⑨
冬
⑨
冬
⑨
冬
⑨
冬
「でもさ、ほら。」
なにか?
「やっちゃえばなんとかなるってのは、あるんじゃない?」
まったく考えが足りないわね。今はただ時を待つだけよ。
「そうはいってもあたい、やっぱり諦めきれない!」
諦めではないの。時を待つだけだってば。
「じゃあ、いつよ!いつまで待てばいいの!?」
次の冬まで。
「聞き飽きたわよ!そんなの待てないから、聞いてるんでしょ!」
貴女が待てようが、待てなかろうが、必ず冬は来る。
「わかったようなこと言ってぇ・・・あたいの気持ちなんて、わからないくせに!」
そうでもない。
「嘘だ!」
嘘じゃない。
「あたいでもないのに、あたいの心がわかるっていうの!?」
・・痛いほどに。
「じゃあなんで、じゃあなんで!やらせてくれないの!」
待てば、貴女の、私達の想いは叶う。急けば、私の、私達の想いは、永遠に叶わない。
「ずるい・・・どうしてあんたはそうやって、何も言えなくなるようなこと、言うのよ・・」
貴女と同じ痛みを、私ももっているから。
「いいわ、あたい、友達と遊んでくるから。」
そうしましょう。
「あんたも一緒に遊べればいいのに。」
姿が在るか、無いかの違い、そんなに重要なことじゃない。
「重要よ!形がなければ弾幕ごっこもできないし、あやとりだってできないじゃないの。」
でも語らうことはできる。こうやって。
「否定されてばかり。バカにされてばかり。こんなの、違う。」
それは貴女が我侭だから。
「もういいよ!遊び行く!ついて来るなら勝手にして!」
ええ。
⑨
冬
⑨
冬
⑨
冬
⑨
冬
「よっこら!ほいこら!うーん、ここでもないかー。」
綺麗な川ね。ところで、川辺の土なんて掘り返してなにを探してるの?泥まみれじゃない。
「んー。この辺にね、いるはずなのよ。」
ふーん?
「おお!?手ごたえあり!出て来ーい!」
「ひぇぇ!やめてぇ!寒ぅーーー!眩ぅーーーー!」
あら。これは可愛らしい蛍の子ね。
「リグルー、ういっす。」
「ひぇぇ!チルノ!」
「なによその反応は。失礼しちゃうわね。」
随分嫌われてるわね。
「んもう。あたいの何がそんなにいやなのよ。」
「私は蛍の妖怪であると同時に夏の妖怪だから、寒いのは苦手だって何度も言ってるでしょ!」
それじゃあ嫌われてるのもしょうがないわね。私も、貴女も。
「むー!でも夏は、遊んでくれたじゃないのよー。」
「あのときはシーズンだったし、ちょっとやそっとの冷気ぐらいなら跳ね除けられれるから相手してやったのよ。でも今の私にはちょっと寒いぐらいでも大問題なの。っていうか問答無用の弾幕ごっこ、あれ、遊びのつもりだったの?」
貴女そんなことしてたの?だから内輪にしか友達いないのよ。
「う、うるさいわね!友達ぐらいたくさんいるんだから!リグル、あんたはあたいの友達!なら、遊ぶ!遊ぶの!」
「ひぇぇ。今は勘弁して、土に戻らせて。今は力を蓄える時期なんだから。あんたの知り合いにもいたじゃない。レティだっけ?あれだって、冬以外は活動せず力を蓄えるんでしょ?私も・・・」
「わかった。それ以上言わなくていい。」
「・・・え?」
はあ・・・この子も、よりによって私を例えに出すとはね。
「無理やり遊ぶ!」
「ひぇぇ!」
「いくよ!フロストコラムス!」
「うわーん!」
やめてあげなさい。無理させちゃかわいそうじゃない。
「うるさいうるさい!遊ばなきゃ、やってられないわよ!」
それに、あんまりいじめたら・・・
「ひぇぇ・・・う、う、うううう・・!」
「な、なによ!」
「変な時に力使わせてぇ。羽化が十日は遅くなるわ。いいオスと出会えなかったら、あんたのせいだからね!落とし前、つけてってもらうわよ!」
どうやら本気で怒らせちゃったわね。知らないっと。
「そ、それがどうだってのよ!あんたの実力なんざ、去年の夏ので十分知り尽くしてるんだからね!」
あーあ・・・周りを見てみなさいな。
「なによ・・・げっ。」
ひぃふぅ・・数えるのもバカらしいわね。で、どうするの?
「地面も空も水辺も虫、虫、虫ばっかりー!なによこれ、キモー!」
「ちったぁ痛い目見なさい!」
「ちょ、ちょ、遊びよ、これ!」
「これは私の安眠を奪った罰よ!季節外れのバタフライストーム!」
「ぎゃー!痒い痛いー!」
だから言ったのに。とっとと逃げましょ。
「くそお!なんでこんなに強いのよ!去年と全然違うじゃない!」
それはこの子が本気を出してなかったからね。彼女に与えられている時間はとても短い。そしてその短い時間を輝くことに費やす。貴女と弾幕ごっこした時は、貴女をあしらうぎりぎり程度の力しか使っていなかったのよ。
「そういうことは早く言ってよ!痛っ!」
「今後変な気起こさないように、とことんこらしめてやる!」
ほら見なさい。ま、ちょっとは痛い目みるのも、いいかもね。
「よくないよくない!全然よくなーい!キモいよー!臭いよー!やめてー!」
「ほれほれ!どうだこの!私の苦しみ少しでも思い知って泣き喚けバカ!」
「誰がバカよ!うわやめっ!いじめかっこわるっ!」
「よく覚えときなさいこのバカ!力ってのはね、一番大事な役目をこなす時以外は、蓄えておくべきなのよ!あんたは自分のそれを全然知らない、そして他人のそれを察そうともしない!だからあんたはバカなのよ!」
「二回も言ったな!バカって言うな!」
⑨
冬
⑨
冬
⑨
冬
⑨
冬
散々だったわねぇ。
「うぅ、人事みたいに・・・」
人事だから。
「むー!もとを正せば、あんたが遊び相手を務めてくれれば、こんなことにはならなかったの!」
しりとりとか、できるわよ?
「頭を使う遊びは、楽しくないからいやっ!それに全部筒抜けじゃないの!」
我侭。
「わからず屋!」
まったく。
「もういい!今すぐ、こんな春、終わらせにいく!」
待ちなさい!・・・理に逆らおうとした者達の末路、知らないわけではないでしょう。
「・・・まあね。」
私も貴女も、真っ向から逆らおうとしたわけではないけれど、それでもあれだけ痛い目を見た。
「でも、それだって一度だけじゃない。」
わからないの?真紅の悪魔も、冥界の姫も、月の頭脳も・・・その目論見を完遂するには至れなかった。貴女では、無理。貴女でなくても、度台無理。相手は、他でもない幻想郷意志なのだから。
「それでも、やる!やってやる!」
わからない子。
「だってずるいじゃない!この鬱陶しい程春過ぎる春爛漫!冬はあんなすぐ終わっちゃったのに!不当なえこ贔屓よ!ずるい!」
そんなこともあるわよ。それに、冬はいつも通りだったわ。
「そんなわけない!じゃあなんで、なんであんたはここにいるのよ!春になれば、溶け始めた雪に馴染んで巡る季節に還元されていくはずのあんたが、ここにいるのよ!」
そんなこともあるわよ。
「急に冬が終わったからでしょ!?急にどデカい春がやってきたからでしょ!?冬が一気に褪せていく中あんたは、近くにいて季節が巡っても冬の様相を保ったまま在り続けるあたいの中に逃げ込むしかなかった。そうでしょう!?」
たまには鋭いじゃない。
「そこかしこに季節違いの草花、挙句に多年草まで咲き乱れて・・・このバカみたいな春が、悪いんだ!」
・・確かに、ちょっとおかしいかもね。
「ちょっとじゃないでしょ!」
そうかしら?
「さっきのも嘘だ。」
さっきの?
「待てば冬が来るってのも、嘘だ!」
嘘じゃないわ。冬は来る。
「嘘だ!だって、あんたはここにいるじゃない!冬じゃないのにここにいるじゃない!春と夏と秋を越えないと、あんたは冬になれないのに!だけどもう、この異常な春のせいで、冬の名残は完全に消えてしまった。このまま夏がきちゃえば、あんたはもう永久に冬になる資格を失う!例え季節が巡って冬が来たとしても、それがあんたじゃない誰かなら、レティじゃないなら、ダメなの!」
チルノ・・・
「ねえ、教えてよ・・どうすればいいの?どうすれば・・レティは、冬に戻れるの?」
・・この異常な春を、正常に戻す以外ないでしょうね。
「やっぱりね!あたい、今すぐ原因つきとめて、涼しくしてやる!そうすれば、例年通りゆっくりやんわり暖かくなっていけば、あんたは自然と巡る季節に溶け込んでいけるでしょ。」
でも、だめ。
「なんでよう!」
私の望みは、貴女と同じ、貴女と共にあることだからよ。
「・・・どうなるかは、開けてみなけりゃ、わからないわ。」
三つの前例を思い返してみても、まだわからないの?貴女は。
「わからない!あたいバカだから!」
開き直る前に人の話を聞きなさい。貴女は決してバカじゃない。わかる子でしょう?
「バカでいい。聞き分けの無い子でいい。」
だめよ!
「でも、一個だけならわかることはあるよ。あたいが幻想郷をおかしくしようとしてるんじゃない。おかしくなった幻想郷を、あたいがもとに戻そうとしている、ってこと。今回の幻想郷意志の庇護は、きっとあたいにある!」
だけど!それは危険すぎる!お願い、私を心配させないで、チルノ。
「そうねぇ・・・この分なら、まず紅白あたりが動くでしょ。そうなれば、金魚の糞みたいなのもたくさん出てくる。だから、一人で危ないことするわけじゃないわよ。」
それでもだめ!チルノ!お願いだから、危ないことはしないで!
「今まで幻想郷に異変が降りかかる度に寂れた神社の神主が強力にバックアップしてくれてた。あたいも、それにエントリーしてもらえるように、頼んでみるよ。」
貴女が行ってなんになるの!?少し考えればわかるでしょう!?
「えへ・・・いいの。あたいはバカだから。考えがうまくまとまんないや。」
チルノ・・・
「よっし!今から、神主に直談判してくる!名前、バカでいいから、参加させてくれって!滑稽なのが一人いれば、きっと厳しい戦いも少しは楽しくなるからって!」
貴女は・・・決してバカなんかじゃない。
「へへ。レティもあるべき場所に戻れるし、このおかしい春も少しは涼しくなるだろうし、一石二鳥!さあ、行くぞう!」
もう、止めないわ。行きましょう。一緒に。
「おう! ・・リグル!あたいがどんだけバカでも!やっと見つけた、一番大事な役目果たす瞬間ぐらいは、幻想郷をひっくり返すぐらい強くなれたって、いいでしょう!?そのためだったら、あたいの人生これまで全部とこっから先全部、バカ上等!」
でもレティってゆるやかに暖かくならないといなくなれないんですか?うーん、ちょっとその設定は弱いですね・・・いいチルノはいるのに、実に惜しい。
レティの設定及び理由付けに関してですが、
彼女は冬に再誕し、春に巡る季節へ還ると私は考えています。
ですが、その冬の次に訪れた春は、春であって春ではなかった。
彼女は戻るべき場所を無くしてしまった、そういう風にとっていただければ。
しかしリグルに対する突っ込みがないところをみると、リグル、キャラ立たないまま死んでますかねやっぱり。
重要なメッセンジャーにリグルを選んだのは、「普段は力を蓄え、ここぞに使う」というモチーフは、チルノ周辺では、儚い蛍であるリグルが最も良いと思ったから。
そこに説得力が伴わないのは私が駄文書きだから。失礼。
あー、早く花映塚がやりたいよぅ…