その夏。幻想郷にUSA版ゴジラが現れてから一週間が経った。
そろそろ忘れられる頃合いのモノは大概流入する幻想郷であるから、逆輸入ジャパニーズドラゴンが流入しても、然したる混乱はみられなかった。しかし山の風祝東風谷早苗は、放射熱線を吐かないゴジラはゴジラじゃないと憤慨し、これを討伐に当たるも、敢え無く踏みつぶされ頭を食いちぎられる寸前、神様達からいざという時は使いなさいと預かっていた宝玉を投げつけて命からがら逃げ出す始末であった。後にそれが神の宝玉ではなくて肥やし玉であると聞かされた早苗はエンガチョを切られ、三日ほど泣き晴らしたあと神様二柱を諏訪湖の湖底に沈めるという暴挙に出て、現在も守矢神社は早苗が君臨している。
と、基本的にそれはどうでも良いのだ。八雲紫は、巨大なイグアナを上空から見降ろしながら、これを如何にするかと考えていたのだ。紫のスタンスは、来るもの拒まず。厄介な物が現れたとしても、それもまた幻想郷の運命だろうと一種の達観を持っている。それが巨大イグアナだろうと、本物の巨大怪獣であろうと、核ミサイルであろうと、カリスマ独裁者であろうと、怪しげな主義主張だろうと、来てしまったものは仕方が無いと考えている。
自ら手を下すべきだろうか? こいつは無性生殖で、卵を産みまくって増えまくる。放射熱線よりよっぽど厄介である。こんな冗談のような結末を幻想郷に与えるべきだろうか。
これが活動を始めたのは二日前からだ。次第と人里にも近付いてきている。卵が孵れば取り返しもつかないだろう。
首を振る。来たものは仕方が無い。爆破オチよりも余程冗談になるだろうとして、紫は憎たらしい巨大イグアナに背を向けようとした。その時である。
「なにこれ。卵? ねえ、大ちゃん」
「卵……にしては、大きいよねえ?」
「凍らせてみようか、そうしようか」
「ってもう凍らせてるし!! しかも全部!!」
「これ蹴って遊べるかな? あ、割れた。あはは、パリンパリンって、良い音ね!!」
「……――」
「大ちゃん?」
「チルノちゃ……う、後ろ」
「なによさ、デカイイグアナでも居た見たいな顔して」
「どんな顔それ……でも……に、逃げ……」
紫の足もとでは、妖精たちが騒がしかった。妖精の戯れなど、見ていて大して面白くはなかったが、チルノが丸ごとイグアナに飲み込まれた所を見て、思わず頬を釣り上げる。これは面白い事になるかもしれない。
どうせ死んでもしばらくすればスポーン大復活を遂げる妖精であるから、その命は大概安い。死んだかとも思ったが、どうやら腹の中で暴れているらしく、イグアナがもんどり打ってあちこちに体をぶつけ、挙句逃げるようにして走り出した。そちらは里である。
地響きをたて、木々をなぎ倒し、巨大怪獣は森を抜け、里の入り口にまで姿を現した。久々の恐竜だっぺ、三途の川にも似たようなのが泳いでたな、などとノンキな事を言う幻想人類達であったが、幻想郷産とはだいぶ勝手の違う怪獣の挙動に、やがてどよめきたつようになる。
怪獣は里に張られた軽微な結界などモノともせず踏み越え、田畑を踏みつぶし、やがて店の建ち並ぶ商店街にまで差し掛かる。ここまでやられて黙っている里人達でもなかったが、妖怪退治とはあまりにも訳が違う。呪殺も真言も祝詞も刀も矢も槍も、まるで効力がない。頑丈さは折り紙つきだ。
騒ぎを聞きつけた上白沢慧音が奮起するも、力押しで倒せる相手でもない。本当に冗談のような悲劇だと、慧音は眼前に迫る大口を見つめながら諦めた、次の瞬間。
再び怪獣はもんどり打ち、地面に倒れ、動きを止める。周囲を突如として冬のような寒さが襲い、後に怪獣は、腹から爆発して粉々に砕け散ったのだ。
「アイシクルフォールも、流石に腹の中にぶちまけられたら、避けようがない……わよねえ」
驚くべきは数十メートルにも及ぶ巨大生物を一撃で凍らせ、周辺を冬にしてしまう程の、その威力。死の間際、余程の恐怖から覚醒したか、はたまた最後のともしびか。
やがて、爆散した煙の中から、妖精の少女が現れる。その顔は……凄まじいまでの達成感をたたえていた。無傷である。
チルノという妖精は、八雲紫が知る限りの頃からチルノであった。その性格、印象、口調、全てがチルノである。妖精がスポーンした場合、多少、何処かに違いは観られるものなのだが(妖精が自然の権現である為、環境の違いが影響するのだろう)、チルノはチルノであった。
考えられる所で行けば、これは恐らく、ずっとオリジナルなのだろう。
『あたいが倒しました』というドヤ顔は、普段ならウザったいだけなのだが、この時ばかりはチルノも里人から大賞賛される事になった。妖精なのに凄いな、超凄いな、里の救世主だな、チルノちゃんちゅっちゅぺろぺろ。などなど。
「え、えへへへへ……」
人から褒められる事などなかった馬鹿だったが、流石に照れという感情もあるのだろう。人々からもみくちゃにされ(数人シモヤケしたが)たチルノは、逃げるようにして里を去って行った。
「ねえ、チルノ」
「ん? あ、ん? だれ?」
「貴方のお姉さんよ」
「あたいおねえさん居たんだ……似てないわね!」
「冗談だけれど、お手柄ね?」
「冗談なのかお手柄なのかどっちかにしてよ」
「どちらかといえばお手柄ね?」
「あー、うん。その、あたいほら、強いからさー。つい、強そうな奴みると、倒してみてくなる? みたいな?」
「そう。これからちょくちょく、里に顔を出してみるといいわ。きっと、みんながご褒美をくれるから」
「人間と仲良くとかあんましたくないけど、お菓子とか貰えるかな」
「おねだりしたら貰えるわ。氷砂糖とか」
「あれ不思議なのよさ! 貰えるんだ、へえーー」
やけに無邪気な妖精の頭を撫で(シモヤケに注意しながら)ながら、このような事もあるのだと、紫は感心する。やはり自分が手を下すまでも無かった。幻想郷の運命はそれこそ、幻想郷の住人に任せれば良いのだ。八雲紫という妖怪は、その興亡を見守るだけ。
ただ、少しぐらい弄っても良いだろう。それにこれは、彼女が、チルノが起こした、一つの起点である。そこに少し調味料を振りかけるぐらいの事をしても、誰も咎めはしない。
意味や原因、それらは何でも良い。多少冗談らしい方が、こいつらしいと、紫は思った。
1、その過程
金髪の姉らしき人物に遭遇し、その助言を受けたチルノは、言う通りに数日後、里へと赴いた。あまり人間なぞに近付かないチルノは、おっかなびっくり里を行く。大体、妖精といえば里での評判など悪いに決まっているのだが、当然チルノはそんな事は知らない。個人的に苦手なだけである。石は当たると痛い。
某三匹組妖精の御蔭で、チルノが今しがた差しかかった商店の店主の飯館岩男氏(59歳)などは、妖精を見つけ次第お札を張りつけた石を投げつけるのだが、チルノを見た店主(59歳)がとった行動は、お札では無く包み紙に包まれたお菓子を提供するというものであった。名前の通り厳つい顔を布袋のように綻ばせて、まるで孫にお菓子でもやるようにするのだ。ビビリまくるチルノだったが、それで終わりではない。
商店街の端から端まで歩くと、なんと手では持ち切れない程のあれやそれの提供を受けたのだった。
面白い事に、数人は手を合わせていた。
「あたい、お地蔵さんじゃないよ?」
と、近くに寄って来たお姉さんに、今しがた爺様婆様から拝まれた事実を教えると、次のように答えてくれた。
「何言っているの。上白沢さんから聞いたわ。里の為に、あの怪獣の卵も駆除してくれたのでしょう? 守矢の風祝は逃げるし、紅白の巫女は顔すら出さないし、里の危機を救ったのは貴女なのよ。ところで御名前はなんていうの?」
「チルノだけど」
「チルノちゃんっていうの。可愛いねえ。偉いねえ。そうだこれからお姉さんとちょっとそこまで……」
なんだか状況を説明してくれる代わりに怪しげな空気放つお姉さんに危機感を覚えたチルノは一目散に逃げ出すが、日頃人間なんぞ石を投げるのが仕事だと思っていたチルノからすれば、とても新鮮みのある体験であったのだ。
戦利品を両手に抱え、自宅(紅魔湖近くの総氷作りワンルーム)に戻ったチルノは、そこでもまた不思議なものを眼にする事になる。
「……あたい、お地蔵さんじゃないんだけどなあ」
どこから聞き付けたのか、誰が置いたのか。解りもしないが、自宅前には御供え物が如き食料が山となって籠を埋め尽くしていた。好物の氷菓子から、見目麗しいもとい毒々しい色のゼリー、チルノの顔を象った創作和菓子や、根物葉物各種野菜と統一感は皆無だが、様々と詰め込んである。
「大ちゃん」
「あ、チルノちゃん。これ、すご……ってなにそれー?」
と、大妖精もとい大ちゃんが、チルノの抱えた品々を指差す。大ちゃんもだいびっくりである。
「里に行ったら、いっぱいもらったのよさ。これあげるー」
「ありがとうー。でも、いいの?」
「なんで?」
「んー。なんとなく……」
大ちゃんの反応は、実に正確なものだった。いうなればこれは、チルノという存在に対しての供物である。ただの土産物ならば大ちゃんも素直に受け取っただろうが、直感的にこれは違う、と感じ取ったのだろう。ただ、大ちゃんも妖精だし大して賢くはないので、あとチルノちゃんから物貰えて嬉しいので、躊躇った後直ぐ貰った。
「おいしいー。人間って、いつもこういうの食べてるのかな?」
「あんまり普段みないから、案外貴重かも?」
「そうなんだ? チルノちゃんってモノ知りねーかっこいいねー」
「えっへへ……」
べったべたと、まぁ、甘いモノ食いながら良くもやるものだが、チルノといえば隣でアピールする大ちゃんよりも、妙に優しい人間達の方に意識が向いていた。確かに、チルノ的にも凄い事やってのけたぜ感はあるのだが、まさかここまで賞賛されるものとは思いもよらなかったからだ。
もし、自分がそんなに偉いのならば、いつも里を助けている里のセクシャル女教師や、それを陰ながら支える旦那さんの炭焼き兼焼き鳥屋、もしくは異変の度に活躍しているであろう巫女や風祝や白黒のあいつなどの方が、余程褒められているのではないか? すげえ偉いのではないか?
チルノらしからぬ頭の回転で、様々と思い描く。
実際の所、巫女や白黒や風祝の場合、問題が公となっていないので、あまり取り沙汰されないだけではあるのだが、チルノの考える方向性は悪くない。結局は、タイミングや意外性が話題を呼んでいるのである。ただ、これは一時のものだ。
「たぶん、次行ってもそんなに貰えないかも」
「じゃあ、冷たくして保存しておけば?」
「冷たいと長持ちするの?」
「す、するよ。チルノちゃん、お茶目な抜け方してるよね」
馬鹿を馬鹿と言わない大ちゃんはたぶん本当にチルノが好きなのだろう。
「怪獣に食べられた時、私、本当にどうしようかと思ったけど、チルノちゃんはやっぱり強いんだね」
と、更に持ちあげる。馬鹿を帳消しするその言葉に、チルノは鼻高々……の筈だったが、どうやらそんなメンタルにはないらしい。
「そうだね」
「(……あっれぇ……おかしいなあ。何か落ち込む事があったのかなあ?)そ、そうだよー。すごいよ?」
「あたい、今日はもう寝ちゃうね」
「そうなの? じゃあ、私も御暇するね。おやすみ、チルノちゃん」
喜ぶメンタルになく、更に何か熱っぽい。単純に智慧熱だ。
大ちゃんには悪かったが、今日はもう一人になりたい。チルノはそのようにして、野生児よろしく何も敷かない地面に横たわる。
入口も氷で閉じ、完全に音もなくなる。チルノは、ただ静かに目を閉じた。これで何も無くなる。次に目を覚ました頃には、何も考えない、いつも通りの自分になっている筈だと……いつも考えもしない事を、考えて。
……。
それから、どれほど時間が経っただろうか。
『一撃!!』
『必殺!!』
『ドゥリァッ!!』
バコッ、という音と共に、氷の壁が破られる。どんな愚か者が侵入したのかと飛び起きようとしたチルノは、既に身動きが取れない状態になった。騒がしいあいつが正に馬乗りで腰を振っている最中であったのだ。
「おはようございます。誠実正確正論がモットーの射命丸文特派員(R-18)です!」
「なんだ天狗仮面か……一体誰なんだろう……」
「ほう、起きないと。これはアレを使わざるを得ませんね」
どれだよ、と思っていたチルノだったが、射命丸が本気で何かを構え始めたので、これは堪らんと起きざるを得なかった。
「これは起きざるを得ない」
「起きざるを得ないでしょう。ところでチルノさんお覇王御座います」
「……なんだよーぶんぶん」
「くふふ、可愛いビックリ顔はバッチリ納めてますからね。記事の一面に使わざるを得ません」
「しつこいよ」
「はい、済みません。いた、いたた。掴まないでください、シモヤケしてしまいます。でもちょっと気持ち良いかも」
騒がしいあいつは口元に涎を垂らしながら恍惚としていたので、チルノはちょっとコイツ危ないな、でも友達少ないだろうし、あたいに嫌われたら悲しむかもしれないな、と思い、取り敢えず軽蔑の視線だけを送ったが、逆に喜ばせる始末となった。
「ぶんぶん。で、なにさ。あたい寝てたんだけど」
「チルノさんのガールフレンドの大妖精さんが、チルノちゃんは寝ているからそっとしておいてね、と言っていたので、じゃあ顔を出さなきゃな、と思いまして」
「あたいが言うのもなんだけど、ぶんぶんって馬鹿でしょ?」
「可愛いモノに対して、ヒトは誰しも馬鹿になるものなのです。長く生きると解りますよ」
よく解らなかったが、いや、厳密には解りたくもなかったが、チルノは一応納得する素振りを見せた。こいつの話に付き合っていたら、喋っているだけで百年はすぎそうだったからだ。
射命丸文といえば、花の異変以来の付き合いとなる。大蝦蟇に食われるだの食われないだのという記事を晒し腐り、チルノさんのプライベートをレイプした張本人だが、何かと融通をきくし、御土産持ってくるし、悪い奴でもないので友達にしてあげる事にしたのだ。つまり都合のよい女なのである。
「それで、なにさ?」
「はいはい。いやですね、チルノさんが何とあの大怪獣をぶちのめして挙句人様の為にアイツの卵もブッ潰して、幻想郷の未来を救ったというじゃありませんか。チルノさんのお友達である私としても鼻が高いじゃありません?」
「天狗だから高いんでしょう」
「まあまあ。それでですね、友達のよしみで取材させてもらえませんかねえ」
「またあたいの事馬鹿にした記事書くんでしょ?」
「そんなまさか。幻想郷の大恩人たる大チルノさんを卑下するような記事、大書きませんよ」
「信用ならないなー」
「ただとは言いませんよ。お礼もお支払いします」
「お金貰っても、使い道ないし」
「いやですねえ。そんな無粋なもので、取材の御恩をお返し出来る訳がないじゃありませんかー」
「じゃ、なにさ?」
「私」
「え?」
「私のこと……好きにしていいです……」
チラリ、と肩をはだけて見せる射命丸だったが、当然チルノといえば『なんでこいつ氷の家の中で裸になろうとしてるんだろ、死にたいのかな』程度にしか思っていなかった。
「さむくね?」
「寒いですけど、チルノさんがどうしても私を欲しているのならば致し方ありません」
「いや別に欲しくないけど」
「ええ!? なんで!?」
「なんでって……ああ!!」
「解りましたか!?」
「つまり、子分になりたいってことね!?」
「それは性奴隷の隠語か何かですか」
「しかたないなー。あたい強いしなあー。子分が取材したいっていうなら、受けるしかないのよさ」
「あまり意図した所じゃありませんが、取材させて頂けるならそれに越した事もありませんし子分でいいです」
根っからの駄目な女である射命丸文さんは、卑猥な妄想を沢山して来たらしく、このような反応には心底ガッカリだったが、まあ取り敢えず誘い受けの一歩ぐらいは踏み込めただろうと納得し、チルノの子分という謎の立場を確立する。
「あ、これ御土産です。山のお菓子ですけど」
「お菓子、沢山貰ったけど、やっぱりぶんぶんが持ってくるのが一番おいしいのよさ」
「あ、え、ええ。喜んでもらえて何よりです……」
まさかこんなもので褒めてもらえるとは。笑顔でお菓子を頬張るチルノを鼻血を垂らしながら写真を取りつつ、射命丸はこの線でチルノのエロい友達になろう、と心に決めたのだった。
※
やることなすこと考える事大体エロに結び付けようとする射命丸だったが、案外と新聞に対しての態度だけは真摯であった。周辺聞き込みから現地調査、奴が流入した経緯への考察、チルノの友人や目撃者からのコメント、そして本人の取りとめの無さ過ぎるどうでも良いコメントの翻訳など、考え得る限り真面目に書かれた新聞は、二日後には幻想郷の空から絨毯爆撃される事となった。
「写真はとれなかったので、稗田阿求氏にイラストを依頼しました。イメージではありますが、こんな感じであってますよね、もう刷っちゃいましたし配っちゃいましたからどうにもなりませんが」
「えっと……この字読めない」
「それはいんらんと読みます。読んでみてください」
「いんらん、と。じゃ、これは?」
「それはめすぶた、です」
「めすぶた、と。じゃこれは?」
「それはそう書いてしゃめいまるあやと読みます」
「しゃめいまるあや、と」
「おふぅぅぅ……ッッ!! キクウゥゥッ!!」
悶え苦しみ地面にもんどり打つ射命丸を本気で心配するチルノが少し可愛い。ともかく新聞は早速ばら撒かれ、それは当然ながら人里にも降り注いだ。
「はぁ……はぁ……ふぅ……。チルノさんの人気も更に高まりますね」
「いやべつに、あたいは人気とかどうでもいいけど」
「人気になればいい事ありますよ?」
「お菓子は暫く要らないなあ」
「でも人気が出たらほらぁー」
人気が出る→ファンが増える→チルノの競争率が上がる→射命丸文は悲しい。
「人気なんて出すもんじゃありませんよ!!」
「どっちだよぅ」
「あ、でもでも。チルノさん、私は貴女の子分ですよね? 一番の友達ですよね? 私の、最高の友達、的な何かですよね? なら、それはそれで良いかもしれませんねぇ」
「一番は大ちゃんだけどたぶん三番目くらいじゃないかな」
「そうですか。ちょっと出かけてきます」
「どこいくのさ」
「大妖精さんに話をつけてこようと思って……」
射命丸文はハイライトの無い目をしてぶつぶつと呪詛を呟きながら出て行く。まったく忙しない天狗だとして、チルノは大して見送る事もなく、新聞を読み返す。
「めすぶたを襲ったしゃめいまるあやは、田畑を荒らし卵を産み、一部家屋を倒壊させるなどの被害をもたらした。しゃめいまるあやがめすぶたに襲いかかったところを、いんらん妖精のチルノ氏によって討伐され、鉤爪と黒皮と宝玉を落として……」
チルノは読んでもいまいち解らないが、ともかくチルノを賞賛した記事が書かれている模様だ。
普段ならば、ここで里へ赴く、などという選択肢は浮かばないのだが、辺りが騒ぎたてる限りはやはり、チルノとしてもどのように思われているのか、多少気になった。
ちょこっと覗くだけ。おもむろに家を出た所で、しかしチルノは何かに足をひっかけてすっ転んだ。
「ぶべっ」
自分の足元を掬う不届き者はどこのどいつだ。報復の気概に燃えるチルノだったが、いざ確認してみれば、どうやら見た事のある形をしたものだ。
「……とりい、だっけ」
そこには、赤々とした小さな鳥居が落ちている。その隣には、立派な桐作りの祠がしっかりと設えてあり、例の如く御供え物が山となっていた。
「あたいったら、ますますお地蔵さんね」
お地蔵さん、というよりは、土地神様的な扱いである。信心が微妙な幻想郷人類であるが、慣習的な信仰心は持ち合わせているのだろう。新興宗教守矢教も新興宗教白蓮大乗教もふるっている様子はないが、純粋な感謝の気持ちを表そうとしたらこうなった、という印象が強い。
「あー。ここ最近、暑くて引きこもってたしなあ。その間に作ったのかな……ん? なにこれ」
チルノが手にしたものは、愚かしい人類による大変自分勝手なお願い事をかきこむ不毛の板、絵馬である。さっそくチルノの似顔絵なども書かれているが、中には切実な願いも含まれていた。妖精知能を考慮して、やさしいひらがな、もしくはルビがふってあるものだけを選んで、読んでみる。
「このまえは、チルノさんのおかげでたすかりました、ありがとうございました」
「ことしのなつは、とにかくあつい。チルノさんがいてくれたらなー(チラッチラッ」
「ちるのさんは、氷の妖精だとききます。うだるような猛暑で、みなこまっています。もういちどだけ、たすけてください」
愚かしい人類の自分勝手なお願い、とは言うが。神様というものは、お願いによって生計を、もとい生命を維持しているといっても過言ではない。取捨選択はあろうが、神の本質とは願いと祟りである。チルノが神かといえば違うだろうが、人々はそれに縋ろうとしているのだ。
「ちょっとめんどくさいかも」
「行ってみればいいじゃない。喜ばれるわよ」
「お姉ちゃん!!」
「おほん。はぁい」
突如現れても大して驚いてくれないチルノにいささかの不満を持つ八雲紫だったが、自然そのものに不満などぶつけてもしょうがない、として、一つ咳払いをしてから、仕切り直す。
「お姉ちゃんどうしたのよさ?」
「チルノが良い子で暮らしているかどうか、見に来たのよ」
「お姉ちゃんったら心配性ね!」
「それで、チルノは行かないのかしら?」
「あいつら、普段は妖精に石投げるくせに、調子いいなあ」
「実に本質的な問題ね。でも、妖怪も神様も、結局は人のワガママに付き合っているに過ぎないのよ」
「そうなの?」
「私は、ちょっと特殊だけれど。でも、妖怪も神様も、人あってそこなのよ」
「でも、あたい妖精だよ?」
「だからこそ面白いのよ。手近な所だと……そうね、洩矢諏訪子を知っているかしら」
「カエルちゃんね。あたい、凄く嫌われているよ」
「そう。あれは正に願いによって具現した、願いの権化よ。願いを叶える側面と、災厄を齎す側面を、同時に強力に持ち合わせているわ」
「神様ってこと? じゃあ隣にいるあれは?」
「神奈子ね。あれは元人間よ。それは願いと、同時に信心によって人を超えた存在ね。前者と後者ならば、貴女は前者に近い存在になれるでしょう」
八雲紫の言は、まるで見て来たのようなものだったが、それを二柱が聞いたとしても、恐らく否定はしないだろう。日本国における神とは、様々な側面から成り立つ。
「あたい、別に神様とかなりたくないけど」
「そうなの? 面白い事になると思うのだけれど」
「それ、あたいが面白いの? お姉ちゃんが面白いの? それとも、他の誰か?」
「貴女は馬鹿なのに、本当に本質的なものを見抜くわね。そうね、その全部かしら」
いまいち良く分からない、とチルノは小首をかしげる。だが、少なくとも姉(仮)が嘘をついた事はないので、一応信じてみる事にした。いつも楽しい事を探して歩き回って飛びまわっているのだ、面白い事が此方に舞い込んでくるというのならば、願ったり叶ったりである。
飛び去って行くチルノを見送ってから、八雲紫は此方を見上げた。
「満足かしら」
相変わらず末恐ろしい女だ。
2、その効能(夏涼しい。患部を冷やす。出来たイボを凍らせて取れる。怪獣とか倒せる。あと可愛い)
チルノがしゃめいまるあやもとい、大怪獣を倒してから一カ月が経とうとしていた。例年にない猛暑によって、熱中症者の増加が懸念されていたが、しかし里はまたしてもチルノによって救われる事となったのだ。体力の無い子供や老人に氷嚢を配り歩き(上白沢プロデュース)、日中は暑さが落ち着くまで集会所にチルノを招き避暑地とした御蔭で、むしろ例年よりも熱中症者が減ったのである。
チルノちゃんがチルノさんになり、最近はチルノ様呼ばわりである。外の世界ではクーラーをクーラー様と呼ぶように、チルノもチルノ様なのである。
流石にここまで持ち上げたら、チルノも調子に乗るんじゃないか。複数人のチルノの知人達は、そのように予想していたのだが、的は完全に外れた。チルノはむしろ大人しく振舞い、子供たちの遊び相手、老人の孫役、ロリコンの眼の保養用にと大活躍である。
暑さも落ち着いて来た頃。チルノは久々に自宅に戻ることにした。
当然ながら維持者の居ない自宅は綺麗さっぱり無くなっていたが、それを五秒で復帰させ、野生児よろしくゴロリと寝ころぶ。あれー、なんかいつもより家作るの早くね? あたいなんか強くなってね、と色々思う所はあったのだが、今はとにかく寝たかった。
入口もガッチリ締めきり、熟睡の態勢をとる。誰にも邪魔されず、静かで、なんというか救われる眠りが欲しかったのだ。爺様婆様に大人気で、夏の間は人様の家で過ごす事が多かった。何人かシモヤケさせたが、それでもチルノを求める声は多く、どこにも引っ張りだこであった為だ。
『覇王ッ』
『しょうっ』
『こう』
『けんッッ』
たぶん射命丸だろう。彼女は思いっきり使わざるを得ないものを使ったのだが、しかし。
『ドゥワッ……ッッ』
全力の必殺技が、まるごと跳ね返った。
『っれー? っかしいなあ……。サカザキさんの三倍ぐらいでぶっぱなしたのに……あー……こりゃマジかな』
三番目ぐらいに大切な友人が喧しいので、仕方なく氷を割り、入口を作ってやる。申し訳なさそうに入ってくるものだとばかり思っていたが、開いた瞬間飛び込んで案の定馬乗りになりやがった。
「おはry しゃめry です!!!」
「おはよう。次はちゃんと入って来てね」
「あらあらあら。どうしたんですかどうしたんですか? なんか反応が違いますねえ」
「呆れてるのよさ」
「マジすか。チルノ氏的には、大人しい女性の方が好きで五月蠅い女性はスルー的な? みたいな?」
「ぶんぶんは元気の方がらしいよね」
「ですよねえ。元気のない私なんて水からあげられた魚かパソコン奪われた若者みたいなもんですよ」
「どっちも暴れるってことね」
「……チルノさん、聡明になられましたね」
どうも射命丸文の知るチルノではない。見た目に変化がある訳ではないが、どこか落ち着いていて、口調もだいぶ静かだ。何も知らない無垢で元気な下等妖精に思い切り詰られる事を夢見ていた射命丸にとって、多少減点である。
「チルノさん、その口調で罵って貰えますか?」
「なんて?」
「このクズ天狗って」
「このクズ天狗。お前みたいな害鳥は毎朝生ごみでも漁ってればいいのよ」
「うはっ、こりゃキクッッッ……むしろ加点…………ッッ!!」
加点した。
「はふぅ……。堪りませんね。しかしどうしたんですか急に」
「んー。色々、考える所があって」
「へえ。妖精も考えたりするんですねえ。無鉄砲な所が好みだったんですが、でもチルノさんなら知的な仕草やセリフも私ときめいちゃいます」
「ねえぶんぶん」
「はい何ざましょう」
「人間って、好き?」
「好きでも嫌いでもありません。むしろ、種族的な違いはあまり気にしていません」
「でも妖精は見下してたよね?」
「そりゃ、そのへんにいる意思ある自然如きに、生物様が頭を下げないですよ」
「でも、神様には下げるよね?」
「意思ある自然とはいえ、様々なモノから崇められるようになれば、それには敬意を払います。私とて、伊達に風神は名乗りません。意味は弁えています。それだけの力があると自負しています。ただ、山坂の神と多少被るので、いつかは亡きものにしようと企んでますが」
その頃、神奈子と早苗が同時にくしゃみをし、諏訪子の晩飯が多少しょっぱくなった。
「あー。なるほど」
「どういうことですか、チルノさん。チルノさんの考えが上方向に読めないなんて、初めてですよ」
「ん。だからさ、神奈子は神様じゃない?」
「ええ」
「アンタは妖怪じゃない?」
「はい」
「お姉ちゃんが言ってたけど」
「誰ですそれ」
「八雲紫」
「姉だったんですか……ッッ」
「それはいいとしてね」
「良くないですけど、はい」
「神奈子は、人間が好きなんだって。諏訪子も。何か人間にしてあげたいと思うし、人間もそれに感謝したいと思っていたんだって」
「まあ、神というのはそういう種族ですからね。概念を保つためには、必要な事です」
「ぶんぶんも力は強いと思う。けど、神様じゃないでしょ?」
「あー、解りました。その通りです。そういう意味では、あの二柱もまた、私のようになる可能性を秘めています」
「やっぱり」
チルノが言いたい事はつまり、神の表裏問題である。山坂から吹く風は花粉や種を飛ばし、豊穣を齎す。しかし、それが強くなりすぎれば、家屋を倒壊させ、木々をなぎ倒す大風となる。神奈子とて全てを扱える訳ではないだろうが、だが信心とはそれを安定させるだけの力があるのだ。願いが強ければ願いを叶える側の力も、其れ相応に願いの形を保つ。
複合的な性格を持つ諏訪子もまた同じだ。祈れば道を開くが、軽んじれば道を塞ぐ。祈れば豊穣を、軽んじれば災厄を。祈れば鉄を。軽んじれば大火を。
正しく妖怪、特にこの千年天狗など、解りやすい裏のみの存在である。
「私は暴風ですからね。人の願いなんて然したる興味もありません。自分の好きな事だけして生きています」
「妖怪と神様って、殆ど同じなの?」
「はい。同じですよ。中には違うのも居ますが、基本的な解釈はそれで違いありません」
「じゃあ……あたいはどうだろう」
「……」
チルノは立ち上がり、おもむろに外へと出る。
眼の前に広がるものは、なみなみと水を湛えた紅魔の湖である。以前のチルノは、これを一面凍らせる事などを実践しては失敗していた。今は、夏の暑さこそ過ぎたが、まだまだ気温も高い時期だ。こんな時節に、もし湖を凍らせるとなれば、一体どれほどのエネルギーが必要だろうか。
呼吸、のちに制止。構え、念ずる。
射命丸文の嗅覚は、その臭いを冬と感じ、皮膚は、その寒気を冬と感じ、そしてその眼は、また冬と感じ取った。
「できたできた。すごいね」
「……あー。マジですねーこれ」
白い息が舞う。眼前には、冬とてまずお目にかかれない、完全に凍りついた湖が広がっていた。チルノは直ぐにその気を緩める。このまま放置すれば、夏の生き物など全滅しかけない。
チルノがそんな配慮をする妖精だっただろうか。いや。もはや違うのだろう。
「ここは幻想郷です。私は観たものを真実と感じます、チルノさん」
残暑らしい空気が、また戻って来る。チルノは、そんな真面目そうな事をいう射命丸がおかしくて、つい笑ってしまった。
「ぶんぶんも、真面目な顔するのね」
「根っから真面目ですもの。でも、もう何も知らない無垢なチルノさんを見れなくなると思うと、いささか寂しくあります。なので今後は、ガッツリ罵る方向性でお願いしますね」
「善処するわさ、このごみ虫」
「オウフッ。良いジャブです。しかしチルノさん、やはり変わってしまう、というのは、不安ですか?」
射命丸文はチャランポランのいんらんめすぶただったかもしれないが、親しいと感じる相手に対しての配慮は知っていたし、何よりも心配であった。妖怪というものは、変化が少ない。今まで変わらずにいたヒトが、突如違うものになってしまう事に対しての、疑問や、もしくは畏れがあるのだ。
もし、自分がそれこそ神さえも退ける程の力を手にしてしまったのならば、どれほど増長するだろうか? 憎たらしい山の上層部にすら、脅しを掛ける暴挙に出るかもしれない。
どうしてそんな事をするか。
答えは簡単。その方が『面白そう』だからだ。
射命丸文は長い歳月を過ごした妖怪である。この国がまだ未熟であった頃から存在する、修験の擬人である。人が愚かであるからこそ射命丸文が産まれ、そして人が愚かであるからこそ、射命丸文は愚かなのだ。そういう意味で、自然から湧出した、天然そのままの精霊の擬人たるチルノが、分相応の力を身につけた場合、どのような反応を起こすだろうか。今までとは違う価値観を学び、生きなければいけないのだ。
不安が無いわけは無いだろう。もし、これが単純馬鹿そのものであったのなら、それこそ妖怪になるだろうが。
「面白くするか、賢者となるか、そのままで在り続けようとするか。どの選択肢を選んだとしても、私はチルノさんの子分ですから、ついて行きますよ」
「その方が面白いから?」
「はい。面白いからです。神の卵となった貴女の方向性、是非この目で見てみたい」
「ぶんぶんは優しいね」
「そんな事はありません。私は欲望に忠実なのです。なので今夜は霜焼けプレイでお願いします」
「いいよ」
「えっ」
まさかの返答に、ヴァージンの射命丸文は心底焦ったのだった。
※
東風谷早苗は言う。自覚は無く、自尊は無く、生まれながらにして朕は現人神也。故に驕らず、慎ましくなければならぬ。驕る神に幸は無く、荒ぶる神に幸は無く、ただ粛々と、神を享受するだけであると。
「立派な物言いね。実践は出来てないみたいだけど」
「長い時間を生きている八雲さん達にしてみれば、瑣末な事であるでしょうし、つまらない話かもしれませんが、私は実践出来ていないにしても、必ず心に留めて思い出すようにしています。私はただの神様ではなくて、目に見える人の神です。その万能感から、人様を卑下するような事もありましたし、小馬鹿にしたような発言も多かった。私は現人神でしたが、同時に人としては弱すぎたのです」
「チルノ、彼女に何か質問はあるかしら」
八雲紫に話を振られ、チルノは少しだけ悩んでから、言葉を発する。
「辛くなかった?」
その言葉に対して、早苗は少しだけ唇をかむ。目を伏せ、一度閉じ、改めて顔をあげて、にっこりとほほ笑むのだ。
「私は駄目な子でしたから、こうして、ここにいます。でも、やっぱり、死んでしまったら意味がないと思ったんです。辛い世界に身を置いて、誰にも必要とされず、ただ神様達が消えて行くのを見るのは嫌でしたし、何よりも、私は私が必要とされる場所で、この奇跡を披露してみたかった。必要とされたかったのです。保身と奉仕が、同じ水準にある。チルノさんは、人に尽くした時、どのような気持ちになりますか?」
「最初は凄く、何か気持ちが悪かったけれど。でも今は、あたいが手を差し伸べればそれだけで笑う人がいて、救われる人がいると思うと、嬉しくなるわさ」
「だそうです、八雲さん。チルノさんは、きっと立派になります」
「そうね。今日はお邪魔したわ、風祝」
「立ち話で済みません。私は、御奉仕があるので、これで」
どこか晴れやかな顔をした早苗は、そのように行って去って行った。手を繋いで、まるで親子のようにする八雲紫とチルノは、その姿を見送ってから、空へと飛び立った。
「親子ではなく姉妹でしょう」
まるで姉妹のようにする八雲紫とチルノは、その姿を見送ってから、空へと飛び立ちやがりました。
「どうだったかしら、チルノ」
「あいつ、そんな考えで居たなんて、意外だわ」
「幻想郷にいる奴等なんて、大概まともな過去は持っていないのよ。大半が、悲壮に彩られたもの。人も妖怪も神も、何かしらを抱えているの。そういう意味では、貴女は一番幸せな存在だわ」
「お姉ちゃんもそうなの?」
「私はどうだっていいのよ。次はそうね、レミリア辺りかしら」
「蝙蝠? なんで? 神様じゃないよ?」
秋の空を、二人が飛ぶ。どうしてこんな事をしているのか。それは紫が発案したものだ。
新しい神様となる可能性を秘めた妖精の、情操教育である。神であるもの、神になるもの、神に近いモノ、そういった者達の意見を聞き、チルノに思考する余地を与えようという方針である。それなら私がやります、御姉様はすっこんでいてください、という射命丸文の意見は弾幕戦の結果却下された。これがまた、幻想郷史に名を残す程の、大妖怪同士の弾幕戦争であったのだが、面倒なので割愛する。
「レミリアねえ。小生意気で、苦手なのよさ」
「そうはいうけれど、ある種、祟り神という側面を存分に表現した存在だわ」
スキマショートカットで早速紅魔館に無断侵入する。レミリアの寝室に直接上がり込んだのだが、眼の前に映し出された光景は寝苦しそうにするレミリアと、馬乗りで荒ぶる咲夜の姿であった。
「あああああお嬢様お嬢様お嬢様お嬢様ふぉぉぉぉぉくんかくんかくんかほひょぉぉぉッッッ」
「おはよう、メイド」
「――あら、八雲の。ノックもせず入ってくるなんて、無礼千万ね」
「お嬢様には黙っておいてあげるから、応接間にさっさと御茶を用意することね」
「ふっ。舐められたものだわ。この私のささやかな倒錯趣味を、お嬢様が知らないとでも思っているのかしら?」
「――手ごわいわね……」
「ま、いいわ。お嬢様の寝室を荒らされたらたまったものではないし。今日はどんな御用向きかしら」
「それよりも、下のお嬢様がそろそろ泣きだすわよ」
「泣いたお嬢様の可愛さといえば、この世に二つとない奇跡の宝石よ。むしろそのためにこうしていると言っても過言ではないわ、で、何?」
「お嬢様にこの子が御用なのよ」
「――訳がありそうね。いいわ、先に行っていて頂戴」
この館はもう駄目だと思いながら、紫は早速応接間にまで引き下がる。一体何が起こっているのかと聞いてくるチルノに対して、紫は大人になったら解るとだけ言った。
大人でも理解を遠慮したいのだが、紫に睨まれたので引っ込む。
「お待たせしたわね。お嬢様ったら、まだ昼なのに起きたくないってぐずってしまって」
「大概貴女の所為だとは思うけど」
「――私は、私の威厳について……再考する必要がありそうだ……」
げっそりと窶れたレミリアの姿に、流石の紫もドン引きだ。
「あたいったらおいてけぼりね」
「聞きに来る場所を間違えたかしら」
「まてまて。突然押し掛けて今度は間違えたとは、失礼にも程があるだろう、お前ら。いや助かったが」
「またまた。お嬢様ったら恥ずかしがって」
「お前はしばらくしゃべるな」
「そういうプレイですの? ならば黙りますわ」
「で、なんだ。話次第では聞いてやらんこともない」
顔をゴシゴシと猫みたいに擦り、いつも通りの(キリッ)とした顔に戻ったレミリアは、足を組んで手を顎に宛がい、一応の体裁を取り繕ってそんな事を言い出すので、可哀想になった紫は懇切丁寧にここに訪れた理由を説明する。
「成程。お前がそういう目で私を見ていたのは意外だが、確かにその通りだ」
「で、先輩としてこの子にご教示願えるかしら」
「むしろ、そんな事になっていた事実が驚きだ。このチンケな妖精がねえ」
「チンケとはなんだチンケとは。吸血コウモリ」
「ところで、ヴァンパイアとサキュバスと健康美少女とダウナー系ヤンデレ魔法少女とセクシャルメイドの住む紅魔館ってパラダイスだと思いません??」
「ところでもクソもあるか。お前の脳みそは廃品回収の日に出される有象無象のエロ本が如きだなすこし黙れ」
「罵って頂けるなんて恐悦至極ですわ」
チルノは、ああ、なんかこの人射命丸に似てて、少し好感が持てるな、と思った。
「ふむ。祟り神な。吸血鬼というのは、まさにその具現とも言えるだろう。我々一族は畏怖の象徴だ。今でこそ、こうして幻想郷で隠居しているが、数百年前までは闇と大権と言っても過言ではなかった」
「例えがいちいち鼻につきますわね」
「事実だからな。八雲。お前は作って壊す事は得意かもしれんが、維持する事について、多少勉強不足じゃないか? 畏怖とは、威厳とは、可視出来る出来ないに限らず、その影響を多岐に及ぼす」
「私に説教を垂れるつもり?」
「そういきり立つな。私はこう見えても、お前の意見をしっかりと聞いて、尚且つアドバイスしようと言っているんだ。契約は、ちゃんと護っているだろう。そして人里にもしっかりと貢献している。幻想郷のパワーバランスもだ」
「レミリア。それでつまり、どういうことなのよさ」
「八雲よりもチルノの方が熱心だな。いいか、妖精。祟りとは恐怖だ。恐怖とは力だ。力とは個々人の力であり、集団の暴力であり、情報の力であり、そして組織力だ。私が如何に土地を統治したか、教えて欲しいか?」
「うん」
「素直でよろしいな。まず、土地を取らなきゃならない。しかし突然とれば基督教が五月蠅いからな、ひっそりと山に居を構える。次は情報を流す。既に存在する吸血鬼という概念に漬け込み、真実を織り交ぜた嘘を流す。その合間に、下僕を取り繕って麓の里に放つ。じわじわとその噂は真実へと代わって行く。やがてそれを討伐しようという輩がいるだろう。まだ組織も出来上がらない段階でそんな者に来られれば面倒極まりない。早速芽は摘む。里の役人に良い目を見せ、里に派遣されている神父を籠絡し、足もとを固めて行く。流れの傭兵、怖いモノ知らず、噂を聞き付けた木端悪魔、段々とヒトもモノも増えて行けば、あとは好き放題だ。私は、私の力を使わなくても、支配は完了する。供物を提供しなければ里を襲う、生贄を寄こさなければ里を襲う。理由は何でもいい。ヒトは恐怖さえあれば、何とでもなる」
偉そうに語るレミリアだったが、チルノはその話を真剣に聞いていた。
「レミリアは、人間を沢山殺したの?」
「殺したさ。沢山殺したぞ。そしてその分だけ、仲間も殺された。祟り神は支配し、そして倒されるのが役目なんだよ」
「折角支配したのに?」
「認めたくはないが、世界とは人の世だ。人の世に抗いたければ、己の恐怖を知らしめなければいけない。そして知らしめれば知らしめるだけ、討伐される役目を追う。支配のイタチゴッコだ。それこそが、怨まれる者、逆らうものの宿命だ」
「日本における祟り神とは一線を画すけれど、これが彼女達の生き様なのよ、チルノ。滅ぼし滅ぼされを繰り返すのが、異形としての役割。ヒトはそれを教訓として、前へ進むわ。ある種、戦国大名みたいだけれど」
「ただ私は、ただの一点、本当に、自分と、そして家族達の為だけにしている。民草など知った事ではない」
「ぶんぶんもそう言ってたわ。自分勝手でいいんだって。だから、神様じゃないんだって」
「妖怪ってのは、神と祟り神の間にいるようなもの。半端ものさ。なあ、八雲」
「それについては、頷くしかありませんわね。チルノ、解ったかしら」
全てを理解したかと言われれば、頷けはしなかったが、レミリアが何を言いたいのかは、十分受け取る事が出来た。
「つまり、それが反転しているから、今のレミリアは幻想郷に重要な存在ってことね?」
「私は、大して変わらないよ。今でも、自分と家族の事しか考えてはいないさ。ただそこに、隠居するには十分な世界が広がっていたから、護ってやってもいいなと思っているだけだ」
「べ、別に幻想郷の為だなんて思ってないんだからね、勘違いしないでよねっ! って事ですわね、お嬢様」
「お前一カ月ほど地下で暮らしたらどうだ、色々捗るぞ」
「捗りますわね、フランお嬢様のシモの生活が」
「お前フランに何した!?」
「暇だというから面白い事を教えただけですわ」
「ちょ、ちょっと地下行って来る。お前等はさっさと帰れ」
レミリアは慌てて地下へと潜って行った。数分後、絶叫の後に甘い声が聞こえて来たのは皆には内緒だった。
※
「難しい質問をしますね」
寅丸星は、チルノから齎された質問に対して、頭を悩ませる。お前は妖怪なのか神なのか、というものだ。
星は妖怪であり仏神である。故にどちらか、と言われれば、答えるのが大変に難しい。どちらでもある、という回答を、チルノが、まして八雲紫が求めている筈もなかった。
「昔は妖怪でした。今は、仏神としての性格の方が強いでしょう」
「無難な答えね、毘沙門代理」
「これ以上の答えが見当たらないのです。私は聖白蓮という僧侶の願いによって仏神としてあります。私の真実を、当時は誰も知りませんでしたから、皆はただ仏神として拝みましたが、本来はただの妖怪虎なのです。しかし、それが一体どんな理由があって、貴方達は答えを求めたのでしょうか。迷われているのですか?」
星の疑問はもっともだ。突然仏堂に現れたかと思えば、そんな質問をしだす輩である。悪意こそないであろうとは解ったが、少々不躾だ。
「貴女は、この子をみてどう思うかしら」
「妖精ですか? 初めまして、寅丸星です。命蓮寺でご本尊をしています」
「チルノだよ。何もしてないよ」
「でしょうね。妖精ですし。しかし、妖精といえばそうなのですが、何か違いますね」
「その感覚は正しいわ。この子は人々からの信心を受け、今まさに一つ上の段階へ上がろうとしている。けれど、上がるも上がらないもこの子次第。可能性はあるのだから、では神とは違うモノから神になった者達の意見を聞いて見聞を広めよう、という試みよ」
「八雲氏はチルノ氏の……保護者的な何かですか」
「姉よ」
「お姉ちゃんだよ」
「似ていない姉妹ですが、世の中様々な理由があるものです。そこについては追求しません。しかしそうですか、神に」
「ええ」
「ふむ。私のような不出来な仏神代理よりも、彼岸の四季殿の方がよほど仏らしい仕事をしているとは思いますが、何故こちらだったのでしょう」
「私と仲が悪いからよ、星」
「左様ですか。仏に敵対するとは、やはり妖怪ですねえ」
「馬鹿いっちゃいけないわ。あれの何処が仏なのかしら。仕事ぶりは認めるけれど、救済者としてはまだまだね」
「それは私も耳の痛い問題です。彼女もですが、私も代理ですし。とはいえ、仕事を怠っている訳ではありません」
「まあ、仕事ぶりは良いのよ、どうでも。それで、貴女は何故、聖からの要請を受け入れたの?」
「なんで仏様になろうと思ったのよさ?」
急な来訪者が急に人の過去を掘り下げ始めた。無茶な話だが、星はこれを否定するような心の狭さではない。良く考えれば、確かにそうだなのだ。否定しようと思えば幾らでも出来た筈だ。要請を承諾した御蔭で、辛い過去を背負う嵌めになったとも言える。
だが、星の眼は誰よりも澄んでいた。
「無茶な尼僧でした。彼女は、人も妖怪も助けたいと、願っていたのです。そんな事、出来る訳がない。当時の私はそう思いました。けれども、彼女はどこまでも真摯だった。どこまでも、仏の言葉を信じ、かつ、疑っていたのです。救えるものは全て救いたい。皆に安らかな無余涅槃を。悟りを。幸福な現世での生こそが、浄土へ赴ける道なのだと、そう言っていました。そんな理想論を掲げる彼女が、私は眩しかったのです。人に追い、追われ、殺し殺されかけるような生活から、彼女ならば救ってくれるのではないかと、淡い期待を抱かせる程に。結果、彼女は詐欺師として扱われました。もし、結果だけを求めるならば、彼女は正しく極悪人でしょうが、当然、私も含め命蓮寺一同、そのような事は考えもしませんでした。彼女こそ、正しく正道を説くものだと。私は、だからこそ彼女の要請を受け、彼女の祈りを一身にまとい、そして千年、彼女を帰りを待ちわびたのです」
感情もない瞳を向けていた紫の表情が緩む。何のことも無い。八雲紫と聖白蓮は、本当に似通った存在なのだ。チルノも、詳細こそ汲み取れないものの、この眼の前の仏神が人と妖怪の救済を説く聖白蓮なる僧侶を心から信じ続けて来たという事実に、心を打たれていた。
「ひぐっ」
「チルノが泣いたじゃない。どう責任を取るの」
「ごめんなさい。でも、どうでしょうか。私は仏神、それも代理です。本当に、ほぼ一人の願いによって、仏神を演じているだけなのかもしれません。けれども、私の信心は毘沙門天と、そして聖白蓮にあり、彼と彼女がある限りは、私は仏神なのです。人を噛み殺した妖怪虎ですが、それを償う意味でも、私はこの道を信じ、そして幻想郷の人々にも、その一端でも構いませんから、受け取って貰って、考えて貰いたいのです。ここは良い所です。本当に。涙が出るほど素晴らしい場所です。こんな場所を、ずっと保って行く為にも、私はこれからも、こうしていたい。御満足頂ける回答だったでしょうか、八雲氏、チルノ氏」
「チルノ」
「うん……」
「後は自分で考えなさい。人に請われるとは何なのか。人に畏怖されるとは何なのか。神になるとは、どのような出来事を背負う事になるのか。星、お邪魔したわね」
「いえ。私如きの言葉が人様の役に立てるのならば」
……。
その帰り、チルノは疲れてしまったのか、紫に背負われて寝息を立てていた。人が神に寄る事。神が人と在る事。神の抱える苦悩。神の持つ可能性。如何にして、自然は神と成り得るのか。如何にして、人は神と歩むのか。如何にして、妖怪と神と祟り神の境界線とするのか。
境界を操る魔、八雲紫とて、完全な答えは持っていなかった。
今、チルノという自然の個体は、そのどれでもない状態にある。
紫は、そんなチルノが、何か懐かしかった。
己が、神なのか、妖怪なのか、それとも、災厄なのか。迷い迷い、悩み悩み、その結果が――この、有象無象がうごめく、幻想郷という奇跡なのだろう。
「自画自賛?」
眼の前を見るべきだ。お前が赴くチルノの自宅には、親分を奪われた鴉天狗と、恋人を奪われた妖精が睨み合いをしている。そんな所にお前が入って行ったら、きっと面白い事になるだろうから。
「面白ければ何でもよいの?」
何でもよい。さっさと喧嘩すれば良い。
「後で説教ね」
好きにすればよい。
「そう」
そんな独り言を言いながら、八雲紫は火中に飛び込む。鴉天狗は視線だけで紫を殺す気概満々だ。大妖精は凄味が無くてふくれっ面なのでやけに可愛いが、それでもきっと怒っているのだろう。
「チルノさん、だいぶ疲れているみたいですが、貴女何かしたんですか」
「し、したんですか! チルノちゃんが疲れるようなこと!!」
「チルノをチルノたらしめる全てのものを弄って来たわ。この子は私のものよ」
射命丸文は地面にすっ転び、大妖精は眼のハイライトを失い、変な所で目を覚ましたチルノは二人に駆けより、八雲紫は在りもしない出来ごとをよくもまあツラツラと並べてねつ造し始める。
「ち、チルノさん、私の初めてのヒトだったのに……」
「え? なにそれ、聞いてないんですけど、天狗さん」
「えー? 話してませんでしたっけー? あっれー? っかしいなぁー? あれはとても暑い、もとい冷たい夜でした」
「意味解りませんからちゃんと説明してください天狗さん何したんですかどうしたんですかどうだったんですかチルノちゃんは凄かったんですか!!??」
「いやあの……す、すごかったわ?」
もちろん未遂に終わっているので、凄いも何も無いのだが、大妖精はその発言を真に受け、地面に膝をついた。
「ほらみなさい。アナタが言う通りにしたらこんなになったじゃない。責任とりなさい」
御免こうむる。
「ち、チルノちゃん……チルノちゃんは、だ、誰が好きなの!?」
「え? あたい? あたいは、みんな好きだよ? 大ちゃんもぶんぶんもお姉ちゃんも」
「つまり『全員アタイが愛してやるぜ……』って事ですか?」
「え? あ? うん。たぶんそう」
「ああ、都合のよい女に甘んじる事がこんなに幸せだとは思いませんでした」
「やだぁ、チルノちゃんカッコよすぎるぅ」
天性の馬鹿は、ここにおいて本領を発揮する。
射命丸は顔をホッコリとさせ、大妖精は直ぐに怒りを収め、八雲紫は、ただ笑っていた。
3、かみおもへばかみはあり
「幻想郷に神は数あれど、幻想郷で神になった者は少ない……いや、いなかったかしら。大半が、現世で神として、悪魔として、支配し統治した者達がそれに疲れ、もしくは追いやられて来た者。ねえ、そうでしょう」
人の認識の上にあり、そして人の認識から退いた者達の住まう場所がここだ。八雲紫は恐らく、そうなる現実を見越して、人の土地の上に、こんな大仰なモノを作り上げたのだろう。
「自ら負担のかかるモノを望むなんて、どうかしちゃったのかしら、アナタは」
何も、難しい事はない。そういうものがあるのだったら、そういう可能性を示したって良いだろうし、最終的にはチルノ個人の問題なのだ。『私』は別にチルノが神になろうと妖怪になろうと、妖精のままであろうと、知った事ではない。面白そうだったからそれを観察しただけだ。勝手に人の意図をくみ取った気でいるお前の方がよほど厄介である。
「それは少し自分勝手すぎはしないかしら」
お前にだけは言われたくない。所詮、私は土着の龍神なのだ。中央からすれば、妖怪と大差ない扱いである。自分勝手が本分だ。ただ、私はお前がそのようにしたいというから、それに同意しただけ。お前がここを保ちたいと言うならばそうすれば良いし、壊したいと望むならそうすればいい。
どうせ、消えるだけの存在だったのだ。今の神としての性質など、オマケにすぎない。
「でも、愛しく思うのでしょう?」
妖精は、精霊は、結局のところ神霊の種である。私すらも、元はただの土地そのもの。一時奉られ、そして忘れ去られるだけだったのだ。その残滓たる私をわざわざ網で掬い上げて、概念として固着させたのはお前。龍神様、などとはだいぶ大仰な宣伝だ。まあ、どうせ一部山の妖怪達に崇められるだけの、瑣末な存在だが。
瑣末な存在だが、しかし。時折あの無鉄砲な妖精をみていて、思う所があった。私達自然の権化は、本当に小さくとも人の為になるのか。本当に小さくとも、人に災厄を齎せられるのか。チルノという子は、私には眩しかったのだ。
例えまたこの土地の許容量を圧迫するような存在が産まれようとも、そんな可能性があるのなら見てみたかった。
「……」
なんだ、黙るな。
「大丈夫よ。幻想郷は、この土地は潰れたりしないわ。皆がこの郷を愛していてくれる限り、どんな災厄が振りかかろうと、誰かが退けてくれる。私や、アナタが手を下さずとも。ここは愛されているわ、アナタは愛されているわ」
八雲紫。
「何かしら」
礼なんぞ言わない。お前が勝手にやっている事だから。ただ、私は今の幻想郷、そしてこれからの幻想郷を、とても幸せに思う。お前が突然現れて、私を掬い上げたあの日、あの日からずっと、私は幸せだった。
お前は幸せか? 口では何とでも言えるが、どうせ危機に瀕したら、お前は顔を出すのだろう? 博麗を率いて、幻想郷に、私に害成すものを討伐しようと出かけるのだろう?
「しないわ、そんなこと。私は、なるべくなら自然が好きだもの」
土地の改造手術を施しておいて、とんでもない事を言うのだな、お前は。失われて行くモノがただ消えるのが悔しい癖に。消えて行く全てのものが愛しい癖に。お前と言う奴は、この国きっての、最高のお節介焼きだ。
「ふ、ふん」
そのような顔もするのだな。初々しい。やはり少女で相違ないな。お前は、いつまでたっても子供のままだ。屠殺される動物にすら嘆く愚か者だ。どうせ、本当の意味で人間を狩りたてる事すらした事が無い、半端な妖怪だ。
「あ、あのねえ」
いや、それで良いんだろう。皆まで言うな。幻想郷で過ごす者達の考えなど、手に取るように分かる。私はお前の願いで生きる神。お前の願いで幻想郷に幸を齎す神だ。私は、願わくば、純粋で無垢で、愚かな少女の願いに生かされる神でありたい。紫ちゃんには、今後ともよろしくして貰いたいものだ。礼は言わない。ただ、私は幸福だ。
「馬鹿ね」
馬鹿さ。馬鹿だとも。だから言っただろう。私は、チルノと大差ない。だから、今しばらくチルノを見守る。どんな心を抱くのか。どんな行動に出るのか。どう決断するのか。
私は、私の上で私の下で私の懐で過ごす者達が愛しくて堪らない。
「やっぱり、壊されたく、ないんじゃない」
私が幾ら戯言を言おうと、どうせお前はこの郷を壊さない。だからこそ、言うのだ。
お前に見限られたその日がこの世界の終わりだ。だからこそ。
「寂しいって、言えばいいのに」
これ以上、望むべくもない。
「チルノが好きなのね?」
……。お前こそ言えばいいのだ。賢者ぶりやがって。皆が、愛しくてたまらないのだ、と。
「ふふ」
ただ私は、皆が愛しい。ことさら、あの無邪気な妖精が愛しく、私に語りかけてくれる日がくればと、愚かにも、ほんの少しだけ、思ってしまっただけなのだ。
※
時間は巡り、あれから一年の月日が流れた。幻想郷的には何一つ変わり映えの無い日々が連続としているだけだったが、チルノにとっては、激動の一年であった。
折角信心による力を身につけたのだから、異変の一つでも起こしてみたらよくね? でもチルノの力だと春雪異変と大差ない異変にならね? それじゃ人間に迷惑かからね? じゃあどうすんべ、と一の子分射命丸文が思考をこねくり回した挙句捻りだした答えは、純粋に博麗の巫女に喧嘩を売りつけるというどうしようもないものだった。
射命丸の肩書が『氷神様の子分』になり、大妖精は肩書『氷神様の巫女』となり、更に本名が増え、チルノは奉られる新人神様、という何処かで聞いた事のある肩書が出来あがり、東風谷早苗は憤慨した。博麗に喧嘩を売る筈だったが、東風谷早苗が率先して現れて喧嘩を買い、本気の射命丸にボコボコにされて泣いて帰るという事案が発生し、保護者二人はこれを受けてモンスターペアレントも真っ青な怒りぶりで鎮圧にあたって収束した。
とまあ、そんなものは基本的にどうでもいい。そのほかの変化といえば、チルノはいよいよ神様の風格を帯び始め、氷漬けの家が少し立派な祠になり、グッズ販売(チルノちゃんお守り、チルノちゃん絵馬、チルノちゃんお札など)を始めた所、紅魔館からショバ代を請求されてひと悶着あったり、収益が博麗神社を大幅に上回った所でやっと本気の博麗霊夢が現れてチルノと激闘を繰り広げたり、八雲紫が本当は姉じゃない、という事実を知らせた所、チルノが大泣きして周辺が完全に氷で閉ざされて紅魔館が被害を受けたり、真必殺技を編みだして紅魔館が被害を受けたり、フランがそれを真似して新必殺技を編みだして紅魔館が被害を受けたりと様々だ。
「ダークネスレジェンド~闇の記憶~とかどうかしら、チルノちゃん」
「うーん。それだったらダークネスオブサンクチュアリ~漆黒の聖域~の方がいいかな、フランちゃん」
「わー、いいなー。それほしいなー」
「あげるのよさ」
「ほんと!? ありがとー!! どんな技にする?」
「うーん……こう、深淵から湧き上がる静かな怒り的な……」
「うんうん……」
「そうね、この時表現するのは、憂いに満ちた表情、かな」
「効果は?」
「相手は死ぬ」
「つよーい……私使ってもいいのかな……でも試してみたいし……御姉様で実験してみるわね!!」
「うん、いってらっしゃーい」
地獄から蘇りし復讐者達の宴はこれにて終焉した。いや、それはまだ、我々がみた恐怖の片鱗なのかもしれないが、それはさておき、チルノは大体いつも通りだった。
「あ、チルノさん、フランさんとのリベンジャーカーニバルは収束したのですか」
「ん。ぶんぶん、なに?」
「いえ、里から使者の方がいらっしゃってます。なんでも御話があるとかで」
「なんだろ。あー、今年ももう夏だし、あれかなー」
「まあまあ。行きますか?」
「行く行く。大ちゃんにも留守にするって言っておいてね、ぶんぶん」
「はい」
「あ、ぶんぶん」
「はい?」
「山、戻らなくていいの?」
「え? いや……私の居場所ここですし……新聞ならここでも作れますし……」
「あいやその、ぶ、ぶんぶんがそうしたいっていうなら、い、いつまででも居ていいのよさ」
「本当ですか有難うございますチルノちゃんマジ天使」
妖精につき従う変人天狗、という侮蔑を受け始めた可哀想な射命丸だったが、たぶんその内自分の立場を公に認めたせる為に、せっせと作戦を練っている様子なので、何も言わない事にした。いつだか、彼女の手帳を覗いた所、妖怪山攻略作戦、という名前の作戦参加者一覧に、チルノと八雲紫とフランドールの名前が勝手に書き加えられていたので、触らないで知らないフリをする。
射命丸文と八雲紫とフランドールが参加する討伐作戦なんて考えるだけでもおぞましいが、恐らくそこまでする必要もなく、射命丸の立場は回復するだろう。
「チルノ様でいらっしゃいますか」
「うん。あたい」
「これはこれは。私、里の長から遣わされたものです」
「きいてるよ。それで、なにかな」
「はい。実はですね」
使者に連れられたチルノが赴いたのは、里の集会所であった。なじみ深い場所であったが、いつもの雰囲気にはなく、そこには老人と里の実力者、そして上白沢慧音、稗田阿求などが顔を揃えていた。
「あの、あたい、何か悪い事……したかな?」
そんな訳ないじゃないですか!! チルノちゃんマジ天使!! と叫んだのは誰だったか。ともかくそんな会合ではないらいし。
「暫くぶりだな、氷精」
「うん、けーね」
「今は妖精と言うには違うな。それに、今日はお前がそういうものだからこそ、呼んだのだから」
「どういうことなのよさ」
「阿求」
「はい。稗田阿求です、チルノさん」
「あー、イラストレーターの」
「歴史家です。チルノさんは、御自分が里でどのような扱いをされているか、御存じですか?」
「あ、うん。あたいあんま頭良くないけど、それなりに勉強したし、いろんな事も見て、考えるようにしてるの。あたいの力が強くなったのも、みんながあたいの事を必要としてくれるからだって。あんまし実感はないけど」
「そこまで聞ければ十分です。里としては、チルノさんの栄誉をたたえて、夏に御祭を開きたいと考えているんです。まあ、大体、騒ぎが好きな幻想郷の人々ですから、お酒を飲む機会が欲しいだけ、というのもあるのですが」
「御祭? あたいの?」
「不都合がありましたか?」
「う、いやその……あたい、別に、そんな大したことしてないし。ちょっと恥ずかしい」
「そういうな、チルノ。皆は感謝しているし、皆はお前を認めている。まあ……本来なら、神様をおまつりするのは、人間の勝手なのだが、当人も居ることだし、一応意見を聞こうと思ってな」
「えっと……その。別に、いいよ。でも、参加は、ちょっと考える」
「そうか。初めての祭だから、最初はお前が居た方が良いと思ったのだが、別に強制も出来んしな。わかった」
そうして、その場はまとまった。
まさか、自分の為に祭りを開こう、などと言いだすモノが居るほど、有名になっていたとは、本人も考えが及ばなかった。里の祭は数あれど、妖精の為に開こう、などというものは初めてだ。
チルノはその帰り道、空を見上げながら、自分というものを振り返っていた。
自分はただの妖精で、本当にどうでもいい切欠から、ここまでになった。人間の都合の良さ、人間の幸福、人間の恐怖。その力の強さは、形の無いモノに形を与え、形を与えられたものに、更に力を与えて行く。
早苗は驕らず慎ましくと唱えた。それは力を持つ者の心得だ。
レミリアは驕る者の畏怖と衰退を唱えた。それもまた、覚悟を持つ者の心得だ。
星は自身の信心を唱えた。揺ぎ無い心を持つ者の心得だ。
チルノが、そのどれか一つでも持っていただろうか。いや、持つ筈もなかった。
己を戒めるか、勝手にするか、公を愛すか。
「神様ってのも、大変ね」
大変だとも。しかし、それ故に、求めて貰える。与えたくなる。共存と共栄が成り立つ。強まれば、強まる程に、人は観てくれる。それは幸せなことだ。
願いの残滓である私には、既に及ばない、羨ましい領域。
「アンタは、どう思うの?」
――……。
八雲め。
「ん?」
どんな形であれ。私は、お前が幸せになってくれればよいと思う。これは、一時の信仰かもしれないが、祭りがあれば、それだけ人々の印象に残る。善き願いは、お前を立派にしてくれる。お前が幾ら悩んでも得られない答えを、皆が教えてくれるようになる。
お前は、氷精。お前は、何にでもなれる。何でもなれる。何をしてもいい。どんな夢を見ても良い。
お前は、きっときっと、みんなが支えてくれる。素晴らしい、神様になれる素質がある。
「……んっ」
にっこりと、チルノは笑う。空に向かって、いや……私に向かって、微笑んでくれた。
このような気持ちは、いつぶりだろうか。八雲紫が私に微笑んだ、あの日以来ではないか。
「あんたは、だあれ?」
私は――名前もない神様。ずっと昔からお前を知っている、これからの友達だ。
「ん。じゃあ、よろしくね神様」
ああ、よろしくとも。
『――よろしくね、神様』
私は――。
なんて幸せなのだろう。
※
あれから、たしか百年ほど経っただろうか。
今日にも、幻想郷は平常運転だ。
多少の変化はあれど、幻想郷は皆に愛され、皆が愛し、そして私が愛している。
ああ今年も暑い夏が来る。
今年は、かの祭りも百回目だ。
「今年も幸せかしら」
「今年も幸せだよね」
ああ、それはもう。
今年も幸せだ。
私は、この世界が愛しくて堪らないのだから。
了
壊れギャグ的要素の中に追求された、“神様”の形。
チルノの成長や射命丸との会話など、ほっこりと笑わせて貰いました。
チルノ可愛いよチルノ。ということで、面白かったです!
チルノちゃんは賢い子なのよさ。取り巻く面々もまた愉快。
氏の作品がまたここで読めて嬉しいです。
最初の一行で爆笑し、ギャグかな、と思ったらそうともいえなかったり。
間違いないのは、この作品と作者さまとチルノ様が素晴らしいということ。
貴方の名前をみて、かつての感動を思い出しましたよ。
>チルノ→チルノさん→チルノさま
次はでかくなるのでしょうかww
たしかに東方の世界では妖精も妖怪も神様も大した違いはないのかも
人に拠らずに存在できそうなのって月人と天人くらいなのかな
→『馬鹿言っちゃいけないわ。』
出だし一行目ですでに笑ってしまったww外の世界の黒歴史は無制限に幻想郷に流れついてしまうのか。
その後チルノがどうなったのか気になりすが、この終わり方もなんともいえない幸福感があっていいですね。
良い小説をありがとうございました。
なんとも言えない深さを感じさせる作品でした。
チルノちゃんマジ女神、お見事。
面白かった。こう言うしかないです。
良い話でほっこりした
このお話に出会えた事に最大級の感謝をこめて
ありがとうございました
他になんて言っていいかわかんねーぜ
それと、一人一人の何気ない言葉からいろいろと想像できる場面が多くて、
とても楽しかったです。
続いて大ちゃんがゴッドブレイクしてチルノと夫婦神になる辺りまで妄想できました
そして一旦手塚治虫風に変換され始めると、射命丸がハムエッグに置き換わってしまい
自分で勝手にますますシュールな世界観を頭の中に構築してしまった僕の負けです
夜中だって言うのに大声で笑ってしまったww
しかし、根幹は凄く深いのにテンポよく読めて良かったです
色々と壊れている気がしますがwwwwwwwでも、深いお話でした。
チルノは幻想郷の平和を望み、幻想郷を愛する思いで神になった。
いつか彼女も自分がしてもらったのと同じように、神の卵に自分の理想や思想を説く時が来るのでしょうか。
ここまで考えさせられる作品はごくわずかしかありません。
この話を書いてくれた作者様に全身全霊の感謝と、幻想郷への愛を捧げます…
こういう書き方は凄いうまいと思いますし、このテーマで面白い話が書けるのは本当に素晴らしいと思います。
神様という設定の細かいディティールまで考察してある事と、紫とチルノが神のあり方について質問し、それに第三者が答える描写を入れた事で、話に非常に説得力があるように感じました。
一口に小説といっても色々な話の書き方がある事を再認識できました。
面白い作品をありがとうございます。
ちょびっと考えてたことが見事に表現されきっていました。脱帽。
地の文の仕込みも見事。
しかし変態軍団www俺もチルノちゃん信徒になってあややや大妖精と一緒に「チルノちゃんマジ天使」と叫びたいのですが何処で申しこめば良いのでしょうか。
あと1行目でお茶吹いたんですがどうしたらいいですかね
なお、非常に些事ながら、「低温やけど」という単語の意を誤って使用されておられるように見受けられます。
射命丸がダメすぎて笑った、チルノもゆかりおねーさんも龍神もみんな可愛い
神様や妖怪についての考えや新しい存在になるチルノへのアドバイス、壊れギャグが面白かったです。
かなぁ?チルノだし。
とても面白い作品でよかったです(^^)カリスマレミィ可愛いよぉ
考えさせられるものがありました。すばらしいです
あと紫ちゃんは俺の嫁
いい幻想郷のお話でした。
こんなのが書けるなんて、うらやましい……
テンポを損なうことなく『神とと人と幻想郷』に対するメッセージ性がすごく伝わってきた気がします。
個人的にはただ傍観する者であり続けようとした竜神様と少女ゆかりちゃんの会話が印象的で好きですね。
なんか竜神様の語り口が、人間が好きで好きでたまらない某吸血鬼の旦那みたいに感じました。
そこに含まれた含蓄とか、寂寥 の籠ったお言葉とか。
そんな存在をも最後は笑顔で受け入れる。
チルノちゃんマジ天使。
氷神様はどんなスペカをつかうんだろう。
冷蔵「クロースザヒムロ」
とか?
面白かったです
変態文もナイス。
どことなく寂寥感漂う雰囲気でしたが、それがまたたまらない作品でした。
龍神様め、幸せ者だな!
それにくらべてこのチルノの成長っぷりが凄い。それでいてらしさを失わないのがさらに凄い。
お姉さんゆかりんとか変態あややとか色々他にもツッコみたいところはありますが、とにかく深い内容の作品でした。
ただただ、感服です。
チルノが愛しすぎて生きて行くのが楽しい。
……はさておき、さすがキャラクターの掘り下げがお上手。
良い御話をありがとうございました。
×そんな会合ではないらいし。
○そんな会合ではないらしい。
まさに傑作だったと思います。楽しませていただきました。
神様から妖怪から幻想郷からひたすら深く考察してあって驚愕しました。
お腹一杯です。これだけのものを書けるあなたが羨ましい。
神の在り方とか考え方とかはそっちの方面に知識も想像もないので大層なことは言えませんが、凄く面白かったです。
また出てくるキャラがみんなしっかりとした意志を持っていて(早苗さんやチルノは逆に未熟で揺れている感じが出ていて)、これだけキャラを固められるのは凄いと思いました。
好きになれました。文さんの壊れ方は面白かったけど、咲夜さん台無しです!
言葉にならんくらい面白かった。
出だしのやり方はうまいと思いました。
荒唐無稽な出だしから掘り下げていく手法は最近流行っているんですかね?
おもしろかったです。
個人的にはチルノと紫の本質についての会話シーンに感銘を受けました。
素晴らしい作品ありがとうございました。
あと紅魔館に合掌
さすがの俄雨さん。相変わらず素晴らしいSSでした。
こんなに全ての登場人物が愛おしいと思えるのは、
きっと俄雨さんが幻想郷をめちゃくちゃ愛しているからでしょうね。
でもレミリアと早苗の扱いがw
お姉さんゆかりんとか、神様チルノとか、私のために書いてくれたのですね!?(違いますw
散りばめられた壊れギャグをサンドする真面目な考察、チルノの微妙な成長が程よく楽しめましたw
さらっと書ける人は尊敬する
チルノが神様になるお話とはまた新鮮ですねえ。
神以外から神となった人たちの所に話を聞きに行くくだりとか、
あややと大妖精のチルノへの好意とか、ほっこりさせられました。
龍神様もナイス。途中まで作者様の代弁かと思っていたらまさか龍神様だとは…。
こんな幻想郷なら、これからも安心ですね。
良作、ありがとうございました。
個人的に考察ものは好物ですが好き嫌いが分かれる分野だと思うんです
でもこれなら誰でも読めるんじゃないかと感服しました
ゴジラが出てきて、文がかなりアレなヤツだったので今回はギャグかと思いきや、深い話でもありましたね。
蓮メリの続編も待ってますよ。
チルノの成長の犠牲…その犠牲の犠牲にな…
愛してるー!
面白かったです。
前半の内容とタイトルを見てハードな展開になるのかと身構えていましたが、杞憂だったようで良かったです。
壊れすぎなほどキャラが立っているのに、物語は全く壊れていないのも素敵です。
でも、それらは畏怖という点から見れば曖昧なものという
東方の世界観が見事に生かされていてよかった
チルノが己の力に対してハッキリとスタンスを決めず、不透明に見せることで読者にもチルノの無限の可能性を感じさせてくれているのではないでしょうか?
無闇にお気楽でなく、それでいて前向きな作品でした。
また文章が小難しくした感じじゃなくて私でもさっくりと読めるようなもので、わかりやすかったです。
話の内容も文句ないですし、100点入れておきます。
面白く楽しめる作品をどうもありがとうございました。
いいあたいだった!
巨大なハ虫類からこんな壮大な話に繋がるとは思いませんでした
文のチルノ愛が良いですね
今ようやく最後まで読んだ。情けないねぇ。
かなり壮大な内容だったけどところどころで猛烈なギャグをぶっ込んできたおかげでものすごくサクサクと読めてしまった…とても良い作品です。
あと地下に行ったおぜうさまのその後についてkwsk。
それにしてもチルノ様可愛いよチルノ様