咲夜達が妖怪の山から飛びだったとき、妖怪の山の麓で金色の九尾の尻尾を風に揺られながら見つめている藍が居た。
「紫様に報告しなければ……!」
少し額に嫌な汗を掻きながら血相を変え、藍はマヨヒガがある方角へと全速力で飛んで行く。
あの山に何があるというのだろうか、そして彼女とは誰のことか―
………
「ホント、険しいわね。この山」
文から情報を手に入れた4人は写真元である離れの山へと進入していた。
だが山の中は未開の地。人が通れる道も当然なく、光が薄く差し込んでいる不気味な樹海の中をひたすら警戒しながら飛ぶ。
「竹林の様に道が変わることが無いからそんなに迷いはしないだろうが……万が一迷ったら最後だな」
薄暗い山の中を見渡しながら何故か迷いの竹林のような、それ以上の不気味さを妹紅は感じていた。
それは不思議な、哀愁に近い感じだった。
―おかしい……たしかに竹林の様に道が変わるわけでも無い。
なのに何故だろうか……山が、いや木々達がまるで動き出しそうな雰囲気を漂わせている。ここは迷いの竹林よりも危ない場所かもしれないな……
「どうしました?妹紅さん」
先ほどから少し思いつめた表情をしながら周りの木々を見ている妹紅を不思議そうに美鈴が顔を覗いていた。
「あ、いやなんでもない……前見てないと危ないぞ?」
「へ?―あだっ?!」
妹紅から注意を受けるのと同時に美鈴は案の定木にぶつかった。
幸い細い木の枝だった為、さほど痛みもなかった。だがびっくりした美鈴は少し態勢を崩す。
「何してるのよ……怪我しても知らないわよ?」
後ろから優曇華呆れたように頭を軽くさすっている美鈴を見て小さく溜息をつく。
「あうー……すみません」
「危なかったな。もし根元に当たって地上に落ちていたら私達はそのまま置いていってただろう」
「竹林の様に道が代わることが無いからさほど迷いはしないだろう。
だがここは誰も知らない未開の山。そんなところで遭難でもしたらいくら妖怪でも一巻の終わりだろうな」
笑いながらも少し真実味のある雰囲気を漂わせながら妹紅は言う。
それを聞いた美鈴は少し冷や汗を垂らし、そして気を紛らわすためにわざと陽気に笑った。
「ア、アハハハハハ……大丈夫ですよー、迷ったとしても上空に浮上すれば―」
「無理よ。この木々には何故か狂気が混合している。
恐らく上空へ浮上しようとしてもこの木の狂気に微力ながら狂わさせられる。無理にでも浮上しようとしたら後遺症が残るわね」
「まっ。もしここで遭難したら狂気に飲み込まれて自我が崩壊するでしょうね」
ふぅ、と一息つくと優曇華は能力を使って山の木々から感じられる狂気はどこから出ているのか感じながら探し出していた。
だから優曇華が言うことは先ほどもし落下していたかもしれない美鈴にとっては恐ろしいことだった。
「………」
小さく身震いし、美鈴は近くに居た妹紅の隣へ、肩がつくほどまでに接近した。
「大丈夫だって。あんまりそう引っ付かれると飛びにくいからさ、その……もうちょっと離れてくれないか」
「ハイ……」
「………」
逆にぴったりと肩を引っ付けてきた美鈴に対して妹紅は今の状態じゃ何を言っても効果はないだろう、そう考えて諦めの溜息をついた。
―ガサ、ガサガサッ
「何かしら……」
前方の茂みから何かが動いて草を鳴らしている音が聞こえた。
4人は空中で一旦停止し、かすかに動いている茂みを見つめながらいつでも弾幕を展開できるように構えた。
「こんな山に生き物が居るのか……?いくら野生の獣でもすめなさそうな場所だというのに」
「もしかするとすきま妖怪が連れてきたという何者かなんじゃ……」
右手を拳銃の型にして咲夜の隣にいた優曇華は威嚇射撃を撃とうかそれとも出てくるまで待つか、頭の中でどちらを選ぶか葛藤しだす。
そんなことをしているうちに咲夜が行動に移し、ナイフを茂みにいる何者か目掛けて投げた。
「………!!」
すると茂みから小さな人影が複数飛び出し、そして―
ババババババババババッ!!!
4人目掛けて弾幕を撃って来た。
「妖精か!こんな気持ちの悪い山にも妖精は沸くんだな……!」
妖精の弾幕が咲夜と優曇華の間近へと来る前に妹紅がすかざす火の鞭を繰り出し弾幕を相殺した。
そして咲夜と優曇華はすかさず弾幕を撃ち、妖精達の撃退を実行する。
いつもなら弾幕を撃った後その場から一時離脱して再度出てくる、それがいつも通りの妖精の動きだった。
だが今回は違った。
まるで人間が訳もなく他人から殴られたかのような険しい表情を妖精達はしていた。
「なんなの……?いつもなら馬鹿にする様な声の無い笑いをするのに今回はやたらとしつこいじゃない」
「ですね……でもなんだろう、まるで私達を見て無いような気が……」
弾幕を相殺、避けながらあまり見たことが無い険しい表情をしている妖精達を怪しんでいた。
その眼は優曇華の眼の様に赤く、そして少し不気味に光っていた。
「まさか……狂気にやられてるんじゃ……」
自分と同じ眼の色をしているのに気づいた優曇華はこの山の狂気に影響された妖精なのだろうと理解した。
―そうでなければこの異常な妖精達の行動が説明できないわ。
「全く、埒が明かないわね。妖精は死なないからといって敵わない相手に突っかかりすぎなのよ」
愚痴を零しながらも手を止めず、ひたすらにナイフで樹海から湧き出てくる妖精達を手当たり次第に倒していた。
「いつもより弾の速度が速い……ここの妖精達は魔法の森にいる妖精達と格が違いますね」
「まるで丑三つ時の妖精達のようだ」
攻撃をしながら着実に4人は山を登っていた。
そして妖精達を撃退し、進むこと数十分。道を抜けて不自然に芝生が拡がっている広場へと出た。
「何だかおかしなところに出たわね」
「人工的に作ったわけでもなさそう……まさか勝手にこんな不自然な広場が出来たとか?」
優曇華と咲夜は広場に足を着くとゆっくり歩きながら広場を見渡した。
広場の周りは先ほどと打って変わったわけではない。
ただ少しばかり不思議な風が吹いていた。
まるで心の奥底から寂しさを込み上げさせるようなそよ風が4人に向かってここは危険だと教えてるかのようだった。
それを妖精達は気づいていて、その広場に入った4人を追撃しようとせず、ただ睨みつけながら蜘蛛の子の様に散らばっていった。
だが4人はそんなことに気づくことはなかった。
「この場所にあまり居たくないな。さっさと進まないか?」
ここに吹いているそよ風が込み上げさせる寂しさにわずかながら察したのか、気味が悪くなった妹紅はこの広場に長居することを望まなかった。
「そうね。私もここに長居したくないわ……何なのかしら。この気持ちは……」
『珍しい。こんなところに人間が入ってくるとは。
よほど強い妖怪でも身の程知らずに入ってきたかと思ったのだけど……』
「どこから声が……!」
広場に風に乗せて風鈴のような清らかな声が聞いてきた。
そしてちりん、ちりんと鈴が小さく鳴いていた。それは不自然に出来ている静寂した広場に響き渡り、少しだけ名残惜しく鈴の音色が耳に残っていた。
「どこにいるのかしら……姿を現しなさい!」
ナイフを構え、姿が見えぬ相手を脅そうとする咲夜。だがそれは当然無意味だった。
『これは警告よ。ここから先へ行っても貴方達が行くべきところではない。
もう一度言う。ここから先へ行っても貴方達には一切知る必要のない世界があるだけよ』
相手は動き回っているのか、鈴の音がちりん、ちりんとワンテンポ置いて数箇所から聞こえてくるようになった。
「いや、知る必要があるわ。私達だけにしか見えなかったあの写真、貴方かはたまたこの山にいる違う奴が関係しているのは分かっている。
だから私達は知らなければならない。その世界を」
『写真……?あぁ、昨晩彼女の音色に誘われた鴉天狗が撮ったものね。
あれは仕方が無いことなの。私達がこの山にいる限りあれは決して解決することは無いわ』
『でもここから立ち去らず、この先にある知られざる狂わしい音色が響き渡る世界へと進み、その仕方が無い事を無理に解決しようとするのなら……』
『ここで私が貴方達を追い払いましょう」
清らかな声が広場に響き、薄れ始めると4人の目の前にうっすらと赤色の和服を着た少女が現れ出した。
「私は時を乱す女神、刻々時空(こくどうときそら)。貴方達をここで追い払う者の名よ。
山の麓で恐れながら語り継ぐといいわ」
ちりん、と頭を軽く動かし鈴を鳴らす。
時を乱す女神と名乗った時空は袖内から古い時計を取り出しカチカチと針を回しだした。
「何をしているのかしら……?」
不思議そうに咲夜がいきなり時計を弄りだした時空を怪しんだ。何をする気なのだろう、もしかするとアレは何かの力を使う為に必要なものなのか。
咲夜だけではない、他の3人もそう疑った。
「時間は過ぎる。壊れても時間は止まらない。ただ表すことを時計がやめただけ」
「さぁ、時の流れに逆らえない愚かな人妖よ。時の流れに酔ういいわ!」
ぐにゃり、少女の姿は歪み、そして時計の針が弾け飛ぶのと同時に姿を消した。
4人は何故か彼女の不思議な行動に見入っていた。そして針が弾け飛ぶのと同時に我に返った。
「ハッ!あいつどこに消えたんだ?!」
「わ、分かりません!それより周りを見てください!!」
優曇華が指を差した方向はここに着いて最初に目に入った次へと進む獣道があった場所だった。
だがそこには道はなく、そして後ろを振り向くと通ってきたはずの道がなくなっていた。
「結界か……?!」
「違うわ。これは空間を弄ったにすぎない……あいつを探し出して倒すしかないわね。
多分この広場に姿を消しているわ。手当たり次第に弾幕を撃ちましょう」
流石は吸血鬼に仕える瀟洒、冷静沈着に咲夜は敵が勝手に漏らした情報を整理しながらどのように動けばよいのかを考えたようだ。
「ちっ……早く探し出してここから抜けたい所だ」
「そうね。ここに長居をしていると心が病んでしまいそうだわ……」
4人は時空を探し出すべく弾幕を辺り一面に放ち、一秒でも早く時空を倒し、ここから抜け出したい一心だった。
『見苦しい、見苦しいわ。そんな無茶苦茶な弾幕などに私を見つけられるはずが無い。
貴方達は私が狂わした時の中で疲労し、最後は私を恐れ、そしてここから一目散に逃げ出すのよ』
くすくすと清らかな笑い声が響き渡り、どこからともなく同じ場所に留まらないよう弾幕を広場の中心にいる4人目掛けて放ち始める。
時空の弾幕はかんざしのような形をしており、そしてかんざしのお尻には鈴が付いていた。
鈴、鈴、鈴……!
鈴の音が鈴、鈴と鳴り響く中、咲夜はある場所を一点にナイフを大量に撃ち始める。
『……!』
そこには時空が姿を消した状態で居た。
何故居場所が分かった?姿が見えているのか?あの人間は何者だ?
そんな考えが時空の頭の中に泉の様に湧き出し、考えれば考えるほど時空の動きはぎこちなくなっていく。
「無駄よ。弾幕を撃ち始めた時点で貴方は籠の鳥。観念して姿を見せたらどう?」
『なッ!』
考えるのを止め、思考から現実へと戻ると周り一面にナイフが包囲していた。
そして隙間なく張り詰められたナイフから抜け出すことは不可能、そう本能的に分かり、姿を現しスペルカードを一枚、宣言する。
「影符「白夜日影図」!!」
時空のかんざしに付いている鈴が白い光を放ち、時空の影を16方向に作り出した。
ナイフは光が放たれ、きらりと不気味に光りながら白い光の中を一直線状に飛んでいく。
そして時空を突き刺そうと迫った瞬間、ナイフの目の前に黒い影が現れる。
「危なかった……そこの人間、何者?」
「チッ……どうやら当たらなかった様ね」
白い光りによって咲夜達は目を眩ましていた。そして目を開けるとそこには16体の時空のような姿をした黒一色の影に大量のナイフが突き刺さっている。
「敵は何者なんでしょう……姿を消したり、空間を弄ったり、自らの影を出現させたり……」
「美鈴、あいつの能力は予想だけど時を狂わせる程度の能力。
恐らくあの影はあの妖怪と同じ動きしか出来ないでしょうね」
「それに姿を消したのではない。私達があいつを見る時間を狂わされたのでしょ」
右手に持ったナイフを指の間に挟めながら腕組し、時空に攻撃を与える隙が無いか探っていた。
咲夜の説明を聞いた時空はここまで冷静になって自分の能力、この影と姿を消した種(トリック)を見破った咲夜をただの人間ではない、そう改めて認識した。
「その通り、とでも言っておきましょう。確かに私の能力は時を狂わせる程度の能力。
だけど……残念ながらこの影は私の思うままに動かすことが出来るのよ!」
バッ!と右手で合図をすると影達は自らの体に刺さったナイフを手に持ち、4人目掛けて突撃してくる。
「優曇華、妹紅、美鈴。貴方達であの影の相手を……私があいつを戦意喪失させる」
咲夜は3人の後方へと下がると時空の動きをさきほどより鋭い目つきでどんな仕草も見落とさないよう凝視する。
3人は何か作戦があるのだろう、そう直感的に思い16体の影を相手する。
「あの人間……さきほどどうやってナイフを……まさか瞬間移動?」
時空は影達に戦闘を任せ、自分は遠距離から弾幕を撃ちながらあの人間、咲夜の事を考えていた。
さきほどのナイフ同様、自分が姿を消して全速力で動き回っていたのに何故ナイフを的確に当ててこられたのか、いくら先読みが出来たとしてもナイフが飛んでくる場所が異常……そんなことを考えていた。
気づいたときにはもう目の前までに迫っていた。まるで至近距離からナイフを投げたかのように……
「いけない……いまはこの時間稼ぎに集中するのよ」
かぶりと頭を振り、再び止んだ弾幕を影の相手をしている4人目掛けて降らせる。
―カキィィン!
「なに?!」
「残念ながら貴方の能力は私には通用しないわ。私は時間を操れるのだから」
いきなり目の前にナイフが出現し、かんざしの弾幕を全て撃ち落し、そして後ろには咲夜がナイフを構えた状態で立っている。
「時間を操れる……なるほど。全て説明がつくわね」
「チェック・メイト。さぁ、あの影を消し、この空間を元に戻してもらいますわよ?」
時空は咲夜にナイフを首筋に近づけられ、どう足掻いても時を止められてやられる。そう思い咲夜の言うとおりに作り出した16体の影を消し、空間を元に戻す。
「時は満ちるのみ。その満ちを止める者がいれば時が狂いだす……貴方は私と同じね」
「そうね。私の方が格が上だけども」
「貴方達をここから先へ行かせるわけにはいけない……が、私では貴方達をとめることは出来ないわね」
ふぅ、と肩の力を抜くと黒い笑みを零し、4人の恐怖心を扇ぐようなことを口にする。
「運よく私の力に勝るものが居たに過ぎない。これから先はそのような運は無いと思うのね……そしてこれより先が知らなければ良かった世界と心の底から思い知るといいわ」
そう告げると時空は姿を消した。
まるで先ほどの戦闘が数秒のように感じさせるような鳥の鳴き声がよく聞こえるほど閑散とした。
「さて……さっさとここから離れましょ」
そして4人は先へと続く獣道を飛んでいく……
………
「紫様ッ!!!」
マヨヒガでは藍が息を乱しながら紫がいる部屋へと入ってくる。
そこには落ち着いた表情をした紫がお茶をしていた。
だがその表情とは裏腹に眉を顰めていた。
「藍、貴方が報告したいことは分かってるわ。愚か者達が知ってはいけない世界へと入ろうとしている……いえ、もう片足入れてるわ。だから私はなんとかこの世界とあっちの世界の狭間、境界線を弄って入れないようにしている……」
「それも時間の問題。貴方には少し手伝ってもらうことがあるわ」
そういってスキマから魔道書らしき古書を取り出した。そしてとある頁を開き藍へとスキマを使って渡す。
その内容は難しい漢字の暗号が書かれており、そして4つの挿絵と1つの魔方陣が描かれていた
「これは……?」
「界々拒絶陣。それは博麗大結界の元となった魔方陣よ」
「その絵は必要な物を表しているわ。右から順に説明するわね」
藍は紫の向かい側に腰を下ろし、藍が帰ってきたのを知った橙が藍の分のお茶を持ってきた。
「まず一つ目。その黒い羽の挿絵は天狗の羽を表しているわ。
そして二つ目の霊魂に桜印は冥界の桜を表している。
三つ目の陰陽玉は裏と表、即ち外界と幻想郷の境界に住む博麗の巫女を表している」
「最後の黒い雫は血。それも増大な魔力が込められている血……
そんな血を持っているのは私か紅魔館の吸血鬼姉妹。そして魔女」
「紅魔館の奴等に頼むのは……ここは紫様の血でよろしいですよね?」
ちらり、と紫の方を見る藍。紫は目を瞑り藍を見ず、黙ったまま扇子を開き扇ぎだした。
「私の血は強力すぎる。干渉しないようにするのなら紅魔館の奴等がいいわね。
私の血を使えば博麗大結界と同じになってしまうわ」
「そう、ですか……」
静寂が部屋を包み込み、紫の扇子がぱたぱたと風を起こす音が部屋に小さく響き渡った。
「それじゃ……交渉に行ってくるわ」
スキマを開き、その中へ紫は入っていった。
藍と橙はその場に残り、藍は古書の違う頁めくり、読んでいた。
「これは……?」
そこには知ってはいけない世界、咲夜達が踏み込もうとしている場所が記されていた。
そこの頁に見たことも無い少女の挿絵があった。
「人と妖怪に愛し、裏切られた哀しき少女……」
その挿絵の少女はまるで風が吹けばどこかへと飛ばされそうな、そんな感じを藍に思わせたのだった……
じゃあ何で書いたの?
内容はチープで作者はアホ、期待するとこがない。
内容はチープでも構いませんが読者をおいてけぼりにはしないで下さい。
組み立てられそうなお話ですねぇ~w
必然性を感じないオリキャラや設定が満載されてる
僕の考えたオリジナル東方を披露されたいだけなら
自分のサイトにUPされれば良いと思いますよ?
すこーし興味を惹かれ、色々感じたところが多かったので感想を書かせていただきます。
少々分かりづらいところあったりすると思いますが目を伏せていただけたらありがたいですね……!
それでは要点別に。
【文章】
正しい文章作法に則ってはいませんが、表現自体は趣味程度に読書を嗜んでいるんだろうな、と思う文章でした。
ただやはり、文章作法が成っていないというのはどうしても、「小説」というものをあまり読み込んで居ないのだろうなと感じさせてしまいますね。
また、これはまるで作者さんのイメージする映像が作者さんの視線で、そのまま描かれているような文章です。作者さんが「無意識に理解している」ところが描写として現れていません。
具体的に言えば会話文周辺で「読者にとって『誰が喋っているのか分からない』文章」がよく出てきました。
作者さん本人は「この台詞は○○が喋っている」と無意識で理解しているので描写をしてらっしゃらないのでしょうが、読者は作者の頭の中を覗けるわけではないので、『書かれなければ分かりません』
特に推敲前の文章は、説明がくどいくらいに描写してもいいものです。読みなおしてしつこすぎると感じたら削ればいいですし、むしろ読みなおして「まだ伝わらない」と感じる事のほうが多かったりしますからね。
また折角「表現する能力」は持ち合わせていらっしゃるのに、このところどころに出てくる淡白な描写のせいで、あまり物語に深く入り込めないという印象を抱きました。
さて次に目についたのは「無駄に心中を口に出すキャラ」でした。
特にオリキャラさんがそんな感じですね。
少年漫画の悪役的にはありがちなのですが、やはりどうにも滑稽に移りますね。
折角の三人称で、しかも小説です。『台詞を用いなくてもキャラクターの心理を描写する場所は充分に存在します』
更に言えば、具体的なキャラクターの心理描写がなくても、雰囲気的に今思っている事を行動で表現出来たりもします。
こう言った「言葉に頼らない部分」で表現を伝えたほうが、読者にもイメージの楽しさを与えられ、それこそ、より「少年漫画的に」できるものだと思います。
気になった文章を取り上げます。
>>なのに何故だろうか……山が、いや木々達がまるで動き出しそうな雰囲気を漂わせている。
個人的な考えなのですが、このように「○○が、いや、××が」というように描写する場合、○○に対して××のほうが「規模が小さい」と、この表現をする意味がなくなる気がします。
どうせ比喩なのですし、「木々達が、いや山が」という風に表現の対象をより大きくしていくことで、もう少し強く読者を煽ってもいいと思いましたね。
そういえば何故この文章だけ正しく段落の頭が下げられているのか疑問に思いましたが、なるほどこれは心理描写なのですね。
またこのように、いくつか「ちょっと違うかな」という表現がありました。(誤字や脱字とは別として)
ただそれは「よりそれらしく伝えようと作者さんが考え抜いた結果」です。今はついてきていなくても、もっと書を深めて、表現の感覚を手にしていけば、更に磨かれていくものだと思います。
批評ばかりとなりましたが、褒める点といえば、作者さんからは確実に能力を感じる、というところですね。
尤も、現状では基礎が蔑ろにされすぎていますし、中途半端に伝わりづらい文章であるのは確かです。
「読者の目線に立って書く」というのを意識しつつ、そのためにはどのように書けばいいのか、プロの作家たちはどのようにして書いているのか考えながら読書をしてみると、その行為がより一層、自分の力になると思います。
【キャラクター】
『刻々時空』
見所はやはりこのオリジナルキャラクターでしょうか? 少しだけ彼女に言及しましょう。
なにやらストーリーに重要そうな門番、言わば「3ボス」のような立ち位置で登場した彼女でしたが、バトルに入るやいなや一気にその「らしさ」が吹っ飛んでしまいましたね。
文中では『咲夜の相性が良かった』といったところですが、さっくり逃げ帰った辺り、まあ1話なので1ボス程度の強さかなとは感じました。
原作的に「内容に関わる1ボス」はナズーリン以外存在しないので、この時空ちゃんもそのうち再登場を期待します。
さて。一番感じたことは「キャラが立っていない」ということですね。
小さな行動などにはそのキャラクターらしさが描写されているのですが、それでもやはり「そのキャラクターの『思考』や『性格』に基づいたそれらしい描写」というものに欠けていた気がします。
また、そこは作者さんがどれだけキャラクターを考察しているか、ということでもあります。ここが足りなければキャラクターに現実味がなくなり、既にコメントでも書かれているように「東方でやる意味がないような」作品になってしまうのです。
「二次創作」というジャンルで一番作品をチープにしてしまうのが、その「キャラクター性を無視する」というところですね。
幾ら原作が存在するキャラクターだとはいえ、やはり作者なりに「このキャラはこうだ」と思っているところが表われないと、何だか抜け殻が動いているような人形劇になってしまいます。
「キャラクターにはそれぞれ履歴書をびっしり埋める程の設定がなければそのキャラクターは動かない」と言います。そしてこういった格言の類は、履歴書一枚程度の考察では済まないことが多いです。ある作家さんは、主人公の為にキャンパスノート一冊を丸々キャラ設定で埋めたりもするようです。
『原作で既に存在しているから』といってキャラクターの設定を曖昧にしていては、深みのない作品になってしまいます。
オリジナルキャラクターについても、ただ「名前/能力/大体の性格/大体の外見」だけを設定しているようにしか見えない感じでした。
……まあ東方プロジェクトは原作からしてあまり深く設定してあるような作品ではないですが(小声)
それでも! やはり「小説」とするには、『キャラクター』を深く掘らなければならないのです。
キャラクターたちに「作家の独自性」が加わった時に、その作品は更に伸びるものだと思います。
【構成・内容・設定】
これもコメントで既に言われているように、確かに「第一話」という感じはしませんでした。
「物語が動き始めている」というのは理解できますが、それが東西南北上下の何処へ動いているのかがさっぱり掴めません。
「先が読めない展開」といえば聞こえがいいのですが、はっきり言ってこれは別に「心躍る展開」というわけでもありません。
「冒頭に山場(ゴール)を持ってくる」というのは有効な技法ではあります。
ただし、それは同じ話の中に「その山場(一つ前のゴール)を引き継ぐスタート」がなければ効果を発揮しません。ただ、そこでぶちっと終わってしまうだけです。
「なんか一話目でいきなり完結しちゃってる話の二話目があるけど……」と思うだけで、あまり手を伸ばそうとは思いません。
しかもこの話は別に「クライマックス」というわけでもない、単純に「ちょっと物語が進んだところ」からスタートしてしまっているので、特にワクワクもありませんでしたし、ただただ分かりづらいだけでした。
含みを持たせるべきは、藍ではなかったと思います。この場合「文はどのようにして」「どのような情報を手に入れたのか」を書くべきでしたかね。
文が見た景色を通して、「一体幻想郷にはどのような『異変』が起こっているのか」というのを描写すべきだったかなと思います。
構成・設定に関しては連作の一話目ということであまり評価しづらいのですが、感じる限りあまり上手な構成ではないですね。
設定もあまり表に出ていませんし、読者を引き込む第一話としては不十分すぎる気がしました。
ただし、単品で見る限り、意味不明であるのはどうしようもありませんが、今回の内容自体はバックボーンが雑なバトルモノ、といったところ。
「何のために動いているか分からないので何をしたいのか分からない」というのが致命的でした。
【タイトル】
うーん……どうも(少なくとも創想話において)「東方○○○」というタイトルは嫌われる方向にあるみたいですね。
今のところ郷が狂っているわけでもなさそうですが、この先の展開としてはそういう風になるのでしょうね。
「内容」を安易に表しているタイトルで、「読者を惹きつけるもの」ではない。
少し厳しめに採点しておきます。
【総括】
・何をしたいのかが少し伝わってこない内容。(一話なので仕方がないとしても)
・粗は多いものの、それなりの魅力は感じる文章。
・キャラクターも進行も文章も深みのない淡白なものなので全体の魅力には欠ける。
といったところでしょう。
これらを踏まえて私はこのような点数を付けさせていただきます。
【文章】
10/30点
【キャラクター】
5/30点
【構成・内容・設定】
10/30点
【タイトル】
0/10点
合計25点……端数切り上げで30点。
文章をもう少し評価したいのですが、やはり作法が成っていないのは気になります。
誤字脱字も、少ないKB数にしては少々存在したので、推敲が足りないと感じました。
特にキャラクター。やはり二次創作においてキャラの特徴というのは華だと思います。是非とも「作者さんだけが描けるキャラクター」を掘り下げていって欲しいです。
それでは酷評気味となりましたが、これにて失礼いたします。
少しでも次回作への糧になれれば幸いです。枷にならないことを祈ります……。
『一話』というところに惑わされていましたが、プロローグが存在したのですね。これは失礼。
一度評価を下してしまった物なのでどうしようもないですが、申し訳ありませんでした。
自己弁護というわけではないですが、プロローグ読了後に再読しても、やはり「分かりづらい」という感じは否めません。
あとがきにプロローグへのリンクが飛ばしてあると親切ですかね……? このあたりは蛇足になるので以上で。それでは。
というか普通に考えたらおかしいと思うけどどうなのさそこんとこ