――0・門前のリリカル――
紅魔館の門前は、いつも心地よい光が降り注いでいる。
全身に光を浴びて大きく息を吸い込めば、それだけで心が軽くなる。
それだけで、気分も良くなるというものだ。
そうなると自然に、瞼も下がってくる。
居眠りは良くないと解ってはいるのだが、どうしても寝てしまう。
心地よい太陽が原因だ、とも言い切れないのは、きっと私を叱りに来るあの人の笑顔が見たいから。
だから、そっと目を閉じて、あの人の気配が近づくのを待っていた。
「もう、美鈴」
いつもより、声が軽い。
良いことでもあったんだろうか。
彼女が楽しそうにしてくるのなら、私も嬉しい。
「居眠りしたら、だ・め」
うん?
なんか、おかしい。
声が軽いというか口調も軽い。軽すぎる。
なんだか私の方が調子を狂わされてしまった。
それがなんだか少しおかしくて、おそらくそれを狙ってやったのに、顔を真っ赤にしているであろう、彼女――咲夜さんの方へ、顔を向ける。
「あはは、すいません。咲夜さ――」
向いた途端、視界に強烈な光が入って目を閉じる。
おかしい、振り向けば太陽は私の背中側に位置するはずなのに。
眩しさに目を眇めながらも、私は一生懸命咲夜さんを見た。
見逃して後悔なんか、しないように。
背はそんなに高くない。でも、スレンダーで猫のように美しい。
整った顔立ちに乗る朱色の唇は瑞々しく、柔らかい。
つるりと輝く頭に不自然に乗せられた、ヘッドブリム。
やや吊り目気味の鋭い瞳は、深い海を思わせる青で。
普段と何一つ変わらない、咲夜さんの――って、あれ?
「ささささ、さく、咲夜、さん」
「もう美鈴ったら、さくさくやさんって誰よ。うふふふっ」
可憐な笑みだ。
瀟洒ではあるが、あらゆる束縛から解放されたかのような陽気さを秘めている。
事実頭に太陽の煌めきを映しているのだから、そりゃ陽気にもなりますよねじゃなくて!
「その、その頭、どうされたんですか?」
そう、咲夜さんが――
「ふふ、開放的でしょ」
――禿げている。
つるっと滑るニクイやつ。
きっと一撫でしたら、その卵が如き触感にヤミツキになることだろう。
だから、そうじゃなくて!
「か、髪は、どうされたんですか?」
「最近悩むことが多くてね。ずっと一人で考えていたら自然と」
「円形脱毛症!?え?全部!?」
「うふふ、最初は焦りもしたけれど、無くなってみると開放的ね」
「いやいやいやいやいやっ!!」
咲夜さんがストレス過多!?
どうして気がつかなかったんだろう、こんなまん丸ヘッドになるまで!
「ヘッドブリムがね、気持ち良いの」
「それでつけてたんですね。って、そうじゃなくて!」
「ああ、シャンプーね。当然したわ」
「そうでもなくてっ」
咲夜さんは、依然として笑っている。
笑っているのだが、悟りの境地に達した即神仏のような表情だ。
お墓のキョンシーもびっくりな、生きたミイラ的ななにかだ。坊主だけに。
「美鈴も一緒に歌いましょう?ひとつ、人よりハゲがある~♪ふたつ、振り向きゃハゲがある~♪」
「みっつ、三日月ハゲがある~♪――でもなくてっ!」
咲夜さんの笑みが曇る。
そんな表情をして貰いたかった訳ではないのに。
慌てて周囲を見回せば、庭園の日傘の下でこちらを見つめるお嬢様たちの姿が見えた。
みんな、咲夜さんを見て労るような表情をしている。すでに、咲夜さんとお話しした後なのか……。
歌って欲しいのなら歌います。髪が欲しいなら全部上げます。
ですからどうか笑ってください――咲夜さん……。
だんだんと、咲夜さんの姿が遠くなる。
まるで、異なる空間に呑み込まれていくかのように。
深く深く、闇の中へ沈んで――
十六夜咲夜の境界線 ~Border of skin~
――1・夢の外側のライン――
――浮上する。
「美鈴?もう、またこんなところで――」
「――咲夜さん!」
逃すまいと、目の前にあった柔らかい気配に抱きついた。
ふわりと鼻孔をくすぐるのは、上品な花の香り。
咲夜さんがご自分で調合しているのだという、シャンプーの香り。
「良かった」
「え?ちょ?ええ?!めめめ美鈴、きゅうにどうしたのっ?」
視界を覆う銀の髪。
滑らかなその髪を見て、ひどく安心する。
近年まれに見る非道い悪夢だったから。
「あはは、すみません。ところで咲夜さんはどうしてこちらに?」
ここは、私の部屋だ。
質素な木造の部屋、門の直ぐ近くに建てた詰め所。
門の前で居眠りをしていたのではなく、私はしっかりと自分の部屋で寝ていたようだ。
「夢が心地よかったのはわかるけれど、寝過ぎよ」
「それで起こしに来て下さったのですか?ありがとうございま――夢?」
「夢よ、夢。貴女も見たんでしょう?お嬢様の、気まぐれの」
首を傾げる咲夜さんに合わせて、私も首を傾げた。
それからほんの僅かに考えて――そうして、思い出す。
「ああっ」
「もう」
そう、確か昨日の夜。
お嬢様がパチュリー様と結託して、珍しくまともな企みごとを打ち明けて下さったのだ。
その内容は、確か――。
『あり得る現象、起こり得る未来。その中でも最も望むものを夢に見せてあげるよ』
『レミィの能力で未来を一部算出し、私が魔法で夢を見られるように調整するわ』
『未来予知ほど上等なものじゃないが、面白い催しではあるだろう?』
――そうだ、確かこんな内容だった。
なんだ、そうか、夢だったのか。
「それなら――――余計安心できない」
「美鈴?」
「あ、いえ、なんでもないです」
あり得る未来、起こり得る現象。
ということは、私が見たあの夢は、未来に起こる可能性のあること。
私が見た、光り輝く咲夜さんの頭がっ!
「うぅ、アレがなければ、お嬢様たちも交えて咲夜さんと楽しくお話する夢だったのにっ」
「なにをぶつぶつ言っているの?朝ご飯、片付けちゃって」
「は、はいっ」
災難、なのだろうか。
私はそれだけでは、ないような気がする。
だって、そうだ、確か。
『最も望むものを――』
私が、つるっとした咲夜さんを望んでいた?
私が、妙に滑らかな咲夜さんを見たがっていた?
そんなこと、あるはずがない。
「だったら、答えは一つ」
素早く着替えて、帽子を頭に乗せる。
そういえば咲夜さんがまだ部屋にいたが、まぁいいか。
というか、別に目を逸らさなくても、気まずいなら時を止めて外で待っていればいいのに。
「あれはきっと――――“警告”だ」
私は門番だ。
館のみんなを外敵から護り、危険を未然に防ぐ門番だ。
私よりも館のみんなの方が強かったりもするけれど、それでも私はお嬢様から門を任されているのだ。
だから、私の信条は守ること。
だから、私の信念は護ること。
咲夜さんが如何にして滑りが良くなってしまったかは、わからない。
けれどそれほどまでに大きなストレスに襲われているというのなら、私はそれを取り除きたい。
館のみんなを護ることが使命だというのならば――咲夜さんの髪だって、護ってみせる。
「行くわよ、美鈴。っと、そういえば」
部屋を出て歩きながら、咲夜さんは私の声をかける。
背中を見せたまま、何気ない風に。
「美鈴は、どんな夢を見たの?」
咲夜さんの頭がスケートリング並に滑りやすくなる夢です。
……なんて風に出かけた声を、ぐっと我慢する。
「咲夜さんとお話をする夢ですよ。門前で、みなさんと、咲夜さんと一緒に」
「っ――そ、そう。というか、今日の美鈴、ちょっと変よ?」
「あはは、それはきっと咲夜さん(の毛根)が私を変にさせているんです」
「そそそ、そう」
後ろから咲夜さんを見れば、何故かその耳が赤くなっていた。
でも今はそこに気を割く暇は無い。
差し当たって考えることは……。
「もう、寝ぼけているのかしら?居眠りはしないでね?」
「ええ、咲夜さんのためにも!」
「なんで私の為なのよ、お嬢様のためでしょう?もう、調子が狂うわね」
まぁ、居眠りをなくすことから始めようかな。
どうにも気が抜けて寝てしまうのだが……どうやって眠気を拭おうか。
ううん……これは私の、課題だ。
咲夜さんのストレスは、私が除きます。
ですからどうか、ご無理はなさらないで下さいね?咲夜さん。
――2・朝食前のメランコリック――
紅魔館のみんなが食事をする時間は、前はばらばらだった。
でもあの異変の後から、お嬢様は昼間に起き出すようになった。
そのため、朝食も揃って食べるのだ。
大きな長机の置いてある部屋。
そこが、リビングだ。
到着すると同時に咲夜さんの姿が消えて、私はその場に残される。
「あっ、美鈴さん!」
「こあちゃん……おはよう。それからパチュリー様も、おはようございます」
「…………ええ、おはよう」
パチュリー様はそれだけ呟くと、すぐに視線を本に落とす。
心なしか、気分が優れないように見えて、こあちゃんに目配せをした。
けれど彼女もまた疑問に思っていたのか、ただ“わからない”と目で訴えて首を振る。
「っとそうだ!昨日はありがとうございます!」
「昨日?」
「わっ」
朝食を運んできたのだろう。
机の上に一瞬で料理を並べた咲夜さんが、小首を傾げる。
「えへへ、昨日実は、美鈴さんに和菓子を作ってもらったんですよ!」
「和菓子?貴女もたいがい器用ね、美鈴」
「あはは、まぁ長く生きていますから、自然と」
器用貧乏、というやつだ。
万能と言うにはほど遠い技術を、沢山持っている。
それはやはり、私が旅をしてきた期間が長いことなども、一因としてあるだろう。
「また食べたかったら何時でも何時でも言ってね?その時は、咲夜さんも是非」
「あら?いいの?それなら、ありがたくいただくわ」
「よろしいんですか!?おまんじゅうに白玉ぜんざい栗きんとん!そしてなにより――水ようかん!」
こあちゃんはそう言いながら、その場でくるくると回る。
確かに、私が普段よりも丹精込めて作ったぜんざいと水ようかんは好評だったけど、そんなに気に入ってくれていたとは。
「ああ、あの至福の時間がっ、もう一度っ、味わえるなんてっ!」
「大げさだよ、こあちゃん」
こあちゃんを窘めると、咲夜さんはその光景に苦笑して、その場を去る。
私はそんな咲夜さんの背中を見送った後、パチュリー様の姿を見た。
普段は“うるさい”と毒舌の一つでも吐き出すのに、今日はやけに静かだった。
うーん、こっちも気になるなぁ。
まぁ、しばらくはこあちゃんに頼むしかないんだけど。
お嬢様が来て、フランドール様が来て、みんなが揃うと朝食が始まる。
夢見が良かった――望む夢だから、普通はそうだ――のか、お嬢様は上機嫌だ。
笑顔で納豆をかき混ぜて、刻みネギと海苔と生卵を和えてご飯にかけ、上から上方の醤油をかけて食べている。純和風吸血鬼だ。
お嬢様の隣では咲夜さんが、食事をしながら世話をされている。
気は乱れていない……と思うけれど、好調にも見えない。
乱れていると言えば、パチュリー様とフランドール様だ。
パチュリー様を心配して気が乱れているこあちゃんは良いとして、お二人はどうされたんだろう。
「うーん、これはいったい」
夢で、みんなの“なにか”が浮き彫りになったかのように。
白いご飯に柴漬けを乗せて、食べる。
さすが咲夜さんのお手製柴漬け。咲夜さんのお手製たくあんの次に美味しい。
今度、ぬか床研究でもしてみようかな。
私はそう、意識を逸らす。
一度思考を纏めるためにも、必要だと思ったから。
「やることは、多そうだなぁ」
でも、諦めたりはしない。
咲夜さん髪を、諦めたりは、絶対にしないと決めたから。
だから私はさっさとご飯を食べることにした。
力をつけないと、できることもできないのだ。
――3・吸血鬼的センチメンタル――
お嬢様の部屋へ、足を向ける。
夜の間でどんなことがあったのか、お嬢様への定時報告。
小まめにする必要はないのだが、咲夜さんのストレスをどうにかしたいという話だったら、まずはお嬢様にするのが道理だ。
「失礼します」
ノックをして、返事をした気配を感じて、部屋に踏み込む。
赤い調度品と赤い壁、ほとんどが“紅”で染まった部屋だ。
思えば、この部屋をしっかりと見るのも久々かも知れない。
なんだ、私もけっこう余裕がなかったんじゃないか。
「定時報告に参りました」
「そう、珍しいのね。変わったことでも?」
「はい、平穏そのものです」
「そう、悪魔の館的には変わった事ね」
時折、お嬢様は門まで来て下さって、漫画を貸してくれる。
スペルカードルールが適用される前では考えられない、平穏な日々。
そうなると定時報告の内容も、自然と妖精を追い払った程度の事に落ち着いた。
「今日は博麗神社にでも遊びに行くから、適当に休んでいて構わないわ」
「はいっ」
殺伐とした世界ではなく、平穏な世界でお嬢様と言葉を交わす。
その大切さ、その嬉しさを、私は一時たりとも忘れたことはない。
だから私は――気が、緩んでいたのだろう。
「――あんまり、咲夜さんに無茶をさせないで下さいね」
そう、言ってしまったのだから。
「それは、なに?」
お嬢様の身体から、薄く赤の霧が漏れる。
鋭く細められた目、縦に割れた瞳孔。
引きつるような笑顔と、威圧感。
「私よりも咲夜を、従者を心配しようって事?」
「へ?」
「ずいぶん偉くなったわね、中国」
怒ってらっしゃるぅぅぅッ!?
確かに、博麗神社へ――太陽の下で外出しようというお嬢様にかける言葉なら、お嬢様を心配するのが筋だ。
お嬢様は、私にとって最強の吸血鬼。日光程度には負けないと、信じている。
だがそれなら、なにも言わなければいいのだ。
そこで咲夜さんだけを心配するのは、おかしい。
「貴女も最近気が緩んできたみたいね。締め直した方が良いかしら?」
まずいまずいまずいっ。
内心の動揺を悟られないように、表情を隠す。
お嬢様に怒られるのはまぁいいが、忠誠心を疑われるのは嫌だ。
だがこのままでは、生きて帰れるかもわからない雰囲気になってきた。
どうにか、どうにか切り抜けないとっ。
私はそう脳に気を回して活性化させて、状況を切り抜けるための手段を探す。
虹色に閃け、私の灰色の脳細胞ッ!!
「お嬢様」
「遺言かしら?」
「咲夜さん“ばかり”に無茶をさせないで下さい」
「?」
頭が冷える。
熱量過多でヒートした頭が、三週して落ち着き始めた。
「遊びに行かれるのでしたら、館のことは私やメイドたちにもお任せ下さい。もっと、私たちを頼って下さい――」
「美鈴、貴女……」
「――平穏な世界の中でも、私は護りたいんです。お嬢様の我が儘も願いも、私にも預けて下さい」
本音ではある。
けれど、こんな時でなければ、絶対に言えなかった。
ああ、顔から火が出そうですよ、お嬢様。
「咲夜さんだけではなく、もっと私も頼って下さい。お嬢様が一言命を下されば、私はなんだって、護って見せます」
言い切る。
もうこれ以上ない、真剣な表情で。
言いながら、私は自分の言葉に同意していた。
門を護れ。
そんな言葉を言われなくなって、どれほどの時間が経ったことだろう。
激動の時代に比べたら、瞬きするほどの時間すら経っていない。
それでも私は、平穏の世界の中でも、望んでいたんだ。
「お嬢様の心の安寧を、私にも護らせて下さい!」
「美、鈴……そう、そっか」
お嬢様は、威圧感を内側に納める。
もうその身体から重い空気は発せられておらず、瞳には穏やかな光が宿っていた。
「美鈴」
「はいっ」
「今日は博麗神社に行ってくるから、その間――門と庭園はよろしくね」
「はいっ、お任せ下さい!」
そうだ、この一言だ。
この一言があるなら、居眠りなんかしていられない。
だって、お嬢様の言葉があるんだからっ。
「咲夜が館の仕事をしている間は、貴女にも色々とやってもらうわよ」
「如何なる命でも、必ず完遂させて見せます!」
「幽香から日傘をとってこいとか言っても?」
「お嬢様が、私に命じて下さるのであれば」
日傘かぁ……死ぬかも。
そう、頭をよぎる。
けれどそれでも、私の言葉は変わらない。
私の意志は、ぶれない。
「ははっ、そう。それじゃ、その時はよろしくね」
「はいっ」
報告を終えて、約束を交わし、お嬢様の部屋から退出する。
結果的に咲夜さんの負担は分担させることが出来そうだ。
けれど、どちらかというと、自分の為になる結果に落ち着いてしまった。
「まぁ、でも」
居眠りをしないのなら、咲夜さんの負担が減るはず。
なんだそれなら、当初の目的は果たして――いや、待て。
「咲夜さんのストレスのこと、お嬢様に言い忘れた」
このまま、このタイミングで戻ることは出来ない。
というか今のタイミングで戻ってそんなことを言ったら、今度こそどうなるかわからない。
「うーん……他のことから、片付けよう」
気のレーダーで察知した、窓の外。
そこから門に近づく気配に、息を吐く。
次にやらなければいけないことが、決まった瞬間だった。
――4・魔法使いのフレンドリー――
門番妖精たちの統率された弾幕が、魔法使いを追い立てる。
けれど彼女は、箒を自在に操り、星の光を展開させた。
真昼の空に浮かぶ恒星――霧雨魔理沙の弾幕だ。
「星符【メテオニックシャワーッ】!」
「まったく、もう。彩符【彩光風鈴】!」
私の虹色弾幕と、魔理沙の五色の弾幕が衝突する。
すると空間にガラスの割れたような音が響いて、魔理沙は空中に止まった。
「よう美鈴」
帽子を掴んで、指で弾く。
少年のように笑う姿からは、彼女の快活な性格がよく表れていた。
「魔理沙、今日はちょっと話があるの」
「残念だが、今日は忙しいぜ」
「パチュリー様から本を盗んでいくこと何だけど」
「どうにかしたいなら、方法は一つだ。そうだろ?」
魔理沙はそう言うと、スペルカードを掲げた。
枚数は三枚。ならば私も、と三枚のスペルカードを掲げる。
魔理沙は、誰よりも弾幕ごっこを愛している。
それなら、枚数を誤魔化すようなマネはしないだろう。
「行くぜ――光符【アーストライトレイ】!」
魔理沙が放った弾幕を、避ける。
すると地面に打ち付けられた弾幕から魔法陣が出現し、空に伸びる一条の光と化した。
腕を掠り、足を掠り、髪を掠らせて魔理沙に肉薄する。
「虹符【烈虹真拳】!」
「おわっ!」
アーストライトレイを撃ち落としながら、虹色の気を纏わせた連撃で迫る。
けれど魔理沙だって、伊達に異変解決に乗り出してきた訳じゃない。
拳の雨を縫いながらグレイズする姿は、流石だ。
「今日はいつになく本気だな、美鈴!……儀符【オーレリーズサン】!」
魔理沙は自分の周囲に四つの球体を出現させると、そこから細いレーザーを乱射する。
さっきから小手先ばかり。ということは、彼女が得意な超威力魔法は、最後の一枚か。
だったら私も、最後の一枚を警戒して、ある程度余力を残しておくべきだろう。
「言ったでしょ。話したいことがあるからね!彩符【極彩沛雨】!」
身体を回転させ、虹色のクナイ弾を頭上に放つ。
それは空中で方向を変えると、周囲に雨のように降らせて魔理沙の弾幕を打ち消した。
咲夜さんの有頂天に太陽を昇らせないためにも、私は負けられないから!
「今日も通らせて貰うぜ、美鈴――恋符」
「そうはいかないわよ、魔理沙――気符」
身体の内側に、気を練る。
お嬢様に任された門。
お嬢様に命じられた、守護の使命。
その言葉が、私の気を増幅させる!
「【マスタァァァァ…………スパァァァァクゥゥゥッッッ】!!!」
「――【猛虎内剄】――」
気を溜めた状態で、両手で太極を描く。
巨大な魔力の固まりを見据えて、私はそっと両手を突きだした。
受け止める必要はなく、避けるつもりはなく、破ることは出来ず。
なら全て、空に還してしまえばいい!
「でりゃぁぁぁぁぁっっっ!!!」
「なっ!?」
マスタースパークの軌道を、空に向ける。
両手に強い熱が伝わり、激痛を私に響かせてもなお、空へ流していく。
そして――放ったばかりで隙だらけの魔理沙へ、思い切り踏み込む!
「彩光【でこぴん撃】」
――バチンッ!
「あだっ!?」
スペルカードではなく、ただ虹色に光だけのデコピン。
けれど内部に伝わるように気を流したから、魔理沙は痛みから箒を手放した。
「はい、捕獲っと」
「ううぅ、痛いぜ」
抱き留めて、そのまま額に手を当てる。
気脈から痛みを緩和させるのは、私の得意とするところだ。
虹色の輝きが魔理沙の額に当てられて、淡く、輝く。
「あーくそっ、負けちまったか」
「そうね。それで、話したいことだけど……」
「お小言とか止めてくれよ?バカになっちまうぜ」
魔理沙はそう、息を吐く。
彼女には、泥棒家業をやめて貰わなければならない。
それが、咲夜さんのストレスを減らすために必要なことなのだ。
私が、魔理沙との弾幕ごっこに勝てなかったから、目を逸らしてきたことに向き合う。
それができる機会を、与えられたのだから。
「なんだよ。言いたいことがあるんならさっさと言え。私は負けたんだからな」
「そう、それなら言わせて貰うわ」
地面にあぐらをかいていた魔理沙が、気まずげに目を逸らす。
私は、そんな魔理沙の視線に合わせるように、屈んだ。
「魔理沙が来ると、ね――」
「迷惑、ってか?」
「――咲夜さんは、嬉しそうに笑うの。“友達”が、遊びに来たみたいに」
「え?」
思いもよらない言葉だったのだろう。
魔理沙は思わず顔を上げて、それから直ぐ近くにあった私の目を、覗き込んだ。
困惑を、瞳に浮かべながら。
「でもね、館のメイドたちが貴女のことを“泥棒”っていう度に、悲しそうに笑うのよ」
風のようにやってきて、流星のように門を破り、彗星のように去っていく。
その姿に、妖精メイドたちは苛立ちを浮かべていた。
「それって……」
「咲夜さんは、貴女を“友達”として招きたいの。でも、貴女は盗んでばかりだから」
「……」
魔理沙は、ぐっと押し黙る。
実際に咲夜さんがそう言った訳ではない。
表情に出したのだって、ほんの僅かだ。
けれど、ほんの僅かでも――咲夜さんが、表情を歪めたのだ。
「魔理沙、本が借りたいのなら掛け合ってあげる。返しにくいなら、一緒に行ってあげる」
「あ、いや、それは、なんというか」
だから、そう、だから。
魔理沙が気の良い人間だということは知っている。
いつも正々堂々と乗り込んでくる姿には、私も好感を抱いている。
だから、そう、だからなんだ。
「お願いだから、咲夜さんに――“私の友達は、泥棒なんかじゃない”って言わせて」
「ッ……美、鈴」
私の言葉に、魔理沙は膝を立てる。
僅かだけれども、魔理沙の瞳は水気を帯び始める。
「私は、今からでも間に合うのかな?」
「間に合うわよ。咲夜さんと“私”の友達だもの」
「美鈴……そうか、そうだよな、ありがとう。美鈴」
魔理沙は目元を拭うと、私に背中を向けた。
図書館に行くつもりではなかったのかと見ていると、彼女の“気”が羞恥に乱れた。
「ちょっと、家から本を取ってくるぜ。量が多いから、手伝ってくれ」
「魔理沙……ええ、いいわ。パチュリー様、驚くだろうなぁ」
門番隊の子にその場を任せて、魔理沙と一緒に空を飛ぶ。
それから私は、隣を飛ぶ魔理沙の頭に、手の平を置いた。
「ありがとう、魔理沙」
「礼を言うのはこっちだぜ。ったく……急ぐぞ、美鈴!」
勢いよく飛び出す魔理沙に、慌てて着いていく。
その箒から零れる星色の光は、普段よりもずっと、優しげなものに見えた――。
――5・魔女と悪魔のロジカル――
魔理沙は図書館に本を返し終えると、驚くパチュリー様に自分から返却期限を告げて、また借りていった。
もう返さないことはないだろうし、強引に盗んでいくこともないだろう。
一息ついた図書館で、ふと視線を傾ける。
すると、悲しげな表情で佇むこあちゃんの姿が目に入った。
そういえば朝から元気がないし、ちょっと声をかけておいた方が良いかもしれない。
「こあちゃん」
「……美鈴さん」
「朝から元気がないけど、どうしたの?」
昨日は、あんなに楽しそうだったのに。
なのに今日になって、急にこれだ。気にならないはずがない。
「いえ、その、実は――」
こあちゃんの話に、耳を傾ける。
どうにも朝から、パチュリーが冷たい。
目を合わせようとしても逸らし、意図的に避けているように見えるのだという。
「こうなってしまった心当たりも無く、いったいどうしたものかと……」
こあちゃんは、悲しそうに目を伏せる。
お嬢様もよく訪れる、地下大図書館。
ふと心の安らぎを求めてやってきたこの場所が、もしもこの先ずっと、どんよりとしていたら?
「ストレスで五百円サイズのアレが、頭頂部に……」
「美鈴さん?」
「あ、ううん、なんでもなくて」
まずい。
こあちゃんもパチュリー様も心配だけど、でも咲夜さんも心配だ。
こう、これが原因で木魚のように健やかな音を発しそうな頭にでもなったら――。
「ちょっと、私が話を聞いてくるね」
「え、でも――」
「いいから、任せて」
「――は、はい」
戸惑うこあちゃんを置いて、ついでに“気”を操ってこあちゃんの気配を消しておく。
これで、パチュリー様はこあちゃんが近くにいても気がつくことはないだろう。
普段ならいざ知らず、様子のおかしいパチュリー様相手ならば、なんとかなる。
私はそう、パチュリー様の背後から声をかけた。
「いやぁ、本が返ってきて良かったですねぇ」
「そうね。で、貴女はここで何をやっているの?」
「あはは、ちょっと休憩です」
「門に戻りなさい。休憩があるなんて聞いてないわよ、門番」
名前すら呼んでくれないとは……これは相当、不機嫌だ。
だけどどうにかして聞き出さないと、原因がわからなければどうしようもない。
「調子が悪いんですか?パチュリー様」
「生まれつきよ、貴女に気遣われるようなことではないわ」
「いえ、しかし」
「黙りなさいと言ったのよ、門番」
本を閉じることなく、振り向くこともなく。
パチュリー様は私に、背中越しに言い放った。
その声は厳しく、“気”は乱れている。
「こあちゃんも、心配していますし……」
「あの子に心配されるようなことは、何もないわ。面倒な子ね」
こあちゃんの気配が跳ねて、揺れる。
ぐぅ、地雷だった。あからさまに、傷ついている。
というかそもそも、このやり方が私に合わないんだ。
私はもっと、正々堂々立ち向かった方が、性に合う。
そう、魔理沙のように。
「はぁ……頑固ですね」
パチュリー様の正面に回り込んで、椅子に腰を下ろす。
そしてそのまま、本に目を落とすパチュリー様を、一直線に見つめた。
「どうして、こあちゃんを避けるんですか?」
ストレートに、言い放つ。
するとパチュリー様は、あからさまに肩を跳ねさせた。
まったく、知識と日陰の魔女らしくない。
「避けてなんか、いないわ」
「いいえ避けています。“気”がつかない私だとお思いですか?」
「……」
パチュリー様は声を返さず、ただ本のページをめくった。
瞳を動かさずに本が読めるのだろうか。
それで、本を読んでいるフリが出来ているつもりなのだろうか。
「何か躓くようなことがあるのなら、私に話してみて下さい」
「路傍の石に注視しない私ではないわ。本に聞いていた方が有益よ」
「それで全て得られるとは限りません。いっそ話してしまえば、本では得られないものを得ることが出来るかもしれませんよ」
目を見て、瞳を覗き込み、心に言葉を傾ける。
パチュリー様はそれに、更に深く目を伏せてしまった。
ううむ、もう一がんばりだろうか。
そう内心で呻っていたが、しかしパチュリー様は口を開いてくれた。
「――私の“夢”には、図書館とみんなが在った。でもそこに、小悪魔はいなかった」
小さく告げて、それから「それだけよ」と繋げる。
望んだものを見る夢。その風景に、望んだ人がいなかったら?
その意味に、息を呑む。
「紅茶を飲んで眉を顰めるレミィ、隣で佇む咲夜、レミィの背後に隠れる妹様」
本を掴む手が、震えているような。
そんな風に、見えた。
「図書館の入り口で手を振る美鈴、溢れる本、少し冷めた紅茶、そういえば魔理沙の姿もあったわ」
でもそこに、こあちゃんの姿は無かった。
そう、パチュリー様は言外に吐き出す。
望んだもの、望んだ光景、あり得る未来、楽しげな自分。
そこに、大切に思っていたはずの存在が、無かった。
「私は小悪魔を信頼していた。側に在るのが当然だとも思っていた。でも、それは私の思い込みだったのかも知れない。私はね、美鈴。私が……信じられないのよ」
普段口数の多くないパチュリー様が、一息で言い放った。
辛そうな表情で俯くパチュリー様、唇を噛むこあちゃん。
ダメだ。このまま終わったら、きっと近い将来ダメになる。
聞き出しても聞き出さなくても、結局猜疑心が二人を蝕んでしまう。
焦るな。焦るな。焦るな。
ストレスで誰もが禿げ上がってしまうような未来を、否定しろ!
「これでわかったでしょう?私は結局、自分の心もわからなかった冷たい――」
「――先程の光景ですが、パチュリー様の前には紅茶があったんですよね?」
パチュリー様が自分を決定づけてしまう前に、遮る。
ここで言い切ってしまったら、後は意地だ。
きっとこの頑固な知識人は、そのポジションを貫こうとしてしまう。
「ええ、そうよ。でもそれは」
「違います、そう、そこがおかしかったんです」
見逃してはならない箇所。
冷静であれば、パチュリー様もわかったであろうポイント。
「咲夜さんは、私たちに常に紅茶の一番美味しい“時間”を届けてくれます」
「ええ、そうね。いつも、助かっているわ。で?それが?」
話を逸らされたとでも思ったのだろうか。
パチュリー様の瞳に、剣呑な光が宿る。
ここで適当なことを言ったり本当にはぐらかしでもしたら、ロイヤルフレアで頭上にお日様を戴いてしまうことだろう。
「わかりませんか?咲夜さんが淹れた紅茶なら――冷めるはずが、ないんですよ」
「え?」
「時間を停止させて、一番美味しいタイミングを保ってくれますから」
「でも、だったら――ぁ」
パチュリー様も、気がついたのだろう。
手から本を落し、それから目を瞠る。
本当に手のかかる、知識人だ。
「いつも、パチュリー様の一方後ろで、微笑んでくれる。それを、当然だと思っていたんじゃないですか?」
「っ」
パチュリー様は、私の言葉を受けて振り向く。
そこには既に、走り寄ってきたこあちゃんの姿があった。
「小悪魔、貴女、何時の間に」
「ずっと、居りました。パチュリー様、私はずっと、居たんですよ?」
「小悪魔…………ええ、そうね。そうよね。ほんとう、バカみたいだわ」
パチュリー様は立ちあがり、こあちゃんの頬に手を這わせる。
そこに流れる、熱を持った雫を拭い去るように。
「まったく――――これじゃあ私が、邪魔者みたいじゃないですか」
息を吐いて、気配を消す。
ここは二人きりにしてあげるのが、出来る門番というやつだ。
せっかく勘違いが解けたのなら……その分、しっかり仲良くして欲しいから。
だから私は、そっと図書館から離れる。
漏れ始めた嗚咽を、思考の範囲から弾きながら。
――6・吸血鬼的バイオレンス――
ここまで来たら、もう徹底的にやるしかないだろう。
そうなると、咲夜さんの悩みの中でも、一番難しいものに当たる必要があった。
私が弾幕ごっこで“遊び”の相手になる度に、咲夜さんは憂いを込めた瞳で私の“向こう側”を追っていた。
図書館近くの階段。
とっくに幽閉は解かれているのに、地下を自室としてしまってそのまま住み着いている、お嬢様の妹様。
フランドール様のことが、残っていた。
「うーん、緊張するなぁ」
私は館で一番丈夫だ。
再生力ではともかく、防御力だけならお嬢様にも負けない自信がある。
だから、弾幕ごっこ制定前から、私はフランドール様の遊び相手をしていた。
階段を下りながら、フランドール様と咲夜さんのことを考える。
フランドール様は、咲夜さんとお話しするときに限って、気まずげだ。
何時まで経っても、一歩引いているという感じだろうか。
親しくなっているはずなのに、踏み込ませはしない。
そのことが咲夜さんにとって辛いことで、咲夜さんとフランドール様の和解を望むお嬢様にとっても放って置けないことで、そしてフランドール様としてもそのままにすることは出来ないのではないのだろうか。
だって、三人が揃うと、必ず誰かが、瞳に憂いを浮かべているのだから。
「フランドール様、失礼します」
重い扉を、開ける。
扉の作りそのものは変わっていない。
けれどこの扉は、昔に比べたらずいぶんと“軽く”なったと思う。
「美鈴?」
今、地下室は暗くない。
異変後正式に幽閉が解かれ、その後もこの部屋に居続けるようになったフランドール様のために、部屋を明るくする魔法が掛けられているのだ。
その部屋の中央で、フランドール様は本を読んでいた。
分厚い本だ。私はどうもあの手の本は肌に合わなくて、読もうと思えない。
「調子はいかがですか?」
「ぼちぼちよ。本で暇は潰せているから、退屈でもないかな」
フランドール様は、本を手放すと、そのまま背もたれに体重を預けた。
木製の椅子をぎしぎしと鳴らす姿に、思わず苦笑してしまう。
お嬢様に見つかったら、また礼儀作法についてお叱りを受けてしまうことだろう。
「そんなことを聞きに来たんじゃないでしょう?どうしたの?急に」
フランドール様の声は、穏やかだ。
これなら、案外さくっと要件を終わらせることが出来るかも知れない。
「ああいえ、咲夜さんのことで少しお話が――」
「――話すことなんかないよ」
斬って捨てられる。
あれ?なんか、少しトーンが下がった気がする。
これはなんというか、また地雷を踏んだのだろうか。
うぅ、下手すると、咲夜さんより早く私が禿げる。
そうしたら、紅魔館は働くと禿げると噂されてしまうかも知れない。
ハゲだけに励ましてやろう!とか言われたら、立ち直れない。ハゲだけに。
「も、もう少し咲夜さんに近づいてもいいと思いますよ?」
それでも、ここで退けない。
退けないから、更に言葉を連ねた。
「近づく?ねぇ美鈴、それ意味わかってる?」
「フランドール様?」
「近づいても良いですって?ねぇ、美鈴――貴女に、何がわかるの?」
ふらりと、立ち上がる。
お嬢様と良いフランドール様と良い、早急に結論を出しすぎだと思う。
私はフランドール様から放たれるプレッシャーに震える身体を、“気合い”で表情に出さないようにしていた。
「あのね、美鈴。咲夜は人間で私は吸血鬼なの。根本的に力が違うんだよ」
「能力は、制御できるようになられているかと思うのですが……」
「能力はね。でもうっかり手加減を忘れたら?日常の一挙一動が、暴力になる」
……そうか。
情緒不安定から施された、長年の幽閉。
食べ物の形でしか人間を知らなかったフランドール様は、未だにわからないと言っているんだ。
人間と、咲夜さんと触れ合って、うっかりと“妖怪”の力を使ってしまうかも、わからないと。
「美鈴は物覚えが悪いみたいだから――――久々に、“思い出させて”あげる」
「へっ?」
フランドール様から、お嬢様によく似た気配が膨れあがる。
流石ご姉妹というだけあって、プレッシャーもかなりものだ。
いやぁ、ずいぶんと立派になられて、嬉しく思います…………じゃなくて。
「久々に遊びましょう?――禁忌」
フランドール様が、歪な杖を掲げる。
するとそこに真紅の炎と光が集い、巨大な剣を出現させた。
「【レーヴァテイン】」
ままま、まずいぃぃっっっ。
魔理沙との弾幕ごっこで、体力はかなり消耗している。
うっかり消し炭にでもされたら、流石の私も三途の川で小町さんと従者談義をせねばならなくなってしまう。
「上手く踊ってね?」
「ッ考えている、暇は無いかっ」
真紅の剣が揺らめき、横に振られる。
熱波と共に襲いかかってきたそれを、屈んで躱す。
けれど追従してきた魔力弾が、私の脇腹を容易く打ち付けた。
「ぐっ」
「ほら、避けてばかりじゃ終わらないよ?」
どうにか、打開策を考えないとっ。
そう、頭に気を巡らせて、考える。
とにかく答えを導き出そうと、脳を活性化させる。
「ねぇわかるでしょう?怖いでしょう、吸血鬼の、力」
声は、穏やかだ。
激情を内側に抑え込み、平坦な声を出している。
「これが私のニュートラルなの。ただ振るっているだけの力が、これッ!」
「ッ」
再び振られた大剣を、避ける。
薙ぎ、唐竹、払い、袈裟、逆風、突き。
追従する弾幕を身体で受け止めながらも、フランドール様の言葉に耳を傾ける。
痛みなんか、思考の外側へ追い出せ。今考えなければならないのは、そんな些細な事じゃない!
「美鈴に何がわかるの?私が触れただけで、壊れてしまうのが人間。戦闘中ならいざ知らず、日常生活でも私の力は強大すぎる」
「フランドール様……」
弾幕ごっこの最中なら、あらゆる攻撃を予想して動くことが出来る。
だから例え人間だろうと、身体が脆かろうと、技術で対抗することが出来る。
それなら、気を抜いている日常生活の中で、力を揮ったら?
「手を握れば潰してしまう、抱き締めれば壊してしまう。私たちよりずっとずっと、人は脆いんだ」
フランドール様の悩みが、葛藤が見えた。
でもそれなら、いや、だからこそ。
「ねぇ、美鈴にわかるの?笑い合いたい人と触れることも叶わない、私の気持ちがッ」
そう、だからこそ。
言わなければならない。
前に進み、本当の幸福をみんなの手中に収めるためにも!
「わかりません」
目を見て、言い切る。
わからない。わかってなんか、やりませんよ、フランドール様。
そんなに恐れる必要なんか、きっと、ない。
「ッ――結局それなんだ。なら」
フランドール様が、大剣を振り上げる。
荒れ狂う魔力、圧倒的な暴力、不器用な力。
そこに込められた想いがわからない、私ではない。
ずっとフランドール様と触れ合ってきた。
ずっとフランドール様のお側にいて、力を味わってきた。
だから私には、わかる。
わかるから、わからないって言うんだ!
「そろそろ、寝ていなさい!」
振り下ろされる剣に、ただ佇む。
避けようとしない私を見て、フランドール様は咄嗟に剣筋をずらした。
私の真横に、叩きつけるように。
「なんのつもり?次は、当てる――」
「――わかりません。ええ、わかりませんとも。どうして」
「美鈴?」
フランドール様の、真紅の瞳を覗き込む。
その瞳が僅かに揺れたのを、私は見逃さなかった。
「どうしてフランドール様は、もっと信用されないんですか?」
私の言葉に、フランドール様は首を傾げる。
怪訝な感情を、表情に乗せて。
「信用?してるよ。お姉さまもパチェも小悪魔も咲夜も、もちろん美鈴だって」
それは嬉しい、けれども。
一つ、忘れている。
「いいえ。肝心なことを忘れています」
「肝心な、こと?」
きっと言わないと、フランドール様は気がついてくれないだろう。
だって彼女はこんなにも、咲夜さんを傷つけることを恐れているのだから。
「どうしてフランドール様は――もっとご自分を、信用されないんですか?」
「え?」
フランドール様が、息を呑む。
思わずレーヴァテインを消して、私の瞳を覗き込んだ。
「真紅の魔弾が私の身体を、何度も撃ち付けました。真紅の魔杖を当てる機会も沢山ありました」
もしも、一昔前のフランドール様だったら。
……私はきっと、ボロ雑巾のように倒れ伏していたことだろう。
「それでも私は、こうして立っています。何故ですか?」
「それは、だって、手加減くらいする、から」
戸惑いが声に含まれ、風に乗って響く。
もう、答えは出ていた。
「そうです、以前では考えられないほど、フランドール様はご自分の力を制御しています」
「そんな、こと」
現に私は、後遺症もなく立っているのだ。
弾幕をこの身体で受けて、なお。
「どうしてもっと、信用されないんですか?フランドール様は、もっと自信を持って良いんです」
「自信?信、用」
「そうです。感情が高ぶってしまう弾幕ごっこの最中でも、手加減をしてくれましたね?」
「……」
その根底には何があったか。
少し考えれば、わかることなのに。
なのにフランドール様は、未だ眉を寄せていた。
「もっと信用して下さい。ご自身の、頑張りを」
「っ」
「手加減できるように、ずっと努力を重ねてきたんですよね?でしたら、それを信じて下さい。こうして貴女の前に立ち、万全で言葉を交わすことが出来る私が――」
息を呑むフランドール様に、最後の一言を告げる。
安心させるように近づいて、膝を折って視線を合わせ、微笑む。
彼女が笑顔になって欲しいと、願いを込めて。
「――貴女の努力の証明なんです。フランドール様」
手を握って、彼女を見る。
するとフランドール様は……大きく大きく、ため息をついた。
肩を竦め、泣き笑いのような表情で、口を開く。
「もう、なにそれ」
私の手を払い、手に平を合わせるように位置を変えて、握り返す。
その手はほんの僅かに、震えていた。
人間を壊してしまわないように、手加減された力。
その力は、優しくて、温かい。
「美鈴には、敵わないなぁ――私、もっと信用してみるよ。私自身の、頑張りを」
そうして告げられた言葉は、穏やかなものだった。
なによりも穏やかで、優しいものだった。
「……はいっ」
「わっ……ちょっと美鈴、もう」
感極まって、抱きついてしまう。
本当に大きくなられて、本当に成長された。
ずっとお嬢様と共に見てきたからこそ、嬉しくて、たまらなかった。
「ありがとう、美鈴」
「いえ、私は門を開いたに過ぎません」
「門番なのに?」
「門番だから、ですよ」
歩いたのも、潜ったのも、前を見据えたのも。
全て、フランドール様の頑張りだ。
私はただ、扉の場所を指し示したのに、過ぎないんだから。
もう、これで大丈夫だろう。
もう、フランドール様は迷わない。
だってフランドール様は、お嬢様の妹なのだ。
一度前を見たら、もう――躓いたり、しない。
私はそれを知っている。
だから大丈夫ですよ?フランドール様――。
――7・盟友たちのボーダー――
お嬢様が博麗神社から帰ってきたのを、門で出迎える。
昼に起きる生活に切り替えられてから、お嬢様は夜に眠るようになった。
そのため、お嬢様が就寝された午後十一時は、私たち従者の休憩時間だ。
自分の部屋に置いてある、とっておきの果実酒。
スモモのお酒を手にとって、咲夜さんの部屋に向かう。
私は時折、彼女の部屋で酒盛りをしていた。
お嬢様、魔理沙、パチュリー様とこあちゃん、そしてフランドール様。
みんなの話を聞いて、自分がどんなに気楽に過ごしていたのかがわかった。
でもだったら、それをお裾分けすることだってできるのではないか。
「咲夜さん、今、よろしいでしょうか?」
扉をノックして、少し待つ。
咲夜さんはそれに時を止めることなく、ゆっくりと応じてくれた。
「あら、美鈴。どうしたの?」
「今日もお疲れ様です、咲夜さん。一杯、どうですか?」
「ふふ、そういうことね。入って」
「はい、お邪魔します」
咲夜さんの部屋は、広い。
十畳ほどのサイズで、家具がほとんど無いので余計に広く見えるのだ。
あるものといえば、小さな本棚、クローゼット、ベッド、机と椅子。
小物の類や雑貨はほとんど無く、必要なものだけを揃えた質素な部屋だ。
窓際の机を挟んで、向かい合って座る。
ガラスの酒器と水を置いて、割って注いだ。
「それでは、お疲れ様です」
「ええ、お疲れ」
酒器を軽く合わせて、甲高い音を響かせる。
そのまま一口含むと、爽やかな甘酸っぱさが舌の上に広がり、嚥下すると喉に熱が伝わった。
「ふぅ、そういえば今日ね――」
「ああ、それはそれは――」
そのまま、益体もない会話を重ねる。
こののんびりとした時間の大切さを、私はよく知っている。
こんな時間すらなかった日々だって、昔はあった。
けれどそれは過去のことなのだと、熱を嚥下する度に実感できた。
「はぁ」
幾らか話をしている内に、気がついたことがある。
咲夜さんの、ため息が……妙に多いのだ。
周囲の状況が良くなったとしても、本人の調子が悪ければストレスも溜まる。
なんとか咲夜さんに回復して貰わないと、その未来は――いっそ眩しい。
「なにか悩み事ですか?咲夜さん」
「……そうね、妖精メイドたち、もう少し動いてくれないものかしら」
矛先を、僅かに逸らされた。
確かにそれは大変ではあるが、古参のメイドがある程度指揮を執ってくれるし、さほど問題ではない。もちろんストレスになることもあるだろうけど、それだけで咲夜さんは、こんなにため息をついたりはしないだろう。
「それは私もご協力しますよ。まぁ、どこまで動くかわかりませんが」
「そうねぇ、まぁ、期待しているわ」
「はいっ――せっかくですし、全て吐き出してしまいませんか?この機会に」
私がそう告げると、咲夜さんは何食わぬ表情でお酒をあおった。
酒器を干し、中の氷を見つめ、苦笑する。
「とくに抱えていることなんか、ないわ」
「咲夜さん……」
あくまで、弱みを見せまいとする。
そんな咲夜さんに、私は身体を乗り出して、頭に手を乗せた。
「ちょ、ちょっと、美鈴?」
今のところ、髪は元気だ。
銀糸の髪は、淀みなく気を循環させている。
それを調べるために、髪を撫でて、三つ編みを手に取った。
「美鈴?」
「私は咲夜さんのことが――」
編み込まれていると、悪くなったりするのだろうか。
近くで感じるために、そのまま三つ編みに口付ける。
そうしてから瞳を持ち上げて、咲夜さんを覗き込んだ。
「だ、だめよ急に、困るわ」
「――心配、なんですよ」
「あああ、そっちにね、というか紛らわしいというか、もう」
再び手を頭の方へ這わせながら、もみあげから耳朶にかけて撫でる。
頭皮も大丈夫だ。円形脱毛症も、とりあえず見あたらない。
元気な毛根で、一安心だ。油断はならないけれど。
「咲夜さん」
「ち、近いわ美鈴。酔ってるの?」
「まだ、この程度じゃ酔いませんよ。私はただ、咲夜さんが心配なんです」
まっすぐと、瞳を覗き込む。
万感の思いを伝えようと、ただただ、揺れる瞳を見つめていた。
僅かに感じる気の乱れは、戸惑いばかりではない。
そこには確かに、動揺めいた乱れが含まれていた。
「――もう、わかったわ。私の負けよ」
「咲夜さん……」
「だから、その、とりあえず離れてね?」
「はいっ」
椅子に腰を下ろし、咲夜さんを見る。
頬が赤くなっているのは――羞恥?
気が、僅かにではあるが、羞恥で乱れている。
「前に、お嬢様に言ったことがあったわ」
思考を切り替えて、咲夜さんの言葉に、耳を傾ける。
酒器に注いだお酒を見る瞳には、どこか自嘲めいたものがあった。
「“私は一生死ぬ人間”って、ね」
「……はい」
人間は、簡単に死んでしまう。
瞬きをする間に、命の上限を捉えてしまう。
けれどお嬢様の言葉すら断った咲夜さんに、私の言葉で心を変えられるのか。
「私は人間で……人間として生きて人間として名を授かった、人間で」
「はい」
「果たして人間じゃなくなった私は、“私”なのかしら?」
妖怪になる、ということは、当然メンタルにもなんらかの影響を及ぼすことだろう。
そうしたとき、咲夜さんは咲夜さんのままでいられるのだろうか?
その戸惑いが、ガラスの酒器越しに私を見据えていた。
「人間でいるのが、辛くなったんですか?」
「いいえ、私は人間よ。人間を止めるつもりは毛頭無いわ」
毛頭……いや、比喩だ、慣用句だ、熟語だ。
まったく、何を動揺しているんだ、私は。
「でもね――私の意志とは関わりのないところで、人間から、外れていくの」
「え?」
咲夜さんの意志無しに、お嬢様が吸血によって身体を作り替えたりはしないだろう。
それなら、どうして咲夜さんは、そんなことを言っているのか。
その答えは、他ならぬ咲夜さんが、告げてくれた。
「時間がね、進まないの。時を止めれば止めるほど、私自身の時間が止まっていく」
「それって……」
「過ぎた力には代償が伴うとは、よく言ったものね」
だから最近、咲夜さんは、仕事以外では時を止めないようにしていたのだろう。
朝だってそうだ。食事の用意ならともかく、私が着替えるのを待つ程度で時を止めたりしなかった。
それは時を止めなかったのではなく……止めたく、なかったのだろう。
「ねぇ美鈴?そうして死ななくなって、妖怪になった私は――“私”なの?」
「咲夜さん……」
「私は私として、お嬢様にお仕えして、紅魔館で“生きて”いきたい」
お酒を一気に嚥下して、咲夜さんは俯く。
ヘッドブリムが机の上に落ちていくその様を、私は見ていることしかできなかった。
「人の枠を外れ、身体が時を止める妖怪として相応しいものに作り替えられていく」
咲夜さんは、唇を噛みしめて、机の上で拳を強く握った。
それだけでガラスの酒器に罅が入り、咲夜さんはその音に肩を震わせる。
そんな力は、少し前まではなかったはずなのに。
「私が私でない私になったとき――この優しい場所に、私の居場所は、あるの?」
お嬢様の隣で、微笑んでいるとき。
咲夜さんは本当に嬉しそうな瞳で、仕えられている。
それが変わってしまったとき、お嬢様はどうするのか。
どうなって、いくのか、それがきっと……怖いんだ。
本当に、こんなところは人間らしい。
私はそう苦笑して、咲夜さんの頭に手を置く。
今度は毛髪を調べるためではなく、温かく包み込むために。
「いいですか?咲夜さん」
それから、ゆっくりと語りかける。
本当に、不器用だ。“そんなこと”で、悩んでしまうなんて。
本当に、不器用で、愛おしい。
「咲夜さんが変わっても、私もお嬢様も変わりません」
「それは……貴女たちは、妖怪でしょう?」
咲夜さんは、伏し目がちに私を見た。
声に力を込めようとしているのはわかるけど、でも私の手を払おうとはしなかった。
「私たちは変わりません。どんな風に変わろうと、お嬢様もフランドール様もパチュリー様もこあちゃんも――それから私も」
戸惑う咲夜さんに、言葉を重ねていく。
戸惑う咲夜さんに、想いを連ねていく。
「美、鈴?」
「咲夜さんが冷たくなってしまっても、変に明るい方になっても、妙に暗い方になっても」
私の思いが、私の声と精一杯の笑顔に乗って、咲夜さんに伝わるように。
「私たちは、私は、咲夜さんのことが大好きです」
「……美鈴」
「それだけは、どんなに頼まれたって――変わってなんか、あげません」
そう、告げた。
咲夜さんは目尻に涙を溜めて、やがて一筋、流した。
私はそれを、そっと指で掬い上げる。
「ほんとうに?本当に、変わらない?」
「ええ、もちろんです。例え咲夜さんがつるっと禿げてしまっても、大好きです!」
「ふふっ、もう、なによその例え。ええ、でもそうね――」
漸く、咲夜さんが笑ってくれる。
頬を緩ませて、年相応の笑顔を見せてくれた。
それが、嬉しくて、つられて私も笑みを深くする。
「――ありがとう、美鈴。私もみんなのこと、大好きよ」
「はいっ」
酒器を掲げて、もう一度乾杯をする。
今度は、さっきみたいに重いなにかを抱えた表情ではない。
鎖から解き放たれた、穏やかな表情だ。
「明日、お嬢様にお話ししてみるわ」
「はいっ、そんなことで悩んでいたのか!って叱られちゃって下さい」
「ちょっと、怖がらせないでよね。もう」
「あはは、すみません」
そうしてまた、お酒を飲み、言葉を交わし合う。
嚥下した熱は、さっきまでよりずっと温かい。
こんなにも、美味しいお酒だっただろうか。
それからしばらく私たちは、翳りのない、優しい声で表情で、笑い合った。
――8・夢の後のハートフル――
咲夜さんの悩みが、お嬢様に打ち明けられて。
それからすぐに、紅魔館のみなさんと魔理沙に伝えられて。
それでも変わらない風景が、ここに広がっていた。
午後三時のお茶会。
偶然紅魔館のメンバーだけで、ゆったりと過ごす機会が訪れた。
私もお呼ばれして、図書館でお茶会だ。
「美鈴、紅茶のお代わりよ」
「ありがとうございます、咲夜さん」
「咲夜ーっ、こっちにもーっ!」
「畏まりました、妹様」
咲夜さんは躊躇なく、翳りなく時間を止めて紅茶を淹れる。
フランドール様は、そんな咲夜さんの手を握りながら、お礼を言っていた。
その様子を、お嬢様は優しげな表情で見つめている。
ふと視線を移せば、そこではパチュリー様がクッキーを口に運んでいた。
そんなパチュリー様の後ろに佇むこあちゃんの表情は、優しい喜びに満ちている。
これが本当の形なのだと、理解できる。
「しかし、あの夢がねぇ」
お嬢様は、感慨深げに呟いた。
結局誰もが紅魔館の住人たちとの楽しげな夢を見ていた。
変な要素が入ったとはいえ、私の夢にもみなさん揃っていたし。
そんな中、見つけてしまった“叶わぬ現状”に苛立ちを覚えてしまったのが、こあちゃんを見つけられなかったパチュリー様と、咲夜さんと触れ合っていたフランドール様だったのだという。
咲夜さんは、もう少し前から気になっていたことなので、夢とは関係ないそうだけど。
「美鈴の夢はどうだったの?」
「――真昼の門で、皆さんとゆったり過ごす夢でしたよ」
「へぇ?パチェまで太陽の下にねぇ」
普通に考えれば、お嬢様とフランドール様が居る方が不思議だろう。
けれどお二方は、日傘付きなら真昼の太陽の下でお茶を飲むのも、珍しくはない。
だからどちらかというと変に思うのは、普段図書館からほとんど出ようとしない、パチュリー様の方だと言うことだろう。
「普段見ている光景や、眠る直前に強く意識したものが現れる、というのは確認済みよ」
「そうなの?パチェ。そういえば、夢で飲んだ紅茶は、咲夜が就寝前に淹れてくれたトリカブトと福寿草のスペシャルブレンドだったわ」
いや、それはどうなんだろう。
というか、強く意識したことが夢に出るのか。
それなら私の夢が昼間の門前だったことも、頷け――――あれ?
あの日、眠る前、私は何をしていたのか。
それを、よーくっよーくっ……思い出す。
確か、そう、こあちゃんに丹精込めた和菓子を作って、振る舞ったんだ、けど。
『おまんじゅうに“白玉”ぜんざい栗きんとん!そしてなにより――水ようかん!』
んんん?
『私が普段よりも丹精込めて作った“ぜんざい”と水ようかんは』
んんんんんんん???
『“アレ”がなければ、“お嬢様たちも交えて咲夜さんと楽しくお話する夢”だったのにっ』
んんんんんんんんんん?????
「あれ?え?これって、もしかして――――んんんん???」
夢に出てくる、要素。
丹精込めて作った、一生懸命作った、“つるっとした”白玉のぜんざい。
「美鈴、そんな遠くにいないでもっと近くに座りなさいよ」
「あ、はいっ、お嬢様!」
「もう、そんなに慌てないの」
「あはは、すみません、咲夜さん」
穏やかに笑う、お嬢様と咲夜さん。
その温かく柔らかい声に、私は頬を緩ませた。
「ほら、早く!」
「はいっ――いや、まぁ、うん」
…………………………まぁ、いいか。
お嬢様が私に与えてくれた、警告を孕んだ夢。
それ以上の要素は無かったのだと、私は自分を納得させる。
終わりよければ全てよし!
私は、気がついたことを全力で投げ捨てて、お嬢様たちの環に加わる。
そしてそのまま、お嬢様と咲夜さんと交互に目を合わせて、力の抜けた笑みを浮かべた。
そこにある温かい笑顔と優しい空気に、清々しい気持ちで溶け込みながら――。
――了――
いいなぁ、こういう、一見空回りっぽいけど何かしらの形になる頑張りって素敵です。本当に。
よい作品、ありがとうございました。
やっぱりそういうのはいいですね
こあちゃんかわいいよこあちゃん
次の作品も楽しみにしてます
パチュリーの夢と小悪魔の立ち位置のくだりが小粋でたまりません…!
それってやっぱり胸部の(エターナルミーク
愛されてるなぁ。
GJな美鈴にお疲れ様と言ってあげたくなりました。
しかし禿げた咲夜さんかぁ……
咲夜さんの場合はお下げが無くなっただけでかなり雰囲気変わるもんなぁww
最初でギャグだと思ったのに素晴らしいほのぼのを堪能させていただきました
たまにはこんなほのぼのしてるのもいいね
いちいち咲夜の毛根の心配をする美鈴の心境や行動は面白かったw
あとはそれぞれの章の展開がワンパでなければ100点でも良かった
あの日との気配が近づくのを待っていた→あの人の気配
驚くパチュリー様に自分から返却起源を告げて→返却期限
パチュリー様はこえちゃんが近くにいても→こあちゃん
好い紅魔館ですね。
「もう、どんなに慌てないの」→「もう、そんなに慌てないの」かな?
いい話でした。でも咲夜さんの禿ならちょっと・・いや勘弁ですw