博麗神社の乗っ取りに失敗してから三年が過ぎた。その間地上の者達と交遊を深めながら全くそんなそぶりを見せなかったものの、比那名居天子は未だそれを諦めてはいなかった。
極秘裏に計画を練り、虎視眈々とその機会を窺っていたのだ。そしてついにその時は訪れた。自宅の倉庫に忍び込んで『アレ』を持ち出し、一路博麗神社へと向かった。
「あら天子、久しぶりじゃない。素敵な賽銭箱はそこよ」
「霊夢、今日は大事な話があって来たの」
「そこの賽銭箱にお金を入れたら聞いてあげてもいいわよ」
普通なら少しイラッとする台詞だが、この日の天子にとっては逆に好都合だった。ものすごいドヤ顔をしながらもって来たジュラルミンケースを開ける。
「お賽銭なんて端金はどうでもいいわ。このお金で、博麗神社を私に売ってちょうだい!」
ケースの中には霊夢が見たことも無い、おおよそ一生遊んで暮らしても使えないような札束の山が入っていた。
「もちろん売るわ」
霊夢は少しも考えずに即答した。天子が考えに考えて練り出した直接現金で買い取るというこれ以上ないストレートな作戦は、こうして大成功を収めた。霊夢はその日のうちに天子自身を地鎮の神として祀り、地中の要石を御神体にした。さらに博麗神社から比那名居神社へと改名することによって、神社は名実共に天子のものになった。霊夢には買取費用とは別に月給を払い、そのまま巫女として居てもらう契約を交わした。
その翌日前回以上に殺意を醸し出した八雲紫が天子の成敗にやって来たが、それは天子も想定の範囲内だった。先憂後楽の剣セット→伊吹瓢使用→地上固め→先憂後楽の剣発動→全人類の緋想天という絵に描いた餅のようなコンボを炸裂させ、瞬殺KOしてしまった。
これで天子の邪魔をするものはもう誰もいない。神社にずっと居座り、地上での生活を謳歌する…はずだった。
「暇ねぇ…」
「まあ、いつも通りだけどね」
「何か私が来てから更に暇になってない?」
博麗神社が比那名居神社になってすぐの頃、事情を知らずにやって来た人妖達は神社が天子のものになったと聞くと、そのまま寄り付かなくなるものばかりだった。
「まあ自分の人望の無さを思い知るがいいわ」
「ぐっ…」
こう言われてはぐうの音も出ない。否定しようにもそれを打ち破る材料を持ち合わせてはいないのだ。
「じゃあ、人が来るようにすればいいのよ」
「はぁ、まああんたの神社だから好きにすればいいわ」
「ええ、そうさせてもらいますとも。ちょうど妖怪が来なくなった今がチャンスよ。まずは人里に進出するわ」
翌日、天子は人里でビラを配っていた。ビラには神社が宗旨替えして地鎮のご利益があること、天子自身が神であること、もう神社に妖怪は来ないこと、そしてオープニングイベントとして天女による歌と踊りのコンサートが催されることが書いてあった。
天子配下の天女が行ったこのコンサートはかつてない人間の観客を集め、神社は人間の信仰を集めることができた。
「まだまだ、次行くわよ。こういうのは客を飽きさせないのが大事なんだから」
「はいはい。せいぜい頑張りなさいな」
その後も天子は矢継ぎ早にイベントを催しては観衆を集めた。最初は歌や踊りが中心だった内容は段々と過激になっていき、それに伴い妖怪も少しずつ顔を見せるようになった。それに対応すべく霊夢が人間と妖怪を分断する結界を作ったおかげで両者が共存することができた。
特に人妖男女問わず人気を集めたイベントは、永江衣玖による女体盛、永江衣玖による水中ポールダンス、永江衣玖によるバナナ三本食い、永江衣玖によるセクシーコスプレ撮影会であった。
順風満帆かのように見えた比那名居神社だが、登り坂はいつか下りに変わるもの。何者かのタレコミにより天子の親に娘の地上での傍若無人ぶりが発覚し、しばしば持ち出していた家の財産を引き揚げられた。これにより資金繰りができなくなりイベントの開催が困難になる。更には時を同じくして各イベントの中心的役割を果たしていた永江衣玖が失踪。追い討ちをかけるように天子がたまたま負った傷から流れた血液の混入したお茶が原因で、妖怪達の集団食中毒を引き起こしてしまう。
こうして神社を訪れるものは誰もいなくなった。残されたのは天子と霊夢と神社だけ。
以前の賑わいは何処へやら、すっかり寂れて天子と霊夢以外人気の無くなった神社の縁側で、二人並んで茶を飲んでいる。
「ねえ霊夢…」
「どうしたのよ、今にも死にそうな顔して」
うつむきながら泣きそうな声で天子は言う。
「ごめんなさい…今月分のお給料、払えそうにないの…」
「何だ、そんなこと」
天子の予想とは逆に、ふっと霊夢は表情を柔らかくした。
「別にいいわよ。今まで貰った分がまだ結構残ってるから」
「でも…結局私に神社売ったお金も食中毒の補償金に全部充ててもらったし…霊夢にすごく申し訳ないよ…」
「あんたでも申し訳ないとか思ったりするのね。これは新しい発見だわ」
そう言って笑った後でお茶をすすった。
「ねえ、もうお給料払えなくなったら、霊夢は何処か行っちゃうの?」
「行かないわよ」
天子の顔をしっかりと見つめながら霊夢は答えた。
「だって私の居場所はここだもの。何処にも行くわけがないわ。ま、実際博麗の巫女としての役目もあるし、それに」
顔を至近距離まで近づけ、両手を天子の両頬に当てて微笑む。
「あんたのこと、なんかほっとけないしね」
この一言で天子は少しパニックを起こし、
「で、でも霊夢はお金が一番大事なんじゃ」
と口走る。それを見た霊夢はケラケラと笑った。
「まあ最初は欲に目が眩んだのは否定しないわよ。でも別に生活に困ってるわけじゃなかったし、死なない程度に食べていければいいわ。それより私としてはそれからいろんなことがあって楽しかったし。一人じゃ絶対できない経験もさせてもらったわ。そういう意味では天子に感謝してるのよ」
天子の顔が真っ赤に染まる。実のところ天子はここ数日、神社運営の失敗について酷く思い悩んでいた。こんな精神状態では天人五衰を発症するかもと思うと、更に不安に感じて胸が引き裂かれる思いだった。
それが霊夢の言葉で随分楽になった気がした。思えば今まで天子が何をしようとも、面倒臭がりこそすれ結局は全面的に力になってくれた。それは雇用契約があったから、ひいては金のためだと天子は思っていたのだが、その考えはたった今霊夢本人が否定した。
「私こそ今までありがとう…霊夢」
「お、ようやく気付いたのね」
「ごめん…」
「冗談よ」
「霊夢…」
天子の目から涙が一粒こぼれ落ちた。霊夢は何も言わずにそれを指で掬い取る。
「霊夢、私思い出したの」
「何を?」
「私がこの神社を欲しかった理由……誰かが異変を起こして、そして貴方が解決して、最後はみんなで宴会して終わって…。中心にはいつも霊夢がいて、誰からも好かれてた。いつか私は霊夢のことだけ見るようになってたの。だから神社ごと貴方を私のものにしようとして…でも私が本当に欲しかったのは、神社じゃなくて霊夢だったの」
天子の告白を聞いた霊夢は思わず胸の中に彼女を抱きしめた。
「じゃあ願いがかなってよかったじゃないの」
「霊夢、それって…」
天子は霊夢の腕にいっそう力が入るのを感じた。天子も負けずに霊夢の背中に腕を回す。
「ええ、貴方のものになってあげるわ。ずっと一緒にいるから心配しないで」
夢が叶えられたその瞬間。天子の感情が涙と言葉になって溢れ出す。
「霊夢っ!霊夢…!何処にも行っちゃやだよ。私も何もなくても霊夢さえ一緒にいてくれればそれでいいの…だから…だから…うわぁぁあん!」
「ふふ、見かけによらず長生きしてる癖にこうなると子供みたいなんだから」
そう言いながらもまるで母親のように優しい霊夢の声が天子の心に沁み渡る。霊夢は天子の頭に手を当て何度も何度も優しく撫でた。
「霊夢、大好きだよ…」
「ええ、私もよ、天子」
霊夢のニュートラルっぷりが特に印象的で格好良かったです。
衣玖さんが少し気の毒でしたが……。
てんこちゃん可愛いスなぁ…買収の金をどこで都合してきたのやらw
天子ちゃん大勝利!こういうストレートに誰かが幸せになるの良いですね
良い話を読めた
ゆかいくちゅっちゅ
綺麗にまとまっていてよかったです。
イイハナシガカケテヨカッター
>4様
自分では簡潔にしすぎたかと思ってましたが読み返すと丁度よかったかなと。
霊夢はイメージ通りに書けてよかったかなと。
>8様
立場的に衣玖さんは泣き寝入りするしかないのです。
天界ではお金使わないけどなぜか無尽蔵にあるような。
きっと御仏の御加護ですね。
>9様
すごく励みになりますです。
>11様
衣玖さんの肢体を目のあたりにしたのですね。
>13様
今後の作風にかなり影響を及ぼしそうです。
>15様
後は親に詫びを入れたらオールオッケーですね。
>16様
私もきっと時間の許す限り通いつめます。
>19様、31様、33様、43様
私的にゆかいくは絵面が百合というよりレズという言葉の似合う生々しいイメージですね。
それメインでは書かないと思いますが何らかの形で出してみたいです。
>17様
ほんのちょっとしか出てないのにかなり衣玖さんが持って行ってしまいました。
>20様
幻想郷にはろくな娯楽がないですからねぇ。
>21様
地震を伝えに行った先で「女体盛りの人だ!」とか言われた日にゃもう…。
>30様
良作だなんて嬉しすぎます。しっかり練った長編もそのうち。