1:紅い闇
「さぁ、大人しく……」
そう言うとお嬢様がゆっくりと私の服の襟元を開く。
お嬢様というのは他でもなく、私自身がお仕えする紅魔館の主にして永遠の幼き紅月・レミリア・スカーレット様だ。
私は自ら服をはだけさせ、おそらくはまだ白いだろう首筋を差し出した。
正面から抱きつくようにしてお嬢様が私の首筋に口付けをする。
-瞬間-
ゾクリと、妖しい、悪寒が、私の脊髄を走り、脳髄まで駆け抜け、私が、ワタシ、でなくなる。
「は、……はァ、んっく」
吐息の最後で、お嬢様が私の首に歯を立てた。
途端に私のセカイが赤く、紅く、朱く、血のような暗さの紅い闇に呑まれていくのを意識しながら、
私は紅魔館のメイド長、十六夜咲夜であることすら放棄させられた。
2:銀の人形
「咲夜ー、咲夜ー? 」
誰かにに呼ばれて意識がうっすらと戻りかける。
まるで熟睡したかのように体の疲れが取れている。
……まだ眠い、
元々寝起きの悪い私なんだから目が覚めるまで時間に余裕を持たせて起きるようにしている。
……だから今日だけはもう少しぐらい起きるのを遅くしてもいいじゃない?
「咲夜ー? 起きれる? 」
……ああもう、こんなに朝早くから誰かしら、時計の針を止めてもう少し寝ていようかしら…。
「咲夜ー、私は紅茶が飲みたいのだけど用意してくれない? 」
……紅茶なら勝手に…?
!!!! この声はお嬢様!?
ガバっと上半身を起こす、自分の部屋ではない事を確認する、
この館の主にこそふさわしい大きな天蓋付きのフカフカベッド、あぁ昨日天気が良かったから干したのだっけ……。
広く、豪奢な飾り付けは全体的に紅い…、お嬢様の部屋に違いない。
「やっと起きたわね」
私が寝ていたすぐ隣にはこの部屋に似つかわしくない程、幼く小さな少女、
そしてこの部屋、ひいては館の主レミリア様がベッドの上でゆったりと腰を落ち着けていた。
「咲夜、時間を止めて寝るのはあなたの勝手だけど、膝枕で寝坊はダメよ? 」
くすくすと笑いながらお嬢様が起きぬけの私に言う。
その瞬間に私は何故この部屋で寝ていたか、思い出した。
「あ、確かお嬢様に血を捧げて……」
「そうよ、そのまま眠ってしまったの。私の膝枕でね」
何がおかしいのか、くすくす、と笑いを漏らしながらお嬢様が言う
「かわいかったわよ~、咲夜の寝顔。私のイタズラ心を十分に刺激してくれたわ」
急に羞恥心が湧き出してくる、顔が熱い。たぶん今の私は他のメイドが見たら驚くほど真っ赤になっているだろう。
「もう、お嬢様ったらひどいですわ、乙女の寝顔を見るなんて」
なんとか一矢報いようと必死に廻りの悪い頭で答える
「あら、咲夜は私のモノよ? 私にはその権利があるわ」
……素直に負けを認めよう。
「紅茶でしたね、すぐにご用意いたしてまいります」
「今日は血は入れなくていいわ、あなたからおいしい血をもらったもの。あとかわいい寝顔もね」
逃げるようにして部屋を後にする私の背後からは、またくすくすと笑い声が聞こえてきた。
「あぁ、あなたの分も用意して来なさい、一緒にお茶をしましょう」
3:欲しいもの
私は1年に1度だけ、お嬢様に血を吸われる。
それが契約の証だからよ、とお嬢様は仰っていた。
紅茶の為のお湯を沸かしながらボンヤリと考える。
そのたびに私に襲いかかる紅い闇。
最初の痛みから全身に広がる快感。
体の隅々まで快感が行きわたり、狂おしい程の何かが私の体と意識を乗っ取って、何も考えられなくなって紅い闇に落ちていく。
正直に言えば血を捧げる、という行為が怖い……のだと思う。
自分はまだ人間でありたい、と思う。まかり間違ってお嬢様と同族になるのでは? という不安が拭えない。
そして、あの強烈な感覚に何度も身を委ねたい、という欲求が抑えられなくなりそうで。
お湯が沸いたようだ、今日の葉は…
4:運命が見える、程度の能力
私はテラスで1人腰掛けている。奇しくも今日の月は十六夜だ。
咲夜はまだ来ない。
あの子は血を吸われるとその日は1日中ボンヤリとして仕事にならない、
だから今日は私の権限で強制的にお休み。
1人で居ると周りに気を使わないせいか、自然と笑みがこぼれそうになる。
あと何度の吸血であろうか?
そう遠い未来ではない所に、私の眷属となった咲夜が私の傍に立つのは。
おそらくこの500年で私が最も愛するメイド、
これから過ごす悠久の時間を彼女と過ごせたらこの孤独感も薄まるだろう。
1年に1度、血を吸うたびに、私は彼女が耐えられない程の快感を一緒に注ぎ込む……ほんの1滴の自分の血と共に。
人の身で絶えられずに気絶してしまう咲夜を見るだけでもどうにかなりそうなほど愛しい。
やがて耐え切れなくなったところで完全に私の眷族とする、
私なしでは完全に生きれない体にしてしまうのだ。
あぁ、銀鎖の懐中時計で時を止め、私の血の紅鎖で自らの時ですら止めてしまった彼女を想像するだけで体が震えそうだ。
テラス入り口付近に人の気配、咲夜だ。
「お待たせ致しました、お嬢様」
音も立てずにテラスに入り、紅茶の仕度を整えていくその完全で瀟洒な仕草でさえ私を潤してくれる。
「それほど待っていないよ、さぁ咲夜も一緒にお茶をしよう、どうせ休みなのだし」
「?今日はご機嫌がとてもよろしいようで何よりです」
「今日は私とあなたが初めてと出会った日だからね」
まだ笑顔が止まらなかったらしいのでそう返事しておく。
「そうですね……ところでお嬢様」
「なに? 」
「私はまだお嬢様の眷属にされていませんよね? 」
「してないよ。咲夜が嫌がることはしないけど、咲夜がその気になればいつでも眷属にしてあげるわよ? 」
私は飛び上がらんばかりに喜ぶ内心を隠して答える。
それにしても「まだ」とは良い兆候だ。
「そうですか、そういう約束でしたものね……」
そう言って黙り込む咲夜。
「眷属にして欲しい? そうすればあなたは世界だけではなく、あなた自身も止められるようになるよ? 」
この質問は咲夜にとって禁忌である事を承知で聞く。
「いいえ、私は私でありたいので」
咲夜の簡潔で素早い返答は、彼女なりの内心に踏み込まれたときの意思表示だ。
「まだ私は人間でいたいのです」
「今日の茶葉はダージリンだね」
また「まだ」だ、ニタリ、とでも自分で表現したくなるような笑顔で私は話題をそらす。
「私が初めてお嬢様に淹れた紅茶ですわ」
「あの頃とは比べ物にならないぐらいにおいしいよ」
「さすがにあの頃より上手になりますよ」
「あぁ本当に今日の紅茶はおいしいね」
「……気のせいか、今日は月が紅いですね、お嬢様」
-了-
「さぁ、大人しく……」
そう言うとお嬢様がゆっくりと私の服の襟元を開く。
お嬢様というのは他でもなく、私自身がお仕えする紅魔館の主にして永遠の幼き紅月・レミリア・スカーレット様だ。
私は自ら服をはだけさせ、おそらくはまだ白いだろう首筋を差し出した。
正面から抱きつくようにしてお嬢様が私の首筋に口付けをする。
-瞬間-
ゾクリと、妖しい、悪寒が、私の脊髄を走り、脳髄まで駆け抜け、私が、ワタシ、でなくなる。
「は、……はァ、んっく」
吐息の最後で、お嬢様が私の首に歯を立てた。
途端に私のセカイが赤く、紅く、朱く、血のような暗さの紅い闇に呑まれていくのを意識しながら、
私は紅魔館のメイド長、十六夜咲夜であることすら放棄させられた。
2:銀の人形
「咲夜ー、咲夜ー? 」
誰かにに呼ばれて意識がうっすらと戻りかける。
まるで熟睡したかのように体の疲れが取れている。
……まだ眠い、
元々寝起きの悪い私なんだから目が覚めるまで時間に余裕を持たせて起きるようにしている。
……だから今日だけはもう少しぐらい起きるのを遅くしてもいいじゃない?
「咲夜ー? 起きれる? 」
……ああもう、こんなに朝早くから誰かしら、時計の針を止めてもう少し寝ていようかしら…。
「咲夜ー、私は紅茶が飲みたいのだけど用意してくれない? 」
……紅茶なら勝手に…?
!!!! この声はお嬢様!?
ガバっと上半身を起こす、自分の部屋ではない事を確認する、
この館の主にこそふさわしい大きな天蓋付きのフカフカベッド、あぁ昨日天気が良かったから干したのだっけ……。
広く、豪奢な飾り付けは全体的に紅い…、お嬢様の部屋に違いない。
「やっと起きたわね」
私が寝ていたすぐ隣にはこの部屋に似つかわしくない程、幼く小さな少女、
そしてこの部屋、ひいては館の主レミリア様がベッドの上でゆったりと腰を落ち着けていた。
「咲夜、時間を止めて寝るのはあなたの勝手だけど、膝枕で寝坊はダメよ? 」
くすくすと笑いながらお嬢様が起きぬけの私に言う。
その瞬間に私は何故この部屋で寝ていたか、思い出した。
「あ、確かお嬢様に血を捧げて……」
「そうよ、そのまま眠ってしまったの。私の膝枕でね」
何がおかしいのか、くすくす、と笑いを漏らしながらお嬢様が言う
「かわいかったわよ~、咲夜の寝顔。私のイタズラ心を十分に刺激してくれたわ」
急に羞恥心が湧き出してくる、顔が熱い。たぶん今の私は他のメイドが見たら驚くほど真っ赤になっているだろう。
「もう、お嬢様ったらひどいですわ、乙女の寝顔を見るなんて」
なんとか一矢報いようと必死に廻りの悪い頭で答える
「あら、咲夜は私のモノよ? 私にはその権利があるわ」
……素直に負けを認めよう。
「紅茶でしたね、すぐにご用意いたしてまいります」
「今日は血は入れなくていいわ、あなたからおいしい血をもらったもの。あとかわいい寝顔もね」
逃げるようにして部屋を後にする私の背後からは、またくすくすと笑い声が聞こえてきた。
「あぁ、あなたの分も用意して来なさい、一緒にお茶をしましょう」
3:欲しいもの
私は1年に1度だけ、お嬢様に血を吸われる。
それが契約の証だからよ、とお嬢様は仰っていた。
紅茶の為のお湯を沸かしながらボンヤリと考える。
そのたびに私に襲いかかる紅い闇。
最初の痛みから全身に広がる快感。
体の隅々まで快感が行きわたり、狂おしい程の何かが私の体と意識を乗っ取って、何も考えられなくなって紅い闇に落ちていく。
正直に言えば血を捧げる、という行為が怖い……のだと思う。
自分はまだ人間でありたい、と思う。まかり間違ってお嬢様と同族になるのでは? という不安が拭えない。
そして、あの強烈な感覚に何度も身を委ねたい、という欲求が抑えられなくなりそうで。
お湯が沸いたようだ、今日の葉は…
4:運命が見える、程度の能力
私はテラスで1人腰掛けている。奇しくも今日の月は十六夜だ。
咲夜はまだ来ない。
あの子は血を吸われるとその日は1日中ボンヤリとして仕事にならない、
だから今日は私の権限で強制的にお休み。
1人で居ると周りに気を使わないせいか、自然と笑みがこぼれそうになる。
あと何度の吸血であろうか?
そう遠い未来ではない所に、私の眷属となった咲夜が私の傍に立つのは。
おそらくこの500年で私が最も愛するメイド、
これから過ごす悠久の時間を彼女と過ごせたらこの孤独感も薄まるだろう。
1年に1度、血を吸うたびに、私は彼女が耐えられない程の快感を一緒に注ぎ込む……ほんの1滴の自分の血と共に。
人の身で絶えられずに気絶してしまう咲夜を見るだけでもどうにかなりそうなほど愛しい。
やがて耐え切れなくなったところで完全に私の眷族とする、
私なしでは完全に生きれない体にしてしまうのだ。
あぁ、銀鎖の懐中時計で時を止め、私の血の紅鎖で自らの時ですら止めてしまった彼女を想像するだけで体が震えそうだ。
テラス入り口付近に人の気配、咲夜だ。
「お待たせ致しました、お嬢様」
音も立てずにテラスに入り、紅茶の仕度を整えていくその完全で瀟洒な仕草でさえ私を潤してくれる。
「それほど待っていないよ、さぁ咲夜も一緒にお茶をしよう、どうせ休みなのだし」
「?今日はご機嫌がとてもよろしいようで何よりです」
「今日は私とあなたが初めてと出会った日だからね」
まだ笑顔が止まらなかったらしいのでそう返事しておく。
「そうですね……ところでお嬢様」
「なに? 」
「私はまだお嬢様の眷属にされていませんよね? 」
「してないよ。咲夜が嫌がることはしないけど、咲夜がその気になればいつでも眷属にしてあげるわよ? 」
私は飛び上がらんばかりに喜ぶ内心を隠して答える。
それにしても「まだ」とは良い兆候だ。
「そうですか、そういう約束でしたものね……」
そう言って黙り込む咲夜。
「眷属にして欲しい? そうすればあなたは世界だけではなく、あなた自身も止められるようになるよ? 」
この質問は咲夜にとって禁忌である事を承知で聞く。
「いいえ、私は私でありたいので」
咲夜の簡潔で素早い返答は、彼女なりの内心に踏み込まれたときの意思表示だ。
「まだ私は人間でいたいのです」
「今日の茶葉はダージリンだね」
また「まだ」だ、ニタリ、とでも自分で表現したくなるような笑顔で私は話題をそらす。
「私が初めてお嬢様に淹れた紅茶ですわ」
「あの頃とは比べ物にならないぐらいにおいしいよ」
「さすがにあの頃より上手になりますよ」
「あぁ本当に今日の紅茶はおいしいね」
「……気のせいか、今日は月が紅いですね、お嬢様」
-了-
レスをありがとうございます。次回作がこの続きの予定なので、
読んでないとわからない方がいらっしゃるんじゃないかと危惧してましたので
あえて修正のみ、という事にさせて頂きました。
遅筆でゴメンナサイ……orz
次回作必ず持ってきますのでお待ちください。