Coolier - 新生・東方創想話

忘れられた想い

2011/06/15 00:13:53
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「うどんげ。悪いけど、この薬草を摘んできてくれる?」
ここは永遠亭。
迷いの竹林の奥にある秘密の隠れ家。
・・・ってのは昔の話。
あの月の異変の後、他の人妖にも知られるようになり、今では医療施設(薬屋といったほうが正確か)として多くの人妖を診ている。
その永遠亭を実質上取り仕切っている私の師匠、あらゆる薬を創ることができる月の頭脳、八意永琳が私に資料を見せる。

「って、この展開以前にもあったような」
「気の所為よ」



◇ ◇ ◇



「で、私のところにきたと」
「毎度毎度すみません」

私は今回の資料をナズーリンさんに見せた。
なんか見つけるのが難しそうなものはほとんどナズーリンさんに依頼している気がする。

「おい鈴仙。今回は薬草の名前すらないぞ?」
「ごめんなさいごめんなさい」

本当にごめんなさい。
毎度毎度厄介な依頼を持って来てしまって。

「今回はランクすら書いてない。あ、でも流石に効力は書いてあるな。なになに、霊体を実体化させる・・・。え、これ何に使うんだい?」
「わかりません・・・」

師匠は何を考えてこの薬草を探してこいなんて言ったのか?
どうせ何時ものごとく怪しい実験に使うんだろうけど。
非常に申し訳なさそうな表情をしているだろう私。
なんかもうナズーリンさんの顔すらまともに見れてない。
が。

「それじゃあ、いくか」

なんてことを言いながら、腰を上げるナズーリンさん。

「え?」
「報酬は期待しているよ。中々面白そうじゃないか」

そう微笑を漏らしながら、少し待っていてくれと準備に取り掛かる。
希少価値があると判断したときのナズーリンさんの決断は早い。
流石ダウザー。
ちょっと惚れそうだ。
妖夢ちゃんの次に。



◇ ◇ ◇



寺を出る前に、ナズーリンさんについていくとダダこねた星さんがぬえさんに吹っ飛ばされた。

閑話休題



◇ ◇ ◇



人里。
朝早くだというのに活気づいているこの光景はとても新鮮だった。
私は基本的に午後から薬の訪問販売をしているからだ。

「さぁ、いくぞ鈴仙」

そう言いながら足早に進むナズーリンさん。
あれ?

「ダウジングはしなくてもいいんですか?」

そう。
いつもは先にダウジングで大体の場所を探し出す。
資料に明確な場所が記されてませんから。

「あぁ。先に寄る所があるのでね」
「寄る所?」

なんでしょう?
もしかして、よくある冒険ものみたく道具屋で装備を整えるとか?

「いやいや、そうじゃなくてね」

苦笑気味のナズーリンさんが説明する。
今回はおそらく『霊』が関係する。
だから専門家に話を聞くのだという。
『霊』の専門家。

・・・。
・・。

ま、まさか!?



◇ ◇ ◇



「な、ナズーリンさん!私、今日の恰好に変なところは無いですよね!?」
「いつも通りの服装、髪型。似合っているよ」

そう告げるナズーリンさんの表情は明らかに必死に笑いを堪えている。
だ、だって!
まさか『ここ』に来るとは思ってもみなかったんですから!
ここは冥界。
目の前にそびえたつのは大きな門。
『白玉楼』
生と死の狭間。
ある意味、幻想郷では最高ランクの危険地帯。
でも私にとっては天国のような場所。

「すみません。私は命蓮寺のナズーリンという者です。お尋ねしたい事があるのですが。御面会いただけないでしょうか?」

ドンドンと門を叩きながら声を上げる。
ま、待ってください!
まだ心の準備が・・・。
そんな私の心境を知らずに。

「はい、ただいま。お久しぶりです、ナズーリンさん。あ、鈴仙さんも」

バクン、と鼓動が高くなる。

愛らしい顔。
緑色の服が反則的に似合っている。
その背丈に似合わない長い刀。
可愛さと凛々しさが合わさった極上の表情。
・・・髪型が変わっている!?
うわっ、可愛い!
反則的な可愛さだ!

門が開き、中から現れたのはマイエンジェル。
『魂魄妖夢』
私的世界1位の愛くるしさを持つ絶対的存在。
あぁ、可憐だ。
妖夢ちゃんに会えるんだったらお土産の一つや二つ・・・、いや!10個くらいは持ってきても損はないとも思っているのに!

「あのぉ、鈴仙さんが無反応なんですが」
「気にするな。その内正気に戻るさ」



◇ ◇ ◇



意識が戻った時には、屋敷の客間に座っていた。
あ、あれ?
隣を見ると、おいしそうにお茶を啜っているナズーリンさん。
私は一体・・・?
未だに少し混乱した頭を整理しようとしたら。

「鈴仙さん、お茶をどうぞ」

すぐ耳元から愛らしい声が。
バッと振り向く。
私のすぐ横でお茶を差し出す妖夢ちゃん。
め、目の前に妖夢ちゃんの顔が。
すぐ至近距離に妖夢ちゃんの顔が!

「あのぉ、やっぱし鈴仙さんの反応がないんですけど?」
「気にするな。その内正気に戻るさ」

・・・ハッ!?
いかんいかん。
せっかく妖夢ちゃんに会えたのにボーっとしたままなんて勿体ない。
私は大きく深呼吸を一つ。
よし、落ち着いた。
私は努めて冷静に。

「お、お、お、おいしいですよ!妖夢しゃん!?」
「いえ、まだ飲んでないのですが・・・」



◇ ◇ ◇



私たちにお茶を差し出した後、一礼して妖夢ちゃんは奥へと消えた。

「落ち着いたかい、鈴仙」
「も、勿論です」
「・・・顔が真っ赤だぞ?」

うぐっ!?
隣では必死に笑いを堪えているナズーリンさん。
もうっ。
私だって失敗したと思ってますよ。
仕方ないじゃないですか。
だって、まさかいきなり妖夢ちゃんに会いに行くなんて思ってもいなかったんですから。
知っているでしょ、ナズーリンさんは私が妖夢ちゃんがお気に入りなことに。
・・・だからこそ、突然白玉楼に行くなんて言い出したんでしょう。
ナズーリンさんはたまに意地悪ですから。

そんなことを考えていると。

「お待たせしてごめんなさい。ようこそ白玉楼へ」

その声とともに現れたのは、この屋敷の当主。
『西行寺幽々子』
うちの姫のような優雅な佇まい(うちの姫は公式の場だけだけど)で現れた亡霊の姫は、深々と一礼をし目の前へと座る。
その横に神妙な表情で控える妖夢ちゃん。
あぁ、そんな妖夢ちゃんもカッコいい。
いいなぁ、幽々子さんは。
朝から晩まで妖夢ちゃんと一つ屋根の下。
ま、まさかお風呂とか就寝も二人で一緒に・・・!

「あ、あの。また鈴仙さんが・・・」
「気にするな。その内正気に戻るさ」
「・・・」

ハッと正気に戻る。
視線。
一瞬だけの鋭い視線。
幽々子さん。
私には分かった。
その視線の意味。
『妖夢は私のものよ』
私は、その視線に負けないように一瞬だけ睨む。
『妖夢ちゃんは渡さない』
好敵手。
やはり最後に立ちはばかるのは西行寺幽々子か。



◇ ◇ ◇



それはともかく。
今回は仕事で来たのだ。
無礼を働くわけにはいかない。
私は幽々子さんに資料を見せて、説明をする。
そんな私の説明を聞いて。
幽々子さんは、ある一つの場所について話し始めた。



◇ ◇ ◇



「これは凄いですねぇ・・・」
「あぁ、まさかうちの寺以外にもこんなところがあったとは」
「・・・」

私たちは、幽々子さんに教えられたポイントへと足を運んだ。
人里からずっと遠くにあった場所。
それは廃墟。
なんでも、昔人が住んでいた場所らしい。
とある事件で、その人里は幻想郷から消えた。
そして、その奥にあるのは墓地。
広大な墓地。
荒れ果てた墓地。
その光景を見ただけで、胸の奥から何かこみあげてくるものがある。
寂しい。
誰にも手入れされていない。
忘れられた場所。
忘れ去られたものが入り込んでくる幻想郷において、さらに忘れ去られたモノはどうなってしまうのだろうか?

「・・・妖夢」

ナズーリンさんの声に、ふと妖夢ちゃんの方へと向く。
実は、幽々子さんが妖夢ちゃんにも同行するようにと命じたのだ。
妖夢ちゃんは、二つ返事で私たちと同行した。
そんな妖夢ちゃん。

「ど、どうしたの妖夢ちゃん!?」

震えている。
その小さな身を震わせている。
そういえば、妖夢ちゃんって怖いものが苦手だったっけ?
幽霊とか苦手だったとか。

「・・・違うんです」

ポツリと、妖夢ちゃんの口から漏れる。

「伝わってくるんです。忘れられた場所。忘れられた死者。忘れられた想い。私は半分霊だから感じるんです。ここは、とても悲しい」

そうか。

霊に敏感な体質をしているんだ。
私たちでさえ悲哀を感じるこの場所が、妖夢ちゃんにとってはさらに辛い場所になっているのだろう。
ここで何があったかはわからない。
たぶん、妖夢ちゃんも知らない。
けど、妖夢ちゃんには直感でわかるのだろう。
ここに妖夢ちゃんを連れてきたのは失敗だったんじゃ?
私はそっとナズーリンさんに目配せをする。
しかし。

「行くぞ。鈴仙、妖夢」

ちょ、ちょっと待ってください。
この状態の妖夢ちゃんを連れて行くんですか!?
私が抗議の視線を送る。
いくらなんでもそれは可哀そうだ。
せめて妖夢ちゃんはここで待っていてもらうべきだ。
少し睨むような視線を送ると。
一つ、ふぅっとため息をついて。

「こうなることが分かっていて、幽々子はあえて妖夢を同行させたんだ。なら妖夢は一緒に進むべきだ。ここで妖夢を置いて行ったら後悔する。私たちも、妖夢自身も」

そう言って、ダウジングロッドを構え進んでいくナズーリンさん。
何を言っているんですかナズーリンさんは!?
私が抗議の声を上げようとすると。

「・・・行きましょう。鈴仙さん」

ゆっくりと。
本当にゆっくりと歩み始める妖夢ちゃん。
辛そうな表情。
そんな顔が胸に突き刺さる。
でも。
妖夢ちゃんが行くと言ったんだ。
釈然としない気持ちを抱えたまま、私も歩を進めた。



◇ ◇ ◇



奥へと進んでいく私たち。
皆、無言。
ナズーリンさんはダウジングに集中しているから。
妖夢ちゃんはその心境から。
私は・・・。
やっぱしナズーリンさんの意見には賛同できない。
今もどんどん顔色を悪くしている妖夢ちゃん。
ナズーリンさんは、もう少し相手の心をくみ取ってくれると思っていたのに。
そんな複雑な気持ちを抱えながら無言で先頭のナズーリンさんに着いていく。
と。

「反応が近いな。おそらくこの辺りだ」

ナズーリンさんが立ち止まる。
でも。
私はナズーリンさんの言葉も、本来の仕事も頭から離れていた。
目の前には暗い表情をした妖夢ちゃん。
それが辛い。
でも今更妖夢ちゃんに戻れとも言えない。
ずいぶん奥まで来てしまっている。
ここで妖夢ちゃんを一人にする方が危険な気がする。
そんなことを考えていると。

「・・・!これは!?」

突然、妖夢ちゃんが緊迫した表情をみせる。
次の瞬間。

「みんな、避けろ!」

突然のナズーリンさんの叫び声。
その声に顔を前方へと向ける。
視界に移ったのは。
大量に飛来してくる墓石。
な、何!?
突然起こったありえない現象。
だが、いち早く気付いたナズーリンさんの声で咄嗟に避ける。
私のいた場所に突き刺さる重い墓石。
さっと血の気が引く。
こんなものがぶつかっていたら致命傷どころの騒ぎではない。
3人が同時に近くの墓石の裏側に隠れる。

「ナズーリンさん、敵は!?」

こんなことをしてくるのだ。
なにかしらの敵がいるはずだ。
しかし。

「・・・反応が、無い」

苦い顔をしたナズーリンさんが答える。
つまり。

「敵がいないってことですか!?」
「少なくとも、私では確認できなかった」

悔しそうなナズーリンさん。
そんな!?
明らかにこれは敵意ある攻撃。
なのにいないなんて。
そうしている間にも次々と飛来してくる墓石。
必死に身を屈め、相手の攻撃に耐える。
でも、相手が確認できないんじゃ反撃のしようがない。
私たちが何もできずにひたすら攻撃に耐えていると。

「・・・私が、なんとかしてみます」

そういったのは、私の隣にいた妖夢ちゃんだった。
その表情は、さっきの辛そうな顔ではない。
目には強い意志が。
刀を握る手には強い力が。
その手に握る刀の名は。

「白楼剣。私に力を!」

疾風のように飛び出し、攻撃が繰り出されているだろう『何もいない』場所へと飛び込む。
危ない。
無茶だ。
いくら俊敏な妖夢ちゃんといえども。この怒涛の攻撃には。

「鈴仙!援護射撃!」

ナズーリンさんの声にハッとなる。
私はすぐさま飛び出し、指先を妖夢ちゃんに襲い掛かる攻撃に照準を合わせる。
その隣にはナズーリンさん。
彼女もまた、私の隣で迎撃体勢に入っていた。
同時に放たれるスペル名。
渾身の一撃。
そのすべてが。
果敢に突き進む彼女の『盾』となって放たれた。



◇ ◇ ◇



「・・・終わったかい?」

嵐のような攻撃が止まった。
奥に進み、妖夢ちゃんに声を掛けるナズーリンさん。
そこで立ちつくす幼い少女。

「・・・こんなことでしか表現できなかったんです」

ぽつり、ぽつりと。
俯く彼女の足元に、水滴が落ちる。

「辛くて、悲しくて。でもみんなに忘れられて。その感情がこんな形でしか表現できなかったのです。私にはなにもできなかった。悲しみも、辛さも分かち合ってあげれなかった。私にできたのは、斬ることだけ」

じょじょに増えていく水滴。
けど。
それは違うよ、妖夢ちゃん。
あなたが斬ったことで、ここにいる霊は成仏できた。
きっと、ここでずっと思い留まっていたのだろう。
忘れ去られ。
それがいつしか『力』となって暴走して。
そんな『彼ら』を、妖夢ちゃんが解き放ってあげたんだよ。
白楼剣の力だけじゃない。
妖夢ちゃんが込めた、彼らへの『想い』。
幽々子さんが妖夢ちゃんをここへ送ったのは、きっとそういうこと。
幽々子さんの力でもどうにかできた。
これは、妖夢ちゃんへの課題。
半霊として、霊の想いをくみ取ってあげるための課題。
そのことを、ナズーリンさんも薄々感じとっていたのだろう。
ダメだなぁ、私は。
自分の想いだけにとらわれていて、その大切な相手のことについてなにも考えてあげれてなかった。



◇ ◇ ◇



その後、薬草はナズーリンさんが探し当てた。



◇ ◇ ◇



人里。
さっきの場所とはうって変わって、活気に溢れている。
そうか。
『人』がいるっているのはこんなに良いものなんだ。
一つ、教えられたなぁ。

「それでは、私はここで」

そう言って、妖夢ちゃんが一礼する。
今日は本当に妖夢ちゃんがいてくれてよかった。
こんな重要な人物を探し当てるのも、ナズーリンさんの『力』なのかもしれない。

「今回は助かったよ。君がいてくれてよかった」

ナズーリンさんが妖夢ちゃんと握手を求める。
その手を、ぎゅっと握り返す。

「ナズーリンさん。背中を押してくれてありがとうございます」
「なに、ただ妖夢がいないとミッションは成功しないと思っただけさ。礼を言うのはこちらのほうさ」

ナズーリンさんとの握手が終わったあと。

「鈴仙さん」

妖夢ちゃんが、私に手を差し伸べる。

「ありがとうございます。ずっと私を気にかけてくれたのは鈴仙さんです」

にっこりとほほ笑む。

「・・・そんなことないよ。でも少しでも妖夢ちゃんの力になれて良かった」

お互いに、手を交わす。
柔らかい手。
少し冷たく、ほんのり暖かい。
そんな温もりに未練を残しつつ、手を放した。
やっぱし妖夢ちゃんは素敵だ。
あの状態で、あんなに素晴らしいことをやってのけたのだから。
そして、今の妖夢ちゃんはもっと素敵な表情をしている。

「それでは、また。あ、今度何か探しに行くときは私にも声をかけてくださいね!」

そういって、妖夢ちゃんは去って行った。



◇ ◇ ◇



沈む夕日。
人里も人が疎らになってきた。

「それでは、今日はここで。報酬については後日でいいよ」

私はそんなナズーリンさんを見て。

「・・・ごめんなさい!私、ナズーリンさんのことを!」

申し訳なさそうに謝る。
ナズーリンさんは妖夢ちゃんが来た意味を把握して、着いてくるように言った。
それなのに私は。

「いいんだよ」

ただ、それだけを言って立ち去って行った。
その後ろ姿に、もう一度深々と一礼する。
本当に、ありがとうございました。

「あ」

ふと。
遠くから声を上げるナズーリンさん。

「今度3人で飲もう!もしかしたら、これから妖夢とも縁があるかもしれないからね!」

そう言うと、再び背を向けて歩いていく。

「えぇ、絶対に!」



◇ ◇ ◇



夕日を全身に浴びながら、私は帰路につく。
今日は大変だった。
でも、素晴らしい日だった。
そんな小さな幸せを心に。
今日という日を絶対に忘れないと誓う。
「で、師匠。なんでこんな薬草を取りにいかせたんですか?」
「実はね、うちの患者で毎晩夢枕に死んだ家族が現れるって言ってきたのよ」
「死んだ・・・」
「最初は夢かと思ったんだけど。ここって幻想郷じゃない?そういうのもアリかなって。で、もしかしたらその霊と話すことができたらなぁ、って」
「そうすれば、霊も成仏するんじゃないかって」
「そういうことよ」
「・・・それ、誰の助言ですか?」
「さぁ?『霊』に詳しい方、かな?」
「・・・そうですか。では、失礼します」
「ふふっ、おやすみ」
エクシア
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コメント



0.380簡易評価
2.100奇声を発する程度の能力削除
読み終わった後、心に来るものがありました
4.60名前が無い程度の能力削除
うん