
霊夢が着替え終わる頃には、文の指揮によるものか、いつの間にかカラス達が綺麗に整列していた。
「……随分利口なのね」
「ええ、カラスは凄く頭が良いんですよ」
えへん、と我が事の様に胸を張る文。
遂に霊夢は起こる気力も失せて、畳にへたり込んでしまった。
「はぁ……お賽銭も入らないし、参拝客の代わりにカラスが集まる所為で参拝客が来ないし、良い事無いなぁ」
「お賽銭、ですか」。というかさりげなく人の所為にしないでください
「せめて少しでも入っていれば、皆入れて行くって気になりそうなものだけど」
空っぽの賽銭箱を思い出したのか、はぁ、と霊夢が深い溜息を吐く。
「少しくらいなら、私が用意しましょうか?」
ぽつりと呟いた文の言葉に、霊夢の耳がぴくりと反応する。
「本当!?」
「まあ、金目のものくらいなら」
そう言って、文は縁側に出て高下駄を履き、賽銭箱の前に向かう。
その後を、カラスの群れがひょこひょことことこ、小鳥の様について行く。
「霊夢さん、カラスは光物が好きだって知ってますよね?」
「ええ。……ってまさか」
「この子達にはさせませんよ。 ――もっと沢山、必要でしょうから」
文の背中の黒い羽が、大きく羽ばたいた。
「な、何!?」
急に大人しかったカラス達が、ギャーギャー騒ぎ出して、集団で飛び立って行った。
それと同時に、神社の裏手の空から、黒い塊が霊夢に向かって飛んで来た。
それはやがて、神社の境内に落ちてきて、無数の羽へと姿を変える。それらは全て、先程飛び去ったカラスよりも蓋周りは大きい、カラスの群れだった。
「私の配下のカラス達を呼び寄せました。この子達に頼めば、少しくらいは見付かるでしょう」
「ほぁ~……」
あっという間に神社の境内は、カラスによって埋め尽くされてしまった。
鳥居や賽銭箱にもカラスが集まり、文の肩や羽に泊まったカラスは、誇らしげに羽を開いている。
その他のカラスは全て、位置はばらばらだが、一匹たりとも鳴かず騒がず、文の指示を待っているかのように泊まっていた。
「そういえばあんた、腐っても鴉天狗だったわね……」
「腐ってもは余計です」
鴉天狗がカラスを使役できる数は、その鴉天狗の力量に比例するという。
境内を埋め尽くさんばかりに集まったカラスを使役する文の力量は、霊夢が一番良く知っていた。
「それじゃあ皆、お願いね」
高らかに響く文の一声で、カラス達は一斉に羽音を立てて、四方八方へと散っていった。
集うも早ければ去るも早い、その一瞬の出来事に、霊夢は全く手を出せなかった。
「……それじゃ、これで神社への私とカラスの出入りは自由にさせてくれますよね」
くるりと文は霊夢の方に向き直って、笑顔でそう言う。
呆気に取られていた霊夢もやっと我に返って、渋い顔を返した。
「カラスだらけになったら、それこそ人間の参拝客が来なくなるじゃないの」
難色を見せる霊夢の後ろで、コト、という木を叩く音が聞こえた。
それは賽銭箱の方からで、慌てて霊夢が振り向くと、一羽のカラスが賽銭箱の上でカーと鳴いていた。
どうやら、最初に任務を達成できて、とても得意気になっているらしい。
「……ダメだからね」
弱々しく言う霊夢の姿を、文は笑顔で眺めていた。
数日後の朝、心地良い鳥の鳴き声に包まれて、博麗霊夢は目を覚ました。
――カー、カー。
やっぱり、そんなに心地良くも無かった。
「ぐ……」
強烈なデジャヴを前に苛立ちを募らせつつも、寝起きの身体で力いっぱい布団を吹飛ばす。
案の定、文が横になって丸まって、カラス達と一緒にすやすやと寝息を立てていた。
安眠妨害極まりないそれを、今度は全力をもって蹴り飛ばす。
「ダメって言ったでしょうが、このっ!」
もう一度蹴り飛ばそうとして、文の体が突然転がり、霊夢の脚は宙を掻いた。
「霊夢の布団、凄く落ち着くんですよ。何だかこう、凄く安心出来るような」
「それがどうかしたの」
急に、文は少し顔を俯かせて、
「……つい、来てしまうんです」
「!」
途端、霊夢の体が強張った。
あの文が、鴉天狗が、霊夢に甘えている。
それに気付いて、霊夢は強く言い返せなくなってしまっていた。
「……でも、カラスだらけの神社なんて、参拝客が逃げちゃうじゃない」
「ああ、それの事なら大丈夫ですよ」
そう言って文は得意げに、一部の紙束を霊夢に突きつける。
それは、今日の日付の文々。新聞だった。
『怪奇!お賽銭を入れる黒い影?』
そんな見出しが、ぼやけた博麗神社の賽銭箱の辺りの写真と一緒に、一面を飾っていた。
「……酷い自作自演も有ったものね」
「楽しむのは何も知らない人たちですよ。だから、これで」
「これで?」
堂々と霊夢と一緒に居られますね。と、会心の笑顔で、文は宣言した。
.
――カー、カー。
そんなに心地良くも無かった。
「……どうしてこんな朝っぱらからカラスの声が」
やかましいまでのカラスの鳴き声に囲まれて、霊夢は眠たげな頭を無理矢理起こす。
眼をこすって周りを見回してみれば、部屋の至る所を小さなカラスが飛び回っていた。
「……」
ふと、霊夢は違和感を覚えて、視線を布団へと落とす。
そこには、霊夢の体以外に一つ、こんもりと大きな山が浮き出ていた。
問答無用で両手で掛け布団を吹飛ばす、何羽かのカラスが布団を被せられて、バサバサカーカー喚き出した。
「やっぱり」
山の中には、カラス達の親玉であろう射命丸文が、膝を曲げてすぅすぅと静かな寝息を立てていた。
その身体には何羽ものカラスが羽を休めていて、まるで羽毛布団に包まれて眠っているかの様だった。
無意識に揺れる羽に合わせて、羽に泊まっていたカラス達が上下に揺れている。
傍から見るだけならば、とても微笑ましい光景だった。
「起きろ」
その背中に向かって、蹴りを一撃。衝撃で何羽かのカラスが、カーカー鳴いて飛び立つ。
流石の妖怪も、身体を起こして膝を伸ばし、大きく背伸びをして目を覚ました。
「……ああ霊夢さん、お早うございます」
眼を擦りながら、文は暢気に挨拶をする。
その後ろでは、文に身体を寄せていたカラスが目を覚ました事も会って、先程よりも多くのカラスが我が物顔で暴れまわっていた。
「おはようございます、じゃないわよ! このカラスは何!? というか何で私の布団の中で寝てるのよ!」
朝から元気に大声で捲くし立てる霊夢。
「この子達は、私の新しい配下のカラス達です。可愛いでしょう?」
「知らないわよ」
たくさんのカラスに囲まれて、優しい笑顔を振り撒く文。
その様子は、さながら母親が子どもを可愛がるかのような、母性を孕んだ優しさにも思えた。
「……それはそうと、どうして文が私の布団で寝ているのよ」
「寝ていたら駄目なんですか?」
「駄目に決まってるじゃない」
二人揃ってのそのそといつもの服に着替えつつも、霊夢の腹の虫は収まりそうに無い。
霊夢が着替え終わる頃には、文の指揮によるものか、いつの間にかカラス達が綺麗に整列していた。
「……随分利口なのね」
「ええ、カラスは凄く頭が良いんですよ」
えへん、と我が事の様に胸を張る文。
遂に霊夢は起こる気力も失せて、畳にへたり込んでしまった。
「はぁ……お賽銭も入らないし、参拝客の代わりにカラスが集まる所為で参拝客が来ないし、良い事無いなぁ」
「お賽銭、ですか」。というかさりげなく人の所為にしないでください
「せめて少しでも入っていれば、皆入れて行くって気になりそうなものだけど」
空っぽの賽銭箱を思い出したのか、はぁ、と霊夢が深い溜息を吐く。
「少しくらいなら、私が用意しましょうか?」
ぽつりと呟いた文の言葉に、霊夢の耳がぴくりと反応する。
「本当!?」
「まあ、金目のものくらいなら」
そう言って、文は縁側に出て高下駄を履き、賽銭箱の前に向かう。
その後を、カラスの群れがひょこひょことことこ、小鳥の様について行く。
「霊夢さん、カラスは光物が好きだって知ってますよね?」
「ええ。……ってまさか」
「この子達にはさせませんよ。 ――もっと沢山、必要でしょうから」
文の背中の黒い羽が、大きく羽ばたいた。
「な、何!?」
急に大人しかったカラス達が、ギャーギャー騒ぎ出して、集団で飛び立って行った。
それと同時に、神社の裏手の空から、黒い塊が霊夢に向かって飛んで来た。
それはやがて、神社の境内に落ちてきて、無数の羽へと姿を変える。それらは全て、先程飛び去ったカラスよりも蓋周りは大きい、カラスの群れだった。
「私の配下のカラス達を呼び寄せました。この子達に頼めば、少しくらいは見付かるでしょう」
「ほぁ~……」
あっという間に神社の境内は、カラスによって埋め尽くされてしまった。
鳥居や賽銭箱にもカラスが集まり、文の肩や羽に泊まったカラスは、誇らしげに羽を開いている。
その他のカラスは全て、位置はばらばらだが、一匹たりとも鳴かず騒がず、文の指示を待っているかのように泊まっていた。
「そういえばあんた、腐っても鴉天狗だったわね……」
「腐ってもは余計です」
鴉天狗がカラスを使役できる数は、その鴉天狗の力量に比例するという。
境内を埋め尽くさんばかりに集まったカラスを使役する文の力量は、霊夢が一番良く知っていた。
「それじゃあ皆、お願いね」
高らかに響く文の一声で、カラス達は一斉に羽音を立てて、四方八方へと散っていった。
集うも早ければ去るも早い、その一瞬の出来事に、霊夢は全く手を出せなかった。
「……それじゃ、これで神社への私とカラスの出入りは自由にさせてくれますよね」
くるりと文は霊夢の方に向き直って、笑顔でそう言う。
呆気に取られていた霊夢もやっと我に返って、渋い顔を返した。
「カラスだらけになったら、それこそ人間の参拝客が来なくなるじゃないの」
難色を見せる霊夢の後ろで、コト、という木を叩く音が聞こえた。
それは賽銭箱の方からで、慌てて霊夢が振り向くと、一羽のカラスが賽銭箱の上でカーと鳴いていた。
どうやら、最初に任務を達成できて、とても得意気になっているらしい。
「……ダメだからね」
弱々しく言う霊夢の姿を、文は笑顔で眺めていた。
数日後の朝、心地良い鳥の鳴き声に包まれて、博麗霊夢は目を覚ました。
――カー、カー。
やっぱり、そんなに心地良くも無かった。
「ぐ……」
強烈なデジャヴを前に苛立ちを募らせつつも、寝起きの身体で力いっぱい布団を吹飛ばす。
案の定、文が横になって丸まって、カラス達と一緒にすやすやと寝息を立てていた。
安眠妨害極まりないそれを、今度は全力をもって蹴り飛ばす。
「ダメって言ったでしょうが、このっ!」
もう一度蹴り飛ばそうとして、文の体が突然転がり、霊夢の脚は宙を掻いた。
「霊夢の布団、凄く落ち着くんですよ。何だかこう、凄く安心出来るような」
「それがどうかしたの」
急に、文は少し顔を俯かせて、
「……つい、来てしまうんです」
「!」
途端、霊夢の体が強張った。
あの文が、鴉天狗が、霊夢に甘えている。
それに気付いて、霊夢は強く言い返せなくなってしまっていた。
「……でも、カラスだらけの神社なんて、参拝客が逃げちゃうじゃない」
「ああ、それの事なら大丈夫ですよ」
そう言って文は得意げに、一部の紙束を霊夢に突きつける。
それは、今日の日付の文々。新聞だった。
『怪奇!お賽銭を入れる黒い影?』
そんな見出しが、ぼやけた博麗神社の賽銭箱の辺りの写真と一緒に、一面を飾っていた。
「……酷い自作自演も有ったものね」
「楽しむのは何も知らない人たちですよ。だから、これで」
「これで?」
堂々と霊夢と一緒に居られますね。と、会心の笑顔で、文は宣言した。
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いいじゃない、カラスとも仲良くなっちゃえばいいじゃない
まとまりのよさがステキです。機能美すら感じます。でも逆に物足りない気もします。
場面が『朝』に限られてしまっているので難しかったのかもしれませんが、生活感とか人物の表情がより盛り込まれてれば個人的にはGOODです。
あやれいむいいですね。参考にします。
あとタグの朝カーに吹きました
そのうち文ちゃんが羽毛布団と称して羽を広げて抱きついて眠るんですね。
でもカラスが一杯潜ってる布団はちょっとやだなー。寝返り怖い。