「もう…耐えられない…こんなの…」
そう独りごちながら清く正しい伝統の文屋こと私射命丸文は、幻想郷最速の…とは到底言いがたい、幼女のこぐ三輪車並の速度でふらつきながら人里上空をさまよっていた。
「ああ…もう…またですか…またですよまったく…」
いつもならばネタの宝庫である人里の市場がうらめしい。プロフェッショナルとしてカメラを持ち歩いてはいたけど、私はそこらじゅうにいるアレを新聞のネタにする気にはなれなかった。
そう…私の調子を狂わせるあれだけは…
―――――――
「もう嫌ですよ!こんな仕打ちってないですよ!!」
「…」
全く調子のでない私は取材をする気にもなれず、博麗の巫女のところに出向いた。いやまあ、ほぼ毎日取材と銘打って来てるんだけどさ…
「私がいったい何をしたって言うんです!?…ちょっと聞いてますか?」
「聞いてない」
「聞いてるじゃないですか!?」
「うっさい、宣言無しで夢想封印するわよ」
「あやややや…」
仕事もせず座ってお茶ばかり浪費して退屈そうなところに、千年天狗たる私が相談してやっているというのに…まったくこの腋巫女は度量の小さい…あと胸も…
「夢想…」
「何も言ってないですよ!?」
危うく問答無用で被弾するところであった。この巫女いつの間に読心術を?
「で?なんなのよさっきから…欝陶しい」
「よっくぞ聞いてくれました!!いやぁ私は嬉しいかぎりですよ!思い起こせば幻想郷を鴉天狗として見守り続けて〇〇年…こうして人間である巫女に腹をわって話をきいていただけるとは思いもしませんでしたよ!そもそも当時は今と違いまして人妖のバランスがですね…」
「ええい!前置きが長い!…用件!言え!早く!」
「あやっ!」
ズビシッと脳天に手刀をくらう…痛い。
「いたいですよぉ…」
「さっさと言わないアンタが悪い」
文句を言いつつ私の分のお茶も…それも出がらしでなく新しいものを…用意してくれる霊夢さんは可愛いと思います。いや、ホントに。
「なんか言った?」
「いーえ」
「なにニヤついてんのよ気色悪い天狗ね」
「あやややや…」
無論彼女は本気ではない…と信じてる。もとい、ここまではいつものやりとりである。こちらになにかしら用件があれば、なんだかんだ聞いてくれる。それが彼女が人妖問わず有象無象に好かれる要因であろう。…と以前新聞に書いたら顔を真っ赤にして丸めた新聞紙で幻想郷三周分きっちり追い回された。まったくシャイなんだから(ハート)
「で…?」
「はい…」
互いに茶をひと啜り…長い付き合いである。本気で話し合う時はこの程度の口数でこと足りる。
「恋人が欲しいです!!」
「よし、帰れ」
さっすが霊夢さん。相談のしがいがある…って、んん?
「ちょっ!?明らかに本気相談モードでしたよ!?お互い!!?」
「天狗は速いからね…針がいいかしら…?」
「お願いだから武装しないで!!」
箪笥に向かい愛用の武器を取り出さんとする彼女の細腰に纏わり付く。ほかの天狗にはとてもじゃないけど見せられない。でもいい匂い。
「むぐむぐ…何を言い出すかと思えば…くだらない」
「いやいや、私はいつだって本気ですよ?」
武装した彼女を前に、私は此処ぞとばかりに秘蔵の羊羹を取り出して武装解除に成功した。
「いい年して恥ずかしくないの?」
「あや…」
いいじゃないですか年齢は。まだ千年とちょっとだしまだまだイケる…よね?
「というか、そんだけ生きててひとりやふたり出来なかったわけ?」
「あややや…あやや、あやや」
「わ、悪かったわよ…古傷えぐって」
私の図星をオンバシラでどついた彼女はいくらか申し訳なさそうに謝罪した。べ…別に惨めなんかじゃないもん。
「今までもそうだったんでしょ?なら、なんだって今さら泣きわめいてんのよ」
「そう!それが言いたくてはるばるここまで来たんですよ!私は!」
その通り。私はそのことで霊夢さんに相談に来たのだ。いかに博麗の巫女といえど、今回ばかりはどうしようもないし、どうにかしてもらおうなどと思ってもいない。単純に愚痴りたかったのだ。
「思うにですよ。最近の幻想郷ってかっぷるが多すぎるんですよ!」
「そう?」
「そうなんです!人里はおろか、どこに行ってもかっぷるだらけです!」
ずいとちゃぶ台ごしに霊夢さんせまる。が、押し戻される。
「だって、魔理沙さんにはあの人形使いがいるじゃないですか」
「ああ、まぁあの二人は…ね」
「紅魔館の吸血鬼はメイド長とできてますし…」
「やっぱり」
「河童のにとりさんは、厄神さまにゾッコンなんですよ」
「へぇ」
「極めつけは八雲紫さんとその式ですね!あのふたりはただならぬ関係と見ました!」
「そうかしら?」
幻想郷カップリングについて話し始めると枚挙がなかった。一部私の推測もあるが、まぁだいたいそんなものだろう。いつの間にか変なテンションでまくし立てる自分がいた。ああこれはあれだ…女子中学生の修学旅行の夜のテンションですね。幻想郷にないけど。
「おまけに新参者の山の巫女にまで先をこされるとは…」
「えっ?早苗に?」
「唐傘お化けのあの子ですよ…」
「ああ…」
ふたりして妙に納得してしまった。あれは恋愛というより、一歩間違えれば「さでずむ?」かもしれないがある意味お似合いだった。
そのあとも、なんだかだんだん楽しく?なってきた二人はああでもないこうでもないと、幻想郷の「かっぷる」の検証を進めた。永遠亭の主従に、そこの兎二人、竹林の蓬莱人と里の半獣、そして冥界の主従。閻魔様と部下の船頭死神の名まで飛び出した。
霊夢さんが私も知らないかっぷるをいくつか知っていたのには少々驚いた。しかし、ああ霊夢さんもなんだかんだでちょっとは興味あるんだなとひとり納得したと同時に安心した。当然か…巫女とはいえ、霊夢さんも年頃の少女なのだから。
「何よ、幻想郷知り合いだけでもこんなにいるじゃない」
「あやーーーっ!!」
「やかましい!泣くな!」
霊夢さんが突きつけてきた現実から耳を背けんと泣きわめいた私に向かって投げつけたお札一番、罵倒が二番。もんどりうって私は回転した。きっちり三回転半。部屋の隅まで飛ばされたところでようやく受身をとった。パンツが見えてたのであわてて座り直す。
「…見まし「見てない」
即答である。せっかく顔を赤らめてしおらしく振舞ったというのに…チラリズムの分からない巫女だ。
「でも意外ね」
「へ?」
手をとって助け起こしながら彼女はつぶやいた。
「アンタなら、いの一番にそういう連中のこと記事にしそうじゃない?あることないこと」
失礼な。私は事実しか書きませんよ…おおむね…
「まぁ、そうですね…悔しいっていうのは勿論なんですけど…」
「?」
ああ、言わせる気かこの巫女は…あまり自分のポリシーを語るのは好きじゃないんですけどねぇ。
「そりゃ、おもしろ半分にゴシップじみた記事は書きますよ。鴉天狗ってそういうもんなんですけどね。でも、その人の一番素直で綺麗な部分に首をつっこむのだけは気が進まないんです」
「…」
「なんて…ちょっとくさかったですかね」
「ん、いいんじゃない。あんたらしくて。カッコイイじゃないの」
「あや…」
顔が熱い。まったく、この巫女はサラッと言ってしまうからかなわない。私が今どれだけ照れているか分かっているのだろうか。いったい霊夢さんはどこまで真っ直ぐなのだろう。自他ともに認める狡猾な私にはその真っ直ぐさはもはや憧れで…だから私は、霊夢さんを…
「…ねえ」
「…なんでしょう」
「文にしては珍しいと思ったから聞くけど…」
「…」
背筋に嫌な汗がわきでる。平静を保たんと、しかめ面しそうになるのを我慢する。この話題だけは、意図的に避けてきたというのに…
「聞かないのかしら」
ああ…もう…ホントにこの巫女は…どこまで真っ直ぐなんだろう。
「私のこと」
やめてください。
「わたしの…なんていうか、そういう話…」
聞きたくないんです。
「わたしの…」
聞くのは…怖い…
「好きなひt…」
「やめてくださいっ!!!!!」
「ッ!」
自分でも意外なほどの声量が出てしまった。拙い…と思ったがもう遅かった。私は一刻も早くこの場から逃げようとした。
「あや…もうこんな時間ですか…そろそろお暇しますね!今日はありがとうございました。楽しかったです!今後とも文々。新聞をご贔屓に!」
体中の二酸化炭素を搾り出すように一気にまくし立てて踵を返した。拙い…今日はさっさと逃げ出して帰って寝てしまいたかった。障子を開き飛び立とうと羽を開いた。
「文…」
「…」
拙い…本日三度目。さっさと逃げてしまえばよかったものを、呼び止められて思わず立ち止まってしまった。
「…文」
「…」
逃げ出そうにも身体が動かない。何か言おうにも発音できない。息も苦しい。金縛りとはこういう状態なのだろうか?私はかかったことがないからわからない。
「…」
「…」
沈黙が痛い。言葉少なくとも意図が伝わる程度の仲のつもりであったが、この静寂は息苦しいほか何ものでもない。どうしたものか、と少考状態にはいっていると…
「文っ!!」
「ひゃぅい!?ってむぐぅ…!?」
突然大声で鋭く呼ばれ、条件反射で振り向いた…刹那、視界と言葉が奪われた…両眼はすべすべひんやりした何かに塞がれ、口は…千年以上生きてきた私が初めて体験する柔らかさと…温かさに包まれていた。
「…」
「霊夢…」
どうにかなってしまいそうだった。天狗の中でも随一の力を持ったこの私が、人間を相手に完全に思考が停止されてしまっていた。それとも、これも博麗の巫女のなせる技なのか。
そうじゃないことは、私にも理解できた。博麗の巫女ではない、博麗霊夢が望むこと。彼女の言葉の本質、行動の本質を、骨抜きにされた千年天狗の私はゆっくりと理解し始めた…
「文…」
「…はい」
「ご飯…食べてきなさい」
「…いいんですか」
「いつもはそっちからたかるくせに…しょうがないから作ってやるわよ、こんな時間だし」
「楽しみです」
「明日は文が作るのよ」
「はい…」
「明後日は…私がつくる」
「はい…」
「その次はあんた」
「わかってますよ…その次は霊夢さん…また私…」
「ずっとよ」
そういうと霊夢さんは私にそっと…綿菓子に触れるかのように慎重に抱きついてきた。私は羽を広げ、彼女と自分を包むように霊夢さんを抱きしめ返した。
彼女の分まで力強く…
疫神さまにゾッコン→厄神さまにゾッコン
かな?
え?作者の欲望だって?かまわん。続けたまえ。いや続けて下さいお願いしますorz
冒頭部分がどう繋がるのかわからなかったのですが、そこは糖分で穴埋め。
二人とも可愛すぎる!!
ヘタレてるけど、霊夢は色々と強いし、良いね、このふたり。
とてもいいものを見させていただきました。