Coolier - 新生・東方創想話

Sing Songs

2005/05/21 09:20:13
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 空を飛んで徒然なるままに散策した場合、それを散歩と言うべきだろうか。立場によって返ってくる答えは様々考え得るが、当たり前に空を飛ぶ者にとって足を使うか否かは、さほどの問題とはならないだろう。
 博麗神社の巫女・霊夢の場合に於いては間違いなく飛ぶことを当たり前とする方の側だろうし、それ以前に己が飛ぶことについて考え込むことがあるのかすら疑問である。
 むしろ問題は、当人がどういうつもりで飛んでいるかであり、それが周りにとっても重要な情報となるだろう。
 例えば、何か目的があって飛んでいるのであれば白黒い友人が、私も混ぜろ、とばかりに面白がって寄ってくる可能性が高いだろうし、さして目的無く飛んでいるのであれば、辻強盗に遭う確率の減少に妖怪達が喜びを覚える場合も多いだろう。
 とりあえず何かをかっ攫っていく可能性もないではないが。
 あまり仕事熱心でもなく、人里からも離れたところに居を構える霊夢は、本来持て余すのに十分な暇を保有しているのだが、暇を暇のままにしてのんびり過ごそうとする度に、何らかの邪魔が入ることが少なくない。
 知り合いが大体妖怪ばかりの霊夢が、こんな晴天の昼下がりに一体誰の来襲を面倒がらなければならないのか。魔理沙か、咲夜あたりか。
 結論を言えば、誰でも来る。
 お天道様の下を歩けないはずの吸血鬼が、わざわざ従者に日傘を差させて来たりする辺り、もはや誰が来てもなにをか言わんやである。
 夜になれば、もうどうしようもない。本格的に誰が訪れてもおかしくなくなり、その上後のことを考えていない宴会が、後先を考えない白黒莫迦によって雨後の竹の子のように企画されている。
 結局、後の祭りの後始末は後に残った霊夢がすることになる、のは嫌なので誰かしらを捕らえて強制労働、もとい奉仕活動に従事させるのが博麗式後始末である。伝統なのかは定かでないが。
「あー、良い天気ねぇ」
 空は快晴。雲一つ無いとは行かないが、むしろ点在する浮き雲をアクセントとして楽しめるほどの陽気ではあった。風は暑くも寒くもなく、まさに春らしい日だ。
 今年の春は、少々行ったり来たりの気配があったためなおさらである。
 とは言っても、スムースに季節が入れ替わることはそう無い。冬がしつこく居座ったのか、春が伝え忘れたのかは定かではないが、大体毎年こんなものなのだろう。
「たまにのんびりも良いわね。掃除を早く済ませた甲斐があったわ」
 単に誰も来ないことが珍しいだけで、霊夢は年中無休でほぼ暇である。
 ついでに、掃除も済ませてきたのではなく、陽気に惹かれて止めてきただけだけだった。
「のんびりは良いけどなんか変ねぇ」
 ふらふらと空を飛んでいるのは良いのだが、先ほどから風景に変化が無いように見えた。
 正確には空に見える雲の変化があるのだが、眼下に広がる森林が、まるで同じところをぐるぐると回っているかのように変化がないのだ。
 まっすぐ行けばそのうち神社に戻るのに変ね、と霊夢は思う。
 まっすぐ行って元の場所に戻るにはずいぶんと遠回りをする必要があるのだが、霊夢の感覚としてはまっすぐ行っているだけということになる。誰も同意はしないだろうが。
「なんか、って言っても原因はどう考えてもこれか」
 霊夢が、これ、と言ったのは先ほどから彼女の耳に入っている歌声である。
 聞き覚えがある声だし耳障りなわけでもなく、むしろずっと聞いていても構わないくらいに澄んだ旋律だった。だから、このまま適当に聞き流していても構わないか昼だし、と思っていたのだが、どうにもこのまま放っておくと永遠に聞き流していなければならない気配である。
 霊夢は適当に飛行するのを止め歌が聞こえる方へと向き直ると、ふわり、と風も起こさずに再び飛び始めた。

 *

 木々がぽっかりと抜けた、ホールのような場所。歌の発生源は独りそこに佇み、辺りの空気に染み入らせるように喉を振るわせていた。
 歌声が響いているのに、なぜか霊夢は静寂を感じた。
「そこの鳥類」
 が、静かな雰囲気などものともせずに、霊夢は発生源に声をかける。
「あー?」
 歌っていた人物は歌を止めて振り返ると、今夢から覚めたような茫洋とした目つきで霊夢を見た。
 少女の形をしてはいるが、鳥類などと言われた通りに背からは羽が生えている。無論妖怪の類だ。
「あ、ヒトネギ!」
 数度瞬きをした後に突然瞳に輝きを取り戻し、羽を生やした少女は甲高い声で叫ぶ。
 その様子には遊び相手を見つけた喜びが、ありありと見て取れる。
「ネギは背負ってないわよ」
 歌を歌っていたときの物憂げな雰囲気からはかけ離れた様子に呆れつつ、こいつも暇してたんだなあ、と霊夢は思う。
「て言うかあんた夜雀でしょ? 何で昼間ッから居るのよ」
「何で夜雀が昼間に居ちゃいけないのよ?」
 逆に夜雀・ミスティアが霊夢へ不思議そうに聞き返した。霊夢には本当になんの疑問も抱いていないように見えた。
「なんでって。昼に居たらあんた、雀じゃない」
 夜に雀が飛ぶ、そういうあり得ない事柄が夜雀である。昼間に雀が居るのは普通過ぎて怪異になりようもない。
「私は雀じゃなくて夜雀だって言ってるじゃん」
「だから昼間じゃ雀になるでしょ?」
 ……。
「「話がかみ合ってない」」
 その言葉とは裏腹に、初めて二人の間で統一見解が出た模様である。
「あーもういいや。それはともかくせっかくのヒトネギ。逃げられるとは思わない事ね、巫女巫女レイム」
「巫女が一個多い」
 どうやらミスティアは暇を暇のままにしておく気はないらしく、暇を潰してしまうという結論に至ったようだ。
 霊夢もそれに付き合う気になった様子で、肩に担いだ払え串を下段に下ろす。
「あんたは今夜から……。夜は目が見えなくなるよ!」
「今昼だけど?」
「決め台詞なんだから適当に流してよ!」
 霊夢の無粋なツッコミに、ミスティアは抗議の声を上げる。
「全く。前から言ってるのよ、私は鳥目じゃないって!」


 割とよく鳥目扱いされる霊夢が、言葉と共に宙に浮く。そよ風一つ起こさずに、霊夢はただ、重力の軛から解き放たれた。
 ミスティアが軽く羽を振るわせると、風が巻き起こった。明らかに揚力を得るには足りない、それどころか作り物じみた奇怪な羽が、小柄とは言え飛行には適さない形態の少女を軽々と宙に浮かせる。
 ミスティアの羽が突如暴風を呼び、同時に二人の姿がその場から忽然と消える。
 直後に殺到した符と妖弾が、二人が居た辺りの地面を深く掘り起こした。

 霊夢とミスティアは互いの後ろを狙いながら、大きな螺旋を描いて上昇を続ける。
 空は、このままどこまでも上り詰めて行けそうな蒼天。ただ飛び続けているだけでも、爽快な心地で一杯になる程だ。

 針と羽状弾が交錯する。

 晴れ晴れしいとは正にこの事、と言えるほどの空の下だが、相手をはたき落とした方がより晴れ晴れしくなるのだろうか。
 互いの攻撃にあまり容赦はない。
 霊夢は払え串を持たない方の手をかざし、指を二本立てると祝詞を唱え始める。
 もとよりあまり真面目に修行していない不真面目な巫女、形式的に済ませると霊夢は袖から一枚の符を取り出した。

「夢想封印」

 眼前にかざした一枚の符を媒介に、いい加減な形式には見合わない量の霊符が具現化する。無数の符は霊夢の傍を覆い隠すように周回し、振り下ろされた払え串を合図にミスティアへと殺到した。
「いきなりそれ?」
「手間が省けて良いでしょ」
 到底会話が通じそうもないような速度で二人とも飛んではいるが、会話は問題なく通じる。
 魔法使いか魔女でも居れば解説でもしてくれるかも知れないが、残念ながらどちらも問題がなければ気にしないような頭の構造をしているため、疑問すら生じない。
 口を利く間にも膨大な数の符がミスティアに迫る。
 いい加減な手順でこれだけの霊符を操る霊夢は、さすが幻想郷でケンカを売ると色々むしられる人間トップテンに堂々上位ランクインするだけのことはあるが、一つ一つの符にそれぞれ制御が行き届いているわけではない。
 ミスティアの睨んだところ、その区分けはおそらく四つ。
「La~♪」
 ミスティアが音程を確認するように喉を振るわせると、羽虫をかたどった二つの使い魔が彼女を追走する。
 その成果に満足したのか、ミスティアはニッコリと笑い大きく頷く。無論、それをさらに霊符の群れが追いかけている。
 ミスティアは羽を大きくはためかせると、さらなる加速を開始した。空を当然のごとく飛び回る怪鳥の妖魔は、その当然を逸脱して制御を外れそうに振動する飛行の妖力を感じ、にやりと笑った。
 高速に耐えかねてか、符の群れが一つ脇に逸れて行く。
「籠目♪」
 呟くように、跳ねるように、ミスティアが唄う。さらに現れた二つの使い魔が、もとよりあったモノと共にコーラスに加わる。
 それを三つの符の群体がさらに追う。
 肉体の束縛を受けない符がミスティアへと追いすがる。符の群れが着弾する刹那、体の中心線を軸に回転し、まるで受け流すかのようにミスティアは符の群れを回避した。
「籠目♪」
 喚び求める歌声に誘われ、さらに二つの使い魔が現れる。
 それの制御に妖力を取られ、ミスティアの速度が僅かに低下する。そこを残り二つに減った符の群れが付け狙う。
 ミスティアが通過するはずだった場所を空しく過ぎ、一つの符群が軌道を外れる。符を操っていた霊夢にも、符術の知覚機構にも、ミスティアがまるで、霞のように消えたと感じられていた。
 ミスティアはどこへ消えたのか。
 周囲を素早く見回した霊夢が発見したミスティアは、既に遙か下方。
 加速も止め、揚力を生み出すことも止め、自由落下に任せて降下していたのだ。
「籠の中の♪」
 さらに増えた八つの使い魔に妖力を取られながら、重力を利用してさらにミスティアは速く飛ぶ。再発見した標的を、再び符の軍隊が追う。
 下へ向けての、自由落下を上回る、過剰な加速。
 逃げるミスティアと破魔の札は、まるで地面へ向けてデッドヒートを繰り広げているかのようだった。
 ゴールが地面のチキンレース。迂闊な敗者は、地面との破滅的なキスを味わうことになる。
 あまりの速度に、ミスティアの見る光景は溶けたように流れ、過ぎて行く。
 それもすべて、ほんの一瞬のこと。ミスティアの視界が、地面で埋まる。

 轟音と共に土煙が立った。

 土煙の中を抜けてくる者が居る。符は既に爆風と共に吹き飛んでいる。
 全身を土煙で汚しながらも、力強く羽を羽ばたき、空に向けて、霊夢に向けて、地面と懇ろになる直前で急上昇をかけたミスティアが飛び上がる。

「巫女巫女レイム♪」

 バカにしているとしか思えない呪いの詩と共に、霊夢の周囲、頭上に一つ、足下に三つの使い魔が転移した。

「I will I will lock you ♪」

 ミスティアが唄い、叫び、使い魔同士を繋ぐ格子が生まれ、

 轟音。

 人を捕らえる籠の中、内へ向けて放たれた妖気の嵐が、中の空間を徹底的に粉砕した。
「ちょっとやばかった、かな?」
 ただし、中身を除いて。
 言いながらも、割と霊夢は内心冷や汗を掻いていた。さっきミスティアがしたように、落下に任せて抜けなければ、一歩遅れていたかも知れなかったからである。
 なんでもないような表情に、少しの安心と余裕を持たせた霊夢を見て、ミスティアはにんまりと笑う。必殺の手を破られたミスティアが、なぜ笑うのか。
 そこで、ちょっと待て、と霊夢は思い直す。ミスティアが召還した使い魔はいくつだったか。使ったものはいくつだったか、と。
 嫌な予感、いや、確信に駆られ、払え串を持たない手で二動作、霊夢は早九字を切る。珍しくおざなりに済ませようという意図は無しに、ただ時間が足りないという確信に駆られて。

「Human-cage once more ♪」

 澄み渡る呪いの唄が、ミスティアの喉から導き出される。残り四つの使い魔は四方から殺到し、先ほどと同様に、しかし、三角錐の頭を下にして霊夢を囲んだ。今度こそ逃げる間もなく、人を収める籠が格子を結ぶ。
 霊夢は九字を切った手をそのままかざし、ミスティアは親指を立てて首を掻き切る動作をし、

「Bottom of the world ♪」

 立てた親指を、ミスティアが地面を向けて下ろすと同時に、詰まったような爆音が響いた。

「荷馬車がゴトゴト、レイムを乗せて行く~♪ っと」
 鼻歌でも歌い出しそうな上機嫌、と言うより正に歌を唄いながらミスティアは悦に浸る。宙に浮いたままくるくる回ったりと、陽気に中てられたかのような上機嫌である。
「んで市場で売られるわけね? 焼き鳥が」
 人を収めた籠から声がした。

「二重結界」

 ケージを形成していた使い魔達が、檻ごと歪みねじ曲げられ、中心へと落下していく。その中心にあるのは霊夢の手、そこで重なり、互い違いに回転する二重の四角結界。人を閉じこめる鳥の籠は、ひねり潰されたあげく、結界のすきまへと放逐された。
「うっそ。あれで無事って、やっぱ人間以外だったのね」
「人間以内よ。今のはただの喰らいボム」
「喰らいボムなら仕方ないか」
 霊夢の言葉に、ミスティアはあっさりと納得した。
「納得してくれたなら、とっとと墜とすわよ」
 言葉と共に弧を描いて飛来した博麗アミュレットを、ミスティアは上昇して避ける。
「こんなんじゃ墜ちない、ってぅわきゃ!」
 言いかけたミスティアの頭をかすめて、ブーメランのように戻ってきた博麗アミュレットが通り過ぎていった。
「針山地獄とそれ。どっちが好み?」
 アミュレットに追いかけられるミスティアを、霊夢はさらに針で狙い撃つ。
「どっちも嫌!」
 頭を抱えて上下左右に逃げ回りながら、ミスティアは再び使い魔の召還を始める。
「使い魔雀は輪になって、口を揃えてちいぱっぱ、っと♪」
 どうにも気が抜けるミスティアの唄と共に、詩の通り輪を描いて使い魔たちが彼女の周囲を飛び回る。蛾、蝶、小鳥等の羽虫たちが集まると、奇怪に響くコーラスを奏で始めた。
「聴いて宵々、帰りは怖い。私の指揮下の歌を聴いて、夜は鳥目で歩けなくなるが良いわ!」
「あんたって鳥目しか能がない妖怪?」
 霊夢が呆れたように返す。
「そんな可哀想な妖怪居ないわよ、多分。昼間に人間と遭うとは思ってなかったから、台詞考えてないだけ」
 ミスティアは堂々と胸を張って答えた。
「んじゃ鳥目にするって言うの、嘘じゃない?」
「うん。嘘」
「嘘つきなら持ち運びやすいモノを強奪されてもしょうがないわよね」
「うわ。さすが巫女ね」
 霊夢の殺生な話を聞き、戦慄した振りをしてミスティアはくるくると回った。
「悪魔のような巫女は私の唄で狂わせてあげる」
「あんたの唄って、耳塞いでも効くの?」
 霊夢の言葉に一瞬考え込んだミスティアは、腰に手を当てて胸を反らすと、
「ふははは。私の唄は直接脳に響くのだ」
「ほほぅ」
「かどうかは知らないけど、耳塞いでもわりと聞こえるじゃん?」
「そりゃそうよね」
 耳を塞いだくらいでは、大抵の音はまだまだ聞こえるモノである。
「じゃあ、あんたの口から塞ごうっと」
 言葉と共に霊夢は針を投げ、符を飛ばす。それらは避けようともしないミスティアに向かい、有らぬ方向へと逸れていった。
「あれ?」
 もう一度投げつけるが、霊夢の思い描いたモノとは似ても似付かない、奇怪な軌道を描いて弾が逸れて行く。
「はっはー。当たらないじゃどうしようも無いわよね。今日は私の勝ちで決まり!」
 霊夢の周囲を、先ほどの弾のように、奇怪な軌道を描いて飛びながらミスティアは羽状の妖弾を放ってくる。実際の軌道は変化していないようではある。
 しかし、使い魔の方に妖力を食われて弾の数こそ少ないが、妖弾までもが奇妙な軌道を描いて見えるために恐ろしく避けがたい。
 正直霊夢も、狂わせるとかいう力をかなり甘く見ていた。何せどこぞの月兎の場合も策士策に溺れて、むしろ弾幕が薄くなっていたりしたのだし。
「なんでまっすぐに飛ばないかなぁ」
 奇怪な軌道の弾を当たる直前まで引きつけて避けながら、霊夢は一番の不満を口にした。
 別に負けたりするのは問題はない。勝負事には思わぬ敗退などありふれている話だし、霊夢自身くだらないミスや純粋な力不足等で負けることはある。
 悔しく思うこともあるが、尾を引くモノでもない。
 気に食わないのは、なにもかもが真っ直ぐ進まなくなっていることだった。
 殴りたい時は真っ直ぐ近付いて殴る。撃ち落としたい時は真っ直ぐ何かを投げつける。真っ直ぐ相手に向かえば当然相手にぶち当たる、霊夢はだいたいそうしてきたのだ。
 こう言うと魔理沙辺りに、それはおまえの根性が曲がっているからそう見えるんだぜ、などと言われるが。無論のこと、霊夢は根性のひん曲がった魔理沙の言などは全く信用していなかった。
 他の知り合いにも言われた気がするが、まあ気にしないことにしていた。
 一向に真っ直ぐ飛ばない弾、自分に沸々と怒りがこみ上げてくる。
「いいから真っ直ぐ飛べっての!」
 怒号と共に、霊夢は針をまとめてぶん投げる。怒りに怯えて針がやる気でも出したのか、それはミスティアへと向けて直進していった。
 ただし、霊夢から見て。
「にょえええええええええ!?」
 感覚が狂った霊夢から見て真っ直ぐ進む針は、逆にミスティアから見て訳のわからない軌道を描いて飛来した。その上、符と違って追いかけてはこないはずの針が、図ったようにミスティアを追い回している。
 胸を反らして避け、足を開いて避け、必死に飛んで逃げ、変なポーズになりつつも最後の一本をミスティアが避けきる。この瞬間ミスティアの心は、決まった、という思いで満たされた。
 毒で苦しんで死ぬ直前のようなポーズを取っていたが。

 ゴス、と生々しい衝突音がした。

 ミスティアの後ろ頭に、紅白の色の弾がめり込んでいる。霊夢がミスティアの死角から飛ばしておいた陰陽玉である。
 白目を剥いたミスティアは当然飛んでいられなくなり、真っ逆さまに落下していった。
「お。ちゃんと真っ直ぐ墜ちるようになったわ」
 墜ちて行くミスティアを見て霊夢が満足げに笑みを浮かべた直後、地面の方から人間ほどの重さのモノが衝突する音が聞こえた。

 *

「これはどうやるのが作法なのかしらねぇ」
 ミスティアが落下していった辺りに霊夢が降り立つと、そこにはミスティアが生えていた。頭って地面に刺さるのね、と霊夢はしきりに感心している。
 逆さなので色々と丸見えになっていたが、異性の視線があるわけでもなし、放っておいて良いだろう。
 立て札は「王の証の剣、ここに眠る」が適当か。それとも「ペンキ塗り立て」が適当か。
 霊夢が思案していると、新種の植物がもぞもぞと動き始める。
「ぶはぁ!」
 頭を引っこ抜いたミスティアが、頭をそのままぶるぶると振るって土を飛ばす。
「いい加減な造りしてるわよね、妖怪って」
「頑丈って言ってよ」
 遙か上空から落下してピンピンしているのは、頑丈とかどうとかの問題じゃない、と霊夢は思う。地面に突き刺さっていたし。
「と言うわけで。負けたんだからなんか寄越せ」
「うわ。ストレートな強盗」
「私は妖怪退治が仕事だから良いのよ」
「そーなのかー」
 無茶苦茶なことを言ってくる霊夢に、ミスティアはどこかの宵闇妖怪のようにあっさり納得した。この界隈では言いきってしまえば、案外無理も通るのかも知れない。
「んーでも、今お茶なんて無いわよ」
「米でも味噌でも何でも良いわよ。って言うかなんで真っ先にお茶?」
 霊夢の様子が微妙に必死である。今月は苦しいのだろうか。
「あんたいつも縁側でお茶啜ってるじゃん。てっきり燃料なのかと思ってたけど、違うの?」
「違うって言いたいけど、否定も出来ない……」
 霖之助の所から強奪してでも茶だけは切らさないように用意しているし、掃除だのをしている時間よりも茶を飲んでいる時間の方が長いのも否定しがたかった。
「コメとかなら夜になれば誰か持ってくるんじゃないの?」
 花見の時期も終わって僅かに宴会の回数は減ったが、まあ僅かである。夜の分については食料に困らないだろう。
「本当はもう少し減らして欲しいんだけどねぇ。でも干涸らびるよりはマシだし」
「……なんか切実ね」
 窮状を何気なく暴露する霊夢を、ミスティアが可哀想なモノを見る目で見つめた。
「ああ。お茶はないけど羊羹があったわね」
「なんであんたがそんな高級そうな食べ物を持ってるわけ?」
 霊夢から見てミスティアは、少なくとも羊羹造りに凝っている妖怪には見えない。ならば、何らかの手段で羊羹を得たことになる。
「この間ふらふら飛んでたら切り裂き魔に襲われて、お嬢様に芸を見せろとか言われたの」
「どっちの切り裂き魔?」
「銀色っぽかったわ」
 霊夢に思い当たる切り裂き魔は、どちらも銀色で、お嬢様とか言っていた。区別が付かない。
「結局どこに行ったの?」
「子馬館、だったかな?」
 誰に襲われて、どこに連れて行かれて、誰に芸を披露させられたのかが判明した。
 何か微妙に間違っているような気もしたが、おそらく気のせいだろう。
「それでご褒美が羊羹?」
 霊夢からすると、あの紅い悪魔にしてはずいぶんとケチ臭いように思える。何かやらかしたのだろうか。
「大きなつづらのおまけだってさ~。舌切り雀みたいにお化けは詰まってなかったけど」
 つづらの中身は、食べたり仲間や知り合いにくれてやってもう無いそうだ。
「それなら羊羹で良いわ。うちまで来れば茶くらい出すわよ」

 *

 そろそろ夕刻も近付き、日が赤みを帯び始めている。
 わずかに陰りに染まった、博麗神社の縁側に腰をかけたミスティアは、足をぶらぶらと振りつつ巫女とレイムを連呼する歌を唄っていた。
「お茶入ったからその奇っ怪な歌止めて飲め」
 ミスティアの後頭部に踵を突き刺しつつ、霊夢は茶と、切った羊羹を盆に乗せて縁側に現れた。手加減がなかったのか、ミスティアは頭を押さえて唸っている。
 霊夢は盆を置いて膝を着くと、ミスティアを全く気にせずに茶を啜り、羊羹をパクつき始めた。
「あら、美味しい」
「人が痛がってるのに流さないでよ」
 よほど痛かったのか、ミスティアは涙目になって霊夢を睨んでいる。
「まあ話は変わるんだけど」
「わあ。また流された」
「あんたって雀に似てない気がするんだけど」
 ミスティアの羽は、とても雀に似ているとは言えなかった。変化の類ならば似通ったところがあっても良いんじゃないか、と霊夢は思うのだが。
 それどころか、このような羽をしている鳥は見たことがない。外にはこのような、作り物じみた羽の鳥が飛んでいるのだろうか。
「雀じゃなくて夜雀だって言ってるのに」
「だから雀の妖怪じゃないの?」
「なんかまたループしてる気がする」
 馬鹿馬鹿しい既視感に、ミスティアは首を振って項垂れた。
「だから雀が化けたんじゃなくて、『夜雀』って言う妖怪なの」
「なんでそんなややこしい名前してるのよ」
「人間が勝手にそう呼んでるんでしょ! 見えないくせに。ややこしくない呼び方もあるのに、なんで誰も使わないのかしら……」
 ミスティアは八つ当たりのように羊羹を噛みちぎる。霊夢の言うとおり確かに美味しかった。
「あんたの別名なんて聞いた事無いわよ?」
「名前聞かれたときは一緒に言ってるけど?」
 ミスティアの名前と一緒に聞いていると言われても、霊夢にはとんと覚えがない。いや、一つ思い当たるものがあった。だとすると誤解をしていたことになるが、
「その別名ってあんたに相応しくないような」
 その妖怪のイメージは霊夢からすると妖艶な女性で、間違っても放歌高吟、色気皆無のミスティアには似合わなかった。
 性質としては納得が行かないでもないのだが。
「私がローレライで何が悪いってのよ!」
 夜雀ミスティア・ローレライの悲痛な叫び声が境内にこだました。
 こんにちは、花映塚体験版は持っていない人妖の類です。くそう。

 大体、ミスティア出演おめでとうといった感じなので、あんまり内容がないと思われます。
 普段濃いわけでもないですが。
 元気に飛び回るミスティアを幻視していただければ、これ幸いです。

 多分花映塚では、辛くてもミスティアを使うでしょう。魔理沙も好きなんですが。でも⑨も捨てがたいです。

 ここまで読んで下さった方に感謝を。
人妖の類
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コメント



0.3710簡易評価
7.80名前が無い程度の能力削除
やっべ、みすちー蝶可愛いよ!!1!1!!11
25.40名前が無い程度の能力削除
みすちーが可愛いー。あと、
>「ふははは。私の唄は直接脳に響くのだ」
からの一連の流れはものすごく東方っぽくて素敵だと思いましたさ。
28.60藤村流削除
く、ミスティアが格好良く見える……。これも夜雀の歌のせい?(失礼)
でも最後はやっぱりみすちーっぽくて良かったです。うあ、早く体験版やりたいっ。
32.70d削除
ふたりとも(特にそこまで資料?も多くないミスティアが)違和感なく動いててキャラ掴むのが巧いなあと思った。

あと塚のミスティアはそこそこ強いですよ。
48.70七死削除
こんばんわ、花映塚体験版は持っていない七死です。ふぁっくおふ。
弾幕ゴッコと言うより、ドッグファイトに近い軌道戦を幻視いたしましてそうろう。

歌いながらバーチカルシザーズする夜雀。 実に格好良い。
52.80no削除
ああ、巫女巫女茄子と☆矢か・・・今思い出しました。
85.60名前が無い程度の能力削除
やっぱ、幻想郷のキャラクターって
みんなどっか狂ってるなw