霊夢、魔理沙、アリスの三人は、博麗神社周辺の森の上を飛んでいた。……探すまでもなく、ゴーレムの巨体は木々の上に頭を出していた。
「もう夕暮れか。まだまだ日が短いな」
魔理沙の呟きに、アリスは日の沈む方角を見た。既に日は山に隠れ、オレンジがかった光がそこから漏れている頃である。
「呑気な事言ってる場合じゃない。渦中って、あいつが言ってたって事は……」
ゴーレムに近付いていく三人に、さらに西の方角から寄ってくる影が三つ。
「あっ、何あれ?」
アリスはその影を目を凝らしてじっと見据えた。……そのうち一つの小さな影の背に、蝙蝠のような大きい羽が一対。
「……なんだ、またあんた達なの?」
小さな影はアリスたちを見るなり、呆れ半分に言った。紅魔館の主、レミリア・スカーレットを筆頭に、パチュリー・ノーレッジ、十六夜咲夜の三人がアマリリスに向かってきていたのだった。
「一体、何しに来たの?」
「ご挨拶だね、人形遣い。この騒動の首謀者はお前かしら? それと……そこの黒い魔法使いも関わっていそうね」
「私達はこの鋼鉄人形を見学に来ましたのよ」
咲夜は微笑みながらそう言うが、レミリアの鋭い目はそんな悠長なことをしに来たのではない、と物語っていた。
「やはり、ただの金属ではないわね。ミスリルとオリハルコンの特性を併せ持つ合金。サンプルに一欠片欲しいところだわ」
「心配しなくてもいいよ。どうせこれから欠片どころかただの鉄くずになるのだから」
「お、お前らなぁ……」
魔理沙が言いかけたところに、さらに遠くから声。
「ありましたよ幽々子様!! ホントにでっかいです!!」
「でっかいのは言われなくても解るわ。……あら?」
西行寺幽々子とそのお供、魂魄妖夢である。
「やはり、みんな集まっていたわね。まあ、目的は聞かなくても解りますけど」
幽々子は一同を一通り眺めてから、ゴーレムに向かって視線を移した。
「え? 幽々子様は何かご存知なのですか?」
「知らないのは多分、妖夢と……そこのメイドくらいじゃないかしら?」
「まあ、咲夜は知らないでしょうね。話してないし」
「察しくらいは付きますわ」
「私は幽々子様についてきただけですよ。幽々子様がなんとなくでふらっと外出するのもいつものことですし」
「妖夢は修行が足りないわね。なんとなくは妖夢の方」
「はあ……よく解りませんが」
さらに遅れて、式神二人の到着。
「いやいや、そうそうたるメンバーとはこのことだな。橙、いい場面だから撮り逃さないように」
「はーい」
「気楽で良いわね、あんた達……」
カメラを片手に動き回る橙を見ながら、霊夢はため息を吐いた。
「さて、首謀者はいいとして、共謀者が足りない。あの鬼娘はどこかしら」
レミリアの言葉に、アリスははっと気付いた。
「萃める力……そういうこと」
「ようやく解った?」
霧が集まり、萃香が姿を現した。
「とりあえず、近場の見知った顔を集めてみたんだけど。足りなかったらまだ集めようか?」
萃香はくすくすと笑いながら言う。
「ふん、自慢気に言うけどね。私がここに来たのはあくまで私の自由意思。お前が小細工をしていることは気付いていたけど、敢えてそれに乗ってやったのよ。こんなおもちゃがそこら中歩き回ってたんじゃ、私の沽券に関わるからね。吸血鬼に一度見た技は、大抵二度通じない」
「幽霊も同上。まあ、妖夢は半分だから半分通じてたみたいだけど」
「基準が解りませんよ。私はただ幽々子様についてきただけですってば」
アリスは一同を見ながら考える。……萃める力。咲夜と妖夢の物理攻撃に、パチュリーの知識、さらにレミリアと幽々子の強大な妖力。これだけ集まれば、八割方どうにかなってしまうだろう。……ゴーレムを、破壊するならば。
「どれだけ強がって見せても、私の力には変わりがないよ。鬼は闇、闇は恐れ。少なくともあんた達は、このゴーレムを脅威に思ったからこそ、ここに来た。まあ、萃香プロデュース幻想郷連合ってとこね」
「……まあ、いいわ。あんなでっかいの一人で相手するのも大変だし、このままお前の小細工に乗り続けてあげる」
「楽しいショーになりそうね。幻想郷の力、見せてもらうわ」
言い終えると、萃香は霧となり、四散していった。
「おい、ふざけんな!! お前ら、よってたかってアマリリスをぶっ壊す気か!? あれは私とアリスが苦労して作ったんだ!!」
魔理沙の叫びに、一同は静まり返る。
「……それじゃあ、あなたはあれをどうにか出来るのかしら?」
幽々子の言葉に、魔理沙は言葉を詰まらせた。そこに、パチュリーが続ける。
「あれは幻想郷に在っていいものではないわ。あれは『兵器』よ。誰にもどうにも出来ないものを、誰かが操ってしまえば……混乱が起きる。どうにかできるうちにどうにかしないといけない」
「そんなの関係ない!! 私はイヤだって言ってるんだ!!」
アリスは、そう必死に叫ぶ魔理沙をじっと見ながら、何も出来ずにいた。……頭の中が、もやもやしている。幽々子やパチュリーの言葉が正しい。自分にはどうにも出来ないし、ゴーレムが『ここに在る』のは危険なことだ。
(……)
それが、割り切れなかった。昨日までの一週間、ゴーレムの製作に四苦八苦していた自分の思い返す。ゴーレムの強大な力を思い出す。そして、今のパチュリーの言葉を思う。それが、アリスの頭の中でぐるぐると回り、もやもやを作り出しているのだ。
「子供の我侭ね。……あとでお仕置きをしてあげるから、今はおとなしくしていなさい。……咲夜、あの二人の足止めを」
「お任せください、お嬢様」
咲夜がす、と動き出した一瞬。
「あっ……」
アリスと魔理沙の目の前に、幾本かのナイフが現れ、そのまま空中で静止した。
「一歩でも動けば命は在りませんわ。そこでおとなしくしていることね」
「く、くそっ……」
魔理沙は唇を噛み締めた。……アリスは、まだ動けない。
「さて、始めましょうか」
レミリアの言葉に、パチュリーが頷いた。
「……あのゴーレム、魔法は恐らくほとんど受け付けないはず。けれど、表面を見るといくつか傷が付いてるわ。恐らく、物理攻撃なら通じるはず」
パチュリーは外観を見ただけで、その弱点を指摘する。
「だったら、妖夢。あれを斬りなさい」
「え、私がですか?」
「私は剣なんて持ってないもの。楊枝でいいなら私が行くけど」
「解りましたよ、行きます。……フォローは頼みますよ」
妖夢はすらり、と剣を構えると、ゴーレムへ向かってまっしぐらに突っ込んでいく。
「もらったっ!!」
妖夢がゴーレムの脳天目掛け、剣を振りかぶった瞬間。ばちばちぃっ、と音を立て、妖夢は弾かれる。
「うわわっ!?」
弾かれた妖夢を、幽々子が受け止めた。
「お帰りなさい、早かったわね」
「幽々子様~、私一人じゃ無理です~」
「障壁結界……のようなものね。魔力であんなものまで作れるなんて」
パチュリーがそう呟き終えた瞬間、ゴーレムは歩を止め、攻撃を仕掛けた妖夢の方へ向き直る。
「くるわよ」
レミリアが呼びかけた瞬間、幽々子と妖夢目掛けて二本の光条が走る。ゴーレム版ダブルスパークである。
「あら~」
「ちょ、ゆ、幽々子様、避けっ……」
二本の奔流に、二人はそのまま飲みこまれていく。
「ぼーっとしすぎですわよ、お二人」
……咲夜が時を止め、二人を抱えて退避させていた。
「あら便利。妖夢も使えるようにならないかしらね、これ」
「呑気なこといってないでくださいよ。……本気でやばい相手ですよ」
「だってモノが相手じゃ私の真価は発揮できないし……」
「それでも手伝ってもらうよ、亡霊の姫。障壁を妨害することくらいは出来るわね? そこに私と妖夢が突っ込むわ。咲夜とパチュリーはフォローをお願い」
レミリアの言葉に、咲夜とパチュリーは頷く。
「あらあら、じゃあちょっぴり真面目にやっちゃおうかしら?」
「ちょっぴりじゃなくてたくさん真面目にやってください」
「……あんまり当てに出来ないわね、亡霊二人」
相変わらずのほほんとしている幽々子と妖夢を眺めながら、咲夜が呟いた。
「ほら、しっかりしないからあんなこと言われちゃうんですよ!!」
「仕方ないわね、はい」
幽々子は扇子をゴーレムに向かってかざした。扇子から三本の光線が迸り、ゴーレムの障壁と弾け合う。その幽々子の『亡我郷』を合図に、五人は同時に動き出した。ゴーレムから射出される蓬莱人形のフェイクを咲夜が打ち落とし、マジックミサイルをパチュリーが相殺する、そこにレミリアが赤い妖気をまとい、一気に突っ込んだ。『デーモンキングクレイドル』。派手な金属音がし、ゴーレムが大きくよろめいた。
「おい、いい加減にしろよ!! やめろって!!」
その様子を見ていた魔理沙が叫んだ。……しかし、五人はそれに耳を傾けようともしない。
「妖夢!!」
レミリアの合図に妖夢が一気に斬りこんだ。
「!!」
瞬間、アリスは思わず身を乗りだし、足を一歩前に出した。瞬間、咲夜のナイフがアリス目掛けて襲いかかる。
「きゃ……」
ずん、と音がした。同時に、金属同士が擦れ合う、ぎゃぎい、という甲高い嫌な音。
「え……」
……その場にいる全員が目を疑った。ゴーレムの手がアリスと魔理沙の目の前にあり、壁となってナイフを防いでいたのである。
「アマリリス……?」
アリスは呆然とその巨大な手を見つめた。……かばってくれたのだろうか。ゴーレムは跪いた体勢から身を起こす。肩口には、妖夢の剣閃の傷痕がくっきりと浮かび上がっている。
「外した……でも、ダメージは負わせられたようね」
「もう一回、ね」
レミリアと幽々子の呟き。……ゴーレムは反撃を終え、動きが鈍くなっている。もう一度同じように一斉に攻撃をされれば、今度は致命的なダメージを受けることだろう。
「……!!」
アリスは気が付けば五人の前に飛び出し、ゴーレムをかばうように両手を広げていた。
「アリス?」
アリスの意外な行動に、魔理沙が声を上げた。
「……何のつもり?」
レミリアの問いに、アリスは口を開く。
「解らないわよ」
解らない。アリスは自分でも何故こんな行動をとるのか解らなかった。ただ一つ言えることは、今この瞬間、頭のもやもやはどこかへ吹き飛んでしまっているということだ。
「どいてくれないかしら? 邪魔立てするようなら、死んでもらおうかと思うのだけど」
至極軽く、さりとて恐ろしく響く幽々子の言葉に、アリスは一瞬怯む。しかし、きっとにらみ返すと。
「やれるものなら、やってみなさい。私だって、死してなお意思を持つ秘術程度は心得てる。生と死から開放された私が究極の魔法を持ってあなたの敵に回ってもいいというなら」
「あら。初めてだわ、こんな脅され方」
幽々子は愉快そうにコロコロと笑う。
「私は絶対に退かない。解らなくても、そうしたいと思ったのは事実だもの」
「手を貸すぜ、アリス」
魔理沙がアリスの傍らにずい、と出る。
「本気で邪魔をするというなら、こっちも本気に為らざるを得ないね。遊びと思うな、魔の者二人」
レミリアが紅い妖気を全身から噴出した刹那。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
幻想郷中に響き渡るほどに巨大な咆哮を、ゴーレムが上げた。
「アマリリス……?」
アリスにはそれが、産声のように聞こえた。……ゴーレムが声を上げるはずがないのだ。一同が耳を塞いでいる間に、ゴーレムの傷ついた肩口が、見る見る再生していく。そして背に魔力の光が集中すると、六つの花弁のような翼が形成された。
「再生、進化……オリハルコンの特性だわ。いや、それ以上の……」
パチュリーがそれを見て呟いた。
「どきなさい。取り返しのつかないことになる!!」
「取り返しつかないことなんていくらでもあるだろ!! お前らがアマリリスを壊しても取り返しなんてつかない!!」
レミリアの言葉に、魔理沙は叫び返した。
「なら、やっぱり……」
幽々子が手をかざそうとした瞬間。
「……幻想郷でマジゲンカはご法度よ。争いたければ、余所へ行きなさい」
霊夢が対峙の間に入り、結界で遮る。
「霊夢……」
「ったく、萃香、出てきなさい!!」
霊夢の言葉に、霧が集まり、萃香が姿を表した。
「なによ、せっかく面白いところだったのに……」
「調子扱きすぎ。『力』を萃めるのを止めなさい」
「んなこといったって、どうにかしたいって言ってたのは……」
「結界に閉じ込めて納豆漬けにするわよ」
「ひええ、納豆はカンベン~」
萃香は霧に戻ると、そのままどこかへ消えていった。
「アマリリス……」
アリスがゴーレムの名を呼ぶと。
「……」
低い唸り声を上げて、ゴーレムが答えた。そして、ゴーレムは胸部に手を当てると、小部屋の扉を開く。アリスはそこで気付く。
(アマリリスは、意思を持っている……)
アリスは導かれるように、その小部屋の中へ入っていく。
「……人形遣い」
入り口に足を掛けたアリスに、レミリアが声をかけた。
「どうするかは、任せる。ただ、そいつはすでにここにいてはいけない存在。それでもなお、ここに在ろうとするなら……」
今度こそ。そう言い残して、レミリアはパチュリーと咲夜を引き連れて、紅魔館へ戻っていった。
「じゃあ、私達も帰ろうかしら。いくわよ、妖夢」
「え? いいんですか?」
「たぶん、もういいの」
「はあ……」
亡霊二人も冥界へ向かって飛び立っていった。
「いい写真が一杯撮れたよ~」
「じゃ、そう言うことで私達もこれで」
カメラを掲げる橙を抱えると、藍はしゅた、と手を上げる。
「……お前ら何しにきたんだよ、マジで」
さぁ、と一言、ため息を吐くと、藍は何処かへと向かって飛んでいった。
「……大騒動だったわね」
霊夢は大きく息を吸うと、ゆっくりとそれを吐き出した。
「じゃあ、後あんた達は勝手になさい。私は帰ってお茶でも飲むわ」
「霊夢」
魔理沙が霊夢に向かって口を開いた。
「その、悪かったな」
悪いわよ、と魔理沙とアリスに向かって微笑みかけ、霊夢は去っていった。
そしてアリスと魔理沙、そしてアマリリスだけがこの場に残る。日はとうに沈み、空には星が瞬き始めていた。……月は見えない。
「魔理沙」
「あ、ああ。私も入るぜ」
二人はアマリリスの小部屋の中に足を踏み入れた。二人がやっと入れる程度の狭い空間、『核』の水晶球は以前見たときよりも強く輝き、脈を打つように明滅している。……そして、正面の壁の『EMETH』の文字。
「……なあ」
その文字を見据えるアリスに、魔理沙が声を掛ける。
「やっぱ、その……」
「消すわよ。あいつらの言う通り、もうアマリリスは幻想郷にいていい存在じゃない」
「だったらさぁ、ここ以外に持っていくとか出来ないのか? 外に、とか」
「残念だけど、外にも居場所はないわよ」
空間から声がする。声のした辺りに歪みが形成され、紫が顔を出した。
「おはこんばんちは~」
「……時間は問題無いが、より一層古いな」
「挨拶は心よ」
「あんた、今までどこにいたわけ? もっと早く……」
「もっと早く、ここに来てゴーレムの活動を止めたかったのかしら」
アリスは言葉を詰まらせた。紫は歪みをさらに広げ、半身ほど部屋の中へ入ってきた。……何故か、傘を差している。
「ちょ、狭いわよ。傘くらいたたみなさい」
「雨でも晴れでもないのに、なんで傘なんか差してんだよ」
「あら、降り注いでるのよ、色々と」
紫は傘をたたむと、歪みの中へそれをしまいこんだ。
「で、外に居場所が無いって? アマリリスを元にした人形は外の世界のものじゃないの?」
「あの人形は空想を形にしたもの、といえば解るかしら」
「……」
紫の言葉に、二人とも黙り込んでしまう。
「それに、外にここのものを持っていくわけにはいかないの。それは幻想郷自体を危うくする行為よ」
「……やっぱり、消すしかないのね」
「気が進まないな……」
「いいわよ、私がやる」
アリスは指先に魔力を込め、『E』の文字に指を掛けた。
「……」
瞬間、アリスの頭の中に、再びもやもやがかかる。……そして、動けなくなる。
「アリス?」
魔理沙がアリスの顔を覗きこんだ。
「……」
自分が今抱いてるもの……それはあのとき、魔理沙が叫んだものと同じだ。魔族である自分が、人間と同じ、不合理な矛盾した感情を今、抱いている。アリスはかつて、究極の魔法を用いて人間に負けた過去があった。『魔』そのものである自分が、なぜ『究極』を用いてなお負けたのか。その原因が人間の魂にあると考えたアリスは、その研究を始めた。そして知ったのが、人間の根幹にある不合理な矛盾である。
それが今、自分の中にある。
「……可愛いわね、あなたは」
紫がアリスに向かって口を開いた。
「あなたほど真っ直ぐで、回り道ばかりする魂を見たことが無いわ。人を知りたくて、お人形遊びをする小さな少女。……本当に可愛いわよ、あなた」
紫はくすくす、と笑みを浮かべた。
「……何のつもり?」
「あなたは前に悩みなど無い、と言っていたわね。私はもうちょっと考えてみたほうがいい、と言っているの。萃香も言っていたけど……あなたが知るべきは、他の何かではなくて、自分自身。より自分に近しいものよ」
「あの鬼の話? ……私は、あんたみたいに上からものを見て、訳の解らない謎掛けをしてくる連中が嫌いなだけよ!!」
「謎掛けの答えをずばり言ってしまったら、つまらないわ。私は萃香と同じことを言うつもりはない。私があなたに見てるものは、ちょっと違うもの」
紫は言いながら、段々と歪みに身を沈めていく。
「鬼は闇、闇を見る。けれど、スキマからは光が差すのよ」
紫はそう言い残して、空間の歪みの中に消えていった。
「ホントに、何しに来たんだあいつは……」
「自分で言ってたでしょ」
アリスは『EMETH』の文字に向き直る。
「上からものを見た『謎掛け』よ」
「……解らんな」
魔理沙は頬を掻きながら呟いた。
「……とにかく……先延ばしにしてもしょうがないの。もう、やるしかないんだから……」
アリスは再び、『E』の文字に指を掛けた。そこに、魔理沙がそっと指を重ねる。
「責任、だ。私もやる」
アリスは頷くと、指先に力を込め……。
(……ごめんなさい)
『E』の字を削り取った。