気まぐれに妹紅を家に招待してみて――ぶっちゃけ後悔していた。
きっかけは、永琳が人間の里に往診しに行くから帰らないと言い出したことだった。
鈴仙も今日は白玉楼に遊びに行ってるらしく、てゐもどっかに行ったきり戻ってくる気配は無い。
つまり、珍しく(てゐが何処かへ行って帰らないのはいつもの事だけど)この永遠亭で一人で過ごすことになってしまったのだ。
住み着いてる兎達も一応残っているのだが、どうにも相手が恐縮してしまって暇を潰すには面白くない。そこで折角だからいつもしてない事をしてみようと思い兎を遣わせて誘ってみたのだが……。
「……で、何の用だよ。殺し合いなら昨日もしたばっかだろ?」
よく考えたら、家に呼んだり呼ばれたりするほど仲良くなかった。
ちなみに妹紅はわざわざこっちまで来るように呼びつけられた事に苛立ってるようで、ぶっきらぼうな口調でそう尋ねてきた。。
ぶすっとふて腐れてる妹紅はちょっと可愛いが、ここで意地悪を言ってもっと怒らせたら帰ってしまうかもしれない。
「……暇だったから呼んだだけよ」
貴女と話してみたかったし、みたいな恥ずかしい台詞はもちろん言わない。いくら妹紅にイタズラをしかけて反応を楽しむといっても、そんな甘ったるい会話で引き留める姿を想像するだけで鳥肌が立ってしまう。
「なんだよそれ。私はお前の暇つぶしの道具じゃないぞ」
「別にいいでしょ? 貴女だって突然呼ばれて来るぐらいだから暇してたんでしょうし」
うっ、と妹紅の表情が歪む。図星か。
「ひ、暇じゃなかったぞ。ただ、その……たまたま時間が空いてたから、来てやっただけで……」
「それを暇って言うんでしょ。……いいわ。立ち話もなんだし、早く家に上がってきなさい」
そう言って家の中に促そうとすると……妹紅は、なんだか妙に慌てていた。
「ちょ、ちょっと待て。……私が上がっても良いのか?」
……そういえば、そもそも妹紅を家に招いた事も無かったわね。
「当たり前でしょ。今日だけ、私たちはお友達よ」
私の部屋に入った妹紅は、ひどく落ち着かない様子で部屋の中をきょろきょろと見回していた。
無難に客間とかに呼んでも良かったのだが、せっかくなので自分の部屋にまで上げてみることにした。ちなみにこの部屋に上げた人間はこれまで永琳と鈴仙の二人しかいない。勝手に押入って異変を解決していった連中は別として。
大きな部屋の隅っこで居心地悪そうに座布団にあぐらをかく妹紅も見物だったが、残念ながらその様子を充分に堪能する余裕はこっちにも無かった。この部屋まで呼ぶ予定は無かったから月の本や資材は出しっぱなしだし、更には敷き布団までそのままだった。そんな散らかった部屋を妹紅が見回すものだから恥ずかしくって仕方がない。
やっぱり部屋に上げる前にちょっとぐらい片付けておけば良かった……という後悔は先に立たず。そのまま布団に蹲って眠ってしまいたいぐらい恥ずかしいのを妹紅に悟られるのも癪だったので、あたかも部屋を見られても気にしてないかのように振る舞った。
「へぇ……輝夜はこの部屋で暮らしてるのか」
「ふーん、妹紅でも私の部屋なんかに興味あるんだ」
試しにそうからかってみると、妹紅は「なっ」と顔を赤くして。
「そ、そんなわけないだろ! ただ……なんというか、珍しかっただけだ」
……そっか、その反応は満更でもないってことなんだ。
ふーん、そっか……うんうん……うん。
「……? 何ニヤケてるんだよ輝夜」
「え! そ、そんなわけないでしょ。妹紅の勘違いよ」
「む、何か釈然としないけど……まあいっか」
そのまま妹紅の関心も月から持ってきた機械や何かに逸れてしまって、ほっと胸を撫で下ろした。
さて……と自分の中で仕切り直してみて、改めて思った。
で、これからどうすればいいんだろう?
そもそも妹紅を家に招いたことだって突発的なら、本当に妹紅が素直にやって来ることさえ期待してなかったのだ。
部屋に招いて、それから何をするかという考えがまるっきり欠けていたのだ。もし来たら適当におちょくってみようとは思っていたのだけど、いざ招いてみるとそんなやりとりさえもこそばゆく思えてしまった。
そもそも、身内以外でこんな風に遊……家に招くこと自体初めてなのだ。あの家に住んでた頃も同じ歳ぐらいの女の子と遊んだ事なんて無かったし。
そう意識すればするほどなんだか上手く話せないような気がしてしまう。うーん、こんなはずじゃなかったんだけど……。
一方の妹紅も初めこそ珍しそうに月の機械をいじっていたが、使い方も分からないそれをいじるのにも飽きたようで、座布団に座ったまま黙ってしまった。
「……ねぇ、妹紅?」
「……なんだよ」
「こういう時、どうすればいいのかしら」
こうなったらと思い、率直に妹紅に聞いてみることにした。
「こういう時ってどういうことだよ」
「そうね……二人っきりの時?」
特に言葉を選ばずに尋ねてみると、何故だか妹紅はぎょっとした顔をしてしまう。
「ふ、二人っきりって……お前の従者だとか因幡とかもここに居るんだろ」
ああ、そういえば妹紅には言ってなかったっけ。
「今この屋敷には永琳も因幡達もいないわ。だから妹紅を呼んだのよ。だから、二人っきりってわけ……それで、何する?」
ずい、と身を乗り出して妹紅に顔を近づけて尋ねかける。
妹紅は頬を赤らめると、そっぽを向きながら小さな声で答えた。
「か、輝夜が呼んだんだから輝夜が決めろよ」
「でも、私たちこういう事するの初めてでしょ? だから、どうしたらいいのか分からなくって……」
「初めてとか……そ、そういう変な言い方やめろ!」
あー、なるほど。
「……ううん、言葉通りの意味よ」
そう言いながら妹紅の右手を取り、自分の胸元へと押し当てた。
「お、おい輝夜……!」
「……分かる? 私、今すごいどきどきしてるの」
たったそれだけの事なのに、妹紅は顔を朱に染めてしどろもどろになってしまった。
「でも、妹紅だったらいいわよ。私のこと好きにしても」
「い、いやでも……私も、その、経験ないし……か、輝夜は色々知ってるんだろ!」
「ううん。……私だって、したことないもの」
そっと、妹紅の手を包み込むように握った。妹紅の手のひらは柔らかくて、暖かくて、汗をかいてて。手のひらで繋がるだけで、緊張してるのがありありと伝わってきた。
それがほんのりと、嬉しくて、可笑しくって。
「その……ね。妹紅に、私の初めてあげる。だから……」
「か、輝夜……」
吐息が触れ合うぐらいに顔を近づけていく。見つめ合った瞳は逸らす事なんて出来なくて。二人の身体はほとんど重なり合うぐらい迫ってきて。
そして――
「わ ざ と だ ろ う が!」
「……てへ、バレた?」
空いていた妹紅の手によって、私の顔は押さえつけられていた。
「お前はまたこんな事やって人が困る姿を楽しんで……!」
「ふふ。妹紅の恥ずかしがってる顔、可愛かったわよ。それにスケベなこと考えちゃう妹紅が悪いんでしょ」
「う……」
妹紅に蹴られるよりも早く身を翻し、乱れた着物を戻した。
まあ、要するに早々に妹紅の勘違いに気付いた私は、その勘違いを助長させて一通りからかってやることにしたのだ。
結果としては見事に妹紅は騙され、あわや私に貞操を奪われる寸前まで追い込まれたのだった。
当の妹紅は息を荒げたまま、りんごのように顔を真っ赤にして胸元を押えている。その悔しそうな表情を見るだけでたまらなく笑いがこみ上げてくる。
あー、やっぱり妹紅をからかうのって楽しい。
「……ふん、輝夜だって顔真っ赤のくせに」
そんな勝利に浸る私にぶつけられたのは、予想もしない言葉だった。
「へ……私は顔を赤くなんてしてないわよ」
「何言ってるんだよ。自分の顔よく確かめてみろって。トマトみたいに真っ赤だぞ」
そう言われて自分の両頬に手のひらを当ててみる。
そんなはずないと思いながらも、冷たくなった手の平で頬に触れてみると。
「……うわぁ」
自分でもびっくりするぐらい、頬が熱くなっていた。
沸騰しそうなほど熱くなった頬に触れて一気に指先が暖かくなっていくのを感じた。
それに気付いてしまえば、自分がどれだけ緊張していたのかと思い知らされるのはあっという間だった。小刻みに手は震え、唾液も飲み込めないぐらい喉はからから。どうしてさっきまで平気なふりをしていられたのか不思議なぐらい。
さっきまで、妹紅のこと馬鹿にしてたはずなのに。
あれぐらいの事で恥ずかしがったりして、って馬鹿にしてたはずなのに。
近付いて、身体に触れられて、手握って、見つめ合って。妹紅と二人でいただけで、こんな顔になっちゃうなんて。
改めて気付かされたそんな自分が恥ずかしくなり、より一層熱くなってしまう。そんな姿を妹紅に見られてるなんて思ってしまって、もっと恥ずかしくなって。
思わず顔を着物の裾で隠したけど、直前に見えた妹紅の勝ち誇ったニヤケ顔がどうしても許せなかった。
「う、うるさい。妹紅の方が私より顔赤いじゃない! どんだけ私のこと好きなのよ!」
「か、輝夜ほどじゃないぞ! お前こそ私のこと好きなんだろ!」
「妹紅だって!」
ううー、と二人とも睨み合いながらうなり声をあげる。このまま睨み合ってても埒があかない。
「ええい、表に出なさい! また殺し合うわよ!」
悶々とした何かを取っ払うために、私は家を出ようとした。
結局、今日の妹紅と仲良くするっていう計画は駄目になっちゃったけど、やっぱりこっちの方が私たちらしい。止める人がいないから今日はとことんまでやってやるんだから。
「やってやるよ。けど、今日だけ友達って約束はどうなったんだ?」
何言ってるんだか。
そんな当たり前の事を聞いて来た妹紅に向き直ってやる。
ぽかんとした表情を浮かべた彼女に、私は恥ずかしい気持ちを堪えながら堂々と言ってやった。
「殺し合ってても、私たち友達でしょ」
きっかけは、永琳が人間の里に往診しに行くから帰らないと言い出したことだった。
鈴仙も今日は白玉楼に遊びに行ってるらしく、てゐもどっかに行ったきり戻ってくる気配は無い。
つまり、珍しく(てゐが何処かへ行って帰らないのはいつもの事だけど)この永遠亭で一人で過ごすことになってしまったのだ。
住み着いてる兎達も一応残っているのだが、どうにも相手が恐縮してしまって暇を潰すには面白くない。そこで折角だからいつもしてない事をしてみようと思い兎を遣わせて誘ってみたのだが……。
「……で、何の用だよ。殺し合いなら昨日もしたばっかだろ?」
よく考えたら、家に呼んだり呼ばれたりするほど仲良くなかった。
ちなみに妹紅はわざわざこっちまで来るように呼びつけられた事に苛立ってるようで、ぶっきらぼうな口調でそう尋ねてきた。。
ぶすっとふて腐れてる妹紅はちょっと可愛いが、ここで意地悪を言ってもっと怒らせたら帰ってしまうかもしれない。
「……暇だったから呼んだだけよ」
貴女と話してみたかったし、みたいな恥ずかしい台詞はもちろん言わない。いくら妹紅にイタズラをしかけて反応を楽しむといっても、そんな甘ったるい会話で引き留める姿を想像するだけで鳥肌が立ってしまう。
「なんだよそれ。私はお前の暇つぶしの道具じゃないぞ」
「別にいいでしょ? 貴女だって突然呼ばれて来るぐらいだから暇してたんでしょうし」
うっ、と妹紅の表情が歪む。図星か。
「ひ、暇じゃなかったぞ。ただ、その……たまたま時間が空いてたから、来てやっただけで……」
「それを暇って言うんでしょ。……いいわ。立ち話もなんだし、早く家に上がってきなさい」
そう言って家の中に促そうとすると……妹紅は、なんだか妙に慌てていた。
「ちょ、ちょっと待て。……私が上がっても良いのか?」
……そういえば、そもそも妹紅を家に招いた事も無かったわね。
「当たり前でしょ。今日だけ、私たちはお友達よ」
私の部屋に入った妹紅は、ひどく落ち着かない様子で部屋の中をきょろきょろと見回していた。
無難に客間とかに呼んでも良かったのだが、せっかくなので自分の部屋にまで上げてみることにした。ちなみにこの部屋に上げた人間はこれまで永琳と鈴仙の二人しかいない。勝手に押入って異変を解決していった連中は別として。
大きな部屋の隅っこで居心地悪そうに座布団にあぐらをかく妹紅も見物だったが、残念ながらその様子を充分に堪能する余裕はこっちにも無かった。この部屋まで呼ぶ予定は無かったから月の本や資材は出しっぱなしだし、更には敷き布団までそのままだった。そんな散らかった部屋を妹紅が見回すものだから恥ずかしくって仕方がない。
やっぱり部屋に上げる前にちょっとぐらい片付けておけば良かった……という後悔は先に立たず。そのまま布団に蹲って眠ってしまいたいぐらい恥ずかしいのを妹紅に悟られるのも癪だったので、あたかも部屋を見られても気にしてないかのように振る舞った。
「へぇ……輝夜はこの部屋で暮らしてるのか」
「ふーん、妹紅でも私の部屋なんかに興味あるんだ」
試しにそうからかってみると、妹紅は「なっ」と顔を赤くして。
「そ、そんなわけないだろ! ただ……なんというか、珍しかっただけだ」
……そっか、その反応は満更でもないってことなんだ。
ふーん、そっか……うんうん……うん。
「……? 何ニヤケてるんだよ輝夜」
「え! そ、そんなわけないでしょ。妹紅の勘違いよ」
「む、何か釈然としないけど……まあいっか」
そのまま妹紅の関心も月から持ってきた機械や何かに逸れてしまって、ほっと胸を撫で下ろした。
さて……と自分の中で仕切り直してみて、改めて思った。
で、これからどうすればいいんだろう?
そもそも妹紅を家に招いたことだって突発的なら、本当に妹紅が素直にやって来ることさえ期待してなかったのだ。
部屋に招いて、それから何をするかという考えがまるっきり欠けていたのだ。もし来たら適当におちょくってみようとは思っていたのだけど、いざ招いてみるとそんなやりとりさえもこそばゆく思えてしまった。
そもそも、身内以外でこんな風に遊……家に招くこと自体初めてなのだ。あの家に住んでた頃も同じ歳ぐらいの女の子と遊んだ事なんて無かったし。
そう意識すればするほどなんだか上手く話せないような気がしてしまう。うーん、こんなはずじゃなかったんだけど……。
一方の妹紅も初めこそ珍しそうに月の機械をいじっていたが、使い方も分からないそれをいじるのにも飽きたようで、座布団に座ったまま黙ってしまった。
「……ねぇ、妹紅?」
「……なんだよ」
「こういう時、どうすればいいのかしら」
こうなったらと思い、率直に妹紅に聞いてみることにした。
「こういう時ってどういうことだよ」
「そうね……二人っきりの時?」
特に言葉を選ばずに尋ねてみると、何故だか妹紅はぎょっとした顔をしてしまう。
「ふ、二人っきりって……お前の従者だとか因幡とかもここに居るんだろ」
ああ、そういえば妹紅には言ってなかったっけ。
「今この屋敷には永琳も因幡達もいないわ。だから妹紅を呼んだのよ。だから、二人っきりってわけ……それで、何する?」
ずい、と身を乗り出して妹紅に顔を近づけて尋ねかける。
妹紅は頬を赤らめると、そっぽを向きながら小さな声で答えた。
「か、輝夜が呼んだんだから輝夜が決めろよ」
「でも、私たちこういう事するの初めてでしょ? だから、どうしたらいいのか分からなくって……」
「初めてとか……そ、そういう変な言い方やめろ!」
あー、なるほど。
「……ううん、言葉通りの意味よ」
そう言いながら妹紅の右手を取り、自分の胸元へと押し当てた。
「お、おい輝夜……!」
「……分かる? 私、今すごいどきどきしてるの」
たったそれだけの事なのに、妹紅は顔を朱に染めてしどろもどろになってしまった。
「でも、妹紅だったらいいわよ。私のこと好きにしても」
「い、いやでも……私も、その、経験ないし……か、輝夜は色々知ってるんだろ!」
「ううん。……私だって、したことないもの」
そっと、妹紅の手を包み込むように握った。妹紅の手のひらは柔らかくて、暖かくて、汗をかいてて。手のひらで繋がるだけで、緊張してるのがありありと伝わってきた。
それがほんのりと、嬉しくて、可笑しくって。
「その……ね。妹紅に、私の初めてあげる。だから……」
「か、輝夜……」
吐息が触れ合うぐらいに顔を近づけていく。見つめ合った瞳は逸らす事なんて出来なくて。二人の身体はほとんど重なり合うぐらい迫ってきて。
そして――
「わ ざ と だ ろ う が!」
「……てへ、バレた?」
空いていた妹紅の手によって、私の顔は押さえつけられていた。
「お前はまたこんな事やって人が困る姿を楽しんで……!」
「ふふ。妹紅の恥ずかしがってる顔、可愛かったわよ。それにスケベなこと考えちゃう妹紅が悪いんでしょ」
「う……」
妹紅に蹴られるよりも早く身を翻し、乱れた着物を戻した。
まあ、要するに早々に妹紅の勘違いに気付いた私は、その勘違いを助長させて一通りからかってやることにしたのだ。
結果としては見事に妹紅は騙され、あわや私に貞操を奪われる寸前まで追い込まれたのだった。
当の妹紅は息を荒げたまま、りんごのように顔を真っ赤にして胸元を押えている。その悔しそうな表情を見るだけでたまらなく笑いがこみ上げてくる。
あー、やっぱり妹紅をからかうのって楽しい。
「……ふん、輝夜だって顔真っ赤のくせに」
そんな勝利に浸る私にぶつけられたのは、予想もしない言葉だった。
「へ……私は顔を赤くなんてしてないわよ」
「何言ってるんだよ。自分の顔よく確かめてみろって。トマトみたいに真っ赤だぞ」
そう言われて自分の両頬に手のひらを当ててみる。
そんなはずないと思いながらも、冷たくなった手の平で頬に触れてみると。
「……うわぁ」
自分でもびっくりするぐらい、頬が熱くなっていた。
沸騰しそうなほど熱くなった頬に触れて一気に指先が暖かくなっていくのを感じた。
それに気付いてしまえば、自分がどれだけ緊張していたのかと思い知らされるのはあっという間だった。小刻みに手は震え、唾液も飲み込めないぐらい喉はからから。どうしてさっきまで平気なふりをしていられたのか不思議なぐらい。
さっきまで、妹紅のこと馬鹿にしてたはずなのに。
あれぐらいの事で恥ずかしがったりして、って馬鹿にしてたはずなのに。
近付いて、身体に触れられて、手握って、見つめ合って。妹紅と二人でいただけで、こんな顔になっちゃうなんて。
改めて気付かされたそんな自分が恥ずかしくなり、より一層熱くなってしまう。そんな姿を妹紅に見られてるなんて思ってしまって、もっと恥ずかしくなって。
思わず顔を着物の裾で隠したけど、直前に見えた妹紅の勝ち誇ったニヤケ顔がどうしても許せなかった。
「う、うるさい。妹紅の方が私より顔赤いじゃない! どんだけ私のこと好きなのよ!」
「か、輝夜ほどじゃないぞ! お前こそ私のこと好きなんだろ!」
「妹紅だって!」
ううー、と二人とも睨み合いながらうなり声をあげる。このまま睨み合ってても埒があかない。
「ええい、表に出なさい! また殺し合うわよ!」
悶々とした何かを取っ払うために、私は家を出ようとした。
結局、今日の妹紅と仲良くするっていう計画は駄目になっちゃったけど、やっぱりこっちの方が私たちらしい。止める人がいないから今日はとことんまでやってやるんだから。
「やってやるよ。けど、今日だけ友達って約束はどうなったんだ?」
何言ってるんだか。
そんな当たり前の事を聞いて来た妹紅に向き直ってやる。
ぽかんとした表情を浮かべた彼女に、私は恥ずかしい気持ちを堪えながら堂々と言ってやった。
「殺し合ってても、私たち友達でしょ」
もこたんとてるよが可愛いすぎてテンションがやばい!
最後の台詞もイケてるじゃあないですか。
この二人には歩み寄ってほしいようで、このまま初々しくぎこちない関係を続けてほしいようでもある。
読んでる最中ずーっとニヤニヤしっぱなしでしたわ