真夜中の紅魔館、ヴワル図書館の主である魔女、パチュリーは、閲覧室の中で、見慣れない本を発見した。
と、言っても、普段から勝手に、様々な場所から色々な書物が集まり、膨れ上がるこの図書館では珍しい事ではない。むしろ日常茶飯事だ。
簡素な装丁の、その本を手に取る。
題名は『機械世紀の贖罪』。
著者名は『マイストロフ・E・ノイマン』。
彼女はページをめくり、序文にあたる部分に目を通す。
『我々は、再び、同じ過ちを繰り返してはならない。
唯一人で、人間に未来を残す為、遠く離れた場所で
生きて、戦い、そして散った彼女の、魂への鎮魂の想いを込めて
私達はこの書を記す。
X-LAY 元搭乗者代表 アルベルト・S・アールグレイ』
彼女は、ほんの少しだけ興味を持ち、落ち着いて本を読む為、椅子に腰掛けた。
「これはSF小説っていうのかしらね」
レミリアに、月旅行について相談を持ちかけられ、その類の本を彼女は多数読んでいた。
その中でのお気に入りは、今のところ、H・G・なんとかという作者の、潜水艦という機械に乗り込んだ人間達の、海洋冒険記譚だった。
船長が渋くて好いのよね、とかなんとか。
読み進めるうちに彼女は、この本が、地球から離れた宇宙での、戦争体験記物だと理解した。
『科学の進歩により、人間は、無から有を作り出す力を手に入れた』
「まるで、賢者の石ね」
『その力により、人間はかねてから望んでいた、人口増加問題等の解決の為の、外宇宙への旅立ち、人間が住める可能性のある惑星の探索を始めた』
「ふむふむ、それで」
『探索は遅々として進まず、誰もが諦めかけた頃、その星が発見された。
わずかな環境改善措置をするだけで、人間が生存可能になる、二つの衛星を伴う惑星。
発見者の名前から、その惑星は『セシリア』と名づけられた』
「誰かさんに、似たような名前ね」
『惑星環境の改善、及び開発の為、まず地球とセシリアを繋げる異空間ゲートが、月の衛星軌道上に作られた。セシリア側にも同じ物が、長い年月をかけて、恒星軌道上に作られた。
そして惑星改造、テラフォーミングの為に、セシリアに建造された巨大な施設。
北欧神話の生命の樹から名を取られ、それは『ユグドラシル』と名付けられた。
惑星は、『ユグドラシル』の管理により、順調に改造が進められ、そして、地球からの開拓者達の移住も始まった。
すべてが順調に、平和に、穏やかに進行されていた。
だが、しかし、突然に破局の日は訪れた。何の前触れも無く』
「おぉ」
『原子物質変換法。無から有を作り出し、廃棄物すら有益な物に変換できるシステムを搭載した『ユグドラシル』は、人知れず、その根をセシリアの内部まで伸ばしていた。地表のごくわずかな部分を除き、地層から惑星中心部に至るまで、機械化し、自分自身に都合の良い環境を作り上げたメインシステムは、ついに自分を支配していた人間達に牙を剥いた。その理由はいまだ不明だが。
『ユグドラシル』は、まず惑星の酸素濃度、及び気温を操作した。この第一波により、地上表面で作業中だった人間の八割が死亡した。生き残る事が出来たのは、建造物の中で作業に従事していた者達だけだった。
生き残った人間の、必死の抵抗もむなしく、『ユグドラシル』はセシリアの支配者となった。
次に、システムは、惑星中心核で密かに製造していた、機械兵器群を地表に解き放った。攻撃を逃れ、惑星から脱出できた生存者は、さらに少ない数だった』
「飼い犬に手を噛まれるって感じかしら。ま、うちの忠犬はそんな事しないだろうけど」
『システムの造反を重く見た、地球側の宇宙軍は、『ユグドラシル』制圧の為、機動艦隊を差し向けた。しかし』
『ユグドラシル』』の作り上げた、無人の敵機械群の迎撃により、艦隊はセシリア衛星軌道上で、半数以上の損害を受けた。性質の悪い事に、地球側の機械兵器までもが、『ユグドラシル』の干渉を受け、同士討ちを始めるまでになった。艦隊は、セシリア側の異空間ゲートまで撤退する。今のところ『ユグドラシル』からの追撃はない。
そして、第一次攻撃作戦『オペレーション・メテオ』が発動された。セシリアの二つの衛星の一つ、本星への資材の中継点となっていた『ジューダ』に、戦艦用エンジンを多数取り付け、セシリア本星に落とし、その混乱に乗じてシステムを制圧する。敵の攻撃も無く、作戦は成功するかに見えた。
だが、またしても制圧は失敗に終わった。
その時、『ユグドラシル』は、人類抹殺の為の追撃兵器群をすでに完成させていた。
コードネーム、ファーブニル級攻撃戦艦『ヨルムガンド』三隻による、主砲である中間子砲の一斉射撃により、『ジューダ』は崩壊し、セシリア衛星軌道上の巨大な岩隗、デブリと化した。残っていた機動艦隊も、ほぼ全滅した。
第一次攻撃作戦の失敗を知った地球政府は、最後の決断を下した。
セシリアを放棄すると。
だが、例えセシリア側のゲートを破壊したとしても、『ユグドラシル』は、地球への追撃の手をゆるめない事は明白である。
その為に、第二次攻撃作戦である『オペレーション・ドゥーム』が発動された。
極少数の、最新型攻撃兵器でセシリアに降下し、『ユグドラシル』を破壊する。
その計画を立案したのは、バルカ機関と言う名の組織。
影では、人と機械を融合した機動兵器を製作していると噂され、また、『ユグドラシル』の建造のメインを担った組織でもある。
作戦に使用される攻撃兵器は、バルカ機関が開発した、最新鋭戦闘攻撃機『RVA-818・X-LAY』全十二機。
強力な電子防御システムにより、『ユグドラシル』の干渉を退け、陽電子砲二門と誘導式レーザー八門を装備した、現時点では最強の機体であった。
しかし、その操縦システムは最高機密として、誰の目にも触れられる事は無かった。
そして、そのパイロット達の名簿の中に、彼女の名前はあった。
ただ一文字、苗字も無く、『零』と。
X-LAY十二機を搭載し、旗艦『マルドゥーク』は、月面の軍事基地からセシリアに向けて発進した。』
「ふぁーあぁ」
パチュリーは、そこで口に手をやり欠伸をした。睡魔に襲われる。
「続きは、寝てから読も。それにしても、レミィ達は帰ってくるのが遅いわね。特別な日だっていうのはわかるけど」
そして、七曜の魔女は、寝室に向かい、眠りについた。すやすやと。
クロスオーバーする世界の説明をする前に、まず東方SSであるべきです。
少なくとも、創想話とはそういう場所だと思います。
ご意見ありがとうございます。私が迂闊でした。他の作者様の作品を読み直して、良い東方ssを作れる様に頑張ります。