その日のよる とてもきれいなものをみた。
その日 おひるねをいっぱいしたから よるねむれなくて
みずうみにうかぶまんまるのお月さまをながめてた。すっごくおおきくて
あかくて わたしはそんなお月さまをみるのは はじめてで
その月を もっとあかいものがとおりすぎたときはなんだろうとおもった
けれど よくみると おおきなこうもりのはねをつけた おんなのこだった。
おんなのこは しろいふくをきて きらきらしたぎんいろのかみで くろい
おおきなはねをつけてて ちっともあかくなんかないのに・・・
なんでかわからないけど すごくあかくかんじた。
そのこは わたしにはきづかないで みずうみのうえをとびこえてとんで
いった。
そのこは あかくて とてもきれいで・・・
つぎにみつけたら こえをかけてみようとおもった。
チルノの一日は忙しい。
魚を捕まえたり 木の実を取ったり 蛙を凍らせたりとやる事は一杯ある。
冬であればレティと協力するのだが今は夏。全部一人でやらなくては
いけない。
おまけに時々自分の縄張りに侵入してくるものがあり、自分の縄張りを
守るためには戦わなくてはいけない。
ほら、今日もまた 侵入者が現れた。
「こらー!勝手に入っ・・・」
「マスタースパーク」
チルノは巨大な光の帯の直撃を受け、ひるひるぽてりと湖に落ちる。
・・・夕方、チルノが目を覚ました時には、もう侵入者はいなかった。
「ふん!どうやら私に恐れをなして逃げ出したようね!」
無知なるは幸いである・・・
チルノは最近、昼間はできるだけ眠るようにしている。
この間見た、紅い少女に会うためだ。
あれから何度か頑張って夜に起きていようとしていたが、もともと太陽
が昇ると共に目覚め、沈むと共に眠る生活をしていたので、夜更かしは
とても辛かった。日が沈んでからも一生懸命起きていようと森の木の
数を数えたりしていたが、月が昇る頃には眠ってしまう。
そうだ!この間みたいに昼間眠れば夜に起きていられる!と気付き
昼寝をするようになったのだが・・・
あの紅い少女が姿を見せる事はなかった。
あのこにあったら なんてはなしかけようかな?こんにちは?いやいや
よるだから こんばんはだよね。それからなんていおう?かみ きれい
だねとか そのふくかわいいねとか そのはねさわってもいい?とか。
あいてをほめるのが こみゅにけーしょんのひけつとか、れてぃもいって
たし。
それで わたしのちからをみせてあげよう。みずうみをこおらしたり、ゆき
だるまをつくったり。きっと あのこもすごいすごいってゆーよ。
でも わたしはくーるに 「そんなことないよ」とかいってみたりして。
それで・・・
チルノが彼女を待ち始めて幾つかの夜が過ぎ・・・
あの時と同じ、紅く大きな満月が昇る夜に・・・
紅い少女が現れた。
彼女はあの時と同じように 紅い月が照らす湖の舞台を、優雅に 力
強く 華麗に 瀟洒に 飛ぶ。
やっぱり 白い服に白い帽子、銀色の髪 だけれども 彼女から感じる
イメージは紅。万物の根源、始祖の色、警戒色、危険色、激しい感情、
勝利、炎。幼い少女には不釣合いな、しかし 彼女には何よりも相応し
い そんな色だった。
チルノは 声を掛けようか躊躇う。彼女の姿が神々しくて 禍々しくて
自分が話しかけてはいけないような気がする。
だけど・・・
決めてたんだ。
彼女とお話して、遊んで、そして・・・
友達になろうって。
レティと初めて会った時もそうだった。
雪原の中で 吹き荒ぶ雪嵐の中で 寂しそうに佇む彼女を初めてみた時、
自分が氷の精であることも忘れ・・・寒さに震えた。
そんな彼女が見ていられなくて、勇気を出して声を掛けた。
「私は春が来ると消えちゃうから。だから私に関わっても意味がない
よ」と寂しく語る彼女に、私は一度背を向けた。
それからも同じように雪原に一人、ただ舞い散る雪を 雪原を渡る雲を
見て過ごす彼女を、横目で見ながら、もう一度声を掛ける勇気がどうし
ても出せなかった。
春が訪れ 彼女が消える時 その日もやっぱり木の陰に隠れて見る
事しか出来ない私に彼女は・・・
「また いつか 会いましょうね・・・」
と微笑んで消えていった・・・
自分では気付かれていないと思っていたが、彼女は私に気付いてい
たのだ。
なんで もっとお話しなかったんだろう、一緒に遊ばなかったんだろう、
私にもっと勇気があれば、あの時もう一度話しかけていれば・・・
後悔ばかりが募る。春も夏も秋も ふとしたはずみで彼女の寂しげな
姿が思い出された。
冬が来て 私はもう一度 彼女と出会った。
彼女は眠る度に記憶を失うようで、私の事は憶えていなかった。
「あなたは だあれ?」と問いかける彼女に・・・
「私はチルノ。あなたの友達だよ」
と答えた。答えることができた。
それから幾度かの冬が過ぎた。彼女とは毎年自己紹介から始めなけ
ればいけないが、それでも彼女は私の一番の友達だ。
レティとの最初の出会い、あの時 勇気が出せなかった自分、次の
冬が来て再び会うまでの後悔の時間・・・
もう あんな想いはしたくない・・・
だから 私は 勇気を出して 後悔しないために 紅い少女に声を掛け
る。
「あ、あの!ちょっ、ちょっと待って!」
紅い少女は声に気付いて振り返る。改めて見るとホントに綺麗な子だ。
外見は愛らしいのに、その瞳は紅く輝いていて、あぁ 彼女が紅く見え
たのはその瞳の輝きだったんだと納得した。
紅い少女は無言でこちらを見つめている。その瞳の輝きに圧倒され、
喉が詰まる。
何か話しかけなくてはと思いながらも、頭の中がぐるぐるしてて、うま
く言葉が出てこない。
紅い少女は一言
「何か用か?」
と呟いた。
チルノは頭の中が真っ白になったままで
「あ、あの!こんにち・・・じゃなくて こんばんは!えとそのよい天気
ですねっ あの、羽根、格好いいね、服白くて可愛いね、えと、あと何だ
っけ・・・あ、そうそう髪、銀色で綺麗だね!あーその羽触って良いかな?
えーと相手を褒めるのがこみゅに何たらであり・・・それから、えーと」
一気に捲し立てた。事前に考えていたネタを一遍に広げてしまい、も
はやチルノの頭はいっぱいいっぱいであった。
頭を抱えて、おんだんかげんしょーがどうしたとか蛙のオスメスの見分
け方を延々と呟くチルノを見て、紅い少女は一瞬驚いたようにその目
を開いたが・・・
「ふん」と、一言で切り捨てた。
・・・鼻で笑われた・・・カチンときた・・・
「餓鬼が夜遊びか?さっさとお家に帰れ」
・・・偉そうだ・・・ムカついた・・・
「こんな満月の夜に、お前みたいなチビが一人か?見逃してやるから
さっさと消えろ」
・・・むかむかむか!
「何よ!あんただってそんなに背変わんないチビのくせに!私強いん
だからね!あんたなんかカチコチに凍らしちゃうことだってできるんだ
から!あんたが弱っちそーだから心配して声を掛けてやったのに!」
チルノの雑言を聞いて、紅い少女の眉と目が吊り上げる。
「身の程知らずの馬鹿が。潰すぞ?」
「やってみなさいよ!」
かくて 紅い少女=レミリア・スカーレットと氷精チルノの戦いが始まった・・・
チルノは体中から冷気を噴出し周囲に氷塊をいくつも生み出すとレミ
リアに向けて撃ち出した。氷塊は人の大きさ程もあり チルノはこれで
大猪を仕留めた事もあった。
迫り来る氷塊に レミリアは一歩も動かず・・・
氷塊はレミリアの寸前で粉々に砕け散った。
へ?とチルノは自分の目を疑う。確かに当たったと思ったのに!
チルノは氷塊を次々と撃ち出すが、先程と同じく 全てレミリアの眼前
で砕け散る。
レミリアはただ紅い瞳でこちらを睨みつけるだけ。指一本動かしていな
いのに!
「この程度か?」
レミリアが嘲笑を浮かべる。
「ま、まだまだ!こんなもんじゃないわよ!」
正面からじゃ弾かれる!左右からなら!
一際大きな氷塊をレミリアの左右に撃ち出す。二つの氷塊が結ぶ線
にレミリアの身体が重なった瞬間、氷塊が爆発した。砕けた氷塊は
氷の弾丸となって左右から襲う!
至近距離からの散弾にレミリアは反応できない!
凄まじい、連続する破裂音が夜の湖に響き渡る。氷塊は雹弾となり
氷霧となって辺りに立ち込める!
風が巻き起こり 氷霧を吹き散らすと そこには・・・
無傷のレミリアが立っていた。
チルノは驚く。今の攻撃は狩りでは使えない。威力があり過ぎて食べ
る部分が殆ど残らないからだ。その攻撃をまともに食らった筈なのに!
「今の攻撃・・・中々やるじゃないか。馬鹿の一つ憶えで氷塊を飛ばす
だけかと思ったら・・・意外に考えているんだな。では そろそろ反撃に
移ろうか?」
レミリアが左手を上げると、左手に紅い何かが集まり出す!
「動くなよ?」
レミリアの呟きにチルノが身構えると、レミリアの左手から紅い何かが
撃ち出され、しかし、チルノを掠めるように通り過ぎると、湖のほとりの
森に突き刺さり・・・
大爆発が起きた。
余りの轟音にチルノの叫びは掻き消される!チルノを掠めた紅い何か
は一撃で森の木を薙ぎ倒し、地面に二度と消えないクレーターを穿った。
「ほら、次いくぞ」
レミリアの左手から紅い何かが次々と撃ち出される!それらはチルノを
嘲笑うかのように チルノの身体を掠め、森に、湖に、岬に轟音と破壊
を撒き散らす!
チルノは指一本動かす事すらできなかった。身体の奥底から震え、
恐怖に目を見開き、涙が溢れてきた。
何だ?何なのだ こいつは?こんな、こんな圧倒的な力 私は知らな
い!こんなの・・・勝てる訳ない!
「ひぅ!」と怖れの声を上げるチルノ。それを見るレミリアの顔に一瞬
微妙な表情が浮かぶ。
それは・・・寂しさ?
チルノはもう一度 レミリアの顔を伺うが、今はただつまらなそうな
無表情でしかなかった。
「さて、私は忙しい。このまま逃げるなら見逃してやるぞ?それとも
まだ戦るか?戦るなら 次は外さんぞ」
レミリアの最後通牒を前に、チルノは・・・
「私ね。チルノが声を掛けてくれて本当に嬉しかったんだ。私は冬の精。
私が目覚めると、花は枯れ、獣は冬眠し、人も妖も家に閉じ篭る。
みんな寒い冬は嫌いなんだよ。だから私はいつも一人ぼっち。
それは仕方ない事なんだけど・・・それでもね。やっぱり寂しかった。
だからチルノが私に声を掛けてくれた時、とてもとても嬉しかったんだ
よ・・・」
・・・そんなレティの言葉を思い出していた。
先程のあの表情、それが レティに初めて会った時の あの雪原に
一人佇んでいる彼女の顔に酷く似ている事に気が付いた・・・
だから・・・私は・・・
震える両足に力を込め 無理矢理に恐怖を押し退ける。
怯える瞳に力を込め 彼女を真っ直ぐに見据える。
挫けそうな心に力を込め 勇気を奮い起こす!
私は・・・もう 逃げない!
あいつをやっつけて、それで、それで・・・友達になるんだ!
その真っ直ぐに自分を見つめる瞳に、レミリアは、気圧された。
目の前の少女を殺し、後悔している自分の未来が脳裏に浮かぶ。
しかし、
今更、己の在り様を変えれる筈もない・・・
「・・・いくぞ」
「いくよ!」
レミリアは両手を前に突き出し、紅い 血で装飾された魔力の塊を
召喚し一気に撃ち出す!
チルノは全身に冷気を纏い、自身を巨大な氷塊へと変えて突撃する!
紅い破壊が 巨大な氷塊を打ち砕かんとする瞬間、
紅い破壊は・・・氷塊の直前に突如現れた、蒼い障壁に阻まれた!
「何っ!」
氷塊はそのままレミリアを飲み込み、巨大な水柱を上げながら湖へと
没する!
そして・・・決着はついた・・・
レミリアは肩に気絶しているチルノを担ぎ、湖から顔を出す。吸血鬼が
水を苦手とするのは、魔力が水に奪われるからだ。現に今もレミリアの
身体から魔力がどんどん奪われていく。
チルノを抱えたまま 湖から上がると周囲を見渡し・・・
「出て来い!どういうつもりだ! 霊夢!」
と叫ぶ!
「騒がしいわね。夜は 静かに楽しむものよ」
森の影から 紅白の巫女装束に身を固めた 博麗霊夢が現れた。
霊夢は 静かに 悠然と 泰然としたまま 微笑を浮かべている。
「どういうつもりだ。何故 こいつを助けた?場合によっては貴様でも
許さんぞ」
レミリアは怒りでより一層 紅い輝きを増した瞳で 霊夢を睨みつける。
その輝きを前に なおも飄々と
「怖いわね。そんな目で見ないでよ。それに・・・何のことかしら?」
と、微笑みを浮かべたまま受け流す。
「惚けるな!あの時!私の紅弾を貴様の結界で掻き消しただろっ!
おかげで この私が、こんなヤツに!」
と、レミリアは肩に抱えたままのチルノを睨む。
「あら?むしろお礼を言って欲しいわね」
「何のことだ!?」
「その子・・・殺さずに済んだでしょ?」
レミリアは言葉を失う・・・
「全く。こんな良い夜に、ドカスカ五月蝿い馬鹿がいると思って来てみ
れば・・・悪魔と馬鹿が戦ってる。すぐに決着がつくと思ったのに、その
馬鹿が頑張ってるんだもん。そりゃあ 手を貸すってもんでしょ。人間
なら」
レミリアは静かにチルノを地面に下ろす。
「こいつ・・・私の羽根がどうしたとか、訳の解らない事ばかり言ってて、
何がしたいのかさっぱりだったが・・・本気の私を・・・真っ直ぐに睨み
返してきたんだ・・・」
「そう・・・良かったわね」
レミリアは気を失ったままのチルノを見ている 戸惑いの表情で・・・
霊夢はそんな二人を静かに見ている 穏やかな微笑を浮かべて・・・
三人の間を 静かな時間が流れる
月の色は 狂おしいまでの紅から 穏やかな蒼へと変わっている
湖は深く静かに 水面も揺らさず 鏡のように 蒼い月を映していた
静かで 穏やかな とても良い夜だった・・・
「霊夢。そいつ・・・頼むな」
レミリアは閥が悪そうにそう言うと 空に舞い上がる。
「そいつが目を覚ましたら・・・今日は負けておいてやるって伝えといて
くれ」
「典型的な負け犬の台詞ね」
「喧しいっ!」
レミリアはそっぽを向くとそのまま飛び去る・・・その顔が照れて真っ赤
だったのを霊夢は見逃さなかった。
チルノは眠っている。穏やかに、満足げに。
その姿を見ながら霊夢は呟く・・・
「寝てる時は可愛いんだけど・・・でも・・・鬼でも悪魔でもお釈迦様でも
泣く子にゃ勝てないのねぇ」
チルノは夢をみる・・・
あのこにあったら なんてはなしかけようかな?こんにちは?いやいや
よるだから こんばんはだよね。それからなんていおう?かみ きれい
だねとか そのふくかわいいねとか そのはねさわってもいい?とか。
あいてをほめるのが こみゅにけーしょんのひけつとか、れてぃもいって
たし。
それで わたしのちからをみせてあげよう。みずうみをこおらしたり、ゆき
だるまをつくったり。きっと あのこもすごいすごいってゆーよ。
でも わたしはくーるに 「そんなことないよ」とかいってみたりして。
それで・・・ れてぃとわたしとあのこのさんにんでいっぱい、いっぱい
あそぶんだ!
ー終ー
その日 おひるねをいっぱいしたから よるねむれなくて
みずうみにうかぶまんまるのお月さまをながめてた。すっごくおおきくて
あかくて わたしはそんなお月さまをみるのは はじめてで
その月を もっとあかいものがとおりすぎたときはなんだろうとおもった
けれど よくみると おおきなこうもりのはねをつけた おんなのこだった。
おんなのこは しろいふくをきて きらきらしたぎんいろのかみで くろい
おおきなはねをつけてて ちっともあかくなんかないのに・・・
なんでかわからないけど すごくあかくかんじた。
そのこは わたしにはきづかないで みずうみのうえをとびこえてとんで
いった。
そのこは あかくて とてもきれいで・・・
つぎにみつけたら こえをかけてみようとおもった。
チルノの一日は忙しい。
魚を捕まえたり 木の実を取ったり 蛙を凍らせたりとやる事は一杯ある。
冬であればレティと協力するのだが今は夏。全部一人でやらなくては
いけない。
おまけに時々自分の縄張りに侵入してくるものがあり、自分の縄張りを
守るためには戦わなくてはいけない。
ほら、今日もまた 侵入者が現れた。
「こらー!勝手に入っ・・・」
「マスタースパーク」
チルノは巨大な光の帯の直撃を受け、ひるひるぽてりと湖に落ちる。
・・・夕方、チルノが目を覚ました時には、もう侵入者はいなかった。
「ふん!どうやら私に恐れをなして逃げ出したようね!」
無知なるは幸いである・・・
チルノは最近、昼間はできるだけ眠るようにしている。
この間見た、紅い少女に会うためだ。
あれから何度か頑張って夜に起きていようとしていたが、もともと太陽
が昇ると共に目覚め、沈むと共に眠る生活をしていたので、夜更かしは
とても辛かった。日が沈んでからも一生懸命起きていようと森の木の
数を数えたりしていたが、月が昇る頃には眠ってしまう。
そうだ!この間みたいに昼間眠れば夜に起きていられる!と気付き
昼寝をするようになったのだが・・・
あの紅い少女が姿を見せる事はなかった。
あのこにあったら なんてはなしかけようかな?こんにちは?いやいや
よるだから こんばんはだよね。それからなんていおう?かみ きれい
だねとか そのふくかわいいねとか そのはねさわってもいい?とか。
あいてをほめるのが こみゅにけーしょんのひけつとか、れてぃもいって
たし。
それで わたしのちからをみせてあげよう。みずうみをこおらしたり、ゆき
だるまをつくったり。きっと あのこもすごいすごいってゆーよ。
でも わたしはくーるに 「そんなことないよ」とかいってみたりして。
それで・・・
チルノが彼女を待ち始めて幾つかの夜が過ぎ・・・
あの時と同じ、紅く大きな満月が昇る夜に・・・
紅い少女が現れた。
彼女はあの時と同じように 紅い月が照らす湖の舞台を、優雅に 力
強く 華麗に 瀟洒に 飛ぶ。
やっぱり 白い服に白い帽子、銀色の髪 だけれども 彼女から感じる
イメージは紅。万物の根源、始祖の色、警戒色、危険色、激しい感情、
勝利、炎。幼い少女には不釣合いな、しかし 彼女には何よりも相応し
い そんな色だった。
チルノは 声を掛けようか躊躇う。彼女の姿が神々しくて 禍々しくて
自分が話しかけてはいけないような気がする。
だけど・・・
決めてたんだ。
彼女とお話して、遊んで、そして・・・
友達になろうって。
レティと初めて会った時もそうだった。
雪原の中で 吹き荒ぶ雪嵐の中で 寂しそうに佇む彼女を初めてみた時、
自分が氷の精であることも忘れ・・・寒さに震えた。
そんな彼女が見ていられなくて、勇気を出して声を掛けた。
「私は春が来ると消えちゃうから。だから私に関わっても意味がない
よ」と寂しく語る彼女に、私は一度背を向けた。
それからも同じように雪原に一人、ただ舞い散る雪を 雪原を渡る雲を
見て過ごす彼女を、横目で見ながら、もう一度声を掛ける勇気がどうし
ても出せなかった。
春が訪れ 彼女が消える時 その日もやっぱり木の陰に隠れて見る
事しか出来ない私に彼女は・・・
「また いつか 会いましょうね・・・」
と微笑んで消えていった・・・
自分では気付かれていないと思っていたが、彼女は私に気付いてい
たのだ。
なんで もっとお話しなかったんだろう、一緒に遊ばなかったんだろう、
私にもっと勇気があれば、あの時もう一度話しかけていれば・・・
後悔ばかりが募る。春も夏も秋も ふとしたはずみで彼女の寂しげな
姿が思い出された。
冬が来て 私はもう一度 彼女と出会った。
彼女は眠る度に記憶を失うようで、私の事は憶えていなかった。
「あなたは だあれ?」と問いかける彼女に・・・
「私はチルノ。あなたの友達だよ」
と答えた。答えることができた。
それから幾度かの冬が過ぎた。彼女とは毎年自己紹介から始めなけ
ればいけないが、それでも彼女は私の一番の友達だ。
レティとの最初の出会い、あの時 勇気が出せなかった自分、次の
冬が来て再び会うまでの後悔の時間・・・
もう あんな想いはしたくない・・・
だから 私は 勇気を出して 後悔しないために 紅い少女に声を掛け
る。
「あ、あの!ちょっ、ちょっと待って!」
紅い少女は声に気付いて振り返る。改めて見るとホントに綺麗な子だ。
外見は愛らしいのに、その瞳は紅く輝いていて、あぁ 彼女が紅く見え
たのはその瞳の輝きだったんだと納得した。
紅い少女は無言でこちらを見つめている。その瞳の輝きに圧倒され、
喉が詰まる。
何か話しかけなくてはと思いながらも、頭の中がぐるぐるしてて、うま
く言葉が出てこない。
紅い少女は一言
「何か用か?」
と呟いた。
チルノは頭の中が真っ白になったままで
「あ、あの!こんにち・・・じゃなくて こんばんは!えとそのよい天気
ですねっ あの、羽根、格好いいね、服白くて可愛いね、えと、あと何だ
っけ・・・あ、そうそう髪、銀色で綺麗だね!あーその羽触って良いかな?
えーと相手を褒めるのがこみゅに何たらであり・・・それから、えーと」
一気に捲し立てた。事前に考えていたネタを一遍に広げてしまい、も
はやチルノの頭はいっぱいいっぱいであった。
頭を抱えて、おんだんかげんしょーがどうしたとか蛙のオスメスの見分
け方を延々と呟くチルノを見て、紅い少女は一瞬驚いたようにその目
を開いたが・・・
「ふん」と、一言で切り捨てた。
・・・鼻で笑われた・・・カチンときた・・・
「餓鬼が夜遊びか?さっさとお家に帰れ」
・・・偉そうだ・・・ムカついた・・・
「こんな満月の夜に、お前みたいなチビが一人か?見逃してやるから
さっさと消えろ」
・・・むかむかむか!
「何よ!あんただってそんなに背変わんないチビのくせに!私強いん
だからね!あんたなんかカチコチに凍らしちゃうことだってできるんだ
から!あんたが弱っちそーだから心配して声を掛けてやったのに!」
チルノの雑言を聞いて、紅い少女の眉と目が吊り上げる。
「身の程知らずの馬鹿が。潰すぞ?」
「やってみなさいよ!」
かくて 紅い少女=レミリア・スカーレットと氷精チルノの戦いが始まった・・・
チルノは体中から冷気を噴出し周囲に氷塊をいくつも生み出すとレミ
リアに向けて撃ち出した。氷塊は人の大きさ程もあり チルノはこれで
大猪を仕留めた事もあった。
迫り来る氷塊に レミリアは一歩も動かず・・・
氷塊はレミリアの寸前で粉々に砕け散った。
へ?とチルノは自分の目を疑う。確かに当たったと思ったのに!
チルノは氷塊を次々と撃ち出すが、先程と同じく 全てレミリアの眼前
で砕け散る。
レミリアはただ紅い瞳でこちらを睨みつけるだけ。指一本動かしていな
いのに!
「この程度か?」
レミリアが嘲笑を浮かべる。
「ま、まだまだ!こんなもんじゃないわよ!」
正面からじゃ弾かれる!左右からなら!
一際大きな氷塊をレミリアの左右に撃ち出す。二つの氷塊が結ぶ線
にレミリアの身体が重なった瞬間、氷塊が爆発した。砕けた氷塊は
氷の弾丸となって左右から襲う!
至近距離からの散弾にレミリアは反応できない!
凄まじい、連続する破裂音が夜の湖に響き渡る。氷塊は雹弾となり
氷霧となって辺りに立ち込める!
風が巻き起こり 氷霧を吹き散らすと そこには・・・
無傷のレミリアが立っていた。
チルノは驚く。今の攻撃は狩りでは使えない。威力があり過ぎて食べ
る部分が殆ど残らないからだ。その攻撃をまともに食らった筈なのに!
「今の攻撃・・・中々やるじゃないか。馬鹿の一つ憶えで氷塊を飛ばす
だけかと思ったら・・・意外に考えているんだな。では そろそろ反撃に
移ろうか?」
レミリアが左手を上げると、左手に紅い何かが集まり出す!
「動くなよ?」
レミリアの呟きにチルノが身構えると、レミリアの左手から紅い何かが
撃ち出され、しかし、チルノを掠めるように通り過ぎると、湖のほとりの
森に突き刺さり・・・
大爆発が起きた。
余りの轟音にチルノの叫びは掻き消される!チルノを掠めた紅い何か
は一撃で森の木を薙ぎ倒し、地面に二度と消えないクレーターを穿った。
「ほら、次いくぞ」
レミリアの左手から紅い何かが次々と撃ち出される!それらはチルノを
嘲笑うかのように チルノの身体を掠め、森に、湖に、岬に轟音と破壊
を撒き散らす!
チルノは指一本動かす事すらできなかった。身体の奥底から震え、
恐怖に目を見開き、涙が溢れてきた。
何だ?何なのだ こいつは?こんな、こんな圧倒的な力 私は知らな
い!こんなの・・・勝てる訳ない!
「ひぅ!」と怖れの声を上げるチルノ。それを見るレミリアの顔に一瞬
微妙な表情が浮かぶ。
それは・・・寂しさ?
チルノはもう一度 レミリアの顔を伺うが、今はただつまらなそうな
無表情でしかなかった。
「さて、私は忙しい。このまま逃げるなら見逃してやるぞ?それとも
まだ戦るか?戦るなら 次は外さんぞ」
レミリアの最後通牒を前に、チルノは・・・
「私ね。チルノが声を掛けてくれて本当に嬉しかったんだ。私は冬の精。
私が目覚めると、花は枯れ、獣は冬眠し、人も妖も家に閉じ篭る。
みんな寒い冬は嫌いなんだよ。だから私はいつも一人ぼっち。
それは仕方ない事なんだけど・・・それでもね。やっぱり寂しかった。
だからチルノが私に声を掛けてくれた時、とてもとても嬉しかったんだ
よ・・・」
・・・そんなレティの言葉を思い出していた。
先程のあの表情、それが レティに初めて会った時の あの雪原に
一人佇んでいる彼女の顔に酷く似ている事に気が付いた・・・
だから・・・私は・・・
震える両足に力を込め 無理矢理に恐怖を押し退ける。
怯える瞳に力を込め 彼女を真っ直ぐに見据える。
挫けそうな心に力を込め 勇気を奮い起こす!
私は・・・もう 逃げない!
あいつをやっつけて、それで、それで・・・友達になるんだ!
その真っ直ぐに自分を見つめる瞳に、レミリアは、気圧された。
目の前の少女を殺し、後悔している自分の未来が脳裏に浮かぶ。
しかし、
今更、己の在り様を変えれる筈もない・・・
「・・・いくぞ」
「いくよ!」
レミリアは両手を前に突き出し、紅い 血で装飾された魔力の塊を
召喚し一気に撃ち出す!
チルノは全身に冷気を纏い、自身を巨大な氷塊へと変えて突撃する!
紅い破壊が 巨大な氷塊を打ち砕かんとする瞬間、
紅い破壊は・・・氷塊の直前に突如現れた、蒼い障壁に阻まれた!
「何っ!」
氷塊はそのままレミリアを飲み込み、巨大な水柱を上げながら湖へと
没する!
そして・・・決着はついた・・・
レミリアは肩に気絶しているチルノを担ぎ、湖から顔を出す。吸血鬼が
水を苦手とするのは、魔力が水に奪われるからだ。現に今もレミリアの
身体から魔力がどんどん奪われていく。
チルノを抱えたまま 湖から上がると周囲を見渡し・・・
「出て来い!どういうつもりだ! 霊夢!」
と叫ぶ!
「騒がしいわね。夜は 静かに楽しむものよ」
森の影から 紅白の巫女装束に身を固めた 博麗霊夢が現れた。
霊夢は 静かに 悠然と 泰然としたまま 微笑を浮かべている。
「どういうつもりだ。何故 こいつを助けた?場合によっては貴様でも
許さんぞ」
レミリアは怒りでより一層 紅い輝きを増した瞳で 霊夢を睨みつける。
その輝きを前に なおも飄々と
「怖いわね。そんな目で見ないでよ。それに・・・何のことかしら?」
と、微笑みを浮かべたまま受け流す。
「惚けるな!あの時!私の紅弾を貴様の結界で掻き消しただろっ!
おかげで この私が、こんなヤツに!」
と、レミリアは肩に抱えたままのチルノを睨む。
「あら?むしろお礼を言って欲しいわね」
「何のことだ!?」
「その子・・・殺さずに済んだでしょ?」
レミリアは言葉を失う・・・
「全く。こんな良い夜に、ドカスカ五月蝿い馬鹿がいると思って来てみ
れば・・・悪魔と馬鹿が戦ってる。すぐに決着がつくと思ったのに、その
馬鹿が頑張ってるんだもん。そりゃあ 手を貸すってもんでしょ。人間
なら」
レミリアは静かにチルノを地面に下ろす。
「こいつ・・・私の羽根がどうしたとか、訳の解らない事ばかり言ってて、
何がしたいのかさっぱりだったが・・・本気の私を・・・真っ直ぐに睨み
返してきたんだ・・・」
「そう・・・良かったわね」
レミリアは気を失ったままのチルノを見ている 戸惑いの表情で・・・
霊夢はそんな二人を静かに見ている 穏やかな微笑を浮かべて・・・
三人の間を 静かな時間が流れる
月の色は 狂おしいまでの紅から 穏やかな蒼へと変わっている
湖は深く静かに 水面も揺らさず 鏡のように 蒼い月を映していた
静かで 穏やかな とても良い夜だった・・・
「霊夢。そいつ・・・頼むな」
レミリアは閥が悪そうにそう言うと 空に舞い上がる。
「そいつが目を覚ましたら・・・今日は負けておいてやるって伝えといて
くれ」
「典型的な負け犬の台詞ね」
「喧しいっ!」
レミリアはそっぽを向くとそのまま飛び去る・・・その顔が照れて真っ赤
だったのを霊夢は見逃さなかった。
チルノは眠っている。穏やかに、満足げに。
その姿を見ながら霊夢は呟く・・・
「寝てる時は可愛いんだけど・・・でも・・・鬼でも悪魔でもお釈迦様でも
泣く子にゃ勝てないのねぇ」
チルノは夢をみる・・・
あのこにあったら なんてはなしかけようかな?こんにちは?いやいや
よるだから こんばんはだよね。それからなんていおう?かみ きれい
だねとか そのふくかわいいねとか そのはねさわってもいい?とか。
あいてをほめるのが こみゅにけーしょんのひけつとか、れてぃもいって
たし。
それで わたしのちからをみせてあげよう。みずうみをこおらしたり、ゆき
だるまをつくったり。きっと あのこもすごいすごいってゆーよ。
でも わたしはくーるに 「そんなことないよ」とかいってみたりして。
それで・・・ れてぃとわたしとあのこのさんにんでいっぱい、いっぱい
あそぶんだ!
ー終ー
雨と夢のあとにを聴いていたので、それと相まってすごく、泣けてしまいました。
うう、ほろり。
いや別に普段が魔王ちっくじゃないとか、チビジャリにしか見えないとかそう言う気持ちで言うんで無しn(すかあれっとまいすた
確かにこいつはチルノだ
こんなに嬉しいものとは思ってませんでした。レスが付いてないか、
一時間おきにチェックする始末。恋文の返事を待って何度もポストを
覗いてしまう女学生のような気分です・・・ちなみに私はオスですが。