Coolier - 新生・東方創想話

小悪魔ちゃんマジ天使 第4話(最終話)

2011/07/09 10:37:01
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美鈴は何も言わず、下を向いたままだった。
レミリアは槍を振り上げると、美鈴の首に向かってそれを振った。
美鈴に槍が迫る、しかし美鈴は一切動こうとはしなかった。
下を向いている彼女の顔を、レミリアは確認できない。その時美鈴は、微笑んでいた。

 彼女の体の一部が切断される瞬間は無音だった。静かにそれは切り離され
切り口からは血が流れ出る。

切り離された彼女の“部分”が、ゴトリと音を鳴らして地面に落ちる。

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ
 あああああああああああああああああああああああああああ
 ああああああああああああああああああああああああああ!!」

 それと同時に、彼女の悲鳴が鳴り響く。落ちたのは、レミリアの腕だった。
レミリアは激痛に顔を歪ませながらも、美鈴を睨みつけた。
しかし、美鈴は変わらず動く様子も見せない。
 その時ようやくレミリアは気づいた。自分の腕を切り落とした犯人が、
自分の真後ろに居ると。
レミリアが振り返るとすぐに、その人物は彼女の胸に手を当て、つぶやく。

「夢想封印」

 爆音が響く。それは空気を激しく揺らし、紅魔館のあらゆる壁を震わせた。
 レミリアの体は大きく弾き飛ばされる。
 激痛と衝撃に襲われながらも、レミリアは現状を把握するため
全力で脳を働かせた。

(奴は博麗の巫女…なぜここに?まさか妖怪退治?
 違う、あいつは明らかに美鈴の側に付いている
 なぜ?いつ手を組んだ?美鈴はこれを予測していた?
 私の背後に霊夢が迫っていることに気が付いて…
 あの時、美鈴は私に首を差し出すためではなくて、
 私を油断させるため、闘志を消したとしたら?
 美鈴は分かっていたんだ、霊夢が自分を助けることを)

「首輪をつけ、支配下に置けば番犬にもなる…」

 レミリアの視界が緑に染まった。

「しかし首輪がはずれれば、私は…」

 美鈴がレミリアに正面から迫ってきていた。

「主人にも牙を剥く、狂犬よ!!」

 キラリと、月の光で輝くそれは、まっすぐレミリアの顔に振り下ろされた。

 右目を襲う激痛に反応し、急いでレミリアはその場から離れる。
残された彼女の片目が映したのは、二組の目。
暗闇で怪しく光る、自分を狙う獣達の目だった。
そして、レミリアを見つめる目が、もう二組。
霊夢の奇襲によって最大まで引き上げられた彼女の注意力が、
その視線をとらえた。その方向にレミリアは振り向く。
自分の館、その窓から覗く二人の顔。
小悪魔とパチュリーが目を丸くしてレミリアを見ていた。
 自分の右目に刺さっているものを握ると、レミリアは一気に引き抜いた。
襲ってくる痛みに耐えながら、引き抜いたものを確認する。
咲夜のナイフだった。レミリアは美鈴の言った言葉を思い出した。

(…これ、良いナイフね もらってもいい?)

「あの時の…」

 ナイフを見つめながらそう呟く彼女の、右側…奪われた視界の中から
霊夢が攻撃を仕掛けた。しかし、レミリアはその気配を瞬時に感じ取る。
霊夢の攻撃をかわすと、反撃を開始した。霊夢の隙を突いて、攻撃を叩き込む。
…つもりだった。
しかしその攻撃が発動する前に、レミリアの後頭部に美鈴の蹴りが入る。
よろめいた彼女に、霊夢は再び狙いを定めた。
レミリアは必死でその場から離れようとする。
襲い掛かる二人の攻撃、そこからなんとか抜け出すことができた。
しかし、彼女に安心する暇も与えない程速く、次の攻撃がレミリアを襲う。

「こ…こっこっ…この野郎…
 たっ…倒す!?わ…わっ…わわわわ私をっ!この私を倒す…だと!?
 わっ…私…私…わわ私…私っ私っわっ私!私!!がっ!が…がが…が…
 あ、あ、ああああああああああああああああああああ
 ああああああああああああああああああああああああ
 ああああああああああああああああああああああああ

 …■っちまったじゃねえか!この野郎!」







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「あれは博麗の巫女…どうして彼女が!?」

 目に映る光景に、小悪魔は混乱していた。
しかし、パチュリーは違った。レミリアや小悪魔よりも先に、
この状況を理解したのだ。

「美鈴は、分かっていたんだわ…
 おそらくレミィと約束を交わしたその日から、
 自分が主人の約束を破ってしまうということを…
 美鈴はすでに荷物をまとめていた、そしてこれから行く先も決めていた。
 その場所は、博麗神社」

 小悪魔はパチュリーの方に目を向けた。

「それと…いま巫女がここに居ることと…何か関係があるのですか?」

「ええ、噂で聞いた話だけど、博麗の巫女はそうとうな貧乏だそうよ、
 一部の人達の間では貧乏巫女とも呼ばれる程らしいわ。
 きっと彼女は自分の所に泊まりに来る美鈴から、宿泊料を取るつもりだったのよ
 しかしもしレミィに美鈴が殺されたら、美鈴から金を取れなくなる。
 だからあの巫女は美鈴の死をなんとか防ごうとしている」

「死を覚悟していた美鈴さんにとっては、思わぬラッキーだった訳ですね」

「ラッキー?いいえ、違うわ
 言ったでしょ?美鈴は約束を守れない事を分かっていたって、
 美鈴はこの展開を予想して、わざと宿泊先を博麗神社に決めたのよ
 でなければあの巫女は、どうやって美鈴が殺されようとしていること
 を知ることができたの?美鈴が伝えたとしか思えない。
 レミィは美鈴の罠にはめられたのよ」

 小悪魔は紅魔館の住人、その立場から考えれば、館の主人である
レミリアの無事を祈る事がふさわしいと言える。
しかし今小悪魔は、これでよかったと思っていた。
 パチュリーという主人に仕える彼女と、レミリアという主人に仕える美鈴。
館内で似たような立場にいる美鈴に対して、小悪魔は共感できる部分が多い。
小悪魔にとって美鈴は、大切な友人だった。だからこそ、小悪魔は美鈴の生存を
望んでいた。しかし、この望みは小悪魔の本心からの望みではない。
美鈴とレミリア、どちらかを選ばなければならない状況の中での望みである。
本当は小悪魔は、レミリアも美鈴も大切に思っていた。出来ることなら争ってほしくなかった。
 このままいけば死ぬのはレミリアだろう、しかし小悪魔は安心できなかった。
ある事を恐れていたのである。
もしも、パチュリーが友人を助けようとして戦ったら?
美鈴側が確実に勝てる保障は無くなる。巫女も金より命が大事だろう。
少しでも自分に危険が迫ればその場を立ち去るはず。
そうなれば残された美鈴はレミリアの手によって処刑されてしまう。
 小悪魔は祈っていた。自身の隣に居る主人が、どうか最後まで
傍観者でいてくれるように…と。
しかし、その祈りは叶わなかった。

「このままじゃレミィが死んでしまうわ…私が行かないと」

そう言うとパチュリーは窓を開ける。焦った小悪魔はなんとか止めようと声をかけたが、
その声がパチュリーに届く前に、彼女は窓から飛び降りてしまった。
そして、パチュリーが戦場に立ってから5分程で、戦いは終決した。






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 咲夜は美鈴の部屋で目を覚ました。身を起こそうとすると、
体中に痛みが走った。その痛みが、昨晩の出来事を思い出させる。
しばらく呆然とベッドに座っていたが、やがて立ち上がり、自室に戻っていった。
新しいメイド服に着替え、朝の集会の場所に足を運ぶ。
そこに、美鈴が居てくれることを願いながら。
しかし美鈴は居なかった。集会の20分前…10分…15分…
5分前になった時には、メイドは全員集まっていた。美鈴以外は。

4分前…


3分前…


2分前…


1分前…

 その時、足音が聞こえた。

 その音は、明らかに集会の場に近づいていた。

 咲夜は、部屋の扉に注目する…

 ドアノブが回される…

 扉が開く…

 女性が一人、姿を現す。

 館の主人、レミリアだった。
彼女はあの戦いで生き延びていた。もしもあの時、
パチュリーが来ていなければ、きっと彼女はこの場に立ってはいなかっただろう。
そして、時計が音を鳴らした。集会の合図だ。

「咲夜、こっちへ」

「…はい」

 レミリアは咲夜を呼び出すと、他のメイド達の前に立たせた。

「紅美鈴に変わって、今日から彼女はメイド長となった」

 その言葉に、ざわつきはしないものの、メイド達は驚きの表情を浮かべた。

「どうしたの?ほら、拍手拍手!」

 メイド達は突然の事に驚きながらも、咲夜に拍手を送った。
しかし、咲夜の顔は暗い。今、咲夜は美鈴の事しか頭に無かった。
我慢できなくなった彼女は、ずっと気になっていた疑問をレミリア
に問いかけようとした。

「あの、お嬢様…美鈴メイド長は…」

「それからもう一つ!」

 咲夜が言葉を言い終わる前にレミリアはそう言った。そしてそのまま話を続ける。

「入りなさい」

 その言葉で、部屋の扉が開かれる。そこに立っていたのは、美鈴だった。

「あっ」

 思わず咲夜は声を上げた。今度は他のメイド達もざわつきはじめる。

「今日から紅魔館に門番隊をつくることにした!
 その隊を指揮する、紅美鈴門番長だ。」

「門…番…長?」

「みなさんよろしくお願いしますぅ~」

 美鈴が深々と頭を下げる。
レミリアは咲夜の肩を叩いて言った。

「美鈴は一度は紅魔館を抜けた、今の彼女は新入社員のようなものだから、
上司としてあなたがしっかり面倒をみるのよ」

「え!?私がメイド長を!?」

「あら、メイド長はあなたでしょ?おかしなコね」

 レミリアはそう言って笑うと、部屋から去っていった。
レミリアがリビングまで来ると、パチュリーがそれを出迎えた。

「よくできました」

「うー」

 レミリアは不機嫌そうな声を漏らした。
 あの時、パチュリーは戦場に入った。そして、そこでパチュリーは使った。
レミリアとの賭けで得た権利、レミリアに命令を一つだけ従わせる権利を。
それが、美鈴を門番長にする事だった。
 紅魔館には門番は存在しなかった。スペルカードルールが出来て平和が訪れてから、
レミリアが必要なしと判断したからだ。
そのためパチュリーの要求は、レミリアにとっては無意味なものに他ならなかったが、
プライドの高いレミリアはこれに従うしかなかった。
賭けに負けておいて「従えません」と言うほうが、レミリアにとっては屈辱を感じるからだ。
 美鈴は当然これを受け入れた。霊夢は最初怒りだしたが、美鈴からキャンセル料を受け取ると
態度を変えて帰っていった。

「どういうつもりよ、門番なんかのために
 賭けで勝った権利を使うなんて」

「いいじゃない、あの賭けはちょっとした遊びのつもりだったし、
 それに、あのままだったらあなたは死んでいたわ」

「らしくないわね、私を助けるためだったと言うの?」

「いいえ、小悪魔のためよ」

「小悪魔?」

「かわいい従者の望みは叶えてあげたいじゃない」

 パチュリーは微笑みを浮かべてそう言った。

 この行動がその後現れる本泥棒の防衛につながるのは、まだ先の話。










 

 
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『40代のおっさんが幻想入り』に続く
ゴルゴンの首
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