※このお話は、作品集144『大ちゃんの従者な日常』と作品集116『家出少女と夜雀とヤツメウナギ』の設定を引き継いでいますが、読んでいなくても特に問題ない程度のものです。
了承いただけた方のみ↓へお進みください。
ガラガラゴロゴロ屋台車を引いて、私は幻想郷を巡る。
今日はここにしようかしら。
私が足を止めたのは、人里に近い魔法の森の手前。日中でも薄暗い森はこの時間、黄昏時には闇が一層濃くなっていた。
そんな森の不気味さなど気にもせず、鼻歌混じりに開店の準備を始める。
カウンター席、テーブルと椅子の設置を終えると、私服から茶色を基調とした着物へと着替えてから最後に火を入れた提灯を屋台車に引っ掻ける。
これで開店準備は完了。
本日も、ミスティアのヤツメウナギ開店だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
私のお店には色々なお客さんが来店します。
今日は誰が来るのかしら?
「こんばんは」
のれんを掻き分けて、カウンター席に一番にやって来たのは、ひまわりを模した傘を手にした緑の髪の女性。
「あら、幽香。いつもは閉店間近に来るというのに、一番乗りとは珍しいですね」
「今日は待ち合わせをしているのよ。だから、しばらく居させてもらうわ。二枚ちょうだい」
「はい、わかりました」
席に腰を下ろして、幽香は指を二本立てる。
妖怪の山の河童の所から仕入れた生きの良いヤツメウナギを捌いていく。
そうしている間に、人里からやって来る常連の人間や初顔の妖怪といった面々が次々席につく。
「はい、ヤツメウナギ二枚です」
「ありがとう」
ちょうど良い具合に焼けた蒲焼きが載った皿を幽香の前に置く。
その他の注文の品も召喚した鳥達に運ばせる。
そうして一段落着いた頃のことだった。
「喧嘩だぞ!」
テーブル席の方で誰かが叫ぶ。
駆けつけてみれば、そこではもんぺを履いた白髪の少女と黒髪の少女が今にも始めようかという雰囲気だった。二人の間では人里の守護者が二人を止めようしている。
「慧音は私の嫁だって言ってんでしょうこのダラズ!」
「あんたみたいな竹林ホームレスより私の所へ来た方がずっと良いに決まってるでしょう!」
争いの種はよくわからないが、このまま暴れられて店の物を壊されてはたまらないので、互いに掴みかかる二人の頭めがけて通常弾を一発ずつ放つ。
それぞれ彼女達の頭に命中。
振り向いた彼女達に私はニッコリと笑みを向けた。
「二人とも、ここは人間、妖怪共に喧嘩は禁止だよ。喧嘩するなら他所でやってちょうだい」
ガクガクと震えながら頷く彼女達に、私は満足気に鼻をならす。
騒がせてすまなかった、と一つ礼をして、人里の守護者が注文した品の代金をテーブルの上に置いて、二人を引きずって行くのを見届けてから、私はほうと息を吐いた。
「お疲れ様、ミスティア」
背後からの声に振り返ると、何時の間にそこにいたのか傘を肩に担いだ幽香がにこやかな笑みを浮かべて立っていた。
「騒がしくなってしまってすいません」
「いいのよ、気にしないでちょうだい。無粋な喧嘩には私も我慢ならなかったし」
「皆さんも迷惑をお掛けしました」
頭を下げると、大したこと無い、と周りから返事が返ってきた。
常連の者達にとって、こんな騒動は馴れたもので、直ぐに人妖入り交じった陽気な喧騒が戻ってくる。
幽香もまた、私の肩を一つ叩いて元いた席へと戻っていった。
「こんばんは、ミスティア!」
ヤツメウナギを焼いていた私の耳に、明るい声が届いた。
空からフワリと降り立ったのは、七色に輝く翼を持つ吸血鬼の少女。それに続いて、脇の開いた巫女服を身に纏った少女も降りてくる。
幽香同様の馴染みの客だ。
「いらっしゃい、フランドール。霊夢も」
「邪魔するわよ、ミスティア。あら、こんな早くに幽香がいるなんて珍しいじゃない」
「私はここで待ち合わせしているだけよ」
「ふうん、そう。ミスティア、ヤツメ二枚。それと、熱燗も一本」
「あ、霊夢ずるい。私も熱燗飲みたい」
「あんた、お酒飲んだら直ぐ酔うじゃない。こんな所で酔われちゃ堪らないわ」
カウンター席にフランドールと隣り合って座る霊夢。
私がヤツメウナギを捌いている間、ふたりの会話は続く。
「お待たせしました。ヤツメウナギです」
「分かったわよ。神社に戻ったら飲ませてあげるからそれまでは我慢しなさい。……っと来たわね」
「むー、約束だよ」
ふたりの前に蒲焼きを載せた皿を置いていく。霊夢の前には熱燗も置く。
「ふたりだけの時にはいくら飲んでも良いから。ほら食べるわよ」
「うん」
どうやら話はまとまったようだ。
小さな口でもくもくと食べるフランドールの様子を、笑みと共に眺める霊夢の姿を視界の端に捉えつつ、私は次の注文の品の調理に取り掛かった。
「なあミスティア、ヤツメを一枚づつに分けて持ち帰りたいんだが大丈夫か?」
唐突にのれんを掻き分けて顔を出したのは、白黒の魔法使い。
「いらっしゃい、魔理沙。少し待ってもらえるなら大丈夫よ」
「そうか、それじゃあ頼む」
「こんばんは、魔理沙」
「うお!? フランドール、それに霊夢もいるのか。幽香までいるなんて珍しいな」
「今日は霊夢とデートだったのよ!」
嬉しそうに語るフランドールと、その隣で赤ら顔で頭を抱える霊夢。幽香は静かにひとり酒をあおっている。
「なるほど、そうか。そのデートの内容は今度霊夢に聞くとしよう」
フランドールの言葉に、魔理沙は霊夢へと視線を向けてニヤニヤと笑みを浮かべる。
「そういうあんたは、どっかの図書館司書の所にでも行くつもりでしょう」
「そ、そりゃよく世話になってるからな」
「あら、誰のことを想像したのかしら?」
仕返しとばかりに言葉を返す霊夢。それに狼狽える魔理沙。
へえ、その話は初耳だ。
もう少し聞いていたい気持ちを飲み下して、私はせっせとヤツメウナギを焼いていく。
「さあ、出来たよ」
焼き上がったヤツメウナギを、河童の技術屋手製の保存用ケースに入れて魔理沙に手渡す。代わりに御代を受け取る。
「ありがとなミスティア。また今度ゆっくり飲みに来るから」
ヤツメウナギを受け取った魔理沙が手を振って箒にまたがる。星のようなきらめきを残して、空を駆けていく彼女を私は見送った。
「それじゃあ、そろそろ私達もお暇するわ。代金置いておくわね」
魔理沙が夜空に飛び立って少ししてから、そう言って霊夢はカウンターに代金を置いてフランドールと一緒に席を立つ。
「ありがとうございました」
ふたりの背中に声を投げると、また来るわね、とフランドールが私へと笑みを向けた。その笑みに私は、待っているわね、と笑みをもって返した。
「お待たせ幽香」
陽気に騒いでいたお客さんも減り、遂に幽香ひとりになった頃、尋ね人がひとり。
「遅いわよルーミア」
「ごめん」
睨む幽香の視線に少女は肩をすくませた。
「幽香の待ち人はルーミアだったのね」
「本当はもっと早く来る予定だったんだけど、途中で話し込んじゃって」
「そんなことはどうでもいいから、さっさと行くわよ」
「はいはい、幽香はせっかちだね」
「誰のせいだと思ってるの。まあ詳しいことは後でじっくり聞かせてもらうわ。代金はこれで足りるかしら?」
席を立つ幽香が手渡してきた金額を確かめる。
「ええ、大丈夫」
「ヤツメウナギ、美味しかったわ。ほら、行くわよ」
「うわわ、ちょっと待ってよ幽香。ミスティア、今度ヤツメウナギ食べに来るからね」
幽香に手を引かれ、引き摺られるようにして連れていかれながら、私に手を振るルーミアに私は手を振り返した。
去り行く姿を見るとまるで人拐いね。
こうして最後のひとりが去ったのを見届けて、屋台の周りに置いているテーブルと椅子を片付けて、屋台の脇に吊るしている提灯の灯りを消す。
日はまだ見えないが、時間は既にもうじき夜が明けようかといった時間だった。
「あやややや、もう閉店時間ですか?」
聞こえたのは、ここ最近の常連客である烏天狗のもの。
「文、こんな時間まで取材? まあ、少しくらいならいいわよ」
「今回は徹夜で取材ですよ。あ、取材内容は教えられませんよ」
「別に聞かないわよ。飲んで行くの?」
「そうしたいところですが、帰ってから直ぐに記事にしたいので、ヤツメウナギ一枚だけにしておきます」
「わかった。座ってちょっと待ってて」
厨房に火を入れ直して、ヤツメウナギを焼き始める。
と、そこでカウンター席に座った文は何を思ったか私へとカメラを向けた。
カシャ、とシャッターを切る小さな音が聞こえる。
「急に何?」
「こうして厨房に立つミスティアは良い顔をするなと思って、ついシャッターを切ってしまいました」
にこやかに私へ笑みを向ける。
「ここに立って、ヤツメウナギを食べに来てくれるお客さん達の姿を見るのが好きだからね」
「本当に良い顔をしますね。私が見惚れちゃいますよ」
「何言ってるの。ほら、焼けたわよ」
苦笑して、文の前に皿を置く。
「いい香りですね。では、さっそく」
焼きたてのヤツメウナギを口に運ぶ。
「ん、やっぱりおいしいですね。近いうちにはたてや椛も誘って来たいですよ」
「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいわ」
言って笑顔を向けると、また一枚写真を撮られた。
そんなに私を撮ってどうするのかしら。
「ごちそうさまでした。では、私はそろそろ帰ることにします」
「また来てね」
「それはもちろんです」
代金を受け取って、あっという間に小さくなっていく彼女を眺める。
空が白み始めている。厨房の火を落とす。
これで本当に最後。
ミスティアのヤツメウナギはこれにて閉店。
またのお越しをお待ちしております。
END
了承いただけた方のみ↓へお進みください。
ガラガラゴロゴロ屋台車を引いて、私は幻想郷を巡る。
今日はここにしようかしら。
私が足を止めたのは、人里に近い魔法の森の手前。日中でも薄暗い森はこの時間、黄昏時には闇が一層濃くなっていた。
そんな森の不気味さなど気にもせず、鼻歌混じりに開店の準備を始める。
カウンター席、テーブルと椅子の設置を終えると、私服から茶色を基調とした着物へと着替えてから最後に火を入れた提灯を屋台車に引っ掻ける。
これで開店準備は完了。
本日も、ミスティアのヤツメウナギ開店だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
私のお店には色々なお客さんが来店します。
今日は誰が来るのかしら?
「こんばんは」
のれんを掻き分けて、カウンター席に一番にやって来たのは、ひまわりを模した傘を手にした緑の髪の女性。
「あら、幽香。いつもは閉店間近に来るというのに、一番乗りとは珍しいですね」
「今日は待ち合わせをしているのよ。だから、しばらく居させてもらうわ。二枚ちょうだい」
「はい、わかりました」
席に腰を下ろして、幽香は指を二本立てる。
妖怪の山の河童の所から仕入れた生きの良いヤツメウナギを捌いていく。
そうしている間に、人里からやって来る常連の人間や初顔の妖怪といった面々が次々席につく。
「はい、ヤツメウナギ二枚です」
「ありがとう」
ちょうど良い具合に焼けた蒲焼きが載った皿を幽香の前に置く。
その他の注文の品も召喚した鳥達に運ばせる。
そうして一段落着いた頃のことだった。
「喧嘩だぞ!」
テーブル席の方で誰かが叫ぶ。
駆けつけてみれば、そこではもんぺを履いた白髪の少女と黒髪の少女が今にも始めようかという雰囲気だった。二人の間では人里の守護者が二人を止めようしている。
「慧音は私の嫁だって言ってんでしょうこのダラズ!」
「あんたみたいな竹林ホームレスより私の所へ来た方がずっと良いに決まってるでしょう!」
争いの種はよくわからないが、このまま暴れられて店の物を壊されてはたまらないので、互いに掴みかかる二人の頭めがけて通常弾を一発ずつ放つ。
それぞれ彼女達の頭に命中。
振り向いた彼女達に私はニッコリと笑みを向けた。
「二人とも、ここは人間、妖怪共に喧嘩は禁止だよ。喧嘩するなら他所でやってちょうだい」
ガクガクと震えながら頷く彼女達に、私は満足気に鼻をならす。
騒がせてすまなかった、と一つ礼をして、人里の守護者が注文した品の代金をテーブルの上に置いて、二人を引きずって行くのを見届けてから、私はほうと息を吐いた。
「お疲れ様、ミスティア」
背後からの声に振り返ると、何時の間にそこにいたのか傘を肩に担いだ幽香がにこやかな笑みを浮かべて立っていた。
「騒がしくなってしまってすいません」
「いいのよ、気にしないでちょうだい。無粋な喧嘩には私も我慢ならなかったし」
「皆さんも迷惑をお掛けしました」
頭を下げると、大したこと無い、と周りから返事が返ってきた。
常連の者達にとって、こんな騒動は馴れたもので、直ぐに人妖入り交じった陽気な喧騒が戻ってくる。
幽香もまた、私の肩を一つ叩いて元いた席へと戻っていった。
「こんばんは、ミスティア!」
ヤツメウナギを焼いていた私の耳に、明るい声が届いた。
空からフワリと降り立ったのは、七色に輝く翼を持つ吸血鬼の少女。それに続いて、脇の開いた巫女服を身に纏った少女も降りてくる。
幽香同様の馴染みの客だ。
「いらっしゃい、フランドール。霊夢も」
「邪魔するわよ、ミスティア。あら、こんな早くに幽香がいるなんて珍しいじゃない」
「私はここで待ち合わせしているだけよ」
「ふうん、そう。ミスティア、ヤツメ二枚。それと、熱燗も一本」
「あ、霊夢ずるい。私も熱燗飲みたい」
「あんた、お酒飲んだら直ぐ酔うじゃない。こんな所で酔われちゃ堪らないわ」
カウンター席にフランドールと隣り合って座る霊夢。
私がヤツメウナギを捌いている間、ふたりの会話は続く。
「お待たせしました。ヤツメウナギです」
「分かったわよ。神社に戻ったら飲ませてあげるからそれまでは我慢しなさい。……っと来たわね」
「むー、約束だよ」
ふたりの前に蒲焼きを載せた皿を置いていく。霊夢の前には熱燗も置く。
「ふたりだけの時にはいくら飲んでも良いから。ほら食べるわよ」
「うん」
どうやら話はまとまったようだ。
小さな口でもくもくと食べるフランドールの様子を、笑みと共に眺める霊夢の姿を視界の端に捉えつつ、私は次の注文の品の調理に取り掛かった。
「なあミスティア、ヤツメを一枚づつに分けて持ち帰りたいんだが大丈夫か?」
唐突にのれんを掻き分けて顔を出したのは、白黒の魔法使い。
「いらっしゃい、魔理沙。少し待ってもらえるなら大丈夫よ」
「そうか、それじゃあ頼む」
「こんばんは、魔理沙」
「うお!? フランドール、それに霊夢もいるのか。幽香までいるなんて珍しいな」
「今日は霊夢とデートだったのよ!」
嬉しそうに語るフランドールと、その隣で赤ら顔で頭を抱える霊夢。幽香は静かにひとり酒をあおっている。
「なるほど、そうか。そのデートの内容は今度霊夢に聞くとしよう」
フランドールの言葉に、魔理沙は霊夢へと視線を向けてニヤニヤと笑みを浮かべる。
「そういうあんたは、どっかの図書館司書の所にでも行くつもりでしょう」
「そ、そりゃよく世話になってるからな」
「あら、誰のことを想像したのかしら?」
仕返しとばかりに言葉を返す霊夢。それに狼狽える魔理沙。
へえ、その話は初耳だ。
もう少し聞いていたい気持ちを飲み下して、私はせっせとヤツメウナギを焼いていく。
「さあ、出来たよ」
焼き上がったヤツメウナギを、河童の技術屋手製の保存用ケースに入れて魔理沙に手渡す。代わりに御代を受け取る。
「ありがとなミスティア。また今度ゆっくり飲みに来るから」
ヤツメウナギを受け取った魔理沙が手を振って箒にまたがる。星のようなきらめきを残して、空を駆けていく彼女を私は見送った。
「それじゃあ、そろそろ私達もお暇するわ。代金置いておくわね」
魔理沙が夜空に飛び立って少ししてから、そう言って霊夢はカウンターに代金を置いてフランドールと一緒に席を立つ。
「ありがとうございました」
ふたりの背中に声を投げると、また来るわね、とフランドールが私へと笑みを向けた。その笑みに私は、待っているわね、と笑みをもって返した。
「お待たせ幽香」
陽気に騒いでいたお客さんも減り、遂に幽香ひとりになった頃、尋ね人がひとり。
「遅いわよルーミア」
「ごめん」
睨む幽香の視線に少女は肩をすくませた。
「幽香の待ち人はルーミアだったのね」
「本当はもっと早く来る予定だったんだけど、途中で話し込んじゃって」
「そんなことはどうでもいいから、さっさと行くわよ」
「はいはい、幽香はせっかちだね」
「誰のせいだと思ってるの。まあ詳しいことは後でじっくり聞かせてもらうわ。代金はこれで足りるかしら?」
席を立つ幽香が手渡してきた金額を確かめる。
「ええ、大丈夫」
「ヤツメウナギ、美味しかったわ。ほら、行くわよ」
「うわわ、ちょっと待ってよ幽香。ミスティア、今度ヤツメウナギ食べに来るからね」
幽香に手を引かれ、引き摺られるようにして連れていかれながら、私に手を振るルーミアに私は手を振り返した。
去り行く姿を見るとまるで人拐いね。
こうして最後のひとりが去ったのを見届けて、屋台の周りに置いているテーブルと椅子を片付けて、屋台の脇に吊るしている提灯の灯りを消す。
日はまだ見えないが、時間は既にもうじき夜が明けようかといった時間だった。
「あやややや、もう閉店時間ですか?」
聞こえたのは、ここ最近の常連客である烏天狗のもの。
「文、こんな時間まで取材? まあ、少しくらいならいいわよ」
「今回は徹夜で取材ですよ。あ、取材内容は教えられませんよ」
「別に聞かないわよ。飲んで行くの?」
「そうしたいところですが、帰ってから直ぐに記事にしたいので、ヤツメウナギ一枚だけにしておきます」
「わかった。座ってちょっと待ってて」
厨房に火を入れ直して、ヤツメウナギを焼き始める。
と、そこでカウンター席に座った文は何を思ったか私へとカメラを向けた。
カシャ、とシャッターを切る小さな音が聞こえる。
「急に何?」
「こうして厨房に立つミスティアは良い顔をするなと思って、ついシャッターを切ってしまいました」
にこやかに私へ笑みを向ける。
「ここに立って、ヤツメウナギを食べに来てくれるお客さん達の姿を見るのが好きだからね」
「本当に良い顔をしますね。私が見惚れちゃいますよ」
「何言ってるの。ほら、焼けたわよ」
苦笑して、文の前に皿を置く。
「いい香りですね。では、さっそく」
焼きたてのヤツメウナギを口に運ぶ。
「ん、やっぱりおいしいですね。近いうちにはたてや椛も誘って来たいですよ」
「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいわ」
言って笑顔を向けると、また一枚写真を撮られた。
そんなに私を撮ってどうするのかしら。
「ごちそうさまでした。では、私はそろそろ帰ることにします」
「また来てね」
「それはもちろんです」
代金を受け取って、あっという間に小さくなっていく彼女を眺める。
空が白み始めている。厨房の火を落とす。
これで本当に最後。
ミスティアのヤツメウナギはこれにて閉店。
またのお越しをお待ちしております。
END
これまでの作品を一気読みしましたー
なにやら珍カップルが多いけど非常に面白かったのでグッジョブ!
一発で勝つってのがちょっと違和感…
威圧感を感じさせる笑顔、というのもミスティアだとイメージしにくいです。
話自体は、ほんわかした雰囲気とミスティアの良さが伝わってきて
良かったと思います。
呼び捨てしてるとこがちょっと不思議でした。
それくらいよく来てるってことかな