「人の気配がしない……宴会にでも出かけたのかしら」
夜の博麗神社は静かであった。常ならば博麗の巫女たる、博麗霊夢がいやいやながらも出迎えてくれるのだが、今宵は出かけているようだ。
「まあ、用があるわけではないのだけれど……」
そう、一人呟いて息を一つ吐く。
「貴女は宴会には参加しないの?」
どこからか、声が聞こえる。ひどく、懐かしい声だ。ごぉと大気が唸り霧が萃まった。
「私は……」
「……はじめまして、山の仙人」
ずきりとどこかが痛む。私は
「はじめまして、私の名は茨華仙……まさか、神社に鬼が蔓延っているとは霊夢は何をしているのでしょう。」
嘘を吐いた。
「今は酒でも飲んでいるんじゃないかな」
鬼は笑って答えた。
「私の名前は伊吹萃香、まさか、仙人と鉢合わせとは」
「鬼が宴会を抜けてですか……伊吹萃香、貴女のことはよく知っています」
ほぅ、と鬼が呟いた。
「人攫いの鬼……百鬼夜行の名を持つ鬼、それが貴女だ」
「私を覚えている人間はほとんどいない、覚えていてくれる人がいて嬉しいよ」
忘れる事など出来はしない。
「それじゃあ折角だ……久々にやり合おうかい?スペルのない遊びを!」
鬼の手が私の襟首を掴み、ぐいっと距離を詰める。初めて、目が会った。
「私が勝てばお前を攫っていく」
「……」
私には答えることなどできない。
「……」
静寂が辺りを包んだ。
「……ふふ、冗談だよ」
鬼は私から手を離すと月を見て語りだした。
「昔を思い出すな……地上にもまだ仲間がいて、隣にはいつもあいつがいた。酒を酌み交わし、人間と遊んで……」
私も覚えている。懐かしい日々だ。
「人と鬼の遊び……鬼が勝てば人を攫い、人が勝てば宝を与える。しかし、かつて人間はその決まりを破り、鬼を葬ろうとした。そして、人間に裏 切られた鬼達は人間を見捨て地上を去った。」
「その通りさ、どうしてあの時、人間は鬼を裏切ったのか長い間答えは出なかったけど。今なら少し……分かったような気がする。」
「え?」
彼女は鬼だ。鬼なのにどうして……。
「悪夢を見る薬を飲んだことがあるんだ。もちろん、ただの、遊び感覚でさ……だけど、夢の中の私は無力で……一方的に叩きのめされる。懇願 も…叫びも、何もかもが届かない。終わる事の無い暴力、蹂躙……そして、彼らの顔は笑っていた」
「まるで、鬼の様に……」
「多分、そういうことだったんだと思う。最初から鬼と人間の間に信頼関係なんて無くて……賢いあいつは気づいていたのかもしれない。だから、 あいつは私達とは一緒には来なかった。鬼を、鬼である事を捨てて……」
鬼は泣いていた。
私は……
「あ、あれ?どうしたんだろう……酒が足りないのかな?本当は、一人になってずっと寂しかった……あの日からずっと酒に酔うことで誤魔化し続 けてきたけど……あいつがいないなんて現実を受け入れたくなくて……一人が、怖くて。何も考えたくなくて……」
私は……!
「はは!いろいろし喋り過ぎたね!飲もう飲もう!」
「貴女がそこまで悲しいと思っていたなら。……きっと、相手も同じくらい悲しんでいたのでしょう」
「……少し冷えてきたね」
「ええ」
「寒い……抱きしめて温めてよ……」
「……私は仙人ですよ……仙人が鬼を抱きしめるなんて……」
嘘だ、私は
「あはははは!確かに。」
「……」
「……駄目、かな。最後に一回だけ……」
「……」
「強く……強く抱きしめて欲し……っ!」
私は萃香を強く強く、抱きしめた……
夜の博麗神社は静かであった。常ならば博麗の巫女たる、博麗霊夢がいやいやながらも出迎えてくれるのだが、今宵は出かけているようだ。
「まあ、用があるわけではないのだけれど……」
そう、一人呟いて息を一つ吐く。
「貴女は宴会には参加しないの?」
どこからか、声が聞こえる。ひどく、懐かしい声だ。ごぉと大気が唸り霧が萃まった。
「私は……」
「……はじめまして、山の仙人」
ずきりとどこかが痛む。私は
「はじめまして、私の名は茨華仙……まさか、神社に鬼が蔓延っているとは霊夢は何をしているのでしょう。」
嘘を吐いた。
「今は酒でも飲んでいるんじゃないかな」
鬼は笑って答えた。
「私の名前は伊吹萃香、まさか、仙人と鉢合わせとは」
「鬼が宴会を抜けてですか……伊吹萃香、貴女のことはよく知っています」
ほぅ、と鬼が呟いた。
「人攫いの鬼……百鬼夜行の名を持つ鬼、それが貴女だ」
「私を覚えている人間はほとんどいない、覚えていてくれる人がいて嬉しいよ」
忘れる事など出来はしない。
「それじゃあ折角だ……久々にやり合おうかい?スペルのない遊びを!」
鬼の手が私の襟首を掴み、ぐいっと距離を詰める。初めて、目が会った。
「私が勝てばお前を攫っていく」
「……」
私には答えることなどできない。
「……」
静寂が辺りを包んだ。
「……ふふ、冗談だよ」
鬼は私から手を離すと月を見て語りだした。
「昔を思い出すな……地上にもまだ仲間がいて、隣にはいつもあいつがいた。酒を酌み交わし、人間と遊んで……」
私も覚えている。懐かしい日々だ。
「人と鬼の遊び……鬼が勝てば人を攫い、人が勝てば宝を与える。しかし、かつて人間はその決まりを破り、鬼を葬ろうとした。そして、人間に裏 切られた鬼達は人間を見捨て地上を去った。」
「その通りさ、どうしてあの時、人間は鬼を裏切ったのか長い間答えは出なかったけど。今なら少し……分かったような気がする。」
「え?」
彼女は鬼だ。鬼なのにどうして……。
「悪夢を見る薬を飲んだことがあるんだ。もちろん、ただの、遊び感覚でさ……だけど、夢の中の私は無力で……一方的に叩きのめされる。懇願 も…叫びも、何もかもが届かない。終わる事の無い暴力、蹂躙……そして、彼らの顔は笑っていた」
「まるで、鬼の様に……」
「多分、そういうことだったんだと思う。最初から鬼と人間の間に信頼関係なんて無くて……賢いあいつは気づいていたのかもしれない。だから、 あいつは私達とは一緒には来なかった。鬼を、鬼である事を捨てて……」
鬼は泣いていた。
私は……
「あ、あれ?どうしたんだろう……酒が足りないのかな?本当は、一人になってずっと寂しかった……あの日からずっと酒に酔うことで誤魔化し続 けてきたけど……あいつがいないなんて現実を受け入れたくなくて……一人が、怖くて。何も考えたくなくて……」
私は……!
「はは!いろいろし喋り過ぎたね!飲もう飲もう!」
「貴女がそこまで悲しいと思っていたなら。……きっと、相手も同じくらい悲しんでいたのでしょう」
「……少し冷えてきたね」
「ええ」
「寒い……抱きしめて温めてよ……」
「……私は仙人ですよ……仙人が鬼を抱きしめるなんて……」
嘘だ、私は
「あはははは!確かに。」
「……」
「……駄目、かな。最後に一回だけ……」
「……」
「強く……強く抱きしめて欲し……っ!」
私は萃香を強く強く、抱きしめた……