「ん~・・・」
「あらチルノ、どうしたの?」
「あ、レティ。いやその~・・・、例のアルバイトでまた、本をもらってきたんだけどさ・・」
「ああ、紅魔館の貯蔵庫に、氷を供給するってアレね。」
「うんうん。で、いつも通り、報酬の本をもらってきたんだけどさ。」
「また絵本でしょ。」
「それならよかったんだけど・・・」
「違うの?」
「ほら、冬の間はさ、他の季節よりずっとお呼ばれする機会も少ないじゃない。だからできるだけ長く楽しめるのをって思って、分厚いのを選んだんだけど・・・なんか文字ばっかりで、しかも読めない文字なのよね。」
「見せてみて。 ふむ・・これは、英語ね。」
「えいご?なにそれ。」
「アルファベットっていう文字形態で構成された言語よ。」
「なるほど~? それはつまり、あたいには読めないってこと?」
「そうねえ。英語がわからないと、辛いでしょうね。」
「うー。えいごも、あるふぁべっとも、わからないや。くっそー、こんなことなら、ちゃんと中身確認してくればよかった。なんで、絵本のコーナーにそんな文字ばっかりのわけわからない本が混ざってるのよ・・」
「うーん、それならチルノ、英語、勉強してみる?」
「勉強いやっ!」
「でも、英語がわかるようになれば、その本だって楽しめるわよ?」
「んー・・・」
「それに、英語がペラペラ話せる子を、誰もバカなんて言わなくなるわ。」
「ん!・・・やるっ!」
「うふふ。いい子ね、チルノは。」
「うん!教えて!レティ!」
「ええ。それじゃあ、アルファベットから勉強しないとね。」
「あるふぁべっと・・・」
「そう。アルファベットっていうのはね、26文字からなる、とても単純だけど機能的な記号で・・・」
「なってない!たるんでるわよ、咲夜!」
「申し訳ございませんっ!お嬢様っ!」
「まあまあレミィ、そう頭ごなしに怒ったら、咲夜も立つ瀬がないでしょう。いつもの頑張りに免じて・・」
「いいえ、パチェ。こういうことはね、しっかりとしておかないとだめなの。」
「そりゃあまあ、主人の部屋のカーペットに鼻血を垂らして汚すなんて、従者にあるまじき失態だけど・・・」
「違うのよ、パチェ。カーペットなんて、この際どうでもいいの。私が怒っているのは、それを隠そうとしたことよ。」
「私はただ・・お嬢様が、ご気分を害されてはいけないと思い・・」
「害したわよ。起きてお気に入りのカーペットが台無しになっているのを見るよりもずっとね。まさか、誰よりも信頼していた貴女に、その信頼を裏切られるなんて・・ね。」
「・・・申し訳・・ございません・・!」
「・・まあいいわ。これ以上は責めないわ。でも、ペナルティは受けてもらう。」
「ぺ、ペナルティですか?」
「そうよ。そうねぇ、どうしようかしら・・・よし!咲夜!」
「は、はい!」
「今後、館内で鼻血を垂れた者は、門の前で一日正座!貴女には早速今日してもらうわよ。」
「わかりました・・・」
「Aぇ~・・・ Bぃ~・・・ Cぃ・・・ 」
「そうそう、その調子よ。」
「でぇ~ Eぃ~ ふぇ~・・」
「はいストップ。」
「え~?」
「DとFの発音がおかしかったわよ。わかる?」
「うー。えーと・・でぇーと、ふぇー・・・あれ?」
「正しくは、ディーと、エフ、よ。」
「でぃ~ えふ・・?」
「ええ、そうよ。間違わないようにね。」
「うん! Dぃ~Fぅ~」
「がんばっ!」
「はあ・・情けない。紅魔館メイド長ともあろう者が、この体たらく・・。心を入れ替えないと。」
「大変ですねえ、咲夜さんも。」
「外勤の辛さがよくわかったわ。こんな寒い中、いつもご苦労様、美鈴。」
「いえいえそんな。私は気を扱えますから、このぐらいの寒さ、涼しいくらいですよ。」
「なるほど、適任ね。」
「ええ、バッチリ任せてください!」
「でも門番の仕事は、門の前でつっ立ってるだけじゃないわよね?」
「う・・それはちょっと痛いところです。」
「ふふ、冗談よ。ブラックリスト入りしてるような特別な連中以外は、ちゃんと貴女が全部追っ払ってくれてるってことぐらい、知ってるわよ。本当に、ご苦労様。」
「咲夜さんこそ。」
「Aぇ~Bぃ~Cぃ~Dぃ~」
「うんうん。さまになってきたわね。いい調子よ。」
「えへへっそうでしょ!そうでしょ! えーと・・・Fぅ~Gぃ~」
「あ、E飛ばしたわよ。」
「うー!レティが変なタイミングで声かけるから、集中が乱れちゃったの!」
「あら、それはごめんなさいね、うふふ。」
「それにしても・・・あれは、誰かしら?」
「ああ、そこの湖に住む氷精達ですよ。たまに私のところにも遊びに来たりしますよ。」
「ああ、あれが、例の貯蔵庫の。」
「ええ。」
「何をしているのかしらね。」
「さっきまで、Dがどうとか、Fがどうとかって言ってましたけど・・・話の中身までは・・・」
「D・・F・・!? それって・・・!」
「・・どうかしたんです?」
「は、白昼堂々と、そんな話で盛り上がるなんて・・・恥知らずにも程があるわ!」
「ええ?少し騒がしいですけど、楽しい、いい子達ですよ?」
「美鈴、あんた減俸。ボーナスカットよ!」
「ええー!?」
「Vぃ~Wぅ~Zっ。つっかえずに全部言えたよ、レティ!」
「よしよし、だいたい覚えたわね。」
「えへ。歌と一緒に覚えると、すごく覚えやすかったよー。」
「うふふ。チルノだって、やればこんなにできるのよ?」
「うん!」
「でも、毎回歌に頼っていたら、いざというときに困るわよね?今度はこういうのはどうかしら?」
「どーいうの?」
「そうね、じゃあ、7番目のアルファベットを言ってみて。」
「え、えーと、ねー・・・」
「Aを1番目として、7番目よ。」
「う、うん。うー・・・ え、Aぇ~Bぃ~Cぃ~・・」
「ふふ、まあ、最初はそれでいいわよ。」
「わかった!G!」
「正解っ!」
「…何を話しているのかしら?」
「うーん、ここからだと、あまりよく聞きとれませんねぇ…」
「よし!少し近づくわよ!」
「気付かれますよー。」
「ほふく前進よ!」
「えへー。ん~・・・レティの胸、やらかくて、きもちい~。」
「甘えん坊さんね、チルノは。」
「それはいいこと?悪いこと?」
「とっても・・いいことよ。」
「えへー。」
「どう?聞こえた?」
「んー・・・おそらくあの大きい方の、胸に関する話をしているようですが・・・」
「なっ!? め、美鈴!あんた減俸!2割差し引き!」
「そっそんな!八つ当たりですよー!」
「ふにふにー。」
「あ、こら、やめなさい。」
「やめないよー。あ、逃げるなオッパイ!」
「もう!じゃあ、そうね・・・次の問題が解けたら、好きなだけ私の胸で甘えて良いわよ。」
「おっ!言ったわね!受けてたってやろうじゃないの!」
「うふふ。ちょっと難しい複合問題で行くわよ。」
「あ、ずるい!やっぱりやめる!ふに~」
「お預け。私の名前をの頭文字は、アルファベットの何番目になる?」
「う、う、う・・・」
「さあ、じっくり考えて。手はとめて。」
「む、胸を揉んで・・・!?!? は、破廉恥な・・・!」
「咲夜さん、やめましょうよう、なんだか向こうも立て込んでるみたいですし、さすがに悪趣味ですよー。」
「ここまで来たら、もう引き下がれないのよ!」
「何を意地になってるんです・・」
「美鈴、あんた減俸。半分差し引き。」
「もーやだー!どうやって生活すればいいんですか!」
「ピンチなら、お米の研ぎ汁くらいならあげるわよ。」
「ひどい!」
「じゃあ、どこぞの宵闇の妖怪みたいに、その辺で肉でも野菜でも調達してかじってればいいじゃない。」
「そーなのかー!」
「さ、あと少し近づきましょう。行くわよ!」
「しくしく・・」
少女ほふく前進中・・・
「よし、ここなら、よく聞こえるわ・・・」
「うう、なんで私こんな目に・・・」
「おだまりっ。」
「んん・・んんん・・・」
「どう?」
「うー・・・ あ!」
「わかった?」
「うん!えーと・・・Aぇ~Bぃ~・・」
「な!?」
「さ、咲夜さん、ボリューム落とさないと、気付かれますよ・・・」
「む・・」
「Dぃ~Eぃ・・・」
絶望へのカウントダウンが始まった
「う、嘘!嘘よ!」
「咲夜さん、だめですって!気付かれますって!」
「Gぃ~ Hぃ~ Iぃ~・・・」
確実に近づいてくる首切り人
「あ・・あ・・お願い・・嘘だって言って・・・う、胃、胃が・・あがが・・」
「さ、咲夜さん?大丈夫ですか咲夜さん・・・」
「・・・K!わかった!Kね! 11番目!」
目の前に迫った圧倒的恐怖に、罪人はついにその心を手放すことを選んだ
「・・・れみりゃたま・・・さくや・・・ぽんぽん・・いたーの・・」
己の持つ時間を操作するという常軌を逸した異能を用い、己の肉体の時を・・・逆行させる
己の魂を守るため、己を苦しめる自責の念の及ばない、はるか昔の幼き時分へと
「さ、咲夜さん、なんで小さく?!し、しっかり!」
「ざーんねん。ハズレよ。」
「ええ!?なんでー!?だってKは・・1、2、3・・・」
「そもそも、Kじゃないわよ。」
「あ・・・ちがったんだ・・・そうなんだ・・・そうだよね・・・よかった・・・ めーりん。」
「な、なんですか!?」
「めーりん・・・げんぽ・・ちょうけし・・してあげる・・」
「咲夜萌えー!」
「じゃあ、正しい答えは、なんなのー?」
「私はケティじゃないわ。答えは・・・Lよ。」
「さ、咲夜さん・・・?」
「・・・・」
返事が無い。ただの屍のようだ。その捨て身の防衛手段をもってすら、彼女の魂を守りきることは、適わなかった。
「・・・う」
「し、しっかり!」
「・・めいりん・・げんぽ・・ただばたらき・・」
「あうあ!」
あまりに残酷な現実に絶望した少女も、己の魂の崩壊を食い止めるべく、右に倣った
気の力をフル稼働させ、肉体と魂の比重を限りなく魂側に偏らせる
本体たる魂のみを至上とし、その器である肉体は必要条件外の肉を魂へと還元・献上する
残ったのは・・・ょぅι゛ょ
二人のょぅι゛ょが願ったのは共通にしてたった一つ
『もうなにも、考えたくない』
それは最後の切り札、諸刃の自己防衛
「・・・たしけて・・それむり・・めいりん・・しんじゃう・・」
「あ、そっかー。くっそー。うう、おっぱーい・・・」
「うふふ、いいわよ。惜しかったし、いらっしゃい。」
「わーい!レティ大好き!ふにふに~。レッティは、えるっえるっ。ふに~。」
「こら、変な歌、歌わないの。まったく、不純な動機ねぇ。最初の本の話はどこいったのかしら。」
「しゃくや・・・しっかりして・・・」
「う・・めいりん・・・わたし・・もう・・だめ・・・」
「しゃ、しゃくや!」
「めいりん・・あとは・・まかせたわ・・・・ぽてち」
「しゃ・・・しゃくやあああ!」
「ん? なんか騒がしいわね。」
「ふにふに~。どうしたの~? あ、誰かいるー。」
「う・・う・・・よくもしゃくやを・・・おぼえとけー! うわーん!」
「? なんなの?」
「さあ?まあ、気にしないでいいんじゃないかしら。」
「そだねっ。」
「れみりあさまー めいりんです」
「ん?門番?なんでここに・・・・・・誰?」
「めいりんです・・しゃくやーがー・・たーへんなの」
「え、ええ!?」
「あと、おこめの、とぎじる、ちょうらい。」
「すんすん・・れみりゃたま・・・」
「素っ頓狂な声あげたりして、どうしたの、レミ・・・イ!?」
「C・I・R・N・O・・・ L・E・T・T・Y・・・っと。おし、ばっちり!」
「よ~し、学習しているわね!ディ・モールト、よし!」
「えへへ~。一日かかっちゃったけど、あるふぁべっとはもう完璧に扱えるようになったよ!」
「よくがんばったわ。それじゃあ、次は単語と構文のお勉強ね。」
「あ、でももういいの。」
「なんで?本を読みたいんでしょ?」
「気にしない気にしない。 はいっ!これっ!」
「・・お人形?」
「うん!お人形さん遊びしよ!」
「それはいいけど・・これはどこから?」
「えーとねー。例のえいごの本だけど、友達少なそうな人形使いが、欲しい!って言い寄ってきてさー。なんでも、二つと無い、とっても貴重な魔道書なんだって。あたい、魔道書なんていらないから、このお人形さん達と交換で、あげちゃった!」
「もー。チルノったら。優しいのはいいけど、お勉強が無駄になっちゃったじゃないの。」
「んーん、無駄じゃないよ~。あるふぁべっとを覚えて、一つ賢くなったもん!」
「それもそうね。まあいいわ。甘えん坊さんのチルノが、急に自立しちゃったりしたら、少し寂しい気もするし・・。出来るだけゆっくり、賢くおなりなさい。」
「むっ、なによそれー!」
「ふふふ。チルノがそんなに怒るから、私のお人形さんが怖がってるわ。 『チルノ、そんなに怒らないで~。』」
「もー!レティったら・・・。 『怒ってなんかいないよっ。今日も一緒に、あそびましょっ。』」
「『何して、遊ぶの?』」
「『あるふぁべっとで、言葉遊び!』」
なんか咲夜さんと中国が仲のイイ漫才コンビに思えました。
氏の書く活きのいいチルノは大好きです。
レティはお母さんはまり役すぎます。
ほんわかほんわかしてたら、咲夜×中国が突然決死結界発動して吹きました。
今後もいいチルノ量産してください。
それはともかく、Lカップはいくら何でも激し(以下略
①ハンサムな名無しは突如反撃のアイデアを閃く
②新作が来てとどめを刺してくれる。
③間に合わない。それはそれは残酷な話である。
─答え⑨
─⑨
─⑨
この衝撃は、やはり普段の完璧さ故のギャップでしょうか?
まあこの咲夜さんは冒頭から怒られたりといろいろとアレでソレっぽいですが。
ところで、タイトルの牛家ってどういう意味でしょうか・・・・
気になってしかたありません。