「意外と見つからないな」
僕の名は森近霖之助。魔法の森の入口にある古道具屋の店主をやっている。
「まぁ時期が時期だしな。もうちょい歩けばあるって」
「なんかもう鳥だけ捕まえた方がよくない?私昨日から水しか飲んでないんだけど」
隣を歩くのは霊夢と魔理沙。
僕達は現在、3人で魔法の森にきのこ狩りに来ていた。
「大体、きのこ狩りだけなら魔理沙だけでいいでしょ?私が鳥捕まえてくるからさぁ」
どれだけ鳥食べたいんだよ、と突っ込みたくなったがなにやら不機嫌そうなのでやめておくことにした。
「そういうなよ霊夢。親交を深めるためにって言ったろ?それにマツタケが摂れたらお前の飯は明日から一汁三菜だぞ」
「うぅ……仕方ないわねぇ……」
こういう時は魔理沙がいてくれて本当に助かったと思う。
年頃の女の子の気持ちは僕にはよく分からないからな。年頃の女の子は金目当てで松茸なんか採らないけど。
あと、松茸の収穫時期は最低でも後1ヶ月は先だが空気の読めない発言はしない主義なので言わないことにした。
「しかし、確かに3人が同じように移動してたら効率は悪いかもね」
「そうね……じゃあ私は松茸を重点的に狙って探すから魔理沙と霖之助さんは食用の奴いっぱい摂ってきてね」
まぁ松茸は不可能だが、空気を読んで言わない。
「美味そうなキノコ見つけたからって喰うなよ霊夢。下手すりゃ死ぬからな」
「わかってるわよ。じゃあ2時間後くらいに霖之助さんのお店でね」
それだけ言うと、すぐさま低空飛行でどこか遠くへ消えていってしまった。
相変わらず食か金が絡むと凄い行動力である。
「……さて、じゃあこっちはこっちで探すとするか魔理沙」
「ああ。霊夢のことだからそのうち松茸諦めて鳥でも捕ってくるだろうしな」
空腹すぎて毒キノコを拾い食いしないかだけが不安だが……まぁ大丈夫だ。
彼女は神様に愛されてるから拾い食いしたとしても普通に食用だろう。
仮に毒キノコを拾ったとしても幻覚症状とか腹痛とか毒性の弱いものになるはずだ。
「お、おお!おいこっち来いよ香霖!!すげぇもん見つけたぞ!!」
そんな僕の心配を他所に魔理沙は珍しいキノコでも見つけたのか、テンションをあげていた。
魔理沙の指差す場所に視線を移すと、それはおおよそキノコとは言い難いものだった。
「これは……サンゴか?」
魔理沙のはしゃぎっぷりから松茸でも生えてたかと思ったが全く違った。
真っ赤に染まった木の枝ような姿……どうみても文献で見たサンゴだ。
「んなわけないだろ。コイツは立派なキノコだよ」
「このなりでキノコなのか。美味いのかい?」
「試したらどうだ?運がよければ全治10年で済むかもしれないぜ、半妖だし」
つまり毒キノコということか。
「コイツはカエンタケ。人間だったら一口食った時点で死ぬな。妖怪でも1年は後遺症が残るくらいヤバい奴だな」
危ないわ。何が危ないってそんなキノコが近所に生えてるという事実が危なすぎる。
「なんせ戦争でも使われたって話もあるくらい……おっと、触るなよ。汁に触れたら皮膚がただれるからな」
「……なら何故君はそんな危険物を引っこ抜いてるんだ」
「ああ、魔法の調合とか色々使えそうだからな。使えなくても希少種だし、それにもし誰かが間違えて持って行って人里で色んな人間に食わしたりしたら大変だろ?」
確かに他に被害が出ないように自分で保管する、という点においては一理あるがこんな禍々しいキノコをキノコとして見る人間がいるのかはいささか疑問だ。
「…………おっ?」
などと思っていたら自分の足元に1本だけ生えているキノコを見つけた。
色は全体的に白く、シメジが一回り大きくなったような姿をしている。
「なんだか可愛らしいな」
数本生えていると気持ち悪いが1本だけ生えているというのが良い。
魔理沙に確認だけしてもらい家で育ててみようかな。
「なぁ、魔理沙」
「なんだ」
「これはなんだ?」
「ドクツルタケだな」
前言撤回。
なんだドクツルタケって。もう名前からしてアウトじゃないか。
僕の能力も常に発動しているわけではないので油断しているとホントに危険だな。
「コイツは通称「死の天使」って言ってな、世界最強クラスの毒もってるぜ」
「なにこの森。こわい」
なんだ死の天使って。どこのドイツ医師だ。
「コイツも回収っと。しかし凄いな香霖。カエンタケもドクツルタケも普通会いたくても会えないぐらいレアなんだぞ」
「いや、会いたくないよこんな危険なキノコ」
地味な色してるから大丈夫だと思ったらこれだ。
「よく「このキノコ地味な色だから大丈夫だろ」って聞くけどその発想が一番怖いな」
「!?……そ、そうか」
「ああ。実際派手な毒キノコなんて私だって3,4種類しか知らないし」
魔理沙でもそれだけなのか。もう拾い食いとか絶対出来ないなキノコ……。
「うお!“ドクササコ”ktkr!!」
「そうかそうか。で、今度は何だ?笹みたいな形した致死毒持ちか?」
「いや、いかにもな名前がついてるがコイツは喰っても死なないぜ」
ほう。毒と名前がついてるキノコは全て危険だと思っていた。
最強クラスの毒キノコが立て続けに出てきたせいで忘れていたがちゃんと軽い毒性のものも在るんだよな。
「ちなみにコレはどれくらい毒を持っているんだい?」
「死んだ方がマシだと思うくらいの激痛がするキノコだな」
聞くんじゃなかった。
「約1ヶ月間火箸を手足に当てられたような感覚が続くんだと。ちなみにドクササコの毒で死ぬことはないが激痛によるショック死とか痛みに耐え切れず自殺とかっていうのも含めてなら「喰ったら死ぬキノコ」に入るぜ?」
聞いてないよ。
「それにしても凄いな香霖。お前は毒キノコを引き寄せる能力を持ってるみたいだ。よう毒男」
「別にうまくない。そしてドヤ顔するんじゃない」
しかし、実際僕が毒キノコに好かれているという事実は否定できない。
魔理沙曰く今まで見つけた3種類のキノコは全て希少種だというらしいし。
「なんていらない才能なんだ……」
もっとレアな道具を見つける能力とか――あ、テングタケ見つけた。
僕でも知ってるくらい有名な毒キノコである。
「こんな森で大丈夫か?」
「大丈夫だろ。妖怪なんか殺しても死なないような生物だし。それにこの三つより怖い毒キノコなんか世界中探してもそうそうないからな。とりあえず香霖もこれ以上ビビることもないだろ」
このときの僕等は知るよしもなかった――
「まぁ……それはそうだが……」
死を運ぶキノコ、死よりも恐ろしいキノコを超越した究極のキノコの存在を――
「……うん、大分採れたな」
帽子の中にパンパンに詰まったキノコの山を見ながら魔理沙が呟く。
「ちゃんと全部食べられるキノコなんだろうね?」
「ああ、大丈夫なはずだぜ。気になるんなら喰うときに味を教えてくれれば大体分かるしな」
「そうか。味で判断でき――『うわあああああ!!松茸ええええええええええええええええ!!』
遠くで誰かが発狂しているようだが聞かなかったことにした。
魔理沙も耳を塞いでいる。
つまりはそういうことだ。
「よし、んじゃあ私はこっち探すから香霖はそっちな」
「え。結局別々でやるのかい?」
「だってお前といると毒キノコしか見つからないだろ。あ、毒キノコでも採っておいてくれよ。私が使うから」
見たところ袋は持っていないように見えるが採ったキノコは何処にしまうつもりだろうか。
などと思っていたらカエンタケ本日2本目を足元に発見した。
「まぁコイツはさっき採ってたしいいか……」
それから10分間グルグルと歩き回っていたがドクツルタケやテングタケを何本も見かけた。
この辺りは通ったことがないので知らなかったが、比較的にキノコが生えやすいらしい。
しかし困った。
何とかなるだろうと思って何も考えずに森を歩いていたら迷子なう、な状況になっていた。
「……まぁいざとなったら魔理沙と霊夢が空から見つけてくれるか」
森に迷った時点でどう動こうが迷っていることには変わらない。
体力を消費してでも歩き回って見覚えるのある道を探す方が効率が――
『うぼぁああああああああああああああ!!!』
「魔……理沙!!?」
愛していた息子に裏切られて殺された妖怪のような魔理沙の悲鳴が耳をつんざく。
距離はそう遠くない。場所も声の位置から大体分かった。
声の聞こえた方向だけを頼りに道なき道を走ること30秒――
「うおっ、気持ち悪っ!」
目から血涙、耳から出血、そして鼻血を垂らしながら地面に倒れている魔理沙が視界に入ってきた。
「こ、こ……うり……ん……」
「あぁ魔理沙。屍人ごっこは夜にやれとあれほど……」
「ち…が……あ…れ……」
魔理沙が力なく腕を空にかざすと、右方向に指を向けた。
丁度僕が来た方向の反対側である。
「アレ?」
魔理沙の指差した方向に向かって慎重に歩く。
“アレ”はすぐに見つかった。
「…………………………………………………………ふぅ。」
なるほど。確かにこれは“年頃の女の子”からすれば血涙するぐらいの衝撃だろう。
僕も2秒ほど言葉が喉から出てこなかった。いや、心臓すら止まっていたかもしれない。
それほどにこの光景は危険すぎる。
『魔理沙!?ちょ、アンタどうしたの!!』
「(霊夢……っ!?)」
遅れて魔理沙の元に飛んできた霊夢の声が聞こえてきた。
『え?そっち?』
まずい、非常にまずい!
「霊夢っ!!絶対来るなぁぁああ!!!」
いい案が浮かばず咄嗟に出た言葉は、今までの人生で最も大きな声だった。
『り、霖之助さん!?――ッ!まってて!!今行くから!!!』
今まで聞いたことのない僕の絶叫が逆効果だったようだ。
珍しく真剣な声で返すと、もの凄い勢いで何かが視界を横切り――
「うぼぁああああああああああああああ!!!」
今度は霊夢の絶叫が鼓膜を揺さぶった。
魔理沙と同じく顔中から出血しながらフラフラと歩き、僕を素通りする。
何処に行く気だろうかと思ったら魔理沙のすぐ側に崩れ落ちると、そのまま動かなくなった。
なるほど、だから少し離れた場所で倒れていたのか。
「どうするかなぁ……一応帰り道は分かりそうだが……」
七孔噴血した少女2人と――
視界一面、地面から“大量に突き出た男性器”を眺めながら深く溜息を吐いた。
「おぉ!バカマツタケうまっ!!」
「あ、ちょ!ばか!それ私が採った奴なのに!!」
「いいだろ別に。10本もあるんだから」
「いいわけないでしょ!!」
あの後、なんとか霊夢と魔理沙を担ぎ店に戻った。
2人の意識が覚醒した時、驚くべきことに霊夢も魔理沙もあの光景の記憶だけは忘れていたようだ。
恐らくそれだけのショックを受けたからだろうが、何はともあれ良かった。
今では普通に2人仲良く外でキノコ焼いて食べているし、中途半端に記憶が残っても可哀そうだ。
魔理沙が拾っていた毒キノコは全部放棄し――念のためあの一帯に広がっていた男性器もどきもほぼ全て排除して地面に埋めておいた。
つまり、いま魔理沙の帽子の中に詰まっているキノコは全て食用である。
一時はどうなることかと思ったが、たまにはこういう出来事もいい刺激になるかもしれない。
二度と起こってほしくはないが。
「あれ?魔理沙。これも喰えるの?なんかちょっと色が濃いんだけど」
「ん、どれどれ……って先端だけじゃ見えないって。引っ張りだしてくれないと」
「はいはい。今見せ――」
そういえばアレ……『タケリタケ』とやらが何なのか紫に確認してもらうために1本だけ持って帰ってきたのだが……
はて、どこに入れておいただろうか。
「「うぼぁあああああああああああ!!!」」
タケリタケ……正確にはキノコではなくキノコにカビが寄生しておかしくなったモノ。個体によっては非常に色もソレに似ている。が、大量発生することは極めて稀である。また名前の由来はなんの捻りもなく『男性が猛っている姿を連想する』からである。
完。
僕の名は森近霖之助。魔法の森の入口にある古道具屋の店主をやっている。
「まぁ時期が時期だしな。もうちょい歩けばあるって」
「なんかもう鳥だけ捕まえた方がよくない?私昨日から水しか飲んでないんだけど」
隣を歩くのは霊夢と魔理沙。
僕達は現在、3人で魔法の森にきのこ狩りに来ていた。
「大体、きのこ狩りだけなら魔理沙だけでいいでしょ?私が鳥捕まえてくるからさぁ」
どれだけ鳥食べたいんだよ、と突っ込みたくなったがなにやら不機嫌そうなのでやめておくことにした。
「そういうなよ霊夢。親交を深めるためにって言ったろ?それにマツタケが摂れたらお前の飯は明日から一汁三菜だぞ」
「うぅ……仕方ないわねぇ……」
こういう時は魔理沙がいてくれて本当に助かったと思う。
年頃の女の子の気持ちは僕にはよく分からないからな。年頃の女の子は金目当てで松茸なんか採らないけど。
あと、松茸の収穫時期は最低でも後1ヶ月は先だが空気の読めない発言はしない主義なので言わないことにした。
「しかし、確かに3人が同じように移動してたら効率は悪いかもね」
「そうね……じゃあ私は松茸を重点的に狙って探すから魔理沙と霖之助さんは食用の奴いっぱい摂ってきてね」
まぁ松茸は不可能だが、空気を読んで言わない。
「美味そうなキノコ見つけたからって喰うなよ霊夢。下手すりゃ死ぬからな」
「わかってるわよ。じゃあ2時間後くらいに霖之助さんのお店でね」
それだけ言うと、すぐさま低空飛行でどこか遠くへ消えていってしまった。
相変わらず食か金が絡むと凄い行動力である。
「……さて、じゃあこっちはこっちで探すとするか魔理沙」
「ああ。霊夢のことだからそのうち松茸諦めて鳥でも捕ってくるだろうしな」
空腹すぎて毒キノコを拾い食いしないかだけが不安だが……まぁ大丈夫だ。
彼女は神様に愛されてるから拾い食いしたとしても普通に食用だろう。
仮に毒キノコを拾ったとしても幻覚症状とか腹痛とか毒性の弱いものになるはずだ。
「お、おお!おいこっち来いよ香霖!!すげぇもん見つけたぞ!!」
そんな僕の心配を他所に魔理沙は珍しいキノコでも見つけたのか、テンションをあげていた。
魔理沙の指差す場所に視線を移すと、それはおおよそキノコとは言い難いものだった。
「これは……サンゴか?」
魔理沙のはしゃぎっぷりから松茸でも生えてたかと思ったが全く違った。
真っ赤に染まった木の枝ような姿……どうみても文献で見たサンゴだ。
「んなわけないだろ。コイツは立派なキノコだよ」
「このなりでキノコなのか。美味いのかい?」
「試したらどうだ?運がよければ全治10年で済むかもしれないぜ、半妖だし」
つまり毒キノコということか。
「コイツはカエンタケ。人間だったら一口食った時点で死ぬな。妖怪でも1年は後遺症が残るくらいヤバい奴だな」
危ないわ。何が危ないってそんなキノコが近所に生えてるという事実が危なすぎる。
「なんせ戦争でも使われたって話もあるくらい……おっと、触るなよ。汁に触れたら皮膚がただれるからな」
「……なら何故君はそんな危険物を引っこ抜いてるんだ」
「ああ、魔法の調合とか色々使えそうだからな。使えなくても希少種だし、それにもし誰かが間違えて持って行って人里で色んな人間に食わしたりしたら大変だろ?」
確かに他に被害が出ないように自分で保管する、という点においては一理あるがこんな禍々しいキノコをキノコとして見る人間がいるのかはいささか疑問だ。
「…………おっ?」
などと思っていたら自分の足元に1本だけ生えているキノコを見つけた。
色は全体的に白く、シメジが一回り大きくなったような姿をしている。
「なんだか可愛らしいな」
数本生えていると気持ち悪いが1本だけ生えているというのが良い。
魔理沙に確認だけしてもらい家で育ててみようかな。
「なぁ、魔理沙」
「なんだ」
「これはなんだ?」
「ドクツルタケだな」
前言撤回。
なんだドクツルタケって。もう名前からしてアウトじゃないか。
僕の能力も常に発動しているわけではないので油断しているとホントに危険だな。
「コイツは通称「死の天使」って言ってな、世界最強クラスの毒もってるぜ」
「なにこの森。こわい」
なんだ死の天使って。どこのドイツ医師だ。
「コイツも回収っと。しかし凄いな香霖。カエンタケもドクツルタケも普通会いたくても会えないぐらいレアなんだぞ」
「いや、会いたくないよこんな危険なキノコ」
地味な色してるから大丈夫だと思ったらこれだ。
「よく「このキノコ地味な色だから大丈夫だろ」って聞くけどその発想が一番怖いな」
「!?……そ、そうか」
「ああ。実際派手な毒キノコなんて私だって3,4種類しか知らないし」
魔理沙でもそれだけなのか。もう拾い食いとか絶対出来ないなキノコ……。
「うお!“ドクササコ”ktkr!!」
「そうかそうか。で、今度は何だ?笹みたいな形した致死毒持ちか?」
「いや、いかにもな名前がついてるがコイツは喰っても死なないぜ」
ほう。毒と名前がついてるキノコは全て危険だと思っていた。
最強クラスの毒キノコが立て続けに出てきたせいで忘れていたがちゃんと軽い毒性のものも在るんだよな。
「ちなみにコレはどれくらい毒を持っているんだい?」
「死んだ方がマシだと思うくらいの激痛がするキノコだな」
聞くんじゃなかった。
「約1ヶ月間火箸を手足に当てられたような感覚が続くんだと。ちなみにドクササコの毒で死ぬことはないが激痛によるショック死とか痛みに耐え切れず自殺とかっていうのも含めてなら「喰ったら死ぬキノコ」に入るぜ?」
聞いてないよ。
「それにしても凄いな香霖。お前は毒キノコを引き寄せる能力を持ってるみたいだ。よう毒男」
「別にうまくない。そしてドヤ顔するんじゃない」
しかし、実際僕が毒キノコに好かれているという事実は否定できない。
魔理沙曰く今まで見つけた3種類のキノコは全て希少種だというらしいし。
「なんていらない才能なんだ……」
もっとレアな道具を見つける能力とか――あ、テングタケ見つけた。
僕でも知ってるくらい有名な毒キノコである。
「こんな森で大丈夫か?」
「大丈夫だろ。妖怪なんか殺しても死なないような生物だし。それにこの三つより怖い毒キノコなんか世界中探してもそうそうないからな。とりあえず香霖もこれ以上ビビることもないだろ」
このときの僕等は知るよしもなかった――
「まぁ……それはそうだが……」
死を運ぶキノコ、死よりも恐ろしいキノコを超越した究極のキノコの存在を――
「……うん、大分採れたな」
帽子の中にパンパンに詰まったキノコの山を見ながら魔理沙が呟く。
「ちゃんと全部食べられるキノコなんだろうね?」
「ああ、大丈夫なはずだぜ。気になるんなら喰うときに味を教えてくれれば大体分かるしな」
「そうか。味で判断でき――『うわあああああ!!松茸ええええええええええええええええ!!』
遠くで誰かが発狂しているようだが聞かなかったことにした。
魔理沙も耳を塞いでいる。
つまりはそういうことだ。
「よし、んじゃあ私はこっち探すから香霖はそっちな」
「え。結局別々でやるのかい?」
「だってお前といると毒キノコしか見つからないだろ。あ、毒キノコでも採っておいてくれよ。私が使うから」
見たところ袋は持っていないように見えるが採ったキノコは何処にしまうつもりだろうか。
などと思っていたらカエンタケ本日2本目を足元に発見した。
「まぁコイツはさっき採ってたしいいか……」
それから10分間グルグルと歩き回っていたがドクツルタケやテングタケを何本も見かけた。
この辺りは通ったことがないので知らなかったが、比較的にキノコが生えやすいらしい。
しかし困った。
何とかなるだろうと思って何も考えずに森を歩いていたら迷子なう、な状況になっていた。
「……まぁいざとなったら魔理沙と霊夢が空から見つけてくれるか」
森に迷った時点でどう動こうが迷っていることには変わらない。
体力を消費してでも歩き回って見覚えるのある道を探す方が効率が――
『うぼぁああああああああああああああ!!!』
「魔……理沙!!?」
愛していた息子に裏切られて殺された妖怪のような魔理沙の悲鳴が耳をつんざく。
距離はそう遠くない。場所も声の位置から大体分かった。
声の聞こえた方向だけを頼りに道なき道を走ること30秒――
「うおっ、気持ち悪っ!」
目から血涙、耳から出血、そして鼻血を垂らしながら地面に倒れている魔理沙が視界に入ってきた。
「こ、こ……うり……ん……」
「あぁ魔理沙。屍人ごっこは夜にやれとあれほど……」
「ち…が……あ…れ……」
魔理沙が力なく腕を空にかざすと、右方向に指を向けた。
丁度僕が来た方向の反対側である。
「アレ?」
魔理沙の指差した方向に向かって慎重に歩く。
“アレ”はすぐに見つかった。
「…………………………………………………………ふぅ。」
なるほど。確かにこれは“年頃の女の子”からすれば血涙するぐらいの衝撃だろう。
僕も2秒ほど言葉が喉から出てこなかった。いや、心臓すら止まっていたかもしれない。
それほどにこの光景は危険すぎる。
『魔理沙!?ちょ、アンタどうしたの!!』
「(霊夢……っ!?)」
遅れて魔理沙の元に飛んできた霊夢の声が聞こえてきた。
『え?そっち?』
まずい、非常にまずい!
「霊夢っ!!絶対来るなぁぁああ!!!」
いい案が浮かばず咄嗟に出た言葉は、今までの人生で最も大きな声だった。
『り、霖之助さん!?――ッ!まってて!!今行くから!!!』
今まで聞いたことのない僕の絶叫が逆効果だったようだ。
珍しく真剣な声で返すと、もの凄い勢いで何かが視界を横切り――
「うぼぁああああああああああああああ!!!」
今度は霊夢の絶叫が鼓膜を揺さぶった。
魔理沙と同じく顔中から出血しながらフラフラと歩き、僕を素通りする。
何処に行く気だろうかと思ったら魔理沙のすぐ側に崩れ落ちると、そのまま動かなくなった。
なるほど、だから少し離れた場所で倒れていたのか。
「どうするかなぁ……一応帰り道は分かりそうだが……」
七孔噴血した少女2人と――
視界一面、地面から“大量に突き出た男性器”を眺めながら深く溜息を吐いた。
「おぉ!バカマツタケうまっ!!」
「あ、ちょ!ばか!それ私が採った奴なのに!!」
「いいだろ別に。10本もあるんだから」
「いいわけないでしょ!!」
あの後、なんとか霊夢と魔理沙を担ぎ店に戻った。
2人の意識が覚醒した時、驚くべきことに霊夢も魔理沙もあの光景の記憶だけは忘れていたようだ。
恐らくそれだけのショックを受けたからだろうが、何はともあれ良かった。
今では普通に2人仲良く外でキノコ焼いて食べているし、中途半端に記憶が残っても可哀そうだ。
魔理沙が拾っていた毒キノコは全部放棄し――念のためあの一帯に広がっていた男性器もどきもほぼ全て排除して地面に埋めておいた。
つまり、いま魔理沙の帽子の中に詰まっているキノコは全て食用である。
一時はどうなることかと思ったが、たまにはこういう出来事もいい刺激になるかもしれない。
二度と起こってほしくはないが。
「あれ?魔理沙。これも喰えるの?なんかちょっと色が濃いんだけど」
「ん、どれどれ……って先端だけじゃ見えないって。引っ張りだしてくれないと」
「はいはい。今見せ――」
そういえばアレ……『タケリタケ』とやらが何なのか紫に確認してもらうために1本だけ持って帰ってきたのだが……
はて、どこに入れておいただろうか。
「「うぼぁあああああああああああ!!!」」
タケリタケ……正確にはキノコではなくキノコにカビが寄生しておかしくなったモノ。個体によっては非常に色もソレに似ている。が、大量発生することは極めて稀である。また名前の由来はなんの捻りもなく『男性が猛っている姿を連想する』からである。
完。
そりゃあ叫びたくもなるわw
おいやめろ
でもタケリタケの実在に本気で感心させられたので100点で。
何で霖之助が出るSSはいらん知識が増えるんだろう
ってか、霊夢と魔理沙の少女らしさを通り過ぎたリアクションにワラタ
元からキノコ嫌いな俺に死角はなかった。なんだよ菌類食うなんて信じらんねぇ
って、ホントにあるんかいww