※この話はジェネの方の『おっさんでもいいじゃない』の流れを汲んでいます。
「くぁーっ、久しぶりの休みは家でゴロゴロするに限るな」
私は久々の休みを家でゴロゴロすることによって満喫していた
ああ、畳の匂いが気持ちいい、すーはーすーはー、いい匂いだ、このまま二度寝と洒落込むか。
ん?お前は一体誰かって?失敬な、幻想郷の大妖である八雲紫様の式にして金毛白面九尾の狐、国を傾ける事ならお茶の子さいさいの八雲藍だぞ。ほら見ろ、このふわふわモフモフの九尾を。それでも信用できないって?じゃああの山を吹っ飛ばして来れば納得するかい?分かってくれたようだな、よろしい。
ここはマヨヒガ、私と紫様は現在ここに居を構えている、八雲家は数日前に謎の爆発事件があったので現在改修中だ。因みにマヨヒガも数日前爆発した、2時間で立て直したのだがその間に式たちのハードコアなシナリオが多々あったのだが割愛させていただく。
初夏の早朝は多少蒸し暑いので現在の私は藍色の甚平姿で畳にごろごろしている。
涼しい風が吹き抜け構造の家を通っていく、甚平は風を通してなおかつ薄いので圧迫感を感じない、まさに私が快適な休みを過ごすためにあると言ってもいい服だ。私はこの服装をかれこれ200年程愛用している
しかしこの服装には一つ難点がある、それは男物である事、それが欠点だ。帯を締めると非常にきつい、何がとは言わん。そこで私は悩んだ、悩んだ末「まあいっか、考えるの面倒くさいし」と言う結論に至り帯を着けないことにした。
その後紫様の所に行ったら「おひょっ!?」と意味の分からない奇声を上げた後一時間説教フルコースを受けた、紫様は「あなたは八雲の名を与えられた者なのだからもっと自覚を持ってうんたらかんたら」と言っていたが楽なんだし良いじゃないですか、家の中だから紫様か橙しか見てませんしと宥めすかしておいた。
しかしやはり快適だ、だんだん眠くなってきたぞ。
「さて、早速二度寝といこう」
ああ、幸せだ。いえでごろごろし、寝る。これ以上の幸福が他にあるだろうか、いや無い。
しかしそんな幸せは主の一言でぶち壊される事になった。
「藍、橙をどこかに連れて行ってあげなさい」
数か月ぶりの休日の朝、せっかく今日一日を怠惰に過ごそうとしていた私に紫様はそう言った。
私はたまの休日を寝たり横になってテレビを見たり寝たりだらだら食ったりして無意味かつ有意義に過ごしていたいのになぜ朝からそんなことを言う、殺生な。
「嫌ですよ、外に出たくないです」
「あなた最近帰ってきてもまったく橙と遊んであげてないでしょう、寂しがっているわよ、あの子、後その姿破廉恥だからよしなさいってこの間言ったばかりでしょ」
「そりゃあまあそうですが…」
確かに最近は仕事が忙しくて休日を寝て過ごす事が多くなってきた、橙はしっかり者だがまだまだ甘えたい盛りなのだろう。
しかしそれとこれとは話が別だ、私はこの休日をだらだらと寝て過ごすという確固たる目的を持っているのだ、いいじゃないか、休日くらい自分のやりたいことをさせてくれ。という訳で私は紫様に背を向けしかとを決め込んだ。
「私は休日ぐらいだらだらと過ごしたいんですよう」
「…ボツシュート」
「ぬわーっ!」
とうとう紫様は私を追い出すことにしたらしい、隙間の中に私は飲み込まれていった。
「…何処だここは」
トンネルを抜けると、そこは雪国ならぬ遊園地だった
目の前になかなかでかい遊園地がある、客もどんどん入っていっている。
幻想郷にいつ遊園地ができたのだろう。日夜幻想郷を駆けずり回っているが遊園地の影すら見たことがないぞ。しかもこんなに盛況なんだ、気付かないわけあるまい。
そうすると外の世界か?しかしこれは解せない、外の世界に行くときは私に注意するだろうし仕事以外で私が外の世界に行くことは無い。それに橙の事がある、尻尾は私が隠せるがあの子は私ほど外界に慣れていないのでひょんなことで正体を現してしまうかもしれない。紫様もそれを承知のはずだ。
此処まで考えるとここは幻想郷であることがわかる、しかし私はこんな施設を見たことが無い、これは一体…?
「それはここが地底だからですよ」
「おわーっ!」
フル回転していた思考に突然横から乱入されたら誰だって驚く
誰だ人の思考を暴く不届き物は、と言いかけたが振り向いてみると何故か水着姿のさとり(姉)がいた、さとりならば仕方ない。いやそれよりも前につっこむべき所がある。
「なぜ海もないのに水着姿なのか、お前はひょっとすると痴女なのか…ですか失礼な」
「すみません、しかしそれしか考えられないので。ひょっとして何か深い理由がおありで?」
「ふふふ、聞きたいですか」
「えぇ、まあ聞きたいですね、あなたの尊厳の為にも」
「ならばまず服を脱ぎましょう」
「何故に!?」
いきなり謎なことを言いだしたぞこの女
「大丈夫大丈夫、慣れれば気持ちよくなっていきますよ」
「それ危ないセリフだ!」
主に全年齢的な意味で危険だ、脳内も危険だが
「剥く前になぜ私がこんな恰好をしているか教えておきましょう。」
「あ、はい」
剥くのが前提なのか、なぜいきなり冷静になるのか、疑問を置いてきぼりにして会話は進む。
「私がこんな恰好をしている理由は…熱いからです」
「思いっきり良過ぎでしょう!?」
さんざん導入を入れておいて理由はこれか。どうして引きこもりと言うのはこうも変な方向に積極的なのだろうか。もう訳が分からない。
「熱いから脱いでいたらこいしに見つかって家出されてしまいました、なので妥協して水着です」
「妥協してそれですか!?」
唯一の肉親がいきなり裸になったら受けるトラウマは計り知れないだろう
「藍さん…と言いましたっけ」
「あ、はいそうですが」
「あなたのその九尾を見ているとね…感じるんですよ…そう、ケモナーとしての本能がね…『剥いて、モフモフしろ』と私に囁くんですよ…ええ」
「完全に危ない人だこの人!!」
剥くのは要らんだろう、そういう思考は無いらしい。
「という訳で…剥かせろぉ!」
いかん、このままでは剥かれてしまう、とっさに後退し回避。バックステップをして逃げたがお前本当にひきこもりなのか、と疑うほどの超軌道で追跡の手が止まらない。因みに無表情で超軌道すると不気味だ覚えておこう。
「さあすっぱを、一心不乱の総すっぱを!」
やがて私は建物の影に追い詰められてしまった。謎のテンションに私は精神的にも追いつめられていた、このまますっぱするしかないのかないのか、いやできない。私には八雲としての誇りがあるのだ、こんな所で主の名に泥を塗るわけにはいかない。しかしこの痴女をどうやって振り切ろうか、もう実力行使しかないのか。
ゆらり、とスペルを繰り出そうとしていたその時、救いの神は現れた。
「藍様をいじめるなー!」
「へぶぉっ!?」
突然現れた橙の強烈な回転タックルをもろに食らったさとりは数メートル吹っ飛んだあと気絶したようだ。
「おぉ橙!助かったぞ」
そういえばここに来た目的は橙と遊ぶことだった、橙がいなければおかしいのだ。
「実にいいタイミングで割り込んできたな」
「スキマから出たら藍様が襲われてるんでつい観戦をしていました!」
「そうか、正直なのは良い事だがもう少しオブラートに包もうな」
「はい!」
この際めんどくさい事には目をつぶっておこう
私と橙は何故かポケットに入っていたチケットを使い遊園地に入館した。
言い忘れたが私の服装はいつの間にか導師服に変えられていた、熱い。
「それで、ここが地底なのはわかったがなぜ遊園地があるんだ?」
「さあ?私はただ隙間に入れられただけですが」
「それはおりんりんランドだからだよ、お姉さん」
どこからか声が聞こえる、下を見ると猫又がこっちを向いていた
「じゃじゃーん」
「あ、お燐ちゃん」
その黒猫が変化を終えると地底異変の時にモニタ越しに見たさとりのペットだった。
「やあやあ橙、久しぶり」
「久しぶり~」
「ん?なんだ橙、知り合いなのか?」
「はい藍様。猫又つながりで気が合うんですよ。あ、お燐ちゃん、この人が私の主人の藍様だよ」
「ああ、橙がいつも自慢している九尾か。見事な九尾だねえ、惚れ惚れするよ」
この九尾は私の誇りだからな、常日頃からいつ見られてもいいように常時綺麗に手入れをしている、尾を汚くしていることは我々妖獣にとって恥さらしにも等しい事なのだ。
「藍様の尻尾はね、とってもフカフカなのよ!」
「いいなぁ、私もフカフカしたいなぁ」
「お前もやっていくか?」
「本当?いいのかい?」
寛容であることもその者の格の高さを表す、家ではだらだらしているが外に出れば私は『八雲』藍だ、紫様からもらったこの誇り高い看板を汚さずに磨き上げることが八雲の窓口たる私の仕事だと考えている。まあ九尾をモフモフして嬉しそうな声を聞くのが楽しみと言うのもあるが。
「うわっ、すっごいふかふか!」
「思わず眠たくなりますね」
「でしょ~?」
喜んでくれて何よりだ、橙も自慢げだし。主人として橙に私の良いところを学んで行って欲しいし…ん?
「もっふもふだね」
「そうですね」
「私もモフモフする!てぇーい、回転ダイブ!」
おかしい、今ここに居るのは私と橙と火焔描のしか居ないはずだ、ならば声は二人分のはず、一人分あぶれる。…誰だ?
「あ、さとり様ってえええ!?何でここに居るんですかぁ!?」
「九尾が私を呼んでいたので」
古明地さとり、不死鳥のごとく復活
「橙に吹っ飛ばされた後、気を失っていたのでは?」
「ええ、気を失っておりました。しかし私の耳が聞きつけたのです!けもっ子達がきゃっきゃうふふする声が!」
「さとり様、あたい達はただ立ち話していただけで」
「この状況放っておくことは第一級ケモナーの名折れと断絶していた意識を無理やり取り戻して這って来ました」
「うわ、話聞いてねえよこの女!」
しまった、思わず暴言が。それを何故かさとりは聞き逃さなかった、何故だ。
「んっん~?おやおや、八雲の式はたいそうな口のきき方をするようで」
さとりの目が光る
「そんな不遜な従者は…こうです!」
さとりは私の尻尾の根元を握り、絶妙な腕づかいで扱きあげてきた。まずい
なにがまずいか?妖獣はそれをやられてしまうと興奮するのだ、無論性的な意味で。
まずい、今再びの貞操の危機より先にこの作品が別所行きになってしまう事の方がまずい
しかしここで本日二度目の救世主が現れる、何か安っぽい感じだ。
「あんたは」
突如さとりの背後に大きな羽をもった人影が現れさとりを引きずり出した
「いい加減に」
更にさとりを別の人影が羽交い絞めにし
「しなさいっ!」
現れたさらに別の人影に脳天瓦割&ボディーブローをくらってさとりを昏倒させた。
私を助けてくれた三人はそれぞれ、古明地こいし、霊烏路空、水橋パルスィだった。
「助かったよ水橋の」
「パルスィで良いわ」
「うむ、ではパルスィ殿。危うくこの話が別所行きになるところだった、ありがとう。」
「こいしが教えてくれたのよ」
横を見ると古明地(妹)がこちらに向かって手を振っていた
「お姉ちゃんの目線が怪しかったから監視していたのよ」
「ありがとう、こいし殿」
「うふ、殿なんてむず痒いね、後お空にもお礼を言ってあげて、私たちをここまで連れてきたのはあの子なの」
「うにゅ」
「お空殿、感謝する」
「うにゅ」
「ゆでたまごは美味しいか」
「うにゅっ」
「じゃあ油揚げをあげよう」
「うにゅ?」
油揚げも旨そうに食べていた
橋姫はその後八咫烏とさとりの妹、それと雁字搦めに縛り上げられたさとりを連れてどこかに向かっていった。さとりの風貌はまるでミイラのようだった、違うのは死ぬのが縛られる前か後かの違いだろう。
橋姫曰く「これからこの不届き物に橋姫の恐ろしさを教えに行く」だそうだ。
どうなるかは分からないが世の中には分からない方が良い事は沢山ある。
三人とミイラが去って行った後、私は橙の方に向き直った。
「橙、何がしたい」
「はい?」
「折角遊園地に来たんだ、まずは何に乗りたい。私は今日一日中お前と一緒に居てやれるぞ」
そう、今日ここに来た目的は橙と遊ぶことだ。今日一日は橙と真正面から付き合おう、何時も構ってやれない分全力で楽しませてやろう。
「藍様…」
橙は一瞬目を大きく見開いた後嬉しそうに、本当に嬉しそうに私に要望した
「まずはご飯が食べたいです」
そういえば今日は朝飯を食っていなかった。
遊園地の出店で橙はたこ焼き、私はホットドックを頼んだ
朝からジャンクフードとは体に悪いが我々は妖怪だしまあたまには良いだろうという事で橙に買ってあげた。
注文してから三分でホットドックは届いた
ホットドックの旨さの決め手はウインナーのプリプリとパンのフワフワカリカリのマッチだと考えている。諸君はしばらく放置しておいて少し乾燥したホットドックを食べた時どう思うだろうか、恐らくまずいと思うだろう。それは食感のミスマッチからくるものだと考えている。考えても見るがいい、しわしわで変に凝固したウインナーとパサパサのパン、それは食べた時に嫌な噛み心地を生むのだ。互いが互いを牽制し合い、それが不味いという感触を与えるのだ、
小難しい講釈をしてしまったがそれは今、私の目の前にあるホットドックがあまりにも旨そうなのでしてしまったことだとご容赦いただきたい、何しろ本当に旨そうなのである。まずパンの表面は見事な金色がかった小麦色だ、喰らいついた時のぱりっとした音が聞こえるような見事な焼き具合だ。
続いてはソーセージ、これもまた見事だ、表面はやはり旨そうな焦げ目がついている、そしてジューシーそうだ。噛みついた時にじゅわっと出る肉汁が口の中に広がるのを感じる。堪らない、口の中が唾液まみれだ。
店側の配慮も良い、テーブルの上にケチャップとマスタードが置いてある。「どうぞご自由におかけ下さい」と言うのは素晴らしい事だ。前に外の世界の遊園地に一家で遊びに言った事があった、あそこのホットドックは酷かったと今になってもそう思う。ホットドック本体は「まあ遊園地なんてこんなものか」と我慢できるレベル、及第点だ。しかしケチャップとマスタードの量が少なかった、異常に少なかった。赤と黄色の細い線を見てあんなに悲しくなったのは後にも先にもあれ一回だ。ケチャップもマスタードも景気よくどばっとかけたい人も素材の味にこだわりたいと少ししかかけない人にも嬉しい配慮となっている、ちなみに私は前者だ。
マスタードとケチャップのチューブを存分に握り、口いっぱいに齧りつく。旨い、まずはこの一言しか出なかった、まずパンのパリッ、フワッと言う感触が口いっぱいに広がる、次にソーセージのじゅわっと湧き出る肉汁がパンに絡みつき独特の食感と旨さを与える、おっと、名脇役のキャベツを忘れてはならない、しゃくっ、しゃくっとした食感は口の中に絶妙なハーモニーを生み出す。最後にマスタードとケチャップのスパイシーさが折り重なってため息が漏れるほどの一瞬が完結する。
「はむっ、はむっ!」
手が、口が止まらない、一気にのどに詰まることなく詰め込むように、かつ食事を楽しむ様に食らう。食べることは幸福であり、芸術であるという言葉が頭をよぎった。
食事を終えた私達は遊園地をぶらぶらと歩いていた。
橙はエリアマップを見てこれから行く場所をサーチしているようだ。
「じゃあ橙、そろそろアトラクションに乗ろうか」
「藍様、ばてないで下さいよ?」
「はっはっは!橙、私を誰だと思っているんだ?お前の主で金毛白面九尾の狐、八雲藍だぞ、一日遊園地を遊び尽した位でくたばる物か!」
そう、私は最強の妖獣にして橙の主にして保護者。娘の頼みに付き合えない親が何処に居るというのか。
「じゃあノンストップで行きますよ、藍様!まずはあのアトラクションからです!」
「おう、どんどん来い!かかってこい!」
私たちはまず天高くそびえるフリーフォールに向って走り出した。
一時間後
「ぜぇー ぜぇー」
私は休憩所で伸びていた
まさか橙があんなに元気だとは思わなかった
あの後ジェットコースター、ゴーカート、海賊船が揺れるあれ、回るあれ、光るあれなどに乗った。あれが多すぎるって?仕方がないじゃないか思い出せないんだから。
大丈夫だと言った手前橙に申し訳ないがこのままだと私の体力が途中で切れて気絶しかねなかったので日陰で休憩中だ。
「体力、落ちたなぁ」
そう呟かずにはいられない。調査場所に赴くのには足を使うので身体能力に衰えはないが調査は動く必要はなく観測した記録を元に家で計算し、結果をたたき出す所謂デスクワークの為体力の方はがた落ちしていたらしい。
しかし「デスクワークが多い為子供と遊ぶ時すぐばてたり無理して翌日酷い筋肉痛に悩まされながら仕事に行く」というのはまるで…
「こうしてはいられない」
「はいっ?」
「橙、休憩は終わりだ。さあ、遊ぶぞ!」
「え、あ、はい!」
いかん、これではいかん。明日からトレーニングを日課に盛り込もうと私は決意した。
「おや、藍さんじゃないですか」
その後いくつかのアトラクションに行ってそこら辺をぶらぶらと歩いていると急に声をかけられた。
「鈴仙殿じゃないか、お久しぶりです」
「その節はどうも」
「ええ、その節はどうも」
永遠亭の窓口、鈴仙・優曇華院・イナバだ、彼女とは同じ窓口の仕事をしているので親交がある。幻想郷各妖怪勢力の窓口係と言えば…
紅魔館―――十六夜 咲夜
白玉楼―――魂魄 妖夢
八雲家―――不肖私
永遠亭―――鈴仙・優曇華院・イナバ
守矢神社――東風谷 早苗
地霊殿―――火焔描 燐
命蓮寺―――寅丸 星
が主な窓口係だ。…なんだこの五ボスの多さ、私除き皆五ボスじゃないか
他にも窓口係としては
人里――――上白沢 慧音
彼岸――――四季映姫 ヤマザナドゥ
魔界――――アリス・マーガトロイド
などがいるが集会には基本出てこないので何かの用事で集まるときは決まって五ボスの中にExボスの私が入る事となる、非常にやり辛そうに思えるが悲しい事に見事に役が嵌っているのだ。例えばこの前とある居酒屋で二次会を開いた時の会話を聞いて頂こう。
「んじゃあぁ、これからぁ、五ボスの集いのぉ、二次会をぉ、始めぇ、うぷっ、うぇぇ」
「妖夢が吐きそうだ!咲夜、妖夢を早くトイレへ!」
「了解よ」
「…あー…嫌な音が聞こえますね」
「あいつ集会でいくら飲まされたんだ…」
「何かやけ飲みしてましたね、理由は知りませんが」
「上司に不満でもあったんでしょうかねえ、あたいもよくやけ飲みしそうになるよ」
「え、何ですか」
「この間暑いからっていきなり脱ぎ始めるしさ」
「…ぶぅっ!…ごほっ、何ですかいきなり!笑わせないで下さいよ!」
「いや、本当なんだってば」
「ではそろそろ、五ボス集会二次回恒例、くじ引き一発ギャグの時間です」
「待ってました!」
「今回は負けませんよ」
「う~っす、帰りましうぷっ、あ、くじ引き?やるやる!」
「あたいも負けるわけにはいかないねぇ」
「…お前らちょっと待て」
「藍さ~ん、早くぅ~っ」
「私は五ボスではない、しかもこの集会は五ボスの集いではない」
「えっ」
「えっ」
「あっ」
こんな扱いである、威厳はどこに行った
まあそんな心温まるやり取りもあって、私と五ボス達の生温い縁は成り立っている
「今日はどうした?」
「てゐとか妖怪兎が達がテーマパークに行きたいとか駄々こねてね」
「…監視役か」
「そうそう、中間管理職はやっぱ辛いわ…」
「それとこの前の実験の成果はどうだった?」
「ああ、あれ?あれはつまりね…」
…………………
……………
……
……
……………
…………………
「だよね、うん。頑張ってみるわ」
「愛人関係の泥沼には気をつけてな」
「流石は傾国の美女は言う事が違うわ」
鈴仙とはその後仕事の事などを話し込んでしまって気付いたら話し始めてからもう20分もかかっていた。しまった。
「橙、すまないな。今度はどの乗り物に」
振り返った私の前に
「…あれ?」
橙は居なかった。
「橙、橙!どこにいるんだ!?」
私は遊園地の中を鈴仙と共に駆けていた。
「居なくなっちゃったのは私にも原因はあるんだし手伝わせてもらうわ」
そう言って鈴仙は付いて来た。
しかし遊園地の中をいくら探しても橙は居ない
「これだけ探してもいないなんて…」
「いったいどこに居るんだ…」
誘拐、そんな単語が頭をよぎる
「まさか…」
鈴仙もそんな考えをしたらしい。
だったらどうする、まずは紫様に連絡して、それから…
「馬鹿」
そんな事を考えていると
「あなたたちは本当に大馬鹿者ですね」
上から声が聞こえてきた、そちらを向くと地底の太陽を背に
さとりが、こちらを睨んでそんなことを言っていた。
「…てっきり成敗されたのかと思いましたよ」
「いえ、そのつもりでしたが大馬鹿者がいるので説教しに来ました」
「そんな方は一人で十分ですよ」
「あいにく映姫はこういう事にたいして言えることが無いんです、あくまで死者を裁くものですから」
そう言った後、さとりは私を睨みつけた
「こんな大馬鹿者を残して成敗なんてされませんよ、私は」
「大馬鹿者って…私ですか?」
「あなた以外誰がいるというんです」
さとりはそう言ってこちらに向かって腕をびしっと降ろした
「あなたは、なぜ橙さんが居なくなったか分かりますか?」
「…それは…分かりません」
「簡単でしょう?あなたは心の奥底で分かっているはずです『橙は構ってもらうために逃げ出した』と」
「…っ!!」
「あなたはまだ信じられないんですか?『そんなことするはず無い』と思っているんですか?それこそ馬鹿のすることです、『家族を信じない』ことほど馬鹿なことは無いんですよ。」
さとりの言葉が、心を抉る
「それにあなたは今日、心から橙に向き合っていませんでした、心の底で『主人に言われたから』とかそんなくだらない事を考えていましたよ」
ずんずんと近づいてくる
「そんな考えであの子の心と触れ合えますか?いやできない、だからあなたは今日、鈴仙さんと話し込んでしまったんです」
図星だった
私は『八雲』藍として橙に接してきた
それは仕事続きで私に張り付いてしまった仮面
私は『橙の主人』である藍としては接してはいなかったのだ
「馬鹿だなぁ…」
悔しくて、涙が出てくる
「…本当、私は馬鹿だなぁ…」
言われるまで、気付きもしないとは
「何を終わったことにしているのです?」
さとりが呆れた表情で言った
「行ってあげなさい、あの子の元へ」
さとりは私から離れた後
「行ってあげたら、向き合いなさい」
さとりは私に背を向け諭すように言った
「それで、思いっきり抱きしめてあげなさい」
私にはさとりがふっと笑っているように見えた
「私も、そうしてあの子達と向き合ってきたのですから」
「…ええ」
もう迷わない、もう見失わない
「それとあと一つ、あの三人はどうしたんです?」
「ああ、あの人たちならば少々気絶させてきましたよ」
「なぜ、そんなことを」
「なぜ?」
さとりはそこまで言うと振り向きざまニヒルに笑った
「困っている者を見たら地の底からでも助けに行くのがこの私ですよ」
それはまるで誰にも理解されなくとも世界の為に戦う勇者のようで
とても、かっこよかった
「…ありが」
「いたぞ、縄切って逃げたさとりを追えーっ!」
「げえっ、パルスィ!」
「…ありがとうございました」
私は、小さくなっていく背中にそう呟いた。
私と鈴仙は遊園地の中を駆けていた。
今ならば、橙と向き合えた今ならば分かる。
「あの子はしっかり者だがね」
私は走りながら鈴仙に伝える
「あの子も年相応の幼さを持っているんだよ」
私達がさっき話していた位置に。
橙が立っていた。
「橙」
後ろからそう話しかけると橙はびくっと震えた後そろそろとこちらを振り向いた
「藍様…」
私は橙の目線まで腰をかがめる
「怒ってますか…?」
なんだ、そんな事で怖がっているのか
「そんな訳無いじゃないか」
だってそうだろう?
「構ってほしくて、親の気を精一杯引こうとした子供を怒る親なんてどこにいるんだい?」
私は橙を抱きしめた
「ごめんね、橙」
「藍様…ひっく、えぐっ、藍様、らん…さま…うわあぁぁぁぁぁん!」
橙が泣き止んでしばらくたった、そろそろ地上は夕暮れだろう。もう帰る時間だ、
「じゃあ橙、帰ろうか」
「はい、藍様」
橙はにっこりと、年相応の笑みを浮かべて私の手を繋いだ。
「今度は、人里に買い物にでも行こうか」
「…はい!藍様!」
今度こそ橙とゆっくり休日を過ごそうと私は決意した。
縦穴を昇ってゆく私たちを、地上の眩しく、それでいて優しい夕日が迎えていた。
帰宅した私はマヨヒガの庭に帯を解いた甚平姿で縁側に座っていた
「ふい~っ、熱っついなあ」
ビールをぐいっと飲み、胸元をパタパタと仰ぐ、
打ち水をしてもこの蒸し暑さである、
しかしこれぐらい熱くないと夏と言う感じがしないのもまた事実だ。
そんな事を考えていると上の方に人影が見えた。
「あ、藍さん!幽々子様にこの料理おすそ分けして来いって…え?」
「あ…ああ妖夢」
「甚平姿?」
今妖夢が見ているのは
だらしなく着込んだ甚平姿に
片手にビールをもった私、その様子はまるで…
「いやいや妖夢誤解するなこれは楽だからこんな格好しているんであってだな…」
「藍さん、藍さんって昔から思ってましたけど凄く…親父臭いですよね」
マヨヒガは再び爆発した