「スペルカードルール以前の幻想郷はあまり知らないのだけれど、他の妖怪が言うにはこのルールができてから人里での行動がより楽になったて言ってるわね」
無秩序に人を襲う妖怪と幻想郷のルールを護る妖怪の差がいまいち分からなかった時代は、妖怪向けの店があるがあまり長居する空気ではなかったらしい。
このルールが導入されてから、妖怪と人の決闘も美しいものとなり街はずれで起きる喧嘩も華となった。
「へぇ。じゃあ最初にスペルカードルールを使って異変を起こしたレミリアさんは偉大な功績ってことですね」
「あ、うん。そうね! 私のお陰ね!」
自慢話するつもりじゃなかったので、不意に褒められて少しばかり反応に遅れてしまったわ。
自慢というのは認められたい相手より上に見られたいからするのであって、互いに認め合ってる友には余りするものではない。
たまには凄いことできたときはしたくなるけれどね。
「でも誰のお陰というのはこのさいいいわ。私はこうして友と歩ける世界が広がるだけでありがたい。もう1人の親友はどうにも出不精でね。白黒とか七色に期待するしかなさそうだわ」
「アリスさんもどちらかと言うとインドア派ですから、魔理沙さんしか可能性はなさそうですね。小悪魔さんもインドア派ですし」
たしかに魔理沙は図書館にも遊びに行くが外には咲夜と行くほうが多いわね。パチェと親友になれそうなアリスは一緒に本を読んでいる。
あぁこりゃ当分我が家のアウトドア派は美鈴とフランぐらいね。
「たく、吸血鬼のほうが出歩く世の中って可笑しい話よ」
「その吸血鬼が十字架も日光も苦手程度て言うのも驚きましたけどね」
普段のピンクの帽子ではなく、咲夜に見立ててもらった白い帽子を被り白いワンピースを着て私は日の下を歩いている。日傘が無いとはいえ、別に灰になるわけじゃない。
せいぜい夜の力から見れば閉店セール70%オフ程度ね。
「にんにく料理も問題ないわ。咲夜が来る前は美鈴の料理も食べていたし今でも時々は食べるわ。今度早苗も食べてみるといいわよ」
咲夜に匹敵するぐらいに美鈴もセンスがいい。弱点は咲夜に比べてレパートリーが負ける程度だ。
あと難点は今日の服装は魔理沙と出かけた咲夜の代わりに見立ててくれたのだが、少しばかり少女趣味があるってところだ。
自分は大きくて着れないのでお嬢様方に是非! と、お願いされては断りにくい。
清楚なイメージがある服装ではあるが、白い帽子とワンピースを着て昼の街を歩くとか物語のお嬢様もいいところよ。
「そうですね。咲夜さんだけではなく、美鈴さんにも料理を教えてもらえそうです」
「あー咲夜以上に直感派な作り方するから説明されても分かりにくいかもよ。 醤油も瓶ごとなべに入れて親指でタイミング合わせるぐらいだいし」
豪快で適当に見てるのに食べてみれば相変わらず美味しいのが不思議なぐらい。
咲夜は成功したときはすぐにレシピを作って本の形にするので、他の妖精メイドでもその本さえ見れば似たような味に作れる。
個性的な家族だわ。
「おや、早苗ちゃんじゃないかい。今日は神社のお仕事はお休みかい?」
街を歩いていると早苗は時々声をかけられる。
霊夢と違い里のほうでも活動している早苗はすぐに覚えてもらえるのだろう。
基本的に妖怪の山は人間は立ち入り禁止ではあるが、参道だけは特別に通してもらえる。その際に天狗がいればより安全な護衛をしてくれる優遇っぷり。
……博麗神社が結界を護る場所じゃなかったら潰れてるわね。
「そうですよー。でも、困ったこととかあれば仕事中や休み関係なく言ってくださいね」
「ははは。最近は平穏だし大丈夫だよ。それで隣のお嬢さんは友達かい? 翼を見たところ妖怪ぽいけれど天狗じゃなさそうだね」
「レミリア・スカーレットよ。八百屋の女将。咲夜がお世話になってるみたいだし今後ともいい材料を仕入れるといいわ」
「あぁ。あのメイドさんところのご主人様かい。紅魔異変のときは困ったが、スペルカードルールのお陰で天狗の新聞も面白くなったし、街の者は紅魔館のことを皆知ってますよ」
やはり少しばかりスペルカードルールで最初に異変を起こしたことは、今後の自慢話に使ってもいい気がするわね。
「今も若いけど若気の至りよ。今度異変を起こすときは里には迷惑をかけない程度に巫女を困らせるとするわ」
「おや、妖怪にしては珍しい」
「ふふ、里の食事も美味しいから不作なんて許せないだけだわ。異変が怖かったら力を合わせて紅魔館の舌を満足させ続けることね」
「なんていうか、変な脅し文句ですよ」
自分でもそう思うが女将が笑ってくれるならそれでいいわ。
それに里の食事が無ければ咲夜と早苗が困るもの。
「それじゃまた買い物にきますねー!」
早苗と私は八百屋の女将に別れを告げ里の散歩を続ける。
他の場所でも声をかけられるが、妖怪の友人は霊夢や魔理沙の例もあってそれほど珍しいものじゃないらしい。
ただ紅魔の主ってところが珍しいポイントではあるそうだけれども。
「しかし里では私より咲夜のほうが名前が知れているのは少しばかり複雑ね。もう少し出入りしておこうかしら」
知名度として主が従者に負けるというのは少しばかり納得いかない。
「夜にでも妖怪向けの店があるみたいですよ。そちらの方ならレミリアさんの強さもあって知名度はあるんじゃないでしょうか?」
香霖堂以外に特に用事はなかったけれど、名を売るためには少しばかり考えてもいいわね。
紅魔異変第2弾とかしても、私の名が無ければ咲夜に迷惑かけて霊夢と魔理沙が殴りこんできて終わるだけになってしまう。
偉大なる悪役はその名前も大事よね。
「なんとなく考えていることは分かりますが、地域密着の悪役ってその実、主人公よりもいい人で町内会の頼れる人になってしまいますよ? 性格的にも霊夢さんがヒーローとは言いにくいですし」
「くっ! 幻想郷には正統派ヒーローはいないの! こそ泥とやる気のない巫女じゃあ話にならないわ」
「じゃあ私ヒーローしますね!」
「早苗相手だとただのヒーローごっこじゃない」
「合体攻撃がいまだ思いつかない今、かつての親友と戦う正義のヒロイン。そしてその前に立ちふさがる親友。なんて、展開がいいじゃないですか。その後の異変で私がピンチになるので正義の心を取り戻した役で助けに来てくれれば盛り上がりますよ」
そうか。私の次に異変を起こす奴は貧乏くじになるわけね。
「吸血鬼の悪魔が正義の心というのも可笑しな話だとは思わない?」
「どこかの大魔王も主人公の息子と心を通わせて凄くいい人になってますよ」
M字ハゲもいい奴で蘇生してたわね。
「分かったわよ。気が向いたらまた紅魔異変でも起こしてあげるわ。同じだと面白くないから、あの吸血鬼レミリアが復活したとか天狗に記事を書かせて悪のカリスマ最大級でね」
我ながらアニメとかに毒されたかしてこういう展開が好きになってるわね。
問題は咲夜とパチェが付き合ってくれるかよねぇ。前の異変も外を楽に出歩きたいなんて小さい目的だったわけだし。今度はそれっぽく言わないと適当にしてくださいとか言われるわ。
「で、悪役って何すればいいのかしらねえ」
「う~ん。じゃあレミリアさんの理想の悪役を見つけるために今からアニメ鑑賞ですね!」
あ、やっぱそうなるのね。
最近では早苗と図書館にまだまだあるアニメを選別して、文の新聞にコラムを書いているけど見るペースのほうが多いわ。
紅魔館の一室を貸し出して鑑賞会をしているけれど、知名度を上げるためにも里に持って着ての鑑賞会も悪くないわね。
パチェと慧音に相談して子供たちに見せてあげましょう。
そして私が最高の悪役として幻想郷と言う部隊を大いに盛り上げたら最高のショーよね。
紅魔館の名を広めるにはよさそうだし相談してみましょう。
「いいわね」
「あ、それと悪役が希望らしいので素敵なボンテージ衣装を用意しておきますね! あぁ幼い体にボンテージ。美味しそうです」
おい。駄メイドが増えたぞ。
どうやらこの肉体で成長が止まったのは失敗らしいわね。
親友が新たな性癖に目覚めないよう私は理想の悪役を考えるのであった。
>ボンテージ
正義は滅びたのであった。
台詞の言い回しが些か分かりにくいと思う。その他はストライク。
道を踏み外して襲い掛かっておぜうに返り討ちにあって踏まれたい。
>>奇声を発する程度の能力さん
今回も見ていただいてありがとうございます!
毎度おぜうを気に入っていただけて幸いです。
>>16
正義よりもお嬢様のボンテージ
台詞回しは次回から気をつけて書いていきますので、よければまた見てください。
つまり続きを待っています!