八意永琳といえば、人里で知らない者など居ないほど有名な医者である。
その卓越した知識と技術、そして見たこともないような機材と薬で、どんな病気であっても立ちどころに治療してしまう。
誇張が入っているが、人間たちの評価はこんなところだ。
そんな永琳でも四苦八苦している問題があった。薬の類は自力で調達しなければならないのだ。
その日も、永琳はマスクを付けて朝から薬の調合を行っていた。ビーカーに入った黄色い液体に、彼女にしか分からない分量で様々な粉末が投入されていく。
液体を念入りにかき混ぜる。
しばらくかき混ぜると「これで、出来上がりね」とマスクを外した。永琳が作っていたのは治療薬ではなく、栄養剤である。
飲めばたちどころに効果を発揮し、バリバリに働くことが出来る……はずである。
やはり最初の実験台には、優曇華がピッタリだろうと永琳は考えていた。飲んだ途端にひっくり返るということはないだろう。
早速優曇華を呼び寄せるべく、永琳は自室を後にした。
「これ、ですか?」黄色い液体の入ったビーカーを片手に、鈴仙は怪訝な表情をしていた。
「ほらほら、グイっといきなさい。グイッと」永琳が飲む仕草をした。その様子を鈴仙が不安げな眼差しで見つけている。
鈴仙はしばらく液体と永琳の顔を交互に見ていたが、永琳の期待を込めた眼差しに折れたのか深呼吸をすると一気に口へと流し込んだ。
そのあまりの不味さに思わず顔をしかめる。それから逃れるように、思い切って飲み干した。
「師匠、これ凄く不味いですよ。何を入れたらこんな味になるんですか?」
「それは企業秘密よ。それで、何か変わったことはあるかしら?」
「うーん……。あ、体の底から力が沸き上がってくるような感じがします」
「ああ、やっぱり。成功ね」永琳は満足気に頷きながら、机の上に置かれていたノートに何かしら書き留めた。
「え、あの、私はどうしたら良いんでしょう?」
「力が沸き上がってくるのよね。じゃあそのまま頑張って働いてらっしゃい」予定通り効果を発揮したことで機嫌を良くしたのか、永琳は笑顔だ。
「あ、はい。それでは失礼します」
一礼して部屋を去る鈴仙を、永琳は笑顔で見送った。
永琳は鈴仙に薬を飲ませてから、一日中上機嫌であった。
彼女の計算通り、鈴仙はバリバリに働いていた。まるで働くことが生き甲斐のようにも見える程だ。
誰かからの頼みごとがあれば満面の笑顔で引き受け、恐ろしいほどキッチリと仕事をこなしていく。
そんな鈴仙を見て輝夜とてゐは戸惑っていた。事情を知らない彼女たちから見れば、まるで別人が摩り替わっているかのように見えただろう。
そして二人は永琳のもとへやって来た。鈴仙の変わり様に、まず間違いなく永琳か一枚噛んでいると思ったのだ。
「ねぇ永琳、あれどうなってるのよ。ちょっと怖いわよ。あの娘ってあんなにバリバリ働くような性格だったかしら」
「いえ、違うわね。でも良いじゃないの。ちゃんと仕事をしているんだから」困惑顔の輝夜とは対照的に、永琳はまだ笑顔のままだ。
「お師匠、あの鈴仙は不気味なんですってば。そりゃ自分の仕事はちゃんとするような性格だったけどさ、あんなにバリバリ働くまではなかったはずなんだけど」てゐも輝夜に負け劣らずの困惑っぷりだ。
「鈴仙がバリバリに働いて、何か不都合があるわけでもないでしょう? 別に構わないじゃない」てゐの戸惑う声も、永琳は笑顔であっさりと流した。
「確かに不都合はないけど……。鈴仙はずっとあのままなのかしら?」輝夜の問いに、永琳は机の上に置いてあったビーカーを手にとると、それを輝夜に差し出した。
「これが鈴仙の飲んだものよ。さしずめ、永琳印の栄養ドリンクね。効果の程は、計算上長くて二日よ」その言葉に輝夜は思わず「計算上!?」と聞き返した。
「え、お師匠。今計算上って」
「ええ。だから鈴仙に飲んでもらって、効果を確認したのよ」
笑顔のまま言う永琳に、輝夜とてゐは思わず顔を見合わせるのだった。
翌日、気持よく床に就いていた永琳は戸を叩く音で目を覚ました。窓から見える空はオレンジ色に染まっている。
寝ぼけ眼を擦り、ベッドから立ち上がると戸を開けた。
そこにはウサギの耳だけがあった。まだ覚醒しきってないのか、欠伸をしながら戸を閉めようとした永琳の寝間着を何かが引っ張った。
永琳が下を見ると、そこにはとても小さな鈴仙が立っていた。
一回まばたきをして、永琳は首をかしげた。「鈴仙ってこんなに小さかったかしら」と呟く。
いや、そんなはずはない。確かに鈴仙は小さかったが、これほどではない筈だ。
永琳はもう一度、そこに居る鈴仙をしっかりと見た。何時も着ている寝間着だが、体が小さくなっているせいかブカブカだ。
チラチラと、胸元が見え隠れして非常に危なっかしい。
事ここに及んで、ようやく永琳の意識が覚醒しきった。驚きで、その目が大きく見開かれる。
「え、あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
永琳の叫び声が、早朝の永遠亭に響き渡った。
永遠亭の居間に、輝夜、てゐ、永琳、そして小さくなった鈴仙が集まっていた。
何かやらかした輝夜やてゐを永琳が叱りつけるという景色が普通なのだが、今日はそれが見事に反対になっていた。
机を間において、輝夜と永琳が向かい合っていた。うなだれる永琳を、腕組みした輝夜が睨みつけている。
てゐはそんな二人の様子を伺いながら、鈴仙の面倒をみている。
「ねぇ永琳、これどういう事かしら?」重い空気が流れる中で、輝夜が口を開いた。
「えっと……。そもそもこれは私のせいなのかしら……?」永琳がおずおずと尋ね返すと、輝夜は目を剥いて「どう考えても永琳のせいでしょうがー!!」と怒鳴った。
「昨日鈴仙に何かあったかって、永琳の薬しか無いじゃないの! どうなのよ!」
「十中八九そうよね……。でもこんな事になるなんて予想できるわけ無いじゃない。まさか、こんな副作用が出るなんて」普段の永琳からは考えられない程、その言葉は弱々しい。
「鈴仙を初めての実験台にして何を言ってるのよ! 実際こんなことになってるじゃない!」輝夜が怒鳴る度に、永琳がビクンと身を震わせ縮こまっていく。
「……ごめんなさい」
萎れきった永琳の姿に輝夜は溜息を吐くと、呆れ顔のまま「それで、この状態は何時まで続くのよ」と尋ねた。
「え、えーっと……。薬の効果が切れるまでだから……ごめんなさい」
その返事はつまり、詳しくは分からないということだ。輝夜はまた、今度は大きな溜息を吐いた。
腕組みをして考え込む輝夜の服の袖を、何かが引っ張った。視線を横にやると、小さな鈴仙が泣きそうな顔で袖を摘んでいた。
「ひめさまー、ししょうをあんまり怒らないでください」鈴仙が上目遣いに輝夜を見てくる。
その顔を見て、輝夜の中から永琳に対しての怒りの感情が霧散していった。優しく微笑んでやってから鈴仙の頭を撫でてやる。
「起きてしまったことは仕方ないわね。ただし永琳、元に戻るまでは鈴仙の面倒を見てあげて頂戴」
「ええ、それは勿論」永琳が鈴仙に微笑みかけ、鈴仙がぱあっと太陽のような笑顔を見せた。
笑顔の鈴仙が永琳に抱きつき、むにむにとその胸に顔をうずめている。そんな鈴仙の姿を見て、永琳と輝夜、それにてゐまでも自然に顔を綻ばせた。
「よしよし」と頭を撫でてやると、鈴仙が顔を上げてくしゃりと無邪気な笑みを浮かべるのだった。
面倒を見ると言っても、今日も何人か予定の入っている患者を放っておくわけにはいかない。
しかし患者を診ている間鈴仙から目を離す訳にもいかないので、鈴仙にも簡単な仕事を手伝わせるようにした。
箪笥の中から普段てゐが使っている簡易型の白衣を引っ張り出し、鈴仙に着せてみる。
少しだけ大きいようだが、動きに支障は出ないようだ。
「良い? 私の言ったとおりにすれば良いのよ。そうすれば大丈夫だから」
「はーい!」満面の笑顔の鈴仙が、ぴょんこぴょんこと飛び跳ねた。それを見て、永琳の顔がへにゃりと崩れる。
精神年齢まで幼くなったのか、今の鈴仙は無邪気な子どもそのものだ。
ころころと表情は変わるし、嬉しいことがあれば全身で表現する。そしてその様子を見て、永琳は葛藤していた。
このままの方が良いのではないだろうか。いっそもとに戻らなければ……。
慌てて首を振って、そんな邪な考えを振り払う。そんな事をした日には、輝夜は口も聞いてくれなくなるだろう。
「まぁ……今だけ思いっきり楽しめれば良いのよね」そう呟く永琳の顔は、欲望まみれである。
「ししょー? 何か面白いことがあったんですかー?」
自分の顔を覗き込んでいた鈴仙に気がついて、慌てて永琳は表情を変えた。
「ん? ううん。何でもないのよ。さ、患者さんが来ないうちに準備をしてしまいましょうか」
「分かりましたー!」
片手を上げて笑顔を見せる鈴仙を見て、永琳はその顔をまたへにゃりと崩すのだった。
ビーカーの入った箱を抱え、とことこと鈴仙が廊下を歩いて行く。その様子を、影から輝夜が見守っていた。
たまにフラフラとよろけるのが危なっかしい。そのたびにカチャカチャと、ビーカー同士がぶつかって音を立てている。
思わず飛び出して手を貸してしまいそうになる。
だが輝夜はそれを必死に我慢していた。我慢しすぎて、鼻息が荒い。
その鼻息を後頭部に受けながら、てゐはため息を吐いた。
「姫様、素直に助けてやったらどうです?」呆れ顔のてゐが言うと「確かに助けてあげたいけれど!」と輝夜はグッと拳を握った。
「さっき永琳に任せたでしょう。だから、私たちはとことん裏方に徹するのよ!」
一瞬感心したてゐだったが、何かを思いついた顔をして「それって、要は面倒なことは全部お師匠に任せて、自分は陰から楽しむってことじゃないんですか?」と疑いの眼差しを輝夜に向けた。
「……何のことかしら」目を逸らす輝夜に、てゐは何時までも疑いの眼差しを向けていた。
今日最後の患者が帰ってから、永琳は鈴仙の働き振りを眺めていた。
鈴仙は使い終わり、洗った医療器具を机の引き出しや棚の上に戻している。今の鈴仙に出来る仕事といえば、こんなものである。
高い所には精一杯背伸びをして、それでも届かなければ椅子をズリズリと引きずってきてその上に登っている。
あまりに微笑ましいその光景に永琳の頬が緩んだ。普段の彼女からは想像もできないほどの顔になってしまっている。
永琳が自分を見ていることに気がついたのか、鈴仙が椅子の上に立ったままニコリと微笑んだ。
「鈴仙、落ちたりしないようにね」
「はーい、分かりました。ししょー」と言ったそばから鈴仙の体がふらついた。驚いた永琳が飛び出す前に、何とか踏ん張る。
安堵の溜息を吐いてから「気をつけなさいといったでしょう」と少し語気を強めに言ってやる。
「うぅ、ごめんなさい……」シュンと項垂れる鈴仙に、永琳の胸がときめいた。へにゃりと崩れそうになる顔を精一杯引き締める。
「怪我をしたら大変なのよ。今の優曇華は特にね」あくまでも普段どおりの調子を崩さず言ってやる。
それに「分かりましたー」と返事をして、鈴仙はまた棚に向き合った。
せっせと医療器具を仕舞い込んでいく鈴仙の後姿を見ながら、永琳は慌てて両手で顔を隠した。手の下で、へにゃりと端正な顔が邪な笑みに歪む。
一切の媚も、陰もない純真無垢な子どもそのものであり、普段の鈴仙からは到底考えつかない愛らしさの塊のような姿だ。
今日一日、タイミングさえあれば永琳はこうやって顔を隠しながらニヤけていた。そうして発散しなければ、鈴仙の目の前でだらしのない顔を晒してしまいそうだったからだ。
指の隙間から鈴仙の様子を伺うと、彼女はまだ永琳に背を向けている。その姿を見ながら、永琳の顔はずっとへにゃりと崩れっぱなしになっていた。
そしてそんな二人の様子を、窓からこっそりとてゐが覗いていた。
すっかり不抜けきった永琳の姿を見てから窓を離れる。あんな永琳の姿、滅多に見ることはないだろう。
「げに恐ろしきは、お師匠の作った薬か、それともあんな姿を見せる鈴仙の方か……」独りごちて、考え込む。
そもそもあの鈴仙の幼少期が、あんなに無邪気なはずがないのだ。となれば、やはり恐ろしいのは薬の方である。
体だけではなく精神年齢まで幼児化させ、かつ無邪気な子どもそのものに『矯正』している。
「お師匠はどうやってあれを作ったんだろうね」
鈴仙に何故こんなにバリバリ仕事をしているのか尋ねた際に「師匠から栄養剤をもらった」と答えられたことをてゐは思い出していた。
「栄養剤を作って、その副作用がこれってさっぱり意味が分からない」てゐは思わず頭を抱えた。
しばらく考えてから、自分の頭ではさっぱり分からないことを把握したてゐは、別の行動に移ることにした。
「なんとかお師匠の目を盗んで、あれ持ち出せないかなぁ」
その顔は悪戯心に満ちていた。
その夜、輝夜ら四人は一緒に食卓を囲んで食事をとっていた。輝夜とてゐが並び、その向かい側に永琳と鈴仙が座っている。
輝夜とてゐは普段どおりだが、永琳はぽろぽろと御飯をこぼし口の周りを名一杯に汚してしまっている鈴仙の面倒をみている。
口を拭いてもらった鈴仙が「ししょー、ありがとう」と笑顔を見せると、永琳も釣られてへにゃりと笑った。
鈴仙の世話をすることで手一杯の永琳を見ながら、輝夜とてゐはひそひそと二人の目を盗んで話し合っていた。
「え、お師匠ってあんなに子煩悩だったんですか?」困惑しきりのてゐが輝夜に尋ねた。
「分からないわよ。あんな永琳の姿なんて、私も見たことがないんだから」輝夜の方も負けず劣らず困惑しきっているようだ。
チラリと向かいの様子を見ると、「あーん」と口を開けた鈴仙に永琳が御飯を食べさせてやったり、それが逆になったりしている。
その度に二人は顔を見合わせて笑いあい、正に賑やかな食卓そのものに見える。
「ギャップのせいかもしれないわね」ご飯を口に運びながら、輝夜がボソリと呟いた。
「え? それって、普段の鈴仙とってこと?」てゐも二人に聞かれないよう、小声で呟く。
「ええ、普段まだちょっと壁のある鈴仙に極端に懐かれると甘くなる。永琳ってそんなタイプだと思うのよねぇ」そう言ってから味噌汁をズズッと啜った。
そりゃあ姫様もでしょ。その言葉をてゐはおかずと一緒に飲み込んだ。
一番風呂を済ませた輝夜が、髪をゴシゴシとやりながら居間へと戻ってきた。
「お風呂良いわよー」輝夜がツヤツヤになった髪を拭きながら三人に伝える。
「私はまだ良いよ」とてゐが言うと、目を輝かせた鈴仙が「ししょー、一緒に入りましょうよー」と永琳を見つめてきた。
永琳はその頭を優しく撫でてやってから立ち上がると、「それじゃあ行きましょうか」と笑顔で言った。
「はーい!」と元気に返事をして、鈴仙が永琳の後を追いかけていく。
二人の足音が聞こえなくなってから、てゐが口を開いた。
「お師匠大丈夫かね。かなり恐ろしいんだけどさ」バサリ、と天狗の新聞を広げる。
「何が、よ」念入りに髪をときながら輝夜が答えた。
「何かあって、新聞に載らないかなーって。ちょっと不安に思っただけ」新聞をめくりながら言ってやる。
てゐの言葉にピクリと一瞬輝夜は動きを止めたが、また再開すると「永琳だから大丈夫だと思うわよ」とあっさり流した。
だがその声は少しだけ上ずっているのをてゐは感じ取っていた。
「先に体を洗わないと駄目よ」浴室に入るなり浴槽に浸かろうとした鈴仙を、永琳が引き止めた。
風呂椅子にちょこんと座った鈴仙の体にお湯をかけてやってから、石鹸を泡立てる。
背中や足などを洗ってやると、くすぐったそうに鈴仙が笑った。
その反応を見ながら、そしてその体を触りながら永琳の顔はすっかりへにゃりと緩みきった表情になっていた。
幸いにも鈴仙は前も向き続けているので、永琳の危ない顔を見ることはないだろう。今見られては、永琳の尊厳に関わるかもしれない。
生まれたままの小さい鈴仙の姿を目の前にして、こんな顔になるぐらいで済むならまだマシだろう。
何時何処で理性のタガが吹き飛んでしまうか。いや、永琳程の人物でなければとっくに吹き飛んでいただろう。
体のいろんな部分を触ろうとする危険な自分を、理性で必死で押さえつけながら桶に水をくみ、泡を洗い流していく。
次に頭に優しくお湯をかけてやってから、また石鹸を泡立てて髪の毛を洗う。
髪を傷つけないよう、優しく優しく泡を付けていく。それから少しだけ力を込めて、頭皮と髪を揉むように洗ってやった。
泡をすべて洗い流してやると、鈴仙は手で顔をゴシゴシと擦った。それから永琳の顔を見ると「次はししょーの番ですよ」そう言ってニッコリと笑った。
鈴仙が小さい手に泡をつけて頑張って体と髪を洗ってくれている。それがすごく気持ちいい。
流石に桶にお湯を何回も汲むのは今の鈴仙には辛いと思い、少しだけ手を貸してやる。
泡を全て洗い落としてから一緒に湯船に浸かる。鈴仙の気持よさそうな顔を見て、永琳の顔も思わず緩む。
片方は純粋な、片方は少し不順な、だが二人にとっての幸せな時間がゆっくりと過ぎていった。
そしてそんな二人を、戸の隙間から輝夜がそっと覗いていた。
昼間とは比べ物にならないほど鼻息が荒く目も血走っていて、どう見ても不審者そのものだ。
輝夜の視線は的確に、出来る限り裸の鈴仙を捉えていた。
何度も何度も戸を開けようとするが、その度にグッと踏みとどまる。
ある意味、永琳を超える精神力の持ち主かもしれない。だがその姿はびっくりするほど情けなかった。
「姫様……」
そんな輝夜の姿を、てゐが白い目で見つめていた。
寝る時間になっても、永琳は鈴仙から離れようとしなかった。
鈴仙も「ししょーと一緒に寝たい!」と言って聞かず、二人は一緒に寝ることになったのだ。しかし、おそらく鈴仙が言い出さずとも永琳から誘っていただろう。
寝間着に着替え、先に布団に入っている鈴仙の横に永琳が入ってきた。ふたり仲良く仰向けに並んで布団に収まっている。
もう瞼が閉じそうになっている鈴仙の頭を、優しく撫でてやった。鈴仙ははにかむと、より一層永琳に体を近づけてきた。
「ししょー、また明日も一緒に居てくれますか?」
「勿論よ。明日も優曇華と一緒にいてあげるから」
「やったぁ……!」永琳の返事に安堵したのか、まぶたが閉じたり開いたりの頻度が増えてきた。もう限界だろう。
「明日また会えるから、今日はもう寝なさい」
「はーい……。おやすみなさい……」まぶたを閉じて直ぐに、規則正しい寝息が聞こえてきた。
その音を聞きながら、永琳も眠りへと落ちていった。
次の日の朝、永琳より早く鈴仙は目が覚めた。
寝ぼけ眼のまま体を起こし周囲を見渡して、「あれ、何で師匠が横で寝てるんだろう」と首を捻った。
もぞもぞ動く鈴仙に反応したのか「もう起きたのかしら、優曇華は起きるのが早いわね」そう言いながら永琳は鈴仙を見て、そして目を真ん丸くした。
「え、あ……。ちょ、優曇華!?」驚きの声を上げる永琳に「は、はい」と目を白黒させながら鈴仙が答える。
永琳の頭の中では疑問符が踊り狂っていた。鈴仙が元の姿に戻っているということは、その理由は一つしか無い。薬の効果が切れたのだ。
「あの、私なんで師匠と一緒に寝てるんでしょうか」状況がさっぱり飲み込めていない鈴仙が尋ねた。
「あ、え!? 覚えてないの!?」叫ぶ永琳の顔はもう泣きそうである。
「え、ええ。もう何がなにやらさっぱり……」きょとんした顔の鈴仙が答えた。ご都合主義にも程がある。
「そんな……そんな……」
永琳は項垂れたまま、心の中で泣くことしか出来なかった。
「二人が寝てる間に忍び込んで少しだけ持ち出してきたけど……どうしようかなぁ、これ」
十中八九
チビレーセン可愛いすぎる!
俺によし、お前によし。
この世は薔薇色。素晴らしい。
ロリンゲ可愛いよロリンゲ。
さぁ、てゐ。次は君が面倒を(ry