Coolier - 新生・東方創想話

AVP

2005/06/05 04:00:41
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ここは紅魔館内部に位置する図書館
図書館、とは言ったものの正確にはパチュリー個人の書斎ではあるのだが
その馬鹿馬鹿しい程の蔵書量と、そこに記された知識を頼りに訪れる者達は皆
行き先を問われたならば「パチュリーの書斎に行ってくる」だなんて面倒な言い方はせず
「図書館に行ってくる」と答えるだろう、書斎の範疇を大きく越えた規模のそれは正しく、図書館としか呼べないのだから
しかし、その門は知識を求める全ての者に均しく開かれてる訳ではなく、それなりの警備を掻い潜る力が要求される
幻想郷全体における認識がどうあれ、パチュリーに取っては単なる不法侵入でしか無いのだから。


 そしてまた、招かれざる客が一人。


 異変を感じ取ったパチュリーは執筆の手を止めて来訪者の対応に向かう
外的要因で自分の作業を中断される事は実に不愉快だが
ここに入ってこられる時点でそれなりの力と目的を有している事は間違い無く
パチュリーはそんな人物を放っておけるほどの楽観主義者では無かった。


 ゴソゴソと本棚を漁っているのは人形遣いで魔法使いのアリス
何ら悪びれる様子も無く、実に堂々としたその様はパチュリーの頭痛を引き起こす
加えて何だその金髪は、全く、紛らわしい。


「ここは公共の施設とでも勘違いされてるのかしら…」
「私の事ならすぐに居なくなるから気にしないで、目ぼしいの2、3冊見つけたら後は家でじっくり」

 手を止める事も無く振り向く事も無く、今も本の選別作業を行いながら
侵入者は何やら不穏な事を言ってのけ、パチュリーは心底ウンザリしたが
今日のネズミは随分と鼻が利くようで今漁られてる本棚は相当のレア物揃い、見逃す訳にはいかなかった。


「家でじっくり、どうするつもりなの、ここは貸し出し禁止よ」
「別にいいじゃない、魔理沙には貸してるんだし」
「何でそんな事知ってるのよ」
「何でって、この目で見たもの、魔理沙の部屋で」


 訂正しよう、本日の侵入者はネズミなんかではなく女狐だったようだ
レア物の魔導書よりも尚、奪われる訳にはいかない物に手をだされた様な気がして
自然と腕に力が入り、 パチュリーが握っていた羽ペンがペキンと乾いた音を立てる
それが合図にでもなったのか、四方から魔力の波が押し寄せ二人は巨大な結界に覆われた。


「ちょっとどういうつもりよ、、もしかしてやる気なの?」


 もしかしても何も、このタイミングで張られた結界の意味する所は一つしかない
外から内に対しての防衛手段では無く逆の、内から外への、それはつまり。


「持って行きたいんでしょう、本を
なら昔から相場は決まってるわ、この本が欲しくばこの私を…とね」

「どうせすんなり持って行けると思わなかったし、手間が省けて丁度いいわ」


 その言葉を合意と取ったのか、両者は距離を置きしばらく睨み合いを続けた後
パチュリーから放たれた4筋の光が周囲を薙ぎ払いながらアリスに殺到する
こうして弾幕勝負の幕は切って落とされた。



 (カード無しとは言え、随分つまらない攻撃をしてくるわね)



 広範囲をカバーするレーザーを照射し相手の行動を制限した所で
本命の赤弾を連射し、狩る、言葉にしてみればそれは回避不能な攻撃にも聞えるがその実
それぞれの弾幕の繋ぎが甘く、何度も修羅場を潜って来たアリスは瞬時に攻撃パターンを見切る
そして二度目のレーザー発射モーションを確認し、パチュリーに肉薄
アリスは一度の攻撃でパターン所か、発射されるレーザーそのもののウィークポイントを見つけた。


 が、しかし


 パチュリーから放たれたのは4筋の光、それと無数の赤弾だった。


「ちいっ!」


 限界までパチュリーに接近していたアリスは来るハズの無かった赤弾を目にし
なりふり構わず全速力で後退、そこに意識の外にあったレーザーが襲い掛かる、回避不能。


  操符「乙女文楽」 


 カードの発動後幾ばくかの間を置いてアリスからは人形が展開、それらはてんでバラバラの方向にレーザーを放ち
その内の一つが迫っていたレーザーを相殺、アリスは事無きを得る



「随分と嫌らしい事してくるのね、魔女って奴は何でもこうも陰湿なんだか」
「弾幕はブレイン………で合ってる?」



 遠目から見ても分かるくらいに口の端を歪めながらいつぞやの会話を再現され
かああ、とアリスの顔が赤くなる、魔理沙との思い出の1ページを
他人に覗かれていた事、そんな大切な思い出を他人に馬鹿にされた事
それら、恥ずかしさと出所不明な怒りがアリスを支配し
結果、そんな大切な思い出を簡単に話して回る魔理沙の存在は隅に避けて置いてアリスは激昂した。



「なんでがそんな事知ってるのよ、あの夜、魔理沙と一緒に話したあの事を!
 どうせアンタなんてカビ臭い図書館に閉じこもってたくせに!!」

「なっ」


 カチンと、今度はパチュリーの顔が憎悪に歪む────こいつは、言ってはならない事を
偽りの月が幻想郷を支配していたあの夜、並程度の力を持つ者では解決出来ないあの怪異
もう少しの体力と、、、、勇気さえあれば魔理沙を誘って更なる親交を深める事が出来たものの…



  水符「ベリーインレイク 


 もうこいつ相手に手加減は要らない、全力を持って叩き潰す
己の言葉が引き金になったとも知らずに、パチュリーは目の前の存在を憎むべき敵と認識。


  蒼符「博愛のオルレアン人形」    


 アリスもまた目の前に居るのは憎き、そして生半可な力では対抗出来ない強敵と認識
両者はほぼ同時スペルカードを発動した。



パチュリーから飛来する水属性の影響を受けた弾幕群は、見た目も澄んだ青で実に美しいが
内部に必殺の破壊力を内包し、それらの塊が津波の如く押し寄せる。


 それに対するはアリスのスペルカード、宣言を終えると同時に彼女の周囲に6体の人形が現れ
まるで主人を守るかの如くそのまま旋回を始めるが、勿論それだけで終わる訳も無く
人形からはその質量からは到底考えられないような大量の弾を吐き出し始める。


 オルレアン人形の利点、それは攻撃に意識を回す必要が無い事だ
周囲を回り続ける人形からは常に弾幕が形成され、操者たるアリスは自ら弾を撃つ必要が無い
勿論人形を操り続ける力が必要とされるが、半自動的に攻撃と防御を繰り出すこのスペルは
あらゆる状況にも対応可能な事からアリスが最初に選ぶ事が多く、ましてや7曜の魔女と名高いパチュリー相手
どんな攻撃を繰り出してくるか想像も出来ない以上、アリスがこのスペルを選ぶのは必定だった。


「大したこと無いじゃない、これじゃあさっきのレーザーの方が余程ね!」


一見派手に見える弾幕も、レーザーを細かく引き付ければ後は己を狙う弾に集中すればいいと気づいて以降
攻撃を考える事無く回避に専念してるアリスに取っては然程の脅威となる事は無く
その間もアリスから自動的に放射される弾幕にパチュリーの障壁が削られ続ける


「さっさと次のカード抜きなさいよ、貴方のカード、質はともかく量だけは充実してるって聞いてるわよ」


  木符「シルフィホルン上級」


 アリスの挑発に答えてかはどうかは分からないが、パチュリーは無言で次なるカードを発動
一週間少女の異名に相応しく、それまで辺りを覆っていた水の属性はたちどころに消えうせ
その上から木の属性で上書きされる。


 合計三方向から飛来する緑色の弾はまるで風に舞う木の葉の様で、非常に軌道を読み難く
それでも回避行動を続けるが次第に端へ端へと追い詰められ、いよいよ避ける隙間も無くなってくる
そうやって翻弄されるアリスを見ながらパチュリーがボソリと一言


「水生木、木は水から生じる、これは揺らぐ事無い自然の摂理ね」


 ついでにクスリ笑いのおまけ付き、しかしそれに反応する余裕はアリスに無かった
予め水の属性で埋め尽くされていた空間に投げ込まれた木属性
その事により五行相生効果が発生し、シルフィホルン上級は通常の何倍もの威力を持って襲い掛かる

 いくら半自動的に攻撃と防御を繰り出すと言っても、人形自体は常にアリスの周囲に留まっている為
アリス本体がパチュリーから離れてしまうとその弾幕密度が薄まるのは自明の理
相手の攻撃を避ければ避ける程自分の攻撃は弱まり、ここままだとジリ貧に陥る事になる


 そして何より、オルレアン人形達が傷付く様を見てるのが辛い
人形はカードの効果で具現化してる為、実際には部屋に置いてあるオルレアンが傷付く訳では無いのだが
それはそれ、自分が手間暇かけて作り出した人形が傷付く様を見るのは創り手として辛い物だ───そろそろこの子達は休ませてあげよう



  白符「白亜の露西亜人形」



 パチュリーから見て堪らず、と言った感で使用されたカードの発動と同時に
アリスの周囲に漂っていた人形が消え新たな人形が姿を現す
水生木のコンビネーションを綺麗に決めたパチュリーは、どれどれお手並み拝見と緑弾を叩きつけ、我が目を疑った。


 無いのだ、先ほどアリスが呼び出したハズの人形が跡形も無く消失してるのだ
その為、人形の加護を得られなくなったアリスが必死に回避運動を取ってる姿を見るも
どこか気分は落ち着かない、防御手段を失い防戦一方の相手を見ても心は必死に警鐘を鳴ら続ける。

 そしてその気持ちを裏付けるかの様に、周囲に巡らせて置いた探査結界が作動
一瞬の間を置いて、パチュリーを露西亜人形達が取り囲み一斉に弾幕を放つ。


 結界のおかげで回避行動に移れたパチュリーはそのまま反撃に移るが、しかし
先ほどまで自分を取り囲んでいた居た人形は既に影も形も無い


(何事…! あの魔法使いは何をやったの!)


 露西亜人形は再び姿を現し、弾幕を放ち、再び消える
集中が途切れ、すっかり薄くなってしまった弾幕を鼻歌交じりで避けながらアリス。


「適材適所って奴ね、私は回避を、あの子達には攻撃を担当してもらったわ」

 
三度、自らを襲い次の瞬間には煙の様に消える人形達を前にパチュリーは一つの推論に達した。


(アイツはまるでスイッチをオンオフするかの様に、人形の実体化を切り替えてる)


 人形を配置し実体化、攻撃が終わると同時にそれを解き魔力に変換、それをまた配置…と
傍から見ると人形が瞬間移動してる様に見えるが、それは単に見えなくなってるだけで
確かに存在はしている、しかし強力な妨害がかかっており位置は分からない為に視認するしか無く
やっとそれが可能になる頃には…


「あぶないっ…!」


露西亜人形達による四度目の攻撃がパチュリーを襲う。


「ちょっと変わってるでしょ、このスペル、地味だけどお気に入りなの」
「一旦具現化した物をまた解くなんて、信じられない、非常識よ」

 そう、一旦スペルカードを使って具現化した物をまた魔力に戻すなんて非常識非効率極まりない
それこそ無尽蔵な魔力の持ち主か、或いは対象物のイメージ化がこの上無く正確か
無論、日頃から人形を創り操っている彼女は後者に当てはまるだろう。


  
   土符「トリリトンシェイク」

 

 劣勢に陥ったパチュリーは新たなスペルを使用、しかしそれは五行を取り入れる事も無く
弾幕自体も平凡な実につまらないカードだった。


「あらあらせっかくの相生効果も台無し、随分焦ってるみたいね」
「………」

そんなカードで状況が変わる訳も無く、消えては現れる露西亜人形達に
翻弄され、再びパチュリーは追い詰められるがその口は再びニヤリと歪む。

 
   金符「シルバードラゴン」 


 場に立ち込めていた土の気配は消えうせ、辺りを包むのは金気一色
そこに至りアリスはパチュリーの企みを理解、さっきのはあくまで布石に過ぎなかった、それも


「色々試してみたけど、貴方の属性って木でしょう?」


 ビクン、と反応してしまうアリスを他所に、パチュリーから鈍く銀色に光る弾幕が放射
それらは形こそ統一されてるものの、速度と角度が微妙にブレており
この微妙なブレが直線的な動きに変化を加え複雑な軌道を形成する、それに加え


「ええその通り! 根暗な魔女らしくせいぜい弱点を突いてればいいのよ」

 
 啖呵を切ってみたものの非常にマズい展開、パチュリーの言った通りアリスの属性は木
それに対するパチュリーのカードは金、ここに金剋木が成り立つ事に加え
先ほどの土属性から土生金が成立、地中からは金属が掘り出され
金属はどんな大木をも切り倒す、アリスは相生と相剋両方の影響を受ける事になった。



    雅符「春の京人形」


 
 散発的な攻撃では敵わないと踏んだアリスは新たなカードを使用
踊るような仕草で一回転すると、操者の周りに音も無く現れるのは6体の人形
オルレアン人形の上位互換に位置するそれは、まるで春の開花を思わせる
鮮やかな色彩の弾幕を展開、先ほどまで銀一色だった世界が一変する、が



 今もまた、避けきれず障壁をも貫通したパチュリーの攻撃がアリスの服を裂いた
単純な弾の数だけ取ってみればアリスは相手を遥かに凌駕していたし
カードの特性上、細かく動き回れないパチュリーに対し、半自律型の人形のお陰で回避のみに専念する事が出来るが
それらのアドバンテージを経ても尚、力一歩及ばないのはお互いの表情を一目見れば分かるだろう
それ程までにパチュリーの敷いた布石は強力で、アリスは追い詰められ続ける事になってる
今もまた、銀色の牙がアリスのスカートの裾を裂き、ふとももが露になる。


「プッ、貴方いい格好になってきたわね………売女にはちょうどお似合いかしら?」

 
 陰陽五行の理に則った効果的な弾幕攻撃の前にアリスの服は破れ、髪もボサボサ
満身創痍とも言える恋敵の様子がなんともおかしくてパチュリーは吹き出してしまった。


「魔理沙は私を選んだのに売女とは言ってくれるじゃない、これが負け犬の遠吠えって奴?」

 
 売女、と聞き流すにしては穏やかではない侮蔑の言葉に反応したアリスは返す言葉でパチュリーの心を抉り返す
一歩どころか半歩間違えるのも許されない程、濃密な死の気配に満ちた空間の中で
彼女達は場違いも甚だしい口喧嘩を始めた


「物で釣っておいて良くそんな事が言えたものね」
「あら、物に釣られない魔理沙なんて魔理沙じゃないでしょ
  私は自分が取れる最善の手段を選んで、最高の結果を勝ち取ったのよ、ただそれだけ」
「そんな事言っても魔理沙が貴方を選んだんじゃなくて、貴方が魔理沙を選んだだけでしょ
あの夜だって誘ってさえすれば間違いなく私を選んだわ!」
「そりゃあ、魔理沙の性格を考えたらそうなるだろうけど、今となってはそんな物は意味の無い仮定、単なる思考実験ね」
「……黙りなさい」
「本ばっかり見てないでたまには現実も見たら? なんてね」
「黙りなさいって言ってるの……私は…」
「私は魔理沙と寝たのよ!!!!」
「な……」

 とパチュリーが叫ぶと同時に、弾幕の数が爆発的に増加
ギチギチと、銀色の弾同士が擦れ合う不快な音が至る所で不協和音を奏でる
それはまるで彼女の突き刺さる様な敵意が具現化して聞えてきたようだった

 
 一方、きっかけはともかく、巧みな心理戦で相手を動揺させ現状を打破しようと考えてはいたものの
パチュリーの爆弾発言により、そんな事ある訳ない、何だかんだで奥手な魔理沙が……いやしかし…と、逆に自分が動揺してしまう
そこに原理は分からないがとにかく、凶暴さを増したパチュリーの弾幕が襲い掛かり
アリスは我に返る、がその一瞬の隙により更なるピンチに陥った


(もう京じゃ対応出来ない!)


    咒詛「魔彩光の上海人形」


 決断は早く、アリスが所有するカードの中でも上位の力を秘めた上海人形を呼び出す
即座に展開された弾幕がアリスを完全に方位していた銀色の弾幕と正面からぶつかり合い
互いの存在を飲み込もうと干渉し合う二つのエネルギーは、激しい音を上げながらしばらくその場で停滞した後に霧散
それまでの騒ぎが嘘だったかの様に辺りを静寂が支配する、嵐の前の静けさとは正にこの事か



    咒詛「首吊り蓬莱人形」   
    土&金符「エメラルドメガリス」


 臨機応変な対応を見せるだけでは無く、相生と相剋をフル活用した攻撃を正面から破る力も持つアリスに対し
気が付いた頃にはもう遅い、幾重にも張り巡らせた布石で致命的な攻撃を繰り出すパチュリーに対し
まるで事前に示し合わせていたかの様なタイミングで両者は、現在それぞれが持ちうる最高のカードを抜いた。


 首吊りの名にふさわしく、まるで真綿で首を絞められるように迫り来るアリスの弾幕。

 エメラルドの様な美しい輝きを伴いながら、その弾道は統一性を持たず無軌道に迫り来るパチュリーの弾幕。


 見ためこそはして全くの別物なれど、大玉とそれに追従する小玉と言う両者の弾幕の性質は非常に似通っていた
それぞれの大玉と小玉は相殺しあい、それを免れ飛来した弾を両者は見切り、避け、時にはカスる
もう口を開く暇だってない、ただひたすら撃って避ける、小細工無しの弾幕勝負。


 ボロボロな服装のアリスをまるで売女だと揶揄したパチュリーだったが
今では自身が纏うネグリジェの様な服も傷付いていない部分を探す方が難しく
アリスに至っては下着が大きく露出してしまっているが、そんな些細な事を気にしている余裕は無い。

 余計な思考は一切カット、両者は機械の様にただ回避と反撃を繰り返し続け
その単純作業に、もはやそう言い切ってしまって構わないだろう、意識が朦朧としてくる
そうやってどれ程の時間が経っただろうか、結局お互い致命的となる一撃を被る事も無く………やがてタイムリミットが訪れる。


 辺りを埋め尽くしていた弾幕は跡形も無く消え失せ、場に存在するのは空中に浮かぶ二人の少女のみ
周囲の状況からスペルカードの有効時間が切れた事を悟ったアリスは
今まで思考の隅に追いやっていた事柄をふと思い出し、後から遅れて怒りが湧いてきた。


(もう魔理沙は私の物だってのにいつまでも女々しく追いすがって…
 それに何なのあのふざけた攻撃は、弾幕勝負だって当たり所悪ければ簡単に死ぬのに…!)



 頭に来た、それはアリス以外の者に取っては何とも理不尽に映る内容だろうが
アリスは最高にムシャクシャしていた、この憤りをぶつけたい
でも最上位のカードを使ってしまった以上、もう使えるカードは無い
ならみみっちい通常弾幕でも張るか? とんでもない、そんな事じゃ私の怒りは収まらない
カードが無い、それがどうした、自分には立派なこの両の腕があるじゃないか



 魔理沙絡みの確執や、極限の疲労により誤作動でも起こしたのか
アリスの頭脳はとんでもない結論を導き出し、体に信号を送る



 高速接近したアリスは、その勢いを殺さず右のストレートに乗せて放つ───目標はあの忌々しい魔女の右頬!!
メキィ、と美しすぎる軌跡を描きパチュリーにインパクトしたその姿は
そのまま額縁に切り取り「怒れる女」と題名を付けて飾って置きたくなるようなある種の神々しさすら放っていた。


 パチュリーは混乱に陥る、何なんだこの女は、弾幕勝負なのになぜ、その振り上げた拳を何処に持っていくつもり───あ
まるで吸い込まれる様に己の頬にめり込む拳、貰った瞬間は世界の全てがスローモーションになり
パチュリーの体は後方にブッ飛び、遅れて痛みがやってくる、そして慣性の法則に身を任せてる間、様々な事が頭を過ぎった
私の魔理沙を連れ去った、私の布石を下品にも力任せで破った、そして弾幕勝負のハズなのに、何より……


(魔法使いのくせにグーパンチで襲い掛かるなんてどういう神経してるのよ!!)


 考えれば考える程に腹が立つ、今更本を捲るまでも無い、右の頬を打たれた時の対処法は────左の頬を打ち返せ!!
楽に移動する為では無く、更なる加速を得る為に空気に乗ったパチュリーはアリスに肉薄
メキィ、と冥き想いを力に換え放たれた拳はアリスの左頬にこれまたクリーンヒット、次はアリスが盛大に吹っ飛ぶ
そして両者はどちらから言う事も無く地面に降り立ち、幻想郷に用意された平和的解決策である所の弾幕合戦を放棄
凡そ、魔女と魔法使いの争いにはそぐわないであろう己の肉体に寄った決着に回帰、即ち殴り合いを始める。



「あの夜、魔理沙を連れ出したのは私よ!」

アリスの拳がパチュリーの顎を跳ね上げる

「私と魔理沙が図書館で何をしてるか知らないくせに…!」

パチュリーの拳がアリスの腹に深くめり込む


実は魔力でも行使してるのでは、と錯覚する程に痛烈な打撃をお互いの体に刻み合う
一つ刻んでは魔理沙の為、二つ刻んでは魔理沙の為…地獄の鬼も裸足で逃げ出したくなる様な光景も
見る者によっては美しいと映るかもしれない、彼女達を突き動かす原動力
それはピュアで一途な愛の力なのだから……愛、それは奇跡


「知らなくて結構! そもそも付き合いは私の方が長い!!」

アリスの拳が再度、パチュリーの右頬にねじ込まれる、奥歯を一本持って行く

「昔に一回顔合わせただけじゃないの!!!」

パチュリーの拳がアリスのこめかみに突き刺さる、皮膚がパックリと切れその部分から血が滴る


そして何処で選択肢を誤ってしまったのか、弾幕合戦から肉弾幕合戦へと発展した今日の騒動はその幕を下ろされる時がきた


「魔理沙は」
「魔理沙は」

「私の物よーーーーー!!」「私の物よーーーーー!!」

 今この時の為だけに力を蓄えていたのだろうか、今まで中で最高の力が込められ
最適な角度を狙い、最速の速さで放たれた両者の拳がクロス、お互いの顔面にめり込み、ダブルKO
そこを偶然通りがかった……と言うのは単なる方便で、実は最初の弾幕勝負から今に至るまで
全ての顛末を見ていた小悪魔が二人を医務室に運んだ、小悪魔曰く「悪魔と言えども命は惜しいですから」




 目を覚まし、最初に取り戻した感覚はまず嗅覚、なんだか不快なアルコールの匂い
次は視覚、理由は分からないが、自分は今寝ているのだろう、真っ白い天井が見える
そして痛覚、体を動かしてみるまでもなく、じっとしてるだけで全身が悲鳴を上げ続けてる


「んがががっ」


 不意に襲った痛みにアリス自身もまた悲鳴を上げ、その痛みと共に意識が覚醒を始める

 資料を漁る為に図書館に出かけて、想像以上の掘り出し物を見つけて
パチュリー・ノーレッジが現れて、予想通り弾幕勝負が始まって…
まぁ色々あって…殴り合って…………殴り合い?

信じられない、この私が? と精神の防衛機構が働いたのか
アリスは即座にあの出来事を無かった事にしようとするが、物理的な証拠が残ってしまった以上既に手遅れ
今も全身から訴え続ける痛みがあの狂宴の生き証人だった。


「んがごごっ」


アリスが不毛な抵抗を続けるなか、隣り合ったベッドから奇声が漏れる
確認するまでも無い、先程まで不覚にも死闘を繰り広げていた相手だろう。


パチュリーも同じく、意識の覚醒が進むにつれてその顔に浮かぶ表情が
困惑、後悔、苦悶と色を変えていく、彼女も精神の復旧作業を続ける

やがて、先に目を覚ましたアリスが自己の構築を済ませ
とりあえずは、と脇に置いておいた問題について処理する事にした。


 「もう話せる?」
 「………意思はともかく話をする事は可能よ」
 「じゃあ単刀直入に聞くけど…聞くけど…」
「何よ」
「魔理沙と寝たって本当なの?」

 盛大に噴き出したパチュリーはその反動が体に返り全身を更なる痛みが襲った

「あががががっ!」

もうそのつもりは無いにしろ、ダメージを与える引き金を絞ってしまったアリスは
そんなパチュリーの愉快な様子を馬鹿にする事もなく返事を待つ、あの痛みは自分は自分も経験しているのだから。

「…………じゃない」
「はい?」
 「魔理沙が……いつも肝心な所でヘタれる魔理沙が……じゃない
  あれは勢いに乗って言っただけよ、既成事実は成立してないわ」

 ああやっぱり、とアリスは胸を撫で下ろす
あの霧雨 魔理沙がそんなホイホイと事に及べないのは分かりきってる事じゃないか
それなのに…熱くなって……あんな…魔法使いらしからぬ……
アリスが深い後悔の海に入水を始める中、パチュリーの言葉が続いた。

 「そういう貴方はどうなの、その……したの?」
 「そんなの聞くまでも無いじゃない、''あの''魔理沙なのよ…」

 ああやっぱり、とパチュリーも胸を撫で下ろす

お互い指一本動かせない様な状況なので話をするしか…
これもそれなりの労力と痛みを引き換えにする必要があるので辛い事は辛いが
とにかく、代名詞だけで会話が成立する程に魔理沙を理解し合ってる二人は
今までそんな人と会った事が無く、、、そもそも人と接する機会が余り無い二人は
無言の内に休戦協定を結び、やれ魔理沙はどうだとかこれだから魔理沙は等と
医務室のベッドの上、再び眠りに付くまで魔理沙談義に花を咲かせる事となった。


ボロボロな二人が薄笑いを浮かべながら魔理沙、魔理沙と呟きあう姿は
傍から見て薄気味悪い事この上なく、タオルを代えに来た小悪魔が戦慄した事を付け加えておく。


 結局、全身が癒えるまでの間、人間では無い二人に取って非常に短い期間ではあったが
アリスはパチュリーが、パチュリーはアリスが、自分と同じくらいに魔理沙を好いてる事を理解した
自分が諦めきれない以上、相手が諦める事は出来ない、この手の感情は得てして
理解は出来ても納得は出来ない代物だがそこは魔女と魔法使い、それはそれと、見事に感情のタスク化に成功
今では何とかして魔理沙を二人に増やせないか、等と実に建設的な共同研究を始める始末
淑女協定も締結され、今日も二人で仲良く霧雨亭を訪れている事だろう
二人がかりなら、奥手な魔理沙も折れたのかどうかは定かではない。

クーリ絵板でアリスとパチュリーが争うからAVPとの発言を見て成る程と
最初は片腕に銃を移植した宇宙海兵隊やインチキ気功使いが幻想郷でそーけいはー、な内容だったんですが
そこに萃夢想効果で発生したパチュリーとアリスって可愛いなぁとモニュモニュとした気持ちを放り込み
一晩煮込んでみればアラ不思議、辿り着いたのはあの女のハウスでした。
二行目は嘘です。
ghetto
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コメント



0.2810簡易評価
4.無評価刺し身削除
その勝負、合意と見てよろしいでs(ry
6.100ブロディ削除
二人の可愛らしい描写が素晴らしいッ!
AVP! AVP!!
16.70沙門削除
 殴り合いの果てに二人に友情が芽生えたのですね。戦闘描写も面白く楽しく読ませていただきました。次回作を期待しています。
17.80名前が無い程度の能力削除
確かにAVPだな……
24.100空欄削除
どの女のハウスだー!

でも宇宙人対捕食者に当てはめてみても
アリス……なんかやたら仲間を増やす、そして攻撃力も種類も豊富
=宇宙人側
パチュリー……動きこそしないが的確な計画と武器と技で色々と狩ったりする
=捕食者側。
であってるから不思議不思議

どちらが生き残っても、人類(魔理沙)に(純潔の)未来は、無い。
そしてもう組んでしまったわけだからもっと無い。
32.70名無し毛玉削除
夕焼けの中、お互い大の字になって「へへ…お前なかなかやるなぁ」「ふんっ…お前もなー」
男同士なら美しい友情モノなんでしょうが、女性の場合その後の化学反応が怖いですなぁ…^^;
45.80名前が無い程度の能力削除
題名からエイリアンVSプレデターかと思った

その対決よりこっちのがこええ。w