——お姉様、起きて。
黄昏時の幻想郷。いつもならまだ深い眠りの中にいる時間帯、レミリア•スカーレットはどこかからか聞こえてくる声に、目を覚ました。
「フラン?」
まだまどろみの中から醒め切らぬ瞳をこすりながら、レミリアは毛布を払い、身を起こす。周りを見回してみても、声の主は見当たらない。
——お姉様、こっちだよ。
「どこにいるの、フラン」
不思議な感覚だった。確かに声は聞こえているのに、どこから聞こえてくるのか分からなかったのだ。それでも、
——お姉様。
と、レミリアを呼ぶ声が何度も頭の中に響く。
「どこなの、出てらっしゃい」
なにかおかしい、そう思う最中、またフランドールの声がした。
——鏡を見て。
「鏡?」
フランドールは確かにそう云った。レミリアは部屋の隅にあるドレッサーを確かめると、そちらの方へと歩いていった。それは咲夜がレミリアの身だしなみを整える時に使うもので、正面に彼女の身の丈ほどの大きさの鏡が取り付けてあったが、鏡に映らない吸血鬼にとっては無用の長物となっていた。
(映らないというのに、何を云っているのかしら)
フランドールの考えを図りかねながらも、レミリアはドレッサーの正面に立ち、鏡を見つめた。
そこにはやはり何もなく、レミリアの後ろの風景が映っているだけだった。
(ほら、やっぱり)
「フラン、云われた通りにしたわよ。早く出てらっしゃい」
油断させて後ろをとるつもりだったのだろう。そう思ってレミリアは後ろを振り向いてみたが、やはりそこにもフランドールはいない。すると、またどこかからフランドールの声がした。
——お姉様、こっちだってば。鏡を見てよ。
(いったいなんなのよ)
レミリアは呆れた様子で再度、鏡の方へと向き直る。そこには、フランドールの姿があった。
「えっ」
——もー、やっと見つけてくれた。
にっこりと笑うフランドール。だが、一方でレミリアは驚きを隠せずにいた。
「これは……、どういうこと?」
映るはずのない妹の姿が鏡に映っている。後ろを振り向いてみても、やはりそこにフランドールの姿はない。鏡に細工がしてあるのかとも思ったが、それもないようだった。
鏡の向こうのフランドールはひらひらとスカートの裾をはためかせながら云った。
——私ね、今お姉様の中にいるんだよ。
「ええっ、ど、どういうことよ」
姉の反応に、フランドールは困ったように口をへの字に曲げた。
——んー、よくわからないんだけどね。たぶん心が体から離れちゃったんだと思う。お姉様を追いかけてる夢を視てて、気がついたらこうなってたから。
「いったい何を云っているの? 心が体からって……、ああっ」
その時、レミリアの脳裏にとある日の記憶が蘇った。それはいつだったか、棺桶で眠る必然性について尋ねた彼女に、パチュリー•ノーレッジが云った言葉だった。
「あなたたち吸血鬼がどうして体をコウモリに変えたりできるのか。それは、あなたたちにとって体は心の入れ物にすぎないからよ。姿がいくら変わってしまっても、壊れてしまっても、心が無傷ならそれでいい。そんな風に思ってるからよ」
パチュリーは紅茶を一口すすると、さらに続けた。
「だけどね、貴女たちにも弱点がある。それは体から心が離れやすいということ。たとえば、眠りの時間。心と体、どちらもきわめて無防備になるその間、貴女たちの心は夢に引っ張られて、簡単に体から離れてしまうでしょうね。だからね、レミィ、貴女もフランも棺桶で眠らなければならないのよ。いくら血液を接種して生命力を溜め込んでも、拠り所を見失ってしまって、心が迷子になってしまえばそれまでなのだから」
(……そう云えば最近、まともに棺桶で寝てないわ)
人間たちと触れ合うことが多くなってか、それとも単純に寝心地が悪いことに気がついたからか、良くて週に一回ほどしか、棺桶に入らなくなっていた。
(きっとフランも同じだったのね。この子のことだから、もう何日も棺桶に入っていないはず。だからフランの心は体から離れて、彷徨っていたところをたまたま近くにいた私の体を自分のものと間違えて入り込んでしまった。……そんなところかしらね)
レミリアは鏡の方を見た。そこには何の危機感もない様子で無邪気に笑うフランドールが映っている。
(まぁ、問題は特にないみたいだけど)
「とりあえずパチェに報告しておきましょう。何かあってからでは遅いもの」
そう云って二審同体となった二人は部屋を出た。
「不思議……、ただ体を離れるだけなら分かるけど、もうすでに心が入っている体にすんなり入れるなんて」
紅魔館の地下、風もなく薄暗い図書室の一角。レミリアの動向を確認し、山積みにされた本の中から一冊をとりつつ、パチュリーは考え込んでいた。
「そんなことどうでもいいのよ。それで、どうなの? どうやったら戻れるのよ」
「ああ。そうね、端的に言うと……」
パチュリーはゆっくりと、開いていた本を閉じた。
「分からないわ。さっぱり」
(……使えないわ。この魔法使い)
「勘違いしないで。何も分からないという訳ではないわ」
パチュリーは閉じた本をそばに居た小悪魔に渡すと、机の上の紅茶に手を付けた。
「今のフランは、幽霊と似たような状況みたい。幽霊の場合は取り憑いた側に何か不満があって、それを解消してあげれば自然と体から離れていくもの。だけど、今回は残念ながらフランは肉体を失った霊ではないし、吸血鬼だしね。本人の方がよく分かっているんじゃないか、ってことは分かったわ」
「どうなのよ、フラン」
レミリアは手鏡に映るフランドールに問いかけた。フランドールは、首を傾げ、
——わかんない。
というばかりだった。
「魔法か何かで無理矢理ひっぺがすのは無理なのかしら」
「無理ね」
パチュリーは即答した。
「少なからず霊体と肉体両方にダメージを与えてしまうわ。下手したら霊体は消滅、肉体も滅んでしまう」
パチュリーは空になったカップを置く。
「でもまぁ、私はそのままで特に問題はないと思うけど。フランの体の方は確保されているし、フランの心の居場所もはっきりしている。でも、確かにずっとそのままというのは良くないことだわ。摂理に反しているもの」
「私はお一人でいてくれた方が、お世話が楽で良いですけどね」
突然現れた銀髪のメイド、十六夜咲夜は馴れた手つきでパチュリーのカップに紅茶を注いだ。
「このままでいたらどうなるのかしら」
レミリアの質問に、パチュリーは少し悩む素振りで答える。
「これは推測の域を出ないけど、たぶん、レミィの意識の中にフランの意識が溶け込んでしまうでしょうね」
「レミフラ・スカーレット、になってしまう訳ですか」
「いいえ、半分ずつきれいに混ざるというよりは、どちらかの精神がどちらかの一部になると云った方が正確ね」
「! 私かフランのどちらかが消えてしまうかもしれないってこと?」
「そうとも云えるわね」
パチュリーは焦る様子もなく、注がれた紅茶を一杯口に含んだ。
「一つの体に二つの心が入るなんてことはまともじゃないからね。一つにしようとする自然の力が働いて、摂理を守ろうとするはず」
「じゃあ早くなんとかしないと!」
レミリアは勢いよく机を叩き、立ち上がる。あまりの勢いにカップが跳ねて落ちたが、咲夜が上手く拾い上げた。
「落ち着きなさい、レミィ。どうすれば良いか分からないのに、とりあえず動こうとするのは無駄の極みよ」
「でも、うかうかしていたらフランは……」
「大丈夫よ。あんな風に云ったけど、心の癒着が起こるにはかなり時間がかかるはず。ちょうどいい機会じゃない。最近、フランともまともに話していなかったのでしょう?」
——それが良いよ、お姉様。
レミリアの中で、今まで静かに話を聞いていたフランが云った。
——私、このままでも結構楽しいし。
そう云うフランドールの声に、気遣いは感じられなかった。こんな状況を楽しんでいられるなんて、本当に自分の妹だろうか。そう思うほど、フランドールの心はたくましいものだった。
「……わかったわよ」
そしてレミリアには、自分にこの状況を変えられる力がないことも、よくわかっていた。さらに、鏡に映ったフランドールの表情は、とても明るいものであった。それを無理に変えてしまおうなど、彼女にできるはずがなかった.
「どうしたのよ。辛気くさい顔して」
「うわっ!」
レミリアの肩越しに突然顔を出したのは博麗神社の巫女、博麗霊夢だった。
「なになに? 異変? 云ってくれれば解決するわよ」
紅白の巫女の貼って付けたような清々しい笑顔が、レミリアには不気味に感じられた。
「いや……、異変ってほどじゃないんだけど」
そう云いかけた時、レミリアは頭の中でフランドールが肩を叩いた気がした。机に置かれた手鏡を見てみると、フランドールが人差し指を立てて口元に当てていた。どうやら、このことを秘密にしておいてほしいらしかった。
(どういうつもり? 後々ややこしくなるわよ)
——だってこの方が楽しそうじゃない。
悪戯っぽくフランドールが笑う。
(……我が妹ながらとんでもない奴だわ)
レミリアはつい溜息を漏らした。
「ちょっと、なにため息なんかついてんのよ。そんなに大変なことなの?」
「えっ、いや、そういう訳じゃなくて。その、あの、よくよく考えたらどうでも良いことだったなーって」
「……ふーん」
霊夢は眉間にしわを寄せつつ、焦りを隠しきれないレミリアに顔を近づけた。疑われていることは明らかだったが、霊夢はしばらくレミリアの瞳を見つめると、ふと、何かに感づいたかのように目を見開き、
「まぁ、いいわ」
と、意外とすんなり引き下がった。
「そんなことより何をしにきたのよ。咲夜もさりげなく中に入れちゃってるし! 美鈴はなにをしてるの!」
「あら、失礼ね。私だってちゃんと許しを得て入ることもあるわよ」
そう云うと霊夢は抱えていた風呂敷を机の上に乱暴に置いた。解かれた風呂敷の中身は、大きめの人形だった。
——かわいいっ!
その人形が現れた直後、レミリアの頭の中で、フランドールが大声で叫んだ。
人形はデフォルトされたコウモリのような、どこかクマのような少し不気味な形をしていた。つやつやした生地に、きらびやかなスパンコールでいくらか飾り付けがされている。魔法の森に住む黒白の魔法使いが見たら、
「お前、疲れてんのか?」
と、云うに違いない悪趣味さだった。
当然、レミリアの趣味では無く、そんなものをどうして霊夢が持ってきたのかレミリアにはわからなかった。
「なあに、これ」
レミリアが人形を指差しつつ尋ねると、霊夢は腰に手を当て、少し怒ったように云った。
「あんたがアリスに頼んでたぬいぐるみよ。ほら、あんたの妹の誕生日プレゼントに頼んどいたんでしょ?」
「……?」
レミリアは腕を組んで考え込む。
(そういえば、ずいぶん前にそんなことを頼んだ覚えがあるわ……)
半年ほど前に、レミリアは咲夜にフランドールの誕生日プレゼントをアリスに発注させた事を思い出していた。誕生日に間に合わないといけないから、という理由で早めに頼んでおいたこと、そして何から何まで咲夜に任せっきりにしていた事が裏目に出たらしく、そんな記憶はもはやレミリアの深いところまで沈んでしまっていたのだった。
「サプライズプレゼントだっけ? 無理矢理アリスに押し付けられあげく、わざわざあんたの妹がいない時を見計らって持ってきてあげたんだから感謝しなさいよね」
鼻息荒く勝ち誇る霊夢を、レミリアは素直に讃え切れずにいた。
(どうしてこのタイミングで持ってくるのよ!)
そればかりが頭に浮かんだ。
一方で、胸の中にはフランドールのものと思われる何やら柔らかい感情が渦巻いていた。
——お姉様、これ私にくれるの?
見えなくとも、レミリアにはフランドールが今目を輝かしていることが手に取るように分かった。
(本当だったらもっと瀟洒に渡すはずだったのに……)
ひどく残念な気持ちでいっぱいになるレミリアであったが、それに反してフランドールは喜びで満ちあふれているようだった。自分の体もどこかそわそわとしていて落ち着かなかった。
しばらく考えて、大した言い訳も思いつかなかったレミリアは、
「ええ、貴女にプレゼントよ」
と、認めざるを得なかった。
「本当? やったぁ!」
すると突然、レミリアの体は彼女の意に反して動きだし、机の上に鎮座していた人形を掴むと、それを変形するほど強く抱きしめた。
(ちょ、フラン!?)
体のコントロールは完全にフランの方へ移っており、レミリアがどうしようとも、彼女の体は彼女の思うようにはいかなかった。
そしてその時、彼女は気がついた。今声から出たのは、フランの声ではなかったかと。そして、突然子供のように人形——しかも妹へのプレゼントであるはずのものに——飛びついて喜ぶ己の姿を、にやにやと見つめる周囲の目に。
霊夢は露骨に、咲夜は口こそ動かさないが目が、パチュリーは本で顔を隠して笑っていた。
レミリアは、己の顔が熱く、真っ赤になっていくのがわかった。
それから、天狗やら三匹の妖精やら、こんな日に限って多い来客をすべて追い出した後、レミリアはフランドールの部屋に向かった。
レミリアの部屋よりもずっと子供らしい装飾のなされたフランドールの部屋。その中央に置かれた天蓋付きのベッドの上で、フランドールの体は寝息も立てずに眠っていた。
——自分の寝てる姿を見るって、変な感じがするよ。
フランドールが自分を起こさないように囁くような声で云う。
レミリアにとっても、それは奇妙な光景だった。
しばらくフランドールの体を観察した後、レミリアはよろよろとあのドレッサーに向かい、腰をかけた。
「あー……、もうだめ」
疲れるはずの無い吸血鬼が疲れたと云うのは、気が病んでいるからなのだろう。事実、この日一日、レミリアは気を張りっぱなしだった。
それは、何かあるごとにレミリアの体のコントロールをフランドールに取られてしまったことが一因だった。
つい先ほど、訪問者をすべて追い出した後、パチュリーが少しだけ真面目な顔をしていたことを、レミリアは思い出していた。
「癒着が思ったより早く進んでいるわね」
ぼそっと、つぶやくようにパチュリーは云う。
「心の性質が似ているからかしらね。しかも、当初の予想とはだいぶ違ってきているみたい。このままだと消えてしまうのはレミリアの方かもしれないわね」
その言葉を聞いたとき、レミリアは驚いた。しかし、今となっては、どこかそれを受け入れていた。
(まぁ、そうよね。フランの方が力は強いし、いずれこうなるんじゃないかとは思ってたわ)
そう思った。
現に今も、フランドールは自分の手を勝手に動かして、さっきの人形を弄んでいた。肉体の主導権は着実にフランドールの方へと動いていた。それでも、
(意外とこれもいいかもしれない)
レミリアに、不安は無かった。それどころか、安心感すらあった。だからこそ今、頭の中の自分の意識が薄れていっていることに気がついていても、彼女は冷静だった。
——ねえねえ、お姉様。
まどろみにも似た感覚に浸っていたレミリアを起こすように、フランドールは云う。
「なあに? フラン」
——今日は楽しかったね。
「そうね、客もたくさん来たしね」
——うん。あと、私お姉様たちとたくさん話せて嬉しかったよ。
「ええ、私もよ……」
何気ない会話。フランドールとの会話が少なくなっていたレミリアにとって、その時間はとても心地よいものだった。ゆりかごの中で揺すられているような、体全体を包む暖かさ。体がどこか深いところへ沈んでいくような気がした。
「本当に…、楽しかった…」
強烈な眠気がレミリアを襲う。もうこのまま眠ってしまおうか、そうまで思ったレミリアであったが、フランドールの云った一言が彼女の眠りの海から引き上げた。
——でもね。私、もう戻りたいな。
「え?」
一瞬にして、頭の中にかかっていたモヤが晴れた。
「どうして? 楽しかったでしょ?」
——うん。でも、戻りたい。だってこのままじゃつまらないんだもの。
「つまらない?」
レミリアには意味が分からなかった。いっそこのまま同化してしまえば、と思っていたレミリアにとって、フランドールの言葉は不可解すぎた。
フランドールは、レミリアの体をドレッサーの大鏡の方へ向けた。そこに移っていたのは、口をむっとさせたフランドールの姿だった。
——だってこのままじゃお姉様にありがとうのハグも、キスもできないのよ。
「……それはそうだけど」
それでも、と続けようとしたレミリアを、フランドールは遮り云った。
——私はやっぱり私は手で触れられて、声と声で話すことができるお姉様が好き。今日一日過ごして分かったんだ。ずっと一緒っていうのは少し違うなって。
「……フラン。もしかして貴女——」
不意に、フランドールはレミリアの顔を鏡に押し付けた。
「!?」
声を上げる間もなく、レミリアの口先は鏡の向こうのフランドールと重なる。しかし、そこにあったのは鏡の冷たさとフランドールとの距離だった。
(……冷たい)
レミリアはひんやりとした口先を鏡から離す。鏡の向こうではフランドールが花のような笑顔を浮かべ、
——ほらね? これじゃ嬉しくないでしょ?
と云った。
レミリアは自分の唇に指先を当てる。それは自分のものであり、フランドールのものではなかった。鏡についた手も、よく見れば触れ合ってなどいない。一生近づく事のできない距離をレミリアはそこに感じた。
「確かに、これはつまらないわね」
気がつけば、レミリアの中で限りなく同化の道を指していた振り子の針が、逆方向へと向き直していた。
「でも、戻り方が分からないわよ。それで困っているのに」
——大丈夫。私分かるよ。
フランドールの表情は揺るがなかった。そして、自信に満ちあふれた顔で、
——物語のお姫様はいつも、王子様のキスで夢から覚めるんだよ?
と悪戯っぽく笑った。
はじめのうちは、何を云っているのかレミリアには分からなかった。しかし、すぐに理解した。
(ああ、やられたわ。この子は最初から分かっていたのね。体からの離れ方も戻り方も、どうなろうと自分が得をすると踏んだ上で実行したってわけだ)
我ながら恐ろしい妹だと、レミリアはフランドールのことをむしろ尊敬させられた。
「仕方ないわね。でも、本当にそれで正しいの?」
——大丈夫だって。なんとなく分かるんだよ。私のゴーストが囁いてるんだ。
「……そうだと云うなら、そうなのでしょう」
レミリアは、自らの意思でドレッサーから立つと、ベッドの上で深い眠りにつくフランドールの方へと歩み寄った。そこには幸せそうな顔で眠る少女が横たわっていた。
レミリアの中に不思議な緊張が走る。目の前に横たわるは見慣れた妹の姿のはずなのに、漂う雰囲気がそうさせたのか、方に変に力が入っている事に気がついた。それを知ってか知らずか、フランドールはあえて、体を操ろうとはしなかった。
一息と少しの間の後、レミリアはフランドールに云った。
「私は、このままでもいいと思ったの」
レミリアは幸せそうに眠るフランドールの顔を覗き込んだ。
「貴女がどこへ行ってしまうか不安でたまらない夜を過ごすよりはってね。でも違ったわ。私たちは別々だから、互いのことを愛してやまないのね」
フランドールはただ黙って、レミリアの声に耳を傾けていた。当然の事を確認するのは野暮だとでも云うように。
レミリアは、一瞬空を仰ぐと、すぐにフランドールの方へ向き直り、
「それじゃあね、また」
そうして、レミリアはフランドールと唇を重ねた。
最初に感じたのは柔らかさと暖かさ。しかしそれも一瞬で、直後には体の中から大きな流れが突き抜けていく感覚を覚えた。そしてその後、大きな虚脱感が体中を支配した。
レミリアはフランドールから離れると、ベッドのそばの椅子にふらふらと腰掛けた。人一人分を失った後の孤独感に襲われていた。部屋の温度が下がったのではと誤認するほどの謎の冷たさに、体を丸めずにはいられなかった。足下がおぼつかない不安、恐怖。首筋から、体全体をはうように、真っ黒な何かが浸食してきていた。
しかし、それも長くは続かなかった。
「お姉様」
ベッドの上から、眠気眼をこすりながらのそりと起き上がるフランドールが云う。
「おはよう」
その一言が暗闇に差し込んだひと筋の光となり、照らし出したレミリアの体を一瞬にして暖めた。指先から、心の奥にかけて、とろりとしたぬくもりが駆け巡った。
「おはよう、フラン」
レミリアは優しくそれに答えた。どこまでも無邪気で、どこまでも愛おしい妹の手を握りながら。
そんな声が聞こえてきた
それはそうと、このレミフラとても良いものでした
良い姉妹愛だ
方=肩?
「私は、このままでもいいと思ったの」
レミリアは幸せそうに眠るフランドールの顔を覗き込んだ。
「貴女がどこへ行ってしまうか不安でたまらない夜を過ごすよりはってね。でも違ったわ。私たちは別々だから、互いのことを愛してやまないのね」
フランドールはただ黙って、レミリアの声に耳を傾けていた。当然の事を確認するのは野暮だとでも云うように。
ここが一番好きです この美しさときたらもう
は、ともかく、少し離れているからこそ確かめ合えるって考えがロマンチックで良いなぁ
まどろっこしい。
すごく素敵でした
姉妹と紅魔館の面々との会話が面白かったです