Coolier - 新生・東方創想話

眠って鍛えて芸術しちゃってて

2011/06/27 00:03:57
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 正午を過ぎて少し経つ時頃。紅魔館の門前で頭を悩ませる妖怪が一人。

 彼女の名前は紅美鈴。この館の主である吸血鬼、レミリア・スカーレットに館の守護を命じられし妖怪である。
 昼食を済ませ終え、いつもならば午後からの勤務に励もうという彼女だが、今日の彼女は日常の流れに乗れないようだ。
 門の前で腕を組み、必死に頭を悩ませるその姿は実に絵になる光景だろう。美しき紅髪に整った美貌、そんな彼女が
思考に耽る様子は見る者達を魅了する魔力を秘めている。そんな物語の一場面とも思える程に幻想的な姿を門前で見せる彼女だが、今の彼女の頭の中は
ただ一つの内容にのみ縛られていた。その内容とは――


『――お昼からのこの時間、一体どうすれば居眠りをせずに済むだろうか』


 …という、何ともまあ実にしょーもない内容だったりする。
 彼女がこんなことに頭を悩ませているのには理由がある。先ほど昼食を取り終えたとき、外勤に戻ろうとする美鈴に
彼女の同僚である咲夜が一言美鈴に耳元でとある情報を教えてくれたのだ。

『今日、夕刻前にレミリアお嬢様が門前に貴女の働きぶりを視察に来られるそうよ。
私は貴女が居眠りしていても、ちゃんと来客時には対応してることを知っているから、貴女の勤務態度は一度も咎めてこなかったけれど…
お嬢様の前で居眠りだけは止めておきなさいよ。幾ら貴女が優秀だと私達みんなが知っているとはいえ、目の前で堂々と居眠りされてはお嬢様とて面白くは感じないでしょうし』

 そんな貴重な事前情報を流してくれた咲夜に、美鈴は感謝と今度人里で飲み一回分を奢る約束をして、午後からの対策へと思考を切り替えた。
 夕刻前…恐らくは三時頃だろうか。レミリアの視察の時間帯に美鈴は少しばかり小さく溜息をつく。主人の視察は過去に幾度かあったものの、
いつもは主が眠りに落ちる前、すなわち午前中だった為、美鈴が主に居眠りする姿を見られたことはない。
 だが、今日はいつもとは状況が異なる。どうしてこの時間帯にレミリアが起きているのかも謎なのだが、彼女がこの時間帯に視察に来られると
美鈴としては非常に危険ラインなのだ。何故ならその時間帯は、昼食を摂った後のとても心地良ーい時間帯、言わば美鈴のお昼寝時間なのだから。
 無論、眠ると言っても危険な侵入者等が近づけば即座に対応出来る状態に身体は保たれているし、美鈴の居眠りが任務に何の影響も無いことは
咲夜の証言からも証明されている。彼女は美鈴、レミリアに館の守護を任されている妖怪、紅美鈴なのだ。その彼女が優秀でない筈が無い。

 彼女が優秀であることは咲夜も主であるレミリアも認めるところなのだが、それでも主人が視察に来るという状況で居眠りというのは具合が悪過ぎる。
 恐らく、彼女の主は美鈴を咎めることなど微塵もしないだろうが、間違いなく不機嫌になる。美鈴の予想としては事後二週間は不機嫌になる。
 この館の誰よりも古くからレミリアに仕え、彼女の成長を見守ってきた美鈴にとって、そんな状況になるのだけは勘弁願いたい。レミリアは
一度機嫌を損ねると本当に大変なのだ。美鈴にとっては、ある意味フランドールよりも性質が悪い。自身の未来の為にも、今日ばかりは居眠りする訳にはいかないのだ。
 では、一体どうすれば居眠りしないで済むのか。そのことについて悩み、美鈴は五秒で答えを紡ぐ。――それ無理だわ、と。
 妖怪とは己の欲望のままに生きる存在である。そして美鈴は妖怪、その中でも比較的自身を縛ることに秀でた妖怪である。
群れに属する種族ではない妖怪にも関わらず、心酔する他者に属し忠誠を誓い、その在り方を認め誇る。妖怪とは人間を狩り喰らう生き物であるが、
彼女はそんな妖怪としての原初の生き方すらも長年縛っている。そんな彼女が唯一縛ることが出来ない感情、それが『睡眠欲』である。
 妖怪なのに妖怪らしさを失った美鈴、その彼女が唯一妖怪らしく在れる瞬間、それが睡眠なのである。寝たい時に寝て、自由気ままに惰眠を貪るその姿こそ
彼女の原初、彼女が妖怪である証明の瞬間なのである。長くなってしまったが、結論を纏めると『睡眠時間を捨てるだなんてとんでもない!』である。
 人間を襲わず喰らわず性に悦ばず。そんな彼女にとって生の原動力である睡眠を封じることは自殺行為も甚だしいのだ。よって数秒での却下と相成ったのである。

 眠りを我慢するのは不可。ではどうするかとの考えを巡らせ始めたとき、美鈴が数分かけて辿り着いた答えは
『如何に眠っていないようにお嬢様を騙し通すか』である。主人であるレミリアを騙すという結論に辿り着いている点で、やはり美鈴は
咲夜と比べると妖怪なのだ。忠義はあるものの、主人を騙すことに微塵の抵抗もなければ詫び入ることもない。あくまで人間に近い妖怪なのである。
 さて、それではどのように主人を騙し通すかだが、その答えは簡単に紡がれる。
 レミリアが美鈴に求めるのは『レミリアの配下である美鈴がどれだけ自身に尽くしているか』である。例えば今回の視察などは
美鈴がレミリアの住まう紅魔館の門前でどれだけ頑張っているか=レミリアを守る為に尽くしてくれているかの確認なのだ。
 実に子供染みたように思えるが、人も妖怪もどれだけ年月を経ようと、他者が自身の為に尽くしてくれる姿は本当に嬉しいものなのだ。
 心許した者が他の誰でもなく自分の為だけに頑張る姿を見て、一体誰が不快に思うだろうか。結論としては、レミリアが美鈴に求めるのは
その誠意の形なのだ。美鈴のレミリアへの想い、心を仕事というカタチで見せることこそ何より分かりやすい忠誠の証なのだから。
 そこまで分かっていながら、レミリアの前で忠誠の形を騙し通そうという美鈴の何とまあ妖怪らしいことか。だが、実際彼女は
自己利を大切にする妖怪が根本なのだから、それは仕方のないところ。むしろレミリアに対して不快にならないように対策を練ろうとしている
分だけ遥かにマシなのだ。普通の妖怪なら、例え主が来ようが説教されようがマイペースを貫き居眠りサボりは当たり前なのである。

 さて、話を戻すことにして、美鈴が導いた結論は『睡眠と鍛錬の並行』である。
 他の何でもない鍛錬する姿をレミリアに見せつければ、きっと彼女は上機嫌で部屋に戻るだろうというのが美鈴の結論だった。
 何故なら、美鈴が自身を鍛えることは館の守護者が力を研鑽することと同義なのだ。美鈴の力はレミリアの力、少なくとも美鈴は
そう思っている。自身の全てはレミリアの為に在り、レミリアが求めるなら自身の命を即座に差し出しても良い。それが美鈴のレミリアへの想いなのだ。
 ならば昼寝くらい我慢しろよと言いたいところだが、そこだけは決して譲れないらしい。美鈴はレミリアを、そして睡眠を大事にする妖怪なのである。
 美鈴の導いた結論である『睡眠と鍛錬の並行』、それは常人では不可能な並立行動であるが、美鈴程の達人ともなると実に容易なことだ。
 では、一体どのような鍛錬をするのか。睡眠しながら出来る鍛錬は五百を優に超える程あるが、美鈴としてはレミリアに接触される可能性のある
鍛錬だけは勘弁願いたい。例えば演武などしていると、きっとレミリアは魅入り、少し時間を置いて美鈴に接触して感想や賞賛を述べてくるだろう。
 それはすなわち、美鈴がレミリアに対して返答を必要とするに他ならない。となると、レミリアに対応する為に一度目を覚ます必要がある。
 美鈴は気を扱う達人であり、レミリアの接触により目を覚ますことは出来るが、美鈴としては絶対に勘弁願いたいことだ。主人に牙を剥く
侵入者相手の強制目覚めならまだしも、起きる理由としては不十分な理由で起こされるのは勘弁願いたい。
 美鈴が生きる上で一番嫌いなことは睡眠を邪魔されることなのだ。だからこそ、美鈴としてはレミリアの接触の可能性のある
鍛錬だけは除外したいのだ。ちなみに何度も言うが、美鈴はレミリアの配下であり、誰より彼女のことを尊敬している。ただ眠りだけは(以下略)

 悩むこと更に数分。美鈴が最終的に出した答えは『見た目が派手かつ声をかけることすら躊躇う鍛錬』である。
 レミリアがその美鈴の鍛錬の様子を見て感嘆し、かつ『邪魔しては悪いから感想は後日』となるのが理想的な形だ。そこで美鈴が考えた
鍛錬は以下の方法である。

「それじゃ、手頃な大岩を…うーん、よいしょっ!!」

 館の周囲に転がっていた大きさにして直径三メートルは越えようかという大岩を三つ。
 美鈴はその全てを宙へと蹴り上げ、大岩達を空の住人へと変貌させる。そして、自身は門前で徐に頭ブリッジを開始。準備を終えた
美鈴は空から飛翔する非常に重量と加速が伴った大岩を何の苦もなくその細身の身体、腹筋にて受け止める。ここで彼女を賞賛すべきは
重量と速度のある重岩を受け止めたことではなく、その三つを何一つバランスを崩すことなく腹筋にて積み上げたことであろう。
 彼女の身体の上にて大岩三つはまるで固定具でも使用されているかのように微塵もグラつくことはない。これは彼女の人間技を
遥かに超えたボディーバランスと力の出し入れによる賜物だろう。何度も言うが、紅美鈴は優秀な妖怪なのである。居眠りはするが。
 予定通りの形を作り、美鈴は満足そうに微笑む。これなら派手好きな主人も喜ぶだろうし、これだけのトレーニングをしている自分の
邪魔をすることも躊躇うだろう。何よりこれなら居眠りをしてもレミリアは気付くことなく満足してくれる筈だ。

「それでは…おやすみなさいっと。レミリアお嬢様、美鈴は頑張ってますよ~…ぐぅ」

 全ての準備を終えて、美鈴は迷うことなく意識のスイッチをオフにして眠りの状態へとシフトした。
 この時点で寝てどうするだとか、今侵入者が来たらどうするんだとか、そんな面倒事は投げ捨てて美鈴は眠るのである。
 彼女の思考には最早『レミリアを如何に喜ばせるか』『如何に睡眠し続けるか』の二つしかないのだから。最も、現在は後者の方が
若干ウエイトの比率が重くなってしまっているようなのだけれど。
















 そんな美鈴の疑似鍛錬開始より一時間。

 美鈴の偽装を一番最初に発見したのは、残念なことにレミリアではなかった。
 門前で頭ブリッジをし、お腹の上に巨大な岩石を三つ並べた美鈴を最初に見つけてしまったのは、彼女の同僚である十六夜咲夜であった。
 昼食後に美鈴に事前情報を教えてくれた彼女だが、どうやら居眠りしてないかどうか不安になり、確認に訪れたらしい。別段、美鈴が
居眠りしたところで主に咎められるとは微塵も思っていないが、それでも同僚の格好悪い姿を主に見られるのは忍びない。
 そんな優しさというか苦労症というか、何とも言えない感情を持って門前に訪れた咲夜だったが、そんな気持ちは美鈴の姿を見て一蹴されることになる。

「美鈴…貴女、そこまで自分を追い詰めて…」

 美鈴にとっては居眠りついでの鍛錬なのだが、咲夜の目にはそうは映らなかったらしい。
 それも当然のことで、今咲夜の目の前で美鈴ははっきり言ってヤバ過ぎる光景を展開してるのだ。一つ何百キロはあろうかという
大岩を自身に三つも載せ、当の本人はその下でブリッジを保ちながら下敷きになり。
 最早その光景が咲夜には『美鈴が居眠りをする自身を戒めている』ようにしか見えなかったのだ。何気なく美鈴を心配して
忠告した一言が、まさかここまで美鈴を追い詰めたなんて…そんな思いっきりストライクゾーンから外れた感想を咲夜は抱いてしまったのだ。
 咲夜にとって、長年レミリアの下で働く美鈴は誰よりもレミリアに付き従う忠義の者だ。レミリアの為に生き、レミリアの為に死ぬことを
厭わない彼女の在り方はまさしく咲夜にとって目指すべき境地であり、辿り着くべき場所なのだ。そんな心から尊敬する美鈴が
今レミリアの為に過去の自身を罰し、レミリアの為に苦行を展開しているではないか。
 そのことに咲夜は自身を恥じる。何が居眠りだけは止めておけだ。何がレミリアお嬢様の気分を害するだ。自分は何も美鈴のことを分かっていなかった。
 彼女ほどの忠義の者が、あんな台詞を言われては次に何をするかなんて誰でも分かることではないか。
 美鈴は必ずそのような行動を行った自分を罰する。そして、その罰を糧として自身を鍛え、主の更なる力となる為に行動する筈だ。現に今、
こうして自分の目の前で彼女はそうしているではないか。その姿の何と誇り高きことか、その姿の何と敬意を表すべき在り方か。
 そんな咲夜の考えの全ては思いっきり見当違いも甚だしい勘違いなのだが、仕方がないといえば仕方のない勘違いなのかもしれない。
 咲夜にとって美鈴は敬愛すべき上司であり、先人。そんな彼女がこのような姿を晒しているのだから、『居眠り続行したくて主を騙す為に
こんな奇行に及びました』などと一体どうして思えるだろう。無理というか、不可能というか、まさしく有り得ないのである。

「…美鈴、貴女のお嬢様への忠誠、しかと見届けたわ。
けれど、貴女だけにそんな姿をさせる訳にはいかないわね。お嬢様の期待に、私が常に満点で応えられているとは思わない。
お嬢様の為に自身をどこまでも戒め鍛え上げる貴女の姿、心から敬意を払うわ。そう、そんな貴女に少しでも追いつく為に私は――」

 素直に何もせずに居眠りしていればこんなことにはならなかったのだろう。
 美鈴の主を騙して居眠りをする為の悪知恵が、純粋な咲夜の大き過ぎる勘違いを呼んでしまったのだ。
 故に、咲夜が次に取る行動は手に取るように分かりやすい。彼女もまた、美鈴のように主の為、更なる高みを目指す。
 身軽な身体を跳躍させ、咲夜は美鈴の腹部上に積み重ねられた岩の頂上へと立つ。そして、徐に懐からナイフを五本ほど取り出し、
そのうちの一本を岩へと突き立てる。岩の最頂点部にナイフが真っ直ぐに突き刺さったことを確認して、咲夜もまたトンデモナイ奇跡を見せる。
 突き刺さったナイフの頂点に一本、また一本とナイフを『縦に』重ね、積み上げられた五本のナイフの頂点にて咲夜は爪先立ちを行う。
 最早人間技とは言えぬ奇跡、奇術。ナイフの最上部にて、咲夜は微塵も身体を揺らすことなく立ち、精神を集中させるように瞳を閉じる。
 美鈴が素で人外ならば、咲夜は人の身でありながら、人間を止めているような存在だった。自身を更に研鑽する為に、咲夜はナイフを五本も
縦に積み上げてその上に立ち状態をキープし続けるという破天荒な技を実行に移してみせている。一体どんな研鑽を積み重ねれば
こんな境地に辿り着けるのか不思議で仕方ないのだが、不可能が可能に変わる不思議な世界、それが幻想郷なのである。気にしてはいけない。

「…遠いわね、美鈴。貴女の存在が、今の私にはまだまだ遠過ぎる。なんて卑怯…どれだけ私が追いかけても、貴女は私の数歩先を歩いていくのね。
だけど、このまま負けるつもりなんて更々ないわよ。私とていつか、貴女のように己が全てはお嬢様の為に――」

 ダイナミック過ぎる勘違いをしたままに、咲夜は自身の鍛錬を行う。何故か美鈴の上で。いや降りてやれよと思うが美鈴の上で。マジで降りてやれよと思うが美鈴の上で。
 ちなみに美鈴は咲夜が来て一度目覚めかけたものの、相手がレミリアじゃないと分かるや否やすぐに寝直している。この間約0.16秒、幻想郷のノビ美鈴である。
 大岩を身体で支えることが出来る美鈴にとって、咲夜の体重など誤差の範囲にしか入らないようだ。よって岩石上部の異変に気付かず、
美鈴は睡眠を続行し続けるのである。最早この時点で美鈴の計画の全ては台無しになっていることに間違いはないのだが。


















 そして、咲夜が訪れてから更に二時間が過ぎる頃。

 とうとう美鈴の前に、彼女が待っていた目的の人物が現れる。
 日傘をくるくると回しながら妖艶な笑みを浮かべて現れた少女――レミリア・スカーレットである。
 門前に現れた彼女は上機嫌だ。彼女の心の中は一体どんな風に美鈴は務めてくれているのか、自分に仕えてくれているのかの一点に
占められていた。自分の為に頑張ってくれている部下を眺めに行くのだ、その気分が決して悪い筈が無い。
 意気揚々と門前に現れたご主人様。そのレミリアだが、門前に広がった光景に思いっきり言葉を失う。失うどころか日傘が手からぽろりと落ちた。
もし彼女が立っている場所が日陰になっていなければ、大火傷間違いなしである。だが、そんなことに今レミリアは構っていられなかった。

「――これ、は」

 何せレミリアの前に広がっている光景は何と異様な光景か。
 まず第一に美鈴が潰されてる。巨大な大岩三つに美鈴が雨上がりの後のヒキガエルのように潰されてる。
 無論、レミリアの位置からそう見えるだけで、美鈴は依然変わらず頭ブリッジで爆睡中なのだが、レミリアにはそうは見えていない。
 更に岩の上では何故か咲夜がナイフを五本縦に突き立てたその上で腕組んで瞑想してる。最早レミリアの登場にも微塵も気付かないくらい
集中してる、何故か美鈴の上で。もう美鈴が一体咲夜に何したんだってくらい美鈴の上で。
 そんな異様なオブジェがレミリアの眼前に広がっていたのだ。太陽の光を浴びてキラキラと輝きながら、そんな異様なオブジェが。
 人里の子供が見れば泣くか逃げるかしそうな不気味タワーに、レミリアは言葉を失って次の行動に移せない。
 やがてレミリアはワナワナ振るえる掌を眼前で抑え、ただ一言言葉を紡ぐ。

「――なんて、美しい…!この私が、これほどまでに心奪われるなんて!」

 馬鹿である。このご主人様は絶対におバカなのである。美的感覚がちょっとずれ過ぎてるのである。
 きっと霊夢辺りが傍にいたならば、そんな毒を彼女に吐いていたかもしれない。それくらい今のレミリアは感想が常人とはずれ過ぎていた。
 普通の人が見れば『潰れ美鈴と案山子咲夜』なんてタイトルがつきそうな不気味オブジェも、このご主人様から見れば
『エレガントを極めた至高の芸術品』になるらしい。レミリアはまるで恋をした少女のようにオブジェに近づき、感嘆の声を漏らす。

「美鈴と咲夜が生み出す、まさに『私の為に殉ずる姿』を形にした結晶品…幾万の黄金に勝るとも劣らぬ価値があるわ。
見事、実に見事よ二人とも…このレミリア・スカーレット、長年生きてきたけれど、これほどまでの芸術に出会ったのは初めてだわ」

 多分間違ってる。レミリアの語る芸術を世の芸術家達が聞けば袋叩きしたくなる内容だと思われる。
 確かに二人がレミリアの為に頑張ってるのは事実だが、少なくともこれが芸術だなんてレミリア以外誰一人として認めないだろう。
 これが芸術で通るなら、その辺の人里の子供たちが描いた落書きの方が何倍もマシであると常人なら判断するだろう。だが、
熱に浮かされたレミリアは一向に止まらない。呼吸を荒く乱し、美鈴の上に乗る岩石を愛おしそうに指でなぞりながら言葉を紡いでいく。

「確かに貴女達は素晴らしい、これだけでも十分に価値がある作品と言えるわ。
だけど、今のままでは最後の仕上げが不十分ね。このままでは、この芸術品の指向性が凡人には伝わり難いでしょう。
この作品を真の意味で完成させるなら、貴女達の頂点に立つ主の存在が必要不可欠なのよ。すわなち――真の芸術とはこういうことよ!」

 口元を歪め、妖艶に微笑みながらレミリアは迷わずその場から跳躍する。
 岩を、そして咲夜を越え、彼女立つは全ての頂点に。つまるところ、咲夜の頭の上である。しかも土足で。踏みつけて。
 そんな従者の上で、レミリアは両手を広げ満足気に構えるカリスマポーズ。何処の聖帝だと言わんばかりの素敵ポーズである。
 真なる芸術品の完成に一人うっとりするレミリア。ちなみに咲夜は精神集中のあまりレミリアの存在に気付けず、美鈴は夢の中である。
 この現状を第三者視点で表現するなら、『潰れ美鈴の上に乗った案山子咲夜の上で無い胸を張ってドヤ顔をするレミリア』となる。
 本当に意味が良く分からない状況ではあるが、レミリア的にはこれで完成のようだ。現状に満足しているようで、レミリアはその場から
一歩も動くつもりはないらしい。咲夜も鍛錬を終えるつもりはないらしい。
 すなわち、この現状を打開するには、美鈴の目覚めを待つ必要があるらしい。本当に、本当に言葉にするのも憚れる程に平和な紅魔館のとある一日のことだった。
 















 それから更に四時間の時間が流れ。


 遊びに来た魔理沙が完成された不気味タワーを見て、即座に回れ右をして引き返して。
 誰も館内にいないことを不思議に思ったフランドールが至高の芸術品を見て、呆れた目をして館に戻って。
 レミリアに用があったパチュリーがヘンテコオブジェを見つけて、何も見なかったことにして。
 そんな濃密な四時間が流れた後、ようやく目を覚まして現状に気付いた美鈴は、咲夜とレミリアにこう告げたとか何とか。





「――あの、お二人とも色んな意味で大丈夫ですか?一緒に永遠亭行きましょうか?」





 そう告げたときの美鈴は、永年生きてきた中で一番の優しい笑顔を浮かべたという。






 
少しドライな感じでレミリアに仕える美鈴が書いてみたくなり、気づけば書いてました。
でも書き終えてみたら、美鈴とレミリアが全然会話してないことに気付きました。ごめんなさい。
最後までお読み下さり本当にありがとうございました。
にゃお
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コメント



0.5270簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
落ちで大爆笑した。
3.80名前が無い程度の能力削除
思わず作者名を二度見してしまった。

紅魔館の芸術は実にあばんぎゃるどですね(棒)
4.100白々燈削除
これは酷い。
いや、これは酷いw

面白かったです。
7.100名前が無い程度の能力削除
久しぶりの投稿かと思えばナンテモノヲ書いているんだw
実に素晴らしいw
10.100名前が無い程度の能力削除
作者名でびっくりしたのは私だけじゃなかったかw
あいかわらず、あなたの作品は面白い。
11.100名前が無い程度の能力削除
あぁ、もう最高!
12.100名前が無い程度の能力削除
は……発想のスケールで、負けた……。
なんとも見事な芸術のカリスマに腹筋と感動と芸術が爆発した。
そして美鈴……お嬢様への忠誠と睡眠欲を両立させようというその心意気ッ!!
アッパレである!!
14.100名前が無い程度の能力削除
こいつらwww
最高にシュールだけどそこにある確かな忠誠……w
17.90名前が無い程度の能力削除
お久しぶりですね、そして相変わらずで何よりですwww
20.100名前が無い程度の能力削除
僕知ってるよ、これってトーテムポールって言うんだよね!
レミリアが頂点にいるから、コウモリのトーテムポールかな?
なら、やっぱりお嬢様は凄いや、魔除けパワーで三人も弾いてる!
要するに……なぁにこれぇ。
23.60名前が無い程度の能力削除
アイディア、お話の中身その物はとても面白かったです!
但し、どうにもテンポが悪いというか、クドイ感じがして残念。
読んでて疲れる。
最初から最後までユーモアで良い意味で軽い感じが一貫しているのだから、
もっと軽やかなテンポというか、リズム良く読める文体ならもっと良くなると思います。
25.100名前が無い程度の能力削除
面白い。
29.100名前が無い程度の鋼鉄削除
これはw
こんな関係の紅魔館が大好きです。
31.100奇声を発する程度の能力削除
大笑いさせて貰いましたw
32.80名前が無い程度の能力削除
これは非常に面白いですね。
一体、どうやったらこういった内容の作品を思いつけるのか、
作者様の周辺環境を知りたくなってしまいます。
35.100名前が無い程度の能力削除
これはヒドイwww
36.無評価名前が無い程度の能力削除
序盤だらだらと面白くない文章が続くのが苦痛、評価不能
オチが良くても、そこに読者導けなきゃ意味ないんじゃないかな。
40.90K-999削除
>>咲夜が来て一度目覚めかけたものの、相手がレミリアじゃないと分かるや否やすぐに寝直している
 主が来てもちゃんと目覚められるぢゃねーか。って突っ込みは無しなのか。
 あとフランちゃんは館の外に出ていいのかw

面白かったです。
41.90名前が無い程度の能力削除
思考の行ったり来たりに志向の勘違いに至高の作品に……確かにこれは最早芸術だw
43.80愚迂多良童子削除
紅魔館には変人しか居ないのかw
49.100名前が無い程度の能力削除
芸術はタワーだ!という言葉が冥界から聞こえてきそうです。
56.90名前が無い程度の能力削除
想像してみたら、結構芸術的なんじゃない?とか、思ってる俺。
62.90名前が無い程度の能力削除
咲夜さんは仕事は良かったのかw
64.100名前が無い程度の能力削除
b
66.100名前が無い程度の能力削除
これは良い作品w
74.100Dark+削除
とても面白かったです!
結構謎なのに、ここまでいい作品だと勉強になりますw
76.100名前が無い程度の能力削除
謎なのにいい作品とはww
85.100名前が無い程度の能力削除
咲夜さんの勘違いっ振りに吹きましたw
短い話しでも十分楽しめて良かったです。
90.100桜田晶削除
これは清清しいまでカオスでシュールwww
某所での連載、ここでのシリーズからは想像できない壊れっぷりですwww
93.100名前が無い程度の能力削除
表現豊かなのに冗長だったり鬱陶しくなく読みやすいのがすげぇ。
後半のシュールさはんぱなくて楽しかったです
105.100名前が無い程度の能力削除
そりゃ魔理沙も逃げるわwwwww
106.100名前が無い程度の能力削除
上手い、凄い、酷いの三拍子揃った素敵な作品でした!(褒めてます

なるほど、妖怪なのに忠誠を誓えるのにはそんな理由が…
なんというか凄く納得してしまったw
107.100名前が無い程度の能力削除
これ一番の原因って美鈴のブリッジより多分咲夜さんの純粋さだよね
118.100名前が無い程度の能力削除
ああ、彼方にぶっ飛ばされる美鈴が見える……
135.100名前が無い程度の能力削除
ドライって何だ。
そしておぜうさまマジ前衛的。
だがこれなら誰も館に入れない。
まさに門番、パーフェクト。
138.1001000点削除
nice!
142.100満月の夜に狼に変身する程度の能力削除
美鈴が昼寝するのは夜にフランを連れて一緒に散歩してるからと妄想