最近、どうも垂れてきたような気がする。張りもイマイチだ。
何がって?
他でもない、あたいのお乳さ。
もう少しいけるか? ……あと一週間くらいか?
面倒なことを後回しにするあたいの性格が「まだいいだろう」という考えを主張する。
しかし、こういうものは気がついた時にやっておくべきだと思い直す。
仮にも客商売。見た目は大事なのだ。
そんなわけで、あたいは是非曲庁の物置からおっぱい用空気入れを引きずりだした。
おっぱいに差し込み、シュコシュコと空気を入れる。
「お、入ってきた入ってきた」
おっぱいに張りが戻るにつれ、段々と空気を入れる腕が疲れてきたが、あと少しの辛抱だ。
「もう少し……もう少し……」
女の世界はわずか1mmが勝負の分かれ道だ。
「――ぃよっ! ほんとにラスト!」
ぐっと力を込める。
シュコ、と空気の入る音がした次の瞬間――
パァン!
――なんとも小気味の良い音を立てて、あたいのおっぱいは破裂した。
「ひぇぇ!」
いきなりの破裂音に耳がキーンとなり、目がチカチカする。
「……く、最後の一入れが余計だったか」
後悔しても遅い。覆水は滅多に盆には返らないのだ。
「まぁ、明日でいっかぁ」
ぺちゃんこになった胸に違和感はあったが、なにぶん腕が疲れてしまった。今日はもう何もする気が起きない。
その日、あたいは残務もほったらかしに、そのまま帰宅した。
「ふんふふーん」
翌日。
あたいは、おっぱい用補強テープ(298円)を買いに、人間の里に来ていた。
里の喧騒に紛れ、行き交う人々を見ていると、なんとも嬉しい気持ちになってくる。この里の人間は、全員が全員、家族だ。すれ違う度に、暖かな挨拶が投げかけられる。
「お、あれは」
大工の頼ちゃんじゃないか。声をかけよう。
「や。仕事の調子はどうだい」
「…………」
すれ違いざまに声をかけてみるが、頼ちゃんは何事もなかったかのように通り過ぎていった。
「おやぁ?」
気付かなかったのだろうか。まぁいい。今は買い物が先決だ。頼ちゃんにはあとで、「無視されたー」って嘘泣きして茶でも奢ってもらおう。
「ごめんよ」
カラカラと戸を開け店に入る。
霧雨道具店。
おっぱい用具から美顔用具、なんでも揃っている幻想郷の百貨店だ。あたいもちょくちょく顔を出しているので、店主とは知った間柄である。
「いらっしゃい」
奥から親父が顔を出す。霧雨魔理助。店の主だ。
「やあ、おやっさん。久しぶりだね。見てくれよ、これ。こんなんになっちゃってさぁ」
「……ん、ああ」
「おっぱい用補強テープを一つおくれよ。これじゃ仕事になりゃあしない」
「ん、おっぱい用補強テープは298円だよ」
「ほい」
あたいは100円玉を一枚、邪魔な50円玉を三枚、10円玉を三枚、残りは全部1円玉で支払ってやった。
「確かに。ありがとうございました」
「また来るよ」
買い物を終えたあたいは店を出た。
「……なーんか、妙に余所余所しかったねぇ」
普段は、次に仕分けられるものを予想して笑い合う仲だってのに。
「痔でも悪化したかね」
親父は持病に痔を抱えている。痔病である。
機嫌が悪かったのかもしれない。
「まぁいいか」
小腹が空いたあたいは、茶店で一息つくことにした。
「おっちゃーん。団子とお茶を頼むよ」
店先の縁台に座り、道行く人々を眺めながら団子を頬張り、お茶を啜る。至福の一時だ。
考えるだけでよだれが出てきちゃうね。
「はいはい、おまちどおさん」
「ありがとさん。おっちゃん、景気はどうだい?」
「え? ああ、まぁ、ぼちぼちだよ」
それだけ言うと、おっちゃんは店の中に引っ込んでしまった。
「なんだい? あれ。いつもはここからムー大陸の話題に花が咲くのに」
まぁ、店も繁盛しているようだし忙しいのだろう。商売の邪魔をすると馬に蹴られるってね。
あたいは一服だけして、仕事場に戻った。
「ふぃー、今日の仕事は終わり、と」
それなりの人数を(あたい比)そこそこ一生懸命に(あたい比)送ったあたいは、実施報告を届けに映姫様のところに向かった。
「映姫様、失礼します」
ノックをし、部屋に入る。
「映姫様、今日の分の実施報告書を提出しに来ました」
「ご苦労様です、こま――あれ? すみません。小町の声だと思ったのですが」
「は?」
不思議なことをおっしゃる。あたいは小町だっちゅーねん。
「映姫様、なんの冗談ですか。あたいは小町ですよ」
「嘘はいけません。声だけ似せようとも、私が小町を見間違えるわけがない」
現在進行形で見間違えているわけだが。はてさて、いったいこれはどうしたことだろうか。
「映姫様、何を言っているのですか? あたいはあたいです。何を見ているのですか?」
「小町は、小町は――」
映姫様はブレることなく言い切った。
「――そんな、貧乳ではありません!」
「――――ッ!?」
衝撃が走った。
「……は」
その言葉に、理解してしまった。
「は、はは……ははは……!」
そうか。そういうことか。
「私は、おっぱいとしか見られていなかったんだ……」
すれ違った頼ちゃんも、魔理助の旦那も、甘味処のおっちゃんも、おっぱいのないあたいを、小町と認識してくれなかったんだ。
小野塚小町はおっぱいが大きい生き物だ。逆に言えば、おっぱいのないあたいは、小野塚小町じゃない。それが周囲の認識だったんだ。
「――――くっ!」
あたいは悔しくなって駆け出した。
「あ、こら、走ってはいけません!」
映姫様の言葉が、背中に遠く聞こえていた。
――ぽちゃん。
三途の川に石を投げ込む。
「はぁ……」
沈んでいく石に、今の気分を重ねていた。……それと、今後のあたいとも。
「はぁ……」
38回目の溜め息も、同じ重さを持って空気中に消えていった。
「あたいって、なんなんだろうね……」
破裂したおっぱいに話しかける。当然、返事などはなかった。
「これじゃあ、あたいがおっぱいを持っているのか、おっぱいがあたいなのか、わかんないよ……!」
体育座りをすると、ぽっけからカサリとビニール袋に入ったテープが落ちた。
恨めしくそれを見つめる。
こいつを使っておっぱいを補強して、空気を入れれば、また周りのみんなはあたいを小町として扱ってくれるだろう。
――しかし、それでいいのだろうか?
おっぱいのないあたいを、小町と見てくれなかったみんなに対して、あたいは普通に接することができるだろうか?
そんな思考がぐるぐると頭の中を回って、なんだかとてもイライラする。
肌色の、伸縮性のあるテープを思い切り破り捨てたくなった。
「こんなもの……!」
「小町!」
力任せにテープを破こうとした瞬間、背後から映姫様の声が聞こえてきた。
「小町! 待つのです!」
肩で息をする映姫様に、いつものような冷静さはなかった。
「……なんの用ですか、映姫様」
「小町、あの、私、小町にひどいことを……」
「小町なんて、いませんよ」
「え?」
あたいの言葉に、映姫様は固まった。
「あたいは小町でもなんでもない。おっぱいを置くだけの、ただのおっぱい台です。小町なら、補強して空気を入れたあとにでも、またひょっこり顔を出すと思います」
「……小町、やはり怒っているのですね。いえ、当然でしょう。私はあなたにひどいことをした」
「え、映姫様?」
思わず素の表情になる。あの四季映姫ヤマザナドゥが、地面に手と膝をついたのだ。
「この通りです、小町。許してください」
「え、映姫様! やめてください!」
「いいえ! あなたが許してくれるまで! 私はこうしています!」
「やめてくださいッ!!」
「こ、小町……」
映姫様の表情は悲しみに満ちていた。
「映姫様だけじゃ、ないんです。普段、仲の良い里のみんなも、あたいをおっぱいとしか見てなかった。それが、なんだか寂しいんです……」
「小町……」
映姫様は悲しげにつぶやくと、突然いつものような凛とした声を取り戻し、あたいに言った。
「わかりました。小町。あなたは私を許さなくてもいい。だけど、里の人間のことは許しておあげなさい」
「映姫様」
「あなたも記憶にあるでしょう? 知り合いが突然髪をばっさり切って、一瞬誰だかわからなかったことが。夏休み中に激やせして始業式には別人になっていたあの子のことなんかが…………それと同じです」
映姫様は続ける。
「心を広く、やわらかく持ちなさい――そう、おっぱいのように。それがあなたにできる善行よ」
「映姫様……」
溜め息を一つ。
「あ~あ」
合計39回目だ。しかし、39回目の溜め息は、なんだか少し軽かった。
「わかりましたよ。おっぱいのことでぐだぐだ悩んでも仕様がない。それに、今のであたい、気付きました」
映姫様は、優しげな瞳で見守ってくれていた。
「あたいは、今回のことで、自分のおっぱいに嫉妬してしまった。でも、それは間違いだったんですね。あたいとこいつは、二つで一人なんだ。どっちが欠けても、小野塚小町じゃない、一心同体なんだってね」
「小町……」
「もー、いつまでも不貞腐れているのは柄じゃないんで、映姫様のことも許してあげますよ。一番最初に、あたいが小町だって気付いてくれましたしね」
「小町……ありがとうございます」
すくっと立ち上がる。
「さーて、それじゃあおっぱい修理して、空気入れますかね! それで明日からは小野塚小町、完全復活だ! あたいを無視した野郎はとっちめてやる!」
「その意気です!」
気持ちを切り替えたら、それまでうじうじ悩んでいたことが急にバカらしく思えてきた。
そしてすっきりしたことで、ふと気付いたことがある。
「ところで、どうして映姫様はおっぱいのないあたいが小町だって気付いたんです?」
「ああ」
映姫様は、微笑むように目を細め、空を見上げた。
「声が、聞こえたんです」
「声が?」
「ええ、あなたの――あなたのおっぱいの声が」
「あたいの……おっぱいの?」
「助けて、私を助けて。そして、小町を助けてあげて――って」
「あたいのおっぱいが……」
「あなたたちは、本当にいいコンビですね。私のちっぱいとは大違い。ふふ、羨ましいです」
「……そっか」
破裂して、ぺっちゃんこになったおっぱいを、ぎゅっと抱く。
「……ありがと。あたいのおっぱい。これからも一緒に、歩んでいこう」
視界のぼやけるあたいの目には、涙を浮かべている映姫様の姿があった。
「……映姫様、お願いがあるんです」
「何ですか?」
少し気恥ずかしい。けれど、言わなければならない。
「……空気を、あたいのおっぱいに、空気を入れてくれませんか?」
「小町……いいんですか?」
「ええ、お願いします。映姫様が、いいんです」
「……ありがとう」
補強テープでおっぱいを修理したあたいは、今まさに、おっぱいに空気を入れてもらおうとしていた。
「では小町、いきますよ」
「お願いします」
人のおっぱいに空気を入れる。それは双方によほどの信頼関係がないと許されない行為である。入れられる方はおっぱいの全てを差し出す。入れる方はその信頼を裏切ることのないよう、全力を尽くす。究極の愛の証であるのだ。
自然、責任感のある映姫様の表情は真剣なものとなる。全身全霊で空気を入れよう。そんな気概が伝わってきた。
「いきます! 噴、破! 噴、破! 噴、破! 噴、破!」
「ぎゃああ! も、もういい! もういいです映姫様!!」
気合たっぷり、映姫様の高速ピストンはぐんぐんあたいのおっぱいに空気を詰め込んだ。映姫様の熱意は空回りし、あたいのおっぱいは再び爆発。周囲は草木も残らない荒野と化した。
終わり。
めちゃ吹きました!
映姫様が烈先生に見えるッッッ!!!
大変だな。
こまっちゃんのおっぱいにはなァ、愛が! 夢が! 空が! 恋が! 大地が! 命がっ! 宇宙がッ! 俺たちの未来が、ぱッつんぱつんに詰まってんだよおぉぉォ――ッ!!
負けないさ! 立ち上がるさおっぱい! 幻想郷最強胸部「こまちち」の称号と誇り、その強さを目に焼き付けよッ!
ジークおっぱい!
ビバ・ラ・おっぱい!
ありがとう、ありがとうおっぱい! さようならおっぱぁぁぁい!!
面白かったです。
久しぶりに葉月さんの小説だ~やった~→え?何これw→いきなり出オチwwww→イイハナシ…ダッタノカナーww→現在
やられました。朝っぱらから爆笑させてもらいました。僕の負けです。100点持ってけ泥棒ーーッッwwwwwww
いや、狂気を感じる…!!
登校中に読むものじゃありませんでしたよ!(誉め言葉
おっぱいこそ正義
50点じゃ足りないからこっちでw
映姫様気合い入れ過ぎ!
空気を入れる出っ張りのところはやっぱり(略)
そして人のおっぱいに空気を入れるのに信頼関係がいるというのは直接咥えて息を吹き込むからではなk(略)
自分貧乳なのはおっぱいに空気入れ忘れてたせいか
その通り、烈先生を意識しましたw
>愚迂多良童子さん
なきゃないで万事おっけーです!
>7
こまちちへの愛が伝わってきました。
ありがとうございました!
>白銀狼さん
頭悪いSSくらい書きますよ!
だって頭悪いものw
>奇声を発する程度の能力さん
なんだと言われたら……なんでしょうねw
>カミソリの値札さん
大丈夫。幻想です。
>16
狂気までいきましたか……!
>v さん
笑ってもらえたのなら書いた甲斐がありました。
>18
通ってませんよぉ!
>21
ですよねぇ(*'-')
>26
それは申し訳ないことをおっぱい。
>27
なぜならおっぱいだから。
>28
そう! おっぱいってすごいんですよ!
>31
こまちちこまちち!( ゚∀゚)o彡゚
>33
可愛いは正義、おっぱいも正義。世の中正義だらけで頼もしい。
>Dark+さん
ありがとうございましたー!
>37
お付き合いいただきありがとうございました。
>38
謝罪の気持ちの表れでしょうねぇ。
>ぺ・四潤さん
直入れは肺活量的に無理です!
自転車よりいっぱい入ります。(たぶん)
>41
おっぱい教でも立ち上げますか。
>42
破裂しないよう加減に気を付けて。
>43
最高の褒め言葉です(ニコッ!)
>44
ぬえちゃんにはわからないでしょうね、くくく。
落ちはいい話になるかと思ったのにw