Coolier - 新生・東方創想話

紅魔館な日々。「咲夜と割と普通な一日」

2011/06/05 01:47:00
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 紅魔館。湖の横にある館である。

 異変の中心になった事もあるが、基本的には平和である。何故なら、館の主であるレミリア・スカーレットが強大な力を持っているからだ。

 そのため、この屋敷を狙うような妖怪は居ないし、もちろん人間も怖がって近づいたりはしない。一部、例外も存在するが・・・


 そんな平和な日々の一部である。




   ◇   ◇   ◇   ◇

   紅魔館な日々。

   「咲夜と割と普通な一日」

   ◇   ◇   ◇   ◇




 陽が昇る前にお嬢様は御休みになる。寝る前の挨拶をして部屋を出る。

「・・・はー。」

 腕をぷらぷらしながら部屋に戻ると、シャワーを浴びる。至福のひと時。





 紅魔館の住人は昼過ぎ~明け方に生活している。吸血鬼のレミリアとフランは夕暮れから明け方。パチュリーは、昼から深夜。美鈴は門番なので例外。といった具合。
 そして、咲夜は朝から明け方までが主な活動時間となる。

 シャワーを浴びてから寝巻きに着替えて就寝。これが5時頃。能力を軽く使って時間を遅くしておくのも忘れない。流石に止めてしまうと、睡眠での体力回復より、能力の消耗が大きくなってしまい意味がなくなる。
 いつも、2倍程度に時間を延ばして寝ている。これならば8時間寝ても実質4時間なので、ハードスケジュールでも睡眠を確実に取ることができるのだ。





 9時。起床。

 本来ならばもっと早く起きて、朝食を作らなくてはならないのだが、唯一朝食を食べるのは美鈴だけだし、彼女は料理もできるので自分でやってもらっている。
 パチュリーは夜更かしして本を読み、昼に起きる。だが、昼は軽くしか食べないので、大抵はパンとスープで良い。これは、小悪魔でも用意できるようにしてあるから咲夜が動くことも無い。

 さて、今日も頑張るぞー。ブツブツ言いながらフラフラ立ち上がる。寝起き直後は極端に思考が鈍いが、誰かに見せるわけでもないので問題無い。





 9時半。朝の散歩をかねた見回り。

「おはよう美鈴。」

 そう言って拳を突き出す。それを軽くいなしながら

「おはようございます、咲夜さん。」

 と、美鈴が答える。

 最近は異変も起きていないし、襲ってくる輩も居ないので体が鈍ると、以前美鈴に話したところ。私とスパーリングでもどうですか?と言うので、毎朝10分ほど格闘形式のスパーリングをしている。
 弾幕ごっこでは弱い美鈴だったが、接近戦になれば本来の力を発揮できる。元々拳法の達人というのもあるが、気を使う能力も相成って、攻守ともに高レベルである。短い時間ならばレミリアと勝負になるかもしれない。

 この日も咲夜は全力で当てに行くが、全てかわされ、捌かれ、何回も寸止めされる。

「・・・・悔しい。」
「はっはっはっ、年季が違うのですよ、年季がっ!」

 バッバッババッっと素振りをしながら笑う美鈴。畑違いなのは分かっているが、悔しいものは悔しい。

「はぁ~・・・悔しそうな咲夜さんも可愛いですねぇ。」

 一瞬で顔が赤くなっていくのが分かる。もう、真面目に働きなさいよ。と言って逃走する。

「は~い。」

 美鈴は暢気に返事をした。





 9時50分。自室。

 スパーリングの汗を流して、軽い朝食を食べる。”文々。新聞”が届いていたので流し読む。別に頼んでいないのだが、お試しで1ヶ月お願いします。というので承諾したのだ。レミリアは暇つぶしに丁度いいから、購読するつもりのようだが・・・

「美鈴のあの動きは、流石よねぇ・・・ん?・・・”レミリア・スカーレット横暴!器物破損にも無視!”なにこの見出し?えっと・・・要するに自分のカメラが壊れた当て付けか・・・」

 そこには、可愛い文のカメラを壊されちゃったの☆みたいな文章が載っている。この記事を読んだ人は、ザマァとしか思わないんじゃないかしらと思う咲夜であった。


「他の記事は・・・死神怒られる、お賽銭箱を悲しそうに見る巫女・・・なによこれ・・・」

 きっと彼女には、他人の不幸はなんとやらなんだろう。こわいこわい。などと思いつつ、流し読んでいると一つの記事が目に飛び込んできた。


「!!!!!!」

 スクープ!紅魔館のアイドル、十六夜咲夜の寝顔!と書いてある。急いでそのページをめくると洗濯物を干し終わって、近くのベンチで目を閉じている写真が掲載されている。

「・・・これって、風が気持ち良いなって目をつぶった瞬間じゃない!・・・いい度胸じゃないの、あのアホウドリ。」

 パンチラとかじゃ無いだけマシな気もする、風を操る能力があるのだから。まぁ、文も女性という事なのだろう。だが、それはそれ。これはこれ。今度見かけたら、捕獲して食料庫に叩き込んでやろう。






 10時20分。紅魔館ロビー。

「今日は多いわね・・・。」

 妖精メイドの数が普段の4~5倍程いる。そもそも妖精なので、たくさんいても咲夜と同じ戦力(家事)になるか怪しい程度なのだが、居ないよりはマシなので雇っている。
 服は紅魔館の支給で、各自掃除や管理を任されている。真面目に仕事をするなんて事は無いが、少しはやってくれる。つまり、人数が多いという事は結構仕事が楽になるのだ。
 ちなみに報酬は妖精の安全保障と、たまのお菓子等である。安上がり。

「皆、注目。そこ、お喋りしない!」

 妖精の位にもよるが、基本的に喋らない。ただ、意思疎通を何らかの形でしているのは、様子を見れば分かるのだ。メイド長に怒られてアタフタする妖精ペア。
 気を取り直して説明をはじめる。今回は人手が多いので、細かく分けるから一人一人の仕事の量はかなり減ると説明する。

「つまり、少し頑張ったらお昼くらいには全て終わってしまうわ。そこからは、自由時間にして良いわよ。」

 妖精達がはしゃぐ。宙返りをする、踊りだすのてんやわんや。見かねて嗜める。

「あなた達、”少し頑張ったら”って言ったのよ!?一生懸命頑張ったらもっと早く終わるんだから、気合入れなさい!良いわね!」

 整列した妖精達が手を上げる。声は聞こえないが、「了解であります!」 といった感じだ。これなら、普段出来ない雑用も片付けられるだろう。いや、まとまった買出しに出かけてもいいかもしれない。どうしようか思案しつつ、各所のチェックに向かう事にする。





 11時50分。自室。

 掃除やら雑用やらはほぼ終わりかけているので、先に自室に戻る。紅魔館の倉庫の在庫台帳を取り出す。

「・・・・あー、もう血のストックが無いわね。他は・・・食材はとくに問題なし・・・備品備品・・・ロウソクが少ない・・・あ、新しいシーツと・・・モップと茶葉・・・と・・・」

 ブツブツ言いながらリストアップする。流石に一人では持てそうに無い。配達してもらう事も出来ない。人間がここに辿り着くのは難しいからだ。
 そうなると、妖精メイド・・・は、自由時間を楽しみにしているようだから、気が引ける。そうなると美鈴か小悪魔になる。まずは小悪魔を借りれるか聞いてみようかなと思案する。





 12時15分。厨房。

 パチュリーの為に、遅い朝食を準備している小悪魔を見つけたので声をかける。

「それはパチュリー様の?」
「あ、咲夜さんどーもです。見ての通りですよー。咲夜さんは?」
「私は昼食を作ろうかと・・・あなたの分も作りましょうか?」
「本当ですか?それはありがたいお話ですっ。じゃあお願いできますか?」
「えぇ、少しかかるからゆっくり丁寧にね。」

 わっかりましたー。と言って小悪魔がお盆を手に出て行く。
 いつもの事なのだが、妖精メイドの分も作っておく。妖精は食べなくてもいいのだが、美味しいものは好きなのだ。一種の娯楽が食べるという行為となっているようだ。


 しばらくして、ご飯を食べたい妖精がちらほらと食堂にやってくる。咲夜もお腹が空いたので、食べようかと思ったところで小悪魔が戻ってきた。

「あ、待ってて下さったんですか?ありがとうございます~。」

 そう言いながら席に着く小悪魔。

「遅いから先に食べようか迷ってたとこ。それと聞きたいことがあったのよ。」

 いただきます。と2人でしてから、スープを飲む。玉ねぎが実に美味しい。

「むぐ・・・。ひひたいことっふぇ、なんれす?」
「飲み込んでから喋りなさいよ。まぁいいわ、午後からお買い物に行くんだけど、結構量があるから人手が欲しいのよ。頼めるかしら?」
「んー・・・パチュリー様に聞いてみますね。」

 そう言うと、イヤリングのような物を取り出した。耳につけている小悪魔に尋ねる。

「それは何?」
「あ、はい。これはテレパシー装置だそうです。厳密には違うそうですが、イメージ的にはテレパシーみたいなものらしいです。・・・・あ、パチュリー様?私ですよ~。・・・はい、いえいえ。・・・ちょっと、咲夜さんに買い物の手伝いを頼まれてですね・・・そうです。午後いっぱい・・・かかりますか?咲夜さん?」
「そうね・・・4時くらいには戻れると思うけど・・・あー、5時くらいになるかもしれないわ。」
「4~5時だそうです。あ、そうですか。はい、えっと・・・木炭ですか?わかりましたー。はーい、はいー。行ってきますねー。・・・・と、ゆーことなんで大丈夫ですよ。」
「それは助かるわ・・・これ、リストなんだけどね。」

 ポケットから取り出したメモを小悪魔に見せる。

「結構ありますね。あ、この園芸肥料売っている所って木炭あります?」
「どうだったかしら・・・行ってみないと分からないわ。」
「まぁ、これだけ回るんでしたら、どっかにあるかもしれないですし大丈夫でしょう。」

 小悪魔は、そう言うと皿に残っていたポテトを口に運んだ。





 13時。紅魔館正門。

「いいなぁ、私もお店回りしたいなぁ~?」
「遊びに行くんじゃないのよ、美鈴。」

 分かってますよぅと拗ねたふりをする美鈴。

「まぁ、お気をつけて~」

 ブンブン手を振る美鈴に軽く手を掲げて歩き出す。


「最初はどこから行きますか?」
「んー・・・雑貨関係からにしましょう。あっちの人里にある店ね。」
「了解です。しかし、平和ですねぇ。少しジメジメしてますが・・・」

 確かに、晴れてはいるし気温もちょっと高めだ。暑いと思うほどではないが夕立が来ないことを祈ろう。

「そういえば、最近お嬢様が血をあんまりというか、全然飲まなくなったのよね。大丈夫なのかしら?」
「言われてみれば・・・吸血鬼って、飲まないと駄目ってわけじゃ無いんですかね?」

 そうなのだ、以前は飲み物や食べ物に混ぜたりしていた。それ自体はリクエストがあれば混ぜる、といった感じで行っていたが、その頻度が下がったというか、本当に少なくなったのだ。

「さぁ・・・私には分からないわ。でも機嫌悪かったり、とか体調が悪そうとか無いみたいだし、案外平気なのかしら?」
「吸血鬼の本人に聞かないと分からないですねぇ。」

 聞けるわけ無いでしょ。と答えてから、

「それに、パチュリー様の不健康さも相当よね?」
「あはは、違いないです。”紫もやし”なんてどこぞで言われているらしいですよ。」
「ぷっ、なにそれ。」
「あ、今笑いましたねっ?パチュリー様に言いつけちゃいますよ~?」
「言ったらあなたも怒られるんじゃないかしら?」

 仲の良い姉妹のように会話をしながら、林道へ。



 しばらく歩くと見知った顔を見つけた。

「あれ?チルノじゃない。」
「あ、メイドだ。なにしてんのこんなとこで。」

 氷の妖精チルノが居た。花を眺めていたようだ。

「私達は買い物に行く途中よ。アナタこそ何をしているの?」

 ふふん。と鼻を鳴らしてコレよ。と言って花を見せてくる。

「名前は知らないですけど、綺麗な花ですねぇ」
「その花がどうかしたの?」

 興味津々な小悪魔と意図が分からない咲夜。

「この裏。この辺舐めたら分かるよ。」

 摘み取った花の裏側。丁度、雌しべの根元に位置する部分を指差すチルノ。小悪魔は、それを受け取って指定された場所を舐めてみた。

「あ、甘い。というか美味しいですね。」
「でしょー?」

 まるで自分の事のように胸を張るチルノ。咲夜も花を摘み取って、指で触ってみる。指に透明な液体が付着したので、それを舐めてみる。

「・・・蜂蜜と同じ感じかと思っていたけど、これは甘いけどサッパリしてるわね。アイスティーに入れたら美味しいでしょうね。」
(補足:種類にもよりますが、花の蜜は瑞々しい甘さとスッキリとした味わいです。お試しあれ)

「でも、ちょっとしか無いんだよねー。いっぱい舐めちゃうと花が無くなっちゃうし、1日3つまでにしてるの。」
「まぁ、一回舐めて終わりですもんねー。」

 残念そうな顔のチルノと、苦笑する小悪魔。なかなかお似合いの2人ね、なんて思う。青と赤だし。

 そろそろ行くわ。とチルノに告げて歩き出す。ばいばーいなんて手を振る小悪魔。私も、またね。と言っておく。

「あ、こんど遊びにいくってレミリアに言っといて。」
「ん、伝えておくわ。」





 13時半。人里。

 目的の雑貨店に向かう道中、人々の注目を集めているのが分かる。メイド服と小悪魔のコンビはかなり目立つからだ。それに男性の視線が恥ずかしい。咲夜のスカートは、どちらかといえば短い。女所帯の紅魔館では気にならないが、ここは違う。こればかりは慣れるものではない。あと、風吹かないで下さい。

 それと、もう慣れたものだが、悪意の目もいくつか存在する。紅魔館近辺に来てしまい、スカーレット姉妹の血肉となってしまった人間の親族やら友人やらは、紅魔館の関係者をこころよく思う筈も無い。
 他にも、弱みを握れているから若い咲夜がメイドしてる、と誤解している人も居たりする。要するに、普通の目で見られることは少ない。

「咲夜さん、大丈夫ですか?」
「えぇ、いつもの事だけどね。・・・まぁ、気持ちのいい物じゃないのは確かよ。」

 中には咲夜に親切にしてくれる人もいるが、少数派であることは間違い無い。


 しばらく歩いていると、目の前にボールが転がって来た。

「?」

 転がってきた先には、少年とその弟だろうか、怯えた目でこちらを見ている。咲夜はボールを拾い上げ、歩み寄って、

「これ、アナタのよね?」

 そう言ってボールを渡そうとするが、少年は動かない。不意に少年が言う。

「おねーさんも吸血鬼なの?」
「・・・いいえ、違うわよ。」
「じゃあ、なんで吸血鬼と一緒にいるの?」

 改めて聞かれると、悩んでしまう。尊敬・・・とは違うし、単純に慕っていると言っても広義が過ぎる。相手が子供という事もあって、単純明快な言葉を探すが出てこない。すると、小悪魔が一歩前に出て、

「私達のお嬢様はとっても優しい方なんですよ。」

 でも。と男の子は言う。友達のお父さんが紅魔館の付近で消息を絶ったと。確かに、紅魔館が絡んでいるかもしれない。
 これは内部事情なので言えないのだが、他の妖怪に襲われて死にかけた人間を確保している。もちろん食料として。どの道死んでしまうのだから、回収して有効利用する。これが紅魔館の方針。五体満足な人間を捕まえた時は、見逃す代わりに多少の血を提供してもらう。ついでにある程度安全なところまで見送りすることもある。
 自然界的に見ればギブ&テイクをキッチリ守っている。人間からすれば、瀕死の人間を拉致して食べる。近づいたら血を抜かれる。といった感じになるだろう。それでも、かなり人間に対しては甘いと言える。

 ともかく、はっきりと言える事は、紅魔館の吸血鬼は自発的に人をどうこうしないと言う事だ。どうこうした所で、貧血になるだけだ、仲間にする気があれば別だろうが、レミリアにはそんな気は無い。
 それに、紅魔館の周辺にはやっかいな妖怪が多い。人間見つけたら食べていいと思っているやつ、イタズラ心で氷付けにして遊ぶやつ・・・誰とは言わないが。

 咲夜は、人間との会話を比較的苦手にしている。そもそも、まともに共同生活したのがレミリア達だけなのだ。人間でも別格な力を持つ場合は問題ないのだが、一般的な人間と接する機会が極端に少ないので、何を言っていいか分からなくなる。今回も例に洩れず、内心はちょっとしたパニックなのだった。

「それは、他の妖怪だと思いますよ。紅魔館の周りには、人を襲う妖怪がたくさん居ます。お嬢様は人を襲ったりはしません。確かに血を飲みますけど、その時は、ちゃんとお話した上で少し血を分けていただくんです。健康にも問題は起こりません。誓います。」

 咲夜は、小悪魔の会話スキルに少し驚いた。むしろ、悪魔だからこその会話スキルなのだろう。男の子は、しこりはあるものの納得してくれたようだ。

「でも、おねーさんはなんで大丈夫なの?怖い妖怪いっぱいいるんでしょ?」
「え?えぇと・・・」

 咲夜が言葉に詰まると、小悪魔が、例の手品でも見せてあげたらどうですか?と言ってきたので、そうする事にする。手品と聞いて、兄弟は目を輝かせる。見せて見せてと、

「じゃあ、このボールを・・・。」

 そう言って時間を止めて、弟の手にボールを置いて、時間を戻す。

「わっ!?ボールが・・・」

 兄のほうは、消えたボールに驚き、さらにそのボールを弟が持っていたことにまた驚いた。弟は目をぱちくりさせている。

 咲夜は、また時間を止めて小悪魔の頭上にボールをセットし、再び時間を戻す。

「あれ?また消えた。」

 ほんとだー。と相槌を弟が打った瞬間、間の抜けたポコンという音がした。そこには、小悪魔が頭を抑えてビックリしている姿と、その足元に跳ねるボール。
 何が起きたのか理解した兄弟が笑う。小悪魔は酷いですよと不平を言い。咲夜はその光景に満足した。



「おねーちゃん、元気でね。行こう。」
「ばいばーい、待ってよ兄ちゃん。」

 兄弟と別れる。小悪魔が良かったですねと言ってきたので、それより早く買い物終わらせないとね。と返して道を急いだ。
 照れなくても良いのに、と小悪魔が言ったが聞こえないふりをした。慣れない事はするもんじゃない。





14時20分。人里。

 3件ほど、はしごして雑貨を買い揃える。持ってきた折りたたみ式のキャリーを転がしながら、次の店に向かう。次は園芸関連の店だ。ここで木炭が無かった場合は、調理器具を扱っているところになるのだが遠い。ここで買えたら良いのだが・・・。

「木炭なんて何に使うんでしょうね?」
「私が知るわけないでしょう・・・。」
「真面目ですねぇ、ジョークで返したりしてみ・・・ごめんなさい。」
「別に怒っていないわよ?睨んだだけ。」

 店に入って、家庭菜園コーナーへ向かう。プチトマトの種が売っていた。いいなぁ、とつい呟く。家庭菜園ですか?と小悪魔。テラスでちょっとした物作って、その場で食べられたら素敵じゃない?と返すと、それならイチゴとかどうですか?と言われた。
 甘いものなら、お嬢様のお茶請けになるかもしれない。でも、育て方が難しいんじゃなかったかと首をひねる。折角なので店主に難易度を聞いてみたところ、そんなに難しくないけど今から作ると時期がずれちゃうから、あんまり甘い実は付かないだろうと言われた。
 残念だが仕方が無い。テラス菜園計画はまた今度にしよう。お嬢様にはフラン様の情操教育として説明すれば、許可が下りるはずなので問題ない。

「咲夜さんって、そうゆうの好きなんですか?」
「んー、自分で何か育てたり作ったりするって楽しいじゃない?」
「私には分からないですねぇ・・・それって人間特有なんじゃないですか?」
「達成感とかって悪魔には無いの?自分がここまでやってやったぞー。っていう感覚。」
「達成感ですか、確かに頑張った事が上手くいけば嬉しいですけど・・・ただ、それだけって感じですかねぇ。」



 感覚の違いについて、あれやこれやと議論していると魔理沙がやってきた。

「あれ?珍しい組み合わせじゃないか?どうしたんだよ、こんなところで?」
「魔理沙・・・貴女こそ、こんなところで何をしているの?」

 こんなところ連発である。店主の耳に入ったらと、小悪魔は少し不安そうだ。

「私はキノコの為に腐葉土と、何か便利そうな小物なんか無いものかと思って来たんだぜ。」

 そう言いながら、小さいスコップを手に取り品定めをする。重いなコレ、そう言って棚に戻す。

「で、お前らは何してるんだ?」
「私は、ちょっとした物を栽培しようかと思っていたんだけど、タイミングが悪くて諦めたところよ。」
「パチュリー様のお使いで、木炭探してるんです~。」
「木炭?また、何に使うんだろうなぁ、木炭なんて・・・」

 木炭を練成しても出来るものは少ない、と魔理沙は言う。

「もしかしたら、湿気対策かしら?」
「そんな効果があるのか?」
「えぇ、服と一緒に入れたりするとニオイとかカビを防止する効果があるのよ。」
「へー、生活の知恵ですねぇ。」


 とりあえず、おじさんに木炭あるか聞いてきます、と言って奥に入っていく小悪魔を見送る。

「私も”土”見ないとな。」
「森に住んでいて、腐葉土に困るの?」
「いや、成分の関係でさ。違う土地のやつで試したいキノコもあるんだよ。」
「へぇ、相変わらず研究熱心ね。」
「素直に言うな・・・、調子が狂うぜ。」

 照れ笑いを浮かべた魔理沙は、土を扱うコーナーへ。小悪魔は店の主人と何やら話しているし、どうしようかと店内を見ると、

”お買い得!ミニサボテン お部屋のインテリアに!”

 どうやら、セール品のようだ。近づいて見ると可愛らしい小さい花をつけた物がいくつかある。自分用に一つ買おうかと悩むが、手入れが特に要らない手軽さと安さに釣られて買うことにした。
 丁度、小悪魔もちょうど良い木炭が見つかったようなので、一緒に会計をして、店を出る前に魔理沙に声をかける。

「魔理沙、私達はもう行くわ。他にも寄るお店があるのよ。」
「魔理沙さん、ちゃんと本返してくださいねー。」

 おう、またな。本は死んだら返すぜ。といつも通りの答えが返ってきた。困った魔法使いだ。





15時。人里の茶店。

 園芸店から出て、少し買い物していたら15時近くになっていたので、休憩するべく茶店に入る。小悪魔自身、自分のお金を所持していないので私の奢りだ。

「咲夜さんは女神ですか?」

 そう言って、涙が目に溜まっていく小悪魔。普段どんな扱いをされているのやら・・・。
 とりあえず、オススメという緑茶と団子を注文する。シンプルだが、これが良いのだ。向かい側の席にも客がいる。その横には大きな鎌が置いてある。
 鎌・・・?って事は・・・

「んー?紅魔館のメイドさんじゃあ無いか、奇遇だねぇ。」

 向こうも丁度こちらに気が付いた。死神の小野塚小町である。

「久しぶりね。以前は美鈴のところに良く来ていた様だけど、最近は見ないわね?」
「いやぁ、四季様にばれちまったんだよ。”どこでサボっているのかと思ったら、あんな所まで出かけてあーだこーだ・・・”って言われちゃってねぇ・・・で、もっと遠くまで来たのさ。」
「いや、働きなさいよ・・・」
「かっこいいですねぇ、私もサボりたいです・・・」

 小悪魔、お前もか・・・。小町が皿と湯飲みを持って立ち上がり、こちらの卓に置く。

「相席しても構わないね?」
「もう、置いてるじゃない。」
「細かいことは気にしたら駄目さね。」

 カラカラと笑う小町。これが彼女の人柄を良く表している。人懐っこくて、単純明快、姉御肌。見たままだが、彼女なりに思うところはあるはずである。何しろ、死神なのだ。今は、船頭をしているが、彼女の能力を考えればそうで無かった時期、つまり・・・命を刈り取る仕事をしていた時期もあったのでは無いか。
 だいたい、彼女の様な性格をしている人物は、過去に何かあってから、明るく振舞っている事が多いのだ。だからこそ、こんな勤務態度でも首になったりしないんじゃないかと想像する訳である。真実は彼女が語らない限り分からないが、過去を話す素振りは一切見せないので、一応聞かないようにしている。

「で、死神がこんな人里に下りて大丈夫なの?」

 死神の存在は、人からすれば忌み嫌う存在で、畏怖の対象である。そんな彼女が人里に降りてきて、あまつさえ茶店でのんびり過ごしているのだ。言うなれば、羊の群れに狼が乱入するくらいの大事件だ。
 それなのに、店員は普通に会話しているし。通りを通る人は、小町を見てもこれといった反応は示さないのだ。逆に違和感を感じてしまう。

「ん?あぁ、最初は結構怖がられたさ。そりゃあ、死神様がうちの町に何の用だ?ってなるさ。」

 団子を口に放り込みながら続ける。

「まぁ、こっちも何も考えずに来ちまったのが悪かったしね。仕方が無いから、別のところで時間潰そうかと思ってたんだよ。そしたらさ、子供がチマチマ歩いてきて、鎌を指差してこれなぁに?って言うんだよ。」

 その光景が、余程印象に残っているのだろう、思い出し笑いをしている。

「くくっ、でね?慌てた母親が飛び出してきてさ、謝るんだよ。うちの子が申し訳ないだの色々さ。結局行き着くところは、命だけは・・・これだよ。参っちまうよ、死神の印象なんてそんなもんだろうけどさ。」

 まぁ、小町にとっては不快だろうが、そんな反応だろう。どこに行っても、妖怪でさえもそう思っている。命を狩る死神。紛れも無い事実だし、間違ってもいない。狩らない死神がいるという事を普通は考えもしないし、思いつかない。

「なんか、釈然としないから言ってやったのさ。坊主、これは大鎌だ。何に使うか分かるかい?ってね。さぁ、母親はパニックだよ、子供も母親が慌てるもんだから、ことの重要性になんとなく気が付き始めた訳さ。」

 小悪魔は聞き入っている様だ、しきりにふんふんと顔を上下に動かす。口が半開きで実に間抜けだ・・・

「ふふふ。と悪そうな笑いを入れて、一呼吸置いてから。草刈に便利だろう?って笑いながら言った時の、あの母親の顔・・・くくっ・・・あははははは・・・・いやぁ、傑作だったね!氷漬けっていうのはあんな感じなんだろうねぇ・・・くくくっ・・・」
「・・・悪趣味ね。」
「悪魔の私としては、勉強になります。」

 咲夜はジト目で、小悪魔は偉大な人を見る目で小町を見る。

「まぁ、ちょっと意地悪だったけどさ。まだ、頭の中が混乱している母親に謝ったんだよ。悪ふざけが過ぎた、申し訳ないってさ。んで、死神だけど、三途の川の船頭をやっているんだ、もしかしたらアンタのとこの人も運んだ事あるかもしれないって言ったら、目を丸くして。今度は感謝だよ。いやはや、切り替えが早いお人だったよ。」

 そりゃあそうだろう、死神と船頭では全然イメージが変わる。有難くない死神と有難い船頭なのだから、当然だ。命を奪う存在と、命を最後の旅へと誘う存在。

「どっちにしろ、両方死神の仕事なんだけどねぇ。分担はしているけれど、一応両方の技能は皆ある程度は持ってるしさ。それに無差別に命を狩るわけじゃないんだけど・・・まぁ、ここらへんは企業秘密なんだけどさ。」

 教えてやらないし、教えたら怒られるからねぇ、と言う。怒られる程度で済むのかと突っ込みそうになる。

「んで、この町の連中とは徐々に打ち解けていきましたとさ。めでたしめでたし。そんな話さ。あ、もちろん子供の相手したり、じーさんの肩揉んでやったりとか、したんだよ?」
「そんな所で努力するなら、普段の仕事で努力しなさいよ。」
「四季様みたいな事、言いっこ無しで頼むよ?堅苦しいのは無しでさ。」


 他にも話を聞いていると、町の子供が小町を見つけて寄って来た。

「小町ねーちゃん、また勝負しようぜー!」
「おー、今度はなんだい?なんでも来いってなもんさぁ。」
「木登りしよっ!」
「えっ!?・・・・あぁ・・・あー・・・一応アタシャ女なんだけどなぁ・・・」

 小町が困った顔をこちらに向ける。小町の着物は奇抜なデザインだが、下半身部分はスカートのような感じのデザインなのだ。目で助けを求めているが、仕事をサボっている報いね、と言って突き放す。

「いや、それは同じ”女”として助けてくれよ?な?頼むよ?」
「駄目よ。同じ”働く者”として、譲れないわ。」
「うっ・・・」
「閻魔の説教とどちらが苦痛なのかしら?」
「・・・・・木登り上等じゃないか。でもちょっと待っておくれよ、おはぎ食べてるし・・・そうだ、半分食べるかい?」
「え?いいの?じゃあ、食べる!」

 満面の笑みを浮かべる顔の前で、食べかけのおはぎを掴み、ほら口開けな、と子供の口に押し込む。

「貴女、その豪快さがあるのに、木に登るのには気を使うのね。」
「いやぁ、なんか見てるこっちが恥ずかしいですねー・・・」

 子供相手なのだが、意外とウヴな瀟洒なメイドと小悪魔は赤面している。

「へ?何言ってるんだい?まぁ、そーゆーこったから、お暇させてもらうよ。また、相手しておくれなー。」

 そう言うと、颯爽と去っていく。嵐のような慌しさだが、本人は楽しそうだし良いのだろう。

「豪快な方でしたねー・・・」
「そう?彼女はどっちかと言えば繊細なほうだと思うわ。」

 へ?なんでですか、と尋ねてくる小悪魔に自分で考えなさいと言っておく。


(人間と仲良くできる死神ね・・・)



――タタタタタッ



「小町ーーーっ!お勘定ーーーーっっ!!!」



 店のおばちゃんが飛び出した。



 小悪魔の口からは、お茶が飛び出した。





15時40分。人里。

「すみませんでしたごめんなさい。」
「気にして無いとは言えないけれど。・・・まぁ、貴女も被害者みたいなものでしょ。」

 あの後、お店の人からタオルを借りて多少は拭き取ったが、メイド服に染みた水分だけはどうしようもなかった。結局、小町の勘定は今度来た時に受け取る事にすると言っていたが、ちょっと甘やかし過ぎでは無いだろうか・・・

「いつも相手をしている閻魔が気の毒になるわ。」

 きっと、あの調子でフラフラとしているに違いない。何百年は生きているはずの癖に、あれじゃあただの問題児。そのうち、閻魔の胃に穴が開くんだろう・・・天狗が喜びそうなネタではある。

 気を取り直して、次の店へ向かう。布を扱う店だ。服、カーテン、シーツ・・・と、布関連の物を数多く取り扱っている。紅魔館の遮光カーテンは、この店での特注品なのだ。他の物も基本的にこの店のお世話になっている。所謂、お得意様。
 最近は、紅魔館の衣類まで任せている。仕事が遅いのが欠点なのだが、質は良い。多少、値が張るものの有体に言えば高級品に分類される。弾幕ごっこでも痛まない、なんて謳い文句は伊達ではないようなのだ。

「いらっしゃい・・・あら、咲夜じゃない。」
「ご無沙汰しておりますわ、奥様。」
「今日は、一人ではないのね。こんにちわ、えぇと?」
「紅魔館で司書をしています、小悪魔ですー。」

 挨拶を交わした初老の女性は、この店の販売担当である。製作担当は、夫がやっているそうだが見た事は無い。職人気質で気難しく、「俺は作る、お前は売る、だから店には出ない。」だそうだ。夫婦でひっそりと経営している店だが、紅魔館御用達というのがいつのまにか広まり、色々なところから注文が入るようになったらしい。

「それで、何をお探し?」
「また、”あの”遮光カーテンを3枚ほど・・・サイズなんですが・・・」

 そう言って、寸法をリストアップした紙を渡す。紅魔館専用の注文書である。

「あら?そのサイズは、前回作ったばかりでは無かったかしら?」
「えぇ、そうなんですが・・・その・・・破れて・・・破いてしまったのです。恐縮ですが、再度お願いしたいのです。」
「あはは、貴女も色々大変そうね。分かったわ、急いでいないのであれば2週間ほど頂きたいのだけれど・・・」

 たかがカーテンなのだが、吸血鬼用の遮光カーテンは、特殊な術をかけた布を数枚重ねて作る。故にかなりの手間を要するのだ。それでも、その術が発見されるまでは、単純に布を重ねて相当分厚くしていたらしいので、作業自体の手間はそんなにかからなくなったと言っていた。

「急ぐわけではありませんので、問題はありませんわ。」

 小悪魔は、いつの間にか奥のほうに移動していた。どうやら服を見ているようだが、汚したりしないか心配だ。もし、そうなった場合はもちろん買取をする。きっと、気にしない大丈夫と言ってくれるだろうが、ケジメの問題だ。しかし、それを紅魔館の予算から出すわけにはいかない、そして小悪魔はお金を持っていない・・・そう、私が払うのだ。それだけは避けたい・・・いや、避けなければ駄目なのだ。
 そう決めたとなれば、話は早い。時を止めて、小悪魔を抱えて店の外へ。万が一に備えて用意していたロープを取り出して、体に巻きつける。余った分を近くの木に結んで完成。店に入り、時を動かす。

「そう、有難いわ。それじゃあ、代金はこのくらいでどうかしら?」

 そう言って見積書を見る。かなりおまけしてくれたようで、予想をはるかに下回る値段だ。

「こんなに・・・良いのですか?」
「構わないわよ。お得意様ですもの。」
「そうですか、それではお言葉に甘えさせていただきます。」
「ところで、小悪魔ちゃんは何処に行ったのかしら?」



 その小悪魔。

「はぁー・・・綺麗な服ですねぇ・・・いいなぁー・・・試着とかさせて貰えないのかなぁ・・・」

 そんな独り言をぼやいていると、突然目の前の景色が変わる。

「え?あれ?」

 横を見ると、先ほどまで居た店の看板が立っている。なんだ、店の横じゃないか、安心して歩き出そうとしたが動けない。そして、すぐに気が付いた。

「動けない・・・縛られた?えー・・・なんか悪いことしましたっけ?もしや、小悪魔ごときが試着など、儚い夢だったんでしょうか?いやいや、それはあまりに酷い。人権侵害で訴えることもやむなしですよ!悪魔ですけど・・・・そもそも、咲夜さんはいつもいつも理由も言わずにこんな事するのがおかしいんですよ!美鈴さんにもそうですけど、唐突にお仕置きしたり酷いです。それは鬼畜というに・・・」

 小悪魔は、裁判で自己弁護を繰り広げて勝訴するという妄想を繰り広げる。そして、異議ありっ!!と唱えるシーンに心躍った時、目の前にメイド服が、

「うるさい。」

 咲夜のげんこつが頭にめり込んだ。





16時15分。林道。

「え?それだけで私を外に?」
「だから、悪かったと言っているでしょう?」
「いやいやいや!悪かったで済むなら夢想封印もマスタースパークも要りませんよっ!」

 滅茶苦茶な事を言うが、根っこの部分は正論だ。む、と唸ってしまう。

「確かに、一理あるわ。じゃあ、貴女は何を求めるの?」
「なんかあっさり認められるのも、悔しいですね。」
「どうしろっていうのよ・・・」
「そうですねぇ、毎月お小遣いもらえませんか?」
「まぁ、それくらいは・・・何か欲しいものでもあるの?」

 でへへへ・・・と不思議で凄く怪しい照れ笑いした。

(何か企んでると変な笑いになるのは悪魔だからかしら?)

 少し間を置いてから、

「パチュリー様に何かプレゼントしようと思ってるんです。」
「へぇ、それはいい考えね。」
「そうでしょう、そうでしょう。私は主人思いの使い魔なんですよ。」

 そう言い、胸を張る小悪魔。多分、パチュリーの事だから、照れてしまって心にも無い事を言うのだろう。そして、小悪魔が拗ねるのだ。拗ねた小悪魔を見て、自己嫌悪するに決まっている。結局、フォローを入れるのは・・・

「やっぱり、私よね・・・」
「はい?何がですか?」
「なんでも無いわ、仕事が増える事を思い出しただけよ。」
「はぁ、そうなんですかぁ・・・大変ですねぇ。」

 色々言いたくなるが我慢をする。



 しばらく歩くと、チルノが倒れていた。

「・・・・・・・・・・・・・。」

 あれだ、トラブルの予感しかしない。正直言って、早く帰りたいのだ。さすがに疲れていたので休憩してから、これからの仕事に取り掛かりたい。私は人間だ。妖怪のようにアホみたいな体力は無い。
 だから、。何も見ていない。そうだ、チルノは居なかった。一回見ただけで、帰り道は実に平和だった。そうなのだ、問題なんて無い。さぁ、歩き出そう。休憩した後には、夕飯もとい朝食の下ごしらえが待っている。
 この間、約5秒。

「大丈夫ですかー?」

 ゆさゆさと小悪魔がチルノを揺する。

「待てや。」

 思わず変な言葉になるが、気にせず小悪魔を引っ張る。

「なにしてんのよアンタ、わたしはおうちにかえりたいの。」

 幼児退行まで起こすほどに動揺。時を止めればいいのだが、それも思いつかない。

「は?倒れている知人に声をかけるのは普通じゃないんですか?」
「いい?これは絶対にトラブルの元になるわ。だから、見なかったことにしなさい。お願いだから。」
「どうしたんです?なんか変ですよ?」
「私は疲れているのよ。少し余裕を持って帰ったら、休憩して仕事に行きたいの。むしろ休まないと倒れるわよ?」

「さっきから、何をヒソヒソやってるんですか?」

 背後から声が聞こえた。ああもう、誰でもいい、誰でもいいが、トラブルにならないヤツを頼む。そう、願いを込めて振り返ると・・・

「やぁ、お久しぶりですね。幻想郷”いち”の記者で最速の鴉天狗さんですよー。」

 ニコニコと長い挨拶をする文が居た。うわぁ・・・一番酷いのが来たけど大丈夫か?大丈夫じゃない、問題ある。

「あ、文さんこんにちわー。」
「小悪魔さんでは無いですか、珍しいですねー。”咲夜”さんと一緒だなんて、いやぁ、本当に珍しいですねぇ。」

 思い切り、咲夜を強調しやがった。絶対ネタにする気だ。チルノは多分、諏訪子当たりにやられて倒れているだけなんだろうけれど、それを私が何かしたとか絶対そう書く。
 あ、なんかニヤニヤしてる。腹立つ。しかし、ここで怒ったら思う壺だ。我慢、我慢よ咲夜、がま・・・・ん?ちょっと待つのよ私。何か引っかかる・・・なんだろう。文で引っかかる事・・・


 文・・・・新聞・・・・・・記事にされる・・・される?・・・いや、過去形だ・・・されていた・・・・咲夜は。記事に。されていた。


「・・・・・思い出したわ。そうよね、そうよね。あはははははは・・・」

 異様なオーラを発しつつ笑う。

「「・・・咲夜さん?」」

 もの凄くどす黒い人間のオーラに圧倒される悪魔と妖怪。まるで、金縛りにあったように動けない。事実、動けないのだ、文だけは。

「あやややや?あのぅ、なんかロープでぐるぐる巻きにされているのですが~?」
「そうね。巻いたもの。私が。巻いたの。私がね。」



 やばい、殺されるかもしれない。直感的にそう思うが逃げられない。鴉天狗はパワータイプの種族ではない、それでも普通のロープくらいは引きちぎる事ができるなずなのだが、無理だった。そもそも逃げようとしても、咲夜から逃げるのは不可能に近い。
 それならば、説得だ。言葉でならなんとかなる。それに自分は頭の回転も速いのだ。

「・・・咲夜さん。せめて、何故私がこのような目に合うのか。それを教えていただかないと納得できませんよ?」

 まずは、理由を聞いてから適当に話を回せばいい。咲夜と言えども所詮は人間。鴉天狗とは頭脳が違うのだ。

「理由?理由ですって?カラスも所詮は鳥ね。この、と・り・あ・た・ま♪」

 流石にカチンと来るが形勢不利は変わらない。今の言葉からするに、原因は私にあるようだ・・・何かした?いや、特にこれといって、咲夜に何か言ったり手を出したりしていない。鳥頭、つまりすぐ忘れるのね。そう言いたい訳なのだから・・・むむむ、と悩む文。

「やれやれですわ。仕方が無いので教えて差し上げましょう。今朝の新聞に何の写真を載せましたか?」

 写真・・・写真・・・確か、紅魔館とレミリアのバストアップを一面に使って・・・他には・・・・

「あ、あぁ・・・えーと・・・な、なんでしったけかなー?」

 思い出した。風を起こして、ベンチに座っている咲夜の目を閉じさせた写真を載せて”居眠り”記事を書いたんだった。まずい、これは非常にまずい。それで怒っているのだ。自分の記事なのにすっかり忘れていた。



「・・・なんでしたっけかなー?」

 そう言う文の目は落ち着きを無くし、冷や汗まで出ている。思い出したようだ、あの記事の事を。しかし、まだしらばっくれようと足掻いている。無駄なことを・・・

「いいわよ、思い出さなくても。思い出そうが、忘れようが貴女の運命は変わらないのよ。」
「へ?」

 ニヤッと口を歪ませる。これは意図的に見せているのだが、効果はあったようだ。文は青ざめて、少し泣きそうになっている。

「小悪魔、私のキャリーもお願いできる?」
「えっ?良いですけど、どうするんです?」

 文のほうを指差しながら、小悪魔が聞く。

「連れて行くのよ。紅魔館にご招待ね・・・ふふふふ。」

 そう言ってナイフを取り出し、微笑みながら文へ向き直る。禍々しいオーラが目に見えるような雰囲気を出して、ゆっくり、ゆっくりと歩を進める。

「ひっ・・・来ないで・・・あの記事は謝るから!助けて!写真なんかで死にたくないっ!」

 いつもの余裕ぶった口調が無くなって、素の口調になっている上に、記事のことを隠す余裕も無いようだ。

「大丈夫よ。”ここ”では何もしないわ。」

 そう言って、ハンカチを文の口に当てて縛る、簡易な猿ぐつわだ。

「んーーーっ!んむーーっっ!!」

 まるで荷物を扱うように肩に担いで歩き出す。

 咲夜さんって、レミリア様の前以外だと結構はっちゃけるんですねぇ、なんて小悪魔が呟くが本人には聞こえなかった。





16時40分。紅魔館門前。

「あっ、おかえりなさ・・・い?・・・・なんですかソレ?」
「ただいま美鈴。コレ?」

 そう言って地面に下ろす。文は気絶していた。実は、道中でふらついた咲夜が木にぶつけてしまったのだ。頭から木の幹に激突したのでたんこぶが出来ている。

「文さんじゃないですか・・・なんかボンレスハムみたいにぐるぐる巻きですけど、何があったんですか?」
「まぁ、知らなくて良いことよ。とりあえず納屋に入れておくけれど、絶対に近づいては駄目よ?きっと、言いくるめられるでしょうから。」
「文さん、頭良いですからねぇ・・・」
「そういう事よ。小悪魔、貴女はパチュリー様に”アレ”を届けてきなさいな。後は私がやるわ。ご苦労様。」
「そうですか?じゃあ、”これ”届けてきますね。文さん、あんまりいじめちゃ駄目ですよー?」

 そう言って、木炭の箱を抱えて走り去る。

「さてと、荷物片付けないとね。」
「手伝います?」
「そうね、じゃあ園芸関係・・・あの箱と、それ持ってきてくれる?私は”コイツ”を持っていくから。」
「なんか、もの凄く・・・こう・・・憎しみを感じるのですが・・・この箱ですよね?」
「気のせいよ美鈴。そう、その箱とあれ、お願い。」

 そう言ってから2人は納屋へ入る。

「ちょっと暗いですね、ここに置いておけばいいんですか?」
「えぇ、そこでいいわよ。・・・・あったあった。」

 そう言うと、咲夜は奥にあった”箱”の蓋を取る。

「それ、棺じゃないですか。お嬢様のやつじゃ?」
「これは予備のやつよ・・・・よいしょっと。」

 その中に文を入れて蓋をする。その上に、箱を開かなくする術が書いてある布をかけた。

「そんな厳重にしなくても・・・少し可哀相ですよ・・・。」
「いいのよ、少しはお灸を据えてあげないとね。」

 楽しみね。そう言って咲夜は笑った。





18時。紅魔館食堂。

「咲夜~、ケチャップ取って~。」
「はい、どうぞ。」

 フランドールに渡す。本来はかけるのも咲夜の仕事だが、自分でかけるのが良いらしい。今日は自分の名前を書いているようだ。

「んふー。」
「フランドール様、お上手ですね。」
「食べるのもったいなくなっちゃうね。」
「お気持ちは分かりますが、食べてくださいね。」

 ケチャップだらけになった、ポテト入りのスクランブルエッグを口に運ぶ。ぽろぽろ落ちているし、口の周りもケチャップだらけだが幸せそうだ。実に可愛い。
 レミリアもそうだが、子供の状態で成長が止まっている。ある程度の経験の蓄積はされるようだが、されない物もある。食べ方に関しては・・・お世辞にも上品とは言えない。特にフランドールは顕著だ。フォークの持ち方も持つというより、握っていると言う方が正しい。それも可愛いところだ。
 メイド長という役職は忙しいし、気も使うが・・・うん、これは役得と言えるだろう。絶対顔には出さないが、咲夜だってまだ若いし少女なのだ。可愛い物が嫌いなわけが無い。

 どこぞで、忠誠心は鼻から出る。なんて言われている事も否定できない。もし、鼻血が興奮で出るのであれば出ているはず、そう自覚している。何度も言うが、絶対顔には出さない。だから、瀟洒なのだ。

「咲夜、ちょっと・・・。」

 レミリアが咲夜に手招きする。

「はい、何でしょう?」
「そろそろ、フランにもテーブルマナー教えたほうが良いかしら?」
「どうでしょう・・・本人の意思に任せるのも良いのではないでしょうか?」
「どういう事?」
「時がたてば、フランドール様も自我が発達していき、テーブルマナーについて学びたいと思うようになると思います。自分だけ雑な食事をしている、そう思えば羞恥心が芽生えます。周囲の目が気になるという事は、それだけ精神が成長した証でもありますし、その時期を待ってからでも十分だと思います。」
「まぁ、今までが他との接触が無かったから、気にならないのでしょうね。そういう意味では、恥ずかしさとかが出てくるのを待つ、というのも良いかもしれないわね。」
「はい。ですから、今は現状を楽しく過ごしていただくのが良いと思います。」
「そうね。のんびり見守るのも良い事よね。」

 よし、言いくるめた。この可愛い食事風景を出来る限り見ていたいのだ。自分のエゴである。勿論、レミリアに言ったことも本心だ。強制的に成長させる事はストレスになるだろう、だから見守ることも必要なのだ。

(”たまたま”、それが私の願いと重なっただけの話よ。)


 フランドールが食事を終えて、食堂を出て行くとレミリアに話を持ちかける。

「お嬢様。実はですね・・・・」





21時。紅魔館納屋。

(真っ暗で何も見えない。私が鳥目だからなのか、それとも本当に暗いのか・・・・。しかし、縄も解けないし、何かに閉じ込められている。寝心地は悪くないのが救いだけれど・・・・狭い。息が詰まりそう。)

 寝返りも出来ないので、そろそろ体が痛くなってきた。狭いところに閉じ込められると気が狂うというのは、あながち嘘では無いんだろうな、と思う。

―ガチャン

(誰か扉を開けた?・・・近づいてくる・・・・おっ?おぉ?)

 どうやら、自分が入っている箱を誰かが担いでいるようだ。

(一体どこに・・・というより、どうなるんだろう・・・うー・・・里に帰りたい・・・)

 思えば、少し平和ボケしてたんじゃないだろうか。今更、反省しても遅いのだが後悔だけが出てくる。紅魔館に喧嘩売るような記事を書いたのが、そもそも間違いだったのだ。
 なんだかんだで、紅魔館の存在は脅威なのをうっかり忘れていた。

(やっぱり、殺されちゃうのかな・・・。私が居なくなっても、行方不明って事で終わってしまう可能性は否定できない。何しろ誰かに目撃されたわけではないのだし、偶然会ったら・・・拉致されただけなんだもんなぁ・・・証拠になるような物もあるわけじゃないし・・・うっ・・・うぅぅぅ・・・・)

 これから起こる事を想像すると、涙が溢れてきて止まらない。こんなくだらない理由で死ぬなんて、納得できない。後悔ばかりが襲ってくるのだ。


 しばらく揺られていると、ゴトンという音がした。どうやら、床に置いたようだ。耳を澄ますと咲夜の声が聞こえた。

「あ、お嬢様。今はあそこに入れてあります。パチュリー様から、特殊な魔法をかけた布を頂いたので、それを使ってみようと思います。」
「そう。気をつけるのよ?仮にも鴉天狗なのでしょう?」
「問題ありませんわ。布を巻くときに時間を止めてしまえば良いのですから。」

 文は心底震えた。当主のレミリアも加担しているようだ。しかも、自分用に対策を施した道具まで用意しているようだ。

(どうなるの?殺される?・・・・まさか、食べられる・・・とか?生きたまま、包丁を入れられて・・・それを吸血鬼が見ながら、愉悦に浸る・・・とか?)

 文の心配は、相当酷い方向に向かっているが、吸血鬼は残虐なショーを楽しんだりと、かなり冷徹な部分があるのは良く聞く話なのだ。文の想像も、決して間違っているとは言いがたく、最悪の結果がそうなる可能性もゼロでは無い。

(そんなの嫌だ!でも、逃げられない・・・時を止める能力まで使われたら、最速なんかオモチャ同然じゃない・・・)

 こんな時に人間なら、舌を噛み切って自殺できるが、妖怪はそれも出来ない。舌を噛み切って、窒息したところで気絶するだけだ。そう、人間とは比べ物にならないほどの”タフさ”が仇となるのだ。
 必死に脱出方法を考えていると、レミリアがポツリと一言。

「位の高い妖怪なんて、本当に何百年ぶりかしら。」

 この一言で確実に分かったことがある。殺しのショー、もしくは食べるか。この2択しか無い。いや、両方という可能性もある。そう考えたら、パニックになってしまった。そして、物音を立ててしまったのだ。

(しまった!?)

 そう思ったときには、もう遅かった。近づいてくる足音。蓋がガタンと音を立ててずれる。

「おはよう鴉天狗。お目覚めは如何かしら?ん?」

 目の前には、いつものふやけた笑顔では無く、冷徹で夜の支配者たる微笑を浮かべるレミリアの顔があった。そして、手が伸びてきて喉を掴む。もの凄い力で、グイグイの締め上げてくる。
 意識が遠のきそうになると、レミリアは手を緩めた。ハンカチの猿轡ごしに、思い切り息を吸うがむせてしまった。

―ゴホッゴホッ

 そして、またレミリアは力を入れる。吸った息をむせて吐き出す所を、見計らっていたようだ。それを何度か繰り返す。もう、文には思考をめぐらせる気力さえ無くなってしまった。

(駄目だ・・・何も考えられない・・・いっそ殺してくれれば楽になれるのに・・・)

 また、涙が溢れた。すると、喉から手を離したレミリアが、猿轡のハンカチを剥ぎ取った。

「気分はどう?あーあ、泣いちゃって・・・情けなくないの貴女。仮にも誇り高い鴉天狗でしょう?気丈な態度を取りなさい。」
「・・・・わ、私をどうする・・・つもり・・・なんですか?」
「どうする?何故、貴女が、私に、質問を、するのかしらね?」

 そう言うと、また喉に手を伸ばそうとする。

「ひっ・・・止めてください。・・・ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

 もう、泣きじゃくるしか出来ない。助けてと繰り返す以外に、これ以上何もしないでくれと頼む以外に、何を言えというのか。

「まぁ、良いわ。普段は大目に見ていたけれど、私の咲夜にちょっかいまで出したのよ?その辺りどうなの?ねぇ?どうなの?」

 なんて答えて良いのか、分からない。いや、きっと何を答えても駄目な気がする。

―ドン!

 轟音と共に、顔の横にレミリアの手が埋まっている。その手は箱を貫通して、石畳が見えるが、それすらも貫いていた。あまりの恐怖に何も考えられない。

「黙秘権なんて、貴女には無いの・・・・って、あら?咲夜、ちょっと粗相をしているようなんだけどこの子。後で、処理しておいてくれる?」
「はい、お任せください。」
「さて、鴉天狗。貴女はこれからどうなるか・・・知りたい?」

 ぶんぶんと頭を振る。もう言葉すら出ないが、せめてどうなるのかだけでも知りたかった。

「貴女、口も無いの?」

 レミリアの冷たい視線が突き刺さる。

「い、いえ。あり・・・ます。・・・あっあの、教えてっ・・・ください・・・。私は・・・・どうなるっ・・・のでしょうか?」

 嗚咽を漏らしながら、なんとか口にする。それを見たレミリアは、満足そうにしてから答えた。

「私はね。貴女の苦痛に歪む顔が見たいの。貴女の屈辱にまみれた姿を見たいの。貴女の心が壊れていくのが見たいの。ゆっくり、ゆっくりゆっくりゆっくりゆっくり・・・・・・・・壊したいの。」

 ため息をついて、素敵でしょう?と、恍惚の表情を浮かべるレミリア。ふと、無表情になり、こう続けた。

「人形になったら、殺してあげる。」

 その目には、何も感情など存在しなかった。






23時。紅魔館空き部屋。

 文はこの部屋で監禁する、そう咲夜が説明した。この館のメイド長たる咲夜は、先ほどのレミリアの狂気を見ても、眉一つ動かさなかった。そして、文には特殊な布が足に巻かれていた。

「咲夜さんが言っていた、特殊な魔法の布ってこれですよね・・・?」

 時間が経ち、なんとか普通には喋れるようになったが、もう絶望しかない。

「えぇ、そうよ。妖気を抑制する布であり、命令一つで・・・・」

 そう言うと咲夜は指を鳴らした。すると、片足のみ巻いていた布が一瞬で、両足に絡みつき、更には手首まで絡みついた。手首と足首が固定された状態になる。確かに拘束具としては完璧だった。

「こうなるわ。悪魔の契約をした者だけの命令を聞くから、無駄なことはしない方が良いわ。長く生きていたいならね。まぁ、早く死のうと逆らっても、逆に延命されるわよ?ふふふ。お嬢様は良い趣味よね。」

 この言葉を聴いて、文は納得した。あぁ、人間と言っても悪魔の狗という事はこういう事なのだと。そして、狂気の世界と隣り合って生きているのだと。






0時。文監禁部屋。

―カチャ

 文がドアを見るとレミリアが立っていた。早速おもちゃにして遊ぶのだろう。死にたくなってくるが、きっと際どい状態で延命されるだけだ。

「元気そうじゃない。貴女の為に食事を持って来たわよ。」
「咲夜さんじゃないんですね。」
「あら、主自ら持ってきたのに、お礼の一つも言えないの?」

 表情は微笑んだままのレミリアだが、何かを我慢しているような感じがする。しかし、怒ろうが暴力を振るわれようがどうでもいい。どうする事も出来ないのだから。

「もう、どうでも良くなってきました。」
「奇遇ね。私もどうでも良くなってきたのよ。疲れるし、肩がこるわ。」

 良く分からないことを言うと、レミリアは手にしていた盆を置いた。

「ま、置いておくから好きになさい。」

 そう言うと、部屋を出て行ってしまった。

「?」

 何かしに来たわけでは無かったのだろうか?疑問に思いつつ盆の蓋を取ろうと立ち上がる。どんなに絶望しようとも、空腹になるのは人間も妖怪も基本的に変わらない。

―びょ~ん

「ビックリ箱かよっ!」

 あまりにくだらなさ過ぎて、突っ込んでしまった。絶望しきったと思っていたけど、精神的にはまだ余裕があったのだろうか。良く見ると、びょんびょん揺れている人形に手紙が付いていた。


―文へ。これに懲りて紅魔館の出鱈目記事を書かないように。
                                 紅魔館一同。


「へ?」

―バンッ

 勢い良く扉が開くと、レミリアがいつものような茶目っ気たっぷりの笑顔で

「反省したかしら?」

 後ろには咲夜が、

「お嬢様、もうちょっとスマートに・・・。」
「いいのよ。もう終わったのだから。それより、あの鴉天狗の顔が見事よね。」
「それは否定しませんが、もうちょっと苛めても良かった気がしますわ。」
「・・・私でも、ちょっと引くシナリオだったのに、もっと酷いことする気だったの?」
「悪魔の狗ですから。」
「・・・・ドSね。本当にドSね。」

 もう何がなんだか分からない。文は地面にへたり込んでしまった。



「・・・ええええええええええええええええええ!!!!????」

 文の絶叫が館に響く。

「五月蝿いわよ。お嬢様、お耳は大丈夫ですか?」

 耳を押さえているレミリアを心配する咲夜。

「これが叫ばずにいられますかっ!」

 あの後、放心状態の文を落ち着かせて、事の顛末を説明した。最近、あまりにも目に余る記事の数々に、怒りの声が上がることが多くなっていたのだが、文はどんどん調子に乗った記事を書いていたのだ。
 それもあって、折角だから私事の理由も含めて、反省させようとした。そう説明したのだ。

「あ、私は女優で、脚本と監督は咲夜だからね?」
「・・・・否定はしませんが、お嬢様も等しく共犯ですよ?責任者なんですから。」
「あ、ズルイ。その言い分はズルイ。」

 仲が良い主従である。しかし、そんな事は文には関係ないので、迷わずに突っ込みを入れる。

「本当に殺されるかと思いましたよっ!?スキマ妖怪に言いつけますよ!?」

 八雲紫。勿論、幻想郷の管理者でかなりの権限を持つ変態。少女と言い張るその姿は、涙を禁じえない。

「あぁ、スキマにも言ってあるわよ。ねぇ?紫?」
「え?」

 部屋の隅から黒い線が出たと思うと、広がり口をあけた。中から出てきたのは、

「呼ばれて飛び出て紫ちゃんで~す。」
「「・・・・・・・。」」
「あら?そこは歓声を上げるところでしょう?」

 相変わらずつかみ所の無い、ババ・・・・紫である。

「まぁ、面白い余興だったわよ。私も変な記事にされた事あったけど、それは関係ないからね?」
「あぁ、なるほど。アッサリと承諾するわけですわね。」
「あら、嫌だ。根に持っている訳が無いでしょう?大人なんですから。」

 そう言ってオホホ笑いをするが、手に持った扇子がひしゃげている。思い切り根に持ってるじゃないかとか、少女じゃなかったのかとか、突っ込みどころ満載である。

「ま、これに懲りて本当に反省しなさい。結構、いろいろな所で苦情が出ていたのも事実なのよ。分かった?」
「はい、分かりました。申し訳ありませんでした。」
「はい、よろしい。それじゃあ、私は帰るわ。眠いし。グッナーイ♪」

 シュンと言う音と共に、紫のスキマが閉じた。



「まぁ、そうゆう事だから。貴女も帰っていいわよ?楽しい記事を期待しているわ。」

 そう言って、咲夜は部屋を後にした。後はお嬢様が上手くフォローしてくれるだろう。なんだかんだで面倒見が良いのだ、我が主は。
 しかし、慣れない事はする物じゃない。演技なんて肩がこってしょうがない。それに、そろそろフランドール様の所に行く時間だ。

「頑張らなくっちゃ。」

 そう呟くと、気合を入れるのだった。






1時。フランドール自室。

「ご機嫌如何ですか?」
「あ、咲夜。このパズルどうやるの?」

 そう言って、パズルを掲げる。良く見ると、絵合わせパズルと言うべきか・・・

「それはですね、一緒に入っている薄い本に色々な形が載ってまして、それと同じ形を作れれば良い。そうゆうパズルですわ。」
「へー。あ、この本?」

 咲夜が頷くと、フランドールはパラパラと本をめくる。

「なんか簡単じゃない?」
「ふふ、やってみればお分かりになりますよ。」
「じゃあ、この”ヨット”やってみる。」

 そう言うとベッドに木のピースを落とす。ピースはさまざまな形をしており、6個のパーツに分かれている。それを組み合わせて、本に載っている形を作るのだが、意外と難しい。
 ただ、”ヨット”の形は基本形で、これさえ作れれば他の物もある程度、作れるようになる。

「出来た。」
「えーっと、あ。そこの角が違いますよ。」
「えっ?本当だ。あれー?なんで?」

 そう言って組み合わせをやり直す。まだまだかかりそうなので、お茶を入れて来ますと告げ、厨房に向かう。



 厨房では妖精メイドが、何やらゴソゴソやっていた。また、つまみ食いでもしているのだろうと思い、声をかける。

「何しているの?」
「・・・・・!」

 わたわたと腕を振り回し、一方を指差す。床の端のほうを黒い昆虫が歩いている。遠まわしに言わなくても分かるだろう、ゴキブリだ。

「また・・・出たのね。」

 そう言って、木で出来たナイフを投げる。カンと音が鳴った先に、頭がもげたゴキブリが。妖精は横で拍手をしている。

「はいはい、ありがと。片付けてしまいましょう。キッチンペーパー持って来てくれる?」

 そう言って、何気に近づいて座り込んだ瞬間。ゴキブリが動き出したのだ。

「きゃ!」

 思わず叫び尻餅をついてしまった。すると、スカートの中にゴキブリが入ってしまった。

「!!!!」

 声にならない叫びと共に、動けずに固まる咲夜。こればかりはどうしようも無い。焦って体を捻れば、服に挟まったゴキブリがつぶれる可能性があるからだ。いくらなんでも、自分の体でゴキブリをプレスなんかしたくない。

「???」

 妖精が、紙を持って戻ってきたが、咲夜が変にビクビクしながら固まっているのを、不審に思いとまどっているようだ。

「・・・・お願い、服脱ぐの手伝って。ゴキブリがスカートから入ってしまったの。」

 妖精は納得したようで、一生懸命咲夜の服を引っ張る。しかし、如何せん体格が違う。自分の2~3倍くらい体格差がある、人形の着せ替えをするようなものだ。中々上手くいかない。

「あっ、お腹に回ってきた・・・早く!早くしてー!」

 流石に、体中を這い回る虫の感触には、瀟洒なメイド長といえど耐えられるものではない。


 なんとか脱げたので、脇に妖精が服を投げる。ゴキブリも服に絡まっていたので、体からはとる事が出来た。

「はー・・・怖いとかそうゆうんじゃないけれど、さすがに取り乱してしまったわ。」

 そう言って床に仰向けに倒れる。すると妖精が飛び込んできた。やりました!という表現なのだろう。とりあえず、抱きしめて頭を撫でてやる。

「ふふっ、ありがとう。次はあの服とゴキブリなんとかしないと・・・」
「あやややや?咲夜さん、妖精に襲われてるんですか?下着姿とかエロぃですねぇ。」
「咲夜。私のお茶いれずに何してんの?ねぇ?」

 すぐそばに、文とフランが立っていた。よくよく考えたら服は、隣に転がっている。仰向けに寝転び、胸元には顔をすりつける妖精。これは非常にまずい。

「いやぁ・・・反省はしましたが、これは記事にしたいですね。」
「天狗。記事にしてもいいよ。私を放って置いて、このザマなメイドの記事くらい許可を出すわ。」
「あやや。それなら記事に・・・」
「ちょっと待ってください。これには事情があるんですっ!」


 必死に説明する咲夜。

「それはそれで記事にでもしようかと。頭が無くても生きているなんて、妖怪チックですし。」

 文はやっぱり記事にするようだが、咲夜の裸はスルーすると約束した。本当だろうな?

「とりあえず、フランドール様はお部屋にお戻りください。お茶はすぐにお持ちいたしますので。」
「はーい。でも咲夜ってロリコンなんじゃないの?」

 そう言い残して去っていく。文は成る程ね、みたいな顔をしている。

「今日は厄日だわ。」

 咲夜はそう言って、へたり込むのだった。






3時。紅魔館レミリアの部屋。

「はぁ、咲夜も大変ねぇ。」

 今日何があったか聞かれたので、そのまま報告した。

「いえ、まぁ・・・そんな日もあります。」
「しかし、その妖精はどこの担当?今度ペロペロしに行くわ。」
「いや、行かないでください。」
「私も咲夜の胸にスリスリしたいのよっ!」
「しないでください。後生だから。そんなに胸が良いなら、美鈴がいるじゃないですか。」
「もう飽きた。」

 飽きたって、どんだけだよ。と心の中で突っ込んでみる。我が主は、たまに暴走する。・・・・・いつも暴走する。暴走したレミリアは、威厳もへったくれも無くなる上に、言動も予測不能なので咲夜はいつも手を焼くのだ。

「じゃあ、抱きしめてよ。それくらい出来るでしょう?」
「・・・・まぁ、それくらいなら。」

 失礼しますと告げて、レミリアを抱きしめる。レミリアは幸せそうに、顔を胸にうずめる。こんな風に、可愛げがあるから好きなのだ。

「・・・ふっ、隙ありっ!」
「きゃあ!」

 咲夜を抱えて、レミリアはベッドに飛び込んだ。

「ちょっ、お嬢様!?」
「何もしやしないわよ。寝るまで付き合ってよ。」
「あっ、そこは触ってはいけません!吸わないでください!」
「ケチ。」

 そう言って、レミリアは胸から顔を出す。

「咲夜、あったかい。」
「・・・・。」

 なんて答えて良いか、分からなかった。数百年と生きてきたレミリアは、甘えた経験は無かったのだろうか?と思うことがある。最近は、あまり立ち振舞いに気を使っていないが、やはり、色々あるのだろう。

「咲夜。死んだら嫌よ。」
「えぇ、寿命までは死にませんわ。」
「・・・・・・馬鹿。」

 そう言ってレミリアは寝息をたて始めた。しばらく、頭を撫でていた咲夜だが、完全に寝入ったのを確認すると、自室へ戻るのだった。






4時。紅魔館咲夜の部屋。

「・・・・・。」

 本を読んでいる。なんて事はない、普通の小説。主人公が、召還された悪魔を倒すというファンタジー小説だ。しばらく眺めていたが、本を閉じてシャワーを浴びる。

「今日は、なんか色々あったなぁ・・・。」

 普段見れない、知り合いの生活を覗けたのだから、面白い一日だった。そう考える事にしよう。


 寝巻きに着替えて、ベッドに入る。




 明日は、何があるのだろう。明後日は何があるのだろう。







 こんな日々が長く続けばいい。








 咲夜は目を閉じて、また新しい一日へ。












 きっと、忙しい。けれど楽しい一日の為に眠りに付いた。
紅魔館な日々。読んで頂きありがとうございます。
今回は咲夜さんの一日をテーマに。結構濃密な一日を過ごしていそうですよね。
しかし、こんなに長くなるとは・・・咲夜さんって凄いんですねw
こんな忙しそうな日々を送っているなんて、流石ですね。結婚してください。

文は、自分の作品だと何かしら不幸な目に会っている気がします。
文好きなんですけど、つい、いぢめちゃうんですよね。うふ。

紅魔館な日々。シリーズ

追記。誤字の指摘有難うございます。足を向けて寝れませぬ。ボテトとかスランとかどうやったら、そんな事になるのやら・・・
まなみ
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コメント



0.1110簡易評価
1.80奇声を発する程度の能力削除
>スランドール様、お上手ですね
フランドール
>ボテト入りのスクランブルエッグ
ポテト
>良く聴く話なのだ
聞く?
>体中を這い回る無視の感触には

ある一日にスポットを当てたお話は読んでいて和みますね。私も結婚を申し込みたいです
20.100名前が無い程度の能力削除
可愛いなあもうー。
23.無評価名前が無い程度の能力削除
ババアねたはつまらん。
あとぐだくだ長い。