Coolier - 新生・東方創想話

異幕『プラスチックなマイハート~Quiz master of pit』

2005/05/28 14:12:03
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 博麗神社、母屋の障子越しに庭が見える一室。幻想郷の中心に位置するこの神社の巫女、博麗霊夢は一人、何をするでもなく庭を眺めていた。早春のすがすがしい朝の空気の時間は過ぎ、心地よい日の光と、時折抜ける穏やかな風の時間。
 ……何も起こらない、退屈な日。いつもなら、遊びに来た霧雨魔理沙とその日々に文句を垂れるところだが、どういうわけか、この三日ほど魔理沙はこの神社にやってきていない。毎日のように顔を合わせている魔理沙が突然来なくなるというのには多少の怪訝な思いもあったが、まあそんな事もあるだろう。ずっとだとさすがに寂しくなるかもしれないが、とりあえず今の霊夢は一人で居る時間を存分に謳歌していた。
(庭の梅も、ようやくつぼみが色づいてきたわね)
 後一週間もすれば、白くて小さい、綺麗な花が咲くことだろう。梅が咲けば、次は桜だ。誰かと居るとついつい騒がしげな雰囲気に、そんな事に目も向けられなくなってしまう。霊夢は、日々変わり往く庭の木々に気付くことが出来る、そんな『一人の時間』も悪くない、と思う。
(流れ往く日々に、変わり続ける季節。退屈な日なんて、一日として無いのかもしれないわね)
 そんな風に、穏やかに思えるのは何故だろう。今日の朝は自家製の大根の糠漬けが美味しかった。昨日の夜は、たらの芽の天ぷらが美味しかった。ささやかだが、それだけで霊夢は日々を幸福に思うのだった。霊夢はふと、部屋にある額に飾った『和』の文字に目をやる。……それは、霊夢の『今月の生活目標』である。『今月の』とは言っても、一ヶ月できっちりと変えられるわけではない。気に入った字面のときはそのまま何ヶ月も飾っておくことがあるし、気に入らないときはさっさと新しいものに代えてしまう。ちなみに『和』は三ヶ月ほど、その前の『適当』は一週間で代えられていた。
(……よし)
 霊夢は立ち上がると、棚から半紙と硯、その他もろもろの習字用具を取り出した。墨を擦り、筆の穂先を整えると、霊夢は眼を閉じ、一つ息を吐く。そして、筆を半紙に走らせた。

(まあまあの出来ね)
 霊夢は筆を置くと、書いた字を改めて眺めてみる。
 『平穏』。
 今の霊夢の心持ならば、何ヶ月でも守っていけそうな目標だ。多少の事件が起きても、特に問題なくすぐに解決できれば、それは『平穏』の一欠けらである。守れなさそうな目標は立てない。しかし、立てる目標は、常に霊夢が大切にしたいと思っていることである。霊夢は梅のつぼみを眺めながら墨が乾くのを待つことにした。
(……玉露でも出そうかしら)
 何でもない日に、ちょっと特別なお茶を飲む。なんて贅沢なんだろう。霊夢の顔が自然と綻んだ。墨の乾いた『平穏』の字を額に入れ、壁に飾りなおすと、霊夢は早速お茶の用意を始めた。湯を沸かし、急須に注ぐと、それを愛用の湯のみと一緒に盆に載せ、霊夢は縁側に向かった。庭の全体が良く見渡せる位置に腰を落ち付けると、霊夢は早速急須のお茶を湯のみに注いだ。淹れたてのお茶は、まだ熱い。息を幾度か吹きかけて、少し冷ましてみる。
 ふと、庭に影が落ちる。霊夢はそれに心を動かすことは無く、顔に近づけた玉露の香りを堪能する。そして、霊夢が湯のみに口を付けた刹那。

 ずがあああああああああああああんっ!!! と、物凄い轟音を立てて、霊夢の眼前に鋼鉄の足が出現した。
「ぶふぅ――――――ッ!!!!」
 霊夢は宝物を守る赤龍の炎のような勢いで玉露を噴出した。同時に、霊夢の背後でがたんっ、という音。『平穏』の文字が壁から外れ、落下していた。
「ぬな、な、なんじゃあこりゃあ―――ッ!!」
 叫びながら霊夢は庭に飛び出す。……屋根より高い鋼鉄の大巨人が、博麗神社の庭に降臨していた。驚愕する霊夢を尻目に、大巨人は体勢を立て直し、そのまま歩を進め始めた。一歩歩くごとに、庭には巨大な足跡型の穴が出来ていく。
「やっぱりこっちだったわね」
「いや、まさか飛ぶとはなぁ」
 空からの声に、霊夢はその方を見上げた。アリスと魔理沙の二人である。
「おお、霊夢。今日は大変お日柄も良くお茶日和だな」
「ご機嫌いかがかしら? 相変わらず息災のようね」
 二人はことさらにニコニコと笑みを浮かべる。
「ひょっとしなくても、あんたら二人の仕業ね」
「いやまあ、ひょっとしてくれよ」
「じゃあ、誰の仕業なのよ」
「魔理沙の仕業ね」
「アリスの仕業だ」
 二人は同時にお互いを指差した。

「これ以上ないほど解りやすくあんた『達』の仕業なわけね……二人仲良く結界行き」
 霊夢はお払い棒を手に取ると、ばさ、とそれを振るった。
「ほら、やっぱり怒ってるじゃない!! 怒らせるとまずいんでしょ?」
「恐ろしくて口にも出せないぜ……」
 アリスは怒った霊夢の姿など見たことがなかったが、魔理沙の言い様と怯え様を見ると計り知れないほど恐ろしいことになるようだ。
「まあ落ち付けって、霊夢。私達だって反省してるんだ。その証拠に、ほら」
 魔理沙は綺麗に包装された小箱を一つ取り出し、霊夢に差し出した。
「まあ別に、反省してるならいいけど……。贈り物を貰うのに悪い気もしないしね」
 巫女は割と単純であった。
「そう言ってくれると嬉しいぜ」
「で、何かしらこれ」
 霊夢は包みを解き、箱の蓋を開けた。中には、焦げたキャベツが入っている。
「……」
 霊夢は巻き戻し再生を見るような手付きで包みを戻し、魔理沙に向かって投げ返した。
「……こんなに貰って悪い気しかしない贈り物は初めてだわ」
「おい、何でだよ!! 食えよキャベツ!! 『ありがとうキャベツ』と三回暗唱してから食え!!」
「やっぱり、結界行き」
 しゅごお、と音がして、霊夢に霊力が集まってくる。
「ほら、だから言ったじゃない、夜泣き市松人形のほうがいいって」
 アリスは魔理沙に小声で耳打ちした。
「あんたら、人をいらんもんの掃除屋かなんかと勘違いしてない?」
「まあ、腐りかけてるキャベツを食わそうとしたのは謝るぜ……」
「腐りかけのものを他人に食わそうとするな。しかも焦げてるし」
 結局二人が霊夢の怒りを解くのに、さらに幾度かの問答を要したのだった。

 ひとまず二人は霊夢にゴーレムについてを話した。制御を失って暴走していること、手を出さなければ向こうも攻撃はしてこないが、ひとたび攻撃すればすさまじい反撃が返って来る事、そして、二人の魔法は一切通じなかった事、などである。
「で、結局あんたらの尻拭いを私にさせようって事?」
「だから、アリスのケツ拭いだぜ」
「いや、魔理沙の尻拭いでしょ」
「アリスのケツだって」
「魔理沙の尻よ」
「アリスのケツ!!」
「魔理沙の尻!!」
「アリケツ!!」
「マリ尻!!」
「ケツ!!」
「尻!!」
 例によってどうでもいいところで張り合う二人に、霊夢が割って入る。
「まあケツでも尻でもどっちでもいいわよ。放って置くわけにも行かないし。あんた達二人は庭の穴でも埋めてなさい」
「……また土かよ」
「いっそこの穴を使って池でも作ったらどうかしら?」
「水溜りにしかならないわよ、んなもん」
 言い残し、霊夢はゴーレムのほうへ向かって飛び立った。
「追うぜ、アリス」
「えっ、いいのこの穴?」
「後でやればいいだろ。気になるし」
 言うが早く、魔理沙は箒に跨り、霊夢の後を追った。仕方ない、とアリスもため息を付き、魔理沙の後ろを追うことにする。

 霊夢はゴーレムの正面に回りこむと、改めてその巨躯をじっくりと眺めた。傍らの木よりも頭二つは出ており、ゆったりとした歩を進めるたびに足元に揺れが伝わってくる。
「でっか~……。あの二人、良くこんなもんを作ったわね」
 何もしてこないとはいえ、歩いているだけで正直迷惑だ。足音は響くし、幻想郷中を巨大な足跡で埋め尽されたのでは、たまったものではない。
「とりあえず、結界に捕らえて、地中の底まで叩き下ろす!!」
 霊夢はゴーレムの周囲に符を撒き散らし出した。
「もう始まってるみたいね」
 霊夢がゴーレムの周りを飛び回り始めたと同時、アリスと魔理沙の二人が追い付いてくる。
「しかし、あいつでなんとかなるもんなのか?」
「さあ。霊夢の『力』は私達とは微妙に違うから、もしかしたらと思ったんだけど」
「霊夢がダメだったらどうするんだよ」
「そのときは、新しい方法を考えましょ」
 言っている間に、霊夢の符の配置が終わる。霊夢は再びゴーレムの正面に立ち、霊力を集中させた。『八方龍殺陣』。龍をも封じる、霊夢最大の符術結界である。符はそれぞれが点となり、線を結ぶ。そしてその線が障壁を作りだし、ゴーレムの周囲を完全に取り囲んだ。ゴーレムは結界に阻まれ、身動きが取れなくなったようである。
「おお、さすが霊夢だ。アマリリスの動きを止めたぜ」
「……そうかしら?」
 魔理沙の時にも、ゴーレムは攻撃をする一瞬動きを止めた。……アリスには、今回もそれと同じように見えたのである。
「封印完了!! 後は結界の隙間に叩き込むだけね」
 霊夢はそのまま地面に降りる。……と。
「!?」
 ばちばちい、と音を立て、ゴーレムの両腕が結界の障壁を突き破った。そして、手から無数の魔力塊を放つ。良く見れば、それはアリスの操る蓬莱人形の容貌と酷似していた。蓬莱人形のフェイクは霊夢を取り囲み、そのまま膨大な量の弾丸を放つ。
「厄介ね……結界も効かないの?」
 霊夢は宙に舞う木の葉のような動きで、巧みに弾幕を回避する。その間に、ゴーレムは全身ごと結界に突っ込み、そのまま障壁を突き破った。
「このっ」
 霊夢は妙殊を散らし、人形のフェイクを弾丸ごと叩き落す。そして身を引き、ゴーレムに向き直った。……追撃は無いようだ。

「よう、やっぱりダメだったな」
 肩で息をする霊夢に、魔理沙が片手を上げて言う。
「あんたら……ホントにろくでもないもの作ったわね」
「魔法が効かない。結界も意味がない。……これ、ホントにどうにかなるのかしら」
 アリスは呟きながら、ゴーレムに目をやった。今の魔力の放出で、少し動きが鈍くなっている。
「ていうか、今更ぶっ壊すってのはちょっとなぁ……何とかして止められないか?」
「止めるだけなら、また小石を投げてダブルスパークでも撃たせれば止まるわよ」
「イヤだぜ、あんなのもう一度食らったら今度こそ死ぬ。……妹紅にでも頼むか。神の光でも死なないって言ってたし」
「……痛みは感じるって言ってたし、絶対承諾しないと思う」
「とりあえず、私は帰るわよ。何も出来そうもないし」
「ああ、霊夢のとこで作戦会議だな」
「なんでそうなるの?」
「いいじゃない。三人寄れば文殊の知恵。霊夢だってどうにかしないと困るでしょ」
「まあ、そうなんだけど」

 三人は博麗神社に戻り、お茶を飲みながらあーでもない、こーでもない、と議論を交わし始めた。
「レミリアか幽々子に頼んでみるのはどうだ?」
「無駄だと思う。二人とも、『命』に関わる能力だし、『モノ』には効くと思えないわ」
「じゃあ、妖夢にぶった斬ってもらう?」
「紅魔館の妹君でも破壊できるかもしれないわね。会いたくないけど」
「いやまあ、ぶっ壊すってのは無しにしようぜ……」
 霊夢と魔理沙の意見に、魔理沙が声を弱めて言った。
「あら、真っ先に壊しにかかったのは魔理沙じゃない」
「気が変わったんだよ。なんて言うかな、一日たって愛着が湧いてきたっていうか。なんかな、可哀想な気がするだろ」
「……解らないわね」
 アリスには魔理沙の心情が理解できなかった。……人間は時折、理解できないほどに不合理な矛盾を口にする。『モノ』に対し、『可哀想』? 魂がないから『モノ』である。魂が無いという事は、心が無いということ。そんなものに対しての感情なんて、ただの自己満足でしかないじゃないか。
「……」
 まあせっかく苦労して作ったものだし、勿体無い、という気持ちはアリスにも有った。霊夢はそんなアリスの思考を知ってか知らずか、黙ってお茶に口を付けていた。
「あれだ、紫に頼んでスキマを使ってアマリリスの中の小部屋に入れないか?」
「確かに中に入れればどうとでもなるだろうけど……」
 小部屋には、ゴーレムの弱点になるものが全て収められている。『核』もそうだし、起動する時に彫った『EMETH』の文字も、その一つだ。ゴーレムを動かなくするには、『EMETH』の頭の『E』を消し、『真理』の意から『METH』、『死』に変えてしまえばいい。
「あいつ、呼ばれて動くかなぁ」
「そもそも、どうやって呼ぶの?」
 紫の居は迷い家、偶然迷い込むことはあっても、行こうと思って行ける場所ではない。そもそもどこが入り口かも解らないのだ。
「昨日の時点で捕まえておけば良かったぜ……ああもう、出てこいよ八雲!!」
 魔理沙はいいながら畳に背を預けた。……と、天井に歪みがあることに気付く。
「ん?」
 歪みは大きくなり。
「呼ばれて飛び出て」
「じゃじゃじゃじゃーん!!」
 ……紙ふぶきを撒き散らしながら、八雲藍と橙の式神二人がちゃぶ台にすた、と降りてきた。
「呼んでないぜ。とっとと帰れ」
「いやまあ、解っちゃいるけど開口一番それはひどいね」
「とりあえず降りなさい、ちゃぶ台」
「ああ、失敬。それと私に玉露を、橙にミルクを」
 霊夢の言葉に欄はちゃぶ台から降り、霊夢と魔理沙の対面、アリスの隣に腰を落ちつけ、指を一本立てて言う。
「自分で淹れろ。あと、先に掃除」
 周囲には二人の撒き散らした紙ふぶきが散乱していた。

「……で、何よこのがっかり二人は」
 アリスはちゃっかり自分で用意した玉露とミルクをすする式神二人を見ながら言う。
「がっかりとは失敬な。私は今回の事件に関して、紫様の代理ということで馳せ参じたんだぞ」
「本人はどうしたのよ?」
「寝てます」
 三人のがっかり度がさらに上がる。
「代理って、じゃあ何? あんた達もスキマとか扱えるの?」
 アリスの言葉に、藍はふふん、と笑みを浮かべる。
「出来るわけが無い」
「……」
 三人のがっかり度は急上昇中である。
「境界を操れるのは幻想郷広しと言えども、紫様だけ。しかし私もそんじゃそこらの妖怪よりは余程力を持っているので」
 ぼむ、と煙を上げて藍の姿が消えた。そして、押入れの戸が開く。
「種無しイリュージョンが出来ます」
「わー」
 ぱちぱちぱち、と橙が藍に拍手をする。
「役に立たねぇー―――ッ!!」
 三人のがっかり度が頂点に達した。
「いや……本人出てこないとダメだって私も言ったんですけどね。わが主は自分の力を自覚してないって言うか、ぐーたらっていうか……」

「で、猫のほうは何しに?」
「私は撮影係だよ!!」
 橙は懐から昨日紫が使っていたのと同じカメラを出すと、ちゃっ、とそれを構える。
「紫様は最近写真撮影に凝っていてね。ほら、これは冬に元の姿の橙を取ったものです。可愛いでしょう?」
「えへへへ~」
 橙が照れくさそうに笑う。藍が取り出したアルバムには、コタツで丸くなっていたり、藍の尻尾に包まりながら毛繕いをする黒猫の写真が収められていた。
「いや……猫好きの写真自慢なんかどうだっていいんだけど」
「他にもありますよ。こっちは抱えのメイドのせくしぃな下着を勝手につけて遊んで怒られている吸血鬼の写真」
 藍はぴら、と一枚の写真を三人の前に差し出した。
「ぶははははははっ!! 普段偉そうにしてるあいつも形無しだな、おい!!」
「微笑ましいわね~」
 爆笑する魔理沙に、生暖かい笑顔の霊夢。そしてアリスはこみ上げてくる笑いを必死に抑えていた。
「これは妖夢殿の暗い廊下で飛んできた油虫に半狂乱になって、ぱんつ丸出しで失神してる写真」
「ぎゃはははははっ、どらどら」
「違った。これは森の魔法使いの、いい年になってもどこぞの毛が生えてこなんだのを気に病んで、鹿の毛を……」
「ぎゃあああああああああああっ!! てめえ、焼けっ!! 今すぐ焼けそれっ!!」
「あははははははははは」
「ぷっ……心配しなくても……ぷぷっ、生えてくるわよそのうち」
 霊夢はだんだんだんだん、とちゃぶ台を連打し、アリスは笑いを堪えながら魔理沙の肩をぽん、と叩いた。
「ああああうるさい、お前ら見るなっ!!」
「まあ、他にも毎日神妙な顔つきで胸囲を図る神社の巫女の……」
「うあああああああっ、なな、なんでそんなもんまでっ!?」
「ぷぷっ……ほら、霊夢もまだ成長期だから……」
「……そんなに気にしてたのか、お前……」
「もちろん人形遣いの……」
 隣の席に座っていたアリスは、藍が言い終わる前に写真をばっと奪い取った。
「おいてめえアリス!! お前だけずるいぜ!! 見せろ!!」
「そうよ、見せなさい」
「ぜっっったいに嫌っ!!」
「いやまあ、魔法の研究の時についつい目に入ったいかがわしい……」
「言うな――――――っ!!」

 三人が喧々囂々、どんがらどんがらと騒いでいるうちに、部屋の縁側に霧が集まってくる。それがやがて一箇所に集まり、少女の形を成した。
「あれー、なんか騒がしいから来てみたら……何やってんの? 新しい遊び?」
 密と疎を司る鬼、伊吹萃香である。
「おや、これは萃香殿。久しいですね。近頃はどちらに?」
「そりゃまあ、鬼は隠れるものだからね。色んなとこに隠れてたわ」
「藍様、三人ともまだこっちに気付いてないみたいだけど、いいの?」
 橙は藍の袖をくいくいと引っ張りながら言う。
「しょうがないやつらね、人がせっかく顔を出したっていうのに」
「鬼が角を出してますけどね。まあ、今のうちに話しておきましょうか」
 写真の奪い合いをする三人を無視して、藍は萃香に事のあらましを語り始めた。

 三人が萃香の姿に気付いたのは、藍が粗方事の次第を伝え終えた頃だった。
「萃香、何の用?」
「何の用、と言われても。別に悪い子探しに来たわけじゃあないし」
「ここには良い子しかいないからな」
「そうね、幻想郷は良い子だらけだわ」
「……何の皮肉?」
「別に。言葉通りよ」
 アリスの言葉に、萃香はあっけらかんと答える。
「さて、じゃあ鬼の力、存分に振るっちゃおうかなー」
 萃香は腕をぶるんぶるんと振るいながら、外へと向かっていく。
「……三分どころか十秒も持たない巨大化なんてされても、役には立たないぜ」
「あんたら、鬼の力を見くびってない? 私は密と疎を操る鬼よ?」
「角まで生やした古臭い子鬼に何が出来るのかしら?」
「……いやにつっかかるねぇ。まだ私に言われた事、根に持ってるのかしら? 屋根と木々に隠れてばかりの一人ものに、束縛のない鬼の力はわからないよ」
「へえ? じゃあ、見せてもらおうじゃない、ハズレクジ引いたやつの力ってのを」
「じゃんけんで負けたやつとも言うな」
「いやまあ、もう見せてるんだけどね。ホントに解ってないとは」
 萃香は皮肉気にフ、と息を吐いた。
「あー? 力ってのは口ばっかりで何もしないことを言うのか? どこぞの権力者でもあるまいし」
「渦中に向かってみな。渦の回りは風速が強いから」
 そう言い残し、萃香は身を霧に変え、四散していった。
「……今渦中って言うと、アマリリスのところかしら?」
「気になるわね。行ってみましょう」
 霊夢を先頭に、三人は博麗神社を飛び出していった。
「さて……我々も行くか」
 藍は傍らの橙に目をやり、立ち上がる。
「でも、写真撮るだけなら私だけでも大丈夫だと思うけど。紫様はなんで藍様まで?」
「何も出来ないって解ってて私を遣したんだよ、紫様は。自分は何もしないから」
「うー、紫様は相変わらずわかんない」
「演じるから道化なんだよ、橙」
「?」
「まあ、それを言ったらマリオネットじゃなくてピエロを演じるべきだとも思うが……やっぱりぐーたらなだけなのかもしれない」
「??」
「いやまあ、橙にも解るようになる……解るようにならない方が良いかもしれないけど。結局なんにも解らないしな」
「よく解らないって事が解ったよ、藍様」
「多分それでいい。さて、三人を追うとしようか」
 式神二人も三人を追って、博麗神社を後にした。
どうも、アホアホSS書きのNVK-DANです。鬼になったまま置いて行かれたことがあります。かくれんぼ。

おもったより早く続きを上げることが出来ました。ノッてると一日で20KBくらいぽんと書けてしまうものです。
……いや、徹夜ですが。

まあしかし、長い。現在降り返し地点は過ぎております。もう少しばかり、お話にお付き合い頂ければ幸いです。
ついでに言うと、毎回タイトルも長い。センスの無さを露呈しているかのようで、リストに表示されているのを見るとちょっとハズい。

まあ、今回色々仕込みまくっているので、注意して読んでもらえるとまた何か面白いかもしれないです。
では、後編にてお会いしましょう。
NVK-DAN
http://www.geocities.jp/nvk_dan_21/
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