Coolier - 新生・東方創想話

くろこのらん Speed Fox

2005/06/02 15:56:50
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疾風より速く 私は駆ける
光も闇も無く 明るくも暗くもない
風を感じることも無いのに 金の尾を長くなびかせて


「――ちなみにお賽銭箱はそこ」
「怪しいわ。あなた」

脳が天気。略してのうてんきな巫女の住む神社――から少し離れた所に身を潜めて聞き耳を立てるとそんな会話が聞こえてくる。
ふむ。あの悪魔の狗が最初に動いたか。ピクンと耳を揺らして弾幕の飛び交う音を聞く。
あの紅白に突っかかっているようではまだ核心には迫っていないようだ。もう少し様子を見よう……。
思考するところに尻尾が引っ張られる感触を受ける。虚空に溶け込んだ尾に引っ張られるように私は空間の隙間に飛び込んだ。



スキマから飛び出して空中でとんぼを打つ。自慢の尻尾が私の動きをなぞってくるんと金の軌跡を残した。
何事にもスタイルが肝心なのだ、と私は思う。強大な主の威厳を私なりに保つよう気を使っているのだ。

「藍、遅いわよ」
「申し訳ありません」

私には理由はわからないが紫様のスキマを使った移動は時間の経過と言うものがない。
だから遅いも早いも無いはずだけれど、スキマ妖怪である主には何か違うらしいのでとりあえず謝っておく。

「そろそろ動きがあったみたいじゃない?」
「はぁ……その通りですが、何故ご存知なんですか?」
「解らないほうがおかしいのよ」

それなら私を探りに出す必要はないんじゃないか。

「あらやっぱり解っていないわね。貴方もまだまだ未熟ねぇ」
「モノローグに突っ込まないでください。それに確かに紫様ほど成熟はしていませ……ゴメンナサイ」

怖かった。


「それで如何しましょう?」
「そうねぇ…とりあえず新しい布団かしら?二度寝するための」
「それはもう隣の部屋に用意してあります」
「あら、前言撤回。貴方成長したわね」
「それはもう……それで鬼の宴会のほうは良いのですか?」
「ええ、とりあえず貴方が様子を見て出番になったら起こしてね」
「お任せを」

言ったそばから主の姿は消えていた。もう隣で寝ているんだろうなぁ…
くるんと回ってスキマに飛び込む。式の気配を頼りに飛び出した先は厨房だった。


「橙」
「あ、藍さま。何ですか?お昼ご飯ならもうすぐ出来ますよ」
「紫様がまたお休みされているから、使用済みの布団を干しておきなさい」
「はーい」
「頼むぞ。ちゃんと太陽にあててふかふかになった布団じゃないとブーたれるからな」
「あー、藍さまひどーい。紫さまじゃないんですからそんないい加減な干しかたしませんよぅ」
「こら、そんなことを言ってはいけないよ。あれでも私たちの主なのだから。
 そういう時は頭が春な紅白じゃないんだからと言いなさい」
「はーい」
「では頼んだよ」

さて外の世界のことも見ておかなくては。ああ忙しい。




引きこもりの魔女や紅い悪魔までもが事態の解決に動いたが、全て小さな鬼に退けられてしまった。
その度に私は逐一観察し、しかるべきタイミングで紫様を起こすのだった。いい加減解決してくれないかなぁ…。


「紫様、そろそろ出番ですよ」

呼びに行くと紫様は布団にくるまったままおはぎを食べつつ、外の世界からとってきた漫画雑誌を読んでいた。
我が主ながらだらしなさ過ぎて色々と目も当てられない状態だ。

「むぐむぐ。あらまたなの?これで何度目かしらねぇ」
「七度目です。今度はあの紅白ですし、この件ももう決着が着くと思いますけれど」
「そうねぇ……それじゃあ行って来るわね」
「お疲れ様です」


さて、橙に後片付けをさせたら夕食にするかな。
紫様が残していったおはぎを頬張りながら漫画を読んでいた私はそんなことを考えて居たのだが、急に尻尾が引っ張られてしまった。

「召喚、八雲式ぃ~♪」

ぎゅいーん。と回転して霊夢に体当たりをしつつ私は自分の迂闊さを呪った。
ああ、そういえばこれがあったんだ。紫様も毎度律儀に私を使わなくても良いのになぁ…。



「えーい、夢想封印!」
「きゃーっ」

ドゴドゴドゴドゴォっ

霊夢のスペルを食らって吹き飛ぶ紫様。実はちょっとだけいい気味かな~とか思ってしまう。

「うーん。私は関係ないわ~。 みんな、あいつの遊びなのよ~
 何となく宴会を始めるのも、何となく妖夢が酔っ払って踊り始めるのも」

紫様が言い訳を始めたが、確かに直接関与はしてないけれど
事件の全容を知っていて経過もずっと観察して(私にさせて)おいて関係ないというのは如何なものだろう。


紫様が境界に干渉して鬼の姿を実体化させる。
私はその表情を見て、なんというか共感のようなものを感じてしまった。
そう……伊吹 萃香の顔は誰が見ても「もう面倒くさくなってきたな~、この事件終わりにしたいな~」と言うだるさに満ちていたからだ。
まぁこの分ならどちらが勝っても事態は収束されるだろう。
そうすれば、私も橙も紫様も宴会に参加できる。橙の奴に今日の夕食は用意しなくていいと言っておかなければな。



今まででもっとも派手な宴会がはじまった。これを期に皆落ち着いていくだろう。
見やると皆無限に酒の湧く鬼の瓢箪に夢中になっているようだ。
我が主はと言えば、今回の事件では動かなかった幽々子様と歓談なさっているようだ。


「そろそろ貴方辺りが動くと思って見てたけど、結局動かずだったわねぇ。どうしたのよ今回は」
「あら私は気にしないもの。楽しければねぇ。それより貴方の式のほうがしびれを切らしそうじゃなかった?」
「あら、藍。貴方事態を解決したかったの?貴方がそんなに異変に対して積極的だったなんて気付けなくてごめんなさいね」
「いや、まぁ」

突然話を振られてしまった。紫様、私が痺れをきらすというのはそういうことじゃありませんよ。
幽々子様もクスクス笑っていらっしゃらないで気付いていたなら動いて下さったら良かったのに。
紫様のご友人だけあってこの人もこの人でなぁ……。

「決めたわ。次に何か異変があったら藍。貴方に存分に活躍してもらうことにするわね♪」
「ぶっ!……勘弁してください」

せっかく稲荷寿司と銘酒「狐の嫁入り」でいい気分になっているのに不吉なことをおっしゃらないで下さい。



まぁ紫様がなんでもお見通しであるかのように見栄を張るために奔走させられたこの事件もこれで終わりだ。
これでまた少しの間、穏やかな日々がもどってくることだろう。
しかし最近たまに満月が揺れるのが気にかかるなぁ。また面倒な事件にならなければ良いのだが……。





藍はまだ知らない。満月の異変を解決する際に物凄くこき使われることになる運命が待ち受けていることに。
忙しくてスッパテンコーする暇もありませんね藍様。

はじめまして。
初書きですが楽しんで頂けたら幸いです。
ろっこー
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コメント



0.1720簡易評価
28.80名前が無い程度の能力削除
凄く良いです。
あっさりとした文量ではあるけども、
御狐様の苦労っぷりとか、さり気ない永夜への繋げっぷりとか、
自然に読ませる部分がとても上手いと感じました。
丁寧に作ってるなぁとの印象を受けましたね。

・・・ゆかりすと的には、
必要以上にゆかりんを貶めてないのもかうぁいいよ!!1