Coolier - 新生・東方創想話

目から怪光線

2011/06/02 21:13:39
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雲一つ無い青空から、柔らかな太陽の光がさんさんと幻想郷中に降り注いでいる。
リリーホワイトが喜んで踊りだしそうなうららかな日差しのもとで、輝夜は永遠亭の縁側で日向ぼっこを楽しんでいた。
お茶菓子と湯のみ、そしてお茶の入った急須の載った盆を手元において、彼女はのんびりと庭の盆栽を眺めている。
「いいお天気よねぇ……」お茶を飲もうと湯のみに手を伸ばす。持ち上げてから中身がないことに気が付き、湯のみを戻してから急須へと手を伸ばした。
少し振ってから傾けた。少しだけお茶が出て、すぐに止まってしまった。振ってみるが、中からは何も出てこない。
「れーせーん! れーせーん!」そう叫んで鈴仙を呼びつけた。パタパタと足音を立てながら鈴仙が駆け寄ってくる。
「姫様、どうしました?」
「お茶を入れてきて頂戴な」と急須を手渡してやる。それを受け取り「はい、分かりました」とまたパタパタ足音を立てながら鈴仙は走り去っていった。
それからまた盆栽を眺めていると、パタパタと鈴仙が戻ってきた。
急須を受け取ろうとした輝夜を「私が入れますよ」と止めると、湯のみを手に取ろうとした。
「あ」鈴仙の口から、間の抜けた声が飛び出た。鈴仙の手から湯のみが落ちていく。湯のみを掴もうとするが、その手は虚しく空を切った。
ほんの少しの自由落下の後、ガシャンとけたたましい音を立てて湯のみが砕け散った。
輝夜は間の抜けた顔を少しだけ見せた後、その顔が今にも泣きそうな表情に変わった。その顔を見て「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」と、鈴仙が地面に付かんばかりの勢いで頭を下げる。
「いいのよ。割れた物は仕方ないんだから……」そう言う輝夜の顔は、まだ泣きそうなままである。
鈴仙が割ってしまった湯のみは、輝夜が自分で里で買ってきたものだ。自分で選んで買ってきた物で、文字通り輝夜の宝物である。
それが今や、見るも無残な姿へと変わってしまった。床に散らばる破片から、それが先程まで湯のみを形作っていたなど誰が想像できるだろうか。
「と、とにかく片付けます! 危ないですから!」箒とちりとりを取りに走る鈴仙を、輝夜はうつむいたまま見ようともしなかった。





破片を全て片付け終わってから、永琳を加えた三人は居間に集まっていた。
肩を落として項垂れる輝夜を見て、永琳は溜息を吐いた。
それから、目を伏せて「あうあう」と言っている鈴仙を見て首を振る。
「大事な物だったのはよく分るわ。でももう仕方ないでしょう?」永琳が欠片の一つを手に取りながら、同情混じりに言った。
「そう、だけど……」輝夜は机の上に置かれた破片に目をやると、またガックリと肩を落とした。
「うう……」その様子を見て、鈴仙が小さくうめいた。
このままでは埒があかない。そう思った永琳はある提案をしてみることにした。
「何かしら罰を与えるのが一番手っ取り早いと思うんだけど? そうでもしないと、互いによくないわ」
それを聞いて、輝夜が顔を上げた。
「罰って言ったって……あ」輝夜がなにか思いついたような顔になった。それから「ああ、これいいかもね」といたずらっぽく笑った。
「あら、何か良いことでも思いついたようね」
「そうね。面白そうだと思うんだけど」輝夜がクスクスと笑う。
「それで、一体何をさせるつもりなのかしら?」
「あのね……。鈴仙、貴女目からビームを撃つスペルカードあるでしょ?」
「え、ええ。ありますけど……」一体何をさせられるのかと、鈴仙は戦々恐々だ。
「それを撃つときにね、『目から怪光線』って叫んで頂戴。今日から二日ぐらいね」
「……え」
輝夜の言葉に鈴仙は凍りついていた。





春の陽気を全身に感じながら、鈴仙は竹林の上空を飛んでいた。
熱くも寒くもない、空を飛ぶには絶好の日和だから、というわけではない。風の抵抗を減らせるよう、出来るだけ体を寝かせて飛ぶ鈴仙の正面には射命丸文が居た。
事の発端は簡単な話で、文の盗撮である。新聞記者的に言えばパパラッチだろうか。
日向ぼっこの途中でつい眠くなったのか、涎を垂らし、臍まで出して昼寝をしていた輝夜を激写されたのだ。春はガードが甘くなるものである。
幸いだったのは、それを見回っていた兎が見つけたことだ。それなりに忠誠心のあったその兎は直ぐに鈴仙に報告し、今の状況に至っている。
しかし文はとにかく速い。鈴仙も必死にくいすがっていたが、徐々に差を広げられていた。射撃攻撃を試みたが、背中に眼でもあるかのようにヒョイヒョイと避けられてしまう。
「諦めたほうがいいですよー」
「諦めるはずがありません!」文の言葉に鈴仙は叫び返した。だが「無駄無駄無駄ー」と言いながら文は更に加速する。
なにか手段はないかと鈴仙は考えを巡らせた。「速射性があるのなら何とか……」と思いつき、だがそれを使うことを躊躇した。
―それを撃つときにね、『目から怪光線』って叫んで頂戴。今日から二日ぐらいね。
輝夜の言葉が脳裏をよぎる。だが文を捕まえて写真を取り戻さなくては、あとで永琳から大目玉を食らうだろう。
恥ずかしさか、鬼の形相の永琳かで少しだけ迷って、鈴仙は永琳を選んだ。
前を行く文は鈴仙の雰囲気が変わるのを感じた。
「またなにか仕掛けるんでしょうねー」と言ってからほくそ笑んだ。気配ですぐに分かるのだから、避けることなど簡単である。
せめて何をしようとしているのか、それを見届けてやろうと振り向いた。
「うあー! 『赤眼』! 目から怪光線!!」
「……え?」文は思わず呆けた顔を晒し、一緒に動きも止まってしまう。
自分のミスに気がついた瞬間、文の体は光のなかに飲み込まれていた。
「あ、あれ?」撃った当の本人も驚いていた。
わざわざこちらを向いたものだから、華麗に避けられてから悪態でもつかれるのだと思っていた。
だが鈴仙の想像とは違い、文はレーザーの直撃を受け、ひゅるひゅると自由落下を始めている。
何処か腑に落ちない物を感じながら、文の落ちていった場所へと鈴仙も降りていった。





鈴仙が落ちていった文を追いかけていくと、彼女は地べたに腰を下ろして顔をしかめながら頭をさすっていた。その様子からどれだけ痛かったか伺うことができるが、自業自得である。
彼女は鈴仙の姿を見ると、バツが悪そうに苦笑いを見せた。
「いやー、やられちゃいましたね。まさか……」とまで言ってから、プッと吹き出すと腹を抱えて笑い始めた。
笑いながら体をくの字に曲げて、さらに涙まで出始めている。鈴仙はそんな文の様子を泣きそうな顔で見つめていた。
ひとしきり大爆笑してから鈴仙の悲痛な表情を見たのか、文は笑いを噛み殺しながら立ち上がった。
「いやー、すいません。でも、なんで……。うっ……ぷぷっ……」口元を押さえて、必死で笑いをこらえている。
「あのねぇ……。好きで言っているわけじゃないんだから……」鈴仙の顔はまだ泣きそうなままだ。
「じゃあどうして言ってるんですか?」首をかしげてくる文に事情を説明すると、「何ですかそれ」とまた笑われた。
「笑わないで……」項垂れる鈴仙の肩を「いやー、ほんとゴメンナサイ」と文が笑いながらポンポンと叩いた。
「でも鈴仙さん、それなら言わなければ良いんじゃないんですか? 律儀に言わなくても、先程なら多分誰も見てませんし」
ポカンと口を開けてから、鈴仙の顔が耳まで真っ赤に染まる。
「あー! そうだ、そうだよねぇ。何をやってんだろう!」鈴仙は頭を抱えて呻き始めた。
そんな鈴仙の様子を見て文が「微笑ましいですねぇ」と聞こえないように呟いた。
「でもあの姫様も果報者ですよ。こんなに真面目な手下が居るんですから。あんな恥ずかしい台詞を叫んでまで私を止めようとしたんですからね」うんうん、と文が頷いている。
「いや、それはちょっと違うのよねぇ」鈴仙がバツが悪そうに目を伏せると、文は首をかしげた。
まさか輝夜ではなく、永琳と恥ずかしさを天秤にかけて永琳を取ったなどとは言えないだろう。
言えばまた笑われるかもしれない。そう思って口を閉ざすことにした。
「……まぁ良いです。うちの白狼天狗にも見習わせたいものですよ。あー、鈴仙さんの爪の垢でも煎じて飲めばいいのに」
「あ……あははははは……」鈴仙は苦笑いを浮かべることしかできなかった。
「わりと本気なんですけどね。さて……」と文は飛び上がった。スカートが勢いよく翻る。
「もう行くの?」スカートの下のドロワーズが鈴仙の視界に入った。あちこち飛び回っているのだから、これぐらい平気なんだろうとくだらないことを考えてしまう。
「ええ、面白いものを見れましたし。良い休憩になりました。それではまた」
大空へ消えていく文を見送ってから鈴仙は永遠亭へと歩き出した。それから少しして、その足が止まる。
サァーっと鈴仙の顔から血の気が引いていく。
「あぁぁぁぁぁ!! 写真取り返してないぃぃぃ!?」
鈴仙の叫びが反響していった。



「で、どうだった?」
「ええ、本当に言ってました。あ、これ写真です」
「ん。まぁ互いに損はない取引だったね」
「ええ、これらかも末永く……」
「鴉天狗殿も悪よのぅ……」
「ふっふっふ……」
言わせたかっただけ
元ネタ:テラザウラー「目から怪光線!」
筒教信者
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コメント



0.600簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
元ネタは分からなかったけど正直者な鈴仙が可愛かったw
6.60名前が無い程度の能力削除
ww
15.70名前が無い程度の能力削除
テラちゃんだったのか!
ダイノボットが使ってた印象の方が強いです