Coolier - 新生・東方創想話

喉を転がり

2011/07/08 00:02:33
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――我思う、ゆえに我あり。

 団子は目覚めた。



***



 ぷつりぷつりと身が切れる。ころりころりと身が回る。ぽとりぽとりと身が並ぶ。
 ひやり冷たく、硬い皿。どさり重たく、餡が被さる。少々苦しい。

「ほーい、草団子」
「はいな」

 さて、私は何だ? 草団子。自明である。自分のことだし。どうでもいいか。
 軽快な音を伴い、薄暗い中を突き進む。賑わいに溢れているようだ。

「先生にお姐さん、お待ちどおさま。草団子一皿ね」
「うん? ああ、そうだった。すまない」

 振動。

「ゆっくり召し上がって頂戴な」
「ありがとう」

 成る程、私の運命は此処に辿り着いたようだ。
 隣には葛饅頭が二皿鎮座している。しかし、先客達には切り取られた跡が見えない。歯型も付いていないようだ。何かあったのだろうか。御不興を買った? 瑞々しい肌をしているというのに、それはなかろう。ああ、私の到着を待っていてくれたのか。それだ。何はともあれ、挨拶をせねばなるまい。
 やぁ、同輩。御機嫌は如何かな。

「ほら、美味しそうだなぁ。妹紅」
「そうね」

 返事は無い。まぁよかろう。今は卓の両脇にそびえる影を迎えるべきだ。さて、私はどちらの口に入るのか。
 双方の顔は、朱に染まり強張っている。青服は笑みを浮かべているものの、金槌で頬を叩かれたなら、割れるのではなかろうか。妹紅と呼ばれた少女なら、涼しげな音が茶店に響き渡るだろう。
 食されるのは吝かではないが、緊張されていては嬉しくないものだ。
 気楽に私を食べて。

「あー、何だ。とにかく食べようか」
「そう、そうよね。えっと、それじゃ頂きます」

 ああ、私達に楊枝が迫る。噛み付きはしないというのに、恐る恐る刺さないで欲しい。見ているだけで、こそばゆくなる。いや、”餡を零さないように”という配慮か。それなら分かる。よくよく見たなら、今にも零れ落ちそうだ。優しい人で良かった。

「あれ、慧音は?」

 口の手前で宙吊りにされた私は、どういう気分になっているのだろうか。落ち着かない。

「ああ、先に食べてくれ。見ていたいんだ」
「何か照れるわね」

 この瞬間が遂に来たか。焦らされたものだ。
 さらば、私。程ない頃に、また腹の中で相まみえよう。溶けてるかも知れないけど。

「ん、甘ふておいひい」

 ああ、咀嚼されている。今頃、使命を果たす無上の快楽が、私を満たしているのだろう。
 早く私も食べて。

「それは何よりだが、物を口に入れたまま話さないように。それと」

 何だ? 慧音が圧し掛かってきたのか? 真上が良く見えない。
 餡で遮られた視界に、腕が生えた。引っ込んだ。

「これでは、うちの生徒に笑われるぞ」

 指の先には深い小豆色。成る程。

「うん、甘い」

 私と合わせてこその味だというのに、餡のみで語らないで欲しい。
 私と一緒に食べて。

「どうした、妹紅」

 何故、固まっているのだろうか。味が悪かった? いや、”美味しい”と言ってくれたはずだ。腹の中にいる私が、何か粗相をしているのか? それは無いと思うが、一体何が起きている。

「あのさ、慧音。ちょっとそういうの、きつい」

 私が口の中に残っているのだろうか。言葉が不明瞭だ。その上、両手で顔が覆われていると、聞き取り辛いから勘弁して欲しい。
 まぁ良かった。恐らく、私が原因ではないのだろう。

「すまない茶をもらってくるっ」

 既に湯呑みは、二人分あるというのに何故? 空になっているのかな。多分そうだろう。
 わざわざ自ら取りに行くとは、優しい人だ。

「もう」

 ああ、そんなに激しく揺らさないで欲しい。卓から落ちるかと思った。
 何だ? 私を見詰めてもらっても困る。両腕に載った双眸が怖い。私が何か無礼を働いたのか? いや、身に覚えなどない、多分。睨まないで欲しいものだ。全身に隙間無く、楊枝が突き立つ錯覚へ陥る。握り締められた湯飲みが痛々しい。割れやしないだろうか。

「おい、団子」

 はい、どうかなさいましたか。

「何で慧音は、あんなことしてくれるのよ」

 存じ上げません。

「死ぬかと思ったじゃない。こんなところで死体晒すのなんて嫌よ」

 私めに仰られても。

 助かったのだろう。両腕の作る窪みに、顔が沈んだ。あのまま続いていたなら、視線で殺される。私の場合は痛むのだろうか? それは問題だ。折角、優しい人に食べてもらえるというのに。早く慧音が戻ってこないだろうか。いや、二人とも優しいから、どちらでも構わない。
 優しく私を食べて。

「あー、妹紅。すまなかった」
「うん、気にしないで。嬉しかったし」

 何とも弱々しい。押し出されている心太とて、まだ幾らか芯があると思う。
 湯飲みが増えていく。四人前。餡と私のまだらになって、平穏に包まれながら腹へ収まるのは良さそうだと思う。けれども、熱い茶に混じり、喉を流れていく感覚は一体どうなのだろうか。きっと幸せが奔流となり、忘我の境地へ私を誘うのだろう。
 美味しく私を食べて。

「さて、私も頂こう。博麗のが絶賛していたならば、味に期待が持てる」

 ああ、今度はどの私だろう。

「あれ?」
「どうかしたのか、妹紅」

 何だ? また焦らされるのか? 勘弁して欲しい。
 只管に想い焦がれている瞬間は、一体何時訪れるのだろうか。

「あれって早苗よね」
「山の祝?」
「ほら、入り口の近くにいる二人」

 ”入り口”? 意識を暗がりにある座敷から、日光が眩しい往来の方へ。
 店先に置かれた縁台には、丁稚らしき風体の童が並んで腰掛けている。やや手前、机と長椅子の席には娘達が一組。こちらは店内に溢れる客とは違う、異色の服装へ身を包んでいる。
 さて、どちらだ。

「ああ、確かに。普段と違う身形だな。気付かない訳だ」
「もしかして、隣にいるのって文?」

 ”普段と違う”となると、恐らく手前の一組か。
 何やら、慧音と妹紅が相談を始めた。”見られたくない”やら”逃げる”やらの言葉が混ざっている。まさか私を捨て置いて、店を出るつもりなのか。
 憎い。至福の時間を妨げる輩が憎い。

「けど、様子が変ね。どんな時でも目敏く見つけてくるのに」

 あんな二人は放って置いて、私を見て欲しい。
 葛饅頭も泣き濡れて、静かに待っているのだ。分からないけど。

「そう言われればそうだな。祝を前に、煩悶しているように見える」
「やっぱりそう?」

 憎い奴が何をしていると言うのだ。

 ああ、団子ではないか。私の一部、私の身体。私が楊枝の先で漂っている。もう憎くない。許そう。
 しかし、一体何を? 食べてくれるのならば、自身の口先へ持っていくものだろう。けれども私は相手に向けられている。突き出している側が何事かを口にして、突き出されている側は団子を……素晴らしい。私がまた幸福へ包まれた。照覧せよ。照覧せよ。天に舞う鳥は歓喜を歌い、地を駆ける獣は喜びに踊るのだ。天照大神が光を下賜されたのだ。嗚呼、素晴らしい。

「あー」

 気の抜けた声。何事か。

「悩む訳よね」

 入り口から正面へ向き直ったが、瞬間に双方目を伏せた。何事か。



 ワラビ餅が相席になった。私には手を付けないまま。
 文と早苗が席を立った。私には手を付けないまま。
 湯飲みが一組参戦した。私には手を付けないまま。

 私を食べて



「あのさ、慧音」
「何だ、妹紅」

 沈黙が重い。餡に押し潰されそうだ。

「饅頭、乾いちゃったよね」
「そうだな」

 無残な姿だ。私の餡も干乾びてはいないだろうか。

「お茶、冷めちゃったよね」
「そうだな」

 熱い奔流は夢と消えたのか。無念だ。

「あのさ、慧音」
「何だ、妹紅」

 沈黙が重い。捏ねられている時とて、ここまでの圧力は無かったはずだ。

「このままじゃ、駄目だと思うんだよね」
「そうだな」

 その通り。このままでは、駄目になる。私が。

「だからさ」

 何だ? 妹紅が身を乗り出したのか。腕が見える。慧音が引き寄せられた。何が起きている? 餡に遮られて、真上が良く見えない。水の跳ねる音が聞こえる。何をしているのだ。私はどうなる。

「何でこんな。妹紅、人前で」
「これなら、もう恥ずかしくないわよね」

 大層息を荒げているようだが、何だったというのか。

「だから、私に食べさせて」



***



 ああ、燃え盛る悦楽。遂に訪れたのだ。

 溶ける。

 熱い。
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コメント



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団子美味え
6.100点名前が無い程度の能力 削除
団子甘え
8.90点奇声を発する程度の能力 削除
甘いぞ
9.90点名前が無い程度の能力 削除
団子視点とは、面白いですね。
でもだからこそ、少し情景が想像しにくい場面もありました。
(自分の読解力がないからかもしれませんが……)
文章の使い方やリズム感はとても好みで、楽しく読ませて頂きました。
11.100点名前が無い程度の能力 削除
二人とも熱々、甘々ですなぁ…
12.90点名前が無い程度の能力 削除
滔々と語る団子が可愛くて素敵です。
16.100点名前が無い程度の能力 削除
餡々と語る団子が…失礼、これではパクりコメ。

団子視点とは恐れ入った。いや、もこけねもいんだけど団子かわいい。
17.100点名前が無い程度の能力 削除
おおう。これは……面白い。
18.100点名前が無い程度の能力 削除
団子のキャラがすごい。まさにオリ団子。
食べられることに至福を感じているのが実に可愛い。
今度団子を食べるときに意識してしまいそうだww
19.90点名前が無い程度の能力 削除
団子ww