Coolier - 新生・東方創想話

とら○るめーかー星

2011/07/17 20:30:03
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 星は勝てると踏んだ途端に慢心する悪い癖があります。
その癖のせいで何度も失敗したにも関わらず、それでも直りませんでした。
頭が良いものはどこか抜けている奴が多いが、お前はどうしようもないと毘沙門天も呆れていました。
それが遊びの時ならまだしも、大事な時となれば悲惨になることこと必須です。
ナズーリンはそんなご主人様にとあることを言いました。

「ご主人様、あなたほど賢い方がなぜ最後に気を緩めるのですか」
「す、すみません。どうも物事で『勝ち』や『終わり』にあたる部分が見えてくるとどうしても目先の事ばかり考えてしまうのです」
「木を登り、高いところでの作業よりも、作業終わって降りる頃が一番危ないのさ。最後まで油断しちゃいけないよ」
「そうですよね……」

 星はよく悩みます。
いえ、勝手に悩んでるだけであって、小さなことでもすぐに難しく考え、悩んでしまうだけです。
そして悩むだけ悩んで、やっぱり無理だぁと落ち込んでる姿をナズーリンは何度も見てきました。
でも、それ以上に毘沙門天様はそういう姿を見ているのだろうと思うと、なんだか大変だったのだろうなとナズーリンは苦笑いを浮かべるのです。

「かもしれない、っていう心を持つことが大事だと思うんだ」
「かもしれない、ですか?」
「そう。もしかしたら、まだ切り札を残しているかもしれない。もしかしたら、勝利を確信した時のスキをついてくるかもしれない。そう思えば慢心することもなくなるんではなかろうか?」
「な、なるほど!!」

 今まではそういった、天才でも一部欠点があってもいいかなーと思っていたナズーリンですが、聖復活の際にそういった部分が出てくると困ると考えたのです。
それ以外にも欠点はありますが、一つずつ欠点をつぶしていくことが大事だと考え、今回は慢心してしまう癖を直すことにしました。
しかし、それを直すことができたとしても、それに引けを取らない欠点があったのです。

「しかしですね、ナズーリン。その慢心に至るまでにちょっと困ったことがありまして」
「なんだい」

 向こう側にいる村紗や一輪たちをちらりと見て、こちらを意識していないことを確認しているあたり、やな予感がビンビンしてきたナズーリン。

「宝塔、ないんですよね」
「無くしたんですか!? もごっ」
「しーっ! 声がでかいですよ、もうっ」

 星が横目でちらりと二人を見れば、怪しそうな目線が返ってくるのは当然の事です。
にへらと星は笑って返すと、ナズーリンにより一層顔を近づけて言いました。

「お願いします。私が聖復活を掲げたにも関わらずこれではあの二人に申し訳ないのです」
「ここで拒否したところで聖復活が遅れるだけですし……。わかりました、やりましょう」
「流石です。期待してますよ、我らがダウザー、ナズーリン」

 ご主人様のためであり、聖のためだとナズーリンはこの時は何も言わずに受け入れたのです。
必死に探して香霖堂に普通に置いてあったときはホッとしたが、店主がなかなか渡してくれなくて困ったとナズーリンは言います。
それに対して星は、とにかく感謝の言葉を並べるしかなかったとか。



 星は、この聖復活を通して悪い癖を一つつぶすことができたことを考えると、ナズーリンの苦労も生きてくるものです。
しかし、それとは別に面倒くさいことがあり、それにナズーリンは新たに頭を痛めることになりました。

「あ、あの~、ナズーリン? ちょっといいでしょうか」
「なんだいご主人様」
「ちょっと私の孫の手がなくなってしまったのかもしれないんですよね」
「かもしれない、じゃなくてなくしたんでしょう?」
「え!? 違いますよ。まだ決まってませんし、なくしたかもしれないんです」

 このように、かもしれないの使い方を何か違った方向に向けてしまったことです。
しかもやっかいなことに、面倒くさい言い訳までつけるようになってきました。

「一体どれだけ失くしてきたんですか。まぁ、その度に私が見つけ出しているんですけども」
「失ったものを数えるな。残ったものを数えよ。とはよく言ったものでですね?」
「そういう名言の無駄遣いはやめないか。なんでご主人様は毎回失くしてもそんなに前向きなんだい?」

 すると、ふふんとどこか楽しげな表情を見せながら、ナズーリンに問いかけます。

「ナズーリン。私の能力はなんだと思いますか?」
「財宝が集まる能力だろう? そのおかげで命蓮寺も助かってるんだ、忘れるはずがない」
「それです。私の秘蔵の宝がまだ手元に残っているんです。そう、それは希望です」
「煩い! その希望とやらはどうせ私なんだろう!!」
「さすがは賢将、話が早い!」

 何かしらいろんなものを読んでいる星は、面倒なことに様々な人物の名言を言い訳に使うようになったのです。
それにはナズーリンもお手上げでした。

「はいはい、探しますよ~……」
「あー私の希望の光は力強いです」

 そういっては、毎回毎回ナズーリンに頼りっぱなしなのです。
若干困りながらもナズーリンが作業を続けていると、向こう側から聖がやってくるのが見えます。

「どうしたのですか、星」
「いや、その、私が愛用していた孫の手がなくなったかもしれないので、ナズーリンに探してもらっているのです」
「失くしたんじゃないんですか?」
「違いますよ。まだ決まったわけじゃないですよ」
「まだいってるんですかご主人様……」

 ナズーリンのその手には、星の見覚えがある孫の手が握られていました。
それをみた星は大喜びです。

「財宝を集めてきても、こういった必需品失くしてては意味がないんだよご主人様」
「そうですね、ナズーリン。でもよく考えてみてください。星は命蓮寺の招き猫ですよ?」
「ね、猫じゃないです! 寅ですよとら! がおー!」

 必死に猫じゃないアピールとして大きく口をあける星をナズーリンは完全に無視して頷きます。
しかし、星はといえば、招き猫といえば幸福を招く縁起の良い猫としか頭にないため、何を言っているのかよくわかっていません。
そんな星を見て、聖はにっこりと笑いながら言うのです。

「何も財宝や幸福だけを招くわけじゃないってことですよ。星にはトラブルも招いてしまう猫さんですからね」
「えぇ!? 私がいつトラブルを招いたというんですか」
「宝塔」
「!?」

 宝塔という単語だけで全てを悟ってしまうのもおかしな話ですが、星は聖の満面の笑みに対して冷や汗びっしょりです。
夏の風が汗をさらに冷やしていきます。

 星はナズーリンに視線で語りかけます。
『何故、なぜ聖が知っているのです!? まさか喋ったというのですか!?』

 それに対してナズーリンは冷たい目線で返します。
『悪いことはばれるのが定めだよ、ご主人様。南無三』

「いえいえ、例え失くしてしまったとはちゃんとみつかりましたし、こうして私が復活できたのは紛れもなく星やナズーリンがその決意に至ってくれたからのことです」
「聖……それでは」
「だからと言って、昔から失くしものをする癖は直しましょうねって言っていたにも関わらず、封印されていた千年以上もの年月を経ても変わっていないとは、一体何をしていたんですか?」
「うっ!?」

 説教しているときは大抵真剣な顔なのだが、今回ばかりはなぜか笑顔なのが、今の星にとっては不気味で仕方ありません。
しかし、もしかしたらこれは怒ってるのではないかもしれない、と星は思い始めました。
昔も今も変わらない星が私は好きですよとか、そういうことを言ってくれるのではないかと、そう思ってしまう星がそこにはいました。

「でも、私は知ってますよ? 少し時間があれば書物を読んで勉強したり、人里の人たちに優しく接したりしていることも。それも全部、私のためだってことも知っています」
「な、なんでも知ってるんですね……」

 顔を真っ赤にしながら恥ずかしがります。
誰にも聖のためだと言っていないのに知っているのをみると、聖にはそういう感情がわかるのかもしれません。
だからこそこの笑顔だったのかと、少しほっとしました。

「だからって何でもナズーリンに助けを求めたり、変な言い訳をしたりするのは感心しませんがね」
「ふぇ?」
「いいですか、星。貴女は毘沙門天様の代理なのですよ? その貴女がこのように小さなミスばかり繰り返していてはいけません。ミスをすることは悪いことではないのです。ただ、同じミスを何回も繰り返して学習しないのではだめなのです、わかりますか? しかも、千年ですよ、千年。千年以上も時があったに関わらずいったい何をしていたんですか。私が封印されている間、遊んでいたんですか?」
「ち、違います聖! わたしは立場上の問題がありまして、あの時は反対が……」

 笑みが一切消え、真剣な顔になっている聖に、これはまずいと星は感じました。

「それは封印される前のお話です。問題はその後ですよ。先ほどの話も少し聞いていましたが、希望はナズーリンというのは、ナズーリンを一種の道具とみなしているのでしょうか?」
「そんなことありません! ナズーリンはこんな不甲斐ない私とずっと一緒にいてくれた大切な仲間です」
「そうでしょうね。希望とは、人を成功へ導く信仰です。しかし貴方は希望そのものの在り方を間違っている。いいですか、星。……星?」

 星は、聖の説教を受けて目に涙を浮かべていました。
すぐに悩みこんでしまう星は、顔では笑っていたり、平気な表情をしたりしていても、内心はすごく落ち込んでいることが多いのです。
また失くしてしまった、またナズーリンに迷惑をかけてしまったという感情でいっぱいになり、次こそはと思ってはいるのです。
思ってはいても、天は味方をすることなく失くしものをするわけで、その度に毎回落ち込んでいました。
そしてついに説教を受けた星は今まで堪えていたものを我慢できなかったのです。

「すみませんでした。毎日朝が来るたびに頑張ろうって思っているんですけど、気持ちとは裏腹にいつの間にか物がなくなってしまったり、ぼーっとしてたら間違ったことをしちゃったりして迷惑かけてばっかりで」
「星? そんなにせめたつもりではなかったのですが……元気出してください」
「頑張ってるんだけどなぁ……毎回空回りばっかりだなぁ……」

 ただただ星は一人ぽつんと立ちながら、流れる涙を指で掬うことしかできません。
誰だって星が頑張ってることは知ってるし、人一倍責任感が強いのは知っています。
少し困ったような表情をする聖の肩を、ポンとナズーリンは叩き、微笑みました。
こういう時の星の扱いは、誰よりも一緒に時間を過ごしたナズーリンが一番よく知っているのです。

「ご主人様。ご主人様はいつだって自分よりも先に他の人の事を思い、そうして動いてきた。でも、もう私たちは大丈夫だから、少しは自分の事にも目をやってみるのはどうだい?」
「私自身を、ですか?」
「そうさ。少しずつでいい。少しずつ、物を失くさないようになっていけばいい。誰だってミスはあるし、忘れることだってある。それを少しずつ、ご主人様のペースで直していけばいい」

 よほど嬉しかったのでしょう、また星から大粒の涙がこぼれ始めます。
それをみて、星の手の中に孫の手を返し、大きな背中を優しく摩りました。

「ご主人様が例え何か大事なものを何度無くそうとも、私は必ず見つけてみせるからさ」
「ありがとうございます、ナズーリン」

 手に返された孫の手をぎゅっと強く握りしめて、まっすぐナズーリンを見つめます。
歪んだ視界の中で、ナズーリンが優しく微笑んでいるのが見えました。
そんな笑みを見て、内心戸惑い、俯きながらも星は言いました。

「あのぉ、言いづらいのですが、実は耳かきも……」

 恐る恐るナズーリンの表情を窺うと、少しばかり表情を歪ませているのが見えました。
せっかく丸く収まりそうな雰囲気であったのに、これでは機嫌を損ねてしまいます。
このタイミングで言うのは間違いだったと後悔したその時でした。

「そういうと思ったよ。ほら、これ」
「え? あ……」

 なんとそこには、見覚えのある耳かきがすでにあるではありませんか。
ナズーリンは、すでに他のものを失くしていることに気付いていたのです。

「失くした時はご主人様の行動がいつもと違うからね。失くしたことなんてお見通しさ」
「そ、そうだったんですか」
「私は、ご主人がどのようにして私にお願いしてくるかを見てるのさ。だからさ、もうあんな頼み方はしないって私は信じてるよ」
「そうですよ、星。人に何かを頼む時っていうのはそれなりの態度というものがあるのです。わかりましたね?」

 二人の言葉に星は涙を拭って、はいと素直に頷きました。
星はこの時、少しずつ直していこうと思ったのです。

 しかし、そんな星の気持ちとは逆に、ナズーリンは直らなくてもよいと思っていたのです。
なぜなら、星からドジでダメな部分が抜けてしまったら、自身の知っているご主人様ではなくなってしまうからでした。
完璧すぎても楽しくないし、ご主人様のものを探すのも悪くはないとナズーリンは思っているからです。

「例え誰かが失敗しようとも、私たちは皆、互いに一つ。そのことを見失っちゃいけないさ」

 にへらと恥ずかしそうに笑う星を見て、もうこのままでもいいかなと思ってしまうナズーリンなのでした。
 何か頑張ろうって思っても失敗する図。会社辛いね!
>1様 連休なんてなかった。
へたれ向日葵
[email protected]
http://twitter.com/hetarehimawari
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コメント



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1.100名前が無い程度の能力削除
明日は休日!
2.80ぺ・四潤削除
頑張ってした失敗は頑張らないでした失敗の数億倍質が違う。
前者はフォローする側も口ではなんだかんだ言ってても内心頼りにされて嬉しかったりするものです。
まあ、星ちゃんの場合はどうなんだろう……なくし物をしないというのは頑張るものじゃないよなww
4.100oblivion削除
何にせよフォローしてくれる仲間がいるのはいいことです
5.90名前が無い程度の能力削除
によによして読んでました。なんかすごいわかるなあ。
6.80奇声を発する程度の能力削除
何だか分かる気がします
15.100曇空削除
このナズみたいな仲間がいると頼もしいですよね
24.100名前が無い程度の能力削除
勝つる
27.90名前が無い程度の能力削除
これはいいなあ
28.100名前が無い程度の能力削除
我らがダウナー、ナズーリン → ダウザー では?なんか鬱の人みたい

がんばれ星、がんばれナズー