ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
太陽が沈み始め夕焼けが幻想郷を赤より紅く染めていた。
沈みゆく夕日が水面に反射し、紅い悪魔の住む館、紅魔館を余計に紅くする。
人間も妖怪にも恐れられる圧倒的妖力を持つ少女がここの当主である。
彼女は吸血鬼であるため、日光を嫌う。(弱点とかでは無く、ただ大嫌いなだけなのだが
それ故に、太陽が出ている今の時間は真紅の薔薇が散りばめてあるベッドで寝ている。
吸血鬼と言うと棺桶で寝るイメージがあるが、
本人曰く『私、狭い所苦手なのよね。息が詰まってしまうのよ。それに棺桶は死人の入るものでしょう?』との事
棺桶自体は同じ寝室にあるが、だれにも触れられる事は無く、インテリアのように置かれているだけだった。
寝室の扉が静かに開く。咲夜がベッドの横に置いてあるウォーターピッチャーを回収しに来たようだ。
咲夜は紅魔館で唯一の人間だが、並の妖怪では歯が立たない程の能力を持っている。
他の妖精メイドの面倒見や料理、掃除、宴のスケジュールなどの業務もその能力を活かし全てを完璧にこなし、
紅魔館のメイド長として申し分ない活躍をしている。
忠誠心高くとても賢い、主人の事を敬意してるのはというのはもちろんなのだが、たまに間違った方向に忠誠心が向く事があるのが珠に傷。
メイド長がなんでわざわざ回収しに来たのかというと、妖精メイドだと粗相をするかもしれないから、というのは表向きの理由で寝顔を拝見したいと言うのが本音だったりする。
『今日の寝顔もまた、さぞお美しい事でしょうね……ふふ』なんて思いながら普段誰にも見せないような緩んだ顔つきで我が主人の寝顔を覗き込んだ。が、その緩んだ顔が次第に青ざめていった。
『……じょ……さま! ……嬢様! レミリアお嬢様! 』
咲夜が私の肩を揺すり心配そうに覗き込んできた。
眠い……時間にはまだ早すぎじゃないの?
眠りを妨げられた私は、また寝ようと思ったが、滅多な事でも咲夜自身が処理するのに咲夜が寝ている私を起こす程の事……
私は少々不満げに目を掻きながら気だるそうに問いかける事にした。
『……ん……こんな時間にどうしたの? まだ日も沈んでいないわよ?』
『左様でございますが、大変寝苦しそうだったので、それとお嬢様、目から……』
あぁ、館に何かあったわけじゃなくて私を心配したのね。
咲夜が私を起こす納得の理由だわ。私の事となると咲夜はいつもこうなってしまうから
『あら、悲しい夢でも見てたのかもしれないわね。なにか拭く物と着替えを用意して頂戴』
普段、吸血鬼は夢を見ないがごく稀に夢を見る時がある。
見る夢は人間だった頃の夢、愉快でも無く不愉快でも無いが、気に食わない夢
ベッドから重い体を起こし、欠伸をして咲夜にハンカチを要求する。
咲夜は普段通りの私を見て安心したのか、ほっと胸を撫で下ろし、エプロンの胸ポケットから白いハンカチ出した。
『どうぞ、これをお使いになってください』
『ありがとう咲夜』
『いえ、ご無事そうでなによりです……ふふ、それにしてもお嬢様が悲しい夢だなんて、お似合いになりませんわ』
『どういう事かしら? 私は吸血鬼になる前から可愛い女の子なのよ? 』
瞳から流した血の涙を拭きながら頬を膨らませる。その姿に改めて紅い幼き月、人外成る者と確認させられる。
血の涙は洋服までも紅く染めていた。これもまたスカーレットデビルの異名を持つ者らしい。
咲夜はその、人間では見る事の無い異様な光景に苦笑しながら、私の言葉に疑問を感じたのか質問をしてきた。
『ところで"吸血鬼になる前から”とは? 』
『ん? あぁそう、咲夜は知らなかったかしら? 私、元から吸血鬼って訳では無いのよ? 』
『そうなのですか? 存じませんでした。』
咲夜の目が輝く。私の事となるといつもこの目だ。
普段は完璧かつ瀟洒な彼女だが、私の事となるとなりふり構わずな所がある。
常日頃完璧を維持するのは辛い、と言うのは分からんでもない。特にプリンを前にした時とか
まぁ、そういう所もかっているのだが。
仕事の休憩がてら話を聞きたいのか、気付けば代えの服が用意され、自分の椅子さえも用意されている。
『随分と興味津々ね? 』
『我が主の事は全て知りたいものです。』
『そういうものかしら? 』
『そういうものです。差し支え無ければお話していただけませんか? 』
『面白くも無い話よ? 』
『是非。』
『……はぁ~……紅茶は? 』
紅茶の用意をしている間にまた寝てしまおう、そんな事考えながら紅くなったハンカチを咲夜に渡し、代えの洋服に着替える。
『こちらに。』
悪あがきであるのは分かっていたわ……、さっきまで用意されたなかった紅茶と三段トレイがそこには用意されていた。
こういう時は、完璧じゃなくてもいいのよ?
『元より拒否はさせるつもりは無いのね』
咲夜はニッコリと笑った。
そんな咲夜を見て、私はまた深いため息を吐きながら飽きれた様に笑う。
人間とは違い何百年も生き、これから何百年もいき続ける私が思い出話をするなんて面白みも何も無い。
とはいえ、自分の可愛い従者がこんなにも興味を示しているのに断るのは……まぁ時間潰しにでもなればいいか
『ホント、面白くも無い話よ……』
紅茶を手に取りベッドに腰を掛け、メイプルティーの甘い香りを楽しみながら、窓から空を見上げる。
日は沈み始め、金星が輝きだしていた
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『おねぇさまぁ! 一番星見つけたよ!あれなに星? 』
『あれは金星かしら?フランもこの前お母様に教えてもらったわよね? 』
『えへへ、そうだったね! 金星ってピカピカだね! 』
エルジャート家の庭でフランドールとレミリアは星を眺めていた。
色なき風がレミリアとフランドールの鼻先を赤くする。
エルジャートとは、レミリアとフランドールがスカーレットの姓を名乗る前の名前
エルジャート家の歴史は古くからあるのだが、当主ニコラ・エルジャートの意向で名誉より商人や農民との交流を大切にしていた。
その為、商人や農民からの支持はあったが、それを妬む貴族が居たのも確かである。
日も沈み始めたし、そろそろ夕飯の時間かしら、そう思うと、イリナが夕食の知らせに来た。
『はぁ~い! 二人とも御夕飯が出来たわよ~食事にしましょう~』
イリナ・エルジャート
フランドールとレミリアの母親で教育も彼女が直接行っている。
元々子を授かる事が出来なかったイリナが二人を養子として招き入れた。
二人もそれは知っているが、それを思わせないほどの愛情をイリナは注いでいた。
『御夕飯……この匂いはぁ~クリームシチューだぁ! 』
『そうよ~だから、早く冷めない内に準備なさい? 』
『はぁ~い! 』
手洗いを済ませリビングに向かうと丁度イリナが取り皿にシチューを分けている所だった。
バターの甘い香りに温かいシチューから出る湯気がまた食欲をそそる。
私もフランもクリームシチューにフランスパンをつけて食べるのが好きでよくそうやって食べるのだが、
あまり上品ではない、とお父様に注意される。それでもフランはその食べ方でガツガツとクリームシチューをたいらげる
私は姉だから上品でないと……こういう時、フランがうらやましいわ
『ふぅ…… おなかいっぱい! 』
『フラン? グリンピースがスプーンの下に残ってるけど、好きだから残してるのよね? 』
スプーンをどけると、そこにはグリーンピースがたんまりと残っていた。
フランドール曰く“緑の悪魔”らしい
『もうね? おなかいっぱいなの……あ! おねぇさまもにんじん残してるよ! 』
『おねぇちゃんは好きだから残してるのよね? 』
残すつもりは無いのだが、気がつけば残っている。
レミリア曰く“赤い悪魔”らしい
『う~ (あぁ~フランなんで私まで道連れに…… 』
『ね? おねぇちゃん? 』
姉としての立場が余計にレミリアの分を悪くする。食べるしかないのね……
『え? あ? う、うん! うぅ~~~……』あむっ!
レミリアの口の中に広がるにんじん特有の甘み
農民の作る野菜はとても良く出来ていて、その甘みは他のにんじんとは比べ物にならない程濃厚
だが、レミリアは知っている、この、こいつを食べればクランベリーたっぷりのタルトが待っていることを!
『ほら! おねぇちゃんはちゃんと食べたからデザートだねぇ~』ちらり
『え? デザート!? あのタルトなの!? 』
『あのタルトよ~』
『うぅ~あぁ~うぅ~……』あむっ!
フランドールは食べた! ついに食べた! あの憎き緑の悪魔を!
涙目になりながらフランドールは食べたのだ!
そして自らの手で勝ち取った! クランベリーたっぷりのタルトの為に!!!
『はぁ~い! 二人ともよく出来ました! 』
『ほら二人ともお待ちかねのデザートだよ~ってこら! フラン落ち着きなさい! 』
『お父様早く早く! フランの一番おっきいのがいい! 』
『さっき、おなかいっぱい! とか言ってたのにねぇ~』
『おねぇさまのいじわる~』
『うふふ』
『ささ、デザートの前に食後のお祈りをしなきゃだろう? 』
『『はーい!』』
使用人も居ないし、他の貴族に比べればお金も少ないが、暖かく幸せな日々を送っている
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
咲夜は空気の換気に、と窓を開けた。
白いレースのカーテンが涼風で大きくなびく
『家庭的にはこんな感じかしらね? 』
『とても仲睦まじい家庭だったのですね。』
レミリアは紅茶を飲み干し、ティーカップを咲夜に渡しお代わりの催促をした。
紅茶を注ぎながら咲夜は微笑んだ。
外はすっかり暗くなり、夜の秋に望の月が浮かんでいた。
『パチュリー様とはまだお知り合いではなかったのですか? 』
『パチェ? パチェは元々エルジャート家の使用人だったの、でも、彼女魔法使いじゃない? 』
『えぇ左様で御座いますが。』
『当時はね、魔女狩りが行われてて警邏隊が巡回に来るから匿う為に、屋敷の裏の地下で本を読んでたのよ』
『昔から紫もや……本が好きだったのですね。』
『? ええ、だから今では、一流の魔法使いでしょう? 』
『仰るとおりです。それでお嬢様が吸血鬼になられたのは? 』
咲夜が先を知りたくてウズウズしている事が手に取るように分かる。
ここは完璧になれないのね、咲夜……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
カポーン……
『お風呂はいいねぇ~ 人類の生み出した文化の極みだよ』
『そうですわねぇ~』
『体の芯まで温まるねぇ』
『体が温まると心まで温まってきそうだねぇ~ さて、背中流し合いをしようか! 』
3人並んで背中の流し合い
私は改めて、お父様の背中の大きさを知る。
きっと農民や商人はこの背中に見て思うのでしょうね。力強く逞しい、私とフランのお父様の背中に付いて行こうと
『なにか背中についているかい? 』
『え? いや、お父様は、この背中にみんなの希望を背負っているのかなって思いまして』
『はは、そんな大それた物じゃないさ、所で、レミリアは将来何になりたいんだ?』
『何になりたいという訳では無いのですが、お父様の様に農民や商人に慕われ、信頼される存在というか』
レミリアは普段から父ニコラを見ていた。
他の貴族から憎まれ口を叩かれようとも、決して下々の者を見捨てないそんな父を尊敬していた。
時には下々の者を呼んではパーティーを開いていた、そこには笑顔があふれていて、レミリアはその空間が大好きだったのだ。
『レミリアならきっとなれるさ、でもまぁ、その為には、わがままを減らさないとな! 』
頭をクシャクシャと撫でられる。どことなく恥ずかしいが、とても暖かく大きな手だった。
『フランはねークランベリータルトになる! おいしいのー』
『ははは! そうかそうか! じゃぁいっぱい太陽の光を浴びておいしくならないとなぁ! 』
『うん! じゃぁ明日はおとぉさまも一緒に遊ぼ! おねぇさま追いかけっこ遅いしパチェはお外出れないし・・・』
パチュリーは生まれながらの喘息で、その喘息を治す為に、魔法を研究し続けている。
でも、なぜか他の魔法の方がうまくいっている。
最近では、召喚魔法を覚えたらしい。ドジな魔物が召喚されたらしく、帰り方がわからないとの事で、パチュリーと一緒に地下にいる。
喘息で外に出れないのとは別に、魔女狩りが執り行われてる期間に外に出る事は自殺行為となんら変わらない為であったからだ。
『すまないフラン、明日は外せない会合があるんだ。だから、クリスティと追いかけっこしてくれないか? 』
クリスティとはエルジャート家のペットの犬
毛並みがとても美しく、毛の色は白銀のように白い、まるで白い狼のようにも見える。
忠誠心高くとても賢い、レミリアに懐いているが、なぜかたまに、レミリアのドロワーズを被っている事がある。
『クリスティ逃げるの早いし、気づいたらおねぇさまも居ないし、誰も居なくなってるからなぁ~』
『お父様はクリスティより早いぞ? クリスティ捕まえれるくらいならないとなぁ~』
『う~んわかった! じゃぁクリスティ捕まえれるようになったらおとぉさまと追いかけっこする! 』
『あぁ約束だ、それじゃぁそろそろ上がろうか』
月は十五夜、空気は澄んで、通る風は、静かに火照る体を冷やしていく
辺りのライ麦畑が風になびかれ、静かな音を鳴らしている
風呂をあがり寝室へとフランと一緒に廊下を歩く
足元がおぼつかないし、すこしフラフラするわ
『長湯しすぎたかしら、頭がぽーっとするわ』
軽く頭を抱えながら気だるそうに寝室まで向かう。
いつもは白い肌が鬼灯のように赤く染まっていた
日中はフランと遊んでいたというのもあって、体力もあまり残っていなかったのだろう
寝室に着くとフランは無邪気にベッドの上で飛び跳ねてみせる
『ふかふかベッドだよおねぇちゃん』
『えぇ、そうね』
この子の体力はいつになったら尽きるのかしら、そんな事を考えながら私はベッドの中に入る
ほてった体が、冷たいシーツで少し冷やされる
パチェ今頃なにしてるかな……、そんな事を考えながら静かに夢の世界へ
薄紅は 純白に冷やされ 想う友を夢にみて
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『……ね……さま! ……ねぇさま……!!! 』
『……っ! ……ん……こんな時間にどうしたの? まだ太陽も出てないわよ? 』
まだ外は暗く、星さえも出ている時間にレミリアは起こされた。
一体なんの騒ぎなの? それともお漏らしでもしたのかしら
『ほらあれ! 北斗七星だよね! 覚えてたよ! でもあのひときわ輝く星はなんだろうね? 』
『なにかしら、この前は出てなかったわよね? 』
前にお母様の教えてもらった時は、確か、7つの星が輝いていたのが8つになっている。
まぁこんな事もあるんだろうな、にしても8なんて縁起の悪い数ね、なにか変な事でも起きなければいいけど
『それにしても寒いわね、フラン、暖炉に行かない? 』
『うん、ココア飲みたいね! 』
『私は、紅茶がいいわ』
他愛もない会話をしながら暖炉のあるリビングへ向かう
外は赤く朝焼けで包まれ、冷たい乾いた空気が手足を凍て付かせる
リビングに着くとイリナが朝食の準備をしていた
『朝ご飯……この匂いは……ベーコンだぁ!』
『そうよ~ 朝ご飯はライ麦パンとベーコンとホウレン草のソテーよ、それにしても今朝は随分と早起きね』
イリナな不思議そうな顔をしたが、先に目覚めたフランにレミリアが起こされたのだろうと察しがついた。
そんな二人をみて、手際よくココアと紅茶を作る。流石母親といったところだろうか、
『まだ寒いから風邪引かないように気をつけてね? はいココアと紅茶』
『ありがとうおかぁさま! おいしいねー』
『ありがとうございますお母様。温かくて美味しいです』
暖炉の火を見つめながら暖をとる。
パチパチと音を鳴らし燃え、ゆらゆらと揺れる炎はどこか心が安らぐ。
力強くたくましいが、水をかけてしまえば、それで終えてしまう儚きもの
『おねぇさま最近紅茶ばかりだね、前はココアだったのに~』
『立派な淑女になる為には、紅茶ぐらい嗜んでおかなきゃならないのよ? 』
最近、私は、お父様の影響で紅茶が好きになった。
手元にある紅茶をソムリエの様に吟味する。
前に飲んだ事あるような、ないような……そうだこれは!
『うん・・・目覚めの紅茶はジャスミンブレンドですわね、お母様』
『これはメイプルよ? ジャスミンの方がよかったかしら? 』
『……おねぇさま……ぷぷぷっ』
『え! あ! ……うーー』
紅茶でも暖炉でもなく、なにか、他のもので体が一気に熱くなった。
もっといろんな味を知らなくてはいけないのね、恥をかいてしまったわ
『私はブルーベリーティーですわ。やはり、本ばかり読むと目が疲れてしまいます』
『パチェ! 』
『おはようございますイリナ様、朝食の準備が終わりました』
『ありがとうパチュリー。あなたも暖炉で暖まりなさい』
『はい、それでは』
最近になってエルジャート家の警邏巡回が緩くなってきて、
早朝なら館内に出れる様になったと言う
因みに、召喚した魔物は、流石に魔物は外に出すな、と主人ニコラ言われてる為、地下で本の整理をしている。
『おはようございます。お嬢様と妹様。こんな早い時間からどうしたのですか? 』
『まぁちょっとフランにね。って、パチェ~そんな硬ッ苦しい言葉遣いしないでくれるかしら? 私たち友達でしょ? 』
普段大人達としか顔を合わさないレミリアにとって、パチュリーは唯一年が近く、気軽に喋れる存在だった。
だから、常にラフな状態を保っていたかったのだ
『そうだよぅパチェ、私たちお友達でしょう? 』
『……しかし……イリナ様……』
『ふぅん……使用人は当主の娘の言う事を聞かないのかしら?』
すこしパチュリーは俯き考え、久しぶりに会う友人を見つめる。
『……レミィ……会いたかったわ』
『私もよ、パチェ、一緒に暖まりましょう』
『パチュリー! またお星様の物語聞かせてよー』
パチュリーが地下に入ってからまだ3ヶ月しか経っていないが、
その3ヶ月はこの子達にとっては、とても長い3ヶ月だったのかもしない。
『えぇ、妹様、今度、お時間がある時にでも』
『巡回が緩くなったとは言えあまり外に出られないのは変わりないのね』
フランはあからさまに残念そうな顔をするが、
レミリアは久々に友人に会えた喜びの方が大きかったのか、至って冷静だった。
また明日も早起きすれば会えるのかも、という期待が膨らんでいた。
メイプルティーは冷えてしまったが、他に大切な物が温まった
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ニコラは普段着用しない貴族の衣装を身に纏い
『さて、それでは会合に行って来るよ』
『行ってらっしゃいあたな。気をつけてね』
『いってらっしゃぁ~い』
『いってらっしゃいませお父様。お気をつけて』
ニコラは貴族の集まる会合にいった
会合と言ってもただのお茶会で交流会、社交の場である。
この会合をするならば、農民や商人を呼んで日頃の仕事振りを労った方がいいのでは
、とお父様は仰ってたわね。
さて、お父様を見送った事だし紅茶でも飲んで一息付こうかしら
玄関に背を向けリビングに戻ろうとした時、走ってくるフランとぶつかりそうになる。
『あわわ!ごめんなさいおねぇさま!フランはクリスティと遊んでくるね! 』
そういってフランは庭へ駆けていった。
また洋服をドロドロにして帰ってくるのかしら?
女の子なのだからもう少し上品にしても罰は当たらないと思うのだけれど、
まぁ、あの元気があの子の良い所でもあるのだけれどもね。
玄関前で、お母様がなにか言いたげに、こちらを見ている。
『どうかされましたか?お母様?』
『おねぇちゃんはなにか予定はあるのかしら? 』
イリナは手を合わせながら問いかけた
お母様はなにか頼み事をしたい時は、手を合わせるのが癖なのよね
まぁ……お買い物でしょう
『予定という予定はありませんよ? 』
『そう? ちょっと街に買い物を頼まれてくれないかしら? 』
予想通り、私の予想は良く当たる、ちょっとした自慢でもある
今日は習い事もお勉強もないし、街にいくのもいいかもしれない
『もちろんです、お母様』
そう答えるとイリナは笑顔になり、レミリアに買い物メモを手渡した。
端から拒否させるつもりは、無かったようね。
……今夜は食卓には紅い悪魔は出ないようね
『それでは、早速行って来ますわ』
『はぁ~い、気をつけてね。寄り道も良いけど、暗くなる前に帰ってくるのよ』
レミリアが身支度を済ませると駆け音が聞こえてきた。
この駆け音は……というよりこの屋敷で走る人間は一人しかいないわね。
『フランもいくぅ! 』
その一声と同時に部屋の扉が勢いよく開く。
まだ一時間も経ってないのに、洋服を見て溜息が出た
元気なのは良い事だけど、元気すぎるのも考え物ね
『お母様の許可は取ったの? 』
『うん! 大丈夫! いいって! 』
流石に、この泥ん子と一緒に歩くのは気が引ける
そう思いタンスから自分の服をだした
『はい、この服を着て頂戴ね』
『おねぇさまのお洋服だぁ』
こうしてフランをつれて街へ出る事となった
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『すごい! 人がたくさんいるね! 』
『本当にすごい人込みね、 はぐれないように手を繋いでましょう』
そういって二人はぎゅっと手を繋いだ
はぐれたら見つけるのに半日は掛かかりそうね
それにフランはあまり市場に来た事が無かったから、
いろんな所にすぐに行ってしまいそうだし
この国で最大級の大きさを誇るナナキヨ市場
食品はもちろん、煙草やナイフ、その他趣向品まで幅広く売買されている
この市場の一番変わっている所が、農民から貴族までさまざまな階級の人間が出入りしている事
『えぇっとハムとバジルとにんにくと……今夜はペペロンチーノかしらね? 』
『え? ペロペロチンチーノ? 』
『ペペロンチーノよ、前食べた時フランも気に入ってたパスタ』
『にんにくがきいてておいしかったやつだ! おいしいねー! 』
『あとは……グリーンピース』
『え!? 』
『うふふ、冗談よ』
露店からミティテイのグリルの香りが食欲をそそる
お母様から余分にお金を貰ってるから少し頂こうかしら
そんな事を思っていると
『おねぇさま! あのミスティのグリル食べたい! 』
『ミティテイよ、私も小腹が空いたわ、あそこのベンチで食べようかしら』
そうと決まるとフランはレミリアを引きずるように露店へ走った
『おじちゃん! ミスティのグリス二つください! 』
『ミティテイだね! あいよ! ってニコラ旦那の娘さん達じゃないか! ほらクラティーテも持っていきな! 』
『ロリァクさん、ありがとうございます』
『お嬢ちゃんのお父さんにはいつも良くして貰ってるからね安いもんさ! 』
『わぁい! ありがとうおじちゃん! 』
満面の笑みでフランとレミリアは会釈した
活気ある街を眺めながらミティテイを頬張る
『なかなか紳士的なおじさんだったね! 』
『そうね、フラン飲み物は? 』
『えっとねぇ 林檎のジュースがいいなぁ』
『ここで待っててくれるかしら? すぐ戻るわ』
フランはミティテイを頬張りながらうなずいた
『確かこっちだったわね』
『そこのお嬢さんお待ちなさいな』
振り向くと老婆こちらを手招きしていた
身なりからすると占い師のようね
『雲無く 瞬く星は 儚き灯火 家路を照らすは 望の月
流れる光は 闇に消え 落ちる雫は 紅となる……』
いきなりなにかしら……なんだか気味が悪いわね
人を呼びつけといて意味のわからない言葉を
『そう怖じけなさんな……』
『怖じけてなんていないわ、それより何か用かしら? 』
『その青い目は生まれつきなのかい? 』
『そ……そうよ! なにか文句でもあるの!?』
とある地域では青い目は悪魔の子とされ忌み嫌われ不吉なもの、災厄をもたらすものといわれていた。
レミリアとフランの実の親がその地域出身で我が子を哀れみながらも二人を教会へ捨てたのだ。
それをニコラとイリナが二人を養子に迎えたいと神父に伝えレミリアとフランはエルジャートの姓をもらったのだった。
『ンフフ……その目には嫌な思い出でもあるようだねぇ……お嬢さん……これを持っていくといい……』
そう言うと真紅のネックレスを差し出してきた
禍々しくも見る者を魅了させる、そんな輝きを放っていた
『お嬢さんは光と闇の選択を迫られる時が来る 』
『どういうことかしら?』
『時機にわかるよ』
そう言いネックレスを持たせると街の人込みの中へ消えていった
レミリアは呆気にとられていたが、林檎ジュースの事を思いだしすぐさまフランドールの元へ戻った
ネックレスの事は内緒にしておこう、なぜか人に言ってはいけない気がした
『おねぇさま遅いよー クティラーテも食べちゃったわ! 』
『ごめんなさいフラン、ちょっと道に迷っちゃって』
林檎ジュースをちらつかせながらすまなそうに答えれば……
『じゃぁしかたないね!』
『許してくれるのねありがとうフラン、はい林檎ジュース……ってフラン洋服にソースがたれちゃってるじゃない!』
『う?あ、ホントだ!えへへ~』
えへへ~ってその洋服私のなのに……う~んまぁ戻るのが遅かった私にも非があるし……
『林檎ジュースおいしいね!』
『そうねぇ……』
街並みが橙色に染まり、皆が家路をたどり始める始める頃
『そろそろ帰ろうかしらね、暗くなるとお母様が心配なさるわ』
『もっといろいろ見たいなぁ~ ほら! あれとか! 』
『ちょっと! フラン! 』
『イタッ! 何すんだこのガキ! 』
『ごめんなさい! お怪我ありませんか? モロコウシュ……様……』
モロコウシュ・カェルゥビ
位の低い人間は蹴散らしてでも階級をあげるというエルジャート家の意向とは正反対の貴族
なにかとエルジャート家にいちゃもんをつけ、いびっている、噂ではエルジャート家転覆をも目論んでいるとも
会合に出ていないのも不自然だが引き連れている人間が農民というのも不自然だった
『おお! これはこれはエルジャート家の娘様達ではありませんか! 』
『はい……いつもお世話になっております』
『いやいやいや! 我々カェルゥビ家もエルジャート家に見習って農民との交流を持ちにこの市場へまいったのですよ』
『左様でございますか、ではそろそろ日も暮れるので私達はこれで』
レミリアは会釈をしてフランを引っ張りその場を離れた
フランドールは状況が把握出来ないままレミリアに引き連れられ家路をたどった
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『ただいま帰りましたわ、お母様』
『ただいまー! おかぁさま!』
『お帰りなさい、ちょっと帰りが遅いかったんじゃない?』
『ごめんなさいお母様、以後気をつけますわ』
『あのねーモロコウシュさまとお話してたの!』
あぁ、あえて言わなかったのにどうして言っちゃうのかしら……釘を刺しとかなかった私が甘かったわね
フランにはまだどういう関係とかもわからないだろうし
『あら、ちゃんとご挨拶できた? 』
『はい、大丈夫です、それとお買い物したものは台所』
『ありがとう、市場は楽しかった? 』
『たのしかったー!ロリァクさんがクティラーテくれたの!』
『ありがとうって言えた?』
『うん!』
イリナはフランの頭を撫でて二人に部屋着を着るように伝え夕飯の準備に台所へ向かった
ソースがついた洋服も早く洗ってあげたいし……
『フラン着替えに行きましょう』
『はぁ~い』
そうそうと着替えを済ませリビングに戻った
『おねぇ~さまぁ~』
『なに?そんな足をじたばたさせて』
『ご飯できるまでなにかしよーよー』
『そうねぇ~何でもかまわないわよ? 』
『じゃぁねぇ~……ポーカーしよう! 』
フランはリビングの隅にあるおもちゃ箱からごそごそとトランプを取り出してきた
いつポーカーなんて覚えたのかしら?
暇なのは確か……妹の挑戦状受けてたとうじゃない!
『さぁおねぇさまどうするの?コール?レイズ?それともドロップ?うふふ』
ど、どういう事なの……フランの表情が全く読めない……
それどころか私が翻弄されている……否、自ら深読みしすぎて裏目裏目に出ているだけ……?
そんなことはとりあえずどうでもいい、今はフランの手を考えて見ましょう
フランが交換したのは2枚だけ、単純に考えられる役はフラッシュ、ストレート、フォーカード、ツーペアを狙う手
だが、今までのフランの捨て方からしてフラッシュやストレートを狙うときは大体1枚交換の時だけ、
そのほかの時は無難にツーペアを狙いにいっている
状況からしてスリーカードを残してフォーカードを狙いにいくという考えが妥当
今二人でやっているポーカーはレイズを2回までできる仕様にしている。フランがレイズ、私がコール次にフランはまたレイズをした。
自分の手に相当自信があるようだが……フォーカードが完成しているというの?
それに対し私の手はフルハウス、普通に考えれば勝負にいける手
それにフランのあの煽り……実は手は出来て無いと見せかけてスリーカードが出来ているという引っ掛けにみせかけて手は出来て無い!
最初からブラフをかます気で来た勝負!
フランはノーテン!私はフルハウス!
いける!絶対勝てる!100%勝てる!私なら勝てる!私この勝負に勝ったらおいしいぺペロンチーノ食べるの
『コールよ!さぁオープンしましょう!私は……フルハウスよ!』
『流石おねぇさま、フルハウスを出来ていながら長考したのね……流石おねぇさまだわ……』
そういうとフランは自分の手札をオープンした
『なん……です……って……』
『うふふ、女王さまが一人、二人、三人、四人……フォー・オブ・ア・カインドよ、おねぇさま』
『ふぅ……これで私のクッキーがすべてフランの物となるのね……』
『えへへ~ごめんねぇおねぇさま』
『なんだぁ~? またおねぇちゃんが負けたのかぁ~? 』
『あぁ~おとうさまおかえりなさぁ~い! 』
『お父様!? お帰りなさい』
『あぁただいま、しかしお母様が作ったクッキーで賭け事とはいただけないなぁ~そのクッキーは二人の為に作ったのだから仲良くたべなさい? いいね? フラン? 』
『うん! おねぇさまも一緒に食べよう! 』
『ありがとうフラン、それじゃいただきぃ~』
『っとその前にそのクッキーはご飯の後にしなさい、それを食べてご飯を残したらお母様がこわぁいこわぁい……』
『あなた……おかえりなさい、いつお帰りになったの? 』
いつの間にかニコラの後ろで不敵な笑みを浮かべ夕飯を運んできたイリナがいた
『あ、あぁ! ついさっきだにょ! お! 今日はペペロンチーノか!いいねぇ~イリナの作った料理はいつ食べても』
『そう、ありがとう、お父様も部屋着に着替えたらいかが? その服では疲れてしまわない? 』
『うむ、そうだな、すぐに着替えてくるよ』
お父様よりお母様の方が強いのかしら? でも、力はお父様の方があるし……
う~んオトナになるとわかるのかしらね
さて、お夕飯も出来たようだし……
『フラン、ご飯の準備のお手伝いしましょう』
『うん!』
『良い子ね、お母様、なにかお手伝い出来る事ありませんか?』
『そうね、フォークとスプーン、それと小皿をお願いするわ』
まだ台所に立って調理する事は出来ないけれど、こういう事ぐらいはお手伝いしないと良い淑女になれない気がするわ
ん?クリスティが外で吠えてるわね、どうかしたのかしら?……ってえぇっと、確かフォークはこの辺に……
バン!
ん?花火?いえ、こんな時期に花火なんて……クリスティの鳴き声が止まった?え?
『お父様? なんか外……』
『あぁなんか悪戯だろう、注意してくるよ』
『ダメ!お父様いかないで!』
『ははっ大丈夫だよレミリアちょっと注意してくるだけだからね』
ニコラはそういうとレミリアの頭をクシャっと撫でて外へ出た
ダメ、お父様、なんなのこの胸騒ぎ、今まで感じた事の無い悪寒、震えが止まらない
『フランちょっとこっちへ来て』
『ご飯の準備はぁ~?』
『いいから!とても……とても嫌な予感が……』
次の瞬間勢いよく扉が開いた
『みんな逃げるんだ!賊だ!』
『チッ! さっさとくたばれ!』
賊はそういうとサーベルでニコラの背中を斬りつけた。
力なく崩れるお父様を目の当たりにして私とフランは物陰から動くことが出来なかった
あの賊……今日モロコウシュが連れていた農民!?
『あ!あなた!』
『おい!あの女もだ!やっちまえ!』
『へへっわりぃな奥さん、あんたらにゃぁ恨みは無いがエルジャート家を始末したら地位を上げてもらうっつぅモロコウシュ様とのうまい話なんだわ』
『無駄口叩いてねぇでさっさとしろ』
『おおこわいこわい!つぅことでバイバイ奥さん』
サーベルがイリナの体を深く突き刺した
おびただしい量の血が地面を紅く染めていく
『フラ……レミリ……逃げて……』
『ったくエルジャート家っつーのはしぶてぇなぁ首ぃ飛ばすぜ』
スパンッ
ゴトッと音を立て落ちる
次に体は糸が切れてしまったマリオネットのように崩れた
『いや……やだ……おかぁさまおとうさま……ヤダ……ヤダァ……』
『フ、フランお、おち、落ち着いてう、動いちゃダ、ダメ』
もう何がなんだか
ど、どういう事?殺される?いや、殺された?お父様?お母様?え?
ダメ!フランだけでも逃がさないと!今は何も考えないで逃げることだけを!
『やだ……ヤダ、イヤ!いやぁぁああああぁあああ!!』
『ダッダメ!今出ちゃ!!』
フランは裏口へ走っていった
賊はその叫び声を聞き逃すことなく即座に振り返り銃を構えた
バン!
銃弾は肩を貫通しフランの体は走った惰性で壁に衝突した
『あああああ!!ああああ!!いやあああああ!!』
『お嬢ちゃん?ちゃんと前見ないとダメだって昼間学習しなかったのかい?』
『やめて!!フランに触らないで!!』
『おおぉ、良い姉妹愛だねぇ~でもおねぇちゃんはフランちゃんをたっぷり犯した後に犯してあげるからすっこんでてねっと!』
拳がレミリアのうち抜き宙に体が浮いた後地面に叩きつけられた
薄れいく意識の中フランの服が引き千切られるのが見えた
あぁ、神様、私達はなぜ幸せになれないのでしょう
親に捨てられ拾われその育ての親も殺され今私達も殺される
幸せでなくてもただ平穏に暮らしたいだけなのに
神よ、私は貴方を呪うでしょう
信じるものは救われるというのはただの妄言さ
ダレ?ワタシの中にいるの?
そうか、貴様は資質を持っているようだ
さぁ選ぶといい
人として今一生を終えるか
悪魔とし闇に生きるか
生きたくば首から流れる血をすするがいい
レミリアの紅いネックレスからとめどなく血が流れ洋服を赤く紅く染めていた
あの悪魔の目と言われた目も紅く、その瞳からは血の涙が流れていた
『へへへ、おねぇさまには眠ってもらったからゆっくりたのしみましょーねー』
『なにがゆっくりだ、さっさと済ませろよ、俺は金目のもんでも探ってくる』
『チッ、はいはい、それじゃお楽しみターイム!』
私のフランに触れるな
『あ? ったくもぉホントにしぶてぇや―――!!』
賊の体は壁に強く叩きつけられた
『フラン、ごめんさい、こうするしか助けれる方法がわからないの……』
『お、おねぇさま……じ、じゃぁ、し、しかたないねぇ……』
ごめんなさい、フラン……
レミリアはフランドールの首筋に噛み付き同族にする為に吸血をした
すこしの間眠っていて頂戴ね……
『おい!一体なんの音だ!なにのびてんだよ!どうした!?』
『意味わかんねぇぞ……こんなん聞いてねぇ……』
あぁ……実の子と同じように愛してくれたお母様も
お父様の暖かく大きかった手も冷たく
力強く逞しかった背中も無残に斬り付けられてしまった……
お父様、私はみんなに慕われる存在にはなれなくなってしまいました
『くっ!なんなんだってんだ!ファック!くたばれ!』
持っている銃を乱射するがすべて当たらない当てることが出来ない
……醜い下衆が
四肢が血しぶきをあげ吹き飛ぶ
一瞬に部屋一面を紅く染めた
『ぐぁあああやめろおぉおおおおお!!』
『な!なんなんだよこいつら!意味わかんねぇ!意味わかんねぇぞ!!』
もう一人の賊が外へ向かって足を引きずりながらも逃げようとするが背中になにか重いものがぶつかり前のめりに倒れる
『つっ!なんだよ……ってうわぁああ!!』
手も足もない人だったものが覆いかぶさっていた
貴様ら下衆に相応しい殺し方を思いついた
次の瞬間に賊を宙に放り投げた
スピア・ザ・グングニル……
レミリアが放った神の槍は賊を串刺しにした
レミリアはフランを抱きかかえ屋敷裏の地下へ降りて行った
『えぇ~っと確かこの本はここらへんにしまって……』
『その本はもっと奥の方よ』
『あ!そうでしたっけぇ~えへへ~』
パチュリーの使い魔がランタンを片手に本の整理をしているところだった
『パチェ?……いるかしら?』
『こぁ!パ、パチュリー様!どなた知りませんがこちらへ参られましたよ!!』
パチュリーは呼んでた本を投げ捨て、駆けて使い魔の元へ向かった
『お!お嬢様!それに妹様まで!どうなさったのですか!?それにそのお姿』
『パチェ……フランが……』
『はい!すぐに治癒魔法を妹様もうそうですがお嬢様も』
『私はいいから……フランをお願い……私は少し休むわ』
『これはどう見ても吸血鬼……よね……青い目をしていたからまさかとは思っていたのだけれど……小悪魔、お嬢様をベッドへお連れしてあげて』
『こぁ!は!はい!パチュリー様!』
『(お嬢様は精神も肉体もすぐ回復するでしょう……問題は妹様の方ね……肉体の損傷も激しいがなにより心の損傷が……』
紅き満月が禍々しく地上を照らしていた
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それから数日間モロコウシュの命により何百人もの人間がエルジャート家へ行くが戻ってこれたのはたった一人の記者だけだった
その記者によると
門前に無数の串刺しになった人間が並べられ
館はその人間の血しぶきにより紅く染められていた
館には少女が一人だけ存在し血を全身に浴び漆黒の翼を身にまとい
例えるならば悪魔、そう“紅い悪魔”だった―――という
しばらくするとモロコウシュはなぞの死を遂げ
エルジャート家館は紅い悪魔の住む館“紅魔館”と呼ばれ誰も近寄ることは無くなり
いつしか人々はその事件を忘れようとした
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『とまぁこんな感じかしらねぇ、つまらない話でしょう?』
『いえ、お嬢様にそんな過去があったのですか』
『もう500年も前の話よ、そんな悲しい顔をしないで?咲夜』
ふふ、可愛い顔をしちゃってこんな事知らなくてもいい事なのに聞いちゃうから
ほくそ笑みながら咲夜の頬を軽く撫でた
『お嬢様……あ、その後お父様とお母様に吸血はされなかったのですか?』
『まぁあの方達は根っからのキリシタンだったからね、信仰心のある人を同族には出来なかったわ』
『そうだったのですか……』
『さぁ、もう十分休憩したのではないかしら?お掃除の続きはいいの?』
『あ!申し訳ございません!続きをやってきます!』
『もう……咲夜はまだまだね、幻想卿を紅い霧で覆う儀式ももうすぐ大詰めよ?』
バタンと大きな音を立て寝室の扉が開いた
そこには紅魔館の門番を勤める紅美鈴が息を切らし呼吸を整える間も無く口を開いた
『すみませんお嬢様!あ、咲夜さんも!何か紅白の人間が単身で紅魔館へ攻撃をしかけてきました!』
『ふ~ん、その紅白に貴方は負けてしまったの?』
『申し訳ありません、私では歯が立ちませんでした……今現在パチュリー様が食い止めていらっしゃるのですが咲夜さんも応援に行ってください!』
『あぁ~もう!お掃除が終わらないじゃない!』
『咲夜がんばってねぇ~』
『はい、それでは行ってまいります』
ふふ、人間が一人で来るなんて何年、何百年ぶりかしら?
月もこんなに紅く大きく禍々しい輝きを放ち湖からの吹く風は夏の暑さをもまた一興と思わせる
さぁ、楽しい夜になりそうね―――
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
太陽が沈み始め夕焼けが幻想郷を赤より紅く染めていた。
沈みゆく夕日が水面に反射し、紅い悪魔の住む館、紅魔館を余計に紅くする。
人間も妖怪にも恐れられる圧倒的妖力を持つ少女がここの当主である。
彼女は吸血鬼であるため、日光を嫌う。(弱点とかでは無く、ただ大嫌いなだけなのだが
それ故に、太陽が出ている今の時間は真紅の薔薇が散りばめてあるベッドで寝ている。
吸血鬼と言うと棺桶で寝るイメージがあるが、
本人曰く『私、狭い所苦手なのよね。息が詰まってしまうのよ。それに棺桶は死人の入るものでしょう?』との事
棺桶自体は同じ寝室にあるが、だれにも触れられる事は無く、インテリアのように置かれているだけだった。
寝室の扉が静かに開く。咲夜がベッドの横に置いてあるウォーターピッチャーを回収しに来たようだ。
咲夜は紅魔館で唯一の人間だが、並の妖怪では歯が立たない程の能力を持っている。
他の妖精メイドの面倒見や料理、掃除、宴のスケジュールなどの業務もその能力を活かし全てを完璧にこなし、
紅魔館のメイド長として申し分ない活躍をしている。
忠誠心高くとても賢い、主人の事を敬意してるのはというのはもちろんなのだが、たまに間違った方向に忠誠心が向く事があるのが珠に傷。
メイド長がなんでわざわざ回収しに来たのかというと、妖精メイドだと粗相をするかもしれないから、というのは表向きの理由で寝顔を拝見したいと言うのが本音だったりする。
『今日の寝顔もまた、さぞお美しい事でしょうね……ふふ』なんて思いながら普段誰にも見せないような緩んだ顔つきで我が主人の寝顔を覗き込んだ。が、その緩んだ顔が次第に青ざめていった。
『……じょ……さま! ……嬢様! レミリアお嬢様! 』
咲夜が私の肩を揺すり心配そうに覗き込んできた。
眠い……時間にはまだ早すぎじゃないの?
眠りを妨げられた私は、また寝ようと思ったが、滅多な事でも咲夜自身が処理するのに咲夜が寝ている私を起こす程の事……
私は少々不満げに目を掻きながら気だるそうに問いかける事にした。
『……ん……こんな時間にどうしたの? まだ日も沈んでいないわよ?』
『左様でございますが、大変寝苦しそうだったので、それとお嬢様、目から……』
あぁ、館に何かあったわけじゃなくて私を心配したのね。
咲夜が私を起こす納得の理由だわ。私の事となると咲夜はいつもこうなってしまうから
『あら、悲しい夢でも見てたのかもしれないわね。なにか拭く物と着替えを用意して頂戴』
普段、吸血鬼は夢を見ないがごく稀に夢を見る時がある。
見る夢は人間だった頃の夢、愉快でも無く不愉快でも無いが、気に食わない夢
ベッドから重い体を起こし、欠伸をして咲夜にハンカチを要求する。
咲夜は普段通りの私を見て安心したのか、ほっと胸を撫で下ろし、エプロンの胸ポケットから白いハンカチ出した。
『どうぞ、これをお使いになってください』
『ありがとう咲夜』
『いえ、ご無事そうでなによりです……ふふ、それにしてもお嬢様が悲しい夢だなんて、お似合いになりませんわ』
『どういう事かしら? 私は吸血鬼になる前から可愛い女の子なのよ? 』
瞳から流した血の涙を拭きながら頬を膨らませる。その姿に改めて紅い幼き月、人外成る者と確認させられる。
血の涙は洋服までも紅く染めていた。これもまたスカーレットデビルの異名を持つ者らしい。
咲夜はその、人間では見る事の無い異様な光景に苦笑しながら、私の言葉に疑問を感じたのか質問をしてきた。
『ところで"吸血鬼になる前から”とは? 』
『ん? あぁそう、咲夜は知らなかったかしら? 私、元から吸血鬼って訳では無いのよ? 』
『そうなのですか? 存じませんでした。』
咲夜の目が輝く。私の事となるといつもこの目だ。
普段は完璧かつ瀟洒な彼女だが、私の事となるとなりふり構わずな所がある。
常日頃完璧を維持するのは辛い、と言うのは分からんでもない。特にプリンを前にした時とか
まぁ、そういう所もかっているのだが。
仕事の休憩がてら話を聞きたいのか、気付けば代えの服が用意され、自分の椅子さえも用意されている。
『随分と興味津々ね? 』
『我が主の事は全て知りたいものです。』
『そういうものかしら? 』
『そういうものです。差し支え無ければお話していただけませんか? 』
『面白くも無い話よ? 』
『是非。』
『……はぁ~……紅茶は? 』
紅茶の用意をしている間にまた寝てしまおう、そんな事考えながら紅くなったハンカチを咲夜に渡し、代えの洋服に着替える。
『こちらに。』
悪あがきであるのは分かっていたわ……、さっきまで用意されたなかった紅茶と三段トレイがそこには用意されていた。
こういう時は、完璧じゃなくてもいいのよ?
『元より拒否はさせるつもりは無いのね』
咲夜はニッコリと笑った。
そんな咲夜を見て、私はまた深いため息を吐きながら飽きれた様に笑う。
人間とは違い何百年も生き、これから何百年もいき続ける私が思い出話をするなんて面白みも何も無い。
とはいえ、自分の可愛い従者がこんなにも興味を示しているのに断るのは……まぁ時間潰しにでもなればいいか
『ホント、面白くも無い話よ……』
紅茶を手に取りベッドに腰を掛け、メイプルティーの甘い香りを楽しみながら、窓から空を見上げる。
日は沈み始め、金星が輝きだしていた
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『おねぇさまぁ! 一番星見つけたよ!あれなに星? 』
『あれは金星かしら?フランもこの前お母様に教えてもらったわよね? 』
『えへへ、そうだったね! 金星ってピカピカだね! 』
エルジャート家の庭でフランドールとレミリアは星を眺めていた。
色なき風がレミリアとフランドールの鼻先を赤くする。
エルジャートとは、レミリアとフランドールがスカーレットの姓を名乗る前の名前
エルジャート家の歴史は古くからあるのだが、当主ニコラ・エルジャートの意向で名誉より商人や農民との交流を大切にしていた。
その為、商人や農民からの支持はあったが、それを妬む貴族が居たのも確かである。
日も沈み始めたし、そろそろ夕飯の時間かしら、そう思うと、イリナが夕食の知らせに来た。
『はぁ~い! 二人とも御夕飯が出来たわよ~食事にしましょう~』
イリナ・エルジャート
フランドールとレミリアの母親で教育も彼女が直接行っている。
元々子を授かる事が出来なかったイリナが二人を養子として招き入れた。
二人もそれは知っているが、それを思わせないほどの愛情をイリナは注いでいた。
『御夕飯……この匂いはぁ~クリームシチューだぁ! 』
『そうよ~だから、早く冷めない内に準備なさい? 』
『はぁ~い! 』
手洗いを済ませリビングに向かうと丁度イリナが取り皿にシチューを分けている所だった。
バターの甘い香りに温かいシチューから出る湯気がまた食欲をそそる。
私もフランもクリームシチューにフランスパンをつけて食べるのが好きでよくそうやって食べるのだが、
あまり上品ではない、とお父様に注意される。それでもフランはその食べ方でガツガツとクリームシチューをたいらげる
私は姉だから上品でないと……こういう時、フランがうらやましいわ
『ふぅ…… おなかいっぱい! 』
『フラン? グリンピースがスプーンの下に残ってるけど、好きだから残してるのよね? 』
スプーンをどけると、そこにはグリーンピースがたんまりと残っていた。
フランドール曰く“緑の悪魔”らしい
『もうね? おなかいっぱいなの……あ! おねぇさまもにんじん残してるよ! 』
『おねぇちゃんは好きだから残してるのよね? 』
残すつもりは無いのだが、気がつけば残っている。
レミリア曰く“赤い悪魔”らしい
『う~ (あぁ~フランなんで私まで道連れに…… 』
『ね? おねぇちゃん? 』
姉としての立場が余計にレミリアの分を悪くする。食べるしかないのね……
『え? あ? う、うん! うぅ~~~……』あむっ!
レミリアの口の中に広がるにんじん特有の甘み
農民の作る野菜はとても良く出来ていて、その甘みは他のにんじんとは比べ物にならない程濃厚
だが、レミリアは知っている、この、こいつを食べればクランベリーたっぷりのタルトが待っていることを!
『ほら! おねぇちゃんはちゃんと食べたからデザートだねぇ~』ちらり
『え? デザート!? あのタルトなの!? 』
『あのタルトよ~』
『うぅ~あぁ~うぅ~……』あむっ!
フランドールは食べた! ついに食べた! あの憎き緑の悪魔を!
涙目になりながらフランドールは食べたのだ!
そして自らの手で勝ち取った! クランベリーたっぷりのタルトの為に!!!
『はぁ~い! 二人ともよく出来ました! 』
『ほら二人ともお待ちかねのデザートだよ~ってこら! フラン落ち着きなさい! 』
『お父様早く早く! フランの一番おっきいのがいい! 』
『さっき、おなかいっぱい! とか言ってたのにねぇ~』
『おねぇさまのいじわる~』
『うふふ』
『ささ、デザートの前に食後のお祈りをしなきゃだろう? 』
『『はーい!』』
使用人も居ないし、他の貴族に比べればお金も少ないが、暖かく幸せな日々を送っている
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
咲夜は空気の換気に、と窓を開けた。
白いレースのカーテンが涼風で大きくなびく
『家庭的にはこんな感じかしらね? 』
『とても仲睦まじい家庭だったのですね。』
レミリアは紅茶を飲み干し、ティーカップを咲夜に渡しお代わりの催促をした。
紅茶を注ぎながら咲夜は微笑んだ。
外はすっかり暗くなり、夜の秋に望の月が浮かんでいた。
『パチュリー様とはまだお知り合いではなかったのですか? 』
『パチェ? パチェは元々エルジャート家の使用人だったの、でも、彼女魔法使いじゃない? 』
『えぇ左様で御座いますが。』
『当時はね、魔女狩りが行われてて警邏隊が巡回に来るから匿う為に、屋敷の裏の地下で本を読んでたのよ』
『昔から紫もや……本が好きだったのですね。』
『? ええ、だから今では、一流の魔法使いでしょう? 』
『仰るとおりです。それでお嬢様が吸血鬼になられたのは? 』
咲夜が先を知りたくてウズウズしている事が手に取るように分かる。
ここは完璧になれないのね、咲夜……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
カポーン……
『お風呂はいいねぇ~ 人類の生み出した文化の極みだよ』
『そうですわねぇ~』
『体の芯まで温まるねぇ』
『体が温まると心まで温まってきそうだねぇ~ さて、背中流し合いをしようか! 』
3人並んで背中の流し合い
私は改めて、お父様の背中の大きさを知る。
きっと農民や商人はこの背中に見て思うのでしょうね。力強く逞しい、私とフランのお父様の背中に付いて行こうと
『なにか背中についているかい? 』
『え? いや、お父様は、この背中にみんなの希望を背負っているのかなって思いまして』
『はは、そんな大それた物じゃないさ、所で、レミリアは将来何になりたいんだ?』
『何になりたいという訳では無いのですが、お父様の様に農民や商人に慕われ、信頼される存在というか』
レミリアは普段から父ニコラを見ていた。
他の貴族から憎まれ口を叩かれようとも、決して下々の者を見捨てないそんな父を尊敬していた。
時には下々の者を呼んではパーティーを開いていた、そこには笑顔があふれていて、レミリアはその空間が大好きだったのだ。
『レミリアならきっとなれるさ、でもまぁ、その為には、わがままを減らさないとな! 』
頭をクシャクシャと撫でられる。どことなく恥ずかしいが、とても暖かく大きな手だった。
『フランはねークランベリータルトになる! おいしいのー』
『ははは! そうかそうか! じゃぁいっぱい太陽の光を浴びておいしくならないとなぁ! 』
『うん! じゃぁ明日はおとぉさまも一緒に遊ぼ! おねぇさま追いかけっこ遅いしパチェはお外出れないし・・・』
パチュリーは生まれながらの喘息で、その喘息を治す為に、魔法を研究し続けている。
でも、なぜか他の魔法の方がうまくいっている。
最近では、召喚魔法を覚えたらしい。ドジな魔物が召喚されたらしく、帰り方がわからないとの事で、パチュリーと一緒に地下にいる。
喘息で外に出れないのとは別に、魔女狩りが執り行われてる期間に外に出る事は自殺行為となんら変わらない為であったからだ。
『すまないフラン、明日は外せない会合があるんだ。だから、クリスティと追いかけっこしてくれないか? 』
クリスティとはエルジャート家のペットの犬
毛並みがとても美しく、毛の色は白銀のように白い、まるで白い狼のようにも見える。
忠誠心高くとても賢い、レミリアに懐いているが、なぜかたまに、レミリアのドロワーズを被っている事がある。
『クリスティ逃げるの早いし、気づいたらおねぇさまも居ないし、誰も居なくなってるからなぁ~』
『お父様はクリスティより早いぞ? クリスティ捕まえれるくらいならないとなぁ~』
『う~んわかった! じゃぁクリスティ捕まえれるようになったらおとぉさまと追いかけっこする! 』
『あぁ約束だ、それじゃぁそろそろ上がろうか』
月は十五夜、空気は澄んで、通る風は、静かに火照る体を冷やしていく
辺りのライ麦畑が風になびかれ、静かな音を鳴らしている
風呂をあがり寝室へとフランと一緒に廊下を歩く
足元がおぼつかないし、すこしフラフラするわ
『長湯しすぎたかしら、頭がぽーっとするわ』
軽く頭を抱えながら気だるそうに寝室まで向かう。
いつもは白い肌が鬼灯のように赤く染まっていた
日中はフランと遊んでいたというのもあって、体力もあまり残っていなかったのだろう
寝室に着くとフランは無邪気にベッドの上で飛び跳ねてみせる
『ふかふかベッドだよおねぇちゃん』
『えぇ、そうね』
この子の体力はいつになったら尽きるのかしら、そんな事を考えながら私はベッドの中に入る
ほてった体が、冷たいシーツで少し冷やされる
パチェ今頃なにしてるかな……、そんな事を考えながら静かに夢の世界へ
薄紅は 純白に冷やされ 想う友を夢にみて
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『……ね……さま! ……ねぇさま……!!! 』
『……っ! ……ん……こんな時間にどうしたの? まだ太陽も出てないわよ? 』
まだ外は暗く、星さえも出ている時間にレミリアは起こされた。
一体なんの騒ぎなの? それともお漏らしでもしたのかしら
『ほらあれ! 北斗七星だよね! 覚えてたよ! でもあのひときわ輝く星はなんだろうね? 』
『なにかしら、この前は出てなかったわよね? 』
前にお母様の教えてもらった時は、確か、7つの星が輝いていたのが8つになっている。
まぁこんな事もあるんだろうな、にしても8なんて縁起の悪い数ね、なにか変な事でも起きなければいいけど
『それにしても寒いわね、フラン、暖炉に行かない? 』
『うん、ココア飲みたいね! 』
『私は、紅茶がいいわ』
他愛もない会話をしながら暖炉のあるリビングへ向かう
外は赤く朝焼けで包まれ、冷たい乾いた空気が手足を凍て付かせる
リビングに着くとイリナが朝食の準備をしていた
『朝ご飯……この匂いは……ベーコンだぁ!』
『そうよ~ 朝ご飯はライ麦パンとベーコンとホウレン草のソテーよ、それにしても今朝は随分と早起きね』
イリナな不思議そうな顔をしたが、先に目覚めたフランにレミリアが起こされたのだろうと察しがついた。
そんな二人をみて、手際よくココアと紅茶を作る。流石母親といったところだろうか、
『まだ寒いから風邪引かないように気をつけてね? はいココアと紅茶』
『ありがとうおかぁさま! おいしいねー』
『ありがとうございますお母様。温かくて美味しいです』
暖炉の火を見つめながら暖をとる。
パチパチと音を鳴らし燃え、ゆらゆらと揺れる炎はどこか心が安らぐ。
力強くたくましいが、水をかけてしまえば、それで終えてしまう儚きもの
『おねぇさま最近紅茶ばかりだね、前はココアだったのに~』
『立派な淑女になる為には、紅茶ぐらい嗜んでおかなきゃならないのよ? 』
最近、私は、お父様の影響で紅茶が好きになった。
手元にある紅茶をソムリエの様に吟味する。
前に飲んだ事あるような、ないような……そうだこれは!
『うん・・・目覚めの紅茶はジャスミンブレンドですわね、お母様』
『これはメイプルよ? ジャスミンの方がよかったかしら? 』
『……おねぇさま……ぷぷぷっ』
『え! あ! ……うーー』
紅茶でも暖炉でもなく、なにか、他のもので体が一気に熱くなった。
もっといろんな味を知らなくてはいけないのね、恥をかいてしまったわ
『私はブルーベリーティーですわ。やはり、本ばかり読むと目が疲れてしまいます』
『パチェ! 』
『おはようございますイリナ様、朝食の準備が終わりました』
『ありがとうパチュリー。あなたも暖炉で暖まりなさい』
『はい、それでは』
最近になってエルジャート家の警邏巡回が緩くなってきて、
早朝なら館内に出れる様になったと言う
因みに、召喚した魔物は、流石に魔物は外に出すな、と主人ニコラ言われてる為、地下で本の整理をしている。
『おはようございます。お嬢様と妹様。こんな早い時間からどうしたのですか? 』
『まぁちょっとフランにね。って、パチェ~そんな硬ッ苦しい言葉遣いしないでくれるかしら? 私たち友達でしょ? 』
普段大人達としか顔を合わさないレミリアにとって、パチュリーは唯一年が近く、気軽に喋れる存在だった。
だから、常にラフな状態を保っていたかったのだ
『そうだよぅパチェ、私たちお友達でしょう? 』
『……しかし……イリナ様……』
『ふぅん……使用人は当主の娘の言う事を聞かないのかしら?』
すこしパチュリーは俯き考え、久しぶりに会う友人を見つめる。
『……レミィ……会いたかったわ』
『私もよ、パチェ、一緒に暖まりましょう』
『パチュリー! またお星様の物語聞かせてよー』
パチュリーが地下に入ってからまだ3ヶ月しか経っていないが、
その3ヶ月はこの子達にとっては、とても長い3ヶ月だったのかもしない。
『えぇ、妹様、今度、お時間がある時にでも』
『巡回が緩くなったとは言えあまり外に出られないのは変わりないのね』
フランはあからさまに残念そうな顔をするが、
レミリアは久々に友人に会えた喜びの方が大きかったのか、至って冷静だった。
また明日も早起きすれば会えるのかも、という期待が膨らんでいた。
メイプルティーは冷えてしまったが、他に大切な物が温まった
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ニコラは普段着用しない貴族の衣装を身に纏い
『さて、それでは会合に行って来るよ』
『行ってらっしゃいあたな。気をつけてね』
『いってらっしゃぁ~い』
『いってらっしゃいませお父様。お気をつけて』
ニコラは貴族の集まる会合にいった
会合と言ってもただのお茶会で交流会、社交の場である。
この会合をするならば、農民や商人を呼んで日頃の仕事振りを労った方がいいのでは
、とお父様は仰ってたわね。
さて、お父様を見送った事だし紅茶でも飲んで一息付こうかしら
玄関に背を向けリビングに戻ろうとした時、走ってくるフランとぶつかりそうになる。
『あわわ!ごめんなさいおねぇさま!フランはクリスティと遊んでくるね! 』
そういってフランは庭へ駆けていった。
また洋服をドロドロにして帰ってくるのかしら?
女の子なのだからもう少し上品にしても罰は当たらないと思うのだけれど、
まぁ、あの元気があの子の良い所でもあるのだけれどもね。
玄関前で、お母様がなにか言いたげに、こちらを見ている。
『どうかされましたか?お母様?』
『おねぇちゃんはなにか予定はあるのかしら? 』
イリナは手を合わせながら問いかけた
お母様はなにか頼み事をしたい時は、手を合わせるのが癖なのよね
まぁ……お買い物でしょう
『予定という予定はありませんよ? 』
『そう? ちょっと街に買い物を頼まれてくれないかしら? 』
予想通り、私の予想は良く当たる、ちょっとした自慢でもある
今日は習い事もお勉強もないし、街にいくのもいいかもしれない
『もちろんです、お母様』
そう答えるとイリナは笑顔になり、レミリアに買い物メモを手渡した。
端から拒否させるつもりは、無かったようね。
……今夜は食卓には紅い悪魔は出ないようね
『それでは、早速行って来ますわ』
『はぁ~い、気をつけてね。寄り道も良いけど、暗くなる前に帰ってくるのよ』
レミリアが身支度を済ませると駆け音が聞こえてきた。
この駆け音は……というよりこの屋敷で走る人間は一人しかいないわね。
『フランもいくぅ! 』
その一声と同時に部屋の扉が勢いよく開く。
まだ一時間も経ってないのに、洋服を見て溜息が出た
元気なのは良い事だけど、元気すぎるのも考え物ね
『お母様の許可は取ったの? 』
『うん! 大丈夫! いいって! 』
流石に、この泥ん子と一緒に歩くのは気が引ける
そう思いタンスから自分の服をだした
『はい、この服を着て頂戴ね』
『おねぇさまのお洋服だぁ』
こうしてフランをつれて街へ出る事となった
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『すごい! 人がたくさんいるね! 』
『本当にすごい人込みね、 はぐれないように手を繋いでましょう』
そういって二人はぎゅっと手を繋いだ
はぐれたら見つけるのに半日は掛かかりそうね
それにフランはあまり市場に来た事が無かったから、
いろんな所にすぐに行ってしまいそうだし
この国で最大級の大きさを誇るナナキヨ市場
食品はもちろん、煙草やナイフ、その他趣向品まで幅広く売買されている
この市場の一番変わっている所が、農民から貴族までさまざまな階級の人間が出入りしている事
『えぇっとハムとバジルとにんにくと……今夜はペペロンチーノかしらね? 』
『え? ペロペロチンチーノ? 』
『ペペロンチーノよ、前食べた時フランも気に入ってたパスタ』
『にんにくがきいてておいしかったやつだ! おいしいねー! 』
『あとは……グリーンピース』
『え!? 』
『うふふ、冗談よ』
露店からミティテイのグリルの香りが食欲をそそる
お母様から余分にお金を貰ってるから少し頂こうかしら
そんな事を思っていると
『おねぇさま! あのミスティのグリル食べたい! 』
『ミティテイよ、私も小腹が空いたわ、あそこのベンチで食べようかしら』
そうと決まるとフランはレミリアを引きずるように露店へ走った
『おじちゃん! ミスティのグリス二つください! 』
『ミティテイだね! あいよ! ってニコラ旦那の娘さん達じゃないか! ほらクラティーテも持っていきな! 』
『ロリァクさん、ありがとうございます』
『お嬢ちゃんのお父さんにはいつも良くして貰ってるからね安いもんさ! 』
『わぁい! ありがとうおじちゃん! 』
満面の笑みでフランとレミリアは会釈した
活気ある街を眺めながらミティテイを頬張る
『なかなか紳士的なおじさんだったね! 』
『そうね、フラン飲み物は? 』
『えっとねぇ 林檎のジュースがいいなぁ』
『ここで待っててくれるかしら? すぐ戻るわ』
フランはミティテイを頬張りながらうなずいた
『確かこっちだったわね』
『そこのお嬢さんお待ちなさいな』
振り向くと老婆こちらを手招きしていた
身なりからすると占い師のようね
『雲無く 瞬く星は 儚き灯火 家路を照らすは 望の月
流れる光は 闇に消え 落ちる雫は 紅となる……』
いきなりなにかしら……なんだか気味が悪いわね
人を呼びつけといて意味のわからない言葉を
『そう怖じけなさんな……』
『怖じけてなんていないわ、それより何か用かしら? 』
『その青い目は生まれつきなのかい? 』
『そ……そうよ! なにか文句でもあるの!?』
とある地域では青い目は悪魔の子とされ忌み嫌われ不吉なもの、災厄をもたらすものといわれていた。
レミリアとフランの実の親がその地域出身で我が子を哀れみながらも二人を教会へ捨てたのだ。
それをニコラとイリナが二人を養子に迎えたいと神父に伝えレミリアとフランはエルジャートの姓をもらったのだった。
『ンフフ……その目には嫌な思い出でもあるようだねぇ……お嬢さん……これを持っていくといい……』
そう言うと真紅のネックレスを差し出してきた
禍々しくも見る者を魅了させる、そんな輝きを放っていた
『お嬢さんは光と闇の選択を迫られる時が来る 』
『どういうことかしら?』
『時機にわかるよ』
そう言いネックレスを持たせると街の人込みの中へ消えていった
レミリアは呆気にとられていたが、林檎ジュースの事を思いだしすぐさまフランドールの元へ戻った
ネックレスの事は内緒にしておこう、なぜか人に言ってはいけない気がした
『おねぇさま遅いよー クティラーテも食べちゃったわ! 』
『ごめんなさいフラン、ちょっと道に迷っちゃって』
林檎ジュースをちらつかせながらすまなそうに答えれば……
『じゃぁしかたないね!』
『許してくれるのねありがとうフラン、はい林檎ジュース……ってフラン洋服にソースがたれちゃってるじゃない!』
『う?あ、ホントだ!えへへ~』
えへへ~ってその洋服私のなのに……う~んまぁ戻るのが遅かった私にも非があるし……
『林檎ジュースおいしいね!』
『そうねぇ……』
街並みが橙色に染まり、皆が家路をたどり始める始める頃
『そろそろ帰ろうかしらね、暗くなるとお母様が心配なさるわ』
『もっといろいろ見たいなぁ~ ほら! あれとか! 』
『ちょっと! フラン! 』
『イタッ! 何すんだこのガキ! 』
『ごめんなさい! お怪我ありませんか? モロコウシュ……様……』
モロコウシュ・カェルゥビ
位の低い人間は蹴散らしてでも階級をあげるというエルジャート家の意向とは正反対の貴族
なにかとエルジャート家にいちゃもんをつけ、いびっている、噂ではエルジャート家転覆をも目論んでいるとも
会合に出ていないのも不自然だが引き連れている人間が農民というのも不自然だった
『おお! これはこれはエルジャート家の娘様達ではありませんか! 』
『はい……いつもお世話になっております』
『いやいやいや! 我々カェルゥビ家もエルジャート家に見習って農民との交流を持ちにこの市場へまいったのですよ』
『左様でございますか、ではそろそろ日も暮れるので私達はこれで』
レミリアは会釈をしてフランを引っ張りその場を離れた
フランドールは状況が把握出来ないままレミリアに引き連れられ家路をたどった
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『ただいま帰りましたわ、お母様』
『ただいまー! おかぁさま!』
『お帰りなさい、ちょっと帰りが遅いかったんじゃない?』
『ごめんなさいお母様、以後気をつけますわ』
『あのねーモロコウシュさまとお話してたの!』
あぁ、あえて言わなかったのにどうして言っちゃうのかしら……釘を刺しとかなかった私が甘かったわね
フランにはまだどういう関係とかもわからないだろうし
『あら、ちゃんとご挨拶できた? 』
『はい、大丈夫です、それとお買い物したものは台所』
『ありがとう、市場は楽しかった? 』
『たのしかったー!ロリァクさんがクティラーテくれたの!』
『ありがとうって言えた?』
『うん!』
イリナはフランの頭を撫でて二人に部屋着を着るように伝え夕飯の準備に台所へ向かった
ソースがついた洋服も早く洗ってあげたいし……
『フラン着替えに行きましょう』
『はぁ~い』
そうそうと着替えを済ませリビングに戻った
『おねぇ~さまぁ~』
『なに?そんな足をじたばたさせて』
『ご飯できるまでなにかしよーよー』
『そうねぇ~何でもかまわないわよ? 』
『じゃぁねぇ~……ポーカーしよう! 』
フランはリビングの隅にあるおもちゃ箱からごそごそとトランプを取り出してきた
いつポーカーなんて覚えたのかしら?
暇なのは確か……妹の挑戦状受けてたとうじゃない!
『さぁおねぇさまどうするの?コール?レイズ?それともドロップ?うふふ』
ど、どういう事なの……フランの表情が全く読めない……
それどころか私が翻弄されている……否、自ら深読みしすぎて裏目裏目に出ているだけ……?
そんなことはとりあえずどうでもいい、今はフランの手を考えて見ましょう
フランが交換したのは2枚だけ、単純に考えられる役はフラッシュ、ストレート、フォーカード、ツーペアを狙う手
だが、今までのフランの捨て方からしてフラッシュやストレートを狙うときは大体1枚交換の時だけ、
そのほかの時は無難にツーペアを狙いにいっている
状況からしてスリーカードを残してフォーカードを狙いにいくという考えが妥当
今二人でやっているポーカーはレイズを2回までできる仕様にしている。フランがレイズ、私がコール次にフランはまたレイズをした。
自分の手に相当自信があるようだが……フォーカードが完成しているというの?
それに対し私の手はフルハウス、普通に考えれば勝負にいける手
それにフランのあの煽り……実は手は出来て無いと見せかけてスリーカードが出来ているという引っ掛けにみせかけて手は出来て無い!
最初からブラフをかます気で来た勝負!
フランはノーテン!私はフルハウス!
いける!絶対勝てる!100%勝てる!私なら勝てる!私この勝負に勝ったらおいしいぺペロンチーノ食べるの
『コールよ!さぁオープンしましょう!私は……フルハウスよ!』
『流石おねぇさま、フルハウスを出来ていながら長考したのね……流石おねぇさまだわ……』
そういうとフランは自分の手札をオープンした
『なん……です……って……』
『うふふ、女王さまが一人、二人、三人、四人……フォー・オブ・ア・カインドよ、おねぇさま』
『ふぅ……これで私のクッキーがすべてフランの物となるのね……』
『えへへ~ごめんねぇおねぇさま』
『なんだぁ~? またおねぇちゃんが負けたのかぁ~? 』
『あぁ~おとうさまおかえりなさぁ~い! 』
『お父様!? お帰りなさい』
『あぁただいま、しかしお母様が作ったクッキーで賭け事とはいただけないなぁ~そのクッキーは二人の為に作ったのだから仲良くたべなさい? いいね? フラン? 』
『うん! おねぇさまも一緒に食べよう! 』
『ありがとうフラン、それじゃいただきぃ~』
『っとその前にそのクッキーはご飯の後にしなさい、それを食べてご飯を残したらお母様がこわぁいこわぁい……』
『あなた……おかえりなさい、いつお帰りになったの? 』
いつの間にかニコラの後ろで不敵な笑みを浮かべ夕飯を運んできたイリナがいた
『あ、あぁ! ついさっきだにょ! お! 今日はペペロンチーノか!いいねぇ~イリナの作った料理はいつ食べても』
『そう、ありがとう、お父様も部屋着に着替えたらいかが? その服では疲れてしまわない? 』
『うむ、そうだな、すぐに着替えてくるよ』
お父様よりお母様の方が強いのかしら? でも、力はお父様の方があるし……
う~んオトナになるとわかるのかしらね
さて、お夕飯も出来たようだし……
『フラン、ご飯の準備のお手伝いしましょう』
『うん!』
『良い子ね、お母様、なにかお手伝い出来る事ありませんか?』
『そうね、フォークとスプーン、それと小皿をお願いするわ』
まだ台所に立って調理する事は出来ないけれど、こういう事ぐらいはお手伝いしないと良い淑女になれない気がするわ
ん?クリスティが外で吠えてるわね、どうかしたのかしら?……ってえぇっと、確かフォークはこの辺に……
バン!
ん?花火?いえ、こんな時期に花火なんて……クリスティの鳴き声が止まった?え?
『お父様? なんか外……』
『あぁなんか悪戯だろう、注意してくるよ』
『ダメ!お父様いかないで!』
『ははっ大丈夫だよレミリアちょっと注意してくるだけだからね』
ニコラはそういうとレミリアの頭をクシャっと撫でて外へ出た
ダメ、お父様、なんなのこの胸騒ぎ、今まで感じた事の無い悪寒、震えが止まらない
『フランちょっとこっちへ来て』
『ご飯の準備はぁ~?』
『いいから!とても……とても嫌な予感が……』
次の瞬間勢いよく扉が開いた
『みんな逃げるんだ!賊だ!』
『チッ! さっさとくたばれ!』
賊はそういうとサーベルでニコラの背中を斬りつけた。
力なく崩れるお父様を目の当たりにして私とフランは物陰から動くことが出来なかった
あの賊……今日モロコウシュが連れていた農民!?
『あ!あなた!』
『おい!あの女もだ!やっちまえ!』
『へへっわりぃな奥さん、あんたらにゃぁ恨みは無いがエルジャート家を始末したら地位を上げてもらうっつぅモロコウシュ様とのうまい話なんだわ』
『無駄口叩いてねぇでさっさとしろ』
『おおこわいこわい!つぅことでバイバイ奥さん』
サーベルがイリナの体を深く突き刺した
おびただしい量の血が地面を紅く染めていく
『フラ……レミリ……逃げて……』
『ったくエルジャート家っつーのはしぶてぇなぁ首ぃ飛ばすぜ』
スパンッ
ゴトッと音を立て落ちる
次に体は糸が切れてしまったマリオネットのように崩れた
『いや……やだ……おかぁさまおとうさま……ヤダ……ヤダァ……』
『フ、フランお、おち、落ち着いてう、動いちゃダ、ダメ』
もう何がなんだか
ど、どういう事?殺される?いや、殺された?お父様?お母様?え?
ダメ!フランだけでも逃がさないと!今は何も考えないで逃げることだけを!
『やだ……ヤダ、イヤ!いやぁぁああああぁあああ!!』
『ダッダメ!今出ちゃ!!』
フランは裏口へ走っていった
賊はその叫び声を聞き逃すことなく即座に振り返り銃を構えた
バン!
銃弾は肩を貫通しフランの体は走った惰性で壁に衝突した
『あああああ!!ああああ!!いやあああああ!!』
『お嬢ちゃん?ちゃんと前見ないとダメだって昼間学習しなかったのかい?』
『やめて!!フランに触らないで!!』
『おおぉ、良い姉妹愛だねぇ~でもおねぇちゃんはフランちゃんをたっぷり犯した後に犯してあげるからすっこんでてねっと!』
拳がレミリアのうち抜き宙に体が浮いた後地面に叩きつけられた
薄れいく意識の中フランの服が引き千切られるのが見えた
あぁ、神様、私達はなぜ幸せになれないのでしょう
親に捨てられ拾われその育ての親も殺され今私達も殺される
幸せでなくてもただ平穏に暮らしたいだけなのに
神よ、私は貴方を呪うでしょう
信じるものは救われるというのはただの妄言さ
ダレ?ワタシの中にいるの?
そうか、貴様は資質を持っているようだ
さぁ選ぶといい
人として今一生を終えるか
悪魔とし闇に生きるか
生きたくば首から流れる血をすするがいい
レミリアの紅いネックレスからとめどなく血が流れ洋服を赤く紅く染めていた
あの悪魔の目と言われた目も紅く、その瞳からは血の涙が流れていた
『へへへ、おねぇさまには眠ってもらったからゆっくりたのしみましょーねー』
『なにがゆっくりだ、さっさと済ませろよ、俺は金目のもんでも探ってくる』
『チッ、はいはい、それじゃお楽しみターイム!』
私のフランに触れるな
『あ? ったくもぉホントにしぶてぇや―――!!』
賊の体は壁に強く叩きつけられた
『フラン、ごめんさい、こうするしか助けれる方法がわからないの……』
『お、おねぇさま……じ、じゃぁ、し、しかたないねぇ……』
ごめんなさい、フラン……
レミリアはフランドールの首筋に噛み付き同族にする為に吸血をした
すこしの間眠っていて頂戴ね……
『おい!一体なんの音だ!なにのびてんだよ!どうした!?』
『意味わかんねぇぞ……こんなん聞いてねぇ……』
あぁ……実の子と同じように愛してくれたお母様も
お父様の暖かく大きかった手も冷たく
力強く逞しかった背中も無残に斬り付けられてしまった……
お父様、私はみんなに慕われる存在にはなれなくなってしまいました
『くっ!なんなんだってんだ!ファック!くたばれ!』
持っている銃を乱射するがすべて当たらない当てることが出来ない
……醜い下衆が
四肢が血しぶきをあげ吹き飛ぶ
一瞬に部屋一面を紅く染めた
『ぐぁあああやめろおぉおおおおお!!』
『な!なんなんだよこいつら!意味わかんねぇ!意味わかんねぇぞ!!』
もう一人の賊が外へ向かって足を引きずりながらも逃げようとするが背中になにか重いものがぶつかり前のめりに倒れる
『つっ!なんだよ……ってうわぁああ!!』
手も足もない人だったものが覆いかぶさっていた
貴様ら下衆に相応しい殺し方を思いついた
次の瞬間に賊を宙に放り投げた
スピア・ザ・グングニル……
レミリアが放った神の槍は賊を串刺しにした
レミリアはフランを抱きかかえ屋敷裏の地下へ降りて行った
『えぇ~っと確かこの本はここらへんにしまって……』
『その本はもっと奥の方よ』
『あ!そうでしたっけぇ~えへへ~』
パチュリーの使い魔がランタンを片手に本の整理をしているところだった
『パチェ?……いるかしら?』
『こぁ!パ、パチュリー様!どなた知りませんがこちらへ参られましたよ!!』
パチュリーは呼んでた本を投げ捨て、駆けて使い魔の元へ向かった
『お!お嬢様!それに妹様まで!どうなさったのですか!?それにそのお姿』
『パチェ……フランが……』
『はい!すぐに治癒魔法を妹様もうそうですがお嬢様も』
『私はいいから……フランをお願い……私は少し休むわ』
『これはどう見ても吸血鬼……よね……青い目をしていたからまさかとは思っていたのだけれど……小悪魔、お嬢様をベッドへお連れしてあげて』
『こぁ!は!はい!パチュリー様!』
『(お嬢様は精神も肉体もすぐ回復するでしょう……問題は妹様の方ね……肉体の損傷も激しいがなにより心の損傷が……』
紅き満月が禍々しく地上を照らしていた
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それから数日間モロコウシュの命により何百人もの人間がエルジャート家へ行くが戻ってこれたのはたった一人の記者だけだった
その記者によると
門前に無数の串刺しになった人間が並べられ
館はその人間の血しぶきにより紅く染められていた
館には少女が一人だけ存在し血を全身に浴び漆黒の翼を身にまとい
例えるならば悪魔、そう“紅い悪魔”だった―――という
しばらくするとモロコウシュはなぞの死を遂げ
エルジャート家館は紅い悪魔の住む館“紅魔館”と呼ばれ誰も近寄ることは無くなり
いつしか人々はその事件を忘れようとした
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『とまぁこんな感じかしらねぇ、つまらない話でしょう?』
『いえ、お嬢様にそんな過去があったのですか』
『もう500年も前の話よ、そんな悲しい顔をしないで?咲夜』
ふふ、可愛い顔をしちゃってこんな事知らなくてもいい事なのに聞いちゃうから
ほくそ笑みながら咲夜の頬を軽く撫でた
『お嬢様……あ、その後お父様とお母様に吸血はされなかったのですか?』
『まぁあの方達は根っからのキリシタンだったからね、信仰心のある人を同族には出来なかったわ』
『そうだったのですか……』
『さぁ、もう十分休憩したのではないかしら?お掃除の続きはいいの?』
『あ!申し訳ございません!続きをやってきます!』
『もう……咲夜はまだまだね、幻想卿を紅い霧で覆う儀式ももうすぐ大詰めよ?』
バタンと大きな音を立て寝室の扉が開いた
そこには紅魔館の門番を勤める紅美鈴が息を切らし呼吸を整える間も無く口を開いた
『すみませんお嬢様!あ、咲夜さんも!何か紅白の人間が単身で紅魔館へ攻撃をしかけてきました!』
『ふ~ん、その紅白に貴方は負けてしまったの?』
『申し訳ありません、私では歯が立ちませんでした……今現在パチュリー様が食い止めていらっしゃるのですが咲夜さんも応援に行ってください!』
『あぁ~もう!お掃除が終わらないじゃない!』
『咲夜がんばってねぇ~』
『はい、それでは行ってまいります』
ふふ、人間が一人で来るなんて何年、何百年ぶりかしら?
月もこんなに紅く大きく禍々しい輝きを放ち湖からの吹く風は夏の暑さをもまた一興と思わせる
さぁ、楽しい夜になりそうね―――
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お嬢様かあいいよお嬢様
きわどい描写もアリかな、と思わせられた。