Coolier - 新生・東方創想話

異幕『プラスチックなマイハート~Alice the witch's magicdoll collection』

2005/05/23 13:29:02
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 『発端』とは、常に起こりうる事象の内より、類まれなる組合わせが作る『偶然』によって生み出されるものである。
 魔法の森、その奥に人目から忍ぶようにひっそりと建つ屋敷が一軒。『魔法使い』の種族、アリス・マーガトロイドの居である。余程のことが無ければ人も妖怪も一切訪れることの無いそこで、アリスは一人自室に篭り、一つの人形を眺めていた。その人形は、この部屋の棚中に並ぶアリスの人形蒐集コレクションの中でも群を抜いて奇妙なものである。材質は不明、少なくともこの幻想郷内では造ることも探すことも適わないものだろう。さらに、五体こそ人のそれに似通っているが、その形状は人のそれとはかけ離れている。色彩は鮮やかで、アリスのコレクションにある呪術に使用されるものとはまた違い、禍禍しさよりも刺々しさ、良く言えばシャープなフォルムが目を引く。
「……」
 アリスはその人形を手に取り、さらにじっとそれを見つめた。……一体これは、何なのだろう。これの前の持ち主、古道具屋の主は、これは外の世界のもので観賞用の『何か』のレプリカだ、と言っていた。しかし、その『何か』まではわからない。なんでも、その『何か』はより巨大なもので、これはおおよそ百分の一の大きさであるらしい。
(……外の世界には、そんな巨大なものが平気でうろついていたりするのかしら?)
 そこでアリスははたと気が付く。ひょっとしてこれはゴーレムの類なんじゃないだろうか。
「ごーれむ、ごーれむ、でっかいごーれむ」
 アリスの右肩に人形が飛びつき、そう片言ではしゃぐように言う。人形はアリスの操るもの、つまりあくまでアリスの意思を反映したものである。すなわちこの人形との会話は高度な独り言、ということになる。
「そうね、これはきっと、ゴーレムの類のものだわ」
 アリスは指で人形のサイズを測り、それを頭の中で百倍に直して想像してみる。……庭木よりも、さらに巨大な、天を突くようなゴーレム。
「なるほど、面白そうね」
「つくろう!! つくろう!!」
 さらに人形がもう一体、左肩に飛びついてくる。
「そうね、外の世界の巨大な人形。そんなのがここのガーディアンになるのもいいわね」

 ……それが、今回の発端である。アリスは『外の世界のもの』を象った物を作るつもりでいたのだが、それそのものが幻想の産物であることなど知る由もなかったのである。


 翌日から、アリスは早速作業に取り掛かることにした。手持ちの使える人形を総動員して、彫刻にも使えるような粘土を集めていく。どうせならば材料まであの人形に合わせたいところだったが、何分貴重な素材である。巨大なゴーレムを作るほどの材料など手に入れようも無かったため、ひとまずはクレイゴーレムで我慢することになったのである。二日ほどで、アリスの家の庭に小山ができるほどの粘土が集まった。土さえ集まってしまえば、ただのクレイゴーレムを作ることは簡単だ。問題はそれをあの人形と同じように模る事である。ただでかいだけの土人形など、アリスの主義に反するものである。形状には特に拘って作りたい。

(うーん、どうしたものかしらね)
 三日目の朝、アリスは庭の粘土の山を前に、腕を組んで悩んでいた。思い付きで始めたものの、実際にやってみるとなると、中々めんどくさいものである。アリスは自分で人形を縫うこともあったが、今回は手間隙労力、その他もろもろ今までとは比較にならない。既にくたびれた泥だらけの人形がいくつも庭に散乱しているし、粘土の山もここから片付ける気にはならなかった。我ながら妙なことを始めてしまった、とアリスはため息をついた。慣れない事はするものではない。
(この家を建てた時以来かしらね、こんなのは)
 アリスは自分がここに居を構えることになった時のことを、ぼんやりと思い出していた。

「おい、アリス!!」
「えっ!?」
 アリスは後ろからの突然の声に、びく、と身を震わせて振り返った。そこにいたのは、同じくこの魔法の森に居を構える人間の魔術師、霧雨魔理沙であった。アリスは驚かされてしまったことに赤面するが、すぐに冷静に対処するよう、頭の中を落ちつかせる。
「魔理沙が突然何の用? いつからいたのよ?」
「ああ、別にさっきからいたぜ。声を掛けても返事をしなかったのはそっちだ」
 魔理沙の言葉に、アリスは再び赤面しなくてはならなくなった。
(……全然、気が付かなかった……)
 魔理沙相手に二度も失態を演じてしまった。
「で、何の用?」
 アリスは眉を寄せながら、冷静を装って最初と同じ質問を魔理沙に投げかけた。恥ずかしさを隠すには、怒って見せるのが一番だ、とアリスは思っていたのである。
「それはこっちのセリフだ」
「こっちで合ってるわよ」
「昨日から泥だらけの人形が、何かを運んでいるのを何度か見かけた。面白そうなことだったら、首を突っ込んでみようかと思ってな」
「別に、面白くはない。そんなに突っ込みたがる首なら、地獄の断頭台にでも突っ込んできなさい」
「飛頭蛮になんかなりたくないぜ」
「魔理沙の首なら、道行きのみしるしに丁度いいわね」
「まあ、私の首はどうだっていい。何をしてるんだよ」
「何もしてない。面白くもないからさっさと帰りなさい」
 言い終わると、アリスはぷい、と魔理沙に背を向ける。魔理沙は口をむっ、とへの字に曲げると、足元の小石を一つ掴んだ。
「『石符・スローストーン』」
 ぼそ、とそう呟くと、後ろを向いたアリスの後頭部に、ひょいと小石を投げた。小石は弧を描き、アリスの後頭部にこつん、とぶつかる。
「……」
 アリスは石の当った辺りを手で押さえ、振り返る。睨み付けるアリスに、魔理沙はわざとらしく目を逸らし、口笛を吹いている。アリスがもう一度魔理沙に背を向けると、魔理沙は調子付いてひょいひょいひょい、と小石を何度も投げ付けた。
「……『返符・リターンスロー』」
 アリスは魔理沙が投げ付けてきた石の一つを拾い上げると、それをオーバースローで魔理沙に投げ付けた。その小石は魔理沙の眉間にあたり、びし、という音を立てた。
「い、いてえっ!! おい、目に入ったらどうするんだよ!!」
「あら、ごめんなさい。打ち返しだったから、つい本気で」
 ふふん、と挑発的な笑みを浮かべながらアリスは言う。
「わかったぜ、上等だ」
「こっちこそ、極上よ」

 こうして世にもショボい弾幕勝負の火蓋は、切って落とされたのである。魔理沙は庭の砂地になっている部分に、アリスは詰みあがった粘土の傍らにそれぞれ移動する。
「『砂符・スターダストサンド』!!」
 魔理沙は足元の砂をアリスに向かって投げ付ける。
「『地符・ブレットアース』!!」
 アリスは粘土を魔理沙に向かって投げ付けた。そしてそれぞれ、べちゃ、ばさあ、と見事に相打ちになる。
「……」
「……」
 弾かれたように、二人は同時に家の中に駈け込んだ。そしてそれぞれ、目に入ったものを手当たり次第に手に取り、相手に向かって投げ付ける。
「『本符・ブックマグナムクロイワセンセイ』!!」
「『投符・投げられ只之人形』!!」
「『辞典・ディクトミサイル』!!」
「『火鍋・フライングパンケーキ』!!」
「『攻撃・スカッドチェアー』ッ!!」
「『迎撃・パトリオットチェアー』ッ!!」
 適当な名前をつけながら、二人はどんがどんがと音を立て、家中のものを投げ付け合った。
「この、こうなったらっ」
 魔理沙は家を飛び出していく。アリスもそれを追って外に出た。
「うおおおおっ、この『樹符・怒りの庭木』を食らえッ!!」
 魔理沙は庭の木を両手で掴むと、『力』を込めて一気に引き抜こうとする。
「ふ、ふぬっ……」
「あんた、馬鹿ね。そんなので木が引っこ抜けるわけないでしょ」
「ぬぐぐぐっ……」
 頑張っていた魔理沙だが、おもむろに枝から一つ、まだ青い木の実を引き千切る。
「『実符・時期尚早の収穫祭マシンガン』!!」
 魔理沙は木に登りながら語呂の悪い技名を叫び、次々に木の実をアリスに投げ付けていく。べちゃ、とアリスの頭にまだ青い果実がヒットした。
「はっはっは、どうだ、木の実の攻撃、さらに秋の収穫の楽しみまで奪い去る精神攻撃!! 我ながら恐ろしい攻撃だぜ」
 魔理沙は高枝に腰掛けながら勝ち誇る。
「……」
 アリスは無言で木のほうへ歩いていくと、そのまま幹にガンと蹴りを入れた。木はしなり、魔理沙がいる高枝が大きく揺れる。
「お、おい、落ちるって!!」
「落としてるのよ」
 アリスはさらに力をこめて幹を蹴り飛ばした。
「うわっ……」
 魔理沙はバランスを崩し、そのまま高枝から滑り落ちてしまう。
「きゃっ!?」
 そして、その下には丁度アリスが立っていた。どさあ、と音を立てて、魔理沙がアリスを押し潰す形になる。
「……むぎゅう」
 魔理沙は魔理沙で落ちる時に頭をしたたかに打ったらしく、そのまま二人はのびてしまった。世にもショボい弾幕勝負は、ひとまず相打ちという形に落ちついたのであった。

 泥だらけになった二人はまず風呂に入り、その後アリスの主導で家の中の整理を始めた。魔理沙はなんで私がアリスの家の掃除をしなきゃいけないんだ、自分の家ですら掃除ができていないのに、と不服そうだったが、良く考えたら半分散らかしたのは自分だったので、半分手伝うことにした。
「それで、何をしていたんだよ」
「……魔理沙はは手伝いにきたのかしら。それとも見物に来たのかしら、はたまた邪魔をしにきたのかしら?」
「多分、全部だぜ。まあ、邪魔は終わったから後は見物と手伝いだな」
 どうやら、手伝う意思はあるらしい。実際のところ、アリスもめんどくさいと思い始めていたところだったので、魔理沙に事情を話すことにした。
「機動戦士でも作るのか。面白そうだ、私も一枚噛むぜ」
 魔理沙は二つ返事で承諾する。
「魔理沙はゴーレムの製造なんかの知識はある?」
「あー? そんなもん全く無いぜ」
 アリスのめんどくささにはあまり変わりが無いようだった。
「とりあえず、腹が減ったな。勝手になんか作るぜ」
「……勝手にしなさい」

 魔理沙が厨房で昼食の準備をしている間、アリスはゴーレムの設計を簡単に纏める事にした。今回は、主の魔力によって動くような操術ではなく、核になる魔力の発生源を埋めこむ自律型になる。操り人形のように魔力で操作するには、あまりに巨大過ぎるためである。そう考えてみるが、それほど強い魔力を発生させるような、『核になるもの』は手持ちにあっただろうか。水晶球を核にするのが一番かと思っていたが、アリスが持っているものは純度、大きさともにおよそ足りないものしかなかった。
(うーん……)
 アリスは始める前に計画を立てておけば良かった、と後悔する。
「おい、ぼーっとしてないで、お前もなんか作れよ」
「ぼーっとしてるわけじゃない。考えてるのよ」
「後で私も考えてやるから、とりあえずこっち手伝ってくれ。一つを二人で分担したほうが仕事は早く片付くもんだ」
 ……分担。そのキーワードに、アリスの頭に何かが閃いたようだった。
(そうね、一つで賄おうとするから無理が出るんだわ。出力が小さいものなら、いくつかに分けて複数配置すればいいじゃない)
 胴体に中枢の核を、さらに頭、両手足にも水晶球を埋めこみ、核と連動させるようにすればいい。我ながらいいアイディアだ。
「うわっ、キャベツに火がついた!! あああ、チャーハン作ってるから手が離せないぜ!!」
 やはり、一つで賄おうとするのは、なんでも無理があるらしい。アリスは厨房で一人奮闘する魔理沙を見ながら、もう一度そう思った。

 二人はチャーハンとキャベツの焦げた野菜炒めを食べ終わると、早速作業に移ることにした。ちなみに焦げキャベツは二人ともしっかり残している。
「こいつはでっかいな。私が両手広げて四人分はあるぜ」
 魔理沙は足のパーツになる予定の粘土の塊を眺めながら言う。足だけを先に作っているのは、アリスのアイディアにより、六つのパーツをそれぞれバラバラに作り、後で組み上げる、という形式になったためである。アリスが土の塊を集めて原型を作り、魔理沙がそれをレーザーで大雑把に加工、さらにアリスが人形を使い細部を仕上げる、という分担作業だ。
「こっちが足の裏か。そうすると、この辺がふくらはぎだな。なあ、ゴーレムってこむら返りとか起こすものなのか?」
「どうだっていいでしょ、そんな事」
 粘土の周りをグルグル歩きながら言う魔理沙に、アリスはため息混じりに答えた。相変わらず、魔理沙には落ち着きが無い。
「どうでもよくないぜ。気になって仕事に取りかかれん」
「アホな事気にしてないで、さっさと仕事しなさい」
「起こしたら大変だよな。土だから揉んで治すこともできないぜ」
「……いいから、働け」
 そんな感じで作業は進んでいく。日が沈むまで、二人は服を泥だらけにしながら作業をしていた。魔理沙は『この大きさだとあやとりをするのに何メートルの紐がいるのか』『目からビームは出るのか』などくだらないことを気にしていたり、『全力でレーザーを出すより、弱い出力で長時間撃つほうがよっぽど疲れるぜ』とぼやいていたりとやかましかったが、アリスの予定以上に手は早く、この調子なら予定よりもかなり早く完成しそうだった。やはり、分担したほうが作業は早い。そして、魔理沙は『夜は墓場で運動会だ』とアリスには良く判らないセリフを言いながら自宅に帰っていった。
(そろそろ、名前を考えておかなきゃいけないかしらね)
 思えば、何かに自分で名前を付けるなんて、初めてのことだ。寝床でアリスはそんなことを考えながら、眠りに落ちていった。

 製作開始から四日目を挟み、五日目の昼。ゴーレムのパーツは一通り完成し、一度組み上げて動かすことになった。アリスは仰向けに寝かされたゴーレムの外観のチェックをしていると、胸部のデザインが大きく変わっていることに気付く。胸に核となる水晶球が埋めこまれているはずなのだが、それがどこにも見当たらない。設計図をもう一度見返してみると、その部分だけ何やら勝手に書き換えられていた。当然、そんなことをするのは魔理沙しかいない。
「魔理沙、これどういうこと?」
 アリスは魔理沙にその書き換えられた設計図を突き付けながら言う。
「あー? だって、胸にこれ見よがしにそんなもんがあったら、『ここが弱点だぜ』って言ってるようなもんだろ。だから中空にして、そこに入れるようにしたんだよ。蓋を空ければ中に人も入れるぜ」
「……」
 アリスは勝手に書き換えられたことに対する憤り半分、魔理沙の意見に納得半分、といったところだった。どちらかといえば納得の割合が高いので、今回は抑えることにする。大体、魔理沙相手にいちいち腹を立てていたら、それだけで日が暮れてしまう。二人の関係は基本的に朝まで平行線である。
 チェックがすむと、アリスは『EMETH』と大きく、その周りに細かい文様の描かれた羊皮紙を持ち出した。『EMETH』とは『真理』を意味する文字であり、この文字が入ることによってゴーレムはゴーレムとして動き出すのである。直接本体に彫り込んでもいいのだが、今回は仮組みなので、実験的に羊皮紙に書いたもので代用することにしたのである。アリスは羊皮紙をゴーレムの胸に張りつけると、そこに向かって魔力を込める。
「……これで、多分」
 アリスが離れると、胸から黄色の光が発せられ、その光が帯となり、巨大な五体それぞれを結んでいく。そして、ばらばらだったその五体は、胴体に鈍い音を立てて結合した。
「おお、凄いぜ、合体した」
「成功みたいね」
 その様子を見て、アリスの顔が綻んだ。終わってみれば、案外簡単じゃないか。これならもうちょっと大きいものにしても良かったかもしれない。動き出したゴーレムを眺めながら、アリスはそんなことを考えていた。ゴーレムはゆっくりと上体を起こすと、手をついて立ちあがる。
「おお、立っ……」
 魔理沙が言いかけた刹那、ぐしゃ、と音を立ててゴーレムの土の足が崩れた。そしてそのまま、ずずーん、と地響きを立て、ゴーレムは倒れこんだ。
「……ってないな」
 アリスは呆然とその様子を眺めていた。

 二人はゴーレムの動きを止め、崩れた足の修繕に入っていた。
「いやまあ……こうなるとクレイゴーレムっていうより、マッドゴーレムだな」
 ぐしゃぐしゃになった足を眺めながら魔理沙はそう漏らした。原因は簡単である。デザインを追及しすぎたため脆くなった足が、自重に耐えきれず崩れたのであった。
「これ、このまま作り直しても結果は同じだよなぁ」
「やっぱり、材質の問題かしら。鉄骨でも入れておけば良かったかしらね」
「それとマッドゴーレムで思ったんだが、これ雨が降ったらどろどろのべちょんべちょんになるんじゃないか?」
 アリスははっと息を飲んだ。……言われてみれば、当たり前だ。
「なんでそういうの、先に言わないのよ!!」
「今気付いたんだよ。大体ちょっと考えればわかるだろ、そんなもん」
 二人とも『ちょっと』も考えていなかったのである。
「……いっそ、アイアンゴーレムに作り変えるか。鉄骨を入れるより、外部骨格で重装甲だぜ」
 魔理沙はゴーレムの表面をぺたぺたと触りながら言う。
「どっからこんな量の鉄を持ってくるのよ?」
「前に鍋を作ろうと思った時に、パチュリーに錬金術を教えてもらったことがあってな。えーと、確か」
 魔理沙はスカートからメモ帳を取りだし、中をぺらぺらとめくってみる。
「えーと……なんだっけこれ」
 アリスが覗いて見ると、魔理沙のメモ帳には『Ag3Sn+Hg→Ag2Hg+SnxHg+Ag3Sn』やら『Fe-18~30Ni(Co,Mo)』という良くわからない文字の羅列が描かれていた。何かの呪言だろうか。魔理沙曰く、これは錬金術の呪法公式であるらしい。アリスに理解することはできなかったが……というか、魔理沙自身も理解しているかは怪しいが……鉄を素材にさらに土やらなんやらで、『軽くて強い鋼』ができるらしい。
「そういうわけで、鉄っぽいものを集めてくるぜ。作業は明日からな」
 と言い残して、魔理沙はどこかに飛んでいってしまった。クレイゴーレムをそのまま作りかえるらしいので、その間アリスは壊れた足の修理をすることになる。
(……魔理沙め、絶対直すのがめんどくさいから逃げたわね)
 あいつは物を壊すのは得意だけど、直すのは絶対苦手だ。そんなことを考えながら、アリスのゴーレム製作五日目は過ぎていった。


 六日目、アリスが修理の終わったゴーレムのパーツを点検していると、魔理沙がなにやら大きな箱を箒に括り付けて飛んできた。
「おい、持ってきたぜ!!」
 魔理沙はそう言うと、その箱をアリスの庭に投下した。箱は地面に到着すると、どすん、がらがらがら、とやかましい音を立てる。魔理沙の行動はなんでもやかましいらしい。アリスはそう思いながら、その箱の中身を覗いた。
「……なるほど、鉄くずね」
 アリスの目から見ても、それは『鉄くず』としか表しようのないガラクタである。
「これだけで足りるの?」
「足りないぜ。後三、四往復分はうちに貯め込んである」
「そう、頑張って持ってきてちょうだい」
「お前も手伝えよ」
 仕方ない、と思いつつ、アリスは魔法の森にある遠くのお隣さんの家に向かうことになった。

 全て運び終えると、今度はそれを一度熔かして塊にする作業に移る。魔理沙の持ってきた箱の一つが溶鉱炉代わりに使えるらしい。元は風呂釜だったらしいが。こういう時に役に立つのも、魔理沙のミニ八卦炉である。ミニ八卦炉の異常な火力で、鉄くずはどんどん赤く光る液体に変わっていった。
「良くこれだけの鉄くずが集まったわね」
「ああ、うちの在ったのと、香霖のとこと、後はその辺から拾ってきた」
「香霖って、香霖堂の? あの古道具屋の主人が良くこれだけ譲ってくれたものね」
 言われてみれば、何やら鉄くずの中にはそれらしいマジックアイテムの残骸のようなものがあった。
「人形に使うって言ったら、快く『持ってけ』って言ってくれたぜ」
 多分、古道具屋の主人は一般的な『人形』のサイズを考えて言ったのだろう。今熔かしたものの内どれだけの割合で古道具屋の主人のものが混じっているかはわからないが、後でがらがらになった倉庫を見たときに卒倒するんじゃないだろうか。
(まあ、悪いのは魔理沙だし)
 それより気がかりなのは。
(……絶対鉄以外のものが混じってるわね)
 まあ、装甲に使うなら多少魔力の篭ったものが混じっていても、むしろ良い方向に働くかもしれない。アリスはとりあえず、両方とも気にしないことにした。
 幾つかの鋳塊が出来上がると、魔理沙はそれをゴーレムの表面に乗せる。まあみてな、とアリスを退かせると、それに向かって何やらスペルを唱え始めた。淡い光が周囲を包むと、鋳塊は溶け込むようにゴーレムに融合していく。それを幾度か繰り返し、さらにミニ八卦炉で強熱を加えると、表面はすっかり金属のそれになっていた。アリスはそれを見て、すっかり感心していた。今度、錬金術の研究をしてみても良いかもしれない。そう思うが、足一本を金属に変え終えた魔理沙の疲れきった表情を見ると、人間には相当に、『魔法使い』の種族でもそれなりにきつい物なのかもしれない。やっぱり止めとこう、とアリスは考え直した。
 その日はもうアリスに出来る事はほとんど無く、ただ魔理沙の作業を眺めているだけだった。クレイゴーレムのアイアンゴーレム化はほとんど終わり、明日には組み上げて完成させられそうな状況だ。アリスはベッドの中で、ゴーレムの名前をあーでもない、こーでもないと考えながら眠りについた。

どうも、アホアホSS書きのNVK-DANです。好きなモビルスーツはゴッグです。
お久しぶりです、と前作を読んでくださった方に言わなければならないほど、間が開いてしまいました。

今回は全四回予定で、完成してから上げようと思っていたのですが、現状後半が全く出来あがっていないため、
さすがにもう一ヶ月も開いちゃあまずいよなあ、ということで、前半二話を先に上げる事にしました。
一応、プロットは出来ているのですが。

どうやら自分の場合ほっといたらどんどん冗長に話を長引かせてしまう癖があるようで。
実のところ今回の分も削りに削ってこの量でございます。冗長なのは相変わらずですが。
前回もかなり長かったですが、かなりの方が読んでくださったようで、大変嬉しい限りです。

コメントを書いて下さった方、ちゃんと全部読んでます。反応があるのが何より嬉しい。
嬉しさのあまり、「イヤッホウ!!」と小躍りしてテーブルに脛を打つほどです。結構痛い。

では、ここまで読んでくださってありがとうございました。続きは、後ほど。
NVK-DAN
http://www.geocities.jp/nvk_dan_21/
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