シーズンも始まって二ヶ月が経過した。現在の順位表は次の通りになっている。
1位 幻想ドリームス 29勝21敗 -
2位 永遠亭ルナーズ 27勝23敗 2G差
3位 紅魔館デビルレッツ 26勝24敗 1G差
4位 守矢マウンツ 24勝26敗 2G差
5位 地霊殿ハデス 22勝28敗 2G差
5位 命蓮寺スカイズ 22勝28敗 ー
今年は例年以上に混戦が続いている。少しでも連敗、連勝をすれば順位はまるでジェットコースターのように上がったり下がったり。
そんな中でだがデビルレッツは2位と1G差の3位につけている。
主力の不調故にシーズン途中で入団した自由契約選手もいる。
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七色の人形遣いがドリームスと契約合意へ! ドリームスがV奪回へ緊急補強だ。シーズン始まって以来不調が続いている魂魄妖夢投手に代わる2番手ピッチャーとして魔法の森に棲む”七色の人形遣い”ことアリス・マーガトロイド投手の入団が決定した。これまで数球団がアプローチをかけたが「都会派の私が泥まみれになってスポーツなんてしたくないわ」と断り続けていたアリス選手だがどういう心変わりがあったのか。噂によると同チームの霧雨魔理沙選手がなにかしたのではないか、とささやかれているが真偽は定かではない。
法の守護者はホームの守護者に!? ハデスに自由契約選手だった四季映姫・ヤマザナドゥ選手の入団が決まった。ポジションは幻想郷でも貴重な捕手と見られる。
四季映姫選手のコメントによると「打撃はあまり得意ではないがリードを見て欲しい、あと閻魔になる前の経験を生かした地蔵のようなブロックにも自信がある。」
ハデスにどんな化学反応を起こすのか。部下の小野塚小町さんは「これから四季様の応援を口実に仕事がさぼれ…いや、頑張る上司を応援していくだけです。」と話していた。
文々。新聞より
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「今年はいつもとは違うわね。去年の今頃は…借金8の最下位だったわね。」
レミリアが自室で新聞を読みながらつぶやく。今まででちょうど50試合を終えて貯金2、去年とは大きく違い優勝争いに加わっていると言えるだろう。
やはりここまでの奮闘は新加入した選手の影響が大きいだろう。
まず、ミスティアはここまで打率は.278に出塁率.312と目立った成績こそないが盗塁数はリーグ3位の16を記録している。守備範囲の広さでも大いに貢献しているだろう。
次にキスメ、ここまで打率は.244、3本塁打と打棒は奮わないが守備面ではエラー無し、味方の送球ミスを帳消しにするファインプレーも多く、数多くのピンチを救っている。そこ、ファースト版小坂とか言わないように。
慧音も成績こそ打率.298 8本塁打と目立った成績こそ残していないが、安定したその打撃でチーム内からの信頼は厚い。さらにリーグトップの4捕殺も記録しており、一部ファンからはレーザーケーネとも呼ばれているとかいないとか。
そして打撃陣の主役、妹紅はここまですでに20本塁打を記録、現在ホームランダービー1位に2本差と迫る2位につけている。さらに勝利打点は26勝のうち実に8を数える。
ちなみに20本塁打のうちレフトスタンドに18本、左中間に2本だ。相変わらずのプルヒッター振りを見せつけている。
最後に今季から抑えに就任しているルナサ。未だセーブの失敗は無く、13Sを挙げて堂々の新守護神を努めている。もうチーム内でもルナサが守護神であることに疑問を持つものはいない。
今日の試合はカードの3戦目、地霊殿ハデスとの12回戦だ。場所はハデスの本拠地、「アンダースタジアム地霊殿」で行われている。
デイゲームでもナイトゲームでも照明がついている唯一のスタジアムだ、欠点は人里から遠かったりしてファンが来にくいこと。
1勝1敗で迎えたカード最終戦、両チームのスタメンは以下の通りだ。
先攻:紅魔館デビルレッツスターティングメンバー
1 遊 咲夜 右投左打
2 中 ミスティア 左投左打
3 左 慧音 右投右打
4 三 妹紅 右投右打
5 捕 美鈴 右投右打
6 一 キスメ 右投右打
7 右 妖精メイド 右投右打
8 二 小悪魔 右投両打
9 投 妖精メイド 右投右打
後攻:地霊殿ハデススターティングメンバー
1 遊 お燐 右投左打
2 二 さとり 右投右打
3 三 勇儀 右投右打
4 一 お空 左投左打
5 右 ゾンビフェアリー 右投右打
6 捕 四季映姫 右投右打
7 中 スターサファイア 右投左打
8 左 ゾンビフェアリー 右投右打
9 投 メルラン 左投左打
レッツの先発は妖精メイド、妖精メイドと思って侮るなかれこれまで7試合に先発して4勝3敗、決して悪い数字ではない…はずだ。
ハデスの先発はメルラン、今シーズン5勝を挙げているハデスの二番手ピッチャーだ。
試合は回が早いうちから動いた。
まずは一回、先頭の咲夜。
(メルランは立ち上がりに難があるから早めに点を取っておきたいわね…。)
メルランは典型的な尻上がりピッチャーだ、肩が暖まれば暖まるほど、抑えて自分のテンションが上がれば上がるほど好投を見せる。その代わりにまだ熱の入っていないうちはピッチングが安定しない。
カウント3ー0からの4球目、これもなんなく見送って四球。無死のランナーとして出塁する。
(毎回だけど初回は気分が乗ってこないのよねぇ…、まぁなんとかなるでしょ。)
自分でもわかっているのかメルランにあまり焦る様子はない。周りの反応もまぁいつものことだ、といった様子である。
「打たせてくからバックよろしくー!」
開き直った様子で振り返って大声で叫ぶ。方々から任せとけ、いいから打たせろ、と返ってくる。これもいつものことだ。
左打席にはミスティア、ゲッツーは少ないがたたきつけるバッティングなので長打も少ない、投手側からすればあまり怖くはないバッターと言われている。
メルランもそう思ったのだろう。打たれても長打はないし打ち損じればアウトもとれる、そう考えて変化球をストライクゾーンに置きにいった。
その球をミスティアは迷わずたたきつける、たたきつけた球はファーストのお空の頭上を越えてライト線へ転々としている。
咲夜はそれを見て迷わず二塁を蹴って三塁へ。ミスティアは自慢の快足を飛ばして二塁へ到達。あっという間に無死2、3塁だ。
(私でもツーベースくらいは球が甘かったら打てるんだよ~だ!あんな舐めた球投げられたからちょっとムカってした!)
二塁上でミスティアがどうだ、と言わんばかりのガッツポーズ。それを見てメルランは苦笑いを浮かべる。
(さすがにここまで球が荒れてるとリードも何もないですね…、まぁできるだけのことはしましょう。)
映姫もマスクの下で苦笑いをうかべる、リードに自信があるといってもそれはリード通り投げられるコントロールを持つピッチャーにしか意味をなさない。
無死2、3塁で今からクリーンアップ。しかも去年の貧打のクリーンアップではなく十分な攻撃力を持つ。
(これは2点は覚悟したほうがいいですね…、立ち上がりが悪いとは業の深い事です。)
とはいうもののさすがにもう一度置きにいって打たれたは洒落にならないと考えたのだろう。メルランに全力投球をさせるが3ー1から慧音に四球を与えてしまう、これで無死満塁。
(おぉ~、初回から見せ場だな!いっちょやってやるか!)
妹紅が打席に入る、その姿はやる気に満ちあふれていた。自分が打ってやろう、顔に書いてあるとはこのようなことを言うのだろう。
そしてカウント1ー2から絶好級、プルヒッターでなくてもホームランボールの肩口からど真ん中へと入るカーブ。これを妹紅はフルスイング。
きれいな放物線を描いた白球は-----ポールのわずか左、ギリギリファールボールとなる。安堵のため息がハデスベンチとハデスファンから、残念だというため息がレッツベンチとレッツファンから漏れる。
「あ~、もうちょっとだったか~、次こそはぶち込んでやる!」
妹紅は思わず口に出す、それほどまでに手応えは完璧だったのだろう。
先ほどのため息がより一層大きくなった。妹紅が高めの釣り玉のストレートに手を出し空振り三振に倒れる。
「ごめんな、犠牲フライでも打てれば良かったんだけど…、任せた!」
「任せてください!今シーズンは妹紅さんがおいしい所持っていくから私としては少し寂しかったくらいですよ。」
ベンチに帰る際美鈴と言葉を交わす。美鈴もやる気満々のようだ。
(メルランさんは尻上がりに調子を上げるピッチャー…だいたい3回が終わると点が取りずらくなって来ますしここで3点は欲しいなぁ…)
そんなことを思いつつ打席へ立つ。さすがに元4番、威圧感がある。
(元々の4番だったみたいだけど妹紅より劣るから5番を打ってるのよね?うまくいけばこの回0点もあり得るわね♪)
メルランは先の妹紅を打ち取ったことにより少しテンションが上がってきていた。ここで美鈴も抑えれば次の回からエンジン全開になることもあり得ただろう。
だが、気持ちばかり先行していた、肩はまだ暖まりきっていなかったのだ。投げた球にさほど球威があるわけではなく-------------
美鈴の打球は右中間をまっぷたつにやぶっていく。その間に咲夜が悠々とホームイン、続くミスティアもホームを駆け抜ける。
慧音は三塁でストップし打った美鈴は二塁へ到達。見事なタイムリーツーベース、二塁ベース上で美鈴は右手を突き上げた。
さらに次の打者キスメ、当たり損ねのボテボテのセカンドゴロの間に慧音の好判断、好走塁でさらに一点を追加。
続く妖精メイドが死球を受けると小悪魔がやり返すようにタイムリー。この回レッツは4点を挙げた。
「よくやったわ!でも油断は禁物よ、点を取ったあとにしっかり抑えることが大事なんだから!」
レミリアがチームに激励して送りだす。初回からビッグイニングを作って上機嫌だ。
ハデスの1番はお燐、俊足かつ軽い身のこなしが売りの選手だ。
(一回から4点リードされちゃったけどまだまだこれからだよ!それにメルランの肩も暖まってきたからこの先大量失点はないだろうしね。)
ハデスは積極的に打っていくチームである、好球必打を信条に初球からでもどんどん手を出してくる。
初球をはじき返しセカンドベース横をするどく襲う打球、しかし小悪魔がダイビングキャッチ、すぐに起き上がって一塁へ送球。無事一塁をアウトにする。
(あの日以来小悪魔さんのプレーは良くなりましたね~、集中が違うって言うんですかね?さっきもタイムリー打って返してくれましたし。)
ナイスプレー、と声をかけながら美鈴は以前アドバイスをしてから良くなった小悪魔を見て思う。自分も他人を助ける事ができたのだ、それだけで美鈴は嬉しくなった。
次の打者のさとりにはきれいにセンター前へ運ばれて一死一塁。
ここからクリーンアップ、ハデスの3、4番コンビの一角、星熊勇儀が打席に立つ。ハデスの3、4番、星熊勇儀と霊烏路空は長打力だけなら球界でもトップクラスだ。なお打率のほうは(ry
それでも当たれば大きい、というのはピッチャーにしてみれば怖いもの。そんなバッターが2人続くのだからなおさらだ。
しかし基本的には打率の低いバッター、勇儀を空振り三振に打ち取る。
「お空!今回はお前さんに譲ってあげるよ、かっとばしておいで!」
打ち取られてなお豪快、勇儀はハデスの中でも人気選手だ。
「負けてる時にいう言葉じゃないよ?何点差かはちょっと数えてなかったけどとりあえず点取ればいいんだよね!」
そう言ってお空が打席に向かう。お空のバットは長い俗にいう「物干竿」である。とにかく長い。制限いっぱいいっぱいの長さのものを使っている。
「だって長いほうが当たりそうでしょ?」とはお空の弁、しかし長いバットに負けない力がお空にはあった。
1ー1からの3球目、通常の打者なら届かないであろう外角低めの外に逃げてボールになるシュート。
だがお空のバットなら届く、打ち抜いた打球は左中間へ高々と舞い上がる。
(振り遅れてあそこまで高さが出ている飛球ならフェンスは越えないだろう。十分間に合うな。)
捕球地点に向かって慧音は走る。打球は未だ上空だ。
そして慧音が捕球体勢に入る、だが一歩、また一歩と後退していく。
「ミスティア!捕球は任せる!私は万が一に備えておく!」
慧音が思わず叫ぶ、ミスティアに捕球を引き継ぐ。
「うそでしょ…?」
ミスティアがどんどん下がりながらつぶやく。フェンスまではあと数メートルもない。
そしてついにフェンスに背中がぶつかる、やっと打球も落ちてきた。
ジャンプ一番ミスティアがボールに向かって食らいつく、だがボールはグローブの上、フェンス最上部に直撃してグラウンド内へ。一塁ランナーのさとりはホームに還っていた。お空も二塁ベースをまさに蹴ろうとしている。
「三塁には…行かせん!」
クッションボールを拾い上げた慧音は身体を思いっきり反らしてから三塁へ送球。
糸を引くような送球が妹紅のグラブに収まり、お空にタッチ。一点こそ取られたがこれでスリーアウトだ。
だが今の打球を見てレッツベンチは静まり返る。打ち取ったはずの打球があわやホームラン、真芯を食えばどれだけ飛んでいくのか。お空のパワーは知っていたがいざ目の当たりにすると言葉が出なかった。
2回にも立ち直りきっていないメルランを攻め1点を奪いかえす。だが3回からのメルランはどんどん調子を上げていき、追加点を挙げる事はできなかった。
一方レッツ先発の妖精メイドはこの後ランナーは出すものの粘りのピッチングで6回を3失点にまとめあげた。7回の裏のマウンドにはレミリアが上がる、打順は3番の勇儀から。
(さすがに2点差で妖精メイドにこの3、4番を任せる気にはならないわね。なんとか私が抑えないと。)
貫禄の三者凡退、勇儀お空ともにバットにかすらせない。
ハデスのマウンドには変わらずメルラン、調子の上がってきた彼女は制球こそアバウトだが直球、変化球ともに球威十分だ。
8回もランナーを出すものの3塁は踏ませない。マウンドを降りる姿も投げるのが楽しくてたまらない、という表情をしている。
レッツの8回にマウンドに上がった妖精メイドも下位打線に向かうということも相まって無失点で抑える。もちろん9回にはルナサが投げることになるだろう。
9回もメルランの前にレッツは得点を奪えない、結局5-3のまま9回の裏へ、全員の思った通りルナサがマウンドへ向かう、そこにはメルランの姿があった。
メルランがルナサに笑いながら話しかける。
「姉さんとこうやって対決する日が来るとは思ってもなかったわ。先発と抑えだったしね、ここで姉さんが打たれれば私は勝ち投手、もちろん姉さんが抑えれば私は負け投手で姉さんはめでたく救援投手。…ベンチからゆっくり見させてもらうわ。」
「えぇ…、去年までは姉妹3人で練習していたし私も思ってなかったわ。だが、今の私はレッツの一員よ。そうそうと打たれるわけには…いかないの。」
相変わらずのポーカーフェイスでルナサが答える、メルランがベンチに帰っていく姿を見送るとバッターボックスへと向き直る。
ハデスの最終回の攻撃は打順良く一番のお燐から。
(2点リードもあるしまだ私はセーブ失敗も無い、今まで通りやれば大丈夫よ。)
自分に言い聞かすようにして投球動作へ、だがメルランの言葉に動揺があったのか球は狙った場所より甘いところへ入ってしまった。
初球だからといって甘い球を見逃す打線ではない、お燐が簡単にセンター前へと運び無死一塁。
表情こそ変わらないがさとりはルナサが動揺していることが手に取るようにわかった。スタジアム内ではあらゆる能力は制限されるがそれでも経験までは抑えられない。
すぐさま自分の打順だが代打に萃香を送る。
「ここで私かい?一発打てば同点、チームの救世主ってわけかぁ、まぁ任せときなぁ」
いつもの酔っぱらっている状態のまま打席に入る、力みのないダラんとしたフォームでバットを身体の前でゆらゆらとさせるいわゆる神主打法。
(ここで代打…、一発でもまだ同点だし大丈夫大丈夫…)
そう考えるものの身体は言う事を聞いてくれない、足が地についていない、世界が回って見える感覚に襲われた。
それでも試合は行われているし、ルナサの後ろにピッチャーは控えていない。冷静を取り繕ったつもりで投げた一球は
カキーーーーーン!
打球音が響くのとスタンドにボールが飛び込むのはほとんど同時。弾丸ライナーでハデスファンの待つライトスタンドへ突き刺さった。
「ホームランで良かった~、さすがにこの状態で走るのは酷ってもんだ」
バットを放り投げてへろへろな走塁でダイヤモンドを一周。これで5ー5の同点、ルナサの初めてのセーブ失敗だ。
(やばいやばい、次からも一発のある打者が続くのに、もう一本打たれたらサヨナラ負け!? 負けるのは嫌負けるのは嫌負けるのは嫌)
もう内心では平常心など保てなかった。出来る事なら今すぐ誰かにマウンドを譲りたい、逃げ出したいという気持ちでいっぱいだった。
ベンチにも目をやるがレミリアが動く気配はない。どうあってもこの回は自分が投げ抜かなければいけないのだ。
それを理解したところでいつもの投球に戻れるわけがない。それでも外見は徹底したポーカーフェイス、動揺しているようにはとても見えない。
そしてそんな状態で投じた勇儀への初球は---棒球のど真ん中。勇儀がいくら低打率とはいえ、ど真ん中の打ち頃の球は見逃さなかった。
打球は快音のこしてセンターバックスクリーンへ、ミスティアが一歩も動けない打った瞬間にそれとわかる当たりだった。
ルナサは初めてサヨナラ負けを喫した。
さすがにサヨナラ負けをして表情を崩さない投手はいない、ルナサも落ち込んだ様子でベンチへと下がっていく。しかしここまでの奮投を考えれば責めるものはいない。
どんな投手でも打たれる時があるのは当然だからだ。チームメイトはルナサに たまには打たれるときもあるよ、次は頼むよ、と激励の言葉をかける。
「こんな日もあるわよ、特に萃香は私も去年打たれたしね。唯一のセーブ失敗をした相手だからよく覚えてるわ、明日からはドリームスとなんだからしっかり切り替えておいてね。今日は今日、明日は明日よ。反省は大事だけどとらわれすぎてはだめよ。」
それはレミリアも同様であった。レミリアもルナサへは大きな信頼をおいている、それはルナサが今シーズン実力で勝ち取ってきたものだ。
「えぇ…次は抑えてみせるわ…」
ルナサはそれだけ絞り出すように声を出すとベンチ裏へと下がっていった。
次の日のドリームスとの試合。9回裏、4ー6と昨日と同じ2点リードの場面でマウンドには守護神、ルナサ。
前日のハデス戦の失敗を取り返すチャンスが早くも訪れた。
打順は8番の妖精から。
(大丈夫、今日は8番からなんだから落ち着いてアウトを一つずつとって行けばいける…)
ルナサが自分に言い聞かせる、もともと実力はある投手。簡単に8番、9番を打ち取って2アウト。
ここで打席には魔理沙、足もあるが何より長打力がある。そんなバッターを前にしてルナサは
(また打たれたらどうしよう…)
ツーアウトだというのに逃げの思考になってしまっていた、長打を恐れすぎて四球を与えてしまう。
(次のにとりは長打もないし打率も高くないわ、こっちと勝負するのが懸命よね。)
しかし上手く行かないときはとことん上手くいかないもの、打ち取ったあたりのフライがちょうど内野と外野の真ん中におちる。あっという間に二死一、三塁。
打席には昨シーズントリプルスリー達成者の八雲藍。
(どうしよう…、敬遠?いやいや次は4番だしそれはありえない、でもこのバッターも怖いよ…)
それでもマウンド上では必死に冷静さを取り繕う、周りからみればピンチに物怖じしない頼れる守護神。それもルナサが今シーズン作り上げてきた自分のイメージだった。
カウント1ー1からの3球目、低めに外れるカーブを投げたつもりだった。しかしボールはすっぽ抜けの真ん中高め、おまけに変化は皆無である。
結果は言うまでもない、失投を確実に仕留められる、それが良いバッターの条件だし強いチームになればなるほどそれが求められる。
昨日の再現のようなセンターバックスクリーンへのサヨナラホームラン。
ルナサはそれをただ見送る事しかできなかった、チームメイトも心配そうにこちらを見ているが二日連続ともなればなんて声をかければいいかわからない、そんな様子だった。
「ルナサ、この後ちょっといいかしら?」
咲夜がルナサに声をかける、ルナサは力なくうなづくだけだった。
ペナントレースが開催されている間、各選手は所属チームが設置している寮に入ることが多い、もちろん霊夢や魔理沙のように一人で住んでいる場合はさして問題は無いのだが、プリズムリバー三姉妹は全員が違うチームに所属しているので同じ家に帰るのはお互いに気まずかったりもする。ちなみに白玉楼は現在幽々子が独りで住んでいる。
さすがに庭の手入れなどはあるので日中は妖夢もいるが、野球の話はしないし庭の掃除と食事を作ったらすぐにまた出て行ってしまう。
閑話休題。
そしてルナサもご多分にもれず現在は紅魔館の一室を借りてそこに住んでいる。といっても客扱いでチームの主力でもあるので妖精メイドより広い部屋をあてがわれていた。
ルナサがベッドに座ってボーッとしているとドアがノックされる。
「ルナサ?咲夜だけど。今いいかしら?」
「えぇ、すぐに開けるわ。」
部屋の中にはルナサと咲夜だけ、お互い何も言わずに沈黙が続く。
「なにか言いたいことがあるんじゃないの?」
ルナサが咲夜に問いかける、だいたいの予想はついていたが。
「…昨日と今日のあなたの投球内容について…ね。」
ルナサは身体を強張らせたが咲夜はかまわず続ける。
「あなたがね、昔の私にかぶって見えたのよ。あなた私の2年目のシーズンの成績知ってるかしら?」
「いや…悪いけど知らないわ。当時は亡霊、半霊と騒霊で違いはあるけど霊つながりで妖夢と幽々子のいるドリームスを応援してたから…あ、もちろん今はレッツが一番よ?」
ルナサが途中の事は失言だったかと思い慌てて訂正する。
「さすがに昔レッツを応援してなかったからってなんとも思わないから安心してちょうだい、今レッツの一員として頑張ってくれていることも知っているしね。元の話に戻すけど、私の2年目の成績は打率三割ジャスト、それもシーズン終わりに調子を上げてぎりぎり乗せた3割よ、その年はファンから帳尻バッターってよく言われたわ。」
ルナサはなぜ咲夜がこんな話をするのか理解できなかった。昔の苦労話をされているだけ、ルナサにはそうとしか思えなかった。だが咲夜は構わず続ける。
「前半戦はね、打率が.240くらいしかなかったの。当時のレッツは弱かったし連敗の責任は一番の私が出塁しないから、ともよく言われたわ。それでも私は一番として出続けた、お嬢様が使ってくれている以上下げて欲しい、なんて口が裂けても言えなかったわ。…お嬢様の期待を裏切る事になりそうで。だから私は考えを変えることにしたわ、それまでの私は打てなかったらどうしよう、とかここで打たなきゃ自分の責任だ、とか思ってたのよ。でも…今だから言えるわそれは間違いだったって。確かに私が打てば勝ってた試合もあったかも知れない、でも負けた責任を独りで背負えるほど私たちは強くない。お互いにカバーしあっていくのが大事なことなんだって気づいたわ。そう思い始めてから打席に向かう前に焦ることもなくなったし打席で余計なことを考える事も減ったわ。ルナサ、これだけは覚えておいて、野球は独りでやるものじゃない、あなたの後ろには私たちがついてるってことを。」
「えぇ…覚えておくわ。ありがとう、咲夜。あと一つ聞いてもいいかしら?」
ルナサが目元をこすりながら咲夜に尋ねる。
「何かしら?」
「いつから私のポーカーフェイスを見破ってたの?姉妹にすら見破られたこと無かったのに。」
「そうね…、疑問を持ってたのはキャンプから、確信を持ったのは一昨日のハデス戦ね。」
ルナサは目を丸くして咲夜を見る、その様子がおかしくて咲夜は笑いながらつづける。
「あなた三姉妹の長女で苦労性でしょ?少し似たところがあったんでしょうね。それに右ピッチャーのあなたの顔を見る機会はショートの私にはたくさんあったもの。」
「これは驚いたわ、まさかそんな早くにバレてたなんて。…この事はレミリアには?」
実は自分はポーカーフェイスではなく小心者なんてことがレミリアにバレたら失望させるだろう、ルナサはひきつった顔で尋ねる。
「もちろん伝えたわよ?でもね、お嬢様は”私が見込んだやつなんだからそれくらい自分でなんとかしてもらわないと困るわ”って、わかってた風に言ってるけどきっと自分の見込みが外れたのを認めたくないんでしょうね。」
先ほどとは違う笑みを浮かべながら咲夜が言葉を返す。
「あはは…、レミリアのためにももうセーブ失敗できないな、びびってる場合じゃないわね。」
乾いた笑いでルナサが言う、だがシーズン前とは違う決意も感じられた。
「お嬢様のエラーをしっかりカバーしてあげてね。」
2人は顔を見合わせて笑った。
次の日のドリームス戦、9回のレッツ1点リードのマウンドには昨日と同じくルナサが向かう、スタンドからはどよめきが起こる。
(昨日で貯金は無くなった、今日負けたら借金生活ね。更に点差は一点しかない…)
ルナサの心にまた負の感情が沸いてくる。また足が地についていない感覚に襲われる。
「ルナサ!」
咲夜の呼ぶ声がした、そちらに目をやると昨日と同じ笑みを浮かべた咲夜がいた。
この日、ルナサはドリームスのクリーンアップは三者凡退に抑えた、もちろんいつものポーカーフェイスで。
「見たでしょ咲夜!やっぱり私の目に狂いはなかったわ!本当にびびりならドリームスのクリーンアップを表情変えずに三者凡退なんてできないわよ!?」
レミリアが自室で咲夜にどうだと言わんばかりにまくしたてる。
「咲夜の見る目もまだまだね。もっと私を見て勉強しなさい、そうしたら少しは私のようにモノを見る目が養われるわよ?だいたい咲夜は~」
そこまで聞いて咲夜は思わず吹き出してしまう、それを見たレミリアは
「何笑ってるのよ咲夜!あなたはもっと緊張感を~」
(コレ、と決めたものには絶対の信頼を置く。そんなお嬢様だからみんなついていくんでしょうね。)
咲夜はレミリアの講義を聞きながら思う。
紅魔館の夜は長い。
代打としての成績もそこまで悪くなく、守護神としての成績も良いとか萃香すげぇ
小坂が最高のショート守備に同意
気になってたアリスも出番があるようで楽しみです。
ルナサも覚醒で段々と磐石になってきましたね。
後は守矢勢とのストーリーですね。楽しみにしてます!
どっちかを7番くらいに下げてさとりんが3番打った方がよさそうな気が。
次回で全チームが登場ですが、レッツの選手で他チームとの因縁がある描写って妹紅くらいしかなかった気がするので(あ、ルナサとメルランもか)、「2巡目」以降の対戦をどう盛り上げてくるのか楽しみでもあり心配でもあり。
でも、そこが幻想郷。
そして小坂の守備も幻想郷レベルだと思う。実際に見たことはないが。
毎回楽しみにしてます!頑張ってください!
キスメはファースト版小坂と言うか打てない福浦みたいな感じ?
そのタイミングでもクローザーを信じられるレミィはマジ名指揮官。
昔放課後野球に興じていた時、身内内でのあだ名が小坂だった事も思い出したよ、はは(貧打)
一人ひとりスポットライトを当てていくのはいいですね
人物ごとの詳細なデータを作ってくれているのもいいと思います。
瞬足センターや守備に定評のあるファーストなんか大好きなんで期待!!
妖精メイドって穴や特大砲がいないってのもいい!
小坂の守備は球界一ですよー!
ボールが吸い込まれる様ですからw
スタメンで本気出したら80本くらい行きそうだw
ゆかりんがツアー組んでくれないかなあ。
まだ気が早いですが、プレーオフがあるのか気になります。