――――――――――――――――――――――――――――――――――――
私を取り巻く全てが、私を拒んだ。
だから、私は壊した。私を拒んだ全てを。
けれど、その行いは『罪』とされた。
抗う事も出来ず、許されることも無く。
私は咎人として、堕とされ、封じられ・・・。
・・・・・・許せなかったのは私だというのに。
『罪』があるのは、私を拒んだ全てだというのに。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「――こないだは地底総出で乱痴気宴会騒ぎをしておいて、今日は地底総出で祭りをやるのか。忙しいことだな。星熊勇儀。」
「地上からいっぱい妖怪や人が来るんだ!今回はすっごい盛り上がるよー!
はしゃげる内にはしゃがないと、生きてるのがもったいないじゃん!だからさ、パルスィも来てよ!」
「・・・嫌よ。」
「えー、なんでさー。勇儀お姉さんの言う事聞いてよー。」
「何が『勇儀お姉さん』だ。・・・って、抱きつくな、暑苦しい!!」
この馬鹿力が・・・!ああもう、びくともしない!!
「離せったら!もう!」
「来るって言ったら離すー。」
「・・・フン!お前は地底の街の長だものな。足並み揃えぬ輩がいるのは気に食わないんだろう?」
「そういうのじゃないよパルスィ。私はただ、アンタと皆が仲良くやってほしいだけだよ。」
「上辺の馴れ合いなんてしたくもない。させたければ、その自慢の力で私を屈服させなよ。」
「それでアンタが折れてくれるなら楽なんだけどねぇ。」
ヤレヤレといった風に頭をかく勇儀。
コイツは何度も私の前に足を運んでは、同じやり取りをしている。
宴会や祭りがあると、すぐ私を呼び出そうとわざわざこのような、へんぴな場所へ来るんだ。
私なんか構うより、他にやる事があるだろうに・・・。
しかし、今回は粘ってくる。
理由は先月行われた、旧地獄街道の大宴会。
ほんの些細な気紛れで足を運んでしまった。
とても華やかで、楽しそうな空気。
ものの数分で、私の様な陰湿妖怪の肌には合わないと、理解できた。
しかし帰ろうとした直後、勇儀に捕まってしまい、結局終わりまで居座る羽目になったのだ。
ホントに、どいつもこいつも、心底幸せそうな顔をして。。。私にはできない顔をして。。。
込み上げる嫉妬心で胸が焼けそうになるのを抑え続けるのは、堪らなく嫌だった。。。
「帰れ、星熊勇儀。私に割く時間があるなら、他に費やしなさい。」
私は俯いて、
「私は、誰とも交わらない。」
「分かった。――また来るから。」
そういって勇儀は私を放し、地底の道へと帰っていった。
地底。
現世から追いやられ、幻想郷へ移りすんだ妖怪達の中で、更に忌み嫌われた者達が『封印』という体で住まう地下都市。早い話が最果てだ。地上にとっては百害だらけの存在しかいない。
地底ができた当初は偏見と意識の差から、地上の交流などほとんど無く、双方とも手前勝手に時間を過ごし、やがて地上では、地底という場所がある事すら忘れ去られていった。
しかし最近、地獄鴉が起こした騒ぎがきっかけで地上との交流が再び出来、以前あったしがらみが緩くなってきている。久方ぶりの出会いに、地底の者は活気付き、地上の者は興味を持って地底に向かう。
時間が解決したのだろう。
あの頃にも、調和を求めた者もいたが、最後には封殺されてしまった。・・・離別以外の道は無かったと思う。しかし、今は空白の時間を埋めようと、皆が手を取り合い動いている。
こうやって地底が変わっているのに何も変わらない場所がある。
今、私が立っている地上と地底を結ぶ縦穴。
昔と変わらず誰も通らない、渡る者の途絶えた橋。
理由は、こことは別に道が出来たからだ。あの騒ぎの際に発生した間欠泉に乗じ、地上へ昇った宝船があった。その空けた大穴は通れば宝船の御利益があるという噂が立ち、現在、地底への本道はあちらに移っている。
2つの道があるのなら、わざわざこんな陰気の纏った道を通るものなんていない。来たところで緑眼の怪物に襲われるだけの獣道。正気の者ならあちらの道を選ぶだろう。
・・・・・・ずっとこの道で過ごしていた私にとって、本道を容易く取られた事は妬ましいが、安堵の方が大きい。ここは地上の未練を抱えながら、嫌われ者が通った道。嫌な記憶を掘り起こさずに、静かに忘れ去られるべき場所だから。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そう、忌まわしい過去など、開かぬように蓋をして、埋めてしまえばいい。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
勇儀が帰って、どれ位の時間がたったか。何の変化も無い澱んだ縦穴。
私は相も変わらず、何もせず、ぼぅっと地上を見上げていた。
「・・・ん?」
誰かが降りてくる。それも二人。
わざわざこちらの道を通るなんて、物好きか気狂いがやってきたんだろう。
気分が乗らないので無視を決め込んでいたが、近づいてきた姿を確認すると、そうはいかなくなってしまった。
喧しい顔見知りが降りてきたから。
知った顔が一つ。知らない顔が一つ。
とりあえず、知った顔を睨みつけながら質問する。
「何をしに来た村紗水蜜。地底へ行くなら、お前が宝船でこじ開けた道があるだろう。」
「仕方ないじゃない。聖がココを通りたいって言うんだから。」
そっぽ向きながら、村紗は言う。
村紗水蜜はかつて、地底に封印された船幽霊。
人間と妖怪が共存できる世界を目指した魔法使いに従っていたが、それを良しとしない人間達に村紗はその際、宝船もろとも地底に落とされてしまった。
封印されたものの、「聖を絶対助け出す!」と、地底でずっと息巻いていた。
その決意が間欠泉を利用して、宝船ごと地上に出るという荒業をしてのけた。破天荒な行動力が妬ましい。
「・・・聖というと、お前が言っていた魔法使いの?」
「はい。聖白蓮と申します。」
知らない顔が喋りだした。
「・・・ふん、お前が・・・。永く離れていても慕われ続ける器量が妬ましい。」
聖を睨み付けながら妖力を放出すると、村紗が聖を遮る様に私の前に立った。
「コラ、パルスィ!気まぐれで見境無く通行人を襲うんじゃない!」
「そういう性分なのだから、仕方ないだろう?」
「アンタは地底の番人兼案内人でしょ!」
「ここに居座ってたら、知らない間にそう呼ばれていただけだ。私の意志じゃない。」
「それなら何で昔、私が地上に出るのをジャマしたのさ!?」
「お前が気に入らなかったから。聖、聖とブツブツ呟いて。鬱陶しい事この上無かった。」
「ちょ、パ、パルスィ!?」
慌てて駆け寄ってくる村紗。
「そ、それを今言う事無いでしょ!??」
「何を興奮している?聞かれたから答えただけだ。
大体、橋姫たる私の前で想い人の名前を連呼するから悪い。」
「もぉぉぉぉ!! アンタ、絶対ワザとでしょぉぉぉ!!」
ふと見ると、村紗が真っ赤な顔をしながら、アンカーを振りかぶっていた。
「うわっ、ちょっと待ってストップ!!」
慌てて私は後ずさる。
コイツは華奢な身体をしていながら、鬼と比べても謙遜無い位に豪腕なのだ。
あんなもので殴られたらひとたまりもない。
「コラ、やめなさい村紗。」
聖が歩み寄ってくる。
「水橋パルスィさんですね?村紗が大変お世話になったと聞きました。」
「世話になんてなってない!どっちかというと妨害よ妨害!!」
「そうだな、妨害した。あの時のお前は地上で災厄を振りまきそうな程の怨念を抱えていた。
けどね、只でさえ評判の悪い地底妖怪がそんな事したら、それを理由に私達が一掃されてしまう。
お前一人がどこで倒れようと知った事ではないが、地底にいるという立場をまず考えろと、昔に何度も言っただろう。・・・別にそれを、お前が私が気紛れで妨害したと思うのは構わないけどな。」
「ぐ、ぐぬぬ・・・。」
「あら、迷惑掛けていたのですか?村紗?」
「か、掛けてないわよ!
もういい!いいからさっさと案内しなさいよ!地底の来訪者よ私達!?」
「全く、喧しい奴・・・。」
仕方なく、私は二人を地底まで連れて行くことにした。
村紗はともかく、聖は地底の事に詳しくなさそうだから、移動がてらに地底の事を説明する。
地底世界の始まり、現在の状況や統括している者の話など・・・。
・・・しているのだが、先ほどから聖がニコニコしている。気持ち悪い。。。
「・・・何を笑っている?」
「フフ、村紗とパルスィさんは仲が良かったんだなと思いまして。」
「・・・どこがさ?」
「だって、あんなに楽しそうにしてたじゃないですか。ああ、妬ましいです。」
「・・・人の口癖を・・・不愉快だ。」
バチィン!!
「~~~ッッ!!」
「いいじゃないですか!妬ましい妬ましい♪」
せ、せなか・・・背中が・・・コイツ・・・おもいっきり叩いて・・・!!
「お・・・お前・・・クゥッ・・・ゥ・・・!!!」
あまりの痛さに声が出ない。
「パルスィ・・・。」
村紗が私の背中を摩りながら、すごく真面目な顔で耳打ちする。
「聖は魔法使い。そして身体能力を強化する魔法を得意としている。」
「だ・・・から・・・何だって・・・イゥゥッッ!!」
「並の妖怪じゃ素手で敵わない。」
そんな事知るか!!
なんで私の周りに怪力女達が集まって来るんだよ!!
「――ここが旧地獄街道だ。地底に押しやられた妖怪達が造り上げた唯一の街。はみ出し者達の楽園だ。鬼の四天王が一人、星熊勇儀が主となって統括している。地霊殿には、この道の先にある。村紗はさとりとも顔馴染みだ。すんなりと会えるだろう。」
ようやく肩の荷が降り、清々する。
・・・全くもって聖は危険だ。私はまた背中を叩かれないかと気を配りながらここまで来た。
事実、話の途中で聖は何度か私を叩こうと構えていたし・・・。こいつ、自分ではこれが愛嬌ある仕草だと勘違いしているらしい。あんな殺人張り手を食らい続けたら身体が持たない。
一緒にいるだけで疲れる。早々に縦穴に戻るとしよう・・・。
「案内するのはここまでだ。私は地底でも厄介者だからな。分からない事があれば村紗に聞けば・・・・・・。」
・・・・・・あれ?
「・・・よくよく考えてみたら、私がここまで案内する必要なかった気がする。村紗、お前も地底に住んでいただろう。」
「え?ああ、そうね。」
「だったらお前が初めから案内すればいいだろう。」
「パルスィ唯一のお仕事を取るわけにはいかないじゃん。」
「だから、私の仕事じゃないって言ってるだろ!」
「パルスィの地底ガイド。久方ぶりに堪能させていただきました♪いやぁ、素晴らしかった♪
何だかんだと言いながら、板についてるね!」
「こ、こいつ・・・!」
絶対殴る!私を馬鹿にして・・・!!
こら、逃げるな村紗!一発殴らせろ!
聖、笑うんじゃない!!
「あれ、パルスィ?」
思わず、身体が跳ね上がりそうになった。
・・・・・・うるさい奴に見つかった。
さっき別れたばかりだというのに・・・。
振り返ると、もう真後ろに立って目をキラキラさせて私を見ていた。
「お祭り、出る気になったの?
うわー!連れまでいるじゃないか!楽しむ気満々だね、パルスィ!!」
「ち、ちがう。勇儀。そういう事じゃない。」
私の両手をブンブン振るな!
嬉しそうな顔をするな!
全く、コイツの笑顔は苦手だ。。。
心底楽しそうな表情を見ていると、何だか後ろめたくなってくる。
「そ、その、村紗の連れだ。私じゃない。」
「聖白蓮と申します。」
「あぁ、アンタが。村紗がよくアンタの名前を――」
「ちょ、ゆ、勇儀!?言わないで、お願い!!」
慌てて遮る村紗。
「もうソレやったから!パルスィのところでやったから!!恥ずかしくて死ぬ!!」
「え?・・・でも、みんな言うんじゃないかな?『村紗水蜜の聖談義』って、地底で有名だし。」
「――!!」
天に向かって、声にならない叫びをあげている。
コイツはどれだけ言いふらしているんだ。バカなんじゃないだろうか?
「ねぇ、パ・・・パルスィ?私と一緒にひっそりと縦穴で暮らそ?」
「嫌よ。見せつけてんの?妬み殺すよ?」
村紗はその場で倒れた。湯気を出しながら。
勇儀が掴んでいる手を見ながら私は言った。
「・・・いい加減、手を離して欲しいんだけど。」
手を振りほどきたいのに、腕力の差があり過ぎて抵抗できない。
いつもの事だ。拒否の言葉を連ねて、勇儀が折れるのを待つしかない。
・・・・・・。
「私は案内で地底に来ただけだ。用が済んだから帰る。」
「えぇ!??折角ココまで来たんだから。寄っていきなよー。」
「・・・言っただろ。私は誰とも交わらないって・・・。」
「一月前は来てくれたじゃない。」
「・・・・・・ただの、ほんの気紛れだったんだ。あれは。」
何故か、顔が強張ってくる。
「だから、離してくれないかな・・・。」
全身が強張ってくる。
「・・・うん。分かった。」
私から手を離して、
「でも、気紛れでもいいから、また来て欲しいなぁ。」
勇儀は寂しそうに言った。
元いた縦穴に向かって飛びながら、旧地獄街道を振り返る。
無数の提灯が地底を照らし、祭りで賑わう今の街道は、誰が何をやっても楽しくなれる、幸せのるつぼだ。
でも、私には眩し過ぎる。
あそこにいれば、前の宴会のように、自分の嫉妬心で潰されてしまうだろう。。。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あーあ、折角の祭りだっていうのに。勿体無いなぁ。」
勇儀はぼやきながら酒を煽った。
「すみません、勇儀さん。楽しんでいるところをお遣いしてしまって。」
「あぁ、違うの。パルスィの事だよ。」
お替りを注いでいた手を止め、横に振った。
パルスィと別れた後、勇儀は案内役を引き継ぐ形で聖たちと地霊殿に向かっていた。
「ねぇ、勇儀さん?貴女から見たパルスィさんは、どういう方なんですか。」
「ん?ん~。そうねぇー。」
数秒目を瞑りながら、
「いい子だと思うよ?」
「曖昧過ぎます。」
「え~?ん~と。」
またも思案。そして、いい子の部分を断片的に語りだした。
「アイツはねぇ、分け隔てが無いんだ。相手が誰であっても妬みはするし、怒りに来るし。
鬼の四天王で怖がられてた私であっても、アイツはお構いなしに突っかかってきたなぁ。
でも、それが嬉しくってさ。私の周りにそんな奴いなかったし。
知らない内に、気になる存在になってたの。
暇ができたら、パルスィに会いに行っちゃう位にね。
・・・でもさ、地底の仕事が忙しくて暫く会わないでいると、パルスィは荷物抱えて私の家まで来るんだよ。
『身動き取れないほど皆に頼られて妬ましい!』とか言いに来てさ。ひとしきり文句事言ったら、持って来た具材で美味しいご飯作ってくれるの。
それが可愛いのなんのって!!
絶対、私の事心配で来てくれてんのよアイツは!!」
エヘヘと笑いながら、心底嬉しそうに言った。
けれど、次第に寂しい表情になって呟く。
「・・・私はパルスィに助けられてるのにさ、私ったら全然パルスィを助けられなくって。今日も困らせちゃったなぁ。」
「勇儀さん?」
「アイツはね、人から受けた思いも、自分の心から発した思いさえも、受け入れられないんだよ。」
「受け入れられない?」
「うん。アイツが受け入れられるのは、他人が妬ましいっていう気持ちだけ。」
「・・・。」
盆の様な大きな杯に、溢れんばかりに注がれていた酒を一息で飲み干す勇儀。
大きく息を吐き、パルスィのいる縦穴の方を見た。
「多分ね、アイツの目から見た全ての他者は、『理想像』なんだよ。
私の事は、力が強く、皆に頼りにされて妬ましい。さとりの事は、心が読めて、たくさんの動物達に慕われて妬ましい。」
「私は、永く離れていても慕われ続ける器量が妬ましいと、言われました。」
「他人を惹きつける能力?魅力?って言うのかな・・・そういうのを見抜くんだよ、アイツ。
私から言わせると、そんなの使い様だと思うけどねぇ。私もさとりも、地上にいた頃は相当煙たがられてたもんだよ。――周りの奴らは私の顔色ばっかり伺ってさ。」
まぁ、昔の勇儀お姉さんは今より多少やんちゃだったけどね。と、言いながら聖に笑いかける。
「さとりは心が見えるってだけで、命を狙われた事があるって言ってたなぁ。
心を読める能力なんて必要ないって自棄になってた頃もあったみたいだし。
・・・・・・まぁ、さとりの事は、本人に聞いたほうが早いね。」
ほら、と指を差す。
その先に、ステンドグラスの窓を取り付けられた、教会を髣髴させる雰囲気を持つ大きい洋風の館がある。
「あれが地霊殿。教会臭いデザインはさとりの趣味。
アイツは地底の管理人でね、地底で暮らすにはさとりの許可がいるんだ。
悪い子とした奴ばっかりの世界だからねぇ。地上での行いを懺悔しろって事なのかな?」
「ありがとうございます、勇儀さん。」
聖は深々と、頭を下げた。
「いやいや、面会が終わったら、祭りを楽しみに来なよ。まー、三日三晩は続く祭りだから、疲れてるんなら、明日からでも構わないけどね。それじゃ!」
そう言いながら、勇儀は来た道を戻って行った。
「とりあえず、入ろっか、聖?」
村紗は手馴れた感じでドアノックを鳴らした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
応接室に案内されて数分後、さとりが入ってくる。
「聖白蓮さんですね。貴女の事はムラ――」
「・・・もういいから、ソレ・・・。」
ぐったりしながら村紗は言った。
「あらまぁ。折角、私の能力で、どれだけ村紗さんが聖さんの事を想っているのか具現してあげようと思っていましたのに・・・。」
「ソレしたら本気でそのサードアイにアンカー撃ち込むからね・・・。」
まぁ、こわいこわいと、さとりは手でサードアイを覆い隠す。
「古明地さとりさん。」
聖はソファから立ち上がり、礼をした。
「村紗が地底でお世話になったと聞きました。その件は、誠にありがとうございました。」
「お気になさらず。地底とはそういう場所ですから。・・・ああ、話さないでいいですよ。心を読めるものなので。」
目を瞑りながら、さとりは淡々と話を続ける。
「貴女が手を差し伸べなくとも、地底と地上は和解していくでしょう。
少なくとも勇儀さんはそれを望んでいますし、私も微力ながら協力します。もし、貴女が協力を申し出るのでしたら、地上の方をお願いします。あちら側の事は、私どもでは何ともできませんので。」
「分かりました。地底の方はお任せします。」
「しかし、スケールの大きい話ですね。全ての者が公平に生きられる世界を造るなんて。
同種族でも分かり合えない者だっているというのに・・・。」
「ですけど、もう決めた道ですので・・・。」
「応援しますよ、私は。頑張ってください。」
微笑みながらさとりは答えた。
「?」
村紗はさとりの顔を見ながら首を傾げた。
笑っていたさとりの表情は次第に苦い顔になっていく。
「・・・・・・あまり、個人的な話はしたくないんですけど。」
「・・・放って置けないもので。」
そうですね、と、深く息をついて、さとりはパルスィの事を話し出す。
「パルスィは、全てのものを妬みます。
どれだけ忌み嫌われた存在であっても、別け隔てなく、平等に接してくれるんです。
私はこの能力のせいで殺されかけた事が何度もあります。
不正を隠匿し、正義を語る者。その存在は人間、妖怪、果ては神まで様々でした。
心を読む能力なんて、害以外の何物でも無かった。放棄してしまいたかった。
そんな忌み嫌われた能力を、彼女は妬んでくれました。
『お前の能力は、言葉にできない者たちの想いを汲み取れる力。
絶対必要とされる様な唯一無二の能力を持ちながら、必要無いと言える贅沢なお前が妬ましい。』と。
当初、地底に落とされていたのは、ほとんどが妖獣でした。
知能はあるのに、言葉の話せない為に言い訳もできず、害を為せばすぐさま地底に落とされていったのです。
妖獣達の声を傾けるだけの私を、次第慕ってくれました。考えを理解してくれるというだけの行為が、妖獣達にとっては得難い喜びだったのでしょうね。
私も、生き甲斐を見つけられたと喜びましたよ。
今は地底に堕ちた悩める妖怪達の相談をしています。
・・・と言っても、ほんの一部の者ですけどね。それでも、私にまだ価値がある事に嬉しく思っています。
・・・本当にいい人ですよ?彼女は。」
聖が絞るように声を出す。
「パルスィ自身も、その悩める妖怪の一部だと思いますが?」
「そこが難しいところでして。」
ため息混じりに言う。
「パルスィは自分の心に嘘を付くんです。」
「私の能力は他者の心を読む事です。ただ、読むだけ。その考えは嘘か真かは分かりません。
でも、自分の心に嘘を吐ける様な器用な者など存在しません。」
「ならパルスィは・・・?」
「彼女は自分の想いを、潜在的にガードしてしまうんでしょうね。たとえ想いが出てきても、違う想いを浮かべ続け、どんどん塗りつぶしてしまう。結果、自分でも何がやりたい事なのかが分からなくなるのです。そして、最後に閉じこもってしまう。」
「・・・・・・何もしないという事ですか?」
「そうですね。一人でいる事を好む性格ですから、それが拍車を掛けているのかもしれません。」
さとりは聖の方を、一度見直す。
「・・・橋姫は、人から妖に変化した存在。
理由は違えど、生きた過程が同じ貴女としては、気になるんですね。
人をやめた事も、疎まれ封印されたことも。」
「・・・・・・。」
さとりは立ち上がり、出口に向かい手招きする。
「今日は長旅で疲れたでしょう。部屋を用意してありますので、今日はここでお休みを取ってください。」
「ありがとうございます。」
聖はさとりの気遣いを、笑顔で受け取った。
「聖。」
ベッドで寝転がっていた村紗は隣の部屋にいる聖に声を掛ける。
返事は無い。眠ってしまっているのだろう。
「明日、またパルスィに会いに行こう。寂しがり屋だから、アイツ。」
そう言って村紗は布団に包まった。
聖は向かっていた。パルスィのいる縦穴に。
心に黒い物が渦巻く、重い感覚。怒りから発しているものだ。
勇儀とさとりの寂しそうな顔を思い出すたびに、パルスィに対する不快感が募っていく。
独りを選び、人の心配を気にも留めない。
それが、どれだけ他者を傷つけているかも気づかないで・・・!
来たときと同じ場所にパルスィはいた。天を仰ぎながら。
緑眼の獣は、聖を見ながら唸る様に言った。
「・・・どうした聖白蓮。わざわざこんな夜更けに。」
「あなたに話があります。水橋パルスィ。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「私は別に話す事なんて無いけれど――。
お前がココを通りたいとか村紗が言っていたな。」
「ええ、私が村紗に頼みました。」
「お前がココを通った目的は私だろう?」
「――ええ。はみ出し者達の地底で、逸れて生きる妖怪がいると聞きました。」
「私を憐れだと感じたのか?」
「・・・・・・ええ。他者と接する事を拒んで生きていると。」
「・・・。」
一呼吸置いて、私は言った。
「橋姫になってから、とても嫉妬深い性格なってしまってね。嫉妬心を操るという能力も相まって、誰かを見ていると詰まらない火種をすぐ撒いてしまう。一時期地底にいた時もあったけど、すぐ周りから反感を買ってしまって。
誰もいない静かな場所を求めていたら、ココに居座っていた。それだけよ。
――お前が妖怪を護る為に動いている事は村紗から聞いている。けれど、私はそんな慈悲は求めていない。
だから、私に構うな。」
「――嘘ですね。」
「・・・嘘?」
聖を睨みつける。下らない事を話すなと念じて。
しかし、彼女は構わず続ける。
「はい。
あなたが地底を離れ、この縦穴にいるのは、耐えられなかったのでしょう。――心が。」
「何を言っている。」
「何を我慢する必要があるんです?」
黒い感情が心を支配していくのが分かる。
どうして2回しか顔を合わせた事しかない奴に、こうもズケズケと言われる必要があるのか。
「・・・不愉快よ。お前は。」
「不愉快なのは、貴女が不満だからでしょう?
正しいなら肯定し、違うなら否定すればいい事なのに、貴女はそれをしない。
素直な気持ちを押し殺し、歪んだ気持ちを露わにして。
そんな心で何が得られるというんです?」
「苛立たせるな・・・。」
「苛立つのは貴女の勝手です。けれど、貴女の事を心配している者が――!?」
ゴゥッ!
堪らず、私は聖に向かって光線を放つ。
只の威嚇。身体より大きく左方向を撃った。
「次は外さない・・・!黙って帰れ!!」
「帰りません。」
「――!?」
「何故、外したんです?
私が気に入らなければ、私を打ち倒し、黙らせればいいだけのことでしょう?
それなのに、貴女はただ、遠ざけようとするだけ。
貴女にそれ程余裕があるとは思えませんけど?」
「黙れェェェェェェェ!!」
怒りに任せて弾幕を展開する。
それに応える様に聖も弾幕を放ってきた。
「自分の罪と向き合い贖いなさい、パルスィ!」
「贖う事なんて無い!私が悪いんじゃない!私を取り巻いていた全てが、私にそうさせたんだ!橋姫になって、私を捨てた世界に復讐して、すべてを壊さなければ――そうしなければ、私が一方的に壊されていたんだよ、聖!!」
「貴女は今も罪を犯し続けている!誰も信じず、塞ぎこんで、暗闇に染まり、何も得ようとしない!」
「嫉妬で相手の心を殺すしか能の無い私なんだ!お前の様に日の光の中で生きられない事くらい解ってる!」
「私の事は関係無い!今は貴女の話をしてるんです!!」
聖との弾幕が交錯する。
「貴女の罪は、橋姫になって復讐を成した事ではない!今でも何もせず、進まず、逃げず、立ち止まっている事!自分の在りたいと願う姿を描きながらも、叶わずと決め込み動かない!貴女が今でも望む世界は、澱んだ縦穴ではないのでしょう!?」
「偉そうに!!永らく封印され、村紗達を困らせ続けたお前に言えることか!」
「だから今、動いているんでしょう!!」
撃ち合いは、激しさを増していく。
閃光が壁を抉り、落盤が起こり、破片が飛び散る。
弾幕と壁の破片に当たらぬ様、全方位に気を張りながら、聖に狙いを付け、撃ち込む。
次第に息が切れ、焦りが増していく。
対して聖は、ここらの地形が変わる程撃ち合っているというのに、息一つ乱れていない。
――敵わない・・・!――
長丁場に持ち込むのは明らかに不利だ。妖力が残っているうちに一気にケリをつけないと――。
『グリーンアイドモンスター!!』
碧い閃光が爆ぜながら聖に向かっていく。
避けても追尾する弾幕だ。これで退路を絞らせ、集中砲火を――。
ゴゥン!!
突然、下方から蒼い塊が無数に飛び上がって来る。
船のアンカーを模った・・・弾幕!
この攻撃・・・村紗の!?
「聖ぃぃぃ!!」
叫びながら、村紗は私にアンカーを撃ち出す。
アレの威力は、村紗と何度もやり合っているから知っている。避ける以外に方法が無い!
「村紗!やめなさい!!」
「嫌だ!!」
聖の制止を聞かず、私に向かってくる。
「ようやく取り戻したんだ!もう二度と失いたくない!!」
「村紗・・・!」
「パルスィ、聖を傷つけるな!!」
「ふざけるな!アイツから喧嘩を振ってきたんだよ!お前には関係ない事だ!」
「あるよ!!聖は私を救ってくれた!なのに、私は聖が魔界に封印される時、何もできなかった・・・!
・・・魔界で再び会えた時に心に誓った!もう絶対に失わない!絶対、聖を守り抜くって誓ったんだ!!
パルスィ・・・たとえアンタが相手でも・・・!!」
村紗に決意と敵意の目で睨み付けられた瞬間。。。
私の頭は一瞬、真っ白になった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
私より大事なものができたから。
要らないんだ。私なんか。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
身体に衝撃が走った。
村紗のアンカーを掠めただけ。だけど、体勢が完全に崩れてしまった。
「・・・クッ!」
続いて小粒の弾幕が襲ってくる。
立て直す暇なんて無い。弾幕を縫う様に避け、重力に従いながら急下降し、向かってくる村紗とすれ違う。
急いで反転する村紗。
「地底に逃げる気なら・・・!」
「村紗、止めなさいと言っているでしょう!」
「アンタを一遍、地底の湖に沈めてやる!!」
おかしい。おかしい。
呼吸が整わない。妖力が上手く使えない。
胸・・・違う、心が苦しい?
村紗に睨まれた時、何が過ぎった???
いや、何を思い出した・・・?
嫌、何も思い起こすな・・・!
思い起こせば、正気でいられなくなる気がする!
気にするな!集中しろ!
縦穴の底まで下り、なんとか地面に着地する。
でも、力が入らない!冷や汗が、身体の震えが止まらない!!どうしたんだ、私!!!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
知らない内に、心変わりしていて。
解らない内に、置いて行かれて。
それでもきっと、取り戻せると信じて願って・・・・・・。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――何よ、何なのよ、これは・・・!?
心の中から、不快な想いが溢れて止まらない!
嫉妬と自己否定の言葉で思考がどんどん塗りつぶされていく!
止めて止めて止めて止めてッッ!!
無意味だと分かっていても、思わず耳を塞がずにいられない!
今、こんな事を考えている場合じゃないのに!!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
私だけ、こんな思いをしているのに、他の奴らは幸せそうで。
何時しか誰をも妬ましく思って八つ当たりして。
自分から、自分の幸せ遠ざけて。
自分の考えも、行為も。
存在自体も愚かだと、いつになったら認めるの?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
直後、地震が起き、転倒してしまう。
地震の正体は、私の周囲に撃ち込まれた複数のアンカー。
焦点の定まらない目で見上げると、村紗がアンカーを振りあげ、そして私に投げつけた。
村紗の放ったアンカーは、確実に私を捉えていた。
しかし、それは、私の寸前で止まっていた。
止められたのだ。
「私の大事なパルスィに・・・・・・。」
な・・・なんで、こんな所に・・・?
こんな所に勇儀が・・・?
「何してくれてんだぁぁぁぁぁッ!!!」
咆哮とともに、村紗に向かってアンカーを投げ飛ばす。
「勇儀、ジャマしないで!!コイツは一遍、性根叩き直さなきゃ分かんないんだよ!!」
アンカーを避けた村紗も負けじと叫び返す。
村紗は私に向かって拳を振り降ろし、勇儀が私を庇って拳を受け止める。
轟音。
二人が発生させた凄まじい衝撃は、落盤の瓦礫を吹き飛ばす。
「や、やめて勇儀・・・!!」
私は勇儀のスカートに縋りついて懇願した。
「関係ない!勇儀は関係ない!
これは私が撒いた種なんだ!勇儀が芽を刈る必要なんてどこにもない!」
「何が関係ないって言うんだ!!」
「!?」
驚く程大きな怒鳴り声を浴びせられ、無意識に叱られた子どもの様に、縮こまってしまう。
「迷惑なんて掛ければいい!困ったら頼ればいい!足りないものを皆が支え合って繋ぎ合って・・・それが生きていくって事だよ!!生きる事に遠慮なんてするな、パルスィ!!」
「遠慮・・・!?」
「言ったって無駄だよ勇儀!コイツはぶん殴らないと正気に――」
ゴチン。
「いだぁぁぁぁ!!???」
「む・ら・さ?止めなさいと言ってるのが分からないのかしら?」
あの殺人パワーで頭を殴られ、村紗が悶絶している・・・。
「すみませんでした、勇儀さん。けれど、パルスィの事は・・・」
「え?あぁ、まぁ、事情はだいたい分かってるから。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それにしても勇儀、なんでここに・・・?」
「それは、私が連れてきましたから。」
丁度、旧地獄街道を背にする様に古明地さとりが立っていた。
さとりまで・・・どうして・・・。
「聖さんは、地上では住職をされているそうで。
以前、宗教絡みの者が地底をかき回した前例があります故、妙な行動をされても困るのでペットに見張りをさせていました。もし、何かしら行動を起こした際、確実に聖白蓮を抑えれる者が必要なので、勇儀さんに声を掛けたんです。」
「夜遅くに聖が、パルスィのいる縦穴に向かって飛んでいったって聞いてね。急いできたら、なぜか村紗がパルスィを襲ってるんだ。驚いたなぁ。」
「ちょ、ちょっと、なんで私が悪人みたいになってるわけ!?」
慌てながら村紗は私に指を差す。
「そもそも!コイツが独りでウジウジと悩んでるからこうなったんじゃない!」
「う・・・ウジウジなんてしてない・・・。」
「してたわよ!何年アンタと付き合ってると思ってんの!?私の目は節穴じゃないっての!
そんでアンタ、私が攻撃し掛けたら急に動きが鈍くなったでしょ。
どうせ『比べられて負けた』とか思ったんでしょ?」
「そんな事・・・思ってなんか・・・。」
「・・・確かにね、聖は私にとって掛替えの無い存在だけど・・・。けどね、アンタだって失いたくない大事な友人の一人よ?い、一応地底では世話になった恩人なわけだし・・・ねぇ。
あの時は勢いで言って悪かったと思ってるけど・・・ホント言って、比べたくなんて無かったし・・・。」
恥ずかしそうに背を向ける村紗。
「大丈夫ですよ、パルスィ。」
さとりが私に声を掛ける。
「何時でも、私達がアンタを守るから。」
勇儀が微笑みながら、私に手を差し伸べる。
勇儀が差し伸べた手を。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――信じて。捨てられて。
また、同じ過ちを繰り返す。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
私は打ち払った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
信じたくない。
お前達の戯言なんて聞きたくない。
そんな優しい言葉を信じて、最後に捨てられるのは嫌なんだ。
信じられたくない。
嫉妬するしか能の無い私では、お前達に何もしてやれない。
落胆させ、捨てられる恐怖に怯えて生きるのは嫌なんだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「近寄るなァァァァッ!!」
「私は要らない!要らないんだ!! 誰も! 誰も!」
「私は、良いんだ!このままで!!独りで!!!」
「私は独りで良いんだ!要らないんだ!誰も!!
何で私に構う!?言っただろ勇儀!!私に割く時間があるなら他に費やせと!
さとり!お前も私に構う暇なんて無いだろォ!」
「お前達みたいに皆から頼りにされてる奴らが、私の様な無意味な者に構うな!!
お前達が、私にたくさん何かを与えてくれても!
私じゃ・・・私なんかじゃ、お前達に何にも還してやれないのよ・・・!」
目を開ける事すら辛くなってしまい、顔を伏せ、四つんばいになりながらも、私は呻いた。
「お願いよ。。。お願いだから、もう構わないでよ。。。」
世界が廻って見える程に頭が熱いのに、全身が異常に寒い。
全然、身体の感覚が分からない。
私はただ、込み上げる無様な感情を抑えられず、泣きむせぶだけだった。
本当は、判ってる。
彼女達は、本心から私に触れようとしてくれてるのは判ってる。
それでも、どうしても踏み込めない。
心を掛けて信じたものに裏切られたという、たった一つのトラウマが、私に共生を許さない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
本当はもう、向き合いたくないんだ。何度頑張っても、乗り越えられないトラウマと。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
足音が聞こえる。
私に近づいている。
「パルスィ。」
聖の声。
とても、とても優しい声。
「もし、貴女が永遠に独りでいる事を願うなら、貴女一人だけの世界を作りましょう。
誰も入れない。誰とも触れ合うことの無い世界を、私の魔法で作りましょう。」
・・・・・・・・・。
「・・・でもね・・・。
でも、貴女はきっと耐えられないと思います。
貴女はそう言いながら、ずっと誰かを求めているから。
誰かに求められたいと願っているから。
誰も来ない縦穴で、勇儀さんやさとりさん達が来るのを待っているんでしょう?
誰も来ない縦穴に来てくれる事こそ、貴女を必要としてくれている証ですものね。」
「ぅ・・・ぁ・・・私は・・・。」
「彼女達はずっと、貴女を求めてきた。貴女も彼女達を求めているんでしょう?
貴女が応えれば、彼女達も応えてくれますよ?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――信じて。捨てられて。
また、同じ過ちを繰り返す。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「・・・・・・怖いよ・・・。」
「怖い?」
「・・・・・・怖いよ・・・。」
「・・・誰が怖いの?」
「・・・・・・誰・・・が・・・・・・?」
「貴女と仲良くしたい人達は怖い人なの?」
「・・・・・・違う・・・。」
「・・・確かに、勇儀さんは暴れん坊さんの様ですし、さとりさんは心の隠し事を読まれてしまうから、怖い人達かもしれませんけど。」
「違うの・・・。そういう事じゃないの・・・。」
「・・・パルスィ。貴女を裏切った世界はもう過去の事です。どういう形であれ、貴女はその忌まわしい世界を乗り越えているんです。
過去を忘れる必要はありませんが、今を過去と重ね合わせる必要もないんです、パルスィ。
今までだって、何度か地底の宴会に顔を出したりしていたんでしょう?
勇儀さんやさとりさん達に会うため、地底まで行った事があるんでしょう?
心を奮い立たせて、他者と触れ合う事を頑張ってきたんでしょう?
大丈夫です。貴女は一途で強い心を持っている。
必ず、昔の様に乗り越えられます。」
「・・・できるかなぁ・・・?」
「できますよ。
弱気になったら勇儀さんを頼りなさい。
それでダメならさとりさんに頼りなさい。
まだダメだったら村紗や地底の知り合いにも頼りなさい。
それでもダメなら。
私を頼ってください。」
「・・・・・・そんな大勢に聞き廻ってたら、疲れちゃうよ・・・。」
顔を上げ、そう呟いた私の顔は、きっと笑っていたと思う。
「疲れの方を気にする程度の悩みなら、解決できる悩みという事ですよ。」
その時の聖の顔は、本当に聖母の様な笑顔に見えた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
旧地獄街道。
その中のにある宿の2階の一室で、私は窓に腰を掛けながら外を眺めていた。
丑三つ時を過ぎる時間だというのに、祭りはまだまだ終わりそうにない。
花火の音と観客の笑い声が響いている。
本当に――妬ましい。
「パルスィ?」
声の方に目をやると、街道の人ごみの中に聖が立っていた。
――祭りを堪能していたんだろう。鬼のお面を頭に付け、両手で綿菓子を握りながら聖が空を飛んで私のところへ向かってくる。
「起きていて大丈夫なんですか?」
「こんなにうるさい所で寝られるわけないだろう・・・。」
あの後、私は脱力しきってしまい、勇儀に運ばれてこの宿に放り込まれたが、そもそもこんな祭りのド真ん中の所で寝られるわけが無い。せめて、地霊殿まで運んでくれればゆっくり寝れたのに。。。
「それより村紗は?一緒に廻ってたんじゃないのか?」
「街道のどこかで湯気を出しながら倒れてます。
屋台に入るたびにアレなんですから。一緒にいたらどこも廻れません。」
笑いを堪えながら言う。
「・・・・・・聖人だなんて思えないな。」
「え?」
「村紗からとても偉大で高尚な奴だと聞かされていたのに・・・。」
良く笑い、良く怒る。
自分に素直で真っ直ぐに行動して・・・。
強くって優しくって・・・。
「羨ましいな。お前は。。。」
そう感じた。私もコイツくらいに振舞えれば、楽になれるんだろうか。
すると、聖は笑うのを止め、私を見つめた。
「パルスィ。私は貴女が思うほど、立派な存在ではありません。」
神妙な面持ちで聖は語り始める。
「私は、ただ死ぬ事だけが恐ろしくて、あらゆるものを利用し、その果てに人を捨てた愚かな女です。妖怪達を護りたいと考えたのは、その過程に、妖怪が虐げられているという話が耳に入ったというだけです。」
「聖・・・?」
「人間であった頃の私は、貴女を裏切った者達と同じです。自分の為ならば、他人の事など眼中にありませんでした。」
苦しそうに、聖は語り続ける。
「その過去が、妖怪を救済したいと思う私を苦しめました。・・・・・・あの頃は、割り切れませんでした。過去は過去に過ぎない、と。
中途半端な思いと行動を続けた挙句、私は人間達に、妖怪と組した罰として、魔界に封印されました。」
「・・・抵抗しなかったの?」
「しませんでした。してしまえば、欲に溺れきった人間の頃の私に戻ってしまう気がしたから。」
・・・抵抗することが、自分の保身になる、ひいては自分の欲で行動した事になると思ったのだろうか。
「本当。。。本当に、村紗達には迷惑を掛けたと思っています。
私の半端な覚悟をあの子達は全霊を掛けて支えてくれたのに、私はただ、散々振り回した挙句、全てを放棄して魔界に逃げたんです。
本当は私の事など忘れて、自分の道を歩んでいて欲しかった。皆の個々の幸せを願いました。
・・・・・・でも、あの子達は魔界まで私を迎えに来てくれました。
その時、私は痛感しました。私は自身の事しか考えていない、浅ましい人間の頃と何ら変わっていない事を。
幸せを願うなどと、都合良く自分に言い聞かせ、ずっと魔界で立ち止まっていました。立ち止まっている事で、どれだけ村紗達を苦しめたのかも分からずに。。。」
私は、聖を見据えて言った。
「・・・それが、私に構った理由?」
「貴女の姿が、魔界に封印されていた時の私と同じだと感じました。過去に囚われ、塞ぎ込んでいた私と姿が重なって――」
「・・・・・・阿呆らしい。」
私は、こんな奴に説教食らって泣いていたのかと思うと、段々情けなくなってきた。
「な、何がですか?」
「御高説を謳っていても、過去に縛られているんじゃないか。
お前は変わってない。欲に溺れた人間の心のままだ。」
「そんな事・・・!」
聖は立ち上がって私を睨み付けたが、私は構わず話を続ける。
「自分が望んだ事だけをして。失敗したら、自分だけが悪いと自惚れて。
自己陶酔。自己嫌悪。
ナルシストなんだよ、お前は。」
「う、うぅ。。。」
肩を震わせて唸る聖。
「・・・けどね、何かをしたいと思うのは、自分の欲望から始まるものよ?
それが自分で正しいと思ってやっているのなら、そのままでいいと思う。
不憫な妖怪たちを守りたいと思った気持ちに、封印された時に仲間の安堵を願ったお前の気持ちに間違いなんて無い。」
「でも・・・それがみんなを苦しめたんです。。。」
「正しくても間違ってても、困難は付いて来る!その苦難に耐えてでも、村紗達はお前を求めたんだ。・・・全く、妬ましい事この上ない!」
段々、胸が嫉妬心でムカムカしてきた。
こいつはこんなに慕われているのに。何を悩む必要があるのか分からない。
「間違ったことをした奴を助けたいなんて思わない!お前が正しいと信じていたから、お前を助けに来たんだろう!」
「そう・・・なんでしょうか。。。」
「あいつ等はお前を恨んじゃいない!――それでもお前が村紗達を縛ったというのが罪だと感じるなら、お前が揺るがず進むことこそが罪滅ぼしだ!」
「・・・・・・。」
「目指した世界があるんだろう?自分の全てを掛けてでも叶えたい未来があるんだろう?
虐げられた妖怪達を助けるんだろう?なら、迷わず進みなさい。
――大丈夫よ。お前が望んだ世界の中で、私は笑って暮らしているから。」
・・・・・・。
・・・何言ってるんだ、私は。
言った直後、恥ずかしい気持ちが込み上げてきた。
聖が呆けた顔をしてる。
マズい。とてもマズい。
私なんかがこいつを信じて、どうなるわけでもないのに。
「・・・あ・・・まぁ、私なんかが言ったところで、何の足しにもならないな。。。」
思わず顔を背けてしまった。
「――ありがとう、パルスィ。」
「べ・・・別に感謝されることなんて言ってない!」
全く、失敗した。
こんな馬鹿げた事を言って。
コイツに私の弱みをくれてやっているのと同じじゃないか。。。
「ふふ・・・勇儀さん達が貴女を好いている気持ちが分かった気がします。」
「どういう意味よ・・・。」
聖は顔を赤くしながら笑顔で言った。
「それは・・・恥ずかしくて言えませんね。」
私を取り巻く全てが、私を拒んだ。
だから、私は壊した。私を拒んだ全てを。
けれど、その行いは『罪』とされた。
抗う事も出来ず、許されることも無く。
私は咎人として、堕とされ、封じられ・・・。
・・・・・・許せなかったのは私だというのに。
『罪』があるのは、私を拒んだ全てだというのに。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「――こないだは地底総出で乱痴気宴会騒ぎをしておいて、今日は地底総出で祭りをやるのか。忙しいことだな。星熊勇儀。」
「地上からいっぱい妖怪や人が来るんだ!今回はすっごい盛り上がるよー!
はしゃげる内にはしゃがないと、生きてるのがもったいないじゃん!だからさ、パルスィも来てよ!」
「・・・嫌よ。」
「えー、なんでさー。勇儀お姉さんの言う事聞いてよー。」
「何が『勇儀お姉さん』だ。・・・って、抱きつくな、暑苦しい!!」
この馬鹿力が・・・!ああもう、びくともしない!!
「離せったら!もう!」
「来るって言ったら離すー。」
「・・・フン!お前は地底の街の長だものな。足並み揃えぬ輩がいるのは気に食わないんだろう?」
「そういうのじゃないよパルスィ。私はただ、アンタと皆が仲良くやってほしいだけだよ。」
「上辺の馴れ合いなんてしたくもない。させたければ、その自慢の力で私を屈服させなよ。」
「それでアンタが折れてくれるなら楽なんだけどねぇ。」
ヤレヤレといった風に頭をかく勇儀。
コイツは何度も私の前に足を運んでは、同じやり取りをしている。
宴会や祭りがあると、すぐ私を呼び出そうとわざわざこのような、へんぴな場所へ来るんだ。
私なんか構うより、他にやる事があるだろうに・・・。
しかし、今回は粘ってくる。
理由は先月行われた、旧地獄街道の大宴会。
ほんの些細な気紛れで足を運んでしまった。
とても華やかで、楽しそうな空気。
ものの数分で、私の様な陰湿妖怪の肌には合わないと、理解できた。
しかし帰ろうとした直後、勇儀に捕まってしまい、結局終わりまで居座る羽目になったのだ。
ホントに、どいつもこいつも、心底幸せそうな顔をして。。。私にはできない顔をして。。。
込み上げる嫉妬心で胸が焼けそうになるのを抑え続けるのは、堪らなく嫌だった。。。
「帰れ、星熊勇儀。私に割く時間があるなら、他に費やしなさい。」
私は俯いて、
「私は、誰とも交わらない。」
「分かった。――また来るから。」
そういって勇儀は私を放し、地底の道へと帰っていった。
地底。
現世から追いやられ、幻想郷へ移りすんだ妖怪達の中で、更に忌み嫌われた者達が『封印』という体で住まう地下都市。早い話が最果てだ。地上にとっては百害だらけの存在しかいない。
地底ができた当初は偏見と意識の差から、地上の交流などほとんど無く、双方とも手前勝手に時間を過ごし、やがて地上では、地底という場所がある事すら忘れ去られていった。
しかし最近、地獄鴉が起こした騒ぎがきっかけで地上との交流が再び出来、以前あったしがらみが緩くなってきている。久方ぶりの出会いに、地底の者は活気付き、地上の者は興味を持って地底に向かう。
時間が解決したのだろう。
あの頃にも、調和を求めた者もいたが、最後には封殺されてしまった。・・・離別以外の道は無かったと思う。しかし、今は空白の時間を埋めようと、皆が手を取り合い動いている。
こうやって地底が変わっているのに何も変わらない場所がある。
今、私が立っている地上と地底を結ぶ縦穴。
昔と変わらず誰も通らない、渡る者の途絶えた橋。
理由は、こことは別に道が出来たからだ。あの騒ぎの際に発生した間欠泉に乗じ、地上へ昇った宝船があった。その空けた大穴は通れば宝船の御利益があるという噂が立ち、現在、地底への本道はあちらに移っている。
2つの道があるのなら、わざわざこんな陰気の纏った道を通るものなんていない。来たところで緑眼の怪物に襲われるだけの獣道。正気の者ならあちらの道を選ぶだろう。
・・・・・・ずっとこの道で過ごしていた私にとって、本道を容易く取られた事は妬ましいが、安堵の方が大きい。ここは地上の未練を抱えながら、嫌われ者が通った道。嫌な記憶を掘り起こさずに、静かに忘れ去られるべき場所だから。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そう、忌まわしい過去など、開かぬように蓋をして、埋めてしまえばいい。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
勇儀が帰って、どれ位の時間がたったか。何の変化も無い澱んだ縦穴。
私は相も変わらず、何もせず、ぼぅっと地上を見上げていた。
「・・・ん?」
誰かが降りてくる。それも二人。
わざわざこちらの道を通るなんて、物好きか気狂いがやってきたんだろう。
気分が乗らないので無視を決め込んでいたが、近づいてきた姿を確認すると、そうはいかなくなってしまった。
喧しい顔見知りが降りてきたから。
知った顔が一つ。知らない顔が一つ。
とりあえず、知った顔を睨みつけながら質問する。
「何をしに来た村紗水蜜。地底へ行くなら、お前が宝船でこじ開けた道があるだろう。」
「仕方ないじゃない。聖がココを通りたいって言うんだから。」
そっぽ向きながら、村紗は言う。
村紗水蜜はかつて、地底に封印された船幽霊。
人間と妖怪が共存できる世界を目指した魔法使いに従っていたが、それを良しとしない人間達に村紗はその際、宝船もろとも地底に落とされてしまった。
封印されたものの、「聖を絶対助け出す!」と、地底でずっと息巻いていた。
その決意が間欠泉を利用して、宝船ごと地上に出るという荒業をしてのけた。破天荒な行動力が妬ましい。
「・・・聖というと、お前が言っていた魔法使いの?」
「はい。聖白蓮と申します。」
知らない顔が喋りだした。
「・・・ふん、お前が・・・。永く離れていても慕われ続ける器量が妬ましい。」
聖を睨み付けながら妖力を放出すると、村紗が聖を遮る様に私の前に立った。
「コラ、パルスィ!気まぐれで見境無く通行人を襲うんじゃない!」
「そういう性分なのだから、仕方ないだろう?」
「アンタは地底の番人兼案内人でしょ!」
「ここに居座ってたら、知らない間にそう呼ばれていただけだ。私の意志じゃない。」
「それなら何で昔、私が地上に出るのをジャマしたのさ!?」
「お前が気に入らなかったから。聖、聖とブツブツ呟いて。鬱陶しい事この上無かった。」
「ちょ、パ、パルスィ!?」
慌てて駆け寄ってくる村紗。
「そ、それを今言う事無いでしょ!??」
「何を興奮している?聞かれたから答えただけだ。
大体、橋姫たる私の前で想い人の名前を連呼するから悪い。」
「もぉぉぉぉ!! アンタ、絶対ワザとでしょぉぉぉ!!」
ふと見ると、村紗が真っ赤な顔をしながら、アンカーを振りかぶっていた。
「うわっ、ちょっと待ってストップ!!」
慌てて私は後ずさる。
コイツは華奢な身体をしていながら、鬼と比べても謙遜無い位に豪腕なのだ。
あんなもので殴られたらひとたまりもない。
「コラ、やめなさい村紗。」
聖が歩み寄ってくる。
「水橋パルスィさんですね?村紗が大変お世話になったと聞きました。」
「世話になんてなってない!どっちかというと妨害よ妨害!!」
「そうだな、妨害した。あの時のお前は地上で災厄を振りまきそうな程の怨念を抱えていた。
けどね、只でさえ評判の悪い地底妖怪がそんな事したら、それを理由に私達が一掃されてしまう。
お前一人がどこで倒れようと知った事ではないが、地底にいるという立場をまず考えろと、昔に何度も言っただろう。・・・別にそれを、お前が私が気紛れで妨害したと思うのは構わないけどな。」
「ぐ、ぐぬぬ・・・。」
「あら、迷惑掛けていたのですか?村紗?」
「か、掛けてないわよ!
もういい!いいからさっさと案内しなさいよ!地底の来訪者よ私達!?」
「全く、喧しい奴・・・。」
仕方なく、私は二人を地底まで連れて行くことにした。
村紗はともかく、聖は地底の事に詳しくなさそうだから、移動がてらに地底の事を説明する。
地底世界の始まり、現在の状況や統括している者の話など・・・。
・・・しているのだが、先ほどから聖がニコニコしている。気持ち悪い。。。
「・・・何を笑っている?」
「フフ、村紗とパルスィさんは仲が良かったんだなと思いまして。」
「・・・どこがさ?」
「だって、あんなに楽しそうにしてたじゃないですか。ああ、妬ましいです。」
「・・・人の口癖を・・・不愉快だ。」
バチィン!!
「~~~ッッ!!」
「いいじゃないですか!妬ましい妬ましい♪」
せ、せなか・・・背中が・・・コイツ・・・おもいっきり叩いて・・・!!
「お・・・お前・・・クゥッ・・・ゥ・・・!!!」
あまりの痛さに声が出ない。
「パルスィ・・・。」
村紗が私の背中を摩りながら、すごく真面目な顔で耳打ちする。
「聖は魔法使い。そして身体能力を強化する魔法を得意としている。」
「だ・・・から・・・何だって・・・イゥゥッッ!!」
「並の妖怪じゃ素手で敵わない。」
そんな事知るか!!
なんで私の周りに怪力女達が集まって来るんだよ!!
「――ここが旧地獄街道だ。地底に押しやられた妖怪達が造り上げた唯一の街。はみ出し者達の楽園だ。鬼の四天王が一人、星熊勇儀が主となって統括している。地霊殿には、この道の先にある。村紗はさとりとも顔馴染みだ。すんなりと会えるだろう。」
ようやく肩の荷が降り、清々する。
・・・全くもって聖は危険だ。私はまた背中を叩かれないかと気を配りながらここまで来た。
事実、話の途中で聖は何度か私を叩こうと構えていたし・・・。こいつ、自分ではこれが愛嬌ある仕草だと勘違いしているらしい。あんな殺人張り手を食らい続けたら身体が持たない。
一緒にいるだけで疲れる。早々に縦穴に戻るとしよう・・・。
「案内するのはここまでだ。私は地底でも厄介者だからな。分からない事があれば村紗に聞けば・・・・・・。」
・・・・・・あれ?
「・・・よくよく考えてみたら、私がここまで案内する必要なかった気がする。村紗、お前も地底に住んでいただろう。」
「え?ああ、そうね。」
「だったらお前が初めから案内すればいいだろう。」
「パルスィ唯一のお仕事を取るわけにはいかないじゃん。」
「だから、私の仕事じゃないって言ってるだろ!」
「パルスィの地底ガイド。久方ぶりに堪能させていただきました♪いやぁ、素晴らしかった♪
何だかんだと言いながら、板についてるね!」
「こ、こいつ・・・!」
絶対殴る!私を馬鹿にして・・・!!
こら、逃げるな村紗!一発殴らせろ!
聖、笑うんじゃない!!
「あれ、パルスィ?」
思わず、身体が跳ね上がりそうになった。
・・・・・・うるさい奴に見つかった。
さっき別れたばかりだというのに・・・。
振り返ると、もう真後ろに立って目をキラキラさせて私を見ていた。
「お祭り、出る気になったの?
うわー!連れまでいるじゃないか!楽しむ気満々だね、パルスィ!!」
「ち、ちがう。勇儀。そういう事じゃない。」
私の両手をブンブン振るな!
嬉しそうな顔をするな!
全く、コイツの笑顔は苦手だ。。。
心底楽しそうな表情を見ていると、何だか後ろめたくなってくる。
「そ、その、村紗の連れだ。私じゃない。」
「聖白蓮と申します。」
「あぁ、アンタが。村紗がよくアンタの名前を――」
「ちょ、ゆ、勇儀!?言わないで、お願い!!」
慌てて遮る村紗。
「もうソレやったから!パルスィのところでやったから!!恥ずかしくて死ぬ!!」
「え?・・・でも、みんな言うんじゃないかな?『村紗水蜜の聖談義』って、地底で有名だし。」
「――!!」
天に向かって、声にならない叫びをあげている。
コイツはどれだけ言いふらしているんだ。バカなんじゃないだろうか?
「ねぇ、パ・・・パルスィ?私と一緒にひっそりと縦穴で暮らそ?」
「嫌よ。見せつけてんの?妬み殺すよ?」
村紗はその場で倒れた。湯気を出しながら。
勇儀が掴んでいる手を見ながら私は言った。
「・・・いい加減、手を離して欲しいんだけど。」
手を振りほどきたいのに、腕力の差があり過ぎて抵抗できない。
いつもの事だ。拒否の言葉を連ねて、勇儀が折れるのを待つしかない。
・・・・・・。
「私は案内で地底に来ただけだ。用が済んだから帰る。」
「えぇ!??折角ココまで来たんだから。寄っていきなよー。」
「・・・言っただろ。私は誰とも交わらないって・・・。」
「一月前は来てくれたじゃない。」
「・・・・・・ただの、ほんの気紛れだったんだ。あれは。」
何故か、顔が強張ってくる。
「だから、離してくれないかな・・・。」
全身が強張ってくる。
「・・・うん。分かった。」
私から手を離して、
「でも、気紛れでもいいから、また来て欲しいなぁ。」
勇儀は寂しそうに言った。
元いた縦穴に向かって飛びながら、旧地獄街道を振り返る。
無数の提灯が地底を照らし、祭りで賑わう今の街道は、誰が何をやっても楽しくなれる、幸せのるつぼだ。
でも、私には眩し過ぎる。
あそこにいれば、前の宴会のように、自分の嫉妬心で潰されてしまうだろう。。。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あーあ、折角の祭りだっていうのに。勿体無いなぁ。」
勇儀はぼやきながら酒を煽った。
「すみません、勇儀さん。楽しんでいるところをお遣いしてしまって。」
「あぁ、違うの。パルスィの事だよ。」
お替りを注いでいた手を止め、横に振った。
パルスィと別れた後、勇儀は案内役を引き継ぐ形で聖たちと地霊殿に向かっていた。
「ねぇ、勇儀さん?貴女から見たパルスィさんは、どういう方なんですか。」
「ん?ん~。そうねぇー。」
数秒目を瞑りながら、
「いい子だと思うよ?」
「曖昧過ぎます。」
「え~?ん~と。」
またも思案。そして、いい子の部分を断片的に語りだした。
「アイツはねぇ、分け隔てが無いんだ。相手が誰であっても妬みはするし、怒りに来るし。
鬼の四天王で怖がられてた私であっても、アイツはお構いなしに突っかかってきたなぁ。
でも、それが嬉しくってさ。私の周りにそんな奴いなかったし。
知らない内に、気になる存在になってたの。
暇ができたら、パルスィに会いに行っちゃう位にね。
・・・でもさ、地底の仕事が忙しくて暫く会わないでいると、パルスィは荷物抱えて私の家まで来るんだよ。
『身動き取れないほど皆に頼られて妬ましい!』とか言いに来てさ。ひとしきり文句事言ったら、持って来た具材で美味しいご飯作ってくれるの。
それが可愛いのなんのって!!
絶対、私の事心配で来てくれてんのよアイツは!!」
エヘヘと笑いながら、心底嬉しそうに言った。
けれど、次第に寂しい表情になって呟く。
「・・・私はパルスィに助けられてるのにさ、私ったら全然パルスィを助けられなくって。今日も困らせちゃったなぁ。」
「勇儀さん?」
「アイツはね、人から受けた思いも、自分の心から発した思いさえも、受け入れられないんだよ。」
「受け入れられない?」
「うん。アイツが受け入れられるのは、他人が妬ましいっていう気持ちだけ。」
「・・・。」
盆の様な大きな杯に、溢れんばかりに注がれていた酒を一息で飲み干す勇儀。
大きく息を吐き、パルスィのいる縦穴の方を見た。
「多分ね、アイツの目から見た全ての他者は、『理想像』なんだよ。
私の事は、力が強く、皆に頼りにされて妬ましい。さとりの事は、心が読めて、たくさんの動物達に慕われて妬ましい。」
「私は、永く離れていても慕われ続ける器量が妬ましいと、言われました。」
「他人を惹きつける能力?魅力?って言うのかな・・・そういうのを見抜くんだよ、アイツ。
私から言わせると、そんなの使い様だと思うけどねぇ。私もさとりも、地上にいた頃は相当煙たがられてたもんだよ。――周りの奴らは私の顔色ばっかり伺ってさ。」
まぁ、昔の勇儀お姉さんは今より多少やんちゃだったけどね。と、言いながら聖に笑いかける。
「さとりは心が見えるってだけで、命を狙われた事があるって言ってたなぁ。
心を読める能力なんて必要ないって自棄になってた頃もあったみたいだし。
・・・・・・まぁ、さとりの事は、本人に聞いたほうが早いね。」
ほら、と指を差す。
その先に、ステンドグラスの窓を取り付けられた、教会を髣髴させる雰囲気を持つ大きい洋風の館がある。
「あれが地霊殿。教会臭いデザインはさとりの趣味。
アイツは地底の管理人でね、地底で暮らすにはさとりの許可がいるんだ。
悪い子とした奴ばっかりの世界だからねぇ。地上での行いを懺悔しろって事なのかな?」
「ありがとうございます、勇儀さん。」
聖は深々と、頭を下げた。
「いやいや、面会が終わったら、祭りを楽しみに来なよ。まー、三日三晩は続く祭りだから、疲れてるんなら、明日からでも構わないけどね。それじゃ!」
そう言いながら、勇儀は来た道を戻って行った。
「とりあえず、入ろっか、聖?」
村紗は手馴れた感じでドアノックを鳴らした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
応接室に案内されて数分後、さとりが入ってくる。
「聖白蓮さんですね。貴女の事はムラ――」
「・・・もういいから、ソレ・・・。」
ぐったりしながら村紗は言った。
「あらまぁ。折角、私の能力で、どれだけ村紗さんが聖さんの事を想っているのか具現してあげようと思っていましたのに・・・。」
「ソレしたら本気でそのサードアイにアンカー撃ち込むからね・・・。」
まぁ、こわいこわいと、さとりは手でサードアイを覆い隠す。
「古明地さとりさん。」
聖はソファから立ち上がり、礼をした。
「村紗が地底でお世話になったと聞きました。その件は、誠にありがとうございました。」
「お気になさらず。地底とはそういう場所ですから。・・・ああ、話さないでいいですよ。心を読めるものなので。」
目を瞑りながら、さとりは淡々と話を続ける。
「貴女が手を差し伸べなくとも、地底と地上は和解していくでしょう。
少なくとも勇儀さんはそれを望んでいますし、私も微力ながら協力します。もし、貴女が協力を申し出るのでしたら、地上の方をお願いします。あちら側の事は、私どもでは何ともできませんので。」
「分かりました。地底の方はお任せします。」
「しかし、スケールの大きい話ですね。全ての者が公平に生きられる世界を造るなんて。
同種族でも分かり合えない者だっているというのに・・・。」
「ですけど、もう決めた道ですので・・・。」
「応援しますよ、私は。頑張ってください。」
微笑みながらさとりは答えた。
「?」
村紗はさとりの顔を見ながら首を傾げた。
笑っていたさとりの表情は次第に苦い顔になっていく。
「・・・・・・あまり、個人的な話はしたくないんですけど。」
「・・・放って置けないもので。」
そうですね、と、深く息をついて、さとりはパルスィの事を話し出す。
「パルスィは、全てのものを妬みます。
どれだけ忌み嫌われた存在であっても、別け隔てなく、平等に接してくれるんです。
私はこの能力のせいで殺されかけた事が何度もあります。
不正を隠匿し、正義を語る者。その存在は人間、妖怪、果ては神まで様々でした。
心を読む能力なんて、害以外の何物でも無かった。放棄してしまいたかった。
そんな忌み嫌われた能力を、彼女は妬んでくれました。
『お前の能力は、言葉にできない者たちの想いを汲み取れる力。
絶対必要とされる様な唯一無二の能力を持ちながら、必要無いと言える贅沢なお前が妬ましい。』と。
当初、地底に落とされていたのは、ほとんどが妖獣でした。
知能はあるのに、言葉の話せない為に言い訳もできず、害を為せばすぐさま地底に落とされていったのです。
妖獣達の声を傾けるだけの私を、次第慕ってくれました。考えを理解してくれるというだけの行為が、妖獣達にとっては得難い喜びだったのでしょうね。
私も、生き甲斐を見つけられたと喜びましたよ。
今は地底に堕ちた悩める妖怪達の相談をしています。
・・・と言っても、ほんの一部の者ですけどね。それでも、私にまだ価値がある事に嬉しく思っています。
・・・本当にいい人ですよ?彼女は。」
聖が絞るように声を出す。
「パルスィ自身も、その悩める妖怪の一部だと思いますが?」
「そこが難しいところでして。」
ため息混じりに言う。
「パルスィは自分の心に嘘を付くんです。」
「私の能力は他者の心を読む事です。ただ、読むだけ。その考えは嘘か真かは分かりません。
でも、自分の心に嘘を吐ける様な器用な者など存在しません。」
「ならパルスィは・・・?」
「彼女は自分の想いを、潜在的にガードしてしまうんでしょうね。たとえ想いが出てきても、違う想いを浮かべ続け、どんどん塗りつぶしてしまう。結果、自分でも何がやりたい事なのかが分からなくなるのです。そして、最後に閉じこもってしまう。」
「・・・・・・何もしないという事ですか?」
「そうですね。一人でいる事を好む性格ですから、それが拍車を掛けているのかもしれません。」
さとりは聖の方を、一度見直す。
「・・・橋姫は、人から妖に変化した存在。
理由は違えど、生きた過程が同じ貴女としては、気になるんですね。
人をやめた事も、疎まれ封印されたことも。」
「・・・・・・。」
さとりは立ち上がり、出口に向かい手招きする。
「今日は長旅で疲れたでしょう。部屋を用意してありますので、今日はここでお休みを取ってください。」
「ありがとうございます。」
聖はさとりの気遣いを、笑顔で受け取った。
「聖。」
ベッドで寝転がっていた村紗は隣の部屋にいる聖に声を掛ける。
返事は無い。眠ってしまっているのだろう。
「明日、またパルスィに会いに行こう。寂しがり屋だから、アイツ。」
そう言って村紗は布団に包まった。
聖は向かっていた。パルスィのいる縦穴に。
心に黒い物が渦巻く、重い感覚。怒りから発しているものだ。
勇儀とさとりの寂しそうな顔を思い出すたびに、パルスィに対する不快感が募っていく。
独りを選び、人の心配を気にも留めない。
それが、どれだけ他者を傷つけているかも気づかないで・・・!
来たときと同じ場所にパルスィはいた。天を仰ぎながら。
緑眼の獣は、聖を見ながら唸る様に言った。
「・・・どうした聖白蓮。わざわざこんな夜更けに。」
「あなたに話があります。水橋パルスィ。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「私は別に話す事なんて無いけれど――。
お前がココを通りたいとか村紗が言っていたな。」
「ええ、私が村紗に頼みました。」
「お前がココを通った目的は私だろう?」
「――ええ。はみ出し者達の地底で、逸れて生きる妖怪がいると聞きました。」
「私を憐れだと感じたのか?」
「・・・・・・ええ。他者と接する事を拒んで生きていると。」
「・・・。」
一呼吸置いて、私は言った。
「橋姫になってから、とても嫉妬深い性格なってしまってね。嫉妬心を操るという能力も相まって、誰かを見ていると詰まらない火種をすぐ撒いてしまう。一時期地底にいた時もあったけど、すぐ周りから反感を買ってしまって。
誰もいない静かな場所を求めていたら、ココに居座っていた。それだけよ。
――お前が妖怪を護る為に動いている事は村紗から聞いている。けれど、私はそんな慈悲は求めていない。
だから、私に構うな。」
「――嘘ですね。」
「・・・嘘?」
聖を睨みつける。下らない事を話すなと念じて。
しかし、彼女は構わず続ける。
「はい。
あなたが地底を離れ、この縦穴にいるのは、耐えられなかったのでしょう。――心が。」
「何を言っている。」
「何を我慢する必要があるんです?」
黒い感情が心を支配していくのが分かる。
どうして2回しか顔を合わせた事しかない奴に、こうもズケズケと言われる必要があるのか。
「・・・不愉快よ。お前は。」
「不愉快なのは、貴女が不満だからでしょう?
正しいなら肯定し、違うなら否定すればいい事なのに、貴女はそれをしない。
素直な気持ちを押し殺し、歪んだ気持ちを露わにして。
そんな心で何が得られるというんです?」
「苛立たせるな・・・。」
「苛立つのは貴女の勝手です。けれど、貴女の事を心配している者が――!?」
ゴゥッ!
堪らず、私は聖に向かって光線を放つ。
只の威嚇。身体より大きく左方向を撃った。
「次は外さない・・・!黙って帰れ!!」
「帰りません。」
「――!?」
「何故、外したんです?
私が気に入らなければ、私を打ち倒し、黙らせればいいだけのことでしょう?
それなのに、貴女はただ、遠ざけようとするだけ。
貴女にそれ程余裕があるとは思えませんけど?」
「黙れェェェェェェェ!!」
怒りに任せて弾幕を展開する。
それに応える様に聖も弾幕を放ってきた。
「自分の罪と向き合い贖いなさい、パルスィ!」
「贖う事なんて無い!私が悪いんじゃない!私を取り巻いていた全てが、私にそうさせたんだ!橋姫になって、私を捨てた世界に復讐して、すべてを壊さなければ――そうしなければ、私が一方的に壊されていたんだよ、聖!!」
「貴女は今も罪を犯し続けている!誰も信じず、塞ぎこんで、暗闇に染まり、何も得ようとしない!」
「嫉妬で相手の心を殺すしか能の無い私なんだ!お前の様に日の光の中で生きられない事くらい解ってる!」
「私の事は関係無い!今は貴女の話をしてるんです!!」
聖との弾幕が交錯する。
「貴女の罪は、橋姫になって復讐を成した事ではない!今でも何もせず、進まず、逃げず、立ち止まっている事!自分の在りたいと願う姿を描きながらも、叶わずと決め込み動かない!貴女が今でも望む世界は、澱んだ縦穴ではないのでしょう!?」
「偉そうに!!永らく封印され、村紗達を困らせ続けたお前に言えることか!」
「だから今、動いているんでしょう!!」
撃ち合いは、激しさを増していく。
閃光が壁を抉り、落盤が起こり、破片が飛び散る。
弾幕と壁の破片に当たらぬ様、全方位に気を張りながら、聖に狙いを付け、撃ち込む。
次第に息が切れ、焦りが増していく。
対して聖は、ここらの地形が変わる程撃ち合っているというのに、息一つ乱れていない。
――敵わない・・・!――
長丁場に持ち込むのは明らかに不利だ。妖力が残っているうちに一気にケリをつけないと――。
『グリーンアイドモンスター!!』
碧い閃光が爆ぜながら聖に向かっていく。
避けても追尾する弾幕だ。これで退路を絞らせ、集中砲火を――。
ゴゥン!!
突然、下方から蒼い塊が無数に飛び上がって来る。
船のアンカーを模った・・・弾幕!
この攻撃・・・村紗の!?
「聖ぃぃぃ!!」
叫びながら、村紗は私にアンカーを撃ち出す。
アレの威力は、村紗と何度もやり合っているから知っている。避ける以外に方法が無い!
「村紗!やめなさい!!」
「嫌だ!!」
聖の制止を聞かず、私に向かってくる。
「ようやく取り戻したんだ!もう二度と失いたくない!!」
「村紗・・・!」
「パルスィ、聖を傷つけるな!!」
「ふざけるな!アイツから喧嘩を振ってきたんだよ!お前には関係ない事だ!」
「あるよ!!聖は私を救ってくれた!なのに、私は聖が魔界に封印される時、何もできなかった・・・!
・・・魔界で再び会えた時に心に誓った!もう絶対に失わない!絶対、聖を守り抜くって誓ったんだ!!
パルスィ・・・たとえアンタが相手でも・・・!!」
村紗に決意と敵意の目で睨み付けられた瞬間。。。
私の頭は一瞬、真っ白になった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
私より大事なものができたから。
要らないんだ。私なんか。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
身体に衝撃が走った。
村紗のアンカーを掠めただけ。だけど、体勢が完全に崩れてしまった。
「・・・クッ!」
続いて小粒の弾幕が襲ってくる。
立て直す暇なんて無い。弾幕を縫う様に避け、重力に従いながら急下降し、向かってくる村紗とすれ違う。
急いで反転する村紗。
「地底に逃げる気なら・・・!」
「村紗、止めなさいと言っているでしょう!」
「アンタを一遍、地底の湖に沈めてやる!!」
おかしい。おかしい。
呼吸が整わない。妖力が上手く使えない。
胸・・・違う、心が苦しい?
村紗に睨まれた時、何が過ぎった???
いや、何を思い出した・・・?
嫌、何も思い起こすな・・・!
思い起こせば、正気でいられなくなる気がする!
気にするな!集中しろ!
縦穴の底まで下り、なんとか地面に着地する。
でも、力が入らない!冷や汗が、身体の震えが止まらない!!どうしたんだ、私!!!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
知らない内に、心変わりしていて。
解らない内に、置いて行かれて。
それでもきっと、取り戻せると信じて願って・・・・・・。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――何よ、何なのよ、これは・・・!?
心の中から、不快な想いが溢れて止まらない!
嫉妬と自己否定の言葉で思考がどんどん塗りつぶされていく!
止めて止めて止めて止めてッッ!!
無意味だと分かっていても、思わず耳を塞がずにいられない!
今、こんな事を考えている場合じゃないのに!!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
私だけ、こんな思いをしているのに、他の奴らは幸せそうで。
何時しか誰をも妬ましく思って八つ当たりして。
自分から、自分の幸せ遠ざけて。
自分の考えも、行為も。
存在自体も愚かだと、いつになったら認めるの?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
直後、地震が起き、転倒してしまう。
地震の正体は、私の周囲に撃ち込まれた複数のアンカー。
焦点の定まらない目で見上げると、村紗がアンカーを振りあげ、そして私に投げつけた。
村紗の放ったアンカーは、確実に私を捉えていた。
しかし、それは、私の寸前で止まっていた。
止められたのだ。
「私の大事なパルスィに・・・・・・。」
な・・・なんで、こんな所に・・・?
こんな所に勇儀が・・・?
「何してくれてんだぁぁぁぁぁッ!!!」
咆哮とともに、村紗に向かってアンカーを投げ飛ばす。
「勇儀、ジャマしないで!!コイツは一遍、性根叩き直さなきゃ分かんないんだよ!!」
アンカーを避けた村紗も負けじと叫び返す。
村紗は私に向かって拳を振り降ろし、勇儀が私を庇って拳を受け止める。
轟音。
二人が発生させた凄まじい衝撃は、落盤の瓦礫を吹き飛ばす。
「や、やめて勇儀・・・!!」
私は勇儀のスカートに縋りついて懇願した。
「関係ない!勇儀は関係ない!
これは私が撒いた種なんだ!勇儀が芽を刈る必要なんてどこにもない!」
「何が関係ないって言うんだ!!」
「!?」
驚く程大きな怒鳴り声を浴びせられ、無意識に叱られた子どもの様に、縮こまってしまう。
「迷惑なんて掛ければいい!困ったら頼ればいい!足りないものを皆が支え合って繋ぎ合って・・・それが生きていくって事だよ!!生きる事に遠慮なんてするな、パルスィ!!」
「遠慮・・・!?」
「言ったって無駄だよ勇儀!コイツはぶん殴らないと正気に――」
ゴチン。
「いだぁぁぁぁ!!???」
「む・ら・さ?止めなさいと言ってるのが分からないのかしら?」
あの殺人パワーで頭を殴られ、村紗が悶絶している・・・。
「すみませんでした、勇儀さん。けれど、パルスィの事は・・・」
「え?あぁ、まぁ、事情はだいたい分かってるから。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それにしても勇儀、なんでここに・・・?」
「それは、私が連れてきましたから。」
丁度、旧地獄街道を背にする様に古明地さとりが立っていた。
さとりまで・・・どうして・・・。
「聖さんは、地上では住職をされているそうで。
以前、宗教絡みの者が地底をかき回した前例があります故、妙な行動をされても困るのでペットに見張りをさせていました。もし、何かしら行動を起こした際、確実に聖白蓮を抑えれる者が必要なので、勇儀さんに声を掛けたんです。」
「夜遅くに聖が、パルスィのいる縦穴に向かって飛んでいったって聞いてね。急いできたら、なぜか村紗がパルスィを襲ってるんだ。驚いたなぁ。」
「ちょ、ちょっと、なんで私が悪人みたいになってるわけ!?」
慌てながら村紗は私に指を差す。
「そもそも!コイツが独りでウジウジと悩んでるからこうなったんじゃない!」
「う・・・ウジウジなんてしてない・・・。」
「してたわよ!何年アンタと付き合ってると思ってんの!?私の目は節穴じゃないっての!
そんでアンタ、私が攻撃し掛けたら急に動きが鈍くなったでしょ。
どうせ『比べられて負けた』とか思ったんでしょ?」
「そんな事・・・思ってなんか・・・。」
「・・・確かにね、聖は私にとって掛替えの無い存在だけど・・・。けどね、アンタだって失いたくない大事な友人の一人よ?い、一応地底では世話になった恩人なわけだし・・・ねぇ。
あの時は勢いで言って悪かったと思ってるけど・・・ホント言って、比べたくなんて無かったし・・・。」
恥ずかしそうに背を向ける村紗。
「大丈夫ですよ、パルスィ。」
さとりが私に声を掛ける。
「何時でも、私達がアンタを守るから。」
勇儀が微笑みながら、私に手を差し伸べる。
勇儀が差し伸べた手を。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――信じて。捨てられて。
また、同じ過ちを繰り返す。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
私は打ち払った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
信じたくない。
お前達の戯言なんて聞きたくない。
そんな優しい言葉を信じて、最後に捨てられるのは嫌なんだ。
信じられたくない。
嫉妬するしか能の無い私では、お前達に何もしてやれない。
落胆させ、捨てられる恐怖に怯えて生きるのは嫌なんだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「近寄るなァァァァッ!!」
「私は要らない!要らないんだ!! 誰も! 誰も!」
「私は、良いんだ!このままで!!独りで!!!」
「私は独りで良いんだ!要らないんだ!誰も!!
何で私に構う!?言っただろ勇儀!!私に割く時間があるなら他に費やせと!
さとり!お前も私に構う暇なんて無いだろォ!」
「お前達みたいに皆から頼りにされてる奴らが、私の様な無意味な者に構うな!!
お前達が、私にたくさん何かを与えてくれても!
私じゃ・・・私なんかじゃ、お前達に何にも還してやれないのよ・・・!」
目を開ける事すら辛くなってしまい、顔を伏せ、四つんばいになりながらも、私は呻いた。
「お願いよ。。。お願いだから、もう構わないでよ。。。」
世界が廻って見える程に頭が熱いのに、全身が異常に寒い。
全然、身体の感覚が分からない。
私はただ、込み上げる無様な感情を抑えられず、泣きむせぶだけだった。
本当は、判ってる。
彼女達は、本心から私に触れようとしてくれてるのは判ってる。
それでも、どうしても踏み込めない。
心を掛けて信じたものに裏切られたという、たった一つのトラウマが、私に共生を許さない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
本当はもう、向き合いたくないんだ。何度頑張っても、乗り越えられないトラウマと。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
足音が聞こえる。
私に近づいている。
「パルスィ。」
聖の声。
とても、とても優しい声。
「もし、貴女が永遠に独りでいる事を願うなら、貴女一人だけの世界を作りましょう。
誰も入れない。誰とも触れ合うことの無い世界を、私の魔法で作りましょう。」
・・・・・・・・・。
「・・・でもね・・・。
でも、貴女はきっと耐えられないと思います。
貴女はそう言いながら、ずっと誰かを求めているから。
誰かに求められたいと願っているから。
誰も来ない縦穴で、勇儀さんやさとりさん達が来るのを待っているんでしょう?
誰も来ない縦穴に来てくれる事こそ、貴女を必要としてくれている証ですものね。」
「ぅ・・・ぁ・・・私は・・・。」
「彼女達はずっと、貴女を求めてきた。貴女も彼女達を求めているんでしょう?
貴女が応えれば、彼女達も応えてくれますよ?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――信じて。捨てられて。
また、同じ過ちを繰り返す。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「・・・・・・怖いよ・・・。」
「怖い?」
「・・・・・・怖いよ・・・。」
「・・・誰が怖いの?」
「・・・・・・誰・・・が・・・・・・?」
「貴女と仲良くしたい人達は怖い人なの?」
「・・・・・・違う・・・。」
「・・・確かに、勇儀さんは暴れん坊さんの様ですし、さとりさんは心の隠し事を読まれてしまうから、怖い人達かもしれませんけど。」
「違うの・・・。そういう事じゃないの・・・。」
「・・・パルスィ。貴女を裏切った世界はもう過去の事です。どういう形であれ、貴女はその忌まわしい世界を乗り越えているんです。
過去を忘れる必要はありませんが、今を過去と重ね合わせる必要もないんです、パルスィ。
今までだって、何度か地底の宴会に顔を出したりしていたんでしょう?
勇儀さんやさとりさん達に会うため、地底まで行った事があるんでしょう?
心を奮い立たせて、他者と触れ合う事を頑張ってきたんでしょう?
大丈夫です。貴女は一途で強い心を持っている。
必ず、昔の様に乗り越えられます。」
「・・・できるかなぁ・・・?」
「できますよ。
弱気になったら勇儀さんを頼りなさい。
それでダメならさとりさんに頼りなさい。
まだダメだったら村紗や地底の知り合いにも頼りなさい。
それでもダメなら。
私を頼ってください。」
「・・・・・・そんな大勢に聞き廻ってたら、疲れちゃうよ・・・。」
顔を上げ、そう呟いた私の顔は、きっと笑っていたと思う。
「疲れの方を気にする程度の悩みなら、解決できる悩みという事ですよ。」
その時の聖の顔は、本当に聖母の様な笑顔に見えた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
旧地獄街道。
その中のにある宿の2階の一室で、私は窓に腰を掛けながら外を眺めていた。
丑三つ時を過ぎる時間だというのに、祭りはまだまだ終わりそうにない。
花火の音と観客の笑い声が響いている。
本当に――妬ましい。
「パルスィ?」
声の方に目をやると、街道の人ごみの中に聖が立っていた。
――祭りを堪能していたんだろう。鬼のお面を頭に付け、両手で綿菓子を握りながら聖が空を飛んで私のところへ向かってくる。
「起きていて大丈夫なんですか?」
「こんなにうるさい所で寝られるわけないだろう・・・。」
あの後、私は脱力しきってしまい、勇儀に運ばれてこの宿に放り込まれたが、そもそもこんな祭りのド真ん中の所で寝られるわけが無い。せめて、地霊殿まで運んでくれればゆっくり寝れたのに。。。
「それより村紗は?一緒に廻ってたんじゃないのか?」
「街道のどこかで湯気を出しながら倒れてます。
屋台に入るたびにアレなんですから。一緒にいたらどこも廻れません。」
笑いを堪えながら言う。
「・・・・・・聖人だなんて思えないな。」
「え?」
「村紗からとても偉大で高尚な奴だと聞かされていたのに・・・。」
良く笑い、良く怒る。
自分に素直で真っ直ぐに行動して・・・。
強くって優しくって・・・。
「羨ましいな。お前は。。。」
そう感じた。私もコイツくらいに振舞えれば、楽になれるんだろうか。
すると、聖は笑うのを止め、私を見つめた。
「パルスィ。私は貴女が思うほど、立派な存在ではありません。」
神妙な面持ちで聖は語り始める。
「私は、ただ死ぬ事だけが恐ろしくて、あらゆるものを利用し、その果てに人を捨てた愚かな女です。妖怪達を護りたいと考えたのは、その過程に、妖怪が虐げられているという話が耳に入ったというだけです。」
「聖・・・?」
「人間であった頃の私は、貴女を裏切った者達と同じです。自分の為ならば、他人の事など眼中にありませんでした。」
苦しそうに、聖は語り続ける。
「その過去が、妖怪を救済したいと思う私を苦しめました。・・・・・・あの頃は、割り切れませんでした。過去は過去に過ぎない、と。
中途半端な思いと行動を続けた挙句、私は人間達に、妖怪と組した罰として、魔界に封印されました。」
「・・・抵抗しなかったの?」
「しませんでした。してしまえば、欲に溺れきった人間の頃の私に戻ってしまう気がしたから。」
・・・抵抗することが、自分の保身になる、ひいては自分の欲で行動した事になると思ったのだろうか。
「本当。。。本当に、村紗達には迷惑を掛けたと思っています。
私の半端な覚悟をあの子達は全霊を掛けて支えてくれたのに、私はただ、散々振り回した挙句、全てを放棄して魔界に逃げたんです。
本当は私の事など忘れて、自分の道を歩んでいて欲しかった。皆の個々の幸せを願いました。
・・・・・・でも、あの子達は魔界まで私を迎えに来てくれました。
その時、私は痛感しました。私は自身の事しか考えていない、浅ましい人間の頃と何ら変わっていない事を。
幸せを願うなどと、都合良く自分に言い聞かせ、ずっと魔界で立ち止まっていました。立ち止まっている事で、どれだけ村紗達を苦しめたのかも分からずに。。。」
私は、聖を見据えて言った。
「・・・それが、私に構った理由?」
「貴女の姿が、魔界に封印されていた時の私と同じだと感じました。過去に囚われ、塞ぎ込んでいた私と姿が重なって――」
「・・・・・・阿呆らしい。」
私は、こんな奴に説教食らって泣いていたのかと思うと、段々情けなくなってきた。
「な、何がですか?」
「御高説を謳っていても、過去に縛られているんじゃないか。
お前は変わってない。欲に溺れた人間の心のままだ。」
「そんな事・・・!」
聖は立ち上がって私を睨み付けたが、私は構わず話を続ける。
「自分が望んだ事だけをして。失敗したら、自分だけが悪いと自惚れて。
自己陶酔。自己嫌悪。
ナルシストなんだよ、お前は。」
「う、うぅ。。。」
肩を震わせて唸る聖。
「・・・けどね、何かをしたいと思うのは、自分の欲望から始まるものよ?
それが自分で正しいと思ってやっているのなら、そのままでいいと思う。
不憫な妖怪たちを守りたいと思った気持ちに、封印された時に仲間の安堵を願ったお前の気持ちに間違いなんて無い。」
「でも・・・それがみんなを苦しめたんです。。。」
「正しくても間違ってても、困難は付いて来る!その苦難に耐えてでも、村紗達はお前を求めたんだ。・・・全く、妬ましい事この上ない!」
段々、胸が嫉妬心でムカムカしてきた。
こいつはこんなに慕われているのに。何を悩む必要があるのか分からない。
「間違ったことをした奴を助けたいなんて思わない!お前が正しいと信じていたから、お前を助けに来たんだろう!」
「そう・・・なんでしょうか。。。」
「あいつ等はお前を恨んじゃいない!――それでもお前が村紗達を縛ったというのが罪だと感じるなら、お前が揺るがず進むことこそが罪滅ぼしだ!」
「・・・・・・。」
「目指した世界があるんだろう?自分の全てを掛けてでも叶えたい未来があるんだろう?
虐げられた妖怪達を助けるんだろう?なら、迷わず進みなさい。
――大丈夫よ。お前が望んだ世界の中で、私は笑って暮らしているから。」
・・・・・・。
・・・何言ってるんだ、私は。
言った直後、恥ずかしい気持ちが込み上げてきた。
聖が呆けた顔をしてる。
マズい。とてもマズい。
私なんかがこいつを信じて、どうなるわけでもないのに。
「・・・あ・・・まぁ、私なんかが言ったところで、何の足しにもならないな。。。」
思わず顔を背けてしまった。
「――ありがとう、パルスィ。」
「べ・・・別に感謝されることなんて言ってない!」
全く、失敗した。
こんな馬鹿げた事を言って。
コイツに私の弱みをくれてやっているのと同じじゃないか。。。
「ふふ・・・勇儀さん達が貴女を好いている気持ちが分かった気がします。」
「どういう意味よ・・・。」
聖は顔を赤くしながら笑顔で言った。
「それは・・・恥ずかしくて言えませんね。」
仲よくできたら素敵なことですね。
拒絶してしまえば相手にも迷惑がかからないと本人は思っていても、実際はそれは自分が逃げてるだけでなく相手がなおさら混乱する。心の底では拒絶してなお構ってくれる友人に安堵を覚えている…こういう人は恐らく実世界にもいますが大抵の人はこれに気が付いていないか、気づいてはいるが打開する決心に踏み切れずにいる場合が多いですね。
パルスィは自分が逃げているだけ、という点に関しては自覚があり、なお構ってくれる友人に対する安堵については無自覚、というか無理やり消し去っているような感じでしょうか。そんなパルスィに対しての聖の、勇儀の全力の言葉が、パルスィ程ではないですが自分にも重く響いた気がします。
その聖自身も同じような悩みを抱えていて今度は逆にパルスィに説教されてしまうシーンを見て、似た者同士という印象もそうですが真に分かりあえる友人関係ってこういうものなんだろうなぁ…と。
…なんだか書いてて自分でも分からなくなってきたorz
聖パルは初めてでしたがすごくいい話をありがとうございました!
誰かやってくれると信じていました、聖パル。素晴らしいものをありがとう
oblivion様◆ 聖の方は仲良くしたいと思っても、パルスィは「一人でいい」と意地張りそうなので、道のりは険しそうですけどねぇ。。。ナカヨクシテヤッテクレヨ!
11様◆ ありがとうございますー。正直、ろくに本読まないくせに小説上げたりしたもので、何言われるかドキドキものでした。
12様◆ こちらこそありがとうございましたー。こんなに長々と返信いただいて私トッテモ嬉シイ。
ホント、書いて良かった。。。
しかし、人として生きている中で最も難儀な事って「人間関係」なんですよねぇ。同じ人間同士なのに。
でも、それは自分の心だけでは解決できない。他人の心を汲んで動かし続けなければならない険しい世界。
自分が愛した世界に捨てられ、怨みから橋姫になったパルスィは、その経験から他人の心を動かす手段が「ギブアンドテイク」だと考えていて、
返せるものが無い→役に立たない→必要ない→捨てられる
という連鎖に恐怖しています。(という設定で書かせていただいております)
他人を避けて一人でいるのに、他人を求めているパルスィ。
それを不公平の無い世界を目指す聖が「無償の愛」をパルスィに謳うけど、聖自身も「仲間たちに迷惑を掛けたくない」と思っていたり。・・・・・・返信文読んでて気づいた。確かに根本ではパルスィと聖は良く似た考えを持っていますね。・・・どちらも「自分勝手な奴」程度の認識しかないと思いますけど。
うん。私も何書いてるのか分からなくなってまいりました。
それではここらで (^^)ノ
14様◆ 信じていたんですか。。。
ならば次は、君の信じた聖パルを聞かせていただきたいな・・・。
・・・・・・ホント、誰か聖パル書いてよーーーー!!!