Coolier - 新生・東方創想話

美酒

2011/07/15 06:36:08
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 最近、殉死が流行っている。
 いや、この表現は正確ではないかもしれない。
 では、自殺や自傷が正確かといえば、そういうわけでもなく、やはりいろいろと言葉を探すと殉死という言葉が一番ピタリと当てはまるように思うのである。
 そのことについて述べる前に、わたしの立場を明らかにしておこう。
 わたしは、しがない狢の妖怪である。人間との縁は浅からず深からず、盟友とも言えず、さりとて敵ともいえず、あらゆる意味において中立を保ってきた種族といえよう。わたし自身としても人間のことは好きでも嫌いでもない。無関心なわけでもない。ただ、興味深くはある。
 人間との距離感は絶妙で、人間にとっての猫といった風情であろうか、ふと視界に入るかわいい生物といった認識が強い。特に人間の子どもはうるさくてかなわないが、そのあどけない所作は妖怪をしてかわいいと思わせるものである。
 さて、そういった中立的立場であるわたしであるからこそ言えるのであるが、ここ最近、人間と妖怪の距離がずいぶんと縮まってきたように思うのである。
 その結果、妖怪のなかには当然、人間と添い遂げたいと思うものがでてきた。
 人間と妖怪の最も異なる点は、力や思考ではない。人間の中にも強いものはいるし、努力や才で覆せないものではない。
 どんなに努力しても、どんなに才能があっても、妖怪と人間を峻別する絶対の基準がある。
 寿命である。
 妖怪にとって人間の生はあまりにも短すぎるし、人間にとっての妖怪の生はあまりにも長すぎる。
 であるから、殉死というわけだ。
 誤解なきように言っておくが、実際に人間の寿命が尽きた瞬間に自身の命を断つというわけではない。ここで最も問題となっている点は、我々は寿命をある程度コントロールする術を見つけてしまったということなのだ。
 永遠亭の薬師殿である。
 彼女の薬は人間の寿命を人間の枠組のままで伸ばすということはできない。それは付加であり、人間を『別の存在』に変えるものである。もっとも意志や記憶が変わるわけではないから、それでも良いというものもなかにはいる。本質は心であり魂であるのだから、心や魂が変わらなければ寿命が増えても問題ないとする考え方。それはそれでよい。
 逆――、妖怪の寿命を削るのは、元にある部分を無くすものであるから容易い。それは妖怪を『人間』に変えたりするものではない。妖怪は妖怪のままである。しかし、少なくとも人間と同じ時を生きることができるようになる。百かそこらで老い、死ぬことができるようになる。
 人間も妖怪もおのおの人間であること、妖怪であることに誇りをもっている。そのため前者の方法――人間を別の存在に変えて互いに長いときを過ごすという方法はあまりとられない。
 したがって、このごろの流行は妖怪の寿命を削るほうというわけである。
 この問題について、人間の反応は冷ややかである。人間にとって喰われる存在である妖怪を伴侶にするなど常軌を逸していると考えるものもいれば、結局人間側は寿命が削られるわけもなく痛くもかゆくもないのだから、その人間が好きにやれば良いと考えているものもいる。多数派は放置、無関心といったところであろう。
 妖怪の方も基本は同じである。
 妖怪を総じてみれば、種族的連帯の少ないもののほうが圧倒的多数であるから、これらのものは同じ種族のだれそれが人間と同じ寿命になっても痛くもかゆくもない。個人主義的な考え方なのである。
 しかし、なかには種族的連帯の強い種族もいる。
 例えば天狗などがそれにあたる。
 彼らは、寿命を削ることを種族の掟として禁じてしまったのである。
 彼らの言葉をそのまま記そう。

『我々は生存しなければならない。生きて、子を産み、増えていかねばならない。しかるに、妖怪としての長寿を捨て百年という刹那の時間に身をやつすことは大自然の掟に反することであり、宇宙の理に反することである。これは一種の緩慢な自殺であり、一種の緩慢な安楽死であるといえる。命ある者が自ら命を断つことは最大の禁忌であり、生存の条件、繁殖の条件に反する事柄である。また、我々が生命を連綿と受け継いできたという事実に対する反抗であり、不誠実な行いである』

 なるほどと思う点もある。
 しかし、掟では心まで縛ることはできない。
 ある天狗の少女は薬を追い求めていた。もちろん人間と添い遂げるためであった。
 その頃、天狗達は永遠亭の薬師と契約を結び、天狗に対して、その薬を売ることを禁じてもらっていた。代価は支払うという約束である。薬師としてはいちいち天狗と事をかまえるのもおもしろくないし、なんの利益にもならないから、契約は成った。
 したがって、天狗の少女が永遠亭に駆け込んでも薬を得られないことは明らかなのである。
 彼女は薬を求めて、他の妖怪と交渉して譲ってもらおうとした。
 やっとのことで手に入れた薬は天狗よりも長寿の種族のものであり、それを一息に飲み干した彼女は、人間よりも早く老いていったのである。
 天狗の少女はもはや老婆になり、人間の男は死の淵にいる彼女を見守るしかなかった。
 だが果たして彼女は不幸だったのだろうか。
 彼女は言ったらしい。
『あんさんより先に死ねて、私、幸せですわ』
 いったいいつから、死ぬよりも生きることのほうが正しいと思われるようになったのだろう。
 果たして彼女は不誠実であったのだろうか。不誠実であるとすれば、何に対して不誠実だったのだろうか。
 それらの答えは私の手には余るが、一つだけ確実に言えることがある。
 どんなに掟を厳しくしても、薬を求める者がまったくいなくなるということはないのだ。
 


 
創想話ではキャラ小説がメインなんで、やっぱこの作品は邪道なんだろうなぁ……。
超空気作家まるきゅー
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コメント



0.1200簡易評価
2.60名前が無い程度の能力削除
 
3.50名前が無い程度の能力削除
そうだね
4.80名前が無い程度の能力削除
まぁ、大多数が正義ですからね…
5.70奇声を発する程度の能力削除
うーむ…
9.70名前が無い程度の能力削除
「キャラ小説でないから」という理由ではなく、感じ入るところが少なかったのでこの点数だということを失礼ながら。
演出の一つかもしれませんが…語り部である狢妖怪の視点が、事態の浅い所だけを滑ってゆくように思え、読み手もこの話に対し一歩興味が引いてしまいました。

キャラクターに頼らないなら、それを補う「牽引力」が欲しかったです。
さっくり読めてテーマも掘り下げれば面白そうだっただけに、もったいなく思ってしまいました
11.30名前が無い程度の能力削除
永遠亭という舞台装置を他の某に変えても違和感のないお話。
語り部が狢妖怪である理由は如何に。
提唱すべき題目は、しがない読み手としては物語に内包して欲しかった。
12.30名前が無い程度の能力削除
新聞記事の社説読んだ気分
小説って言うフィクションが、何故、人の心を動かすことが有るのか、まるきゅーさんならわかると思うのだが
天狗少女のストーリーがあるなら、ただの作り話の社説じゃなくて、それを心で感じられるようにしてほしかったなー
13.60名前が無い程度の能力削除
どうせだし物語を読んでみたい。
作者氏の書きたいことがあるのは分かります。
その上で、お話を使って包んでみるのが物書きではないかと思う次第。
前回の作品もそうでしたが、テーマをぽいと丸投げするプロット段階の作品ではなくて
ただ冗長な会話で読者を引っ張るだけではなくて、ストーリーテリングの魅力というものを
見てみたいと思います。
キャラ小説にしたくないなら、昔話や説話風の語り口でも良いでしょうしね。
14.50名前が無い程度の能力削除
この作品のような形式が邪道とは思いません
むしろ積極的に挑戦してほしいです

ただこの作品の場合、そろそろ主題に入るかと思った頃合に
断線するかのように終わってしまったような印象を受けました

なにを言いたかったのかはっきりしない、そんな読後感です
15.無評価名前が無い程度の能力削除
文学まであと三十年
16.無評価名前が無い程度の能力削除
さぁこれから!...ってところで終わっちゃいましたね
続くんですよねこれ?
東方の世界観を書いているので東方である必要がないということはないと思いますが......こんなところで終わられてもなんだかなぁという感じです
17.無評価名前が無い程度の能力削除
どんな考えがあるにせよ、言い訳じみた後書きはいらない
19.無評価名前が無い程度の能力削除
万点を取って助長した作者の末路である。
22.60Dark+削除
どうともいえないです。
25.80名前が無い程度の能力削除
まるきゅー様、ロックですね。
氏らしくて大いに結構。 
ロックかしらん? ロックで良いでしょう。
今作では名も無き天狗の一人が愛に殉じました。
作中では淡々と描写されていましたが、よく考えるとこれは切ない話です。
淡々と第三者の目線から語られたからこその切なさでしょう。

この作品がこれ以上続いたとして。私たちの良く知っている(否、そう知ってはいないのだけれど。
知っているつもりでしかない)幻想郷の妖怪の誰かが愛した誰それの為に薬を求めて
その結果最後には死んでいくという結末が他の皆さまは読みたいのでしょうか。
私なら嫌ですね(それ以前にあのキャラクターが殉死するとは思えませんが)。

第一これは物語というよりは問いかけだろう。
狢の妖怪はこの文章の中で私たちに問いかけているのだ。
なら、考えなくてどうする。妖怪に失礼ではないか。
26.80名前が無い程度の能力削除
うまく言えないけど、この作品なら天狗主観の話が少しで良いから欲しかった。
文や椛といった名のある天狗でなくて良い。添い遂げる相手も霊夢や阿求といった名のある人間でなくて良い。
名無しの天狗と名無しの人間、いや、その2人に薬を渡した妖怪でも良い。誰かの主観の話が欲しかった。

京極夏彦の『巷説百物語』って言えば分かっていただけるでしょうか。
28.80名前が無い程度の能力削除
 ショートショートとしてまとまってるとは思うのですが、狢の妖怪を視点人物と位置付けてしまったがために、それが活きたように見えない肩すかしがあって切れ味が少し落ちてしまったかなという印象でした。
 超然とした視点で言うなら、例えば永遠の命を持つ永琳でも成立したと思いますし。
29.100名前が無い程度の能力削除
面白いから100点だ。
でも確かに続きが欲しいと思う。
31.80名前が無い程度の能力削除
この例え話(天狗の娘のエピソード)から、末尾から4、3行目の問いかけにつなげるのはちょっと強引というか、
理論のすり替えがあるように感じました。
あと、冒頭で多少釈明されているとはいえ、作品中で語られる死に方と殉死という単語はだいぶズレがあると感じました。
これまでの人生で読んだことがある文書中では、殉死といえば偉い人の後を追う(追わせられる)ことだったので。
まあ、辞書を引けばこの作品で使われたような用例もあるのかもしれませんが……

全体的に説明不足というか、モヤモヤとした読後感の作品でした。
あと、後書きはちょっとまずい表現じゃないでしょうか。
32.70名無し程度の能力削除
もうちょっと東方キャラで書けばよかったのかも。
書けないことめないのでは?
33.70名前が無い程度の能力削除
語り部である狢が、天狗少女の話をしたくなる必然性を感じられたら、もうちょっと物語に入り込めたかも知れません。
もしくは、三人称視点の物語であった方が良かったのではないか、と思います。
でも、こういう話好きです。
若く、そして若さゆえに美しかったであろう天狗少女に恋した男は、「自分が死ぬまで、この娘は美しく若いままだ」と思っていたのではないでしょうか。はっきりとそう思っていなかったにしても、急に訪れる少女の老化は彼には驚きだったでしょう。
それでも、彼は妻となった天狗が死の淵につくまで傍を離れませんでした。それは、天狗の力を恐れた打算かも知れません。単なる愛かも知れません。
遺すはずだったのに、遺される身となった彼は、何を思うのでしょうか。淡白な描写であったがゆえに、色々と考えてしまいます。
34.80名前が無い程度の能力削除
好きよ
35.90名前が無い程度の能力削除
私もこの作品は好きです
37.90名前が無い程度の能力削除
内容が足りない?
じゃあ想像力で補えば良いではないか。
あの妖怪ならどんな物語になる?あの種族では?等といった想像力を掻き立てられる作品でした。
設定をちゃんとたてて多くは語らない。
まるで某ゲームの様なお話でした。
38.10名前が無い程度の能力削除
あとがきが他の作家を馬鹿にしているようにしか思えない
40.80名前が無い程度の能力削除
己が望むままを行う、それが創想話
44.70ヤマカン削除
邪道でも面白けりゃいいや
49.70名前が無い程度の能力削除
もっと東方らしさがあったり話の続きがあればよかったか……こういう形式は嫌いでない。
55.90名前が無い程度の能力削除
ただの萌えや、安っぽい感動に持ち込まず、剥き身の理論をぶつけるイメージでした。       

たいへん素晴らしいと思います。その淡泊さを磨き上げれば、さらに深く鋭いお話が書けると思います。
56.70名前が無い程度の能力削除
ナンセンス
やっぱり貴方は此処で書くのがよさそうですねw