Coolier - 新生・東方創想話

すべての地獄は天国の失敗作である

2011/06/26 22:28:04
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 お屋敷の鐘が打つ午後二時は、一日のうちでもっとも気だるい瞬間をつくり出す。

 ヘッドブリムをテーブルの上に放り投げると、銀色の髪の毛がわずかに乱れ、ほつれた毛先が目蓋を刺した。彼女の部屋には、刹那的な何かを連想させるほどにシンプルでストイックな風景が詰めこまれている。色身のほとんどないくすんだ壁紙、端のすり切れたカーペット。ときどき、飲もうと思って手だけは伸ばすけれど結局はためらう睡眠薬は、特にこれといって洒落っ気も感じられない小箱に納められているのだった。三段づくりの棚の、いちばん上のところに在るその小箱の蓋をすばやく開け、錠剤の詰まった真新しい銀色のシートを指先で除けた。

 睡眠薬のシートの真下、くしゃくしゃになったセロファンが鋭敏な指先をくすぐるのを彼女は微笑ましく思った。セロファンに覆われた、何かの拍子に少し潰れてしまったらしい小さな箱にも、棄てられたおもちゃを懐かしむような子供じみた哀切を感じた。それを人差し指と中指で持ち上げ、手のひらに滑り込ませる。種なしの手品を能くする彼女の指先は、それがために器用であるということを語っている。そのまま手の甲で小箱の蓋を音も立てずに閉め、溜め息を噛み潰した。

「へえ」

 直ぐ背後から――ちょうど、ベッドのところ――聴こえる声は、感嘆とも感心とも違うものだったけれど、少なくとも幾らかの驚きでできていることは間違いがない。それこそ、驚愕という言葉では大仰に過ぎるほどの、柔らかな驚きだった。

「咲夜は、煙草なんて吸うんだな」
「ときたまね。嫌なことがあったときとか」
「ふうん。ご主人さまに嫌がらせでもされたのかよ」

 そういうの、“外”じゃあ、パワーハラスメントって言うんだろ。

 ゆるく縮れた癖のある金髪を揺らしながら、魔理沙は指先で目蓋をこすっていた。横目で見遣ると、相手からは喉の奥にあくびを飲み込んだ気配が少しだけ感じられた。眠気に接がれ、半分ほど閉じられていたはずの眼をこじ開けるようにして、彼女は咲夜の手の中にあるものを確かめようと身を乗り出す。魔理沙が座るベッドのシーツに皺がうねり、直ぐそばの窓からこぼれ落ちてくる六月十二日の陽がその陰影をさらに濃くしていくのが咲夜には解った。粘性を伴う毒物みたいに、安逸は頭蓋の裏側、意識の端々に食い込んでいく。

「どこでそんな言葉を覚えたの」
「こないだ、早苗が教えてくれたんだよ」
「そう。でもね、うちのお嬢さまはそんな人じゃないの」

 突き放すように早口で言うと、魔理沙は何かに失望したみたいに「そっか」と短くつぶやいた。右手でうなじから頸筋を撫でると、今度こそ彼女はあくびをした。そうやって、思いきり眠りたいのだという意思を表明する手段を、どうにかして探し当てようと努めるように。

「研究疲れ?」

 咲夜が問うと、魔理沙は何のことか解りかねて唇を開きっぱなしにしていたけれど、舌先で唇の端を突いてからようやく得心が行った様子で、

「まあな。三時間しか寝てないんだ」

 と、つぶやいた。

「本当の魔法使いになったら、眠たいなんて感覚もなくなるんだからな。まっとうな人間のうちに、体験できることは全部やっとかないと」
「屁理屈ね。自己管理ができてないだけでしょ」
「何を。こそこそ隠れて煙草を吸ってる咲夜には言われたくないぜ」
「こそこそ図書館から本を失敬して、疲れたからって私の部屋にやって来る魔理沙には言われたくないわ」

 唇を引き結んで反論の言葉を探す魔理沙を尻目に、スカートのポケットからオイルライターを取り出す。金属でできた“それ”は、たとえば卵を握るくらいには重々しく、しかし、卵を握るよりかは粗暴な扱いを許された代物だった。浅い傷が一面に刻みついた古くさいライターを買ったとき、古道具屋の偏屈な主人は眼鏡の奥の眼を光らせて「きみがそんなものを買うとは思わなかった」と苦笑した。それこそ、さっきの魔理沙みたいな口ぶりだったのだ。「あら。最近は女でも当たり前に煙草をたしなむものですわ」と言ってやらなかったのは、頭が良くて理屈好きなくせに、妙に世間擦れしていないところのある青年への心遣いか、それともただのいたずらか。そういえば、彼は魔理沙の幼なじみだったなとも思い出す。

 しかし『嗜み』という言葉を弄びつつ、咲夜の手つきはむしろ『戯れ』のそれだった。ふたの部分を指先で動かし、かしゃと開け、かしゃと閉める。それを何度も繰り返すと、ライターの中から漂ってくるオイルのにおいに鼻を突かれる気がした。冷たかったはずの金属は、咲夜の手の中で冷たさを失っていった。こうすることで、この道具は本当に咲夜だけの物になる。オイルのにおいに満ちた、俗的な何かと混じり合った神聖さ。

「睡眠不足で死んじゃったら、魔法使いにだって成れないでしょうが」
「そりゃあ、そうだけど」

 においに顔をしかめることができないほどにも、醒めることから遠ざかりつつある魔理沙の頭が、かくかくとうなずくような動きを繰り返していた。どこかの国の、機械じかけの人形みたいだ。彼女のかたわら、枕の近くには、パチュリー・ノーレッジの図書館から失敬してきた書物が四、五冊ころがっている。そのうちの一冊にさも大切な宝物のように触れながら、魔理沙は大きく眼をしばたたいた。くすんだ金の箔押しが彼女の手で隠れ、その本のタイトルまでは読みとれなかった。

 困った子だ。一応の様式として、咲夜はそう思うことにした。自分の部屋に他人(ひと)を入れることなんて、滅多にあることではないというのに。煙草の箱の蓋を開け、引っくり返し、底の部分を指先で叩く。滑り落ちてきた一本をライターと同じ手の指先に摘まみ、箱は眼の前のテーブルに放り投げた。手に取ったとき、やけに軽くなっていたから、たぶんこれが最後の一本だろう。正確な勘定かどうかは、どうでも良かった。煙草を持ち替え、改めてライターの蓋を開けた。着火すると、最初にも増してオイルのにおいが強くなっていく。揺らぐ炎が程なく煙草の先端を焦がし、呼吸の微弱さと同期して、喉の奥まで香りが流れ込んでくる。ポケットにライターを放り込むと、身にするものの重さが一段と増えていったように思う。

 細く煙を吐き出しながら、テーブルとワンセットの椅子を緩慢に引き、座る。いちおう椅子は二人ぶんが用意されているのだが、魔理沙は相も変わらずベッドに腰かけてうとうとしているのだった。本当に困った子だ。私の部屋でそんなにも無防備な、眠気に満ちた姿を晒しているなんて。いったい、誰が呑気に眠らせてやるものか。

 テーブルの中央に鎮座する、クリスタルの灰皿が遠い。
 そろそろ最初の灰が落ちそうな煙草から唇を離し、咲夜は力なく揺れる煙と、それを上回るだけの気だるい言葉を吐き出した。

「ねえ。そこの灰皿、こっちによこして」
「ん、」

 瞬間、ぱっちりと両の眼を開けて、魔理沙が大きく身を乗り出した。どうやらこちらの意図は伝わったらしい。右手でもって、彼女は灰皿をこちらの方まで押し遣ってくれた。どことなく見当の定まらない指先が、未だ彼女が醒めずにいることを物語っている。左手でかき抱く魔導書を自分の胸にぴたりと押し当てる彼女。書物への愛惜というよりも、いずれなくなってしまうであろう、瞬間的な何かを必死に押し留めようとしているみたいに見える。灰皿の端に煙草を叩き、灰をひとかけら落としてしまうと、本を膝の上に置いた魔理沙が「んん、」と喉を鳴らした。どうやら、あくびと言葉の中間らしい唸り声。

「よく……そんなもの吸う気になるな」
「魔理沙もどう? すっきりするわよ。色々と。たぶんね」
「要らないよ、私は」

 嘘をついたつもりもないが、本当のことを教えたわけでもなかった。
 舌の上で煙を食んだとき、咲夜の頭の中にはごくぼんやりとした幻影がいつも浮かび上がる。活動写真の映写機が暗中に光を揺らす光景のようだと彼女は思っていた。映写機にフィルムが必要なように、煙草の苦みは咲夜の魂をいっとき冴えさせ、その中に存在するのだろう諸々の記憶めいた何かを幾度も反芻させた。そこでは、自分は長衣の内側に杭と聖水を忍ばせた戦士の末裔であり、廃兵に犯されそうになったところをナイフで相手を刺し殺して助かった生娘であり、首を吊って死んだ母が失禁した尿をサンダルで踏みつけるあわれな少女だった。またご主人さまの足先の汚れを舌で舐め取る奴隷であり、屠殺される人間から恋にも似た熱ある視線を向けられる職人であり、ベッドの上で理由もなしに泣き崩れる生きた屍体だった。そのいずれもが真実であり、そのいずれもが虚構であると言える。記憶とは生者の機能であり、そこに留め置かれるものは常に完結し続ける死者たちだけだった。記憶のふちに留め置かれることで死者は生きるのだが、そんな死者は、しょせん生者のつくりあげた虚構に過ぎない。紛れもなく、彼女の記憶の中では無数の十六夜咲夜の物語が生まれ、死に続けていた。ひとつして例外のない真実味に支えられ、数多ある世界を咲夜は紫煙に紛れて闊歩する。

 しかし、少なくとも今の咲夜はひとりだった。こうして煙草を吸って、いつものようにばからしい空想にふけっている十六夜咲夜は、この地上にただひとりしか、居やしない。そして、魔理沙を決して眠らせるものかと矮小ないたずらを目論む自分自身も。アイデンティティ――とかいう、御大層な言葉を使うつもりもない。ただ、自分の肺に煙を飲み込ませることで、いずれは朽ちる自らの命の使い方を、結論を先送りにして思案しているだけなのだ。それをするには、煙草の香りは、あまりかぐわしい猛毒でありすぎるのだが。

「でも、知ってるか。煙草って、本当は身体に悪いんだぜ」

 言葉を交わしているうちに頭の中が整理されてきたのか、先ほどまでよりもかなりはっきりとした声音で魔理沙が言う。舌の上に飴玉を転がすつもりで煙を舐め、一気に肺の真ん中に送り込む。彼女の眼は、自分が呼吸しているのと同じ空気を探しているみたいだと咲夜には思えた。咳き込む寸前で上手く息を止めて、香りだけを食んでしまおうと試みる子供の顔。毒を上手く防いでしまうことなんて、時間を止めた咲夜にだってできやしないのに。

「あんまり吸い過ぎると、肺が真っ黒に汚れちゃうんだ」
「知ってるわ」
「癌にだって成りやすくなる。そのきれいな銀色の髪の毛にだって、脂(やに)のにおいが染みつくぞ」
「それも知ってる」
「じゃあ、何で――」

 言い負かすことのできない相手に対峙したことに気づいて、魔理沙はにわかに言葉を詰まらせた。もう、こうなると彼女の言葉は手足をもがれたも同然だった。薄く開いた唇が震えていた。男の子みたいな口調に不似合いなほど、長い睫毛で飾られた眼を、彼女は伏せた。頬の内側にせり上がって来るあくびを、魔理沙はどうにかして噛み殺しているらしかった。もう何もできないから、自分は再び眠りの中に逃げ込むのだと。相手の目尻に流れかけた、稚拙な反逆としての涙をあえて無視するくらいには、咲夜の眼は聡い。よく気がつくことが、彼女を完全で瀟洒な従者たらしめている。でも、確かに髪の毛ににおいが染み込むのは困るかもね。口の端を小さく歪ませて、灰皿を幾度目か叩いた。鈍く閃いていたひとかたまりの灰が、沈鬱な空気に飲まれて瞬く間に熱を失っていった。「何で」と、魔理沙は再び言った。さっきにも増して泣き出しそうなのは、あくびのせいか、理由もなくかなしかなったからなのか。

「だから、吸ってるのよ」

 品も何もあったものでなし、大きな口を開けに開け、咲夜は煙を吐いて見せた。夜に向けて初夏の暑さを失っていく大気が、世界には満ちている。しかし、この部屋の中だけはいつでも腐り落ちる寸前の秩序が佇立しているのだ。無秩序もまた繰り返されたときに秩序と化すと称したのは誰だったのか、咲夜はまるで知らないが、このかぐわしい香りを持った無意味な殺人――より能動の色合いを帯びて、何年もかけて自分自身をゆるやかに縊死させる機能――を幾度も繰り返し、咲夜の魂は成っていた。その秘密を、ほんの少しだけ見せてやっただけだ。

「咲夜は死にたいのか」。ごく小さな声が、煙を吹き飛ばした。いつもの彼女らしくもない表情だった。悔しいのでもなく、逃げ出したいのでもない。ただ、かなしいだけの顔をしていた。「大げさね」と、咲夜は返す。「ここで煙草を吸ってる私は、誰なのよ」。魔理沙は、少し初心(うぶ)に過ぎるのだろう。彼女は無垢で、無傷だ。それに、幼すぎる。あと何年かすれば、彼女もまた、どこからともなく崩れ落ちるときがやってくるはずだ。生ある限り、老いる限り、死する限り、それを避けることは絶対にできない。しかし、それを思い知らせるのは咲夜の仕事ではなかった。なぜなら彼女は、かけらほどの瀟洒もどこかに棄て去って、こうして臆面もなく煙草をむさぼるだめな大人なのだから。『今は死なないの』。咲夜は心の中でだけ、魔理沙に笑いかけた。『少なくとも、今は未だね』。また咲夜は息を吐いた。今度は煙草の煙でなく、純然の溜め息だった。「教えてあげましょうか」と彼女は言った。魔理沙は身を乗り出す。ゆっくりと。灰皿を叩く咲夜の指先を見つめながら。

 紫煙が、魔理沙の耳元の髪の毛に届いた。音もなく、気配もなく。
ふたりは、それに気づかない。これから打ち明けられる秘密の先触れであるかのように、煙が揺らいでいたことを。「絶対に秘密よ」「ああ。霊夢にもアリスにもばらさないさ」。

「どこにも天国なんかないってことを、毒を飲んで証明してるだけ」
「何だそれ。意味深だな。文学的……って、やつか」
「そう思う? 外見(そとみ)を繕った格好の良い言葉ほど、空虚なものもないと思うけど」
「よく解らん。咲夜はいつもそうだ。それらしく格好の良い言葉ばかり並べるのが上手いんだよ、あんたはさ」

 期待はずれだった! 

 ――とでも言いたげに、再びベッドに戻る魔理沙だった。あんなにも大事にしていた本をかたわらに放り、どさりにシーツの上に身を投げ出してしまう。さっきまでの繊細な呼吸が嘘みたいに、彼女は荒々しく息を吸っては吐いていた。そうすることが、煙草を吸う代わりだとでも言いたげに。

 彼女はそれからしばらく、そのままだった。咲夜はやはり一本の煙草をいつまでも吸っていた。煙草は、なかなか燃え尽きることをしなかった。いつもと同じだけ時間が流れているはずなのに、獄(ひとや)の真ん中に繋がれたみたいな苦々しさだけがあった。それは、紫煙に含まれるかぐわしさとも、毒気とも、無縁の存在だった。今日を天国でないと証明したものは、おそらく煙草ではあり得なかった。

 こつ、こつ――と、魔理沙が魔導書の表紙を指先で叩く音が聞こえてくる。咲夜はもう、そちらを見遣ることはなかった。次第に深く、ゆっくりになっていく呼吸の音。息づかいの気配。それだけがあれば、判断の材料には十分すぎる。三時間しか眠っていないと言っていたのだ。最初の目論見は水に流して、特別に眠らせてやっても構わないと思う。どうせ、煙草が一本ぶんの退廃に過ぎない。この部屋を出れば、自分はまた生き続けなければならない。

「なあ、咲夜ぁ」
「なに」

 ずいぶんと、間延びした声だった。
 魔理沙の声は、もう、その半分以上が眠りにとらわれている。

「ずぅっと海を隔てた西の国にはさ、蓮の実を食べて暮らしてる種族の島があるらしいぜ。そこでは何も心配することがなくって、みんながしあわせで居られるらしい」

 何百年か前の、夢見がちな詩人の肖像が頭をよぎる。The Lotus Eaters。安逸の人々。無間の安らぎにとらわれた、生きながらに死ぬごとく存在し続ける幻想たち。そこは、『すばらしい新世界』だったはずだ。航海者たちにとって。

「私は、そんなのゴメンだけどな」

 Ulyssesは、蓮の実を食べてしまった仲間たちを諦め、楽園を棄てた。天国は、人を殺す。そこは極彩色の地獄だったのだ。世界の在りように組み込まれた安らぎは苦痛を否定する。それなる意志を否定する。人間は朽ち、幻想へと変じていく。不朽の楽園など存在せず、人の想像力が生み出したすべての地獄は天国の失敗作でしかない。食むべき何ものかが蓮の実であれ、煙草のにおいであれ、快楽は平等に訪れる。ただし、痛みから眼を逸らして。

「何だ。ちゃんと“解ってる”じゃない」

 珍しく褒めてやるつもりで、咲夜は立ち上がる。すっかり短くなってしまった煙草を灰皿に押しつけてから。数歩でたどり着くベッドの上、顔を覗き込んだ魔理沙はもう眠ってしまっていた。魔導書に触れていたはずの手指を両方ともに胸のところで組み合わせ、これから埋葬される、棺桶の中の死者のように。

(やっぱり、困った子)

 思わす声を漏らしそうなるのを押し留めながら、咲夜は魔理沙の半身の上に覆いかぶさった。左の目蓋だけを狙いすましたようにして、最後に吸い込んだ煙を、ふうと相手の顔に吹きかける。ううん……と、呻いて、魔理沙は顔を逸らす。少し苦しげな様子だった。「勝った」。咲夜はほくそ笑む。ただでベッドを使わせてなんかやるものか。これは、ちょっとした意趣返しみたいなものだ。

 魔理沙がまだまだ起きそうにないのを目の端で確かめながら、彼女は仕事に戻る用意をする。ごく小さな死を飲み込んだ彼女の身体は、束の間、戦場めいたところを渡り歩く足取りへと戻り始めるのだ。灰皿に押しつけられた煙草の残骸に未だわずかに残った熱が、最後のきらめきを放って、消えていこうとしていた。やがてそんなものは生活に埋没し、記憶から消え、棄て去るべきごみ屑のひとつでしかなくなっていくのだろう。それに呼応するように、自分のベッドを占領する傍若無人な“お客さま”の眠りもまた、数多ある何かのひとつとして薄汚れていく。

 ――――なに、気にすることはない。皆が皆、そういうものだ。

 ヘッドブリムを片手につかみ、お嬢さまに向ける瀟洒な笑顔の練習をしながら、咲夜はドアノブに手をかけた。
咲夜さんは自分の部屋でぼう……っと煙草を吸って、
溜息ひとつ吐いた後でまた仕事に戻ってそうなイメージがあるんです。
こうず
http://twitter.com/#!/kouzu
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コメント



0.1200簡易評価
3.100奇声を発する程度の能力削除
カッコいい…
8.60名前が無い程度の能力削除
雰囲気ある文章でした。
14.100名前が無い程度の能力削除
なかなかに良い掌編
15.90名前が無い程度の能力削除
咲夜さん……
17.80桜田ぴよこ削除
生々しいですね。
20.100名前が無い程度の能力削除
こういう咲マリもありだな
28.80保冷剤削除
嗜好品ってのは一人で楽しむからこそ価値があるんじゃねえかなあと思ったけど、
>しかし、少なくとも今の咲夜はひとりだった
の一文で納得。