Coolier - 新生・東方創想話

追憶

2005/05/22 23:45:27
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紅い吸血鬼が尋ねた。

「あなた、名前は?」

少女は吸血鬼を見て答えた。
「朔夜……新月の夜に拾われたから、朔夜」






「はぁ、忙しい」
紅茶を手に持って、十六夜 咲夜は止まった世界で呟いた。
クリスマスが十日後に迫っている。
紅魔館ではクリスマスに盛大なパーティーをする事になっている。
最近はいつもの仕事にパーティーの準備も加わり、とにかく忙しい。
彼女の主たるレミリア・スカーレットは吸血鬼なのだが、キリスト教のイベントを嬉々として受け入れているのだ。
曰く、
「せっかくだし、楽しめばいいじゃない」
パーティーは嫌いじゃない。だから反対はしない。
でも、
「吸血鬼として、どうなのかしらね」
自分は主以外の吸血鬼を知らないのでなんとも言えないが。
今度、パチュリー様にでも聞いてみようか……
空を見ると満月が浮かんでいた。
そうか、そう言えば、今夜は、

――ここに始めて来た日――

いけない、早くお嬢様に紅茶を運ばなければ……


「失礼します、お嬢様。紅茶をお持ちしました」
ノックをして部屋に入る。
「あぁ、咲夜。ありがとう」
紅茶と茶菓子をテーブルの上に並べる。
「今夜は満月ね」
レミリアが静かに口を開いた。
「ハイ、そうですが……それが何か?」
「今から二日間、休暇をあげる」
「……何故、でしょうか?」
「いつも深夜に時を止めて外の世界に行っているでしょう?」
咲夜が息を呑む。
「気づいてらしたんですか?」
「ばれてないと思ってたの?」
「でも、何故急に休暇など……」
「毎年こそこそと、少し早いクリスマスプレゼントを運んでいるのでしょう?……貴女を拾って育てた孤児院に」
「……はい」
「今年は堂々と持っていきなさい」
「でも、私は外の世界では……」
途中で口ごもる咲夜にレミリアが告げる。
「大丈夫よ、私が言うんだから間違いないわ。それに、レミリア・スカーレットの従者が深夜にこそこそしてたんじゃ、紅魔館の威厳が落ちるでしょう?」
短い沈黙の後に、咲夜が口を開いた。
「そこまでお嬢様が仰るのなら、今年は堂々と持っていくことにします」
「それでいいわ」

レミリアが紅茶を飲み終わると咲夜は紅茶を片付けてから、咲夜は自室へと向かった。

しばらく経ってから荷物を持って紅魔館から出て行く。
役立たずの門番は絶対に気づかない。
毎年この時期は幻想郷と外の世界が繋がる。
だから、毎年この日にプレゼントを持って行くことにしている。
紅魔館の敷地を抜け、暫く歩く。
ふと前を見ると、白玉楼の庭師が歩いていた。
(何をしているのかしら?)
気になるけど、今はあまり話したくない。
(なんか恥ずかしいし……とりあえず回れ右ね。)
「あっ、誰かと思ったら咲夜さんじゃないですかー」
(何であの半人前の庭師は都合の悪いときだけ……)
人生って旨くいかないものね、と今更ながらに思いつつ頭を抱える。
「咲夜さんこんな時間に何してるんです?」
「妖夢こそ、何してるの?」
「あぁ、私は夜の散歩です」
「そう、私は外の世界にちょっと、ね」
「あのその、少しご一緒してもいいですか?」
「いいわよ」
二人で少し歩くと妖夢が咲夜に話しかけた。
「一つ聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「私に答えられることなら、いいけど……なに?」
「その、咲夜さんとレミリア様の出会いって、どんなだったのかなって……」
聞くと、妖夢は咲夜の表情が少し曇ったような気がした。
「あ、いやあの、その……話したくないことなら、いいですけど……」
咲夜は別にいいわよ、と言って、あわてている妖夢をよそに語り始めた。
「私はお嬢様と、幻想郷と外の世界との境界で、出会ったの」
いつもの様な凛とした声でなく、幾分か弱さの見える声で咲夜は語り始めた。




町から――逃げて、逃げて、逃げて……

自分は、どこにいるのだろうか。

森の中を――走って、走って、走って……


やはり宿に入ったのがまずかった。
自分は追われている身なのに。
こうなるのは、解っていたはずなのに。

ここまで逃げれば大丈夫だと思った。
とても、遠くまで来たから。
人が恋しくなった。
人と話がしたかった。
だから久しぶりに、本当に久しぶりに町に入った。

宿を取ろうと思って近の宿へと入った。
払うお金ならある。
ここでも使えるはずだ。
だから大丈夫。
そう思って、受付の所へ向かった。
女将さんだろうか、受付にいたのは女性だった。
「今夜泊めてもらえませんか?」
勇気を出して言った。
その女性が言った言葉は私の期待していた言葉ではなかった。
恐怖のうかんだ顔で、叫んだ。
「誰か来て!悪魔の子よ!!」

逃げた。必死になって走った。
自分は唯、話がしたかっただけ。
それなのに…… 


   あぁ、私は、本当に … …


涙が溢れる。
それは、他人への諦観。
それは、世界への絶望。

泣きたい。大声で、泣き叫びたい。
でも自分にはそうすることは出来ない。
私は、何人も、何人もこの手で人を……
だから、する資格が無い。
涙が流れても、泣く事はしちゃ駄目だ。

そう思いながら、逃げた。
逃げないと、駄目だから。

「――時よ、止まれ……」
静かに、唱える。
呪文ですらない、唯の言の葉。
それでもその言葉は力を持ち、時を止める。
止まった世界を私は逃げる。

気が付いたら町は見えなくなっていて、私は森の中にいた。
「ここは、どこ?」
つぶやく。
誰も答えてはくれないと、解っているのに……

「幻想郷よ。詳しく言えば、まだここは外の世界と幻想郷との境界だけど」

自分の耳を疑った。
時を止めて逃げてきたのだ。
追っ手はもういない。
もし、追っ手がいたとしても、答えてくれるはずが無い。
「誰か、いるの?」
恐る恐る声に出す。
 
「えぇ、いるわよ」

気のせいじゃ、無かった。
「あなたは、誰?……私を追ってきたの?」
答を聞くのが、とても怖い質問をした。

「私は吸血鬼……貴女を追ってきたのではないわ」

ホッとした。
「どこにいるの?」
話をしたかった。

「あなたの目の前よ」

目の前には何も無い。
木が生えているだけ。
「目の前にあなたは見えないわ」

「もっと上よ、私は空を飛べる」

いた。
見えたのは紅い吸血鬼。
本当に飛んでる。
よく見ると黒い羽がはばたいているのが見えた。
でも、音は聞こえない。
とても静かに飛んでいる。
「吸血鬼って言ったけど、私の血を吸う気なの?」

「吸うつもりは無いわ。……ところで、あなたは逃げてきたの?」

「……私は悪魔の子だから、すぐ追われるの」
目の前の吸血鬼になら、話していいと思った。
今は話がしたかった。
相手が人でなくてもいいから……
だから、全部話した。

孤児院での生活。
他人には無い、時を操る能力。
その能力の所為で、アクマと恐れられたこと。
身を守るために、止まった世界で人にナイフを突き刺したときのこと。
他にも、色々話した。 
全部、話した。


全てを話した後で、

紅い吸血鬼が尋ねた。

「あなた、名前は?」

少女は吸血鬼を見て答えた。
「朔夜……新月の夜に拾われたから、朔夜」
紅い吸血鬼は優しく、本来なら唯の食料である人間の少女に語りかけた。

「そう……――もしも、行く当てが無いのなら、私の館に来る?――朔夜」

驚いたように少女は紅い吸血鬼を見る。

「どう、したの?」

「いいの?あなたの館へ行っても……」

「嫌なら別に来なくてもいいわ。……でも、この森は人間には危険よ」

誰かといたかった。
だから……
朔夜は消え入りそうな声で言った。
「じゃぁ、今夜だけ……」

「なら、着いて来なさい」



吸血鬼の言う館へは幾らも時間はかからなかった。
湖に映る紅い満月がとても綺麗で、印象深かったのを憶えている。

館に着くとすぐに何人かのメイドがやってきた。
私を見て、怪訝そうに、吸血鬼に質問していた。
「この人間は……どうすれば?」
明らかに困惑しているメイドに告げる。
「私の客よ。相応にもてなして」
「承知しました」


すぐに私は浴場に通された。
まずは身だしなみ、という事らしかった。
お湯の中に入ると、
「……暖かい」
とても暖かかった。
何ヶ月ぶりかのお風呂だった。

いつもは川や湖などで水浴びをしていた。
冬は空家を探して、その中でお湯を沸かしていたけど、量は少なかった。
何度も沸かして、体を温めて、毛布の中で太陽が出てくるのを凍えながら待っていた。


お風呂の後、私は部屋に連れて行かれた。
客間なのだろうか?
そんなことを考えていると、真新しい着替えを差し出された。
着てみると、それはドレスだった。
サイズもぴったりで、なんだかどこかのお姫様にでもなった気分だ。

着替え終わってから数分で食事が配られてきた。
とても豪華で、夢みたいだった。

食べ終わると、とても眠くなった。
よく考えると今日はずっと走っていた。
疲れていて当然だ。
そのことを近くのメイドに伝えると、ベッドのある部屋に案内された。
ベッドに入って数分もしないうちに私は眠りに落ちた。
今日は、とても疲れていたから。




「咲夜、今年も行ったのね」
紅魔館、レミリアの部屋でパチュリーがレミリアに話しかける。
「あぁパチュリー、珍しいわね、貴女が図書館から出るなんて」
「たまにはいいでしょ?今日は特別だし」
「まぁね、今日は咲夜がここに来た日」
「あの時は驚いたわ。貴女が人間を連れて散歩から帰ってきたから」
「今考えてみると良く解るわ。あの時、私は咲夜に昔の自分を重ねていた……」
「貴女も吸血鬼の中で生きられなかったから?」
「きっとそうね。私の“力”は吸血鬼の中でさえ、異端だった」
「運命を操る能力、ね」
「私もフランも同属から忌み嫌われた。だから幻想郷に逃れてきた、あの時の咲夜の心が痛いほど解った」


そう言ってレミリアは咲夜がきたときのことを思い出す。




「あなたが人の子を拾うなんて……何かあったの?」
魔法使いが吸血鬼に尋ねた。
それに対して、吸血鬼が口を開く。
「……唯の気まぐれよ、意味なんて無い。唯の、気まぐれ」
「貴女がそう言うのなら……きっとそうなのね」
暫しの間二人を沈黙が包む。
その沈黙を破ったのは、レミリアだった。
「……あえて言うのなら、運命の紅い糸。と言ったところかしら」
自嘲気味に笑う。
これは取って置きの冗談だったのだが……気に入らなかったらしい。
……目の前の魔女はどう思っているのだろう?
やはり良くは思っていないのだろうか?
しかし、この館の主は自分だ。
目の前の魔女は、どんな感情を持っていても反発はしまい。
何も言わず、図書館へと帰っていくのかと思ったのだが、魔女は言葉を紡いだ。
「まだ間に合うわよ?今なら、まだ」
言いたいことは、解る。
「……くだらない感傷でした事なら、後悔を生むだけ。今ならまだ――捨てることも、殺すことも、人の世界に還すことも、できる」
「…………」
私にだって、解る。
「どうするつもりなの?レミィ、貴女は」
「…………」
「沈黙もまた“答え”よ。……私は貴女の意思に従うわ。今夜、よく考えてから決めなさい。――あの人間をどうするか」


私にだって解っている。
彼女に対するこの感情は唯の同情で、醜哀な自己満足……
解ってはいるけれど、それでも私には放って措くことなど出来なかった。
人は人の世界で生きる方が良い。
しかし、あの少女は人であって人でない。
あの能力が原因で必ず虐げられる。
アクマ、バケモノ、と言われ、虐げられる。
昔の自分のように……
“力”持つ者は、“力”持たぬ同属に受け入れられる事はない。   
身に沁みて識(し)っている。

(あぁ、そうか……)

やっと、解った。
私が、あの少女に惹かれる理由。
私が、あの少女を傷つけずに館に呼んだ理由。

私は、あの少女に昔の自分を重ねている。
    
同属と共に生きることが叶わぬという、同じ境遇へのシンパシー。
私とあの少女は同じなのだ。
外の世界では同属と、共に歩むことも出来ない。

――でも――

ここは幻想郷。
外の世界とは似て非なる場所。
強すぎる“力”を持つ者を受け入れる場所。
“人”ではない、“ヒト”も受け入れる場所。
“力”を、当たり前に受け入れる場所。
ここならば生きることが、出来る。
逃げる必要も、怯える必要も、哀しむ必要も無く、生きることが……許される。
ここでなら、
生きていけると――
そう、思った。
生きて良いのだと――
そう、思えた。
同じ、仲間がいるから。
だから私はここに、――幻想郷に館を構えた。

あの少女にも、同じように思ってほしい。
  自分の映し鏡――
            ――しかし未だ居場所を知らぬ、あの少女にも同じように生きてほしい。
                    ――苦しみを、哀しみを乗り越えて……


だから、私はあの少女を受け入れよう。
この館――紅魔館――に彼女の居場所を創ろう。
哀しみの運命から、解き放ってみせよう。



答えは決まった。
ここが、彼女の居場所。



陽が出てから、レミリアはあの少女が眠っている部屋へと向かった。
伝えるために――
生きていても良いのだと、そう思ってもらうために。



「朔夜、起きてる?入るわよ」
部屋に入ると朔夜は起きて間もないのか、寝惚け眼でレミリアを見ている。
「貴女これからどうするつもりなの?」
朔夜が目を伏せて答える。
「えっと、その……また、別の場所に行こうかと……」
「そう、当ては無いのね。なら、ここでメイドとして働かない?」
「えぇっ!? いいんですか?」
「もちろん貴女がよければの話だけれど」
「私、働きます!」
朔夜は嬉々として答えた。
「そう、良かったわ。明日から働いてもらいたいのだけれどいいかしら?」
「はい、いいです……けど、何をすればいいんですか?」
「それは、貴女の上司のメイドに聞いて頂戴。あとで紹介するわ」
不安な顔を見せる朔夜をレミリアが励ますように続ける。
「貴女の時を操る能力、あれを使えば大抵の仕事は一瞬で終わるでしょう?」
「えっと、その……はい」
自分の“力”が役に立つ……
はじめてだった。
“力”を否定されなかったのは。
嬉しかった。
「ところで、貴女知ってる?」
「何を、ですか?」
「新月と言うのは吸血鬼にとってはあまり良い夜ではないの。貴女の名前は新月の夜という意味よね?」
「はい、そうですが……」
「名前を変えるわよ。……そうね、‘朔’という字を‘咲’に変えて‘咲夜’、苗字は満月の次の夜を表す‘十六夜’でどう?」
「“十六夜 咲夜”……素敵です」
「そう、なら貴女は今から十六夜 咲夜よ」
「はい、解りました。……ところであなたの名前はなんというのですか?」
「あぁ、まだ言ってなかったわね。レミリアよ。レミリア・スカーレット」
「はい、解りました。レミリアお嬢様」




「これが、私とお嬢様の出会いよ。妖夢」
「色々、あったんですね。咲夜さんが幻想郷に来るまでに」
「幻想郷に来て本当に良かったわ。……ところで、そろそろ外の世界ね。妖夢も来るの?」
「えっと、その……咲夜さんはどこへ行くんですか?」
言おうかどうか迷ったが……
「……孤児院よ。私が育った、孤児院。少し早いけど、クリスマスプレゼントを贈りにね」
「なぜプレゼントを?」
「孤児院はね、私が外の世界にいたとき唯一私を受け入れてくれた所だから」
暫しの沈黙の後、
「私も行っていいですか?」
妖夢が尋ねた。
「いいわよ」
そのときの咲夜の表情に妖夢は咲夜の過去の苦しみと今彼女が持っている強さを見た気がした。

少し歩いて森を抜けると外の世界についた。
それから、二時間ほど歩いただろうか、孤児院についた。
プレゼントを玄関に置きながら咲夜が呟いた。
「昔の私は遠くまで、まっすぐ逃げたつもりだった。でも実際は少しずつ曲がって、結局もといた孤児院に近づいていた」
そう言うと置き終わったプレゼントの上にカードを置く。

     ~Merry Christmas~

そう書いてあった。
「さて、帰りましょうか」
「いいんですか?何も言わなくても……」
「……いいのよ」
帰ろうとしたとき、孤児院の玄関が開いた。
「待ちなさい」
初老の男性の声。
「やっぱり、朔夜だったのか。……毎年、この日のプレゼント」
「お久しぶりです、神父」
咲夜はその男性に頭を下げた。
「君には本当に申し訳ないことをしてしまった。私がもっと気をつけていたら、
君の能力が世間に露見することも無かったろうに。本当にすまない。
どんなに謝っても許されるとは思っていないが、謝らせてくれ」
本当に申し訳なさげに謝る神父をさえぎるように咲夜が言った。。
「どうか頭を上げてください。貴方は、異能者である私に本当に良くしてくれました。とても、感謝しています」
「望外の言葉だ」
「本当にそう思っているんですよ。ですから、どうかお気になさらずに」
その言葉で神父が頭を上げる。
「今は、元気にしているのか?」
「えぇ、今は紅魔館という所でメイドとして働いています。主の名は訳あって言えませんが」
「そうか……そちらのお嬢さんは? 見た所、人……ではなさそうだが」
「半分は人ですよ。白玉楼という屋敷の庭師です」
「初めまして、半分人のお嬢さん」
そう言って神父が妖夢に手を出した。
その手をとり、握手に答える。
「こちらこそ初めまして。魂魄 妖夢です」
妖夢には、神父の表情がとても優しく感じられた。
「こんな所では何だから、中に入って話そう。二人ともこっちに」
「いえ、ここは孤児院と言えど教会でもあります。そこへ悪魔に仕えし者が入るわけにはいきません」
中へ案内する神父を咲夜が遮る。咲夜のセリフが気になったのか、神父が聞き返す。
「悪魔に、仕えているのか……」
「悪魔と言っても、いい方ですよ。同僚も人ではないですが、仲良くやってます。少ないですが人間の知り合いもいます」
咲夜は笑っている。それを見て神父は安堵した。
「そうか、神のご加護を」
神父が十字を切る。
クスリと咲夜が笑みをこぼす
「それは何かの皮肉ですか?神父」
「ん?あぁ、すまない。悪魔に仕えているのだったね。なら、サタンの加護が在らんことを……といった所か?」
「いいんですか?仮にも神父が悪魔に祈ったりして」
もう一度クスリ、と咲夜が微笑む。本当に魅力的な笑み。
「いいさ、私は朔夜の幸を祈っただけだ」
「ありがとう。……では、そろそろ帰ります」
「あぁ、気をつけて」
神父に背を向けたまま咲夜が言う。
「来年からは来ないようにしますね、伝えたかったことを伝えることが出来ましたから。それに、毎年忙しい時期に紅魔館をメイド長が抜けるわけにはいきませんので」
「メイド長?随分と必要とされているんだな」
「えぇ、そうみたいです。メイドとしては便利極まりない能力ですから」
「そうか、さようなら。体には気をつけて」
「えぇ、神父も。さようなら」


帰りの道中、妖夢は咲夜に訊いてみた
「いいんですか?来年からは行かなくても」
「いいのよ。私は幻想郷の外ではそこに居るだけで害悪だから」
「……そうですか。でも、私は咲夜さんが好きですよ」
瞬間、咲夜が吹き出した。
「いきなり貴女は何を言い出すの?」
「えっ、いやその……」
顔が熱い。自分はなんて事を言ってしまったのだろう。
穴があったら入りたい。
「ありがと」
小さく咲夜が囁いた、いつもの笑顔で。
それを見た妖夢はホッとした。
なぜなら、さっきから咲夜の顔が曇っていたから。

そして二人は幻想郷へと帰っていった。




 翌日

「お嬢様、紅茶をお持ちしました」
「あぁ、咲夜。ありがとう」
二人でテーブルを囲い紅茶を楽しむ。
「お嬢様、一つ聞いてもいいでしょうか?」
「なに?」
「お嬢様はどうして私を雇ってくれたのですか?」
「どうしたの?急に。……まぁいいわ。あの時、外の世界から逃げてきた貴女を見て思ったのよ。
あぁ、この人間も私と同じように逃げてきたんだ、って」
「お嬢様も何かから逃げてきたのですか?」
「貴女と同じよ。私の“力”は吸血鬼の中でも強すぎたから」
「そう、だったんですか」
「……幻想郷はいい所ね」
「そう、ですね」
「クリスマスパーティーの準備は進んでるの?」
「なめてもらっては困ります。私は紅魔館のメイド長ですよ?」
「そう、楽しみにしてるわよ」


外の世界から逃げ、幻想郷で居場所を見つけた二人は、今、その顔に、これ以上ないほどの笑顔をうかべていた。



fin.
                                      

おはようさんorこんにちはorこんばんは
三度目の投稿、他人四日です。
今回も
 まずは陳謝を。
読んでくださってありがとうございます。

レミリア様のファンの皆様ごめんなさい。
レミリア様が逃げてきたなんて、私の妄想です。

でも、
“そういう考え方もありなんじゃないか?”
そんなことを思いついてしまったんです。
で、書き終わるとなんかストーリーがばらばらな気がする……
妖夢を出す必要があるのか?
完全に蛇足だったかもしれません。
ただ、同じ従者だからこそ、出したかったんです。

意見、感想、批判、校正などがありましたら、ビシバシ書き込みお願いします。
では、次の機会に。



6/20  補完
他人四日
簡易評価

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コメント



0.1370簡易評価
6.70てーる削除
孤高のレミリアも好きですが、少しぐらい心の闇があったレミリアと、それに準じた人生を歩んだ朔夜ってのもいいですね。

咲夜って基本的に外の世界から逃げてきたというイメージが多いですね、そういえば。
15.60おやつ削除
強さと同時に陰のあるキャラというのは割と好きな私ですが、レミリアにはあまりそのイメージが無かったです。
そういう考えもありですねぇ……。
なんとなく、今後の参考にさせていただきたい作品でした。
23.100とらねこ削除
 時折表に現れる弱さもまた魅力。彼女らの安寧が末永く続きますように。