Coolier - 新生・東方創想話

ファイブオブアカインド

2011/06/12 21:47:07
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「ねぇお姉様」
「なぁにフラン」
「お外に遊びにいきたいなぁ」
「だーめ」
「なんでダメなの?」
「なんでもよ」
「答えになってないわ!」
「ダメなものはダメ」
「だからなんでなのさ! お姉様たちはいつも遊んでばかりいるのにずるい! この前だってそう、美鈴の偽者が現れて、みんなで遊んでいたのに私だけのけ者で!」
「アレは遊んでいたわけじゃないのよフラン。……これ以上私を怒らせないで」
「……っ! お、お姉さまの馬鹿! もういい!」

全てが紅い紅魔館の地下室。
フランドール・スカーレットは、いつものように姉、レミリア・スカーレットに自らをこの牢獄から出す様頼み込んでいた。
彼女がこの地下室に幽閉されてもう500年近くになる。人間ならば人生を6、7週できるほどの果てしなく長い時間を、彼女はただ意味もなく過ごしてきた。
その500年の中での大きな出来事といえば、紅魔館がここ幻想郷に館ごと移動してきたことと、紅白と白黒の妙な二人が乗り込んできたことくらいなものだ。それも、どちらもここ数年の話である。特に後者に置いては、何百年かもわからない“生きた部外者”との接触であり、フランの外に出たいという願望は、その二人と弾幕ごっこをしてから日に日に大きくなっていった。
だが、現実はそうもいかない。
フランがいくら頼み込もうとも、レミリアは一切首を縦に振らなかった。無理やり出ようものなら雨を降らされ、諦めざるを得なかった。
そんな中、先日美鈴の偽者が現れたという話を彼女は耳にする。そしてそれが原因で大騒ぎになったということも。
フランはそれを気に入らなかった。大騒ぎなら是が非でも混ざって騒ぎたいのに、その出来事があったことすら知らなかった。同じ紅魔館の中なのに、自分はまったく別の場所に一人いるのではないかと考えた。
それからというものの、フランは一日の大半を、如何にして紅魔館から抜け出すかを考えることに費やしていた。

(もうお姉様なんかに頼らない。私は私のしたいようにするんだから!)

次の日の早朝、フランはパチュリー・ノーレッジの居座る大図書館に忍び込んだ。
フランが外に出られない最大のネックが彼女だ。魔法で雨を降らされれば、流れ水が苦手な吸血鬼であるフランは外に出ることが不可能になる。
パチュリーは基本的に夜更かしだ。深夜まで本を読みふけり、日が昇る頃になって眠りにつく。
フランの思惑通り、パチュリーは椅子に座ったまま眠りこけていた。そして机の上には読みかけの本が数冊。

「ごめんねパチュリー。恨むなら性悪のお姉さまを恨んでね」

フランはそう小さく囁き、机の上の本を木っ端微塵に破壊した。
これは保険だった。こうすることで抜け出したことが判明しても、パチュリーの対応は遅れるはずだ。読みかけの本が行方不明となっては、本の虫である彼女は慌てふためいて咄嗟の対応が不可能になる、そう考えた。

「これで準備おっけーだね。ふふふ、お姉様もまさか私が朝から抜け出すとは思うまい」

フランはレミリアの自室から拝借した日傘を取り出した。これがあれば吸血鬼の弱点である日の光もどうにかなる。明るい間はのんびり過ごして、夜が来れば全力で遊びまわろう。そう考えるだけで、フランの顔から笑みがこぼれた。
彼女は、朝日が差し込む二階の窓を開け、最大速度で飛び出した。

何年ぶりか、いやもしかしたら初めて見るかもしれない早朝の外の世界は、彼女の心を躍らせるには十分すぎる美しさがあった。




「うぅ~ん、朝ってのも案外悪くないなぁ」

日傘を差していても、空を猛スピードで翔れば殆ど意味を成さない。案の定フランの透き通るような白い肌は日の光を受けヒリヒリと焼け付け、痛みに耐えかねた彼女は一旦地上に降りた。ここがどこなのかはわからなかったが、それでも紅魔館がある霧の湖からは結構な距離を稼げたはずだった。
フランが降りた場所は、中有の道と呼ばれる三途の川に通じている道だった。いくつかの出店があり、フランの心は期待で膨らんだものの、まだ朝早い時間なので営業はしていなかった。仕方なくフランは中有の道を進み、賽の河原へとたどり着いた。ここで休憩して、店が始まったらまた戻るつもりだった。

「……外の空気は気持ちいいけど、私、結局ひとりだ。誰かいないかなぁ」

フランの目的は外に出ることもそうだが、一番は誰かと楽しく遊ぶことだ。大人しく待てば中有の道の出店は営業を開始するだろうが、それまでにレミリア達が彼女を連れ戻しに来るかもしれない。そう考えたフランは、辺りの散策を始めた。
だが時刻は早朝である上に、ここは三途の河の河原だ。霊魂ならまだしも、生きている人間や妖怪がいるとは考えにくい。
しかし以外にも、その人物は早々に見付かった。

「……美鈴?」

フランがそう呼んだ人物は、大樹の幹に腰掛け眠っていた。和風な恰好をした女性だった。赤髪で体躯も大きく、どこぞの門番によく似ていた。

「うぅ……四季様、北斗百裂拳は勘弁して下さい……」
(寝言……。お昼寝、って時間でもないし、ここに住んでる人なのかな……。おっぱい大きいなぁ、私も大人になったらああなれるのかな)

フランは大股開きで寝ているその人物を、しゃがみ込んでまじまじと観察していた。以前出合った腋を出した巫女と金髪の魔法使い以来の知らない人間だ、気になって仕方がなかった。

(あ、ぱんつ見えてる。……お、大人ぱんつだ……! 咲夜も似たようなぱんつ持ってたなぁ。私も欲しいなぁ)

足を開いてパンツ丸見えのまま熟睡しているその人物は、一向に起きる気配が感じられない。フランの子供心が疼く。

(……太ももをくりくり)
「きゃん! ……う、うへへ。やめてくださいよ四季さまぁ」
(……起きないなぁ。うふふ、どうしようかな。……いたずらしちゃえ!)

熟睡している大柄な彼女は、赤い髪を二箇所結っていた。フランはその髪留めの“目”を指でつまみ、それを音もなく粉々に破壊した。
ウェーブがかかった赤い髪がはらりと肩に下りた。

(ますます美鈴っぽくなったな……)
「んぇ……?」
「あ、起きた」
「うおわっ! だ、誰だいあんたは!」
「あ、えっと。私、フランドール。フランドール・スカーレット」
「スカーレット……? どこかで聞いた名前だね。……まぁそれは置いておいてだ。あたいになんか用かい?」
「えーっとね……」

フランは、美鈴に似た女性に自分の素性と、ここに来た理由を簡潔に話した。普通の人間ならば、自分が紅魔館の主の妹で、世にも恐ろしい吸血鬼であると知ったならば、慌てふためき逃げ出すだろう。だか、彼女なら逃げずに話を聞いてくれる、そう直感したのだ。
そして、彼女は逃げることも恐れることもせず、ただニコニコしながらフランの話を聞いてくれた。

「ふ~ん、お前さんも難儀だねぇ」
「お姉さん、不思議な人ね。私が怖くないの?」
「ん~、まぁねぇ。あたいは死神だからね。どっちかってとあたいも怖がられる存在なのさ」
「死神! お姉さん死神なの? 死神ってアレでしょ。死ぬぜぇ~、俺の姿を見た者はみんな死んじまうぞぉ~! とか言うんでしょ? あ、私もやばいじゃない!」
「……あんた、そんな話どこで聞いたんだい?」
「パチュリーのでぃーぶいでぃーとかいうのを借りて見たの」
「……よくわからんが、姿を見られただけで殺したりなんかしないから安心しな」
「そっか、全力で迎撃したかったけどちょっと残念。えっと……」
「あぁ、まだ名前を言ってなかったね。あたいは小野塚小町。さっき言ったとおり死神さ」
「えと、小町……って呼んでいいのかな?」
「あはは、構いやしないよ」

ぱああとフランの表情が明るくなった。呼び捨てできるような関係の相手など、紅魔館の面子を除いては初めてだ。小町はフランの笑顔を見て、自らも暖かい気持ちになれた。なんだ、紅魔の吸血鬼の妹と聞いてどんな問題児かと思えば、ただの可愛い女の子じゃないか。そう思った。

「しかし解せないねぇ。なんであんたみたい子が幽閉されるんだい?」
「お姉さまが言うには、私は情緒不安定だから危険なんだって。……確かに怒りで自分を忘れて大暴れしちゃうことはあるけど」
「暴れるっていったって、お前さんの姉貴だって吸血鬼だろう? あそこには時間を止めるメイドだっているし、そんな大事にはならないだろう」
「問題は私の能力にあるの」
「能力?」
「そう。お姉さまはこれが危険すぎるって。例えば……あ、あれを見て」

フランが指を差した先には、使い古されたボロボロの船があった。

「あ、あれはあたいの……」
「私にはね、そのモノの目が見えるの」
「モノの目?」
「そう、そのモノの最も緊張した部分。そしてそれを自分の手の中に持ってくることができる。小町には見えてないだろうけど、今あの船の目は私の手の中にある」
「それで?」
「それをこうすれば」

フランは、何も持っていない右手をぎゅっと握り締めた。その瞬間、河畔に泊めてあったボロボロの船は、音を立てて崩れ去った。

「これが私の“ありとあらゆるものを破壊「あああああああああああああああああ!!!」
「え? なに? 壊しちゃまずかった?」
「あ、あたいの船が……」

フランの顔から血の気が引いた。せっかく仲良くなれそうになったのに、自分の能力のせいでそれが台無しになる。
せっかく紅魔館から抜け出して、この人と出会えたのに。
せっかく友達ができそうだったのに。

「ご、ごめんなさい……」
「いや……。グッジョブ!」
「……え?」

そう言って小町は、真っ青になったフランに向けて親指を立てて見せた。

「いやぁ~、あの船は上からの支給品でね。ボロボロだけど仕方なく使ってたんだ。それが壊れたとなれば新しい船を支給されるまでしばらく休みだし、新品の船も手に入る! 一石二鳥ってやつさ!」
「あ……」

フランは戸惑った。ありとあらゆる物を破壊する程度の能力、気に入らないモノの息の根を止めるにはもってこいの能力だが、フランはあまりこの能力が好きではなかった。こんな力があるせいで、自分は閉じ込められた。こんな力があるせいで、誰とも会わせてもらえなかった。そんな忌むべき能力を、小町は褒めている。500年近く生きてきて初めての経験だった。

「う、うぇぇ……」
「お、おいおい! なんで泣くんだい?」
「……だって、だってぇ。うぅ、うあああ」

小町は、フランの小さい身体を強く抱きしめた。

「……フラン、泣くんじゃないよ。あんた、この能力のせいで苦しんできたんだね。でもね、どんな能力も使いようなのさ。あんたの能力は、人の役に立てるものだ。困っている人を助けられる。……まぁ、さっきのあたいの場合はちょっとダメな理由だけどね。あはははは」
「小町、小町ぃ……。私は、私を肯定してくれる人と初めて会った。こんなに嬉しいのは初めて……!」
「いやはや、なんだか照れるねぇ」




「ここは涼しいね」
「ま、河の畔だからね。近くに水があるだけでだいぶ違う」

二人は、小町が眠っていた大樹の下で、すぐそばの川を眺めていた。川といっても、その川幅はとてつもなく広く、向こう岸を伺うことはできない。まるで湖のようだ。

「そういえば、小町はどうしてここで寝ていたの? ここが家なの?」
「おいおいあたいは浮浪者じゃないよ。寝てた理由は、まぁ……。ちょっと仕事が忙しくてね、休憩してたのさ」
「お仕事?」
「そう、あたいは船頭をやっててね。死んじまった奴の魂を、向こう岸、つまり彼岸まで送り届ける仕事さ」
「ふーん。じゃあ、私が死んじゃったときも、小町が私を向こうまで連れてってくれるの?」
「ま、そのときまであたいが幻想郷の担当のままだったらね」
「そっか。うふふ、楽しみだな」
「おいおい、死んじまうのを楽しみにする奴があるかい。それにフラン、あんたはまだ若い。それこそ何十年も先の話じゃないか」
「えー、私まだ500年ぐらいしか生きてないのに。あと100年も生きられないのはやだなぁ」
「あぁ、そういえばあんたは吸血鬼なんだったね……」

そんな他愛のない会話をしているうちに、太陽は空高くへと昇っていった。人々の生活が始まる時間帯だ。

「さて、これからどうしようかね。フランのおかげで仕事は休みだし、どっか遊びにでもいくかい?」
「私、あっちにあった出店にいってみたいな。あ、でもその前に……」
「その前に?」
「小町と弾幕ごっこがしたい!」

フランは、最上の笑顔を小町に向けた。
小町は特別弾幕ごっこが好きというわけでもなかったが、この笑顔を見せられてはもう断ることはできなかった。

「ふむ、あまり寝すぎても身体がなまっちまうし、いっちょやるか!」
「やった! 久しぶりの弾幕ごっこ! お外でやるのは初めてかも!」
「あはは、やるからには手加減しないからねフラン。こう見えてもあたいはけっこう強いよ」
「うん! 全力でやるからすぐに壊れないでよね、小町!」
「……ちょっと手加減してくれるとお姉さん嬉しいかな、あはは」

観戦者はおそらく霊魂のみであろう三途の川の畔で、悪魔対死神の弾幕ごっこの幕が切って落とされた。

(さて、どうするか……。もう見た目からして手加減とか知らなそうだしなぁ。だがその分動きは単純、一直線。そんな気がする、きっとそう!)
「ということでまずは様子見させてもらうよ! 投銭「宵越しの銭」っ!」

「わぁ! 小町はお金を投げるんだね、おもしろーい! なら私は禁忌「レーヴァテイン」っ!」

剛剣一閃。フランが振るう紅い長剣は、小町の銭型弾を一振りで吹き飛ばし、そのまま十文字斬りの要領で天高くから振り落とされる。

「おおうっ!」

紙一重で剣撃をかわす小町。そのまま振り下ろされたフランのレーヴァテインは、砂利を地面ごと削り飛ばし、大地に大きな傷を残す。

「……うわぁ。こりゃーちょっとまずいねぇ」
「あーあ、外れちゃった」
「なんともはや……。仕方ない、作戦変更だ。一気に決めさせてもらうよ! 死符「死者選別の鎌」っ!」

小町が自慢の大鎌を振り下ろす。フランはそれを警戒するが、何も起こらない。

「えっ? あれ?」
「残念、上さ」
「……あっ」

小町がニヤリと笑みを浮かべたその瞬間、フランの頭上から紫色の閃光が降り注ぐ。
閃光は大きな爆発音を轟かせ、地面を深く抉った。

「ふぅ、あたいの勝ちだね」
「あははは、すごいすごい!」

「あ?」

小町のすぐ後ろで、誰かが小町を褒め称えた。
小町は思う。死者選別の鎌の直撃を受けたフランは、死ぬことはないにせよ、あの地面のくぼみの中で満身創痍のはずだ。
今この場所に小町とフラン以外の“生物”は存在しない。寸前でかわされた? いや、確かに直撃したはずだ。視力には自信がある。
では今彼女の背後で、無邪気だが実に不気味な笑い声を上げているこの人物は、いったいどこの誰なのだろうか。

「フラン……。馬鹿な、確かに直撃したはず」
「うん、確かにやられたわ」
「でも残念でした。それは私の分身」
「うふふ、次は私の番だね」

「……参ったね、こりゃ」

小町は、三人のフランドールに囲まれていた。

「「「フォーオブアカインド」」」

悪魔対死神の暗黒弾幕ごっこは、悪魔の勝利でその幕を閉じた。




「いやぁ、あんたみたいなちっちゃい子に負けるとはねぇ」
「身体の大きさじゃ勝負は決まらないわ。もしそうだったら紅魔館の主は美鈴になってるもの」
「こりゃ口でも敵いそうにないね。しかしまぁ、フォーオブアカインドだったかい? ポーカーの役だね」
「そうよ。咲夜が名前を付けてくれたの」
「あー、あのメイドか。フォーオブアカインドねぇ……フランの分身はさ、フランを含めて4人までが限度なのかい?」
「うん。あれすごく疲れるし、連携を取るのは4人が限界かな」
「そうか……。うん、ちょっと面白いこと思いついたぞ」
「面白いこと?」
「あぁ。あたいの能力は、距離を操る程度の能力。それのちょっとした応用で……よっ」

フランの目が点になる。すらりと長い小町の脚が、フランと同程度までみょんと縮んだ。

「うわぁ……」
「おいおい変なものを見るような目で見ないでおくれよ。……確かに中途半端だと気色悪いけど」

続けて小町は、腕の長さもフランと同じ程度の長さに縮める。手短足短さまである。

「指先と肩までの距離を操る。同じように髪の長さも……」
「わぁ、なんかスパゲッティを殴って原材料別のところまで戻すみたいな無理やりな能力の使い方だね!」
「……妙な例えをするね」
「パチュリーの漫画に描いてあったの」
「変な魔女だねあいつも。まぁそれで、だ。こうして顔のパーツの距離と、服の裾と裾の距離をいじくれば……」

なんとも不思議なことが起こった。小町の身体は色の違いと帽子がないことを除けば、フランと寸前違わぬ姿に変貌した。

「うわぁ、すごい! 小町が私になっちゃった!」
「あっはっは。面白いだろう? 帽子はさすがに無理だが、翼なら服の生地を伸ばして形にできる。そしてその面白いことってのはこれからさ」
「なにするの?」
「ファイブオブアカインドって知っているかい? フォーカードとジョーカーを組み合わせた、最強の役さ。フランのフォーオブアカインドに、ジョーカー、つまり死神であるあたいの連携を加える。五味一体の友情スペルカードだ」
「友情スペルカード……」

友情、という言葉を、フランは生まれて初めて耳にした。生まれてこの方友達などできたこともないフランにとって、それがどれだけ素敵で、どれだけ嬉しい言葉だったのだろう。
フランは小町に満面の笑顔を見せた。

「すごい! 友情スペルカード! わぁ、とっても楽しそう! 小町、すぐ練習しよう? きっと最強のスペルカードが出来上がるわ!」
「おうよ! あたいとフラン、最強コンビの結成だね!」

一時間ほど経過しただろうか。三途の川の周辺は、それはそれは見るも無残なほどにボロボロになっていた。

「完璧だ……」
「うん、今のはぴったり合ってた!」
「あははは! 凄いよフラン! これなら四季様でもケチョンケチョンにできそうだ!」
「しきさま?」
「あぁ、四季映姫様。あたいの上司さ。厳しい人でね、小言が多くて、いつもあたいに仕事クビにするぞってプレッシャーかけてくるんだよ」
「ふーん、なんかお姉様みたい。嫌な人ね」
「嫌な人……か。フランは、姉貴のこと嫌いなのかい?」
「……わかんない。でもお姉様は私のお願いを何ひとつ聞いてくれない。私がお姉様を嫌いじゃなくとも、きっとお姉様は私のことを嫌ってるんだわ」
「フラン……」
「ねぇ小町、あっちの出店にいきたいな! 連れてってくれる?」

フランがそう言って、腰を上げた瞬間だった。

「フランーっ! こんなところで何してるのーっ!!」

「えっ? ……あぁーっ!」

「やっと見付けたわよフラン……。勝手に屋敷を抜け出してっ! あんた自分が何をしているかわかってるの?」

紅魔館の主でありフランの姉、レミリア・スカーレットが、その従者十六夜咲夜と共に、三途の川に降り立った。
ずっとフランを探し回っていたのか、その顔は吸血鬼という文字通り鬼の形相と化していた。

「……美鈴? なんであなたまでここに」

咲夜が言う。無論この美鈴というのは髪を下ろした小町のことだ。

「え? あたい?」
「……あぁ、あなた以前会った死神ね。紛らわしい髪型しないでちょうだい。また美鈴が増えたのかと思ったわ……」
「髪型って……あ! あたいの髪留めがない!」

緊張感のない会話をする二人を余所に、レミリアとフランの間に緊迫した空気が流れる。

「お姉様……その」
「言い訳は屋敷で聞くわ。……まったく、どれだけ私の顔に泥を塗れば気が済むのよあんたは! ほら、早く帰るわよ!」
「……嫌だ」
「何ですって?」
「嫌だ! 私は帰りたくない! 私はもっと小町と遊びたいっ!」
「ふざけないで! あんた自分の立場わかってるの? あんたみたいな愚昧を持ったおかげでどれだけ私が苦労したと思ってるのよ!」
「……っ!」
「さぁ、はやくこっちに来なさい。帰ったらだたじゃおかないからね」
「ううっ……。はい……」

「待ちなよ」

姉の威厳に負け、力なくレミリアの下に足を進めるフランを、小町の一言が止めた。

「……死神風情が口を出していい問題ではないわ。去りなさいな」
「そういうわけにはいかないね。フランはあたいの大切な友達だ」
「小町……」

フランが泣きそうな表情で小町を見る。小町はそれを微笑みで返す。

「もう一度言うわ。あなたには関係ない、私を怒らせる前に消えることね」
「じゃああたいももう一度言おう。フランはあたいの友達だ。そのフランを泣かせる奴は、例えそれがフランの姉であろうと黙っちゃいれないね」
「うるさいな! これは私達姉妹の問題なの! それ以上部外者が口を出すと本当に殺すわよ!」
「やれるもんならやってみな! ……なぁ、何故フランに自由を与えないんだい。確かに彼女の能力は危険かもしれない。だけどあんたも姉なら、フランを閉じ込めるんじゃなくて、清く生きれるよう、きちんと教育してやるのが一番じゃないのかい?」

「知った風な口を……っ! フランの心は不安定なの! それができるならとっくにそうしてるわ!」

「その環境がフランの心を蝕んでいるんじゃないかと言っているんだッ!」

小町の怒号に、レミリアが怯む。レミリアの中にも、小町と同じ気持ちが存在しているのか。それは彼女にしかわからない。

「貴様……っ!」
「なぁ、紅魔の吸血鬼。もうこれ以上の押し問答も面倒だ。ここは幻想郷さ、幻想郷らしくどちらの主張が正しいか決めようじゃないか」
「……弾幕ごっこね。いいわ、やってやろうじゃない」
「そうこなくっちゃね。……それでだ、せっかく4人の面子が揃ってるんだ、ただの弾幕ごっこじゃ面白くない。あたいとフラン、お前さんとそこのメイド。先に一人でも落ちた方が負けの、2対2の変則マッチってのはどうだい?」

小町の提案に、レミリアが高笑いで返す。

「2対2ぃ? あっはっは! いいわねそれ、面白いわ! 今日会ったばかりのあんた達二人と、主と従者である私と咲夜。それで勝てると思ってるんだから面白いわ。咲夜、それで構わないわね?」
「仰せのままに」
「決まりだね。そっちが勝ったらフランには大人しく帰ってもらう。あたいらが勝ったら、フランを外で遊ばせてやれ。面倒はあたいが見てやる」
「えぇ、構わないわ。私達が負けることなんてありえないもの」
「ふん、あとで吠え面かくんじゃないよ! さ、いこうかフラン」
「……うんっ!」

本日二本目の弾幕ごっこは、永夜異変以来のタッグマッチとなった。

「さぁ最初から飛ばしていくわよ咲夜! 紅符「スカーレットシュート」っ!」
「お任せ下さいお嬢様。奇術「エターナルミーク」!」

紅い光弾と銀のナイフの弾幕が、フランと小町に降り注ぐ。その弾幕の厚さはさすがは紅魔館のツートップといったところで、無傷で抜け出すのは困難だ。

「ならばっ! 霊符「何処にでもいる浮遊霊」!」

小町は幾多の浮遊霊を呼び出し、巨大な壁を形成する。浮遊霊の壁はレミリア達の弾幕を受け流した。

「続けていくよ! 死歌「八重霧の渡し」! 乗りな、フランっ!」
「うんっ!」

八重霧の渡し。船を作り出し突進するスペルカードだ。小町は船の先端にフランを乗せ、猛スピードでレミリア達の下に突っ込む。
レーヴァテインを握ったフランが、スピードに乗った船から飛び出し、突きを放つ。

「やああああっ!」
「そんなものがっ!」

フランの突きを、レミリアが切り払う。
神槍「スピア・ザ・グングニル」。神々しくも禍々しいその神槍は、破壊の魔剣を持つフランと対になるに相応しい美しさを持っている。

「ふんっ! 姉より優れた妹が存在するわけないでしょう!」
「うふふ、そうかな」

フランがそう小さくつぶやいたその刹那、フランの帽子が切り裂かれ、空に舞う。そしてそれと同時に、レミリアの白い頬に切創が現れ、紅い血が流れた。

「なっ、く……。この……よくも私に傷をーッ! 咲夜ッ!」
「はっ」

傷を付けられ、激昂したレミリアの周囲が、紅いオーラに包まれる。
同時に咲夜が能力を発動させ、レミリアの速度を加速させる。

「受けなさい! スペクタクルハイスピードスペシャルマッハドラキュラクレイドルゥゥゥ!!」

超スピードの紅色の弾丸が、フランに向かって突っ込む。

「くっ!」

先の小町戦と同じ要領で、寸前のところで分身し回避した。だが紅の弾丸と化したレミリアは、その動きを停止するどころか、慣性の法則を無視しているかのような動きで直角に曲がり、フランの分身を消し飛ばす。

「あはははは! 私があんたのそのスペルカードをどれだけ見ていると思っているの! まずは1匹、そして2匹っ!」

唸りを上げて空を縦横無尽に飛び回るレミリア。
フランの分身は次々に撃破され、残るは初撃を回避した反動で、空中でバランスを取るので精一杯の本体のみとなった。

「3匹目……っ! そしてフラン、あんたで最後よっ!」

レミリアは、フランの本体の前で停止し、自らの身体に纏ったオーラを吹き飛ばした。その手にはグングニルが握られていた。
全開にテイクバックを取り、今まさに神槍がフランの身体を貫こうとしたその刹那。

フランはとてもとても小さく、ニヤリと笑った。

「うふふ。そう、私のフォーオブアカインドは4体。そう“私のフォーオブアカインド”は」

「“私の”……?」

「ひっかかったね、お姉様」

レミリアの背後に、それは居た。
大鎌を振りかぶる、蒼いフランドール・スカーレット。

「5人目の……!? 馬鹿なっ!」

「「ファイブオブアカインド!」」

漆黒の大鎌と真紅の魔剣の剣閃が、美しい軌跡を描き、交差した。




時刻はまもなく正午にさしかかろうという頃、三途の川の畔では、悪魔が二人と、死神とメイドという奇妙な集団が鎮座していた。

「さぁ、約束は守ってもらうよ」
「……好きにしなさい」

ボロボロになったレミリアの下に、フランが心配そうな表情で駆け寄る。

「お姉様……」
「フラン、ごめんなさい。この際だから全て白状するわ。……あの死神の言っていたこと、その通りなのかもしれない。あなたの心を壊してしまったのは、私なのかもしれない」
「お姉様、ううん、いいの。私も悪かったから。私、自分のこの力の使い道を、わかってあげれなかった。嫌ってた。弾幕ごっこで相手を壊すことと、怒りを紛らわすことにしか使えなかった。でも、今日小町に教わったの。どんな力も使いようだって。この能力は誰かの役に立てるって。私、これからはこの力をお姉様や紅魔館のみんなのために使いたい」
「フラン……。わかった、私はフランを信じるわ。これからは一緒に遊びにいきましょう」
「お姉様……うんっ!」

スカーレット姉妹は、静かに、それでいて力強く、硬い握手を交わした。

「うんうん、やっぱり姉妹はああでなくっちゃねぇ」
「世話になったわね。今日の出来事はお嬢様にも妹様にもこれ以上ない良い経験になったわ」
「あたいも楽しかったし、お互い様ってことで」
「そう。でもまさか私とお嬢様のコンビネーションが破られるとはね。ファイブオブアカインド……だったかしら?」
「おおさね。4人のフランと死神のあたいのコンビネーション、絶妙だっただろう?」
「そうね、見事なものだったわ。でもひとつ気になるところがあるんだけど……」
「気になるところ?」

「トランプのジョーカーって、“死神”じゃなくて“道化”のことよ」

「…………」

小町は、無言で地面に膝をついた。その姿はまさしく“道化”と呼ぶに相応しい姿であったという。




「あっ、小町! あっちのお店はなーに?」
「はぁ……」
「むー、なんか小町元気ないよー」
「あはは、放っておいておくれ……。あたいは道化だったのさ……」
「道化? 小町は死神でしょ?」
「ねぇねぇフラン、あのお店見て! 金魚がいっぱいいるわ!」
「えっ? あ、本当だ! ほら、小町も一緒にいこうよ!」
「あ、あぁ……」

「やっと見付けましたよ、小町。またどうせどこかに隠れてサボっているのかと思えば、まさかこんな堂々と出店めぐりをしているとは」

「……あ」

「ん? お姉さんだーれ?」
「私は四季映姫・ヤマザナドゥ。そこのサボタージュ死神の上司です」
「四季映姫……? あ、小町がいってた嫌な人!」
「……ほう。それが小町の本音ですか。いい度胸ですね」
「ねぇ小町、またタッグマッチしようよ! この人をファイブオブアカインドでやっつけよう! ……ってあれ? 小町どこいったのー?」

「フランーっ! また遊ぼうなー! 今度はあたいが紅魔館にいくよー!」

「あ、もうあんな遠くに」
「こらぁー! 待ちなさい小町ーっ!」

「四季映姫もいっちゃった……。ふふっ、外の世界って面白い人が多いなぁ」

「ちょっとフランー? 早くこっち来なさいよー!」

「うんっ! 今いくよお姉様!」





-Fin-
若干間が空きましたが三作目です

小町もフランも特に好きなキャラって訳でもなかったんですが、書いてるうちに愛着が湧いてきてしまいました
これがSS書きの醍醐味かな(キリ

ちなみに続編というわけではありませんが、前作である作品集145・美鈴対メカ美鈴の後日のお話となっております
物語的な繋がりは特にありませんが、もしこのSSを読んで興味を持っていただけたなら一度目を通してみて下さいな

ではまた次のお話でお会いしましょう
怒りの王子
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コメント



0.670簡易評価
3.80奇声を発する程度の能力削除
ファイブオブアカインド…この発想は無かったw
4.80名前が無い程度の能力削除
ウ○ングやらジ○ジ○やらww
6.80愚迂多良童子削除
図書館にジョジョあるんだw
組み合わせが意外でしたね。
11.70名前が無い程度の能力削除
面白かったけどレミリアとの和解あたりの展開が早すぎるかな~っと思いました
17.60名前が無い程度の能力削除
うん