Coolier - 新生・東方創想話

霧雨魔理沙は退かない ~地獄極楽湯煙地霊殿~

2011/06/04 15:31:13
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※このお話は、一作目「霧雨魔理沙は知りたくない」の設定を用いています。
※「霧雨魔理沙の非常識な日常」タグでそちらの作品が出てくるので、まずはそちらから目を通していただければ、随所の設定が解るかと思います。
※基本的に一話完結型ですので、上記一作目以外は読んでいなくてもご理解いただけるかと。
※長くなりましたが、それではどうぞお楽しみ下さい。




















――0・パンフレット/ある夏の惨劇――



 猛暑、という言葉がある。
 改めて言うまでもなく、茹だるほどに暑い日のことだ。
 古からの幻想が集う地、幻想郷。
 ここは、真夏ともなれば相応に暑い。

「はぁ、はぁ、はぁ……くそっ」

 ただ霧の湖の周辺は少し涼しいし、妖怪の山だって言うほど暑くない。
 両者で問題に巻き込まれたことがあるから、行きたくはないんだが。

「恋符、星符、これだけかッ」

 避暑地、というのも簡単に見つけることができる。
 それが幻想郷の特色と言える部分だろう。
 けれど同時に、夏になれば尋常じゃなく暑くなるところもあるのだ。

「通常弾幕でなんとか……いや、それじゃあ足らない!」

 私こと、普通の魔法使い“霧雨魔理沙”が暮らすのは、幻想郷で夏が最も辛い場所。
 いや、どの季節であってもなんらかの不便さを強要される土地。
 一年中薄暗く、毎日のように湿気っていて、休む間もなく蒸し上がる。

――カツンッ、カツンッ、カツンッ
「ちっ、もう来やがった!」

 その地こそ、未知のキノコに溢れかえった瘴気の森――“魔法の森”だ。

「出会い頭にマスタースパーク、もうこれしか――」
「あハっ」
「――後ろだと!?」

 だが私が今居るのは、蒸し暑く茹だる私の家ではない。
 私の隣人にしてパートナー、何度も一緒に異変を潜り抜けてきた気の置けないヤツ。
 巷で七色の人形遣いとか呼ばれているアイツ、アリス・マーガトロイドの家だ。

「つぅぅかまぁえたぁぁぁぁぁ」
「うわぁぁぁぁぁぁっっっ」

 後ろから首に手を回されて、耳朶に息を吹きかけられる。
 背筋が粟立つような感覚に腰が抜けそうになり、私は慌てて気合いを入れ直した。
 何が悪かったのか?問われれば、この家に来たときの私の“第一声”が悪かったのだろう。

 だって、水曜日に来たら水曜日のアリスがいると思うじゃないか。

「ふふ、私の言ったとおり、涼しくなったでしょう?」
「暑いぜ、とは言ったがここまでは頼んでない!」

 暑い、そう呟きながらアリスの家に入った私は、虎子が必要な訳でもないのに虎穴に飛び込んだのだということを悟った。

 ウェーブのかかった、美しい金の髪。
 空の青を連想させる、澄んだスカイブルーの瞳。
 青いワンピースと真夏なのに長袖な服と、赤いカチューシャ。
 ワンピースの上から羽織られた白いケープ、それを留めるリボンは――桃色。

「かくれんぼに同意したじゃない。貴女は蝶、私は蜘蛛。うふふふふふふふくふ」

 その意味するところは、そう、私が最も苦手としている“アリス”。
 ――“月曜日”の、アリスだ。

「なにが“ちょっと涼しくなるかくれんぼ”だ!寒くなったじゃないか!」

 月曜日のアリスに提案された、かくれんぼ。
 捕まったらアリスの言うことを聞くという無茶な願いに、私は即逃げ出した。
 だが人形で先回りされて扉や窓を始めとした出入り口が固く閉じられ、私は完全に孤立することになったのだ。

「涼しくなったでしょう?」
「なったけど!なったけどっ!」

 逃げ出したことが、開戦の合図かと思われたらしい。
 私は必死で――涼しくするのが目的なので、徐々に追い詰めるアリス――逃げだし、その結果がアレだ。
 魔法使いのアウェイで命――貞操的な意味で――を賭けた戦いなんて、冗談じゃない。

「さて、魔理沙」
「なんだよ、もう」
「私、ご褒美が欲しいワ」
「ひっ」

 矯めつ眇めつ私を見るアリス。
 何をされるか知らないが、端正な顔立ちが歪むと非常に怖いと言うことはわかる。
 だからこそ私は、腰を抜かした。

「あ、諦めるな、諦めるんじゃない霧雨魔理沙!」

 八卦炉を片手に、何時でも放てるように準備する。
 恋符……は、名称的に使ったら墓場――人生の――エンドな気がするので、ナロースパーク辺りでどうにかしよう。うん。

「温泉に行って欲しいの」
「いや、これもあった!魔砲――――って、は?」

 だが、私の耳に届いたのは、予想外の言葉だった。
 温泉、とアリスはそう言った。
 温泉ならば私の家の地下にもあるが、これはまぁ黙っておくが。
 普段自分が使っている風呂に入れるのは、止めておきたい。あらゆる意味で。

「というか、行って欲しい?」
「そう、私と一緒に温泉に行きましょう?地底の」
「いや、私は温泉とかちょっと――」
「それならやっぱりベッドインがいいかしら」
「――待て待て待て、ちょっと考えさせてくれッ」

 未だフローリングに座り込んでいる私に、アリスは視線を合わせる。
 なんでこんな猛暑の中でこんなに冷や汗を流さなければならないのだろうかなどは、考えないことにした。

「うふふくふふふ、くふふふふふふふ」

 どうする?どうする霧雨魔理沙!
 ここで逃げても、それは問題の先送りに過ぎない。
 だったら、どうにかしてこれを躱しつつさっきのを“無かった”ことにしないと!
 これが、そう、この状況を打開する……命題だ。

「さぁ、どうするの?」
「えーと、その、あー――――そうだ」

 一つ、名案が思い浮かぶ。
 人間には興味が無くとも、人形にはある程度好奇心を割いてくれる。
 その中で割と真面目にアリスたちを心配している“彼女”なら、きっと止めてくれるに違いない!

「アリス!おまえたちの“マスター”が許可を出すなら、行っても良いぜ」
「ホントう?くふっ、それならすぐに許可を貰ってきましょう!」

 嬉しいときに出す声は、裏返っていてどうにも不気味だ。
 けれどその顔は本当に嬉しそうで、本当に私に好意を抱いているということがありありとわかるから、私はこのアリスをあまり無碍には扱えないのだ。

 朗らかで、そして可憐な笑み。
 一番表情が豊かなこのアリスは、“アリス”の色んな姿を見せてくれる。

「そんなに急かさないでくれ」
「楽しみね、魔理沙!」
「頼むから、聞いてくれ」

 まぁ、あの幼いアリスなら却下してくれるだろう。
 なんだかんだで、人形が傷つきに行くことは避けるのが、あのアリスだ。
 だったら、問題を起こしてすごいこと――冗談じゃなくて――になりそうなこのアリスが地底に赴くことを、許可するとは思えない。





 きっとそんな“楽観視”が、いつも徒となっている。
 そんな簡単なことが、その時の私は、どうしてか思い浮かばなかったのだ――。
 まぁ原因なんかわかりきっているけどな!夏とか猛暑とか強制肝試しとか!
















霧雨魔理沙は退かない ~地獄極楽湯煙地霊殿~
















――1・旅支度/急転直下の遁走未満――



「いいわよ」

 告げられた言葉に、耳を疑う。
 幼いアリスのその声に、月曜日のアリスは諸手を挙げて喜んだ。
 そのまま幼いアリスに抱きつくと、彼女はとくに抵抗もなく頬ずりされていた。

 両手をばたつかせて苦しむ姿とか、本当に貴重だな。

「って、そうじゃなくて!いいのかよ?」

 私が訊ねると、幼いアリスはため息を吐いた。
 私の質問の意図がわかるということは、彼女もある程度危惧していることがあるのだろう。

「魔理沙の気持ちもわからないでもないけれど、こういった機会はやっぱり必要なのよ。まぁ、渡りに船ってやつね」

 私の木造船に、足が一本折れた火鉢を置くな。
 うっかり揺らしたら炎上なんて、ごめんだぜ。

「第一、なんに必要なんだよ?」
「情操教育」
「私を使うな!」

 あー、こいつを引き合いに出した時点で運の尽きだったか。
 というか、そう考え始めると、一日中運がなかった気がする。
 今年で一番暑い日に、避暑地を求めてやって来たら、そこにいたのは月曜日のアリス。

 ほら、運がない。

「なに項垂れているのよ」
「いや、ちょっと人生観の見直しをだな」
「そうね、くふっ、私との婚姻に必要だものね」
「混ぜっ返すな」

 とにかく、これで回避は付加。
 となると、残りの手段は一つ――誰か、巻き込む。

 霊夢か?いや、霊夢だったら私が貞操的ピンチに陥ってもスルーする。却下。
 小悪魔はどうだ?いや、一緒に温泉に行くのはちょっとなぁ。却下。
 射命丸なんかは?いや、余計に事態が悪化する光景しか見えん。却下。

 本当は、他のアリスが一緒に来てくれるのが一番安心だ。
 だが、同時に複数のアリスが外に出るのは、幼いアリスが許可しないだろう。
 となると、あとはいったいどうすればいい?

「まぁでもそうね、心配ではあるわ」

 スキップをしながら紅茶を淹れに行った、アリス。
 その後ろ姿を見ながら、幼いアリスはため息と共にそう呟いた。
 私が心配、なのではなく月曜日のアリスが心配なのはわかっている。
 そう言っていられるのは今の内だ、けどやっぱり今は言われちまうんだよなぁ。

「やっぱり早苗辺りを連れて行った方が良いかな?」
「他の子を連れて行ったら、その子のこと呪い殺すわよ、あの子」
「ああ、そうかぁ……そういえば、それがあるんだよなぁ」

 すっかり忘れてたぜ。
 下手にもう一人誘いでもしたら、その時点で修羅場エンドが待っている。
 だが、だったらどうする気なんだ?

「これを使うのよ」
「人形?」

 アリスが指を弾くと、何もない空間から人形が降り立った。
 上海や蓬莱と同じ、腕で抱けるサイズの人形。
 長い金髪に青いリボンをしていて、見た目は上海たちにそっくりだ。
 黒のエプロンドレスに、背中には大きな槍を背負っている。

「人形【未来文楽】」

 人形が、ふわりと持ち上がる。
 無彩色だった瞳には澄んだ青が宿り、やがて人形とは思えないほどの滑らかさで唇が開いた。

「『これなら、私も一緒に行けるわ』」
「うわっ、なんだそれ」

 椅子に腰掛ける幼いアリスと、人形の声。
 その二つが重なって聞こえてきて、私は思わず身体を仰け反らせた。
 同時に喋っているって、どういうことだ?

「『分割思考。これくらい、大したことじゃないわ』」

 そんなことはない。
 ……と言いたいが、こればっかりは人形遣い特有の能力かも知れないから、一概に大したこととは言えないのかも知れない。

「うん?……ってことは、一緒に来てくれるのか?」
「『それ以外に何があるのよ?』」

 良かった、これで首の皮が一枚繋がった!
 一枚だけなのは、来ても霊夢同様スルーする可能性が高いからだが。
 まぁ命の危機――あらゆる意味で――には手くらい貸してくれるだろうし、なにより月曜日のアリスが起こした騒動の始末くらいはつけてくれるだろう。

「あー、でも、そうすると向こうでなんて呼べば良いんだ?」
「『好きに呼んで良いわよ』」
「好きにって言ってもなぁ」

 困った。
 好きに呼んで良いと言われても、なにも思い浮かばない。
 ロリス……は、流石にアレか。

「『しょうがないわね……っと、いったん切った方が良いわね』……こほん」

 人形が幼いアリスの腕に収まる。
 確かに、声が重なって聞きづらかったので助かる。

「そうね、夢子、マイ、ユキ、サラ、ルイズ、神綺、好きなのを選びなさい」
「魔界オールスターだな。うーん……じゃあ、夢子で」
「そう、なら地底ではそう呼ぶと良いわ」

 あっさりと決まってしまった。
 あの中だったら夢子が一番、発音的に呼びやすいのだ。
 まさかあの中から選ばされるとは思わなかったが。

 神綺、はなんか呼びにくいし。というか、いいのか?神綺でも。

「マスターも来てくれるの!?やった、婚前家族旅行ね!」
「誰が婚前だ。というか、あのアリスは良いのか」
「当たり前じゃない。くふふ」

 アリスたちは、幼いアリスを好いている。
 素体は神綺からの贈り物らしいが、内面を整えたのはあくまでもこのアリスだ。
 だから彼女たちの感覚では、この幼いアリスは“育ての親”なのだろう。

「ねぇマスター、おめかししましょうよ」
「本体は行かないわ。思考を枝分けさせた人形だけよ」
「一緒に温泉は?」
「はぁ……入れるように、調整してあるわ。灼熱地獄に潜れるように加工しただけだけど」
「三人でお風呂ね!ああっ、楽しみ!」

 こうして聞いていると、本当の親子みたいだ。
 いや、事実彼女たちは親子――“家族”なのだろう。
 そう思うと、私は部外者な様な気がしてくる……なんていうのも、現実逃避なのだろうか。

「それじゃあ魔理沙、貴女はそろそろ帰りなさい」
「ええ!帰っちゃうなんて嫌よ!魔理沙ぁ」

 幼いアリスの言葉と、月曜日のアリスの言葉。
 当然ながら、私が選択するのは前者だ。
 どうせ逃げられないのなら、今日くらいはゆっくりさせて欲しい。

 こう、明日の準備――スペカの用意(全力)含む――もしておきたいし。

「今日体調でも崩して、明日行けなくなるのは嫌でしょう?」
「ああ、それもそうね。それじゃあ魔理沙、名残惜しいけど、さようならのキスを――」
「――準備があるから帰るぜじゃあなまた明日ッ!!」

 危ない危ない。
 あのまま残っていたら、いったいどうなっていたことか。
 恐ろしいので考えないようにするが……背筋が凍るぜ。

 マーガトロイド邸から飛び出て、幻想郷の空に舞い上がる。
 そういえば、前に地底に行ったときは、土曜日のアリスと一緒だった。

「前は爆破、今度は呪怨系……追放されないといいんだが」

 一縷の不安を胸に、私は自宅へ戻る。
 気になることは山ほどあるが……まず気にしなきゃならないのは、どう考えても明日の準備なのだから。
















――2・出発進行/縦穴の怪談――



 古の昔、地上から追放された妖怪たちが居たそうだ。
 私のような“人間”からすれば、そいつがどんな能力を持っていようが、迷惑なヤツは迷惑だし、そうでないヤツは普通に良いヤツだったりする。

 だから、妖怪からも毛嫌いされた妖怪たちということに、特別嫌な気持ちはなかった。

 ただ、毎回思うところがある。
 それは……この縦穴って、どうなってんだ?ということだ。

「記憶の共有でしか知らなかったのだけれど……やっぱり生で見るのは違うわ」

 私の箒の後ろ。
 私の腰に巻き付くように抱きついていたアリスが、そう呟いた。
 アリス人形が間に無ければ、私はきっと妖怪の腕力で押しつぶされていたことだろう。

『本当、面白いわね』

 アリス人形も、アリスに続いてそう零す。
 地底の縦穴は、不可思議な構造になっていた。
 地底に向かって下降しているはずなのに、絶えず岩が昇ってくるのだ。
 妙にゆっくりとした動きで、それが余計に怖い。

「ここから降りてしばらく行くと、旧都がある。温泉は、旧都と地霊殿の間だ」
「旅館もあるのかしら。ねぇ、魔理沙?」
「っっっ……危ないから、耳に息を吹きかけるな!」

 バランスを崩して、蛇行する。
 うわっ……あとちょっとで、岩にぶつかるところだったじゃないか。

『飛行中は危ないから止めなさい、アリス』
「はーい」

 不満げながらも、アリスはアリス人形の言うことにきちんと頷いた。
 私の言うことにもそれくらい素直に聞いてくれたら嬉しいのだが、その代償はおそらく……というか、確実に、人生の墓場行き片道切符だ。

「アリ……夢子、アリスはもうちょっと落ち着かせられないのか?」
『そんなことをしたら情操教育にならないじゃない』
「それ、本気だったのかよ!?」

 ああ、くそっ。
 アリス人形が居ても疲れることになろうとは、流石に予想外だったぜ。

 鼻歌を歌いながら、周囲を見回すアリス。
 私もそれに倣って、周囲を見ていた。
 尤も、私が見回す理由は、“厄介なの”を避けて通るためなのだが。

「ふぅ、いないみたいだな」
「誰が居ないの?」

 声をかけられて、咄嗟に前を向く。
 縦穴の途中、柔らかに佇む黄色の髪の少女。
 土蜘蛛とかいう妖怪の――ヤマメ、そう、黒谷ヤマメだ。

「っ、誰かと思えばヤマメか、驚かすなよ」
「あんたが勝手に驚いたんでしょ?って、そっちは誰?」
「……アリス・マーガトロイド」

 小さく名乗るアリスに、ヤマメは首を傾げる。
 ヤマメは解っていないのだろうが、アリスの目は本気だ。
 少しでもおかしな言動――まず無いだろうが、私への求愛的な――があれば、呪い殺す。
 アリスは暗い瞳で、そう語っていた。

「私は黒谷ヤマメ。どっかで見たことあるけど、気のせいかな?」
『その時に同行していたのは、私の姉妹よ。ヤマメ』
「うわっ、人形が……前にも喋っていたね、そういえば」

 そう、私とアリスで地底に降りたとき、アリスは紫から貰ったのだという通信用の人形で同行してきた。

 だから、ヤマメが知っているのは人形。
 人形の姿のアリスだけを、知っているのだ。

「そうかそうか、それで今日はどうしたんだい?わざわざ地底まで」
「ああそうだった、忘れるところだったぜ。温泉に来たんだが……旅館って、あるのか?」
「地底に旅館?あっても妖怪専用だよ。食材側ならどこでも大歓迎だろうけど」
「魔理沙を食材にしようとしたら、そいつら残らずハンバーグにするわ」

 アリスが、私の耳元で呟く。
 一緒に聞こえてくる歯ぎしりの音が、もの凄く怖い。
 怖いと叫びたくなったのは、もしかしたら初めてかもしれない。

「そ、そんな恐ろしい雰囲気の妖怪だっけ?」
「気分が悪いんだ、そっとしておいてやってくれ」
「そう、なの?それならまぁ、いいけど」

 伝染病のプロフェッショナルだから、体調の善し悪しなど一目でわかることだろう。
 それでも引き下がってくれたのは、彼女の優しさ故か。

「……それで、旅館なんだけどね」
「ああそうだ、それが聞きたかったんだ!教えてくれるだけみたいだから、肩の力抜けって、な?アリス」
「魔理沙が、そういうなら」

 漸く、頷いてくれた。
 旅館に行くことは決定してしまったが、まぁ、この場の危機を乗り越えられただけでも良しとしよう。

「あんたたち、仲良いね」
「そう見える!?ほら魔理沙、やっぱり私たち夫婦みたいだって!あ・な・た♪」
「いやいやいや、誰もそこまで言ってないからな!?」
「もぅ、照れちゃって。くふふ、貴女、けっこうイイヒトだったのね」

 アリスは頬を赤く染めながら、上目遣い――という名の三白眼――で私の顔を覗き込む。
 そんな私たちの様子に、ヤマメはあからさまに引いていた。失礼なヤツだぜ。

「そろそろ良い?」
『はぁ……二人が聞いていなくても、私が聞くわ』
「いやいや、聞く!聞いているから!」

 ため息吐くくらいだったらフォローしてくれ、頼むから。
 私のそんな嘆きを余所に、ヤマメは旅館のことを告げようと口を開く。
 散々焦らさせてしまったが、ヤマメにも一因はあると思う。

「地霊殿」
「は?」
「だから、旅館じゃないけど、人間を泊めてくれるのなんて地霊殿くらいだってこと」

 旅館じゃねぇ。
 更に言うならば、ダンジョンの最初に羽休めをしても良いところですらない。
 そこは、ラスボスの居城だ。

「地霊殿ね、さぁ魔理沙、覚り妖怪の所で愛を紡ぐのも風流よね」
「やめてやれ。主にさとりのために」

 こいしみたいに心を閉ざしたらどうする気なんだ。
 私ですら、このアリスの内面を覗きでもしたら、心を閉ざす気がするのに。

「はぁ……まぁいいや、助かったぜ!ヤマメ!」
「あいよ」
「また会いましょう、ヤマメ!」
「まあ、機会があったらね」
『騒がしい子たちでごめんなさいね』
「いや、いいよ」

 ヤマメは、律儀に全員と挨拶を交わしてくれる。
 今度地底で道に迷ったら、こいつに聞きに行こう。
 たぶん、最後まで面倒を見てくれるタイプだ。

 ヤマメから離れて、縦穴を抜ける。
 何故か“厄介なやつ”はいなかったが、まぁなんにしても無事抜けられたんならそれでいいか。

「クンカクンカ……ハァハァッ、魔理沙の、匂い」
『もう少し、自重しましょう?』
「マスターに窘められる私、はっ」
『それは自嘲』

 私はそう、息がどんどん荒くなるアリスを気にしないように努めながら、地底を飛んでいくのであった。
















――3・料金支払い/怪力ご乱心の事――



 地底には、厄介なヤツがいる。
 単体だとむしろちょっと親切だったりするものの、月曜日のアリスと一緒だったら確実に火と油な関係になるであろう、地底の妖怪。

 嫉妬心を操る、橋の守人。
 ――地殻の下の嫉妬心、水橋パルスィだ。

『なにを警戒していたか知らないけれど』
「…………」

 パルスィを警戒して、警戒して、警戒して。
 その甲斐あって抜け出した私たちを迎えたのは――大柄な、女妖怪だった。
 星模様がついた紅い角、金の髪にストライプのスカート。

「誰かと思えば、朋友じゃないか!」

 山の四天王、星熊勇儀が杯片手に戦闘態勢に入っていた。
 なんだこれ?なんで今日はこんなに運がないんだ!?

『こうなったら、意味がないんじゃないの?』
「…………言うな。わかってるから」

 土曜日のアリスと一緒に打ち破ってから、私は勇儀に“朋友”と呼ばれるようになった。
 そうしてからというもの、地底に顔を出す度に絡まれるのだ。

「はぁ、仕方ない、こうなったら引かないだろうしな。行けるか?アリス」
「うふふ、ええ、共同作業ね。あのウエディングケーキに二人で入刀ね」
「いや、弾幕ごっこだぜ?」
「わかっているわよ、くふふふ」
『それ以外に、どうせ勝ち目なんか無いわ』

 勇儀が空に上がった途端、周囲の妖怪達が一斉に下がる。
 怯えて逃げているのではない。楽しんでいるんだ。
 誰も彼もが、杯片手に私たちを見ている。
 だったら、弾幕ごっこの“先駆者”としては、それに応えてやらないとな!

「昔は、誰も彼もが下を向いていた。今は、誰も彼もが上を向いている」
「勇儀?」

 勇儀は、何事か小さく呟くと、杯に酒を満たして掲げた。
 まるで、地底に浮かぶ、偽りの太陽を写し身ごと呑み込んでしまうかのように。

「これも、おまえたちが地底に“太陽”を見せてくれたおかげだ」
「ふふ、魔理沙は私の太陽だもの、当然じゃない!」
「恥ずかしい事を言わないでくれ……」

 勇儀は一口酒を飲むと、残り七割ほどの杯を私たちに見せる。
 これが、何時までも変わらない、鬼達の流儀。
 酒を零したら私たちの勝ち。敗北の条件は、心が折れるまで。

 わかりやすくて、そして――私好みだぜ!

「さあ、宴の第一幕だ!気張れよ、人間!」
「そっちこそ、気を抜くなよ?……アリス!夢子!」

 私とアリスとアリス人形が、散開する。
 すると勇儀の瞳は、ごく自然にアリス人形を追っていた。
 この中で一番実力があるヤツでも嗅ぎ分けているのか?

「どちらにせよ……脇見運転は、事故の元だぜ」

 箒を急上昇。
 湿った空気。
 眩い偽太陽。
 生ぬるい風。

 その全てを浴びて、それから一気に飛び立つ!

「はっ!いいね、その威勢!鬼符【怪力――」
「――逝け、怨嗟の藁人形。呪符【ストロードールカミカゼ】」

 勇儀がスペルカードを放とうとした瞬間、アリスのキャンセルが入る。
 私みたいに霊障が怖い訳ではないだろうが、超高速で飛来してくる藁人形たちに、勇儀は慌てて身を退かせた。

「やるじゃないか!今度こそ、鬼符【怪力乱神】!!」

 不思議な力で統制された弾幕が、四方八方に花開く。
 陣を成す祭りのような光景を潜るこの弾幕が、私は好きだ。

「けどな、勇儀。私だけを見つめるのは、危険だぜ?」
「きゃーっ、魔理沙ーっ」
「いや、おまえはいいから」

 アリスの投げキッスに、げんなりする。
 そしてその瞬間を逃す、勇儀ではなく。

「力業【大江山――」

 そしてその隙を突かない……アリス人形ではない。

『――自分で使うのも変な感じね。咒符【上海人形】』

 アリス人形から放たれた、紫色の巨大なレーザー。
 勇儀はアリス人形の姿に、刹那の間、釘付けになる。
 だがすぐに我に返ると、ギリギリの体勢で避けた。

 さっきから、どうもおかしい気がするぜ……。

「なんにしても、解明は後だ!行くぜ、勇儀!」
「チッ……どこからでも来な!四天王奥義【三歩必殺】!!」

 一歩目、赤い弾幕が並ぶ。
「この距離からだと、全弾命中か。だけど、未だ間に合う!」
 二歩目、今度は紫色の弾幕。同時に、八卦炉の準備が完了する。
「三歩目が来たら、それで終わり。全部を賭けた、先出し勝負!」
 三歩目――は、踏み込ませないぜ!

 八卦炉に炎を灯す。
 星を、心を、魂を燃やして打ち放つ!

「星符【ドラゴンメテオ】!!」

 勇儀の真上から、魔砲を放つ。
 圧縮された魔力が呻り声を上げ、杯ごと勇儀を撃ち抜いた。
 圧倒的な威力と範囲で眼下の全てを吹き飛ばす――龍の流れ星だッ!

――ドゴォォンッ!!

 土煙が上がり、辺り一面が覆われる。
 その中でも、私の“視界”は勇儀を捉えていた。
 アリスたちと付き合う内に鍛えられた、観察眼。
 これで捉えられない対象はない。……だからこそ。

「うん?……見られて、いる?」

 煙によって、目視できる範囲は限られている。
 その自分のつま先すらも見えない空間では、何処の誰に見られているかなど、確かめようがなかった。

「……あっはっはっ!やるじゃないか、地上の朋友よ!」
「ぁ……と、そうだった」

 声に驚き下を見る。
 笑う勇儀を視界に納めた頃には、あの“視線”は感じられなかった。

 勇儀は杯の酒を零していて、傷一つ無いというのに攻撃の手を休めている。
 鬼は嘘をつかない。鬼は、約束を破らない。
 だから勇儀は私に向かって、ただ快活に笑っているのだ。

「流石私の魔理沙ね!格好良かったわァ」
「げっ……すまん、夢子!」
『きゃっ』

 すり寄ってきたアリスを、アリス人形でガードする。
 そうしてアリス人形を右に動かし……それから、ちょっと左に動かす。

 そういえば、初めて地上に来て戦ったときから気になっていたことがあった。
 やたらと妖精を従えたり、弾幕ごっこが激しくなると、そっと妖精を遠ざけて徐々に怨霊に切り替えたり。

 てっきり、鬼という割りに優しいヤツなのかと思っていたのだが……。

 アリス人形を持ち上げる。
 ――勇儀の視線が上を向く。
 アリス人形を降ろす。
 ――勇儀の視線が下を向く。
 アリス人形を左右に揺らす。
 ――勇儀の視線が泳ぐ。

 なんか、これってまさか……。
 いや、本人のイメージ保持のためにも、ここから先は言わないでおこう。うん。

『ぬいぐるみとか、好きなのかしら?』

 アリス、ダメだって!
 うっかりアリス人形がそう零すと、勇儀はそっと視線を逸らす。
 そして、あからさまに動揺した態度で口笛を吹き始めた。

 鬼は、嘘を吐かない。
 けれど……誤魔化したくなるときだって、きっとあるんだ。

「笑うか?朋友」
「いや、笑わないね」

 ぬいぐるみが好きで、何が悪い。
 私だって、水曜日のアリスに貰ったぬいぐるみを抱き枕にしている。
 少女なら、それはきっと、誰もが抱いている感情なのだから。

『また今度来たとき、人形を作ってあげるわよ』
「本当か!?」
『鬼相手に嘘を吐くなんて、恐ろしいマネはしないわ』

 目を輝かせた勇儀が飛び込み、同時に土煙が一気に晴れる。
 酒を飲み交わしていた、地底の住人たち。
 彼らが見たのは、杯の酒を零した勇儀が、私とアリスたちに握手を求めるかのような場面だった。

 ……抱擁から握手へ即切り替えたのか。素早いな。

「なにやら地霊殿に用があるみたいだが、終わったら寄ってくれ。その時は宴会だよ!」
――オオオオオオオオッ!!

 宴会の言葉に反応して、妖怪たちが雄叫びを上げる。
 普段から宴会なんかしょっちゅうやっているだろうに、それでもやはり好きなんだろう。
 あー、なんか私も酒が飲みたくなってきた。

「なんだかバージンロードみたいね、魔理沙。きゃっ、言っちゃった」
「…………さて、出発だぜ」

 身体をくねらせて私の背中をばんばん叩く、アリス。
 痛い痛い痛い……って、手加減しろよ!

「じゃあ、また後でな!勇儀!」
『今度届けるわ』
「うーん、“ともだち”の範疇から出そうにない……わよね?でも保険を……」
「やめてくれ、アリス」

 杯に酒を満たし、勇儀はそれを一気に飲む。
 そうしてから、いつもの男前な笑みで手を振った。

「おう、またな!」

 しかし……温泉に入る前に、こんなに疲れるとは。
 まぁ温泉で疲れを……取れるかなぁ?

 私は箒の後ろに乗るアリスを一瞥して、地底の空に舞い上がる。
 これ以上の災難がありませんように、なんて。

 そんな、淡い期待を胸に抱いて。
















――4・脱衣/温泉宿、かっこ仮――



 地底の奥に居を構える、巨大な屋敷。
 地上にある悪魔の館、紅魔館と違って、中と外の大きさが釣り合う屋敷だ。
 つまり、見た目もかなりデカイ。

「おーい、さとりー、いるかー?」

 その屋敷の前に降り立った私は、扉をノックしながら声をかけた。
 前までの私だったら、きっとノックもせずに飛び込んでいたことだろう。
 直接探した方が早いし、妖怪たちもその程度のことは、気にしない。

 けれど、最近学んだことがあるのだ。

『いつもみたいに入らないの?』
「入らん。……また“なにか”見たらどうするんだ?私は今日は、勇儀で腹一杯だぜ」
「お腹いっぱい?まさか、あの鬼ッ」
「何を想像したか知らんが、それは違う!」

 踵を返して勇儀の下へ行こうとするアリスを、私は必死で抑え込む。
 腰に巻き付いて女を引き止めるとか、なんかダメ亭主みたいじゃないか。

「――ダメ亭主、ですか。面白いことを考えますね」

 背後から届いた声に、私たちは身体を強ばらせる。
 普段ならまだしも、まさかこんな恥ずかしい光景を見られるとは!

「――こんなところを、ですか。いいんじゃないですか?初侵入は泥棒目的でしたし」
『恥知らず、ということね』
「羞恥プレイが好きなら、その、言ってくれたら私……」
「後ろ二人、静かに!誰が恥知らずだ、誰が」

 本当にッ、失礼なヤツらだぜ。
 もう少し、こう、オブラートってやつを用意しておくべきだろう。

 紫色の髪、フリルのついたピンクのスカート、水色の服。
 小柄な姿からは考えられない、落ち着いた雰囲気。
 だが何よりも特徴的なのは、紫のコードで繋がれた、大きな目玉といえるだろう。

 彼女が、地底の管理者。
 地霊殿の主にして、追放された覚り妖怪――古明地さとりだ。

「あー、実はな」
「――温泉、旅館、黒谷ヤマメ?そう、彼女が」
「楽だな、いや、本当に」

 そこまで読み取ってくれるなら、楽で良い。
 読み取った思考で恥ずかしいのがあっても、口に出さなければそれでいい。
 出してくれるなよ?本気で。

「――ふふ、ええ、良いでしょう」
「ちょっと貴女、なに私の魔理沙と目と目で通じ合っているの?」
「――ご安心を、お二人のことは祝福しますよ」
「ちょっと待てさとり!」

 さとりの言葉に、アリスは目を輝かせている。
 アリスの内面がどんな感情で溢れているのかなんて知りたくないが、読み取ってかつ何時もと変わらぬ表情で佇むとは……流石だ。

「――と、貴女は……ふむ、本体は地上。前と同じですね。遠すぎて、読み取れません」
『読み取る必要はないわ。魔女の内面なんて知っても、良いこと無いわよ』
「ええ、それはもう、経験上で知っていますよ。そう、遙か昔のことですが」

 それきり、さとりは黙り込む。
 落ち込んだとか、そんな感じではない。
 あくまで笑顔を崩さないさとりに、私は得体の知れないものを感じ……直ぐに、払拭した。得体の知れない妖怪なんて、考えてみれば、各勢力にひとりはいるものなのだから。

「まぁいいわ、途方に暮れられても困りますから、ご案内いたします。お燐!」
「はーい……なんですか?さとりさま」

 地霊殿の奥から、濃い緑のワンピースに、赤い髪を三つ編みにした妖怪が歩いてくる。
 黒い尻尾と猫耳を持つ彼女は、さとりのペットで火車の妖怪。――火焔猫燐だ。

「この子たちに空いている部屋を貸してあげて。一部屋で――ふふ、ええ、わかりました。お燐、二部屋用意してあげて」

 本当に、助かる。
 アリスに聞きとがめられる前に、伝えることができたのだから。

「はいはいお客さんってことですね!前は盗賊だったけど」
「それはいいから」
「そうよ、早く行きましょう。うふふふくつふふふつ」
「アリス、その笑い方怖いぜ」
「あら?私としたことが」

 普段とそんなに変わらないけどな!
 なんだかちょっぴり痛み始めてきた胃を抑えて、私はお燐についていく。
 ここまで来るのに本当に長かったが……漸く、温泉タイムか。

『ほらアリス、落ち着きなさい』
「ふふふふふふふふ、ああ、ごめんなさい、お姉さま」
『いいから、涎拭いて。ね』

 私の隣を歩く、二人の会話。
 こうして聞いていると、本当に姉妹のように思えてくる。
 いや、神綺が母親ならば、二人は同じ母を持つ姉妹と言えるのかも知れないが。

 ああ、疲れた。
 今日はできれば、温泉で疲れを全部取りたいぜ……無理だろうけどな!
















――5・かけ湯/温泉旅情の幕の内――



 地霊殿の中庭には、灼熱地獄に通じる道がある。
 その灼熱地獄の影響を受けすぎて、温泉が熱湯になる。
 そんな状況を作らないために、温泉は本殿の地下に備え付けてあった。

「おお……壮観だな」

 人工太陽で照らされた、洞窟の中。
 地下室とは思えないほどに広く豪勢な、温泉だった。
 いや、これはたまに入りに来ても良いかもしれない。

「ハァハァ、魔理沙の背中うなじ首筋太腿二の腕、ハァハァハァ」
『落ち着きなさい、アリス』

 背中に注がれた視線に、思わず自分の肩を抱く。
 嫌々ながらに振り向いてみれば、そこにはタオルを巻いただけのアリスと、いつもと変わらないアリス人形の姿があった。

 まぁ、人形の服は脱げないか。脱がなくても良いが、脱げるようにしていそうだとは思っていたが。いや決して脱ぐところが見たい訳ではなく。

 鼻元を抑えるアリスから極力目を逸らしながら、まずは身体を洗うことにする。
 壁から流れる温泉が、西洋風の家でいうところのシャワーの代わりだ。

――ザパンッ
「くぅぅ……ああ、良い温度だぜ」

 桶でもって、お湯を頭から被る。
 背筋から力が抜けて、両腕が弛緩するような感覚。
 私は、この感覚が、好きだった。

 持ってきた自作の洗剤などを使って、まずは顔から洗う。
 それから丁寧に髪を洗って、もう一度お湯で流した。

「ぷはっ」

 そうしてから、アリスに視線を移す。
 アリスの肌は、白い。平均的に整ったプロポーションに、人形のような肌。
 端整な顔立ちに、透きとおった瞳、美しい形の鼻。

 じっと見つめているとどんな勘違いをされるか解らないので、私はそっと目を逸らした。

「ねぇ、魔理沙」
「なっ、んだぜ?」
「?……背中、流しっこしましょうよ」
「あー、それくらいなら、まぁ」

 温泉の中で、どんな要求をされるのか。
 密かに怯えて――いや、断るけどさ――いた私は、その提案に頷いた。

 二人で並んで、湯を掛け合う。
 最初に、私がアリスの背中を流した。
 アリスの背中は、というか肌は本当にきめ細かく、迂闊に擦って良いものかと不安になる。
 だから自然と慎重になってしまうのだが、そうすると、アリスはこそばゆそうに身を捩らせた。

「ふふふ、交代ね」
「ああ、わかった」

 アリス人形がいるなら、変なことをしようとすれば止めてくれるだろう。
 くっ……まさか、“洗いっこ”がこんなにも緊張するものだったとはっ!

「痒いところはありませんか?ご主人様」
「ぶっ……べ、別にないぜ?」

 誰が誰の主人だ。誰の。

 懸念していたような事態にはならず、洗いっこはすぐに終わった。
 アリスはよほど楽しみにしていたみたいだし、本当に私と温泉に来たかっただけなのかも知れないな。

 洗い終わると、いよいよ温泉に浸かる。
 肩まで沈んで、その熱を芯から感じ取り、私は大きく息を吐いた。

「く、はぁぁぁぁ、生き返るぜ」
「ふぁ、ほんとう、素敵」
『私も今度温泉借りようかしら、誰かさんの地下室の』
「いやぁっ、良い湯だなっ!!」

 なんで知ってんだよ!?
 あー、っていうか、こいつが知っているならアリスたち全員に伝わっている可能性があるのか。

「魔理沙?」

 不安げな瞳で、アリスが私を覗き込む。
 ばれていたからといって、気を抜いたらまずい!

「そ、そういえばさ」
「なぁに、魔理沙?」

 誤魔化しついでに、聞きたい事を聞いておく。
 こんな誤魔化し方だから、変な騒動に度々巻き込まれるのかも知れないが。

「なんで急に、温泉に行きたいなんて言い出したんだ?」

 そう、今まで、遠出をしたいとは決して言わなかった。
 だから気になったのだ。彼女が何故、そんなことを言い出したのか。

「……思い出がね、欲しかったの」
「思い出?」

 アリスは、小さく頷くと、私の肩にもたれかかる。
 私よりもアリスの方が背が高いから、なんだかバランスが悪い。

「そう、大切な人たちとの、思い出。魔理沙は、人間だからって考えたら、どうしても」
「……そっか」

 私は人間だ。
 どんなことがあっても、人間で在り続けるのを忘れることはないだろう。
 だからこそ、アリスの言葉は……胸に、響く。

「そろそろのぼせてきたな。出ようぜ、アリス」
「ぁ……うん」

 私という支えを無くして、アリスは体勢を崩す。
 そのまま先を歩いて、背中を向けたまま、告げた。

「思い出なんか、いくらでも作ればいい。あの頃は楽しかったって、ずぅっと今を楽しめるように。今度は、他のアリスたちも一緒にな!」

 そのまま、脱衣所まで走る。
 ああくそっ、恥ずかしいこと言った気がするぜ。

『そこで、今度は“二人で”だったら完璧だったのに』
「いやいやいや、なんかそれ愛の告白みたいじゃないか!違うからな!?」

 これは、そう、友情宣言だ!
 って、これも恥ずかしい。ああ、もうっ!

『まあいいわ。このままだとあの子、溺れちゃうだろうから、何とかしておくわ。先に着替えてなさい』
「溺れるって……沈んでる!?」

 湯船を真紅――鼻血じゃない。きっと“照れ”が溢れ出たんだ。鼻から――で染め上げたアリスが、アリス人形に引っ張り上げられる。
 いつもは何か企んでいそうなアリス人形だが、今回は本当に保護者として来たようだ。

「まぁ、大丈夫そうならいいか」

 タオルで身体を拭き、八卦炉で髪を乾かす。
 それから服を着ると、私はそのまま脱衣所を出た。

「うん?あれは……」

 そこで私は、視界の端に黒い帽子を見つける。
 最近、アリスたちのおかげで、探索能力は本当に上がった。
 その上で私自身が“無意識”状態だったことが功を奏したのか、私は中々捉えられない姿を捉えたのだ。

「こいしか?」
「あれ?魔理沙?来てたんだ」

 黒い帽子、黄色い服、緑のスカート。
 灰色の髪、群青色の瞳、濃紺色の……閉じた第三の目。
 地霊殿の主、古明地さとりの妹……古明地こいしだった。

「こんなところでどうしたんだ?」
「変な魔理沙。ここは、私の家だよ?」
「ああ、そういえばそうか」

 こいしが来た方向に、目を向ける。
 その先には、半開きになった扉があった。

「あそこは、こいしの部屋か?」
「そうだよ。だから、近づいちゃダメよ」
「何かあるのか?」

 お宝か?……いや、やめよう。現実はそんなに甘くない。

「ペットよペット。人間なんか一呑みだから、気をつけてね」
「あー、気をつけるぜ」

 こいしはそれだけ告げると、私から離れていった。
 こいしは常に笑顔で、何を考えているかわからない。
 それでも不気味だと思わないのは、“胡散臭い方が厄介”という認識があるせいか。

 空気に溶けるように、こいしの姿がかき消える。
 無意識を操ったのだろうか、本当に盗賊向きな能力だと思う。

「ごめんなさい、待たせたわね。魔理沙」
「ああ、いや、いいぜ」
「あんっ、なんだか今の会話、すごくデートっぽかったわ」
「そうか」
『言われて見ればそうね』
「そんなことないぜ?」

 頬を上気させたアリスと、一言二言言葉を交わす。
 その頃には、私は先程までのことを、意識の済みに追いやっていた。

 ゆっくりと、記憶の底に、沈めるように――。
















――6・頭皮洗礼/お痒いところはございませんね?――



 地霊殿は、怨霊や妖怪を管理するための施設だと聞く。
 部屋こそ有り余ってはいるが、そんな所でまともな食事はできないだろう。
 だから旧都で食事処を探した方が良い……なんて考えを、さとりはあっさりと打ち破ってくれた。

 白いご飯、ほうれん草の味噌汁、豚の角煮、菜っ葉と大根の煮付け。
 極々普通の家庭料理を囲む、妖怪六人、人間一人。

 なんなんだ、この状況は。

「お姉ちゃん醤油とって」
「どうぞ」
「さとりさま、お代わり!」
「お空はもっとゆっくり」
「生き返るぅ」
「そうですか。ありがとうございます、お燐」

 なにこのハートフル地霊殿。
 どこにでもありそうな、一般的な家族。
 その誰もが相応の実力者など、笑えない。

「はい魔理沙、あーん」
「あ、ああ……って、いやいやいや……あむっ」

 断ろうとした瞬間に、口の中に大根を放り込まれた。
 舌を火傷するような事態にはならなかったが、まだちょっと熱い。

「ほらこいし、おゆはんついていますよ」
「ん、とって、お姉ちゃん」
「はいはい、じっとしていてね」

 さとりが、全員の母親のように世話を焼く。
 そのおかげ、こいしたちもさとりによく懐いているようだ。
 懐きすぎて、互いに牽制し合うかのように。

「んぐ……おお、美味い」
「ありがとうございます。持って帰りますか?」
「いや、食べたくなったらまた来るぜ」

 出不精だと、太るからな。
 適度な運動こそ、適度な体重の元だぜ。





 アリスたちと一緒に、食事を食べ終える。
 なんだか妙に疲れた気がするが、気のせいではないだろう。
 温泉で疲れを取って、“当てられて”疲れたんじゃ目も当てられない。

「はぁ、ちょっと息抜きしてくるぜ」
「私も行くわ」

 手を合わせて、ごちそうさま。
 食器を片付けて食堂から出た私たちは、地霊殿の内部を散策していた。

「ダンジョンデートね、素敵だわ」

 極力、アリスの言葉に乗らないようする。
 落ち込ませたい訳ではないので、適度に相手をしながら。

「あの花、綺麗ね」
「ああ、そうだな」
「温泉も良かった」
「ああ、そうだな」
「料理も美味しかったわ」
「ああ、そうだな」

 こんな風に、聞き流すこともある。
 そうしている内に私は……大切なことを聞き流してしまった。

「あの部屋はなにかしら?行ってみましょう!」
「ああ、そうだな――――って、ま、待て!」
『はぁ、自業自得。デートのお説教までさせないで』

 いやまぁ。アリス人形は“着いてきた保護者”ポジションだから、あんまり多くを言いたくはないんだろう。気持ちはわかるが、言ってくれ!

「なぁに、ここ?質素な部屋ね」
「いやいやそこには人食い……あれ?」

 こいしが、ペットが居ると言った部屋。
 そこには、何もなかった。
 いや、木製の机とクローゼットがあるだけの、小さな部屋だ。

「ねぇ、魔理沙。なんだかワクワクしない?不思議な部屋に、二人きりって」
「いやいや、夢子がいるからな?な?」
『はいはい、お邪魔虫はクローゼットにでも隠れているわよ』
「待て待て待て待て!」

 本当にクローゼットを開けて入ろうとするアリス人形を、追いかける。
 いやいやいや!ここで行かれるとマズイから!本気で!

――バンッ

 クローゼット開けたアリス人形の、後ろに立つ。
 そしてそのまま……二人で、固まることになった。

「うふふ、二人で遊んでないで私も混ぜ――あら?なぁに、ここ」

 クローゼットの中。
 そこに本来あるはずの服やなんか無く、更に言えば壁もなかった。
 観音開きのクローゼットから続く、暗い道。

「隠し通路って、マジか」
『どうする?退く?』
「さぁ行きましょう!めくるめく愛の旅路よ!」
「だぁ、先行するな!」

 慌てて、アリスを追いかける。
 人気のない方へない方へ誘導しているんだろうが、アリス人形がいるのにどうするつもりなんだよ?

 身体に魔力を満たし、暗い廊下を全速力で走る。
 そんな私を、アリス人形はいとも簡単に追い抜かした。

『ねぇアリス、私がいるのを忘れていない?』
「あ……そうだったわ、気持ちを高揚させすぎていたみたい。ごめんなさい」
『解ったのならいいわ。そんなに落ち込まないで、さぁ、戻りましょう?』
「おまえら、急に止まるな!?」

 魔法使いは、急には止まれない。
 というか、説得できるんならもっと早くしてくれてもいいんじゃないのか!?

――ドンッ
「きゃっ」
「うわっ」
『っ!』

 アリス人形だけ軽やかに避けて、私とアリスがぶつかる。
 廊下の奥にあった扉を突き破り、二転三転と転がった先で……私は、アリスに馬乗りにされていた。

「ぁ」
「げ」

 この体勢になったのは、偶然だ。
 だが、私の頬をしっかり固定するアリスの両手は、故意だ。

「待て待て待て!」
「大丈夫、怖くないワ」

 声が裏返ってんだよ!?
 亀のようにじたばたと逃げだそうとした私を、アリスはしっかり固定する。
 だんだんと近づいてくる唇、潤んだ瞳、荒い息。

 いやだから!私にそっちの趣味はない!

『待ちなさい、アリス』

 絶体絶命の危機。
 それを救ったのは、アリス人形だった。
 アリス人形のその声に、アリスは身体を起こして私から離れる。

「これは……なんだか、私と趣味が合いそう」
「た、助かった……って、なんだこれ?」

 何年も使われてきたかのような、古びた四角い部屋。
 十坪はありそうなその広い部屋の壁と天井には、真新しい写真が貼られていた。

 寝起きのさとり。
 読書中のさとり。
 調理中のさとり。
 入浴後のさとり。
 うたた寝さとり。
 すっきりさとり。
 照れ照れさとり。
 誤魔化すさとり。

 床以外の五方向を埋め尽くす、さとりの写真。
 プライベートガン無視の、とんでも空間がそこにあった。

 というかアリス……おまえさっき“趣味が合いそう”とか言わなかったか?!

『さて……出るわよ』
「行くぞ!アリス!」
「え、ええ、わかったわ!」

 慌てて部屋を出る。
 ここに入るなと言ったのは、こいしだ。
 ということは、ここにある全ての写真は……。

 隠し扉を抜け、暗い廊下を走り、クローゼットを開け、部屋から飛び出る。
 そのまま地霊殿の外まで――抜け出すことは、できなかった。

「ふーん、見ちゃったんだ」
「っ!?」

 後ろを振り向くと、眼を細めたこいしの姿があった。
 部屋から慌てて出るところを見られたのだろう。
 もう……言い逃れは、できない。

「ふふ、そう、そうだよ、あれが私の聖域」
「誰にも侵せないサンクチュアリね」
「あら、気が合いそうね、お姉さん」
「私と気が合うのは、お姉さまと魔理沙だけよ。あとちょこっと他の姉妹」
「そう、残念。まぁ私もお姉ちゃんオンリーだけど。まぁでもちょこっとペットも」

 嫌な会話だな、おい。
 いや、なんだよサンクチュアリって。なんでそれで、通じるんだよ。

「私が“無意識を操る程度”の能力で集めた、お姉ちゃん写真の殿堂!知られたということは、心を読むお姉ちゃんに知られるのもまた自明の理!なら!」
「逃げるわよ、お姉さま、魔理沙!聖域を侵食されたら、相手を殺すしかないわ!」
「……アリスの家に、あんな部屋ないよな?いや、目を逸らすな!」

 こいしのハート型弾幕から、逃げ出す。
 私の後ろでアリス人形が結界を張ってくれるのでちょっと楽ではあるのだが……うん、やっぱりキツイ。

「待ちなさい!今なら痛くしないわ!ついでに写真も撮ってあげる!」
「いらん!というか、カメラなんかどうしたんだよ!」
「地上と地底が行き来しやすくなったからね、山に売ってた」

 河童か。
 妖怪の山で、なに売ってるんだろう?
 バザーに出しただけが全貌じゃないみたいだな。

 地霊殿の赤いタイルの廊下を抜けて、ステンドグラスが飾られたエントランスホールを抜けて、ついに地霊殿から飛び出した。

「こいしは!?」
「撒いたみたいね」
『追ってくる気配はないわ。念のため、旧都の市井に紛れて逃げるわよ』
「おう!」

 下降して、旧都に降り立つ。
 大騒ぎして出てきたって言うのに、地霊殿は静かなまま。
 とにかく、間一髪で逃げ出せたようだ。

『このまま、蛇行して少しずつ離れるわよ。はぐれないようにね』
「ああ、わかった!」
「ええ、了解よ」

 せっかく温泉に入ったのに、これだ。
 私たちは疲れた身体を休ませるためにも、ゆっくりと市井に紛れていった。
















――7・体外洗浄/闇と緑の暗黒大決戦――



 人混みに、あえて紛れる。
 その意味するとことは、“迷子”になる危険性を常に孕んでいるということだろうか。
 私が迷子になった。これはいい。二人を捜せばいいのだ。
 アリス人形が迷子になった。これもいい。私が逃げ切れば良いんだ。

「まさか、こうなるとは」
『あの子一人なら、騒ぎなんか起こさないわよ。さ、行きましょう』
「ああ、それもそうだな」

 私が一人になるか、私と二人きりになるか。
 それなら確かに騒ぎにもなるだろうが、アリス一人なら案外その危険性は無いかも知れない。

「しかし、まさかアリスがはぐれるとは」
『ええ、あの子と貴女が二人きりにならないように注意していたら、まったく』
「え?」

 それは、あれか?
 え?もしかして……や、妬いてたり、とか?

『あの子がやり過ぎて、他の子たちが泣くのは避けたいしね』
「だよなぁ……」
『なによ?』
「なんでもないんだぜ」

 そんなことだろうと、思ったし。
 ああ、やっぱりアリスはそんな感じ――――いや、待てよ。

 アリス人形との会話。
 そこに思うところがあって、私は足を止めた。
 なにか、大切なことを忘れている気がする。

「なんだ、いや……そうだ!“嫉妬”だ!」
『な、なによ急に』
「急ぐぞ夢子!……このままだと、間に合わなく――」
――ドオンッ!!
「――なった、か」

 旧都の端。
 橋がある場所で、緑色の爆発が起こった。
 もう、何があったのかは予想がつく。

「次から次へと!……行こう、夢子!」
『ああ、なるほど……“地殻の下の嫉妬心”ね』

 旧都の空に再び舞い上がり、アリス人形と共に飛ぶ。
 瓦屋根の上を抜けて、妖怪たちの頭上を跨ぎ、怨霊たちを蹴散らした。

 その先でぶつかる、見覚えのある黄金の髪。
 月明かりの金とくすんだ朧月の金が、それぞれに黒と緑を従えて戦っていた。
 余波で、周囲の家屋が軋み悲鳴を上げるほどに。

「あんたって本当、妬ましいわ!」
「私を妬むってことは、魔理沙が好きって事でしょう?さっさと吐きなさいよ!」
「なにその惚気!橋姫に妬むとかなにを考えているの!?妬ましすぎて、憎いわ!」
「ほら、また妬んでいるわ!渡さない、私の魔理沙はワタサナイ!!」

 なにこの悪循環。
 これだけで、何が起こっているのか理解できてしまった。
 つまり、最初にパルスィが妬んで、それをアリスが変な解釈をして、それを惚気話だと勘違いしたパルスィが妬んで……の、ループだ。

「どうしよう、夢子」
『放って置く訳には行けないわ。止めるわよ!』
「そうだよなぁ……覚悟を、決めるか!」

 私たちの決意を余所に、アリスとパルスィの激突は続く。
 アリスが使っているのは、“闇符【霧の倫敦人形】”だろう。
 対するパルスィは“グリーンアイドモンスター”だと思うのだが……とんでもないサイズになっている気がする。なにあれこわい。

「あー、もう!おまえら、纏めて落ち着け!星符【ポラリスユニーク】!!」

 大型の星形弾幕を張る。
 それぞれがパルスィとアリスの前まで飛来すると、そのまま閃光と共にはじけ飛んだ。

「きゃっ」
「なにっ!?」

 リモートサクリファイスを参考にした魔法。
 こちらに注意を向けるには、丁度良い。

『二人とも、いいから落ち着きなさい!』
「魔理沙……お姉さま」

 良かった。
 ひとまず落ち着いたか……と思ったのだが、その前に放ったのであろう、アリスの通常弾幕が隙を見せたパルスィに、襲いかかった。

「あ」
――ぺいんっ
「あたっ!」

 威力は弱め。というより、力を抜いたからそうなったのだろう。
 だが、パルスィは、どうにもそれで堪忍袋の緒が軋んだようであった。

「ふ、ふふふ、ふふ――嫉妬【ジェラシーボンバー】」

 緑色のハートが、幾重にも連なって飛来する。
 それをアリスが、迎え撃つ。

「させないわ!人形【魂のないフォークダンス】!!」

 再び、戦闘が始まる。
 は、ははは、せっかく割って入ってまで止めたのにこれか。
 ああいいぜ、そっちがそう来るなら、ああ、私にだって考えがある!

『はぁ、下がっているわ』
「ああ、助かる」

 アリスとパルスィを、一望できる位置まで飛び上がる。
 中々使う機会の無かった、超高範囲攻撃。

「纏めて吹き飛べ!魔符【アルティメットショートウェーブ】!!」

 赤を基調とした虹色の波紋が、周囲一帯を覆う。
 いい加減、落ち着けおまえらぁッ!!

「へ?」
「え?」
――ドォォォンッ

 轟音が響き、二人を叩き落とす。
 爆炎と魔力の残滓を背景に、私は大きく息を吐いた。
 ああ、疲労感ばっかり溜まるんじゃ、やってらんないぜ……。
















――8・入浴/湯船で酒注ぐ風情かな――



 アリスとパルスィ。
 二人は今、橋の上で睨みあっていた。
 正座をした状態で黙々と酒を飲みながら、時折悪態を吐く。

「もうちょっと、仲良くできないのか」
『あの様子じゃ、厳しいわね』
「いやまぁ、そうだろうなぁ」

 二人の弾幕ごっこが終了してすぐ、私たちは気分が高揚した勇儀に連れられて宴会となった。
 旧都全域を巻き込んだ、大宴会だ。参加しないのは無理だろうし、私も思いきり呑みたかったので喜んで参加した。

「その姿じゃ、呑めないんだっけ?」
『そうね。意味がないから、そんな機能考えたこともなかったわ』
「ああ、まぁ確かにな」

 空気中から魔力を吸収した方が、まだ効率が良いのかも知れない。
 食べる、というのは、行為そのものに大きな熱量を使うのだから。
 元々機能として備わっているのなら、それが無いと生きられないのだから少し事情が異なるのだが。

「喧嘩しないといいんだが」
『しないわよ。キツーく言い含めておいたから』
「はは、それなら安心だ」

 家族にぎゅうぎゅうに締められれば、しばらくは大人しくなる。
 それはきっと、何処の家でもさほど違いはないんだろうなぁ。

「地底の桜を見ながらってのも、風流だな」
『そうね。悪くないわね、こんなのも』

 アリス人形は呑んでいない。
 だからこれは、気分だ。
 楽しめる心を以て楽しむのが、侘び寂ってヤツなんだろうな。

「ふっふっふっ!見つけたよ!霧雨魔理沙!!」
「げっ、こいしか!」

 慌てて立ち上がると、そこには無意識を解いて立ちふさがるこいしの姿があった。
 こんな大宴会をしていれば見つからないはずはないか……迂闊だったッ!

「ここであったが百年目!あの部屋のことは――」
「――珍しいのがいるな。ほら、呑め!」

 そのこいしに、背後から近づいてきた影があった。
 地底の鬼、星熊勇儀。
 彼女は姿を見せているこいしが逃げないように掴むと、持ち上げて口の中に酒のひょうたんを突っ込む。

「ゆ、勇儀、それ酒虫だろ?尽きないんじゃ……」
「はっはっはっ!大丈夫大丈夫!」
「もが、ふぐ、もうぐっ、あぶ、う……きゅぅぅぅぅぅぅ」

 落ちたか。
 ぐったりとして動かなくなったこいしを、勇儀はぬいぐるみよろしく抱えて持っていった。ひでぇ。

『なんにしても、助かったわね』
「ああ、そうだな」

 地底の酒は、強い。
 大味だけど、飲み応えがあって、なにより強いのだ。
 私みたいな人間は、そんなに多く呑めない。

 それでも、どうにも飲み過ぎたみたいで、私の意識はゆっくりと霞んでいた。

「夢子、私は、少し、寝る」
『何かあったら、起こすわ』
「たのんだ、ぜ」

 ゆっくりと、休ませて貰おう。
 どうにも眠くて……だめ、みたい、だ――。
















――9・浴室水泳/マナー違反の場外乱闘――



「んあ?」

 どれほど寝ていたか、わからない。
 けれど私は、どうやらみんなより早めに起きてしまったようだ。
 鬼も妖怪も怨霊も、みんながみんな潰れているのだから。

『あら?起きたの?』

 旧都を眺めていたアリス人形が、起きだした私に気がつく。
 そういえば、アリスは寝ないんだったな。

「はぁ、頭がクリアになったぜ」
『そう……なにか、気になることでもあるのね?』

 やっぱり、鋭い。
 誰も彼もが寝ているのなら、これほどのチャンスもないだろう。

「夢子は、どうする?」
『一人にしておけないわ。一緒に行くわよ』
「へへっ、サンキュ」

 他のアリスが、悲しむから。
 今はそんな理由で構わない。
 いずれ、絶対に、私だけをみせてやるからな?

 ああ、いや、変な意味じゃなく。

『それで、どこへ行くの?』
「地霊殿……もう一度、あの部屋へ行く」

 空を飛び、旧都の上空から地霊殿を目指す。
 普段はずっと騒がしい旧都も、この大宴会の後は本当に静かだった。
 地霊殿の連中まで巻き込んだというのだ。

 それなら、一番私の“考え”に気がつきそうなさとりも、寝ているだろう。

「おかしいって、思ったんだ」
『ええ』

 アリス人形も、私の考えに至っているのだろう。
 でなければ、一人にするのが心配などと、言わないはずだ。
 踏み込むべきではないことかも知れない。
 でも、私は魔法使いだ。好奇心で、高みを目指す魔法使いだ。
 知るための道があって、歩けるはずのそこから目を逸らす。

 そんなのは、私“らしく”ない!

「長年使われていた部屋」
『地上と地底が開通してから買ったカメラ』
「部屋にそぐわない、真新しい写真」
『自分のテリトリーなのに、逃がしたこいし』

 私たちが見た、現状。
 それで私たちが“満足”していれば、なるほど、もう一度あの部屋に訪れようとは思えないだろう。

 あの時、勇儀が来なければ。
 こいしはきっと、私たちを地上まで追い返すつもりだったのだろう。
 けれど結果として、こいしが潰されることになった。

 地霊殿のエントランスホールを抜け、廊下を通り、あの部屋に入る。
 クローゼットから進み、暗い廊下を抜け、再びあの部屋にやってきた。

「これを、剥がせば……」

 さとりの写真を、一枚一枚剥がしていく。
 その下から出て来たのは、無数の“紙”だった。




○月△日
 旧都 三番街 謀反の形跡無し 警戒を続行
 狸の妖怪が縁側で狐の妖怪をからかう 狸の言い分と狐の言い分を把握
□月☆日
 旧都 一番街 情報屋の失墜 監視を終了する
 鬼と鬼の喧嘩 妥協案の提出を求めるよう指示
□月●日
 縦穴 四合目 守人をかいくぐる妖怪在り 迎撃指令
 旧地獄の薪にする 地霊殿への畏怖に繋がる 不本意
△月◇日
 旧都 四番街 異常なし 監視を続行
 住民の心に乱れ無し 監視の必要性の是非を提出 却下 監視続行
○月†日
 縦穴 一合目 侵入者 迎撃 失敗 迎撃 失敗…………




 貼られた紙。
 そこに書かれているのは、何年、何十年、何百年にもわたる記録だった。
 この部屋で何が行われていたのか、その答えは……。

『なるほど、“地底の管理者”ね。距離が離れれば、読心はおおざっぱになる。でも、できないことはないと言った所かしら』
「旧都全域の監視か……どうりで、管理を任される訳だ」

 私が、地霊殿に入る前に感じた視線。
 それはきっと、この監視だったのだろう。
 私たちが地底に来て、地上との流通が復活してから、記録はつけられていない。

 それでも、任が解かれた訳では、ないのだろう。

「あーぁ、それも見ちゃったんだね」
「――――こいし」

 扉の入り口で、気怠げに立つこいし。
 ……というか、顔が真っ青で口元を抑えている。いや、大丈夫なんだろうか。

「うっぷ……そ、そう、私がコレクションの一部を使ってでも、えぷ、隠したかった秘密。おぅふ」
「だ、大丈夫か?」
「だめかも……じゃなくて!これ以上っぷ、おねえちゃ、えふえふっから、ひとを遠ざけたくないから私はこれをかくしてっ……、…………」

 蹲るこいし。
 なんだかとてもダメっぽい。

「無意識で、吐き気を忘れ――――られたらいいな!」

 涙目になりながら、それでもこいしは気丈に立ち上がる。
 その後ろから現れるのは、比較的顔色が良いお燐と、けろりとしているお空だった。

「きっつ……さとりさまの秘密を知ったからには、生きて帰さないよ!!」
「大丈夫?お燐……さぁ、私とメルトダウンッ!!」
「くっ、逃げるぞ!夢子!」
『出口はふさがれている、なら!』

 アリス人形が、天井に手を向ける。
 そしてそのまま高出力レーザーで天井をぶち抜くと、私はアリス人形と一緒に部屋を飛び出した。

「爆符【メガフレア】!!」
「ちょっとお空、それ私たちも――」
――ドゴォォォンッ!!

 轟音と、閃光と、核熱。
 真紅の炎が揺らめき、地霊殿を焼く。
 戦わずして、とはいかないようで、お空たちはそれでも追いすがる。

 あれ?こいしの目が死んでるんだが……まさか、あの部屋で……。

「ええい、とっておきだ!天儀【オーレリーズソーラーシステム】!!」

 無数の魔法陣が煌めき、レーザーを放ってお空たちに襲いかかる。
 あいつらレベルの実力者だと倒せはしないだろうが、足止めには丁度良い!

『咒詛【魔彩光の上海人形】』

 アリスが弾幕で牽制。
 だが、吹っ切れたこいしは強かった。

「逃がさないよ――本能【イドの解放】」
「あれは、まずい!」

 無造作に放たれるハート型弾幕を、できるだけ多く撃ち落とす。
 残せば残すほどに、後から厄介なことになる!

「って、いつもより多い!?」
「そう、今日の私は絶好調!……うぷ」
「まだキツいんじゃないか!」

 小刻みに震える肩。
 拭う暇もなくこぼれる涙。
 その隙を縫う、黒猫……って、お燐!?

「しんど……隙あり!酔歩【キャットランダムウォーク】!!……きっつ」

 酔ってるな、そうとう。
 ふらふらとしていて読めない軌道で、お燐が弾幕を放ってくる。
 迂闊に動けば、蜂の巣だ。

「えふ……油断大敵!抑制【スーパーエゴ】」
「しまった!?」
『くっ……しょうがないわね!咒詛【首吊り蓬莱人形】!!』

 スーパーエゴと蓬莱人形が、ぶつかる。
 お燐の弾幕とこいしの弾幕、それを防ぐアリス人形の弾幕。
 全部の中心に居る私は……動けない。

「これでホントに終わりだよ!――爆符【ギガフレア】!!」

 爆炎が迫る。
 これ以上逃げ場はなく、新しいスペルを展開する暇もない。
 じりじりと肌を焦がす核熱に、私はただ、挑みかかるように睨み付けた。

 ここで諦められない。
 まだまだ、できていないこともやりたいことも、山のようにある。

 こんなところで、私は――――退かない!!

「ッ――恋、心【ダブル……スパァァァクゥゥゥッッッ】!!!!」

 八卦炉に灯るは二つの心。
 恋と愛で焦がれるのなら、それは届かぬ悲哀に過ぎない。
 恋と愛で掴み取るから、人間は星空に思いを届かせる!!

「貫けぇぇぇぇッッッ!!!」
「うそっ!?」

 ギガフレアを正面から打ち破る。
 残念ながらお空には届かなかったが、それでも私は、貫いて見せた。

『魔理沙……まったく、無茶ばかりして』

 意識が揺らぐ。
 だけれども、私はまだ、負けない。
 こんなところで気を失ったんじゃ、恥ずかしすぎる。

 今私は、対等な位置で、“アリス”の隣にいるんだから!

『いいわ、その心意気に、少しだけ応えてあげる』
「もう!なんでダメなの!?ええーい……爆符【プチフレア】!!」

 さっきよりも、威力は格段に落ちている。
 それでも、核熱の威力は凄まじい。

 それを前にして、アリス人形は……黒い光を解き放った。

『――【黒の魔法】――』

 アリス人形から、無数の焔弾が放たれる。
 黒く燃え上がる炎は、プチフレアを呑み込んで、その力を増した。
 その威力に、お空はただ、目を剥いて驚く。

 これが私の、越えるべき壁。
 かつて私は、魔界でこの弾幕を乗り越えた。
 だが、あらゆる意味でスキルアップを果たしていたアリスの、今の実力は、あの時よりも更に上だ。

――ドォォンッ
「きゃあ!きゅぅぅ……」
「お空!?よくもお空を!!」

 目を回して落ちたお空を一瞥すると、お燐とこいしは私を囲む。
 体調が悪いけれど余力のある二人と、体調は良いけれど余力のない私たち。
 ここから切り返すのは、至難の業だ。

「夢子、あとどれくらいいける?」
『この身体じゃ、ここが限界。でも、問題ないわ』
「問題ない?いったい、何が……?」

 そうしている間に、こいしとお燐はスペルカードを構えていた。

「贖罪――」
「表象――」

 連ねられようとする、声。
 その宣言に……更に上から、声が重ねられた。

「――咒恨【丑の刻参り ――七色藁人形――】」

 同時に紡がれた声。
 強い緑と七色の光が、藁人形ごと突っ込んできた。

「あわわわっ、うぷ、お燐、ちょっと、こっちに避けないで!」
「ひぃぃ、こいしさまこそ、もっと向こうへ……あ」
――ゴォォォォォンッッッ!!!

 諸共巻き込み、弾幕が炸裂。
 すると、七色の釘が散らばって、地霊殿の壁を破壊していった。

 何十にも重なる反射弾幕。
 あの中心にいるのならば、逃げる術はないだろう。
 恐ろしい弾幕だな。合体スペルか……。

「やったわアリス!やはり妬みの力は無限大ね!」
「言ったでしょうパルスィ!私たちが協力すれば永久機関……私の見込みに間違いはなかったわ!」
「何時の間に意気投合したんだよ」

 どのアリスも、変なヤツと仲良くなるのが上手すぎる。
 見習った方が良いのだろうか?ああいや、そもそも、私も人のことは言えないか。
 ……ちくしょう。

『二人ともありがとう、助かったわ』
「いいの、お姉さま。ね、褒めて!魔理沙!」
「ああ、本当に助かったぜ、ありがとう。アリス」
「きゃーっ」
「あれ、なんかちょっと妬ましくなってきたかも」
『うん?なら私が撫でてあげるわよ』
「え?なんかきゅんってなったわ。今」

 それにしても、本当に疲れた。
 一週間分は動き通したような、そんな気分にさせられた。
 なんにしても、今日はもう帰って休みたい。

『三人とも』
「なんだ?」
『逃げるわよ!』
「は?」

 言われて、周囲を見て……全員で青ざめた。
 そこら中に罅が入っていく壁。
 どこもかしこもぼろぼろで、その上を未だ反射し続ける弾幕。

「崩れる?!……くっ、彗星【ブレイジングゥ……スタァァァァッッッ】!!!!」
「ぐぇっ」

 アリス人形を抱きかかえ、アリスを箒の後ろに乗せ、パルスィの首根っこを掴み取る。
 パルスィの悲鳴に構っている暇は無い。
 今はとにかく、この場を切り抜ける!!

 エントランスホールを抜けて、空に躍り出る。

――ズ、ズズズズズ、ズゥゥン

 同時に、地霊殿が崩れ去った。
 辛うじて残っている部屋もあるが、五分の四は倒壊している。
 ひょっとしなくとも、相当不味いんじゃ無かろうか。

 でも、なんにしても。

「あと、たのんだ」
「魔理沙!?」

 私の体力は、これ以上保ちそうになく。
 私の意識はそのまま、ゆっくりと途切れた。
















――10・湯上がり/この一杯の至福のために――



 目を、覚ます。
 身体に満ちていたはずの疲労感は、すっかり無くなって。
 代わりに、長時間寝たあとの倦怠感が、私の身体を包んでいた。

「あれから、どうなったんだ?」

 場所は未だ、薄暗い地底だ。
 人工太陽が煌めく地底、その橋の側。
 身体を起こして見てみれば、妖怪や鬼達の手で地霊殿の修復――再建というより、建築だ――が行われていた。

「昨日から丸半日、眠っていたんですよ」
「――さとり」

 私の側で微笑むのは、さとりだった。
 よく見ればさとりの膝ではこいしが魘されていて、その近くではお燐とお空が眠っていた。

「あー、地霊殿、すまん」
「本当です……が、まぁこちらにも非はあったようですからね」

 そう言うと、さとりは苦笑と共にこいしの頭を撫でた。
 すると、こいしの表情が、少しだけ和らぐ。

「なぁ、さとり」

 自分の手が温かいことに気がついて、見る。
 そこでは、アリスがアリス人形を抱き、その上で私の左手を握っていた。
 アリス人形は一時的に機能を停止させているのか、静かだ。
 見れば、すぐ近くにパルスィも転がっている。

「なんでしょうか?」

 さとりは、心を読まない。
 いや、読んではいるのだろうが、その上で聞いてくる。

「おまえ本当は、全部知っていたんじゃないのか?」

 問いかけに、さとりはただ、微笑む。
 微笑みながら、そっとこいしを、撫でた。

「私はなにも、見ていませんよ」
「“見て”……か」
「ふふ、そう、なにも見ていません」

 さとりは、微かに笑うと、空を仰ぐ。
 人工太陽の浮かぶ、地底の空を。

「そしてもう、この地底は――――見る必要も、ないのですよ」

 その言葉に、翳りはなく。
 その声に、絶望はない。

 だから私は、さとりに倣って空を見た。
 この地底に、薄暗い旧地獄に――――希望の光を与えた、太陽を。






――了――
――10β・着衣/帯を一本、締め忘れ――



「思わぬ所で、いいデータが手に入ったわ」

 私は、自宅の地下室で今回の収穫の整理をしていた。
 あらゆる記憶を催眠術によって引き出し、思考パターンを割り出してみせる。
 覚り妖怪だからこそできるその監視方法は、私の研究を進める手助けとなるだろう。

「今回は本当に、情操教育のつもりだったのだけれども……あの子も、やるじゃない」

 白と黒の魔法使い。
 素質はありそうだけれども、それだけだ。
 特筆すべき才能もなく、毒にも薬にもならない人間。

「もっと、相手をしてあげても良いかもね」

 呟いてみる。
 けれども、本心ではない。
 私は彼女になんの興味も抱いていない――――はず、なのに。

「あれ?」

 鏡面に映った、自分の表情。
 それが何故こんなにも“嬉しそう”なのか、理解できなかった。
 研究も、それほど進んだ訳でもないのに。

「まぁ、いいか」

 ひとまず今は、人形に戻ろう。
 起きたときに、あの子“たち”が寂しがると、いけないから。

 そう、だから。
 きっと、それ以上の意味なんて――――ない。









 シリーズ中、過去最長。お疲れ様でした。
 なんとか、推敲・校正が完了いたしました。ので、五回目になります。

 今回は、月曜日のアリスでした。
 彼女は単体では中々参戦できないので、アリス(真)がセットになりますが。
 なんか、また、コメディそんなに濃くないような気が……。

 投稿が早い!っと言っていただき嬉しかったので、内訳を。
 構成→四日から六日。
 書き上げ→一日から二日。
 推敲・校正→半日。
 あれ?なんか、構成長い。
 ……もっと早く設定を練り込めるように、精進します。


 ここまでお読みくださり、ありがとうございました!
 それでは次回“霧雨魔理沙は信じない ~天地開闢クエイクガーデン~”でお会いしましょう!

 2011/06/05
 誤字修正、一部加筆しました。

 2011/06/06
 誤字修正しました。コメント返しはまた後ほど。
I・B
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コメント



0.3440簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
待ってました続編!
月曜アリスが予想通りで良かったですw
3.100奇声を発する程度の能力削除
やったー!続編だ!
とても面白かったです!
10.100名前が無い程度の能力削除
書く内容が決まっていても一日二日でこの文量を書けるペースに脱帽です。
それにどいつもこいつも生き生きしていて、本当に読んでいて楽しいですし。
あとがきにどことなく漂い始めたマリアリを期待しながら、次回を待ってます。
17.100名前が無い程度の能力削除
ええい、俺の愛する木曜日アリスの出番はまだか!
21.100アリス・マーガトロイド削除
次回“霧雨魔理沙は信じない ~天地開闢クエイクガーデン~”ですか。天界と思わせて、幽香フラグ期待したいです^^
それと、各異変時の担当アリスが気になりました。
「そういえば永夜異変の時も土曜日のアリスだったらしいな。」、「前に地底に行ったときは、土曜日のアリスと一緒だった。」=永夜抄、地霊殿は土曜日
「ああ、そういえば萃香の宴会で遭ったわね」=萃夢想は火曜日
「冬と地下に、魔理沙と一緒に行ってたの、あと夜のと、地震のと……」=冬と地下にの意味が非常に気になる。単に地霊殿のことだけなのか妖々夢(季節は春だが)も含まれるのか。
夜も永夜抄ではなく萃夢想のことになるのか? 疑問は尽きませんw
22.100名前が無い程度の能力削除
このシリーズがここ最近の楽しみの一つになってきました。
ロリスさんの更なるデレっぷりに期待してます。
23.100名前が無い程度の能力削除
早さがすさまじい これが幻想郷最速か・・・
25.100名前が無い程度の能力削除
月曜日は戦術を誤った
魔理沙ゲットのためには、もっと押すべきであったのだ…
26.80愚迂多良童子削除
よくそんなに早く書けるなあ・・・すごいわ。
「退かない」「顧みない」が出たんで、そのうち「媚びない」が出ると予想してみる。
35.90名前が無い程度の能力削除
十分すごいですよ。
67kbの文書量を1~2日!?
いくら事前にしっかり構想を練っていたとしても、細かい部分の描写にも頭を悩ませる箇所も多々あるでしょうし、誰にでもできるものではないです。
42.80名前が無い程度の能力削除
誤字報告

>>アリス人形がいるなら、変なことを使用とすれば止めてくれるだろう。
あやしげな道具を手にし魔理沙に迫る月曜アリスの姿をごく自然に思い浮かべてしまった私は病気。

いや~、今回の話もボリュームたっぷりで読みごたえがありました。
誰であろうと決して邪険に扱わない魔理沙さんはほんとに優しいやつだな~。惚れてまうやろ。
次回も期待しとります。
47.100名前が無い程度の能力削除
さとりとこいしの仲にほっこり。
酔っ払ったこいしというのは新鮮で、可愛いかったです。

次の予告を見るに、もしやあのキャラでしょうか。アリスとどういう絡みをするのか、とても楽しみです。
49.100名前が無い程度の能力削除
相変わらず早いし面白い
次回のアリスは何曜日なんでしょうね?
55.80桜田ぴよこ削除
一作目から一気にきました。
上がっていく魔理沙の主人公レベル。じわじわ立つロリスフラグ。ここで質と速度を保ったシリーズ連載はあまり見れないので、次回もとても楽しみです。
56.90名前が無い程度の能力削除
幻想郷の謎が垣間見えるこのシリーズは実に面白い。
創想話で次回を楽しみにすることができるという幸せ。
57.100名前が無い程度の能力削除
主人公の魔理沙、ヒロイン(?)のアリスは勿論なんだけど、
その他のキャラについてもI・Bさんの描く東方メンバーはそれぞれに魅力があって面白いです。
キャラが立ってる、という言い方をするのでしょうか?

このメンバー達が今後どういうお話を織りなすのかとても楽しみです。
58.100名前がない程度の能力削除
今回も魅力溢れるキャラ達に楽しませていただきました。次回はぜひ木曜アリスを!!!
61.無評価名前が無い程度の能力削除
面白かったです!

いやぁ~次回が楽しみだ!
62.100名前が無い程度の能力削除
点入れ忘れ
63.100名前が無い程度の能力削除
このシリーズ大好きです!
次回も期待!
64.90名前が無い程度の能力削除
やっと追いついた…
いろいろな点でシリーズ物のラノベみたいですね。
このノリ好きだなぁ。
65.無評価I・B@コメント返し削除
2・名前が無い程度の能力氏
 皆さんの予想を裏切らない、月曜アリスさんを描けたようでなによりです。
 彼女は元気ですねぇ。

3・奇声を発する程度の能力氏
 ありがとうございます
 次回も是非、お楽しみ下さい。

10・名前が無い程度の能力氏
 おお、ありがとうございます。
 一人も死なないようにと頑張って書いております。
 ですので、そういっていただき何よりです。

17・名前が無い程度の能力氏
 なぜばれた!?
 というのは置いといて、次話をお楽しみにしていてくださいw

21・アリス・マーガトロイド氏
 冬と地下、はそのまま地霊殿です。
 細かい設定は先二話分ずつしか作らない弊害か、微妙に解りづらい台詞になっていますね。
 全てのアリスが出そろったときにでも、正式に修正いたします。
 ありがとうございました!

22・名前が無い程度の能力氏
 そういっていただければ、幸いです。
 ロリスさんは、じわりじわりと追い詰められているようですw

23・名前が無い程度の能力氏
 最速だなんて畏れ多いですw
 そして次回は、ややローペースになってしまいました……。

25・名前が無い程度の能力氏
 ロリスが同行していなければ、今頃魔理沙は……。

26・愚迂多良童子氏
 語呂が悪い的な意味で、「媚びない」が無いということになってしまいました。
 それと、早いと言っていただけるのは、やはり嬉しいですw

35・名前が無い程度の能力氏
 あああ、ありがとうございます!
 なんか、一日に少しでも書いていないと落ち着かないのです。
 そうしている内に、早くなっていったという経緯がありますw
 どうみても中毒者です。ほんとうにありが(ry

42・名前が無い程度の能力氏
 誤字報告のほど、ありがとうございました!
 根が真っ直ぐで、優しくて、そして時々カッコイイ。
 それが私の中の、霧雨魔理沙のイメージですw

47・名前が無い程度の能力氏
 さとりはこいしを大切に思っていて、こいしもそれは同じで。
 そんなハートフル地霊殿を目指して書いてみました。
 次回のキャラクターは……アリスとはあんまり絡みませんw

49・名前が無い程度の能力氏
 次回のアリスさんは、試作五番のあの方ですw
 これとほぼ同時に投稿するので、すぐにわかる事ですが。
 というか、上の方で言ってしまったような気が……。

55・桜田ぴよこ氏
 おお、長いものを、ありがとうございます!
 魔理沙はだんだんと男前で、そして少女チックになっていきます。
 男性的で少女的という二つの要素を併せ持つキャラクタって、あんまりいないんですよね。

56・名前が無い程度の能力氏
 おおお、ありがとうございます!
 次回は裏方要素はやや薄めに、バトルましましな仕上がりになりました。
 そちらもお楽しみいただければ、幸いです。

57・名前が無い程度の能力氏
 キャラを生かす、書いたら完結、が目標なのでこれからも頑張っていきます!
 目標どおりに、キャラクタが生かせているようで幸いです。

58・名前がない程度の能力氏
 実は、連載開始前から何話でどのアリスが出てくるかだけは決まっていたりします。
 ですので、次回は誰が来ても偶然です。ええ。

61・62・名前が無い程度の能力氏
 ありがとうございます。
 ということで、続きも投稿致します。

63・名前が無い程度の能力氏
 ありがとうございます!
 次回もお楽しみいただけるよう、頑張ってみました。

64・名前が無い程度の能力氏
 ラノベはけっこう好きなので、嬉しいですw
 あまり話数の多いものにはなりませんが、文庫本一冊少しくらいは書けたらな、と考えております。


 沢山のご感想のほど、ありがとうございました!
 それでは次回、天界編でお会いできましたら、どうぞよろしくお願いします!
67.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
85.無評価名前が無い程度の能力削除
誤字?報告
とにかく、これで回避は付加。
>とにかく、これで回避は不可。

2週目なのでフリースレにて。
新作見つけて読み返し始めたのが運の尽き… 朝日が昇りそうだぜ。