Coolier - 新生・東方創想話

妹紅と2本の木

2011/07/04 21:25:17
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妹紅は、ちいさな女の子でした。
ただ、いつまでもちいさな女の子でした。
かの女はふしぎな薬をのんでしまい、
いつまでも年を取らない体になってしまったのです。
そのため、村からはなれた人目のつかない
竹やぶの中で、ひとりでくらしていました。


いつまでも同じすがたのかの女をみて、
「おばけだ」「こわい」「ようかいだ」
と、みんながこわがるからです。
そのうち妹紅もみんながこわくなり、
竹やぶの中でくらすようになったのです。


ある日、妹紅がたけのこを取りに、
竹やぶの中をあるいていると、ひとりの男の人にであいました。
「おや、こんなところで人と会うなんてめずらしい。
おじょうさんは何をしにきたのかな?」
妹紅はびっくりして、あわててその場から走り去りました。
「あ、行ってしまった。おどろかせてしまったようだ。」


それから、たまにその男を見かけるようになりました。
ひさしぶりに見た人間。
妹紅は、男が何をしているのか気になって、
そういうときはとおくからそっと見ることにしました。
男はせっせと竹を切っては手ごろな大きさにして、
たくさんしょってかえっていきます。
どうやら、竹を使って炭を作っているようです。
たまに見つかってしまうこともありましたが、
そういうときは、そそくさとにげることにしました。
「なんだかきらわれちゃったみたいだ。」


あるとき、男は何ももたずにやってきました。
いつもなら大きなのこぎりやしょいこをもってくるのですが、
その日はちいさなしょいかごだけでした。
そしてしきりに何かをさがすように、
きょろきょろとあたりを見まわしています。
何をしているんだろう、と妹紅がとおくから見ていると、
男と目があってしまいました。
「あっ。」


妹紅はいつものように、にげようとしました。
「ちょ、ちょっとまって……うわぁ!」
男はおおきな声でさけびました。そして、ばたん、と大きな音。
妹紅がびっくりしてふりかえると、男がうつぶせにたおれていました。
「あいたたた……。」
妹紅はしんぱいになり、男のもとへかけよりました。
「だ、大丈夫?」
「おどろかせちゃってすまないね、ころんでしまったよ。」


男は立ち上がろうとしましたが、片足をくじいてしまったようで
立ち上がることができませんでした。
そこで妹紅は、男を彼の家までつれて行ってあげることにしました。
「おじょうさん、すまないね」男はいいました。


「今日は、なにをしていたの?」妹紅はおずおずと聞きました。
「なえ木をさがしていたんだよ」男はそう言って、
自分のせおっているしょいかごをゆびさしました。
「千代って言うんだが、ちょっと前にむすめが生まれてね。
きねんに、にわにうえようとおもって、
手ごろなものをさがしていたんだよ。」
しょいかごの中には、ほそいけれど、まっすぐにぴんとした、
2つのなえ木が入っていました。


男の家は、竹やぶのはしにありました。
「本当にありがとう、おかげでたすかったよ。」
妹紅は何も言わずにうなずくと、そそくさと立ち去ろうとしました。
「ちょっとまっておくれ」男は声をかけました。
「おじょうさんはいったい竹やぶでなにをしているんだい?」
妹紅は立ち止まり、そっとふりかえって言いました。
「……一人で、住んでるの。」
「一人だって?危ないじゃないか。」
「わたし、おばけだから。」


妹紅は、少しだけ自分のことを話しました。
年を取らないこと、こわがられること。……こわいこと。
男はおどろくほどしずかに、はなしをきいていました。
「こわくないの?それとも、しんじてない?」
妹紅はおそるおそる聞きました。
男はにっこりとわらい、そして言いました。
「こわくないよ。それに、うたがってもいない。」


「おじょうさんは、おじさんを助けてくれた、やさしい子だ。
たとえおばけでもようかいでもこわくはないよ。それに……」
男はそこまで言って、とおくに目を向けました。
「むかし、おじさんはようかいにたすけられたことがあってね。
ようかいもおばけも、悪いものだけじゃないことを、知っているんだよ。」
おじさんは、とてもなつかしそうなかおをしていました。


「お礼におじさんが作った炭と……そうだ、これをあげよう。
どちらもいいなえ木でね、どっちにするかまよっていたんだ。」
男はそういってたくさんの炭と、2つあったなえ木のうちの、
1本をくれました。
「いろんな人がいる。むりなことはしなくていい。
気がむいたときにはまたおいで。」
かえり道、妹紅はすこしだけ、あったかいきもちになりました。


妹紅はじぶんの家のまえに、もらったなえ木をうえてみました。
「いつかおっきな木になるのかな。」
そのよる、もらった炭でやいたうさぎは、
いつもよりおいしい気がしました。ごちそうさまでした。


5年がたちました。
妹紅の家の前にうえられたなえ木は、妹紅の身長にならぶほどになりました。
妹紅は、男と竹やぶであったときに、本当にたまにだけれど、
家でお茶をごちそうになったりするようになりました。
今日も、そんな日のこと。
「あ、もこちゃんだ、こんにちわ!
みてみて、うちのおにわの木。こんなにおっきくなったよ。」
妹紅は千代にとてもなつかれてしまいましたが、
うれしいやらこまったやら。
「もこちゃんの家のなえ木と、きょうそうだかんね!」


「こほっこほっ」口を手でおさえ、むすめがせきこみました。
「ほら、言わんこっちゃあない。」あわてて男がかけより、
せなかをやさしくさすってあげました。
「どうにもむすめは体がよわくていけない。」
男はこまったかおで言いました。
「さ、おうちに入んなさい。ちゃんとおいのりするんだよ。」


「千代のぐあいがわるくなったときは、あの木においのりをするんだ。
するとふしぎなことに、ぐあいがすぐによくなるんだよ。
まるでわが家のご神木みたいだね。」
妹紅が、にわにうえられた、かつてのなえ木を見上げると、
妹紅の家のなえ木とおなじように、
木はおだやかなようすで、まだちょっとたよりないけれど、
ゆったりと、そしてまっすぐに立っていました。


10年がたちました。
妹紅の家の前にうえられたなえ木は、家とおなじくらいの高さになりました。
「もこちゃんだ、こんにちわ!うへへ、
いつのまにかもこちゃんに追いついちゃった。」
はにかみながらそういった千代も、なえ木にまけず、
ずいぶんと大きくなりました。


「うらやましいな。」妹紅は言いました。
「わたしはほら、こんなだから。
おっきくなっていけるのって、いいなって。」
「あ……ごめん。」
「ううん、千代ちゃんがあやまることじゃないよ。
千代ちゃんは……もっとわたしがうらやましくなるくらい、
きれいでおっきくならないと、ね?」
「そだね。うん、あたしがんばるよ!」


15年がたちました。
妹紅の家の前にうえられたなえ木は、ずいぶんとりっぱになりました。
最近、竹やぶで男を見かけなくなりました。
妹紅はしんぱいになり、ゆうきを出して
男の家をたずねてみることにしました。
男はにわの木の前にいました。
「ああ、おじょうさんか。こんにちわ。」
そう言った男は、とてもふあんなかおをしていました。


男は、うつむいて言いました。
「千代がたおれてしまってね。
いつもより治りがおそいから、ちょっとしんぱいなんだ。」
そこまで言って男は、はっとかおを上げて妹紅を見ました。
「そうだ。千代に会ってあげておくれ。
あの子もきっとげんきが出るだろう。
おじょうさんにえらくなついているからなぁ。」


妹紅は、家の中に入りました。
そこには、ふとんによこになっている千代ちゃんがいました。
「千代ちゃん、おからだどう?」
「あ、もこちゃんだ。うん、さっきまではちょっとつらかったけど、
今はだいぶげんきだよ!」千代ちゃんは明るく言いました。
でもひたいから出るあせや、そのわりにしろいかおいろや、
おちつかないいきづかいは、まだあまりよくないことを
とおまわしにつたえていました。


「わたしはね、もこちゃんがうらやましいな。」
妹紅はちょっとびっくりして、「えっ?」ときき返しました。
「わたし、体よわいから。うーんと遊んだり、したいなって。」
「すぐにできるよ。ほら、そんなことばっかり言ってると
おにわの木にもまけちゃうよ?」
妹紅は、ふあんにさせてはいけないと思い、
じぶんにできるせいいっぱいのえがおで言いました。
「そだね。ん、わたしもはやくよくならなくちゃ。」
千代はほほえんでそういって、しばらくしてねむりにつきました。


千代がねむりについたのをみとどけて、妹紅が男の家の外に出るころには
外はすっかりくらくなっていました。
妹紅がにわの木を見ると、男が木の前でおいのりをしていました。
「神さま、おねがいです。むすめがはやくよくなりますように。
どうか、おねがいします。」


妹紅が家にいるあいだ、ずっとおいのりをしていたようです。
千代のぐあいが悪くなるたびに、いつもそうしていたのでしょう。
今はとくに、千代がおいのりできない分、しんけんに。
妹紅は、男にきづかれないようにそっと、男の家をあとにしました。
千代が亡くなったのは、その‌日の夜でした。


「なにがご神木だ。千代を、千代を返しておくれ。」
男はなきながら、木をたたきました。
「なんで、なんで千代がこんな目にあわなければいけないんだ。
千代が、千代がなにをしたっていうんだ。」
いたいくらいのさけびが、あたりにひびきわたります。


しばらくして、男は小さなこえで言いました。
「いや、そうじゃない。わかってるんだ。
お前だってつらいよな、なにもできなくて。
見まもってることしかできないのは、お前もおなじだったよな……」
男は木にかたりかけるようにそう言い、あとはひたすらに
なみだをながしつづけました。


み近な人が亡くなるのは、ひさしぶりのことでした。
でもなみだはながれません。
ただ、また一人わたしをおいていっただけ。
千代がしんじゃったのはかなしいけれど、いちばんかなしいのは、
それがすごくかなしいわけじゃないこと。
わたしは、今いきているんだろうか。
この木は、いきているんだろうか。


30年がたちました。
うえられたなえ木は、ちょっとはなれて見ないと
てっぺんがどこか分からないくらいに大きくなりました。
そのおおきな体であびる、はるか高くでかがやくおひさまの光。
妹紅が男とさいごにはなしたのは、そんな夏の日のこと。


妹紅が男の家をたずねると、男はいろりのまえですわっていました。
「ああ、おじょうさんか。ひさしぶりだね。」
男は妹紅に気づくと、かおをくしゃくしゃにしてほほえんで言いました。
「ちょうどいいときにきてくれた。話しあいてがほしくてね。」
妹紅は、なんとなく、いつもとようすがちがうことに気づきました。
「わたしもそろそろ、千代のところにいく日がちかいようだ。」


「わたしはおじょうさんがもう一人のむすめのようにおもえるよ。」
男は、ぽつぽつとひとことずつ、ゆっくりと言いました。
「おじょうさん、生きておくれ。今はわからなくてもいい。
死ねないことは、生きていることとおなじじゃないんだよ。」
そうえがおで言った男の顔は、だけどなぜか、
妹紅にはとてもかなしくおもえました。
そしてしばらくして、妹紅が男の家をのぞいたとき、
そこにはこときれた一人のなきがらだけがありました。
妹紅は、男のなきがらをにわの木の下にうめてやりました。
そこが、千代がいるばしょでもあったからです。


50年がたちました。
妹紅の家の前にうえられたなえ木は、りっぱな大木になりました。
男の家のにわの木も、同じくらいりっぱな大木になりました。
でも、そこにはもうだれもいません。
かべははがれ、わらはとび、いまにもくずれそうな、
だれもいないいえだったものがあるだけ。


70年がたちました。


80年がたちました。


90年がたちました。


100年がたちました。


木は、みどりでおいしげり、あかくいろをかえ、ちって。
それをただただくりかえすだけ。
もう、育っているのかどうかも、なんだかよくわかりません。


なつの日の夕ぐれ。
妹紅は、ひさしぶりに男の家があった場所をたずねました。
そこには、大きな木がひとつ。
もうそこに、家はありませんでした。
かぜにふかれ、雨にぬれ、いつのまにかきえてしまいました。
木は、ただ一人でずっと、そこにいました。


木は、どんな気もちだろう。
千代が死んで、男が死んで、まもっていた家は消え。
それでも、じっとそのばで立っているだけ。
うごくこともできず、ただただみまもりつづけて。


もしもこのせかいがこわれて、なにもなくなったら。
私はそのせかいで一人になるだろう。
なにもできなくてずっとういているんだろう。
ふとそんなことをかんがえて、なきたくなる。
わたしがこの木だったら、どんなきもちだろう。
ずっとうごけなくて、ずっと立っているだけで。
ずっと、ずっとそんなことが、ずっとつづくんだ。
(この木は、生きているんだろうか。)


妹紅は、どうしようもなく、木がかわいそうになりました。
「死ねないことは、生きていることとおなじじゃないんだよ。」
男の、むかしのことばがあたまのおくにうかびました。
(この木は、生きているんだろうか。)
うごくこともできず、ずっと一人で。
死んでいないだけで、生きているといえるんだろうか。
(この木は、生きているんだろうか。)


妹紅は、たいまつに火をつけました。
わたしとこの木は、いっしょだ。
でも、一つだけちがうところがある。
生きられないのなら、せめて、ねむらせてあげよう。
この木には、おわりがあるんだ。
妹紅はたいまつの火を、そっと木のねもとに当てました。
火は、おとを立ててもえあがりました。


そのときでした。
木からたくさんのとりが、ばさばさとびあがりました。
おどろいたように、びゅんとそらへ上がり、
そらから木のようすをみています。
ついで、虫たちがぶーんと、火のこをよけるように、
ちらちらとあたりをとびはじめました。


「生きていたんだ、木は生きていたんだ」
妹紅ははっといきをのんで、自分がしたことの大きさに気づきました。
木は、けっして一人ではなかったこと。
ここで、とりや、虫や、たくさんのいきものたちと、
せいいっぱい生きていたこと。
この木は、生きていました。
自分ができることを、いっしょうけんめいに、
ずっと、ずっとくりかえして、木は生きていました。


「生きていないのはわたしだけだったんだ。
死ねないことを一人でかなしんで、みんなからにげて、
ずっと一人でいようとした。
わたしは生きてなんかなかった、
ずっと死んでいないだけだったんだ。
わたしはばかだ。わたしは、わたしは……」


妹紅は、あわてて火をけそうとしました。
でもあたりには水も、川もありません。
火はどんどんもえ上がっていきます。
「おねがい、止まって。おねがい……」
火はついに木をつつみこみ、まるでそれが一本の
木であるかのように、はげしくもえ上がりました。


「ごめんなさい。ごめんなさい。」
妹紅はこえを上げ、わんわんと泣きました。
そのなみだは、火をけすにはあまりにも小さくて。
火はたかく、そらたかくのぼり。
あたりにはパチパチと火のこがはぜる音と、
妹紅の泣きごえだけがひびきわたりました。


やがて、妹紅の涙をおおいかくすように、
ぽつ、ぽつとあめがふりはじめました。
あめは妹紅のなみだも、とびちる火のこも、
すべてをあらいながしていきます。
だけどそれは、かの女のしたことをおおいかくすには
あまりにもおそく、あめが上がり、そこにのこったものは、
いまだやまない小さなあめと、かすれたこえと、まっくろな木。
妹紅は、ただひたすらになみだをながしつづけました。


半年がたちました。
妹紅はせなかに、もてるだけの炭をしょっていました。
「これくらいかな。……よし。」
妹紅は、村へむかって、ゆっくりと歩きはじめました。
かの女を見おくるように、にわさきには
大きくてりっぱな、一本の木がありました。
初めてSS書いたんで変なとことかご指摘あれば言っていただければ幸いです。
絵本風を意識してみました。
よっけ
http://yokkemoko.manjushage.com/index.html
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コメント



0.910簡易評価
2.80奇声を発する程度の能力削除
絵本って感じが凄く伝わってきて良かったです
読んでてちょっとだけ泣きそうになりましたw
3.90名前が無い程度の能力削除
いい雰囲気でした。
9.100名前が無い程度の能力削除
※80~100年が~のところで鳥肌がたったので
10.100名前が無い程度の能力削除
暖かさと柔らかい気持ちが伝わってきた気がします。
木が生きていることに気がついた後の妹紅の無力感や後悔もスッと入ってきました。
>そのなみだは、火をけすにはあまりにも小さくて。
この表現が凄く好きです。
20.100名前が無い程度の能力削除
ちょっと涙出ました
22.無評価よっけ削除
>絵本って感じが凄く伝わってきて良かったです
>読んでてちょっとだけ泣きそうになりましたw
そういっていただけると本当に嬉しいです!ありがとうございます!

>いい雰囲気でした。
絵本風で書くのは初めてですが頑張った甲斐がありましたw

>※80~100年が~のところで鳥肌がたったので
狙った表現なので気に入っていただけて嬉しいです!

>暖かさと柔らかい気持ちが伝わってきた気がします。
>木が生きていることに気がついた後の妹紅の無力感や後悔もスッと入ってきました。
もこたんは悲しい分だけ強くきれいになれる女の子だと思います。
ありがとうございました!

>ちょっと涙出ました
ありがとうございます!書いてみてよかったですw
23.50ヤマカン削除
妹紅かわいいね
24.90名前が無い程度の能力削除
あっさりなのに内容は重い。イイね
25.無評価よっけ削除
>妹紅かわいいね
本当にかわいいですね、ぶっちぎりで最高にスキです。
パルスィ絡み2つほど投稿しましたけど今はまた絵本調で妹紅書いてます。

>あっさりなのに内容は重い。イイね
ありがとうございます!もこたん関連の話はちょっと重くなりがちになってしまいますw