ご注意!
この作品には響子ちゃんは出てきません。響子ちゃんが命蓮寺に来る前の話として見てください。
大丈夫だ、問題ない。という方は、このまま下へスクロールしてください。
一番いい響子ちゃんを頼む。という方は、画面の左上にあって左を向いていると思われるボタンを押してください。
「~♪~~♪」
昼下がりの命蓮寺に鼻歌が響いている。この寺の僧侶こと聖白蓮のものである。
小鳥のさえずりの聞こえる寺に、彼女の美しい歌声が響きいつもの二割増しぐらいのありがたみが有る。あぁ、静かな命蓮寺に歌が満ちる。
…ドタバタ…バタ…
「って、何か騒がしいわね」
またぬえかしら、昼食のときもバタバタと出て行ったし。また注意してあげないといけないわねぇ。などと妙ににやけた顔で考えている彼女の注意の方法が気になるところである。と、彼女は気を取り直して息を吸い、また歌をつむごうとしている。
「フンフ…「「「「ひじりぃぃぃぃい!」」」」きゃわぁ!?」
しかし歌は、ものすごい勢いで白蓮のもとに駆け寄ってきた四人によって急きょ中断された。さらに彼女らは各々が口々に何かをわめいている。白蓮も聖人ではあるが聖徳太子ではない。当然聞き取れるわけもない。
「ちょっ、みんな落ち着いて…」
「これが!」
「おちついて!」
「いられる!」
「かー!」
「落ち着きなさい!」
そして再び命蓮寺に静けさが訪れる。四つの鈍い音とともに。
「うぅ、ひどいですよひじりぃ」
「あなたたちが騒々しいからですよ。で、なにかあったの?」
「「「「そうなんですよ!」」」」
「はいはい、一人づつ一人づつ」
先ほどまでわめいていたのはこの寺に住む四人である。
「星、あなたは?」
「えーっとですね、宝塔が…」
「また失くしたの?」
「違いますよ!おでんになってたんです!」
「はぁ…」
これは予想外である。宝塔のあった場所にこんにゃくと大根とちくわを順に貫いた串がぶっ刺さっていたとかなんとか。
「ムラサは?」
「柄杓が穴の開いたおたまになってました」
「一輪は?」
「腕輪がモンキータンブリンになってました」
「モンキー…何?」
モンキータンブリンとは皮のないタンバリンのようなものである。(某辞典サイト参照)
「まあいいわ。ナズちゃんは?あなたもいつもは冷静なのに」
「あぁ、うん、確かに冷静さを欠いていたようだね、すまなかった」
「いいから、何があったの?」
小さな賢将たるナズーリンがあの騒ぎである。よほどのことがあったとうかがえる。
「ダウジングロッドがね、指さし棒になってたんだよ…」
「えっ,それだけ?」
「…それと、とっておきの、チーズが、バターに、なってた…」
「あらぁ…」
ここでみなさまにも想像して欲しい。ある夏の暑い夜に、風呂上りに食べようと買って、いざ風呂から上がって、熱る体を冷まそうとそれを捜したら、キンキンに冷やしておいたガ○ガ○君をすでに親父が食べていた。残っていたのはチュー○ット。しかも半分。そしてナズーリンは大好物であるチーズを失ったのだ。その苦しみはガ○ガ○君をゆうに超えるであろう。
「きついわね…」
「今度またいっしょに買いに行きましょう、ナズーリン」
「ありがとう、ご主人。私は君の従者であれてとても幸せだよ」
「そんな…大袈裟ですよナズーリン。あなたが望むならお安いご用ですよ」
「ご主人…」
「ナズーリン…」
こんなときに惚気ないでよ。部屋でやってくれ。あらあらお熱いわね。二人を除くこの場にいるものはそれぞれそんなことを考えていた。
「で、こんな状況だから、ぬえを捜していると」
「えぇ、はい。こんなことをするのはあいつぐらいですよ!」
たしかにぬえはこの場にもいない。現時点では十中八九ぬえの仕業である。
「うーん、でも最近はいたずらもしてないし、まだそうと決まったわけでは…」
「最近おとなしかったからこそですよ!」
「どちらにしても見つけて捕まえればわかることだよ。聖、ぬえを見なかったかい?」
「ええと、お昼ご飯の後は見ては…あっ」
「見たんですか!?」
「あの、後ろに」
「えっ」
そして四人は同時に後ろに振り返る。そして睨んだ廊下の先には…。
「ウフフ…」
ぬえがたいへんいやらしい笑みでこちらを見ていた。はい、現時点をもってこの騒動の犯人はぬえにだいけってー、である。
「「「「ぬえぇぇぇぇえ!」」」」
「あははっ、ここまでおいでー、っと!」
四人はぬえに掴みかかろうとするが、しかしぬえはその姿を光球に変え、縁側へと飛び出していった。
「くそっ、逃げられた!」
「裏に回ったようだっ、追いかけるぞ!」
「四手に別れましょう!」
「幸運を!」
そうしてバタバタと騒々しく、白蓮を残して全員がその場を後にした。
「はぁ、まったくあの子たちは…」
せっかくゆっくりできる一日だというのに。と、白蓮はもう一度大きく溜め息をつく。そうなのである、今日は一般向けの説法の予定もなく、みんながフリーの日だったのだ。
「そういえばぬえは私にも何かしたのかしら?」
そして白蓮もその場を後にして部屋へと向かった。
そして誰も居なくなった。(←イイタカッタダケー)
◇◆◇
場面は変わり命蓮寺の庭。
「ハァハァ、ふふっ、見つけたわよ、ぬえ」
「あれ?一輪、速かったね」
ぬえを見つけたのは一輪である。ぬえは余裕を持て余したかのように庭の木にもたれかかっていた。それを見てまた一輪の頭に血が上る。
「余裕なのも今のうちよ!」
「疲れてる時に起こると血管切れるよ?」
「ええぃ黙りなさい!雲山!」
そして一輪はぬえの安い挑発にのったまま、雲山を使役するために腕を大きく振り上げた。
シャァァァアン!
庭に決して澄んでいるわけではない音が響く。
「そういえばタンバリンになってたんだー!」
「あははっ、計画通り!」
そうである、ぬえはこれを狙っていたのだ。
「くっ、でも雲山なら!」
そして一輪は空を見上げる。そこには雲一つない青空が広がっている。雲山は大空を絶賛遊泳中である。
「ちっくしょぉぉお!こうなったら私がやってやる!」
そしてよせばいいのに一輪はぬえに突進する。ぬえは依然にやにやしている。一輪はこぶしを握り締め振りかぶる。しかしその一撃がぬえの顔面をとらえることはなかった。
「えっ、きゃぁあ!?」
ぬえを射程距離に入れるまであと三歩のところで一輪の身体は何かにからめとられ、木にぶら下げられ、身動きが取れなくなる。
「よし!かかった!」
「ちょっ、なによこれぇ」
あわれ一輪はぬえの罠にかかってしまった。まさかの二段構えである。
「ぬえ!これはずしなさい!」
「ふふん、全員捕まったらはずしてあげるよ」
「全員って、あんたまさか!」
そう、ぬえは命蓮寺の全員を捕えるという壮大ないたずらを計画、実行していたのだ。そのために一輪は雲山を呼ぶ腕輪を、ムラサは柄杓を封じるなど、戦力を減らし、なおかつ怒らせて冷静さをなくさせるようにしたのだ。なかでもナズーリンはロッドを封じることでダウジングをできなくさせ、みんなを分断するという周到さだ。
「そんなバカなこと、やって何になるの!?」
「ふふっ、せっかくの休みだからね、みんなと遊びたいんだよ、わたしは。それじゃあそれまでおとなしくしててねー」
「あっこら、まちなさーい!」
雲居一輪 再起不能(リタイヤ)!
◇◆◇
「おらー!まちなさーい!まてー!」
「うわわっ、ちょっ、ムラサ!タンマタンマ!」
「なーにがタンマよっ、そおい!」
ムラサの上段からぬえに向かって振り下ろされた錨は、しかしぬえをとらえる事無く命蓮寺の廊下をえぐる。後で白蓮から何を言われるかなどお構いなしのようである。今は所変わって命蓮寺内。ぬえとムラサが追いかけっこ中である。
「あっ、しまった!」
ぬえが背筋を冷やしながら逃げ込んだ先は命蓮寺の物置の中。当然逃げ道もなく、物が多すぎて隠れる場所もない。
「ふふ、追い詰めたわよ、ぬえ」
「くっ」
ムラサもすぐに追いつき、唯一の出入り口に立ちはだかる。
「さあ、観念して…」
「くっ…ふふ、あはは」
しかしムラサに振り返ったぬえはとてもおかしそうに笑っていた。
「な、なによ。気でもふれた?」
「失礼ねっ、ねえムラサ、わたしがこの部屋に、何も考えずに飛び込んだと思った?」
「な……っ」
罠かっ、とムラサは周囲を警戒する。何が何処から出てきても、その錨ですぐにたたき伏せられるように。
「ついでに、わたしがあんたの柄杓にいたずらをしただけで、その錨に何もしてないと思った?」
「えっ!?」
その刹那、ぬえが指を鳴らす。するとムラサの錨は、大蛇へとその姿を変え、ムラサに巻きついた。
「うわぁ!なにこれ!」
「ほらほら、まだまだいるよ!」
ぬえが再び指を鳴らすと、物置に置いてあった物も蛇えと姿を変え、ムラサへと巻きついてゆく。
「やだやだっ、気持ち悪い!」
「そんなに嫌がらなくてもいいのに。可愛いじゃん」
ぬえの感性はだいぶずれているようだ。ぬえが三度目の指パッチンをすると蛇たちはムラサに巻きついたまま、さらに縄へと姿を変えた。
「はい、ムラサつかまーえた!」
「くぅ、軽くトラウマものだったわ…」
こうしてぬえはムラサをも捕まえることに成功する。あとに残るのは星とナズーリン、そして白蓮である。
「くっ、しかし私を倒してもすぐに第二、第三の私が…」
「んじゃあ、おとなしくしててねー」
「あ、ちょっと!せめて最後まで…」
キャプテンムラサ(村沙水蜜) 再起不能(リタイヤ)!
◇◆◇
これまた命蓮寺の廊下。今度は星がぬえと追いかけっこをしていた。しかしムラサのときのように殺伐としたものではなかった。
「ほらほら、こっちこっちー!」
「ハァハァ、ぬえ、まちなさーい!」
どうやら星はもうすでにだいぶ息が切れているようである。
「そんなんじゃ、この宝塔を取り返せなんてしないよー!」
「あぁもうっ、勝手なことを!」
「あははっ、それじゃあさっ」
ぬえは一旦その足を止めて、縁側から庭にむかって大きく跳躍し、庭へと降り立った。
「弾幕勝負でわたしに勝ったら、この宝塔とかみんなのいたずらした物を元通りにしてあげるよー」
「本当ですか!」
ぬえにそう返しながら星も縁側から庭に下りてくる。
「あっ、でも私は宝塔が無いと…」
「あれっ、そうなの?じゃあ仕方ないなー。少し返してあげるよ」
「あ、ありがとうございます。……あれ?」
なぜか立場が変わっているが、星はそのこと気付かないようだ。
「ほら、ぼーっとしてないで。投げるよー」
「あっこら、大事な宝塔なんですからもっと丁寧に扱いなさい!」
言いつつ星は、高く投げ上げられた宝塔を受け止めるために数歩前に出る。ぬえの口元の笑みにも気付かずに。
「とにかくこれで…うわああああ!」
「いやー、簡単だねえ」
宝塔が星の手に渡った直後、星はぬえにより仕掛けられた落とし穴に落ちてしまった。
「あいたたた…」
「あははっ、どう、星?わたしの特性の落とし穴は?」
「ぬえ、あなたって人は…っ」
ぬえは投げた宝塔の軌道をうまくコントロールして、星を落とし穴に誘い込んだのだ。
「くっ、でも宝塔は私が」
「ああ、それ偽物だよ」
「えぇ!?」
考えてみれば当然である。みすみす宝塔を返すわけがないのだ。というか騙されるのは星ぐらいのものであろう。
「汚いですよ!」
「騙されるほうが悪いんだよーだ。あ、ナズーリンだ」
「え、ナズ!?」
どうやら星に構っているうちにナズーリンに見つかってしまったようだ。
「やぁ、ぬえ。やっと見つけたよ」
「遅かったねー、ナズーリン。やっぱりロッド無しじゃ辛かった?」
「ぬかせっ」
「ナズーリン、気を付けてください!」
「そんなところに居るのかご主人…、心配には及ばないよ」
ナズーリンはぬえを見据えながらそう応答する。ぬえも、これはまずいかな。と考えてナズーリンから距離をとる。
「やけに余裕そうだね、ナズーリン。ロッド無しでわたしに勝つつもり?」
「一応、私も千年物の妖獣だからね。君とサシでの殴り合いなら、負けるつもりは無いよ?」
そう、ナズーリンも星と共に千年以上を生き抜いてきたのだ。ぬえと本気でやりあったら勝つのはナズーリンのほうだろう。それに今のナズーリンは至極冷静だ。ぬえお得意の正体不明も効果は半減する。ぬえもそのことが分かっているのか、迂闊に動くこともせず、冷や汗すらかいていた。
「…ところでさぁ、ナズーリン」
「うん?なんだい?」
ぬえは一度視線を下におろしてひとつ息をつく。そしてその眼を再びナズーリンに向けて笑顔で言い放った。
「ナズーリンのチーズとっても美味しかったよ!」
「キッサマァァァァアアアあぼあぁぁぁあ!!」
冷静さを失った者ほど罠にかかりやすいものはない。ぬえの放ったチーズ食ったよ宣言に見事に釣られたナズーリンは、自分を見失ってぬえに突進し、そしてまたまた見事にぬえによって仕掛けられた落とし穴MKⅡに落ちてしまったのであった。
「よっしゃ成功!ちなみにチーズなんて食べてないよ!」
「うぐぐ、貴様ー!その言葉は本当だろうなぁ!?」
「あはは、ほんとほんとー!」
落とし穴に落ちてもなお、元気なナズーリンはわめいている。
「まあなにはともあれ、ナズーリン、捕獲かんりょー!」
「うがー!」
「ちょっとーぬえー!?私のこと忘れてませんかー!?」
寅丸星、ナズーリン 再起不能(リタイヤ)!
「よーし、これで残るは白蓮のみだー!」
「あらあら、私も捕まっちゃうの?」
「そりゃあもちろん、白蓮にはいつもいじられてるからねー。今日こそはその仕返しを……ってえ!?」
「はーい、つっかまーえたー!」
「うわぁ!?」
ぬえは白蓮を捕まえた後どうするかを考えているうちに、いつの間にかぬえの後ろにいた白蓮に抱きつかれて捕まってしまった。
「い、いつの間に?」
「あら、そんなのも気付かなかったの?それじゃあ私を捕まえるなんて到底無理ねぇ」
「うう、くそう…」
「あっいた、姐さーん!」
「あら、一輪」
「えっ?」
ぬえも声がした方を見てみると、雲山とムラサを連れた一輪がこちらに来ていた。どうやら雲山がぶら下がっていた一輪を見つけて助け、ここに来る途中でムラサも見つけてきたようだ。
「ちょっとー一輪、終わるまで逃げちゃダメって言ったでしょー」
「うるさいわね、それにどうせもう姐さんに捕まってるでしょうに。あ、そういえば姐さんもぬえに何かされたんですか?」
「ええ、部屋の巻物が全部ちくわになってたわ」
「うわぁ…」
ぬえ以外のその場に居た全員が引いた。白蓮の部屋には経典以外にも白蓮自身が書いた巻物も多くある。それら全てがちくわになっていたのなら、さぞかしちくわ臭いことだろう。
「まあそんなことは良いから、一輪、ムラサ、星たちを助けてあげて?」
「あっ、はい」「わっかりましたー」
ここにきて放置されていた星とナズーリンも落とし穴から引き上げられた。
「ほら、ぬえも、いたずらした物を元に戻しなさい?」
「はーい、わかったよー。ちぇっ」
そしてぬえも今までかけていた能力を、しぶしぶと解除した。みんなが疲れた顔をしながら、自分の腕輪を見たりなどして、あーやっと戻ったー、などと呟いている。ナズーリンはぬえが解除してすぐに自分の部屋に帰って行った。チーズの安否の確認であろう。猛ダッシュだった。
こうして命蓮寺におけるぬえと白蓮たちの攻防は終結を迎えた。
「ほら、元に戻したんだから、早く離してよー」
「あら、だめよー。まだお仕置きしてないんだもの」
「えっ!?」
白蓮はお仕置きする気満々である。周りの者も、そういえばそうでしたねー、とか、やっっちゃえやっちゃえー、とか言っている。
「うふふ、では」
「わっ」
白蓮は一度ぬえを離し、ぬえの顔が見えるようにぬえの体を反転して、その肩をがっちりと掴んだ。そしてぬえに顔を近づけていく。
「えっ、あっ、白蓮っ!?」
「うふふふ」
周りの者たちも何をするのかと顔を赤らめながら見守っている。そして、ぬえの動悸が極限まで高まったとき。白蓮は顔を離す。そして…。
「ふん♪」
「えっ?」
とても軽やかな、まるで鼻歌でも歌っているかのような掛け声とともに、白蓮の額がぬえの額へと勢いよく振り下ろされ、そして正確に、したたかにぬえの額を打った。つまるところの頭突きである。
ひ、聖ー!何やってるんですか!? えっ?ええっと、人里の慧音先生がいたずらっ子にはこれが一番効くって…。 効きすぎですよ! ぬえ、大丈夫!?って、ぬえー!?
命蓮寺のみんなのそんな声を頭の片隅で聞きながら、ぬえの意識は完全にブラックアウトした。
◇◆◇
なんだか、懐かしい感じがする。とても安心できて、なんかポカポカしてる。ずっと昔、自分にそんな時があったのかもわからないが、まるで、お母さんに抱かれているような……。
「んあ?」
「あら、起きた?ぬえ」
「…白蓮…?」
白蓮の強烈な頭突きを受け、ぬえの意識が飛んでから数刻がたっていた。その間ぬえは、白蓮の膝の上で寝ていたようだ。
「って、膝枕って!?」
「ああこら、急に動いちゃダメよ。頭を打ったんだから」
「うわぁっ!?」
白蓮に膝枕をされているのに気付いて、とっさにぬえは頭を上げようとするが、白蓮の手によってその行為は止められてしまった。
「うー…白蓮がやったんじゃん」
「そうよ、だからこうしてあなたの看病をしてあげてるのよ」
「てかここ、わたしの部屋じゃん」
「だれかさんのせいで、私の部屋はちくわ臭くなってしまいましたからね」
「うー…」
ぬえも反論しては見るが、ことごとく白蓮にうまく返されてしまった。
「あら、そんなに私の膝枕は嫌だったかしら?」
「嫌ってわけじゃ…ないけどさ」
「ならいいじゃない。ほら、もう少し安静にしてなさい」
ぬえの答えに白蓮は微笑んで、ぬえの頭を撫で始める。ぬえも口ではああ言ってても、まんざらではない様子だ。
「…わかったよ」
「ふふ、素直でよろしい」
まあこれぐらいならいいかな、気持ちいいし。
その後しばらく、ぬえは白蓮に頭を預けていた。
もう少しだけ、もう少しだけ、このままでいたいな。なんて、考えながら。
この作品には響子ちゃんは出てきません。響子ちゃんが命蓮寺に来る前の話として見てください。
大丈夫だ、問題ない。という方は、このまま下へスクロールしてください。
一番いい響子ちゃんを頼む。という方は、画面の左上にあって左を向いていると思われるボタンを押してください。
「~♪~~♪」
昼下がりの命蓮寺に鼻歌が響いている。この寺の僧侶こと聖白蓮のものである。
小鳥のさえずりの聞こえる寺に、彼女の美しい歌声が響きいつもの二割増しぐらいのありがたみが有る。あぁ、静かな命蓮寺に歌が満ちる。
…ドタバタ…バタ…
「って、何か騒がしいわね」
またぬえかしら、昼食のときもバタバタと出て行ったし。また注意してあげないといけないわねぇ。などと妙ににやけた顔で考えている彼女の注意の方法が気になるところである。と、彼女は気を取り直して息を吸い、また歌をつむごうとしている。
「フンフ…「「「「ひじりぃぃぃぃい!」」」」きゃわぁ!?」
しかし歌は、ものすごい勢いで白蓮のもとに駆け寄ってきた四人によって急きょ中断された。さらに彼女らは各々が口々に何かをわめいている。白蓮も聖人ではあるが聖徳太子ではない。当然聞き取れるわけもない。
「ちょっ、みんな落ち着いて…」
「これが!」
「おちついて!」
「いられる!」
「かー!」
「落ち着きなさい!」
そして再び命蓮寺に静けさが訪れる。四つの鈍い音とともに。
「うぅ、ひどいですよひじりぃ」
「あなたたちが騒々しいからですよ。で、なにかあったの?」
「「「「そうなんですよ!」」」」
「はいはい、一人づつ一人づつ」
先ほどまでわめいていたのはこの寺に住む四人である。
「星、あなたは?」
「えーっとですね、宝塔が…」
「また失くしたの?」
「違いますよ!おでんになってたんです!」
「はぁ…」
これは予想外である。宝塔のあった場所にこんにゃくと大根とちくわを順に貫いた串がぶっ刺さっていたとかなんとか。
「ムラサは?」
「柄杓が穴の開いたおたまになってました」
「一輪は?」
「腕輪がモンキータンブリンになってました」
「モンキー…何?」
モンキータンブリンとは皮のないタンバリンのようなものである。(某辞典サイト参照)
「まあいいわ。ナズちゃんは?あなたもいつもは冷静なのに」
「あぁ、うん、確かに冷静さを欠いていたようだね、すまなかった」
「いいから、何があったの?」
小さな賢将たるナズーリンがあの騒ぎである。よほどのことがあったとうかがえる。
「ダウジングロッドがね、指さし棒になってたんだよ…」
「えっ,それだけ?」
「…それと、とっておきの、チーズが、バターに、なってた…」
「あらぁ…」
ここでみなさまにも想像して欲しい。ある夏の暑い夜に、風呂上りに食べようと買って、いざ風呂から上がって、熱る体を冷まそうとそれを捜したら、キンキンに冷やしておいたガ○ガ○君をすでに親父が食べていた。残っていたのはチュー○ット。しかも半分。そしてナズーリンは大好物であるチーズを失ったのだ。その苦しみはガ○ガ○君をゆうに超えるであろう。
「きついわね…」
「今度またいっしょに買いに行きましょう、ナズーリン」
「ありがとう、ご主人。私は君の従者であれてとても幸せだよ」
「そんな…大袈裟ですよナズーリン。あなたが望むならお安いご用ですよ」
「ご主人…」
「ナズーリン…」
こんなときに惚気ないでよ。部屋でやってくれ。あらあらお熱いわね。二人を除くこの場にいるものはそれぞれそんなことを考えていた。
「で、こんな状況だから、ぬえを捜していると」
「えぇ、はい。こんなことをするのはあいつぐらいですよ!」
たしかにぬえはこの場にもいない。現時点では十中八九ぬえの仕業である。
「うーん、でも最近はいたずらもしてないし、まだそうと決まったわけでは…」
「最近おとなしかったからこそですよ!」
「どちらにしても見つけて捕まえればわかることだよ。聖、ぬえを見なかったかい?」
「ええと、お昼ご飯の後は見ては…あっ」
「見たんですか!?」
「あの、後ろに」
「えっ」
そして四人は同時に後ろに振り返る。そして睨んだ廊下の先には…。
「ウフフ…」
ぬえがたいへんいやらしい笑みでこちらを見ていた。はい、現時点をもってこの騒動の犯人はぬえにだいけってー、である。
「「「「ぬえぇぇぇぇえ!」」」」
「あははっ、ここまでおいでー、っと!」
四人はぬえに掴みかかろうとするが、しかしぬえはその姿を光球に変え、縁側へと飛び出していった。
「くそっ、逃げられた!」
「裏に回ったようだっ、追いかけるぞ!」
「四手に別れましょう!」
「幸運を!」
そうしてバタバタと騒々しく、白蓮を残して全員がその場を後にした。
「はぁ、まったくあの子たちは…」
せっかくゆっくりできる一日だというのに。と、白蓮はもう一度大きく溜め息をつく。そうなのである、今日は一般向けの説法の予定もなく、みんながフリーの日だったのだ。
「そういえばぬえは私にも何かしたのかしら?」
そして白蓮もその場を後にして部屋へと向かった。
そして誰も居なくなった。(←イイタカッタダケー)
◇◆◇
場面は変わり命蓮寺の庭。
「ハァハァ、ふふっ、見つけたわよ、ぬえ」
「あれ?一輪、速かったね」
ぬえを見つけたのは一輪である。ぬえは余裕を持て余したかのように庭の木にもたれかかっていた。それを見てまた一輪の頭に血が上る。
「余裕なのも今のうちよ!」
「疲れてる時に起こると血管切れるよ?」
「ええぃ黙りなさい!雲山!」
そして一輪はぬえの安い挑発にのったまま、雲山を使役するために腕を大きく振り上げた。
シャァァァアン!
庭に決して澄んでいるわけではない音が響く。
「そういえばタンバリンになってたんだー!」
「あははっ、計画通り!」
そうである、ぬえはこれを狙っていたのだ。
「くっ、でも雲山なら!」
そして一輪は空を見上げる。そこには雲一つない青空が広がっている。雲山は大空を絶賛遊泳中である。
「ちっくしょぉぉお!こうなったら私がやってやる!」
そしてよせばいいのに一輪はぬえに突進する。ぬえは依然にやにやしている。一輪はこぶしを握り締め振りかぶる。しかしその一撃がぬえの顔面をとらえることはなかった。
「えっ、きゃぁあ!?」
ぬえを射程距離に入れるまであと三歩のところで一輪の身体は何かにからめとられ、木にぶら下げられ、身動きが取れなくなる。
「よし!かかった!」
「ちょっ、なによこれぇ」
あわれ一輪はぬえの罠にかかってしまった。まさかの二段構えである。
「ぬえ!これはずしなさい!」
「ふふん、全員捕まったらはずしてあげるよ」
「全員って、あんたまさか!」
そう、ぬえは命蓮寺の全員を捕えるという壮大ないたずらを計画、実行していたのだ。そのために一輪は雲山を呼ぶ腕輪を、ムラサは柄杓を封じるなど、戦力を減らし、なおかつ怒らせて冷静さをなくさせるようにしたのだ。なかでもナズーリンはロッドを封じることでダウジングをできなくさせ、みんなを分断するという周到さだ。
「そんなバカなこと、やって何になるの!?」
「ふふっ、せっかくの休みだからね、みんなと遊びたいんだよ、わたしは。それじゃあそれまでおとなしくしててねー」
「あっこら、まちなさーい!」
雲居一輪 再起不能(リタイヤ)!
◇◆◇
「おらー!まちなさーい!まてー!」
「うわわっ、ちょっ、ムラサ!タンマタンマ!」
「なーにがタンマよっ、そおい!」
ムラサの上段からぬえに向かって振り下ろされた錨は、しかしぬえをとらえる事無く命蓮寺の廊下をえぐる。後で白蓮から何を言われるかなどお構いなしのようである。今は所変わって命蓮寺内。ぬえとムラサが追いかけっこ中である。
「あっ、しまった!」
ぬえが背筋を冷やしながら逃げ込んだ先は命蓮寺の物置の中。当然逃げ道もなく、物が多すぎて隠れる場所もない。
「ふふ、追い詰めたわよ、ぬえ」
「くっ」
ムラサもすぐに追いつき、唯一の出入り口に立ちはだかる。
「さあ、観念して…」
「くっ…ふふ、あはは」
しかしムラサに振り返ったぬえはとてもおかしそうに笑っていた。
「な、なによ。気でもふれた?」
「失礼ねっ、ねえムラサ、わたしがこの部屋に、何も考えずに飛び込んだと思った?」
「な……っ」
罠かっ、とムラサは周囲を警戒する。何が何処から出てきても、その錨ですぐにたたき伏せられるように。
「ついでに、わたしがあんたの柄杓にいたずらをしただけで、その錨に何もしてないと思った?」
「えっ!?」
その刹那、ぬえが指を鳴らす。するとムラサの錨は、大蛇へとその姿を変え、ムラサに巻きついた。
「うわぁ!なにこれ!」
「ほらほら、まだまだいるよ!」
ぬえが再び指を鳴らすと、物置に置いてあった物も蛇えと姿を変え、ムラサへと巻きついてゆく。
「やだやだっ、気持ち悪い!」
「そんなに嫌がらなくてもいいのに。可愛いじゃん」
ぬえの感性はだいぶずれているようだ。ぬえが三度目の指パッチンをすると蛇たちはムラサに巻きついたまま、さらに縄へと姿を変えた。
「はい、ムラサつかまーえた!」
「くぅ、軽くトラウマものだったわ…」
こうしてぬえはムラサをも捕まえることに成功する。あとに残るのは星とナズーリン、そして白蓮である。
「くっ、しかし私を倒してもすぐに第二、第三の私が…」
「んじゃあ、おとなしくしててねー」
「あ、ちょっと!せめて最後まで…」
キャプテンムラサ(村沙水蜜) 再起不能(リタイヤ)!
◇◆◇
これまた命蓮寺の廊下。今度は星がぬえと追いかけっこをしていた。しかしムラサのときのように殺伐としたものではなかった。
「ほらほら、こっちこっちー!」
「ハァハァ、ぬえ、まちなさーい!」
どうやら星はもうすでにだいぶ息が切れているようである。
「そんなんじゃ、この宝塔を取り返せなんてしないよー!」
「あぁもうっ、勝手なことを!」
「あははっ、それじゃあさっ」
ぬえは一旦その足を止めて、縁側から庭にむかって大きく跳躍し、庭へと降り立った。
「弾幕勝負でわたしに勝ったら、この宝塔とかみんなのいたずらした物を元通りにしてあげるよー」
「本当ですか!」
ぬえにそう返しながら星も縁側から庭に下りてくる。
「あっ、でも私は宝塔が無いと…」
「あれっ、そうなの?じゃあ仕方ないなー。少し返してあげるよ」
「あ、ありがとうございます。……あれ?」
なぜか立場が変わっているが、星はそのこと気付かないようだ。
「ほら、ぼーっとしてないで。投げるよー」
「あっこら、大事な宝塔なんですからもっと丁寧に扱いなさい!」
言いつつ星は、高く投げ上げられた宝塔を受け止めるために数歩前に出る。ぬえの口元の笑みにも気付かずに。
「とにかくこれで…うわああああ!」
「いやー、簡単だねえ」
宝塔が星の手に渡った直後、星はぬえにより仕掛けられた落とし穴に落ちてしまった。
「あいたたた…」
「あははっ、どう、星?わたしの特性の落とし穴は?」
「ぬえ、あなたって人は…っ」
ぬえは投げた宝塔の軌道をうまくコントロールして、星を落とし穴に誘い込んだのだ。
「くっ、でも宝塔は私が」
「ああ、それ偽物だよ」
「えぇ!?」
考えてみれば当然である。みすみす宝塔を返すわけがないのだ。というか騙されるのは星ぐらいのものであろう。
「汚いですよ!」
「騙されるほうが悪いんだよーだ。あ、ナズーリンだ」
「え、ナズ!?」
どうやら星に構っているうちにナズーリンに見つかってしまったようだ。
「やぁ、ぬえ。やっと見つけたよ」
「遅かったねー、ナズーリン。やっぱりロッド無しじゃ辛かった?」
「ぬかせっ」
「ナズーリン、気を付けてください!」
「そんなところに居るのかご主人…、心配には及ばないよ」
ナズーリンはぬえを見据えながらそう応答する。ぬえも、これはまずいかな。と考えてナズーリンから距離をとる。
「やけに余裕そうだね、ナズーリン。ロッド無しでわたしに勝つつもり?」
「一応、私も千年物の妖獣だからね。君とサシでの殴り合いなら、負けるつもりは無いよ?」
そう、ナズーリンも星と共に千年以上を生き抜いてきたのだ。ぬえと本気でやりあったら勝つのはナズーリンのほうだろう。それに今のナズーリンは至極冷静だ。ぬえお得意の正体不明も効果は半減する。ぬえもそのことが分かっているのか、迂闊に動くこともせず、冷や汗すらかいていた。
「…ところでさぁ、ナズーリン」
「うん?なんだい?」
ぬえは一度視線を下におろしてひとつ息をつく。そしてその眼を再びナズーリンに向けて笑顔で言い放った。
「ナズーリンのチーズとっても美味しかったよ!」
「キッサマァァァァアアアあぼあぁぁぁあ!!」
冷静さを失った者ほど罠にかかりやすいものはない。ぬえの放ったチーズ食ったよ宣言に見事に釣られたナズーリンは、自分を見失ってぬえに突進し、そしてまたまた見事にぬえによって仕掛けられた落とし穴MKⅡに落ちてしまったのであった。
「よっしゃ成功!ちなみにチーズなんて食べてないよ!」
「うぐぐ、貴様ー!その言葉は本当だろうなぁ!?」
「あはは、ほんとほんとー!」
落とし穴に落ちてもなお、元気なナズーリンはわめいている。
「まあなにはともあれ、ナズーリン、捕獲かんりょー!」
「うがー!」
「ちょっとーぬえー!?私のこと忘れてませんかー!?」
寅丸星、ナズーリン 再起不能(リタイヤ)!
「よーし、これで残るは白蓮のみだー!」
「あらあら、私も捕まっちゃうの?」
「そりゃあもちろん、白蓮にはいつもいじられてるからねー。今日こそはその仕返しを……ってえ!?」
「はーい、つっかまーえたー!」
「うわぁ!?」
ぬえは白蓮を捕まえた後どうするかを考えているうちに、いつの間にかぬえの後ろにいた白蓮に抱きつかれて捕まってしまった。
「い、いつの間に?」
「あら、そんなのも気付かなかったの?それじゃあ私を捕まえるなんて到底無理ねぇ」
「うう、くそう…」
「あっいた、姐さーん!」
「あら、一輪」
「えっ?」
ぬえも声がした方を見てみると、雲山とムラサを連れた一輪がこちらに来ていた。どうやら雲山がぶら下がっていた一輪を見つけて助け、ここに来る途中でムラサも見つけてきたようだ。
「ちょっとー一輪、終わるまで逃げちゃダメって言ったでしょー」
「うるさいわね、それにどうせもう姐さんに捕まってるでしょうに。あ、そういえば姐さんもぬえに何かされたんですか?」
「ええ、部屋の巻物が全部ちくわになってたわ」
「うわぁ…」
ぬえ以外のその場に居た全員が引いた。白蓮の部屋には経典以外にも白蓮自身が書いた巻物も多くある。それら全てがちくわになっていたのなら、さぞかしちくわ臭いことだろう。
「まあそんなことは良いから、一輪、ムラサ、星たちを助けてあげて?」
「あっ、はい」「わっかりましたー」
ここにきて放置されていた星とナズーリンも落とし穴から引き上げられた。
「ほら、ぬえも、いたずらした物を元に戻しなさい?」
「はーい、わかったよー。ちぇっ」
そしてぬえも今までかけていた能力を、しぶしぶと解除した。みんなが疲れた顔をしながら、自分の腕輪を見たりなどして、あーやっと戻ったー、などと呟いている。ナズーリンはぬえが解除してすぐに自分の部屋に帰って行った。チーズの安否の確認であろう。猛ダッシュだった。
こうして命蓮寺におけるぬえと白蓮たちの攻防は終結を迎えた。
「ほら、元に戻したんだから、早く離してよー」
「あら、だめよー。まだお仕置きしてないんだもの」
「えっ!?」
白蓮はお仕置きする気満々である。周りの者も、そういえばそうでしたねー、とか、やっっちゃえやっちゃえー、とか言っている。
「うふふ、では」
「わっ」
白蓮は一度ぬえを離し、ぬえの顔が見えるようにぬえの体を反転して、その肩をがっちりと掴んだ。そしてぬえに顔を近づけていく。
「えっ、あっ、白蓮っ!?」
「うふふふ」
周りの者たちも何をするのかと顔を赤らめながら見守っている。そして、ぬえの動悸が極限まで高まったとき。白蓮は顔を離す。そして…。
「ふん♪」
「えっ?」
とても軽やかな、まるで鼻歌でも歌っているかのような掛け声とともに、白蓮の額がぬえの額へと勢いよく振り下ろされ、そして正確に、したたかにぬえの額を打った。つまるところの頭突きである。
ひ、聖ー!何やってるんですか!? えっ?ええっと、人里の慧音先生がいたずらっ子にはこれが一番効くって…。 効きすぎですよ! ぬえ、大丈夫!?って、ぬえー!?
命蓮寺のみんなのそんな声を頭の片隅で聞きながら、ぬえの意識は完全にブラックアウトした。
◇◆◇
なんだか、懐かしい感じがする。とても安心できて、なんかポカポカしてる。ずっと昔、自分にそんな時があったのかもわからないが、まるで、お母さんに抱かれているような……。
「んあ?」
「あら、起きた?ぬえ」
「…白蓮…?」
白蓮の強烈な頭突きを受け、ぬえの意識が飛んでから数刻がたっていた。その間ぬえは、白蓮の膝の上で寝ていたようだ。
「って、膝枕って!?」
「ああこら、急に動いちゃダメよ。頭を打ったんだから」
「うわぁっ!?」
白蓮に膝枕をされているのに気付いて、とっさにぬえは頭を上げようとするが、白蓮の手によってその行為は止められてしまった。
「うー…白蓮がやったんじゃん」
「そうよ、だからこうしてあなたの看病をしてあげてるのよ」
「てかここ、わたしの部屋じゃん」
「だれかさんのせいで、私の部屋はちくわ臭くなってしまいましたからね」
「うー…」
ぬえも反論しては見るが、ことごとく白蓮にうまく返されてしまった。
「あら、そんなに私の膝枕は嫌だったかしら?」
「嫌ってわけじゃ…ないけどさ」
「ならいいじゃない。ほら、もう少し安静にしてなさい」
ぬえの答えに白蓮は微笑んで、ぬえの頭を撫で始める。ぬえも口ではああ言ってても、まんざらではない様子だ。
「…わかったよ」
「ふふ、素直でよろしい」
まあこれぐらいならいいかな、気持ちいいし。
その後しばらく、ぬえは白蓮に頭を預けていた。
もう少しだけ、もう少しだけ、このままでいたいな。なんて、考えながら。
永遠亭でも同じことやってそうだ